オーバーロード~慎重な骨と向う見ずな悪魔~   作:牧草

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お待たせいたしました。
今回で王都動乱終了です。


mission 23

王都防衛線、その戦況は凄惨を極めるものだった。

王都各地に展開された戦線はどこもボロボロでいつ崩壊してもおかしくない状態になっていた。

 

もとは炎の壁の内側で展開するはずだった戦線を壁の外に展開したのである。ただでさえ人手が足りていないのに守るべき範囲が増えるということは、戦線維持が難しくなることに直結する。

加えて想定外の巨大生物(リヴァイアサン)の出現、及びそれから降り注ぐ別種の悪魔達は、壁の内側から出現する悪魔と同士討ち(?)をしているが、そんなものはなんの助けにもならないだろう。

 

戦線を構築している兵士及び冒険者たちが一息付けたのは、同士討ちが始まった初めのころだけで、今となってはリヴァイアサンから発生する悪魔の方が数が多くなってしまっていた。

もはやその圧倒的物量は防衛戦力をも飲み込もうとしていた。

 

すでに多くの兵士や冒険者達が犠牲となっている。

多くの民の希望となるべきアダマンタイト級冒険者『蒼の薔薇』ですら、まともに戦える状況ではなくなってしまったのだ。

蘇生から復活したばかりのガガーランやティアも鈍った身体を酷使して戦っているが戦況は変えられないでいた。

 

 

「鬼ボス、本気でマズイ。戦線が保てない」

 

「まだ、まだよ!」

 

 

額から血を流したティナがラキュースに焦ったように伝えるが、ラキュースは取り合わない。

取り合わないというよりも、取り合える暇がないのだ。

事実、戦線が保てないと言われても、追加の戦力もなければ一発逆転の必殺技を温存しているわけでもない。手を止めればそこで王国は終わりなのだ。

ラキュース自身も、体中に傷を作りながらも奮戦しているが圧倒的物量の前に効果は見られない。

只管、死に物狂いで時間を稼ぐしかない。地獄のような戦場だった。

 

 

──結晶散弾(シャード・バックショット)

 

 

「まったく、お前達は戦線の維持もできないのか……」

 

 

突如、目の前の悪魔が蜂の巣になったかと思えば聞きなれた声がラキュースの耳を打つ。

常識で考えれば個人で戦線の維持などできようはずもないのだが、そんな無体なことを平然と言ってのけた。

驚いて見上げれば、腕組みをしたまま空中にいる見慣れた小柄な身体。

しかし、現状においては別の場所にいるはずの蒼の薔薇最強の仲間。

 

 

「イビルアイ!? モモン殿の援護は!?」

 

「これはモモン様の指示だ」

 

 

モモン達ヤルダバオト討伐班は予定をかなり前倒しにした。

悪魔の討伐を行いながらヤルダバオトの元へ向かうつもりだったのだが、戦線防衛の苦戦を見て一刻も早くヤルダバオト討伐へ向かうことにしたのだ。

それだけであればともかく、モモンはあろうことかヤルダバオトとそのメイド達を自身が一人で引き受けると言って、ナーベとイビルアイを他の戦線の救援に向かわせようとした。

 

勿論、イビルアイは反対した。

流石にそれは無謀であると、せめて露払いがなくてはヤルダバオトに勝利できないのではないかと。

 

 

「ヤルダバオトを抑えても王国民が絶えてしまっては意味がない。ここは私に任せろ!」

 

 

モモンの力強い言葉にイビルアイは「ももんさま…」と感動したような声を上げた。

そしてイビルアイはすぐに戻ると伝えてナーベとその場を飛び立ち、途中でナーベと別れ各地を転戦しながらこの場に辿りついたのだ。

細かいイビルアイの心の機微についてはラキュースが知る由もないが、結局モモンの負担を和らげることができなかったことが悔しく感じた。

そして、今や空に浮かぶ忌々しい巨大生物(リヴァイアサン)が振り撒く悪魔の対処の方が重大になっているのだが全く手を出せない状況にイビルアイは歯噛みしていた。

 

 

 

──━━━━━━━━━━!!!

