オーバーロード~慎重な骨と向う見ずな悪魔~   作:牧草

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この作品覚えてくれている人がいるのだろうか……


mission 22

「「………」」

 

 

宿屋にてダンテの戻りを待っていたクレマンティーヌとレイナースは外の光景を目にし絶句していた。

巨大な火の壁が目の前に聳え立っていた。

 

 

「は?何アレ……」

 

「何か嫌な予感がしますわね……ダンテ様は……」

 

 

レイナースはダンテが異変に気付いて戻って来ている可能性を思い、あたりを見まわす。

 

 

「いや、ダンちゃんが戻ってくるわけないじゃん」

 

「ですわよね……」

 

 

とはいえ、この事件の真相を知らない二人に外の光景が物語る異常について、目にしたもの以上のことが分かるわけも、想像できるわけもなく、ダンテがこの場に戻ってくることはないだろうという事実だけが残った。

 

二人揃ってため息をつく、二人はダンテがこの場にいれば「なんか面白そうだから見てくる」と言って飛び出す姿を思い描いていた。

普通なら死亡フラグだが、ダンテに限ってありえないという共通認識から特にダンテを心配しているということはなかった。

 

 

「………」

 

「レイちゃん?」

 

 

ふと、なにかを考え込むように黙りこんだレイナースにクレマンティーヌは問いかけた。

レイナースはダンテとのやり取りを思い出し、この事態にダンテが何か絡んでいるのではないかと思い始めていた。

帝都にいたクレマンティーヌとレイナースが攫われ、気付けばダンテと王都の宿屋にいたこと、ダンテに連れ出されたと考えれば納得はいく。皇城にクレマンティーヌを抱えて現れた顔色の悪い美女。彼女に王都へと連れてこられたと考えるよりほかない。

それに、よくは分からないがクレマンティーヌを傷付けたりするつもりはなかったように思える。そしてレイナース自らが黒い何かにとりこまれそうになった時には混乱こそしていたが、不安は感じていなかったように思う。

それもこれも今にして思い返してみればの話ではあるが……

 

王都についてからのダンテの態度もレイナースの予想に拍車をかける。

何かを考え込むようなそぶりを見せ、クレマンティーヌと自らに目の飛び出るような性能のアイテムを与える。

生存することに重きを置いたアイテムの効果、それを考えればダンテの意図はなんとなく想像はできる。

 

ダンテにはこれから起きることが分かっているのか、もしくはいつもの勘なのかは分からないが、少なくとも戦闘に類する命を脅かす何かがあるということだろう。

外の状況を見れば何もないということはまずあり得ないだろう。

 

 

「………」

 

 

ふと疑問も湧く、自分達を気にかけているのに、何故わざわざ王都へ連れてきたのかという点。

何故、「王都から逃げろ」ではなく「宿屋から極力出るな」なのか…

 

 

───た、助けてくれぇええええ!!!

 

 

「「!?」」

 

 

外から聞こえてきた声に咄嗟に二人は顔を見合す。

そろって頷くと窓の外を覗く。

眼下の光景は二人の想像を絶していた。

炎の壁の向こう側から大量の悪魔が現れ、炎の壁を見に出てきていた野次馬達を襲っていた。

 

 

「──っ!」

 

「ちょっとレイちゃん!?」

 

 

レイナースは壁に立てかけてあった己の槍を手に宿屋の窓から飛び出した。

クレマンティーヌはレイナースを引きとめようとしたが、間に合わず、自身も釣られるようにしてレイナースを追って外へ飛び出した。

幸い二人はダンテが宿屋を出て行ったあと、装備を身に着けていた。

ダンテが戦いを思わせるような言動を取ったからである。

 

 

「はぁっ!!」

 

 

着地したレイナースが槍を一閃、今まさに住民に襲いかかろうとしていた地獄の猟犬(ヘル・ハウンド)をなぎ払った。

攻撃直後で隙だらけのレイナースに別の個体が襲いかかろうとするが横合いからのスティレットの一撃で阻止される。

 

