ここは王都リ・エスティーゼ。
午後から降り始めた雨は勢いを増し、その日の仕事を終え帰宅しようとしていたガゼフ・ストロノーフは足を止めた。
ガゼフは空を見上げ、少し待った程度では止みそうにない空模様を確認すると、外套をかぶり雨の降りしきる街へ歩を進めた。
外套が雨を吸って重くなっていくのを感じながら、足早に自宅を目指す。
帰ったら家の者に何か温かいものを貰おうと考え、さらに速度を上げる。
普段の街であれば、このような速度で走ることは敵わない。すぐに誰かに衝突してしまうことだろう。
雨の街は人通りが極端に少なく、ガゼフと同じような雨具を装備している人がちらほらと散見するだけで、走るガゼフを邪魔するものは何もなかった。
しかし、ガゼフはそんな勢いで走っているにも関わらず、ちょっとした予感に足を止めた。
己の感覚に従い、目を凝らして薄暗い路地の向こう壁にもたれかかるようにして座る人影を見る。
ガリガリの男が長い何かを抱えるようにして俯いていた。
目は落ち窪み、頬はこけていて、ずいぶんと憔悴しているように見受けられるが、ガゼフはその男に見覚えがあった。
ガゼフはバシャバシャと水を蹴り飛ばしその男に駆け寄る
「アングラウス?ブレイン・アングラウスか!?」
「…ストロノーフか」
「アングラウス!一体何があったんだ!」
「つ、強いって…なんだろうな…」
ブレインはそう言うと眠るように意識を失った。
ガゼフは突然意識を失ったブレインを背負い、ブレインの抱えていた刀と恐ろしい気配を放つリュートのような何かを手に取り、ガリガリのはずのブレインをなぜか異様に重たく感じながらも自宅への道を急いだ。
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「なんか微妙だよな」
「そうね」
「………」
「何も分からず仕舞」
「空振り」
蒼の薔薇は王都のとある酒場で愚痴っていた。
蒼の薔薇とブレインはカッツェ平野でダンテ達と別れてから、エ・ランテルを経由して王都まで戻ってきていた。
エ・ランテルでは新たなアダマンタイト級冒険者として有名になっている《漆黒》を訪ねてみるつもりだったが、依頼で不在。
イビルアイの提言でエ・ランテルで冒険者をしていたというダンテについても調べようとした。
真っ先に冒険者組合に問合せるも、個人情報を犯罪の調査でもないのに教えることはできないと断られた。
それでも粘り強く交渉を続け、個人情報の提供を渋る受付嬢を何とか酒の席に誘い出し、話を聞くことになった。
受付嬢ことダンテ担当のウィナから聞き出したのは、ダンテが請け負った依頼とウィナから見たダンテについてである。
ダンテについて聞けば、ダンテは現在組合で行方不明扱いになっていて、もうしばらくすると死亡扱いになるという。
心配そうに語るウィナに「つい最近、カッツェ平野で会った」と話した際には泣きだす始末。
相当ダンテに対して溜まっている様子だった。
半ばヤケクソで酒を呷るウィナは愚痴を吐きだしていた。
ウィナから見たダンテは、「人の話を聞かない」、「大雑把」、「報告をしない」、「歩くランドマーク」などなど、なかなか辛口な意見だった。
依頼については、ほとんど受けていなかった。当時銀級冒険者だった《漆黒の剣》とのモンスター退治。
レイラ・シュリード捜索の2つのみだった。
あれほどの強さがありながらも銅級冒険者である理由が分かったような気がした。
流石に依頼も受けずにランクアップすることはない。
ウィナの愚痴を聞いた後日、得た情報を元に蒼の薔薇の面々は手分けして聞き取り調査を行った。
残念なことに《漆黒の剣》は《漆黒》と同様に依頼で不在だった。
ダンテはレイラ捜索依頼においては一人で行動していたため、その行動を知る者は誰もいなかった。
実際は夜盗討伐の依頼を受けた冒険者たちが少しは知っているのだが、エ・ランテルでの滞在予定期間はたったの二日だった為、それ以上の調査はできなかったのだった。
「情報が得られなかったのは仕方ないわ、今後は《漆黒》の情報と並行してダンテの情報も集めるわよ」
ラキュースは明日、報告で会う人物にも念の為に話だけはしておこうと決心した。
ちなみに、蒼の薔薇に同行していたブレインは原因不明の体調不良によりエ・ランテルの宿屋で寝込んでいた。
二日間で何とか起き上がれるほどには回復したブレインだが、自らが歩くのがやっとの状態であり、仕方なく蒼の薔薇が持ち回りでネヴァンを運んで王都まで辿りついていた。