 

 

イビルアイが今は一体でも多くの悪魔を駆逐するべきだと思い直したところで空から何かの大きな叫びが降りかかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「これが現在の王国側の状況でございます。申し訳ございません。ナザリックに運搬予定だった王国住民および物資の搬送は予定の10分の1も完了できていない状況でございます」

 

 

転移門(ゲート)要員のメインであるシャルティアがリヴァイアサンから出現した悪魔の対応に追われた結果、小規模の搬送しか行えず、予定を大幅に下回っているようだった。

 

 

「物資はともかく、住民は敵性悪魔にほぼ殺害されてしまっております。その上、死体すら悪魔に食われ残っていないようです」

 

(もうこれ、王国終了のお知らせじゃないのか?)

 

 

アインズがデミウルゴスから各地の状況を聞くと、そんな感想しか出てこなかった。

 

 

「現段階で王国を滅ぼすつもりはない。そうだったな?」

 

「はい。仰るとおりでございます」

 

「作戦は失敗だ。事態の収拾に専念せよ。早急にダンテへ支援を送り、リヴァイアサンを駆逐しろ。方法は任せる」

 

「はっ、かしこまりました」

 

 

デミウルゴスは辛うじて返事をするも、悔しそうに俯いて手を握り締めていた。

そんなデミウルゴスを尻目にアインズは「モモンとして王国を救いに行くとしよう」と一言呟き席を立ち上がった。

デミウルゴスはそんなアインズの所作に今まで感じたこともないほどの恐怖を覚え、震える声でアインズに声をかけた。

 

 

「アインズ様!」

 

「どうしたデミウルゴス」

 

「本作戦の失敗。すべては私の未熟が招いたこと。どうか!どうか!今一度雪辱の機会を頂けないでしょうか!!」

 

「……ふむ」

 

 

アインズが考え込むようなそぶりを見せ、デミウルゴスは今、正に死刑の執行を待つ囚人の気分を味わっていた。

否、死刑ならばどれほど救いがあるだろうか、デミウルゴスはこれで2度目の失敗だ。と本人は思っている。

デミウルゴスに限らず、ナザリックのシモベ達はアインズに失望されてしまうことこそを一番恐れている。

今度こそ見限られても仕方ないが、アインズの慈悲に縋りつくしかない己の無様さ加減に怒りすら覚えていた。

 

 

「デミウルゴス」

 

「はっ!」

 

「私は今回の失敗はお前の責任ではないと考えている」

 

「はっ…え?」

 

「このようなこと誰に予測できるというのだ?」

 

 

どこからともなく、なんの予兆もなくリヴァイアサンのような巨大生物が現れたこと、あまつさえリヴァイアサンから大量の悪魔が降り注ぎ見境なしに攻撃してくるなど誰にも予測はできないだろう。

それこそ神でもなければ不可能だ。

ナザリックのシモベ達はアインズこそ神の一柱であると考えているが、アインズ本人、鈴木悟はただのサラリーマンである。そんな神懸かった予測などできようはずもない。

 

 

「………」

 

「私にしてもこの事態は予測していなかった。つまりこれは私の失敗だ。デミウルゴスよ、すまないが後始末を頼む」

 

「……か、かしこまりました」

 

 

デミウルゴスの返事を聞きアインズはモモンの姿になって歩き去った。

デミウルゴスは滂沱のごとく涙を流しアインズの慈悲深さに感謝を捧げた。

 

 

 

 

 

──━━━━━━━━━━!!!

 

 

突如大音響に包まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ああーー!!やっぱ止めとけばよかったぁあああ!!」

 

 

半ばヤケクソでクレマンティーヌは眼前の悪魔にスティレットを振るう。

しかし、その一撃はガァン!と弾かれる。

 

 

「はぁっ!!ハァ…ハァ…クレ、マンティーヌ……やめ、て…余計に疲れる……」

 

 

クレマンティーヌの決定的な隙をレイナースが辛うじてカバーした。

当のレイナースは既に体力の限界に達しており、虫の息だった。

お互いの背中をカバーしあうように武器を構え、二人を囲む悪魔達に対峙する。

 

