2019/5/10 リヴァイアサンから出現する悪魔達の暫定レベルを修正。
「ダンテ、本当にありがとう」
「気にするな、ついでだ」
蒼の薔薇の2人の遺体をラキュースの下まで運んだダンテは、ふと今しがた歩いて来た方向を見遣った。
「どうし──」
ラキュースがダンテに尋ねると同時にその空が真っ赤に燃え上がった。
「あれは一体……」
「ゲヘナの炎か…」
「モモン様!」
ラキュースの呟きに応答する言葉に目を向けるとモモンがナーベを引き連れこちらに向かって来ていた。
嬉しそうに声を上げるイビルアイをラキュースが制し、モモンに向かって問いを投げかけた。
「モモン殿、あれが何なのかご存知なのですか?」
「私も初めて目にしたので確かなことは言えないが、あれはゲヘナの炎。おそらく広い範囲を囲むように広がっていて、その内部では大量の悪魔が跋扈しているだろう」
「あ、悪魔……」
ラキュースがモモンの言葉に愕然としていると王城から1人の兵士がこちらに向かっているのに気付いた。
「ラキュース・アルベイン・デイル・アインドラ様、ラナー王女殿下がお呼びです」
「わかりました、すぐに向かいます」
兵士はラキュースの返事を聞くとすぐに踵を返し走り去った。
「ラキュース…」
「大丈夫よ、先にガガーランとティアを蘇生しましょう。モモン殿、ダンテ、先に王城へ向かっててくれるかしら?」
「承知した。この状況であれば冒険者でも何でも戦えるものを集めて防衛線を構築するはず、おそらくその打ち合わせを行うのだろう。行くぞナーベ、ダンテ」
「はい、モモンさん」
「…………まぁ、いいか」
ダンテはとりあえずモモンについて行くことにした。
きっと今頃は悪魔を召喚しながらナザリックのシモベを使って物資や住人を集積している頃だろう。
みすみす拉致を許すのは何とももどかしいが、ナザリックのシモベを大量に排除するわけにはいかない。
そもそも、1人で相手をしていては間に合わないのは目に見えている。
ダンテは自らが狙うべきなのは住民の解放ではなく、輸送手段の無力化であると思い直した。
ナザリックにおいて物資輸送に使うのは基本的に
他にも
加えて、アインズはモモンとしての役割──冒険者としての名声を高める──を持っているようなので、シャルティアさえ抑えれば拉致を阻止できる。
パンドラズ・アクターを使う可能性も考えられるが、これまでアインズは頑なにパンドラズ・アクターを表に出そうとしてこなかった。今回もそうであるとは限らないが、可能性は低いと見ている。
問題は住民の拉致を妨げるどころか、物資の輸送すらも妨げてしまうことだが、そこまで冒険者が考える必要はないだろう。
あくまで
当初考えていた人の集積所を広い王都内で虱潰しに探す必要はない。
一人でやるならこれが最適だろう。ダンテにしてみればふと思い浮かんだだけなのでそこまで考えてはいないのだが……
「ダンテ、わかっていると思うが、ヤルダバオトの相手は私がする。奴のメイド達はナーベに任せる。手を出すなよ?」
「誰だそいつ?メイド?」
「ヤルダバオトはわたしが先程まで戦っていた相手だ、奴には手下にメイドがいるようだ。蒼の薔薇の面々がようやく相手にできた程の者だ」
「へぇ」
細かな設定を聞かされていないダンテはモモンの説明によってようやく理解した。
ヤルダバオトことデミウルゴスはモモンが、デミウルゴス配下役のメイド──おそらくプレアデスの誰か──はナーベが相手にするということだろう。
そもそも、ダンテはシャルティアを相手にするつもりだったので異論はない。
「わかった、わかった」
(存分にマッチポンプでも何でもやっておいてくれ)
アインズが
◆
「これは、壮観ですね」
「これだけの冒険者が一堂に会することはないだろうからな」
「そうですね、本来この場所は冒険者の人たちにとって不干渉の象徴ですからね」
クライムは自らの主である王国の第三王女、ラナー・ティエール・シャルドロン・ライル・ヴァイセルフが大至急で集めた冒険者達を見て正直な感想を漏らした。