その間、ブレインは元気を取り戻していき、逆に体調を崩すと思われた蒼の薔薇はブレインと違って体調を崩すことはなかった。
全員ネヴァンが原因だと思っていただけに、予想通りにならなかったことに若干驚きはしたものの被害が無くなったので気にしないことにしたのだった。
「ブレイン・アングラウスは大丈夫だろうか」
「どうかしらね、どこの宿屋に宿泊するのか聞いておくべきだったかもしれないわね」
「あの、ネヴァン…だったか?アレの所為ではないとしたら確かに少し心配になるな」
王都に到着した後、別れたブレインのことを案じていた。
イビルアイの予測通りネヴァンが原因であれば、蒼の薔薇が運んでいた間にブレインが元気になったことから、ネヴァンを物理的に引き離せば事足りると予想もつくが、先の通りブレインに代わってネヴァンを運んでいた間に蒼の薔薇の面々が体調を崩すことがなかった。
その為、現状はネヴァンが原因ではないと考えていた。
「あのネヴァンってやつが男しか興味ねぇとかじゃねぇか?」
「ガガーランが持ってても平気だったから違う」
「俺は男じゃねぇ!!」
ガガーランの予想をティアがノータイムで否定した。
実はガガーランの予想が大正解だった。
ネヴァンはああ見えて空気の読める女であると自認している。
今回ダンテからブレインについて行くように言われた際には、精気をブレインから摂取するつもりはなかった。
ダンテが吸い取らないように言わなくてもである。
しかし、いきなり精気の摂取を断たれ、普段ダンテから上質な精気を好きなだけ摂取していたネヴァンは我慢しきれなかった。
本来ネヴァンは大量の精気を必要とはしないのだが、いきなりの断食は本当に辛かったのだ。
ほんの少しだけ、気を紛らわせる為にブレインから摂取した。それが原因だった。
ネヴァンが自分の容量の20%だけと思っていてもダンテから摂取する精気とブレインから摂取する精気では質が違いすぎて、自身の20%を満たす為に必要な精気の量が全く違ったのだった。
加えて、ユグドラシルには存在しないステータスではあるがLv100のダンテとLv30程度のブレインでは保持する精気の総量が全く違う。
結果、吸われたブレインは次第に憔悴していく事態に陥ったのだった。
この理屈なら蒼の薔薇も平等に被害を受けそうなものだが、そこはネヴァンの種族としての特性によって男から吸った方が効率が良かっただけである。男の夢で誘惑して精気を吸い取るのが一番楽なのだ。
それらが複合的に合わさって招いた結果といえる。
ネヴァンに悪気はなかった。
「私たちが今気にしていてもどうしようもないだろう」
「そうね、ブレインさんには悪いけど、八本指対策の方を優先しましょう」
こうして王都の夜は更けていく。
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「ずいぶん顔色がよくなってきたようだな、アングラウス」
「あぁ、おかげさまでな……ストロノーフ」
ガゼフがブレインを救出してから二日も経つと、ブレインの体調は良くなってきていた。
ネヴァンが自制し始めたのだ、さすがにほんの少し(ネヴァンにとって)しか精気を吸ってないといえど、倒れられるのは不味いと思ったのだ。
結果、ブレインは復活を遂げることが出来たのだった。
「聞いていいか?アングラウス。お前ほどの男がなぜあんな状態に?一体何があったんだ?」
「多分、アレのせいだ……」
「あのリュートがどうかしたのか?」
ブレインが指し示すのはもちろんネヴァンだった。
ガゼフは思わず聞き返すように首をかしげた。
「アレはリュートなんかじゃない、悪魔だ」
「悪魔だと!?アングラウス、お前何というモノを王都に持ち込んでいるんだ!?」
「預かりものなんだ、直に返すさ」
「…………ならば、今は目を瞑ろう」
「ところでストロノーフ、最近、厄介そうなことはないか?」
ブレインは一刻も早くネヴァンをダンテに返したい一心でガゼフに尋ねた。
「いや、お前の持ち込んだリュートが一番厄介事を起こしそうなのだが……」
ガゼフが至極もっともなことを指摘するが、少し思案顔になると「そういえば」と言葉を続けた。
「ここしばらく、王都住民が行方不明になっていたり、遺体で発見される事件がいくつか起こっている。手がかりが何もなくて厄介といえば厄介だな」