 

「ありがとう、クレマンティーヌ」

 

「はいはい、どういたしまして……で?このあたりの奴らを助けるの?」

 

「不満?」

 

「そういうわけじゃないけど…まさかこのクレマンティーヌ様が人助けするとはねぇ?」

 

「帝都であれほど悪魔を狩っておいて、今更ですわね」

 

「まぁね」

 

 

背中合わせに周囲の悪魔を攻撃しながら言葉を交わす。

 

 

「あの猿のような悪魔…ムシラでしたか?アレよりは弱いので何とかなりそうですわね」

 

「今のところは、ね……でも、向こうからドンドン出てくるんだけど!?」

 

「多勢に無勢ですわね…ある程度住人を逃がしたら私達も撤退しますわよ」

 

 

クレマンティーヌはレイナースの言葉にひとつ頷くと眼前の悪魔達に吶喊した。

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………」

 

 

ラナー王女や冒険者達が作戦会議を行っていた王城の広間は静まり返っていた。

超巨大生物ことリヴァイアサンの突然の出現によって…また、それを追いかける形でもたらされた追加情報が原因だった。

 

伝令兵曰く。リヴァイアサンから別の悪魔が降下し、目につく生き物──王都住民、炎の壁近辺に出現した召喚悪魔も含め──すべてに攻撃を仕掛けていると。

 

一刻の猶予もない状況になりつつあった。しかし当初の作戦では被害が甚大なものになることが分かり切っているため、実行に移せないでいた。

当初の作戦というのは、炎の壁を囲むように冒険者や兵士達で防衛線を構築し、炎の壁の中に悪魔達を押し込め、時間稼ぎをしているうちに、モモンが敵首魁であるヤルダバオトを討ち果たすというものだった。

 

この状況で予定通りの作戦を行うと、各地で乱戦が起きることになってしまう。

それは冒険者や兵士だけでなく近隣の住民をも今以上の危険に巻き込んでしまうのだ。

さりとて、この状況では悪魔同士の戦いに巻き込まれた住民達は一方的に嬲り殺しにされてしまう。

 

冒険者たちは作戦開始前から窮地に立たされてしまっていた。

 

 

「立ち止まっていても仕方ないわ、まずは襲われている住民の救助が最優先。一旦防衛線は当初の予定より後方に構築します。防衛線より高ランク冒険者による救助隊を派遣していきます」

 

 

何かを考え込んでいるらしいラナー王女に代わり隣に立っていたラキュースが声を上げる。

 

 

「超巨大生物の方はこちらで対策を講じ、必要があれば協力をお願いします。作戦を開始してください」

 

 

その言葉を合図に冒険者および指揮権限のある兵士たちは広間を出て行った。

そして今この場に残っているのは、ラナー王女とその護衛数名、ガガーランとティアを除く蒼の薔薇、漆黒、ガゼフ、それからクライムにブレインのみとなった。

 

 

「王女殿下。申し訳ありませんが、私は王の警護に戻らせていただこうと思います」

 

「はい、お父様をよろしくお願いいたします」

 

 

ガゼフはラナーに一言断りを入れ、早々に広間を出て行ってしまった。

ブレインはそのガゼフの様子をみて一つ溜息をついた。

 

 

「ねぇ、イビルアイ、ナーベさん?あのデカブツ落とせる?」

 

 

ラキュースがこの場に残った魔法詠唱者(マジックキャスター)に話を振る。

 

 

「やってみなければわからん」

 

「…………」

 

「ナーベ」

 

「おそらく無理でしょう」

 

 