オリハルコンやミスリルの上級冒険者もいれば、銅や鉄などの下級冒険者の姿もあり、まさに総動員といえる様相を呈していた。
クライムのそばにいたブレインが相槌を打ちながら、件の冒険者達を観察する。
ぱっと見大したことのない強さの持ち主ばかりだ、ブレインの足元にも及ばない。
この場でブレインより強いのは、まずはダンテ。
そして、漆黒のモモンにナーベ。蒼の薔薇のイビルアイ。そのくらいだろうとブレインは予想した。
ブレインはダンテと出会ってから相手の強さを直感的に感じ取れるようになっていた。
それは立て続けに邂逅した圧倒的強者の空気を肌で感じた結果でもある。
ダンテに始まり、シャルティアにセバス。先の3人には劣るがイビルアイとの出会いもその一つではある。
あとは文字通り密着していたネヴァンの影響もあるだろうか……
ブレインが思考の淵に沈んでいると、蒼の薔薇のラキュースと共にこの場に姿を現したラナーが冒険者達を前に声を張る。
ラナーが伝えるのは炎の壁の中から悪魔と思しきモンスターが出てきて、住民を襲っているという現状。それを食い止めるには王都の兵士達では手が回らないという実情。
そこで冒険者達に王家からの依頼として街の防衛に加わって欲しいという願いが伝えられた。
冒険者達にとっても、いくら政治に不干渉であることが冒険者の不文律とはいえ、自分達のホームである王都が悪魔達によって蹂躙されるのは看過できないことであるのは明らかであり、その要請を拒むものは誰一人としていなかった。
追加の情報としてラキュースから目に見える炎の壁が熱量を持っていない幻影に近い何かであるということ、敵首魁のヤルダバオトとそれに付き従うメイドの服の化け物の外見的特徴とそのおおよその強さが伝えられた。
その際の戦闘の結果、蒼の薔薇の戦士ガガーランと忍者ティアの死亡も告げられた。
幸い二人はラキュースによって蘇生されてはいるが、本作戦への参加は厳しい旨が伝えられた。
また、ここまで言葉こそ発してはいないが、ラナーに付き添ってこの場に来た、周辺国家最強の名を冠する王国戦士長ガゼフ・ストロノーフは王の警護のため、前線には立てないことを明言した。
この追加情報は冒険者達の心に深く暗い影を落とすこととなった。
冒険者達の最高峰である、アダマンタイト級冒険者《蒼の薔薇》のメンバーが敗北したという事実はこの場にいる冒険者では敵わないということを指示している。
さらに、周辺国家最強と名高いガゼフの不参加は、冒険者達にこの場の誰一人としてヤルダバオトに敵う者がいないという最悪の結論に思考を誘導する。
しかし、ラキュースも冒険者達を絶望の底へたたき落とすためにこの話をしたわけではない。
蒼の薔薇ですら全く手も足も出なかったヤルダバオトに実際に対抗して見せたアダマンタイト級冒険者《漆黒》のモモンをイビルアイが紹介した。
光明の見えた冒険者達は大いに盛り上がった。
「敵は強大です。しかし、私達は負けるわけにはいかないのです。敵首魁ヤルダバオトに対抗しうる《漆黒》のモモン様がヤルダバオトとの戦いに集中して頂けるよう。力を合わせることが最重要です。これより作戦をお伝えいたします」
ラナーが声をあげ、冒険者達の注目を自身に集める。
作戦概要の説明をラナーとラキュースが行っているのをモモンが眺めていると、突如デミウルゴスから
『申し訳ございません。アインズ様。想定外の事態が発生いたしました』
『デミウルゴス?詳しく説明しろ』
『はい。ゲヘナの炎の発動後、イビルロードによる悪魔の召喚によって住民および物資の回収は順調に進んでおりましたが、突如悪魔同士での殺し合いが始まり目標の収集が遅れております』
『悪魔同士の殺し合いだと?』
通常、召喚されたモンスターは召喚主に従う。それはたとえ大量召喚であったとしても、同士討ちを行ってしまうほど命令に従わないことはない。少なくとも一定の方向性を持った指示くらいは出せるものだ。
(こちらの世界に来たことによるスキルの変貌か…?)