「そうか……」
ブレインは、このことをダンテに伝えてさっさとネヴァンを帰らせようと思った。
「さて、そろそろ俺は出仕しなければならない、いくらか金を置いていくから好きにしていい」
「……助かる」
「出来れば、そのリュートは早いうちに王都から出して欲しい。というか本当に悪魔だというのならば退治すべきだ」
「あぁ、そうするよ」
「帰ったら話をしよう」
ガゼフはそう言うと金の入った袋をテーブルに置くと家を出て行った。
ブレインはそれを見届けると金の入った袋をしまい、試作閻魔刀とネヴァンを手に取りガゼフの家を出た。
そして、人目の付かない路地裏へ移動すると、ネヴァンを壁に立てかけた。
ブレインがその後、どうすればネヴァンがダンテの元へ帰ってくれるか考えていると、突然ネヴァンが発光しいつか見た女の姿になっていた。
「さっきの話をダンテに伝えればいいのかしら?」
「……あ、あぁそれで頼む」
「ふふっ、やっと帰れるのね」
ネヴァンは嬉しそうに微笑むとフワリと浮き上がり空を飛んでいった。
「これがダンテにとって面白いことなのかは分からないけどな…」
ブレインはネヴァンを見送り、適当に街を歩き出した。
ガゼフの家へまた戻ってくるために周辺の地形を覚えながら大通りを何をしようか考えながら歩くブレインは前方に人だかりが出来ているのを目にした。
多くの騒がしい声に混じって感じるのは暴力の気配。
関わるべきではない。ブレインはそう思い通りを迂回しようとしたところ、一人の老人に目を奪われた。
「………な、なんだ?あの動きは!?」
人だかりの中をまるで障害などないかのように、滑るように通り抜けていく。
周囲の人の流れ、その力、意識の方向性など多くの要素を完璧に読み取り、その僅かな隙間に自分を差し込む。ブレインはそんな動きの高みにある技に見惚れた。
ブレインは思わずその人だかりに身体を捻じ込み、その老人に近づこうとした。
人ごみを掻き分け、ブレインが次にその老人を目にしたときには、老人が目にも留まらぬ早業で男の顎を打ち抜いた瞬間だった。
周りの人間はおそらく老人が何をしたかなど誰一人として理解していないだろう。
思わず感嘆の声を漏らしてしまうほど流麗な一撃だった。
相当の実力者であることは間違いない。ブレインはもしかしたら自分よりもと考えていた。
ブレインがその動きを反芻しているうちに、老人は人だかりを抜けて歩き去って行く。
その老人の後を一人の少年が追っていくのを目にしたブレインは咄嗟に少年の後をつけた。
幾度か道を折れ、次第に人通りの少なくなった路地にたどり着いた頃、老人と少年は足を止めた。
ブレインはその手前の曲がり角に身を潜め、二人の様子を窺った。
二人の会話を盗み聞きをしていると、どうやら少年は老人の強さに感銘を受け師事を仰ぎたいということだった。
ブレインはありえないと思っていたが、どうやら一度だけ老人が少年に稽古をつけるという話になっていた。
好奇心から極力気配を消して稽古の様子を覗き見ようとした次の瞬間、ブレインはおぞましい気配に全身を貫かれていた。それは殺気だった。
老人の放った殺気はかつて死を撒く剣団の塒でダンテが振りまいていたそれに酷似していた。
その時に比べ遥かに濃い殺気。
圧倒的強者の気配にブレインは壁に背を預け腰を落としていた。
心の弱い者が見れば死んでしまうような気配にブレインは先ほどの少年が死んでしまったかもしれないと思い、怯えながら再び角の先を覗き、再び衝撃に襲われた。
死んでしまった、よくて気絶してしまっているだろう少年はブレインと違い、その場に立っていた。
しかし、少年の足はガタガタと震えており、辛うじて立っているにすぎない。
構えた剣先は揺れに揺れとても構えているとは言えないような惨状である。
それでも自らと少年の差にブレインは愕然とした。
尾行していた間、ブレインは少年を見ていた。
視線の動きや足運びから少年にさほど才能はない。それにブレインの杜撰な尾行に気付くこともなかった。
どれだけ贔屓目に見ても少年はブレインより弱い。
しかし、それは戦闘能力に限ったことで、心は少年の方が強いようだった。今の自分の状態と較べてもそれは明らかだった。
ツンと鼻の奥に感じる違和感をこらえ、歯を食いしばる。
「──ま、待ってくれ!!」
ブレインは震える足を無理やり押さえ込み、二人の会話に割って入った。