前者イビルアイ、後者ナーベの返答だった。

モモンに促されてようやく返した返事はラキュースにとって嬉しい返事ではなかった。

イビルアイはリヴァイアサンを今のところ遠目に見ただけなので力の差が分からず答えた。

ナーベはシャルティアの清浄投擲槍が有効でなかったことを聞いていたため、冒険者ナーベとして第3位階までの魔法では倒す術はないと判断した。プレアデスとしての己が使える魔法の最大位階を持ってしても怪しいところだと思っている。

 

 

 

「やってもらえるかしら、イビルアイ」

 

「いや、やめておいた方がいいだろう」

 

「……モモン様」

 

 

ラキュースはほんの少しの可能性を信じ、イビルアイへリヴァイアサンの討伐を頼もうとした。

しかし、モモンが待ったを掛けた。

 

 

「あの巨大生物の周りに何か飛んでいるのが見える。おそらく奴の取り巻きだろう。そんなところへ単騎で突入など馬鹿のすることだ」

 

「あれが取り巻きだというのなら確かに…」

 

「放置するわけにはいかないが、空中に浮かぶアレへの手段は限られている。それに巨大生物はダンテが対処を開始している。やることが決まっている者は行動を開始すべきだろう」

 

 

モモンの言葉にラナーを含めたダンテのことを知らない者達が不可解な顔をしていた。

蒼の薔薇としてはダンテが強いことは知っているが単純にダンテ一人に任せてしまっていいのだろうかという不安そうな表情を浮かべている。

しかし、確かに現状であの巨大生物打てる手はないに等しい。

 

この場に遠距離から攻撃可能な魔法詠唱者(マジックキャスター)の数は少なく、そのうちの一人であるナーベは強大生物の討伐は無理だろうと判断している。

ダンテ一人に任せるよりはマシだとは思いたいが、モモンが待ったをかける以上イビルアイしか出せないだろう。

それはあまりに無謀に感じ、結局ダンテに任せるしかないのかとラキュースは拳を握り締めた。

 

 

「では、空の巨大生物をダンテ様にお任せし、私達は当初の予定通りに行動しましょう」

 

 

ラナーはダンテという冒険者の名前を聞いたことはない。

しかし、モモンが信頼を置いているという事実に加え、蒼の薔薇の反応、現状空の脅威を排除できる手段がこちらにないことを鑑みて作戦行動を開始することを決めた。

ダンテと言う人物が巨大生物の脅威を排除してくれることを願って。

 

 

「クライム、あなたには危険を承知で一つ仕事をお願いします。敵勢力圏に入って、生存者がいる場合は連れ戻して欲しいのです」

 

「畏まりました!一命に代えましてもその任、果たしてご覧に入れます!」

 

 

ラナーの言葉にいつもより気合を入れ返事をするクライム。

クライムの任務は一般の兵士よりも過酷だった。

クライムは炎の壁の中に侵入し、取り残された住民達を保護することが任務である。

構成員はクライム、ブレイン、ロックマイアーという八本指の拠点を急襲したメンバーと数人の兵。

 

炎の壁の中は今や未知の世界、何があるかわからない。ただ一つ分かっているのは悪魔が跋扈する世界となっているということである。クライムは自らの命が尽き果てることも覚悟している。

ある種の決死隊である。

 

神妙な顔をしたクライムは兵達を纏めると出発していった。

 

 

「では、私達も行きましょう」

 

「ラキュース気をつけてね」

 

「ラナーも」

 

 

ラナーは護衛を除く全員がこの場を去ると地図の置いてある机に手をついて俯いた。

護衛の兵士はラナーが心を痛めていると思い、しばらく声をかけなかった。

ラナーが歪んだ笑みを浮かべていることなど知ることもなく……

 

 

 

 

 

 

 

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「ねぇ、レイちゃん?」

 

「な、なんですか?」

 

「撤退するんじゃなかったっけ?」

 

「その予定、でしたわ……ね」

 

「……なんでいつまでも戦ってるの!?」

 

 