『こちらでも現場を確認しましたが、見覚えのない悪魔が紛れ込んでおりました。どうやらその見覚えのない悪魔と召喚した悪魔で戦っているようです。強さとしてはこちらの召喚悪魔が若干劣ります。そのうえどこからか次々と湧いているいるようで、直に手に負えなくなることが予想されます。また、都合の悪いことにその悪魔達は人間をも見境なく襲っております』
『情報収集に出した
『連絡が途絶えました。彼らは隠密のスキルに優れている為、単独で任務に当たらせておりました。おそらく既に……』
『デミウルゴス、早急にその悪魔達の出所を突き止めよ。それまではできる限り現状の維持に努めよ』
『かしこまりました。ところでアインズ様、ダンテ様は今どちらに?』
『ダンテなら私のそばに……あれ?』
デミウルゴスの言葉にダンテを探すが見当たらない。
隣にいたナーベがモモンの動揺ぶりに首を傾げて見ていた。
『いらっしゃらないのですか?これはもしかすると……この悪魔達はダンテ様の?』
『憶測で話すのは止めろ、デミウルゴス。仮にダンテが召喚したとしたら、人間を襲うはずがない。一刻も早く悪魔どもの出所を突き止めよ』
(そうでなければ、住民の拉致に対してアレほどの怒りを表すこともないだろうしな……)
『申し訳ありません。ではアインズ様、失礼いたします』
アインズはデミウルゴスとの
しかし、一向にダンテに繋がる気配はない。
(ダンテさん…まさか、本当に?)
◆
アインズとデミウルゴスが
とある住宅の屋根の上、長い金の髪、純白のドレスに揃いの帽子、一目で高価であると分かる装飾品の数々を身に纏った女性がいた。
その女性が美しいかどうかは仮面をつけているため判別は付かないが、その装いは悪魔の跋扈する街の状況においては異端だった。
屋根の上という場所のミスマッチがそれを加速させる。
「暇ね…」
その女性はいつもの喋り方ではないがシャルティアである。
仮面の奥で爛々と輝く瞳は眼下で物資を運び込む悪魔達に向けられている。
悪魔達の作業が終わらないことにはシャルティアの出番は来ない。
欠伸を噛み殺していると、ふとシャルティアは自らの背後に立つ者の気配を感じた。
シャルティアがくるりと振り向くと、シャルティアのその目の前にいた者は手にした巨大な鎌を振り下ろした。
シャルティアは咄嗟に身を捻りその鎌の一撃を避け、襲撃者から距離をおいた。シャルティアからすれば鈍重なその攻撃を避けることは余裕であった。
しかし、予想もしていなかった己への攻撃を認め、さっと相手を眺める。
身の丈より大きな鎌を担いだ痩せた人型。気配は眼下で働く悪魔と似ているので悪魔の一種だろう。そしてその姿は人の皮を剥いでむき出しになった筋肉が少し黒ずんだような赤黒い体をしていた。
「これは一体…?」
気付けば、シャルティアは周囲を囲まれていた。
屋根の下では、さっきまで物資を運んでいた悪魔達が別の悪魔に襲われ戦っている。
「よくわからないのだけれど、邪魔をしにきたということかしら?」
シャルティアは取り出したスポイトランスを横薙ぎに払う。
──ガキンッ!!
吹き飛ばすつもりで払ったが、硬質な音を立てて防がれる。
シャルティアは不可解に感じた。
先程の鎌の攻撃を避けた際には大した力を感じなかったし、その速度もシャルティアからすれば遅いともとれる程度の速さしかない。たとえその身で攻撃を受けたとしても大したダメージを受けることはないだろう。
その程度の強さの悪魔など適当に振るった一撃ですら、まとめて吹き飛ばせると思っていた。
しかし、現実はシャルティアの攻撃速度に鎌による防御を合わせ、吹き飛ばされるどころかその場にとどまり、あまつさえシャルティアの攻撃をはじき返したのだ。
「これは何かの間違い…っ!ハァッ!!」
再度スポイトランスを振るう。次は鎌に防がれることもなく、鎌の悪魔の脇腹に直撃した。
しかし、鎌の悪魔はやはり吹き飛ばされることはなかった。
攻撃された鎌の悪魔が踏みとどまる間に他の鎌の悪魔が一歩また一歩とシャルティアとの距離を詰める。
シャルティアは連続でスポイトランスを振るう。
防御され弾かれようと連続で攻撃を続ける。
やはり最初にシャルティアが感じた通り、鎌の悪魔そのものはそこまで強くはない。
防御さえされなければ、すぐに死ぬ。