少年は驚いた顔を見せたが、老人の方にそんな様子はなかった。
「まず、お二人の邪魔をしたこと、心より謝罪させて欲しい。どうしても待っていることができなかったんだ…」
「…セバス様のお知り合いですか?」
「いいえ、違います。なるほど、あなたの知り合いというわけでもないのですか……」
誠心誠意謝罪をしたブレインに対し、老人が「それにしては…」と顎をなでる。
なにか気になることことがあるのだろうが、ブレインはそれどころではなかった。
「私の名前はブレイン・アングラウスと申します。お二人の邪魔をしてしまったこと重ねてお詫びします。申し訳ありませんでした」
「どのようなご用件ですか?」
老人の言葉にブレインは頭を上げ少年を見る。
「なぜ君はあれほどの殺気を前に立っていられたんだ?知りたいんだ!あの殺気は常人の耐えられる範疇を越えている。俺……失礼、私だって耐え切れなかったほどだ。似た殺気を感じたことがあるにも関わらずだ!」
「……主人のことを考えていたからかもしれません。主人のことを思い死ぬわけにいかないと思ったら頑張れました」
ブレインは少年の返答にそんなことで耐えられるわけがないと思った。
しかし、老人も少年の言葉に同調し誰かの為に、大切な何かの為なら自らの限界を超えた力を出すこともあるだろうとブレインを諭した。
ブレインは俯く、二人の言葉の通りであれば、それは強くなる為に自分が切り捨ててきたものばかりだからだ。
思わず愚痴のように漏らしたブレインの弱音に少年は励ましの言葉を送ってくれた。
それは何の根拠もない言葉ではあったが、確かにブレインの胸に暖かいものを残した。
「ところで、ブレイン・アングラウス様といいますと、かつてストロノーフ様と互角に戦われたという…?」
「あぁ、よく知っているな……もしかして見ていたのか?」
「いえ、残念ながら見てはいません…実際に見ていた方の話を聞いていたのですが、アングラウス様の立ち居振る舞いや重心の乱れぬ動きが、王国屈指の実力者であると話が事実であると感じさせてくれます!」
少年の思わぬ熱弁にブレインは照れたように礼を述べた。
「では、アングラウス様」
「御老人。アングラウスで結構です。あなたほどの方に敬称をつけていただけるような者ではありません」
「では、私はセバス・チャンと申しますので、セバスと呼んでいただけると幸いです。……それではアングラウス君、ここにいるクライム君の剣の稽古をつけてあげてくれませんか。きっとアングラウス君のためにもなるでしょう」
君付けで呼ばれることに若干の戸惑いを感じながらもブレインは少年の方を見る。
「し、失礼しました。私の名前はクライムと申します。アングラウス様」
「それは…セバス様が稽古をお付けにならないのですか?先ほど私が邪魔をする前にそのようなことを仰っていたようでしたが……」
「はい、そのつもりだったのですがお客様がいらしたようですので、そのお相手をしようかと…」
セバスがそう言って目を向けた方に、二人が遅れて視線をやると、武装した暗殺者風の男が三人姿を現した。
「馬鹿なっ!あれほどの殺気を受けてなお向かってくるだと!?」
ブレインは警戒度を最大限に引き上げる。セバスの殺気を受けても向かってくるということはそれほどの腕前を持っているということに他ならないのだ。
しかし、ブレインの不安はセバスの台詞によってかき消された。
「あの殺気はあなた方にしか向けていませんよ?」
「……え?」
思わずブレインが間抜けな声を上げた。
「最初から敵と分かっていた彼らには向けませんでしたが、あなたの方は正体不明かつ顔を見せようとしませんでしたので燻り出すか、もしくは戦意を削ぐために向けたのです」
「な、なるほど…」
ブレインは相槌を打ったものの、そんなことができるものなのか判断できなかった。
しかし、漏れ出た殺気で腰を抜かしたのと直接ぶつけられた殺気で腰を抜かしたのでは雲泥の差があったため、ブレインはほんの少しだけ気が楽になっていた。
ブレインは試作閻魔刀を抜刀し構えた。
「細部が違うようですがその刀……ダンテ様のモノのようですね。なるほど」
セバスが呟いた言葉にブレインは心底納得した。
(ダンテの関係者だったか……強いのも納得だ)
「アングラウス君」
「はい」
「片付けたら少しお話をしましょう」
「分かりました」
三人は担当を決め、暗殺者達との戦いに臨んだ。