うがーと吠えながら目の前の悪魔を滅多刺しにするクレマンティーヌに息も絶え絶えに槍を振るうレイナース。

付近の住民の避難する時間を稼ぐ為に戦い始めて1時間程も経過しただろうか、二人は未だ撤退できずにいた。

より正確に言えば撤退はしている。というよりじりじりと後退していると言った方が依り正確だろう。

 

悪魔をいなしながら炎の壁からは遠ざかりつつあるのだが、出てくる悪魔が予想より多いため一気に距離を空けることができなかったのだ。

加えて、悪魔の同士討ちがあったり状況が読めず、退くに退けない状況になっていた。

このまま退いた場合に、悪魔同士で戦い続けてくれればいいが、一気に散会して住民を襲われたのではここまでの奮闘は水の泡である。

 

とはいえ、これ以上は体力が持たないのも事実、クレマンティーヌにはまだ多少の余裕があるようだが、レイナースにそれはない。

槍を振るう速度は最初に比べかなり落ちているし、悪魔を仕留めるまでに掛かる時間も大幅に伸びてしまっている。

 

このままではジリ貧だ。クレマンティーヌはそう確信している。

悪魔の数は減るどころか増える一方、それも最初に相手取った地獄の猟犬(ヘル・ハウンド)などよりも強い、鎌を持った赤黒い様な悪魔──ヘル=エンヴィ──の数が明らかに増えてきている。

 

今ならまだ逃げる余力がある。しかし、これ以上粘ればどうなるか読めない。いや、限りなく正確に読める。

減る気配のない悪魔共に蹂躙される未来しかない。

それはこの世界における強者であるクレマンティーヌでなくとも、その辺の老人や子供にすら予想可能だった。

 

 

「ぎゃあああああああああ!!!」

 

 

男の絶叫が響く。

そちらへ視線を向ければ、紅い塊が形成されていた。

しばらくするとその塊は数体の紅く巨大な蝙蝠に分かれて飛び立つ。

その後に残されたのはカラカラに乾いたミイラの様な男だけだった。

 

地面を走る悪魔しかいないと思っていたが、それは大きな間違いであった。ついに、空から飛来する悪魔──ブラッドゴイル──が出現し始めていた。

 

ふと空を見上げれば嫌でも目に付く巨大生物、そこから再現なく降り注ぐ悪魔達。

 

 

「ったく、冗談じゃないわ」

 

「全くですわね……」

 

 

クレマンティーヌと共に悪態をつくレイナースは体力的にも状況的にも限界だと感じている。

正直に言えば、だいぶ前から限界を感じてはいた。

ただ、逃げ惑う住民達からの期待の目に絆されてこの場に留まっていただけである。

 

 

「……もう、そろそろ逃げてもいいですわよね」

 

「レイちゃん後ろ!!」

 

 

クレマンティーヌの声に咄嗟に振り返ると同時に槍で薙ぎ払う。

しかし、ヘル=エンヴィの鎌に槍を跳ね上げられ、次いで別の個体から斬りかかられる。

レイナースは辛うじて受け止めるが、体勢が悪すぎた。

 

 

「くぅ…きゃああああっ!」

 

 

レイナースは更に別の個体に勢いよく蹴り飛ばされ、錐揉みしながら無人の家屋に突っ込んだ。

頭をぶつけたのか金髪の一部を赤く濡らし、ぐったりと動く気配はない。

 

 

「てめぇら、どけぇえええ!!」

 

 

レイナースにジリジリと寄るヘル=エンヴィ達にクレマンティーヌが吠え、飛びかかるが、ヘル=エンヴィ達の層は厚く容易に突破できそうにない。

 

的確にスティレットを突き刺し、突き刺し、トドメとばかりに力を入れて更に二本のスティレットを突き立てようとするがしかし、鎌に弾かれる。

お返しとばかりに袈裟切りに振られる鎌を屈む様にして避け、更に背後からの不意打ちは見えていたかの様に体を捻りながら飛び越える。

 