クレマンティーヌとレイナースは現在、再びたった二人だけで撤退戦を強いられていた。

蒼の薔薇に救助されたレイナースを連れ、後方に居た救護係の元まで退きレイナースの手当てを行った。

幸いレイナースはすぐに目を覚ましたが、幸いだったのはそれだけで不幸なことに後方であるはずこの場所にまで悪魔達は流れ込んできたのだ。

戦闘能力のない回復要員に怪我人、申し訳程度の護衛。

撤退する以外に手はなかった。

そして必然的に二人にとって足手まといを守りながらの撤退戦が始まったのだった。

 

それでも撤退戦の最初のうちは支援もあった。

回復魔法も度々飛んできていたし。弓による援護射撃もあったのだ。

いつの頃からそれらがなくなったのか、もはや定かではないが現在二人の近辺に悪魔以外の生物はいない。

撤退を始めてから一体何人が逃げ切れたのだろうか。

もしかしたら誰一人逃げられていないのではないかと思える程の地獄ぶりであった。

 

 

「レイちゃん逃げれる?走れる?」

 

「か、かなり厳しいですけど、まだ死ねませんので!」

 

「それじゃあとっとと逃げるよ!」

 

 

二人が目の前の悪魔を切り伏せると即座に反転し駆け出そうとして足を止めた。

クレマンティーヌの後について走り出そうとしたレイナースは急に止まったクレマンティーヌの背に顔をぶつけた。

 

 

「クレマンティーヌ?」

 

「あんた、何故こんなところに………」

 

 

クレマンティーヌの前には十字槍にも似た戦鎌(ウォーサイズ)を手にしたフードを目深に被った小柄な人が居た。

クレマンティーヌはその人物に見覚えどころが因縁でもあるかのように眉間に皺を寄せて睨んでいる。

 

 

「ん?私の事知ってるの?」

 

 

クレマンティーヌとは反対にその人物は──声の調子から女と推測される──クレマンティーヌのことを知らないようで首を傾げていた。

 

 

「まぁいいか、行きなよ。残念なことに暇つぶしにもならないだろうけど、ここであの悪魔たちの相手をしててあげる」

 

「………」

 

「行きますわよ、クレマンティーヌ」

 

 

クレマンティーヌはレイナースに促され戦鎌の女とすれ違い走り出した。

それに続いてレイナースもすれ違ったが、どうしてもその女のことが気になり背後を振り返った。

そこでレイナースが目にしたのは、真っ二つに分断されている悪魔の数々だった。

熱したナイフでバターを切るかのごとく、少しの抵抗もないように悪魔を切り刻む姿にレイナースはダンテを彷彿とさせる強さのように感じた。

 

強さの次元が自らとは隔絶している。そう感じずにはいられなかった。

 

 

「レイちゃん、早く!」

 

 

クレマンティーヌに声をかけられて足を速めた。

 

 

「早くダンちゃんと合流するよ」

 

 

 

 

──━━━━━━━━━━!!!

 

 

クレマンティーヌ達が再び走り出したと同時に響き渡る叫びを背に、フードの人物がポツリと呟いた。

 

 

「へぇ、アレを倒せる奴がいるんだ……」

 

 

静かなその声とは裏腹にその口元は口角が吊り上がり歪んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁぁっ!!」

 

 

気合いと同時に光る剣閃、横並びの悪魔の胴体が同時にずり落ちた。

 

 

「すごい……さすがブレインさん」

 

「よしてくれ、完全に武器のおかげだ」

 

 

純粋にその戦闘力に思わず感嘆の声を上げたクライムはブレインのその言葉を謙遜と捉えていた。

事実、ブレインの持つ閻魔刀試作2号は「人と魔を分かつ」というフレーバーテキストどおり悪魔に対して絶大な威力を誇っていた。

 

 

(武器に頼りすぎるのも問題だが、今は非常時だ。割り切るとしよう)

 

 

ブレインが一人、閻魔刀を見つめ己に言い聞かせていると、あたりの偵察に出ていたロックマイアーが戻ってきた。

 

 

「このあたりに生きている人はいないようだ」

 

「「………」」

 

「死体すら残ってはいないが、明らかに人だったものの痕跡は大量に発見した」

 