それに防御される頻度はそれほど高くない。
この悪魔の一番厄介なところは相当足腰が強いのか、なかなか吹き飛ばないことだろう。
じりじりと距離を詰められ数に任せて袋叩きにされるのだ。
物資を集積していた悪魔達はそれで全滅してしまっており、現在この場にはシャルティアしか残っていなかった。
攫うはずの人間もこの鎌の悪魔に殺しつくされ。あたりには散乱した物資があるだけだった。
この場にシャルティア以外の標的がいないとはいえ、明らかに悪魔の数が多い。
まるでどこかから無限に補充されているようなキリのなさ。
この先
しかし、ここに留まる理由はもはやなくなりつつある。
この悪魔達から逃げ出すのは癪だが、作戦そのものの成否には代えられない。
シャルティアはこの場から移動することに決めた。
その一歩を踏み出そうとした瞬間、シャルティアを巨大な影が覆った。
「えっ……?」
その影を見上げたシャルティアは思わず呆けた声をあげた。
シャルティアが目にしたソレは言葉を失うほどに巨大だった。
クジラとワニを掛け合わせたような姿でその大きさは推定で全長100メートル以上。
しかも翼もないのにそれが空を飛んでいるとなれば、何かの冗談かと思いたくなる。
その周りには血の塊のように赤い巨大蝙蝠の悪魔が多数飛び交っている。
ほんの一瞬動きを止めてしまったシャルティアだったが、それが不味かった。
シャルティアに迫っていた悪魔達はその隙に一斉にシャルティアに飛びかかっていた。
「しまっ……」
──ダダダダダダーンッ!!
聞きなれたような銃声が響く、シャルティアは音の発生源へ身体ごと向き直った。
予想通り、両手に銃を構えたダンテがこちらを見ていた。
「……ダンテ様、ありがとうございます」
「気にすんな。それにしても……ヘル=エンヴィにブラッドゴイル……でリヴァイアサン。ギガピードが出てきていないだけマシか?」
アインズに黙って王城から離れ、シャルティアの捜索を始めてすぐに見つけたのは幸いだった。
いつもの格好と違ったから勘違いかとも思ったが、声を聞けばシャルティアだと確信した。
ダンテはシャルティアがいつもの言葉遣いではないのを若干不思議には思ったが、変装しているんだから当たり前だと考え直した。
しかし、想定していた状況とはまったく違い、ユグドラシルの悪魔の集団の中にいると思っていたシャルティアが、DMCの悪魔達に襲われていた。
ダンテはシャルティアに飛びかかるヘル=エンヴィを一掃すると、上空を泳ぐリヴァイアサンとブラッドゴイルを眺めた。
キーキーと鳴き声を上げるブラッドゴイルに、それらを掻き分けるように空を泳ぎながら体内から新たな悪魔をばらまくリヴァイアサン。
どう考えてもリヴァイアサンの処理が最優先だろう。
「シャルティア」
「はい、なんでございましょう?」
「アインズへの連絡とかは任せた」
「ダンテ様はいかがなさるのでしょうか?」
「アレを狩ってくる。あいつの体内は異世界に繋がっていて放っておけばドンドン悪魔が増える。このままじゃ作戦どころじゃなくなっちまうからな」
ダンテはシャルティアの返事を聞くことなく、こちらに殺到し始めていたブラッドゴイルを足場にしながら楽しそうに声を上げながらリヴァイアサンの元へ駆け昇っていく。
その様子をシャルティアはダンテの一撃を受け、石になって落下してくるブラッドゴイルを砕きながら眺めていた。
程なくしてリヴァイアサンの眼前へ躍り出たダンテはそのままリヴァイアサンにパクリと食べられてしまった。
「………だ、ダンテ様!?清浄投擲槍!!」
痛烈な一撃を加えリヴァイアサンをダンテが倒すと思っていたシャルティアは一瞬あっけに取られた。
一拍置いて、その出来事に泡食ったシャルティアは、即座にスキルをリヴァイアサンに放った。
もはや温存とか考えている余裕はなかった。
聖属性のこの攻撃は悪魔に対して効果は絶大で、槍の通り道にいたブラッドゴイルは軒並み蒸発したように消え去る。
「──なぁっ!?」
しかし、シャルティアの放った清浄投擲槍がリヴァイアサンに到達し直撃するも、当のリヴァイアサンはなんの痛痒も感じていないのか先程までと変わらず空を優雅に泳ぎ続けていた。
「こうなったら…」
『シャルティア聞こえているかい?』