 

「っ!? ──流水加速!──不落要塞!」

 

 

着地を狙われた斬撃に合わせて武技で加速、辛うじて避けるがほぼ同時に迫る一振りには対応しきれず、別の武技でなんとか受けきる。

なんとか囲まれた状態から抜け出したクレマンティーヌだが、レイナースとの距離は開けられてしまった。

 

余裕もなく突撃しようとして武技を連発したクレマンティーヌは肩で息をしていた。

顔を上げ、眼に映るのは今まさに鎌を振り上げレイナースにトドメを刺さんとするヘル=エンヴィの姿だった。

 

 

浮遊する剣群(フローティング・ソーズ)!射出!!」

 

 

凛と響く声と同時に幾本もの剣がレイナースを囲むヘル=エンヴィ達に飛来する。

それは悪魔達への攻撃というより行く手を阻む意味合いが大きな牽制だった。

ヘル=エンヴィ達が一瞬動きを止めた瞬間、飛び出した人影がレイナースを攫うように抱えて離脱した。

 

 

「鬼ボス、まだ生きてる」

 

「ティナ、ありがとう。そちらの方も大丈夫ですか?」

 

 

声をかけられたクレマンティーヌは目の前のヘル=エンヴィを蹴り飛ばしてレイナースを助けてくれた人物の方へ走る。

 

 

(蒼の薔薇?なんてタイミング……でも、正直助かった。あのままじゃレイちゃんを助けられなかった……)

 

「ゴールド以上の方は前方の悪魔達の討伐を!シルバー以下の方は周囲の家屋を捜索、生き残りが居れば後方へ連れて行ってください!」

 

 

多くの冒険者を引き連れてきていたのか、指示を出すと目の前まで来ていたクレマンティーヌに向き直った。

 

 

「私は蒼の薔薇のリーダー、ラキュース。こっちはティナ。疲れてるところ申し訳ないけど状況をお伺いしても?」

 

「……アタシはクレマンティーヌ、あんた達に助けられたのはレイナース。助かったわありがとう。で、状況だっけ?正直よく分からないのよ」

 

 

クレマンティーヌはそう前置きすると、ここまでの経緯を軽く説明した。

 

 

「そうですか、住民を守っていただき感謝します。後方に救護係がいますからそこまで撤退を…」

 

「わかった」

 

 

クレマンティーヌがレイナースを抱えようとするところでラキュースが更に言葉をかけた。

 

 

「出来れば、戻ってきてください。あなたのその力、漆黒聖典の力を貸してくれませんか?」

 

 

ラキュースはクレマンティーヌの正体に気づいていた。

クレマンティーヌが名前を誤魔化さなかったせいではない。もとより蒼の薔薇と法国の六色聖典には因縁があった。

簡単に言えば、人類至上主義の法国と亜人種の命を巡って一度ぶつかったことがあるということであるが、蒼の薔薇はその後、法国の特殊部隊である六色聖典についてある程度調べていた。

漆黒聖典については然程詳しいことを知ることはできなかったが、それぞれがアダマンタイト級冒険者に匹敵する、あるいは凌駕する力量を持つということを知った。

 

今、ラキュースの目の前に居る人物は明らかに、己よりも強い。

自分達が到着するまで眼前の悪魔達の対処をレイナースと二人でやっていたという。

先ほど悪魔の討伐を指示したゴールド以上の冒険者が苦戦している様子から、その困難さは明らかだった。

蒼の薔薇としてフルメンバーが揃っていれば対処できるかもしれないが、二人きりとなると無理だとラキュースは感じた。

 

早くも戦力比が崩れ始めたのか、眼前で多くの冒険者達がヘル=エンヴィに切り殺されている。

想定よりも敵が強い。冒険者でこれでは、国の兵士などでは歯も立たないはず。

戦線の構築すら困難だと、ラキュースは思った。

 