「つまり、もう………」

 

「クライム、一旦体勢を立て直そう」

 

 

ブレインは撤退を提案した。

連れてきた兵たちは怪我を負い半数がすでに撤退、幾人かは犠牲となっていた。

 

 

「しかし、それでは救助を待っている人たちがっ!」

 

「いや、俺も賛成だ。今俺たちは炎の壁の中央近くまで来ている。経路を変えて再度進入した方が生き残りを安全に保護できる。それに今の人数ではその保護すらままならない」

 

「……わかりました。一度退きます」

 

 

クライムは己よりも経験の豊富な二人の先達の意見に従うことにした。

クライムも馬鹿ではない。この撤退は救助を諦めた撤退であることに気がついていた。

ここまで誰一人救助できてはいない。さらに時間をかけたところで救助できる可能性は限りなく低いのは目に見えている。

それに態勢を立て直すといっても、救助のために兵士を補充できるわけではない。

救助任務のための兵士以外はすべては城下守備に回っているのだ。残っている兵士などいるわけがない。

 

 

「そうと決まれば急ぐぞ、こんなところに長居は不要だ」

 

「先導は任せろ」

 

 

ロックマイアーが先頭きって走り出したところであたりに何かの叫びが響き渡った。

 

 

──━━━━━━━━━━!!!

 

 

全員が思わず空を見上げると、今まで悠々と空を泳いでいたリヴァイアサンが叫びながらその巨体を捩っていた。

その姿はまるで苦しむかのようであった。

 

 

「一体どうしたってんだ……」

 

「わかりません。……ですが、今は撤退を急ぎましょう」

 

「そうだな」

 

 

再び走り出そうとしたそのときリヴァイアサンの叫びがピタリと止み、ぐんぐんと高度を下げていく。

一行はあろうことか、王城に向かって落ちていくのを目にした。

 

 

「ッ!?ラナー様!!」

 

 

クライムは思わず叫び、全速力で走り出していた。

走って向かったところで追いつけもしないし、よしんば追いつけたとしてもどうしようもないということもわかってはいたが走らずにはいられなかった。

 

 

 

 

 

運良く悪魔に遭遇することもなく王城にたどり着いたクライムたち救助隊はその惨状を見て唖然とした。

リヴァイアサンは幾本かの塔をなぎ倒し、建物自体の約3分の1を押しつぶしながら広場に落ち、滑りながら城壁に激突。

一部城壁を崩したところで止まったようであった。

 

 

ガゼフ率いる戦士団がリヴァイアサンの巨体を半包囲するように展開していた。

 

 

「ストロノーフ様!」

 

「あぁ、クライムか救助のほうはどうだ?」

 

「それは……」

 

「………そうか」

 

 

落ち込むように俯くクライムにガゼフはそれ以上何も言わなかった。

 

 

「王女殿下ならあちらだ」

 

「……ありがとうございます!」

 

 

ガゼフの指差す方を見ればラナーが国王と共に幾人かの護衛に付き添われ、墜落したリヴァイアサンを遠巻きに眺めていた。

クライムはラナーの無事ひとつ息を吐くと、ガゼフにペコリと頭を下げ足早にラナーの元へ向かった。

 

 

「ストロノーフ」

 

「アングラウス、無事だったようだな」

 

「まぁな、住民は誰一人助けられなかったが……」

 

「それも仕方のないことだろう」

 

「……ところでアレは生きているのか?」

 

 

ブレインが顎をしゃくりリヴァイアサンを示す。

それに対してガゼフは肩を竦めた。

 

 

「墜落してからそれなりに時間は経っているが動きはない。おそらく死んでいるのだろう。だが、アレから大量の悪魔が発生しているのを見ている以上、不用意に近づくことはできん」

 

「そりゃそうか……で?お前は国王から離れてていいのか?」

 

「あぁ、王の命で俺が近づいて生死の確認をするところだったのだ。念のため尾の方から回り込むところだ」

 

「なら、俺も付き合うぜ」

 

「そうか、それは心強い」

 

 