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誰もいないDevil May Cryでダンテはソファーで横になって午睡を貪っていた。
クレマンティーヌは闘技場へ稼ぎに、レイナースは皇城へ出仕中、フルト三姉妹は散歩に出かけていた。
つい先程まではフルトの三姉妹がおり、ウレイリカとクーデリカの双子がダンテに纏わりついていた。
ダンテの何を気に入ったのか、Devil May Cryにいるときは基本的にダンテのそばにいたりする。
基本的に双子を構わないダンテなのだが妙に気に入られているようで、姉であるアルシェはそれを不思議に思っていた。
ともあれ、今はダンテ以外の全員が出払っており事務所は束の間の静けさを取り戻していた。
静かなのはいい、賑やかなのは嫌いではないが煩いのは好きじゃない。
「ダンテ」
呼びかけられた声により静かな時間は終わりを告げた。
「思ったより早かったな、ネヴァン」
起き上がったダンテにネヴァンは王都で聞いた話を伝えた。
王都住民が行方不明になっていたり、遺体で発見される事件がいくつか起こっている。
その話を聞いたダンテは王都でも悪魔が発生しているのだと感じた。
「ここにいても暇だからな、王都へ行くか」
早速とばかりにソファーから立ち上がるダンテに
『ダンテさん!』
『アインズ?そんなに慌ててどうしたんだ?』
『た、たった今ソリュシャンから緊急で
『……は?いやいや、ねーよ』
アインズもありえないと思っているからこその慌てようだろう。
これまでのNPC達の行動からして、ナザリックを裏切るというのは信じられない。
仮に裏切ったとしたら、これから何を信じていいのか分からなくなる。
それくらい彼らNPC達の忠誠をアインズもダンテも見てきたつもりだった。
『俺もないと思ってます。それで、これからセバスに会いに行こうと思ってるんですがダンテさんも来てくれませんか?』
『ちょうどこれから王都へ行くところだったんだ。あー、今帝都なんだが……迎えに来てくれると嬉しい』
『わかりました、
アインズのその言葉とほぼ同時にダンテの目の前に
ダンテは手早く机に転がしてあったエボニーとアイボリーを腰に差し、壁にかけてあったリベリオンを背負う。
最後に自らの勘に従って、ネヴァンにクレマンティーヌとレイナースを連れて王都に来るように指示して、そのまま
応接間ではデミウルゴスにコキュートス、ソリュシャンがこちらに頭を下げた状態で出迎えた。
「ようこそお越しくださいました。アインズ様、ダンテ様。私の力不足の為、お呼び立てしてしまい申し訳ありません」
「よい、報告を密にしろと言ったのは私だ。それに従ったお前に落ち度はない」
「ありがとうございます」
「で?俺は状況を聞いてないからよくわからないんだが、セバスが裏切ったって?」
ダンテは椅子にドカリと座りながらソリュシャンに問いかけた。
アインズもそれに続いて腰掛けながら、一息ついてソリュシャンに向き直った。
「そうだな、ダンテへの説明を兼ねてもう一度状況を確認しておこう。ソリュシャン」
「はい、アインズ様」
ソリュシャンはペコリと礼をすると、姿勢を正しここまでの経緯を話し始めた。
「数日前、セバス様が人間の女を拾ってきたことから始まります。セバス様が拾ってきた女は様々な病、怪我を負い瀕死の状態でした。そこでその女の治療をしようとセバス様はアインズ様がもしも時の為にと持たせてくださった
アインズへの報告を怠ったことはともかく、セバスならそんな行動を取るだろうことにダンテは納得していた。
今のところ、セバスが裏切ったと思えるような行為はない。あえて言うなら報告怠慢くらいだが、裏切りだなんだのと騒ぎ立てるほどのことではないように思える。
「その後、回復した女はこの屋敷の使用人として掃除等をしておりましたが、今朝早くに巡回使を名乗る男が訪ねてきて、セバス様が拾った女は娼館の娼婦であり、これは誘拐に該当すると言い。しかし、賠償するならば罪には問わないと金を請求してきました」
アインズはこの巡回使と娼館がグルであろうことにすぐに気がついた。
きっとセバスは嵌められたのだろう。
セバスであればなんとでもできるだろうが、アインズが騒ぎを起こさぬようにと指示したことで身動きが取れなくなったと思われる。
「しかし、セバス様は事ここに及んでもアインズ様に報告する必要はないと仰い、そのまま外へお出かけになりました。そこで独断ではありましたが、私の方からご報告差し上げた次第でございます」