 

「どうかお願いします!」

 

 

ラキュースはクレマンティーヌの返事を聞くことなく。

前線に身を投じ、悪魔共との戦闘を開始した。

 

 

「アタシはもう漆黒聖典でもないんだけどね………」

 

 

クレマンティーヌはそう呟くとレイナースを担ぎなおし撤退した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラキュースは自らも戦い始めて、自分達の想定の浅さを思い知った。

正直、アダマンタイト級である自分達でもヘル=エンヴィの相手は手に余った。

個々人の戦闘力でも勝てず、時間を経る毎に増える敵悪魔。

勝てる要素など皆無の地獄だった。

それでも、戦わなければ間違いなく王国は滅びてしまう。

 

 

「鬼ボス、戻ってくると思う?」

 

「分からないわ、でも戻ってこない方がいいのかもしれない」

 

 

ラキュースは己の背を守るように位置取ったティナにかけられた問いに答えた。

戻ってきてくれれば、少しは持ちこたえられる。

しかし、それは状況の打開となるわけではなく、時間稼ぎにしかならない。

打開できるに越したことはないが、モモンがヤルダバオトを、ダンテが空の巨大生物を倒してくれるのを期待して、今はその時間稼ぎしか自分達に出来ることがないのである。

 

それと同時に危惧しているのは、モモンとダンテが上手くやったとして、目の前の悪魔共が活動を停止するかという問題だ。

元凶を排除して悪魔達が消えればいいが、もし残ってしまったら?

戦線を構築している者たちにそれらを排除する力がない以上、血みどろの消耗戦になってしまう。

否、消耗戦で済めば良い方だろう。普通に敗北して王国全土に悪魔が広がる可能性の方が圧倒的に高い。

 

いかに早く、悪魔発生の原因を排除できるか。

いかに早く、出現した悪魔を排除できるか。

 

後者は難しい。現状で既に排除が困難だ。

では前者は?モモンの力量をラキュースは知らない。

しかし、蒼の薔薇で一番の実力者であるイビルアイが絶賛している。

それは信頼に値する。

実際にヤルダバオトと対峙して戦って生き残っているというのも大きい。

加えて彼のパートナーであるナーベにイビルアイも随伴しサポートする。

現状でこのメンバー以上のパーティはないだろう。

 

問題はダンテの方だとラキュースは思っている。

今もなお、対処困難な相手は巨大生物から降り注いでいる。

ダンテには一刻も早く巨大生物を止めてもらいたいのだが、ラキュースはダンテの実力を測りかねている。

以前にカッツェ平野で見たダンテはカッパープレートの冒険者だが、圧倒的だった。

しかし、相手はスケルトンや骨の竜(スケリトル・ドラゴン)、一部見たことのないアンデッドがいたが、自分達でも何とか対処は出来るだろう相手だけだった。

 

蒼の薔薇としての戦力評価はモモン>ダンテだった。

そんなダンテがモモンと違い単騎で対処に当たっているという。

モモンが「単騎で突入は馬鹿のすることだ」と言っていただけにラキュースは不安で仕方がなかった。

 

考えていても仕方がない、ラキュースはそう思い直し目の前の悪魔達の対処を継続した。

 

 

 

 

 

 

 

「そっちいったぞ!!抑えろ!」

 

「む、無理だ!攻撃が通らな——ぎゃああああああ!!」

 

「ちぃっ!フォローに入れ!」

 

 

オリハルコン級チームのリーダーが仲間や下位の冒険者達に指示を投げる。

彼自身も目の前の悪魔達に浅からぬ傷を付けられながらも必死の抵抗をしていた。

 