ガゼフとブレインが共にリヴァイアサンに接近しようとしたところ、あたりがざわめき始めた。

何かの予兆とかではなく、ただリヴァイアサンを見ていた者達が驚きの声を上げていた。

国王達の方を見ればクライムが王族二人の前に剣を構えて立っている。

ガゼフとブレインはすぐさまクライムの横に剣を構えて並び、リヴァイアサンを見据える。

 

 

「「───っ!?」」

 

 

血で真っ赤に染まったリヴァイアサンの目玉がビクンビクンと蠢きながら血をプシップシッと噴出していた。

そして、一際大きく目玉が膨らんだと思った次の瞬間、目玉が血を噴出し割れた。

血飛沫の勢いは強く、そこそこ離れているはずのガゼフ達まで到達した。

クライムの白い鎧はその飛沫で赤い水玉模様となっていた。

 

 

「てぁっ!!」

 

 

その声と共にリヴァイアサンの目玉から血塗れのダンテが飛び出した。

血を滴らせながら着地したダンテはコートを叩き、血を落としながらブツブツとなにやら呟いていた。

 

 

「…っはぁ、くっせぇ、シャワー浴びてぇ」

 

 

一頻り文句を垂れ流したダンテは多くの人の目が自身に向いているのに気が付いた。

手に持っていたリベリオンを背に担ぎ、いつもの軽薄な笑みを浮かべながら遠巻きに見ている人とすれ違い王城から出ようとする。

 

 

「そなたは?」

 

 

護衛に囲まれた国王がダンテに対し声をかけた。

ダンテが振り返れば、護衛の兵士たちが音を立てて抜刀し警戒を露わにした。

あまりと言えばあまりな対応にダンテはこれ見よがしに嫌そうな顔をした。

 

 

「陛下の問いに答えないかっ!!」

 

 

兵士の一人が怒鳴る。しかし、それを遮るようにガゼフが割り込んだ。

 

 

「陛下、彼はダンテ殿。以前報告致しましたカルネ村を救った御仁の一人です」

 

「ほぉ、其方が……巨大生物の討伐見事であった」

 

 

ガゼフが国王に対しダンテを紹介すると、国王は感心したように頷きながらダンテを讃えた。

 

 

「……もういいか?」

 

 

しかし、ダンテは国王の言葉にウンザリしたように肩をすくめてみせた。

当然、周囲の兵士達が不敬だなんだとダンテを責めるがダンテがエボニーを引き抜いたことでその声が止まる。

 

 

「まさか、パーティ会場の方から来てくれるとはな」

 

 

ダンテがワクワクしたように呟きながらリヴァイアサンの方を見れば、釣られてその場の全員がそちらを見た。

そこには既にリヴァイアサンの死骸は無く、代わりに砂の山ができていた。しかしそれは大した問題ではない。

本当の問題は、リヴァイアサンが開けた城壁の穴から砂の山を乗り越えて大量の悪魔達がこちらに向かって来ていたことだろう。

 

兵士たちがざわめく、半ば震えながら剣を構える者、腰を抜かしてへたり込む者様々だ。

 

 

「陛下!!お下がりください!!」

 

「陛下!ラナー様こちらへ!!」」

 

 

ガゼフも国王を守ろうと前へ出る。その背後ではクライムが王族の二人を避難させている。

 

 

「ダンテ殿、ご助力を──」

 

 

しかし、その悪魔達も次の瞬間には消え去っていた。

 

 

「……チッ」

 

 

ダンテは舌打ちをして引き抜いたエボニーをホルスターに差し込む。

ダンテ以外の面々は状況は全く分かっていないが、悪魔達がいなくなったことでホッとしたように息をついた。

 

 

ほぼ同時刻に各地で戦線を構築していた者達の目の前から悪魔が消え去っていた。

別世界との繋がりの根源であるリヴァイアサンが消えたことによって、存在が保てなくなったが故の消滅だった。

その結果、王都からすべての悪魔が消え去った。

各地の戦線では生き残りの冒険者や兵士たちが突然のことに呆気に取られ、しばらくの後に生き残ったことを喜びあったと言う。

 

 