シャルティアは自らも空へあがり、ダンテを救出しようと踏み出しかけたところで
デミウルゴスだった。
『デミウルゴス? 今それどころじゃないの!』
『なにかあったのかい?』
捲し立てるシャルティアにデミウルゴスはいつも通りの声色で問いかける。
『ダンテ様が大きな悪魔に食べられてしまったのよ!』
『大きな悪魔?……それは、空のアレかい?』
『そうよ!早く助けにいかないと!!私の清浄投擲槍も全く効かなかった…』
『待ちたまえ!落ち着くんだシャルティア。ダンテ様のやられた相手に君一人で勝てるのかい?』
『それは……』
『これはとても重大なことだよ?アインズ様にご報告差し上げなければ』
『………私はどうしたらいいのかしら?』
『焦る気持ちはわかるが、まずは私に順を追って状況を説明してほしい』
シャルティアはイビルロードが召喚した悪魔達が見知らない悪魔達に襲われ始めたあたりから話し始めた。
赤黒い人型の悪魔を指して、ヘル=エンヴィ、真っ赤な蝙蝠のような悪魔をブラッドゴイル、空の大きな悪魔をリヴァイアサンとダンテが言っていたこと。
『リヴァイアサンの体内が異世界?に繋がっているとかで悪魔がドンドンと増えると……』
『……なるほど。非常に有用な情報だ。流石ダンテ様』
『感心している場合ではないわ!』
『冷静になりたまえ、シャルティア。ダンテ様は本当に食べられてしまったのかい?
『え…?』
『考えても見たまえ。ダンテ様があのリヴァイアサンという図体だけが大きな悪魔の動きに後れをとるとでも?君の清浄投擲槍が効かないことから身体の大きさに見合った体力または防御力を兼ね備えているのだろうね。となれば内側から壊すのが最適解だよ』
『つまり、ダンテ様は……』
『心配いらないということだね。それにしてもどうしたんだいシャルティア?そこまでダンテ様の心配をするとは……』
『なんでもありんせん!この場の人間どもは皆殺しにされてしまいんした。次のポイントに移動しんす!』
シャルティアはいつもの言葉遣いでそう言い放つと
『ダンテは無事だろう』というデミウルゴスの言葉はダンテの力を考えても説得力があった。
無事を確認できたわけではないが、絶望的な状況でもない。シャルティアは思わずホッとため息をついた。
シャルティアがダンテに助けられたのはこれで2回目。前回に関しては下手をすればワールドアイテムによってダンテが洗脳されてしまうかもしれないという危険性があったのだ。
今回のことでダンテが万が一でも命を落とせば、シャルティアはアインズに何と言って申し開けばいいのか見当もつかなかった。自らが命を絶つだけで贖える罪ではないと思った。
シャルティアにとって死は恐ろしいものではない。これはナザリックのシモベ全員に言えることではある。しかし、至高の御方に見放されることが恐ろしい。それがシモベ一同に波及してしまうことが恐ろしくてたまらないのだ。それこそ、アインズがナザリックを去るなどということがあれば……考えるだけで身体の震えが止まらない。
(とにかく、ダンテ様が御自ら飛び込んだということであれば、なにか考えがあってのことに違いありんせん)
シャルティアは自身の任務遂行のため次の集積地に向かった。
◆
デミウルゴスはシャルティアから情報を聞き出した後、自分なりに情報の裏取りを迅速に行い、アインズに
『アインズ様、デミウルゴスでございます』
『何かわかったか?』
『はい、まず見覚えのない悪魔。つまりはイビルロードが召喚していない悪魔についてですが、リヴァイアサンという巨大な悪魔から産み落とされているそうです』
『リヴァイアサン?』
『南西の空をご覧頂ければお分かり頂けると思います』
デミウルゴスの言に従いアインズは南西の空、倉庫区街の方に目を向けた。
「──っ!?」
(でかい……大昔に海に棲んでいたというクジラのようだ……)
ギルドメンバーが最古図書館に仕舞い込んだ昔の生物図鑑に似た生物が載っていたことを思い出していた。クジラもここまで大きくはないのだが、アインズにはそれを知る由もなかった。
その大きさにアインズは思わず声を上げてしまいそうになったが、辛うじて堪えた。
しかし、目敏くその様子を見ていた他の冒険者がアインズと同じく空を見てしまった。
「な、なんだあれはっ!!?」