まだ、多くの冒険者達が目の前の悪魔と戦闘を繰り広げているが誰一人としてその指示を聞く余裕がない。

であれば、戦線の崩壊は必然。

こういった戦線を構築するような戦闘の経験があれば、無理を押してでも指示に従うのだが、ここで戦線を構築しているのはチーム単位での小規模戦闘が主な冒険者である。

戦線保持の重要性を理解しているものは非常に少ない。

更に悪いことに少数の理解している者達が周りの支援も得られないまま無理をして各個撃破されていくため、戦闘要員が目減りしていくのだ。

まさに、素人の戦争。

程なくして冒険者は全滅し、戦力に劣る王国兵士達が身を削りながら最終ラインを死守する形になった。

 

極端に悪い例ではあるが、戦線の重要性を理解し、更に効率よく構築している場所においても結果だけ見れば大差はなかった。

それは戦線の崩壊が早いか遅いかの違いだけだった。

 

とある戦線では国王がガゼフを筆頭とする王国戦士団を引き連れて現れ戦線を押し上げるが、やはりそこも一時的に過ぎず、王国最精鋭の戦士団を持ってしても戦線の維持すら難しい状況となっていた。

 

 

 

 

 

「やはり、厳しいか。悪魔の数が多すぎて焼け石に水だ……」

 

 

戦線の上空をナーベとイビルアイに抱えられ飛びながら、時折地上に降り立って悪魔達を殲滅し戦線構築を手助けしながらヤルダバオトのもとに向かっていたモモンが呟いた。

 

 

「急ぐぞナーベ、イビルアイ」

 

「畏まりました」

 

「はい」

 

 

モモンは一刻も早くこの自体を解決する必要があると感じ、いちいち冒険者達の目につくような戦闘を諦め、無理矢理にでも中枢部へ向かうことを決めた。

ナーベは勿論、イビルアイもモモンと同様の見解を持っていたため異議を唱えることもなかった。

 

 

(とはいえ、ほぼダンテさん任せになるんだよなぁ……デミウルゴスと早く話をしてダンテさんの支援を考えないと……)

 

 

 

 

 

 

 

一方その頃のダンテ

 

 

「…………やべぇ、今どのへんだ?」

 

 

ダンテはリベリオンを振るい、つい今しがた切り裂いたギガピートの体液を払いながら呟いた。

 

ダンテは迷っていた。

 

リヴァイアサンの体内に長くいられないことをダンテは感覚的に理解している。

実際、じわりじわりと体力が削られているのだ。

リヴァイアサンの消化液によってかどうか分からないが、仮に消化液だとすれば、他の悪魔達も無事では済まないはずである。何か他の要因があるのだろう。

それが何かはダンテにはわからない。

それでなくても地上ではリヴァイアサンから出現した悪魔達が王国の住民を虐殺している。

それを止めるためには異世界との門であるリヴァイアサンを倒しその門を閉じるしかない。

 

 

(獲物を独り占めなのはいいが、楽しむ時間がねぇ……)

 

 

あくまでも、ダンテの目的は王国住民の拉致を阻止することなのだ。

住民達が殺されてしまっては元も子もない。

つまりダンテは最短でリヴァイアサンの心臓を破壊しどこからでもいいから外へ脱出し、住民を守らなければならない。

しかし、未だ心臓はおろか脱出経路の発見すらできてはいなかった。

 

 

「外の様子はどうなってんだろうな……あ?伝言(メッセージ)が繋がらねぇ」

 

 

異世界に繋がっているというリヴァイアサンの体内だからだろうか、正直分からないことばかりだが検証している余裕もない。

ダンテは溜息を吐くと自身に集まりつつあるヘル=エンヴィを蹴散らしながら進み始めた。

 

 

 

 




新元号の令和発表からこっち、多忙を極め、執筆する時間も取れなかったため遅れに遅れてしまいました。
それでもここまで読んでくださった方々に最大限の感謝を……
出来る限り、次も早めに出して王都動乱を終結させたいですね。


たくさんの閲覧、お気に入り、感想、誤字脱字修正ありがとうございます。

また次回、お時間ありましたらお付き合いください。
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