結末だけを見ればあっけなく思えるが、こうして王都を襲った突然の怪異は終幕を迎えた。

暗躍していたナザリックは目的を達成することもできず、王国はいたずらに被害を被っただけとなって、誰も得をすることはなかった。

デミウルゴスはこれを自身最大の失敗と捉えておりしばらく元気がなかったと言うが、それはまた別の話。

 

誰も得をしていないとは表現したが、正確には極々一部に得はあった。

王国内で唯一利益があったのはラナーである。

もとより、デミウルゴスの策に乗り王国の転覆を目論んでいた彼女である。

予想より被害が大きいとはいえ、目的は十分以上に達成していた。

幸い、目的の必須条件であるクライムも無事に戻っていたこともあり、非の付け所もない成果であるといえる。

たとえクライムが死亡していたとしても、ナザリックとの契約上、蘇生が約束されていたのでクライムの生死はラナーにとってはどちらでもよかったのだ。

蘇生によるレベルダウンで弱々しいクライムを愛でるか、いつもどおりのクライムを愛でるかの違いでしかない。

 

 

ラナー以外では、帝国は毎年の戦争を経ずとも大いに弱った王国に対し笑いが止まらなかったし、帝国に王国を併合させようと目論んでいた法国も「王国が大幅に弱体化した」その点においてだけは納得していた。

勿論、人間至上主義の法国では悪魔の出現そのものについては大いに問題視しており、近々新たに編成した漆黒聖典の初任務として王国に調査を入れる予定である。

悪魔のほとんどが消え去っている王国での任務は以前に比べれば格段に弱体化した漆黒聖典に与える任務としてはお手頃といえる。

部隊としての連携の確認などが主な目的だからだ。

 

しかし、法国では問題も起きていた。

むしろ王国併合に関しては法国が手を下さなくても帝国が勝手にやってくれるように誘導していただけに、発生した問題の方が大事となった。

ダンテによってほぼ壊滅に追い込まれた漆黒聖典。その切り札が失踪した。

それが王国の変事に関連があるかは不明ではあるが、現在法国の上層部は混乱の坩堝にある。

 

失踪した漆黒聖典の切り札こと番外席次は評議国にマークされている。そのため番外席次は特定の場所から出られないはずなのだ。にも拘らず、番外席次は失踪した。

今回の失踪は確実に評議国に漏れていて、問題となることが目に見えている。

そのため、法国上層部は頭を抱えている。

対する評議国としても、番外席次が動き始めたことで静観を決め込むことはできなくなった。

 

王国ほどではないが、周辺各国にいくらか大きな動きがあったのは確かだった。

 

 

 

そして、王都の騒乱から数日後のラナーの自室では部屋の主であるラナーと蒼の薔薇からラキュースとイビルアイが一同に会していた。

 

 

「ラキュース、冒険者たちの被害はどれくらいでたのかしら?」

 

「作戦に参加した冒険者のうち約7割が戦死または行方不明よ。ギルドや王家からの援助もあっていくらか蘇生したけど、どれだけ贔屓目に見ても5割は減ったと考えて頂戴」

 

「この先の王都周辺の治安に影響がでそうね」

 

「周辺もだけれど、王都そのものの治安も維持できないのでしょう?」

 

「えぇ、兵士も8割、ラキュースに蘇生してもらっても6割減というところらしいわ。民の被害にいたっては手も付けられていないそうよ」

 

 

俯きドレスのスカートごと拳を握りこみ悔しそうに呟くラナーにラキュースは何も言うことができなかった。

 

 

「これでも被害としては抑えられた方だと思うわ」

 

「えぇ……」

 

「モモン様とダンテがいなかったら王都は死の都になっていただろう」

 

 

これまで黙って聞いていたイビルアイが声を上げた。

 

 

「そうね、お二方は今どうされているのかしら?せめてお礼のひとつでもお伝えしたいのだけれど……」

 

「モモン様は依頼主のレイブン候に挨拶したのち、早々にエ・ランテルに戻ったぞ。ダンテは知らん、拠点に帰ったんだろう」

 

 

ラナーの問いにイビルアイは若干不機嫌そうに言い捨てる。

イビルアイはモモンとの別れを未だに惜しんでいた。

イビルアイの中ではお互いに立場があるため、共にいることを許さず引き裂かれたような気持ちなのだ。

 