「………ふむ」
アインズは腕を組んだまま頷いた。おそらくダンテと同じ結論に至っただろう。
ダンテとしては「セバスは裏切っていない」という結論だった。
むしろ、セバスらし過ぎて笑いが漏れそうな程だった。
己の信念(たっち・みーに斯くあれと設定された通り)に従ったとはいえ、アインズの要望通りにいかないことを報告することは、その任務の失敗を意味する。それはナザリックのシモベとして避けるべきことなのだろうと想像はつく。
そして未だそのリカバリー方法について思案している最中なのだろう。
「わかった、ではセバスの覚悟でもって確認するとしよう」
アインズが椅子から立ち上がり宣言する。
「セバスには私から尋問し、真意を問う。その後、セバスにその女を殺させる。殺せば裏切りはなかったものとする。異論はあるか?」
「ございません。状況の解決、忠誠の確認においても最上かと思われます」
「大変分カリ易ク、良イ方法カト」
「アインズ様の仰せのままに」
「アイン──」
「とはいえ…」
ダンテの言葉を手で遮りアインズが言葉を続ける。
「女にどれほどの利用価値があるか分からないが、せっかくナザリックの物資を使用してまで助けた命だ、無為に浪費するのは勿体ない」
「トイウト…?」
「コキュートス、女を殺そうとするセバスの攻撃を受け止めよ、その威力でもって判定する」
「ハッ!」
「そして、セバスにその女を生かすことによるメリットを答えさせよう。コキュートス、お前がリザードマンの助命を願った時のようにな…」
ダンテは自分が来る必要は全くなかったなと思う一方で、アインズが女を殺すつもりがないことを知り胸をなでおろした。
リザードマンのくだりについてはよくわからなかったが、概ね道筋が見えたところでダンテは応接間を出た。
そのまま外へ向かおうと思ったが、件の女を一目見ておこうと考えたダンテは屋敷の二階へあがる。
迷うことなく人の気配がする部屋の前に辿りつくと軽くノックし反応を待った。
「……はぃ…ど、どうぞ」
自分で許可したにもかかわらずダンテが部屋に入ると、女は息を飲み部屋の隅へ後ずさりした。
足音などでセバスではないと予測はつけていたのだろう。動作は素早かった。
失礼といえば失礼な態度ではある。セバスがこの場にいれば叱責は免れないだろうが、ダンテは気にしていなかった。
娼館で凄惨な目に遭い続けた彼女からすれば、知らない男というだけで恐怖の対象であるのは想像に難くない。
彼女の精神状態は死を撒く剣団の塒で捕らえられていた女達と同等、またはそれ以上に傷ついている。
あの時とは違い、命の危険がない今の状況で不用意に近づいて彼女を刺激することはないと考えたダンテは、部屋に入ってすぐの壁に寄りかかり扉は閉めないままに彼女に声をかけた。
「これ以上は近寄らないから心配するな」
「………」
「…………」
ダンテは彼女の目をじっと見つめた。
彼女の目には怯えの色が色濃く浮かんでいる。
「名前は?」
「つ、ツアレです……」
ツアレは困惑していた、突然訪ねてきた男が名前を聞いただけで、じっとこちらを見てくるのだ。
正直不気味でしかたがなかった。
「直にセバスが帰ってくる、お嬢ちゃんは自分がどうしたいのか考えておきな」
ダンテはそう言いながらアイボリーを腰から引き抜き弾丸を一発取り出して、ツアレに軽く投げ渡した。
ツアレがわたわたしながらも辛うじて弾丸をキャッチするのを見届けると「持ってろ」と言い残しダンテは部屋を出て行った。
ツアレは受け取った弾丸をまじまじと眺め、後でセバスにだけ伝えておこうと考えた。
ダンテは今度こそ屋敷を後にして初めての王都を散策することにした。
まずは、ツアレの元いた娼館でも潰しに行こうと自分の勘を頼りに歩き出した。
しかし、直後に無残に破壊された娼館らしき建物を見かけ、なんとなくセバスがやったのだろうとダンテは溜飲を下げた。
冒険者組合の担当制は捏造です(念の為
ブレインミイラ化未遂事件発生!
付近の住民の皆様は青いギターの様な禍々しい物体にご注意下さい。
発見しても決してお手を触れない様願います。発見の際はお近くのデビルメイクライまでご連絡をお願い致します。
たくさんの閲覧、お気に入り、感想、誤字脱字修正ありがとうございます。
また次回、お時間ありましたらお付き合いください。