その声を皮切りに王都防衛に集まった全員がその悪魔の姿を認識した。
その遠目にもわかる巨大な姿。そして、その巨大生物から何かが撒き散らされている様子を目にした。
そのばら撒かれているものが何なのか、彼らはまだ知るすべもないわけだが、その様子に恐怖を感じずにはいられなかった。
冒険者達の喧騒を余所にアインズは中断されていたデミウルゴスとの会話に戻った。
『デミウルゴス。あの巨大なリヴァイアサンと言ったか…あれからばら撒かれているのが……』
『はい、我々の召喚悪魔達と敵対している者たちです』
『現在掴んでいる情報を全て開示せよ』
『かしこまりました。繰り返しになりますが、まずあの巨大な生物はリヴァイアサン。彼の者の体内は異世界に通じており、そこを通じ無限に悪魔を召喚しています。私も遠目ではありますが次々と悪魔が現れてくるのを確認しております。
そして、リヴァイアサンから現れる悪魔として、ヘル=エンヴィという赤黒い人型、ブラッドゴイルという真っ赤な蝙蝠がおります。現在のところ確認できている種は以上の2種となっております。
また、詳細情報はありませんが、ギガピードという悪魔も現れることがあるかもしれません。』
『その情報の出所は?』
『ダンテ様です。シャルティアがダンテ様より伺ったと申しておりました』
『ダンテがシャルティアと接触していたのか……今ダンテはどこにいる?』
『シャルティアによれば、リヴァイアサンの中だと……』
『なんだとっ!?』
『アインズ様、どうかお鎮まり下さい。おそらくですが、ダンテ様はご無事でしょう。シャルティアの話によればダンテ様は自らリヴァイアサンの体内に乗り込んだご様子……勝算があるのだと思われます。
アインズ様の御心労はいかばかりかとお察しいたしますが、ここは作戦の成功に向け対処せねばなりません』
『………わかった、リヴァイアサンの対処はダンテに任せ、我々は延々と出現する悪魔達に対処する』
『ありがとうございます。では現状の説明を続けさせていただきます。
現在、ナザリックの作戦行動はその全てが停止状態になっております。守護者を始め、シモベ達や召喚悪魔はリヴァイアサンより出現した悪魔の対処に追われております。敵悪魔のおおよそのレベルは30前後。これは正確な値ではありませんが召喚悪魔より若干強いという戦力比から推測した暫定の値となります』
『守護者などの主力を除いても戦闘力に関して言えば差はないが数が問題か……』
『はい、このまま何も手を打たずにいれば約1時間ほどで我々の側の召喚悪魔達は全滅します。それに伴い分散している低レベルのシモベは大半が討ち取られるでしょう。守護者に関しては討ち取られることこそないとは思われますが、各自行動に制限がかけられることになるでしょう』
『対抗策は?』
『リヴァイアサンの討伐が大前提となりますがいくつかございます。しかしながらリヴァイアサンは未知の悪魔であり有効な手段が判明しておりません。シャルティアの清浄投擲槍も全く効き目が無かったと報告を受けております』
『悪魔に有効なはずの神聖属性が効かないのか……』
アインズはヘルム越しに顎をなでながら思案する。
いっそ、この作戦そのものを放棄してもいいのではないかと……ナザリックのリソースを消耗してまでこだわる必要はないのではないかと。しかし、リヴァイアサンにダンテが乗り込んだという事実だけがアインズの撤退案を押しこめていた。
友を犠牲にはできないと……
実際のところデミウルゴスも今この段階で作戦を放棄した方が損耗は少ないと考えている。
しかし、栄光あるナザリック地下大墳墓の一員として敗北は許されないと考えていることや、損害が出ようとも乗り切れば少なからず得る物はあると睨んでいる。
加えてここで撤退すれば王国は間違いなく滅ぶだろう。リ・エスティーゼを蹂躙した悪魔達は更に各地へ分散し被害の拡大は想像を絶するものとなる。
デミウルゴスとしてはナザリックさえ健在ならばそれも良いと考えるが、現在のナザリックの状況を考え、
今日届いたアルベドの1/7スケールフィギュアが美しくて、モチベーションアップにより一気に書き上げました。
アルベド出てませんけどね……
たくさんの閲覧、お気に入り、感想、誤字脱字修正ありがとうございます。
また次回、お時間ありましたらお付き合いください。