 

「ダンテ様は、居場所がわからないのですか?」

 

「そうね、私たちはあの作戦会議以降はダンテの動向をまったく知らないのよ。ラナーの方が知っていると思ったのだけど……」

 

「今、組合は王国全土でダンテの行方を捜索中だ」

 

「ランクアップの話でしょうか?」

 

 

半笑いでダンテの状況を語るイビルアイの言葉から現在のダンテの立場を知ったラナーは予測をそのまま口にした。

 

 

「そうだ、アダマンタイト級である我々もモモン様ですら手を出せなかった巨大生物を単騎討伐したんだ。偉業中の偉業だろう。組合はその話をするためにダンテを探している」

 

「そうですか……けれど、ごめんなさいね。私もダンテ様がどこへ行ったかは知らないのよ。ブルムラシュー侯をはじめとした貴族の方々もダンテ様を探しているようですけれど……」

 

「貴族が?何のために?」

 

「巨大生物の墜落で被害を受けた王城を補償させようとしているらしいのです」

 

「えぇ……」

 

 

ラナーの言葉にラキュースがげんなりとした表情を浮かべた。イビルアイも仮面のせいで表情こそ見えないが首をヤレヤレと振っている。

事件の当日に王都にすらいなかった貴族たちが事情も知らずに声を荒げているだけなのだが、ラナーの言葉通りなら六大貴族の一部がダンテに責を押し付けようとしているようであり、それを覆すのは国王のランポッサ三世でも容易ではない。

さらに悪いことに、王家からもバルブロ第一王子がダンテの責任であると断言しているという。

 

 

そこには政治的意図が隠されることもなくモロ出しだった。

貴族派閥は王派閥の弱体化を狙って、ダンテを擁護、王家が自らの修繕費を捻出すべきという主張をしていた。

対して王派閥は王国全体で何とか捻出しようという方向で意見を出していた。

ここまでであれば、ダンテに類が及ぶような話ではなかったのだが、ブルムラシュー侯の一声で事態は急転した。

 

 

「王城を壊したのはダンテという冒険者であろう?であればそやつに支払わせるのが道理であろう。たとえ何年かかろうともな……」

 

 

王派閥に属しながら帝国に内通しているブルムラシュー侯は一部でも自らが負担を負うのを嫌っての発言だった。

もちろん冒険者ごときが支払える額ではないという意見もでたが、ブルムラシュー侯は平然と「すぐにアダマンタイトになるだろう」と言った。

アダマンタイト級であれば多少年月がかかろうがその莫大な収入で支払いは不可能ではないだろう。

とはいえ、本当にアダマンタイト級になれるのかという疑問も当然沸いた。

 

 

「たしかにその懸念はあるが、王国のアダマンタイト級冒険者である蒼の薔薇も漆黒も巨大生物に対し手も足も出なかったというではないか、確実にアダマンタイト級に昇格させる案件だ」

 

 

今度はボウロロープ侯がそう断言していた。

そこからは、一部貴族を除いたほとんどの貴族達がダンテに支払わせるのが良いと声を上げ始めたのだった。

ランポッサ三世個人としては冒険者が一人で負える費用ではないし、まして救国の英雄に出させるなどとんでもないと考えていたが、貴族達の熱量に圧殺されていた。

 

つまるところこれはただの皮算用、初期投資は王家が行いダンテが王家に対し返済していくという形をとらせ、ダンテが真面目に返済すればそれも良し、返済が滞っても懐が痛むのは王家のみという、実質王家が支払うようなものである。

ただただ、王派閥を衰退させようとしているだけなのだ。

 

 

ダンテは表に出てくればとんでもない負債を負わされることになるだろう。

しかし、蒼の薔薇はダンテが現在帝都を拠点にしているのを知っているため、そこまで心配はしていなかった。

 

 





感想やメッセージで多くの「待ってた!」を頂いて調子に乗って「次は早目に更新します」なんて言っておいて……言い訳できません!許してくださいなんでもしますから(震え声




たくさんの閲覧、お気に入り、感想、誤字脱字修正ありがとうございます。

また次回、お時間ありましたらお付き合いください。
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