オーバーロード~慎重な骨と向う見ずな悪魔~   作:牧草

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キリがいいので幕間を一つ……


Secret mission 3

一般メイドたちがいつもより楽しそうにかつ真剣に働いていた。

いつもはだらけているということでは決してない。

普段から真面目にかつ機械的に働いてきた。

それは彼女たちの記憶の中にあるユグドラシルに居た頃から変わらないことだった。

ユグドラシル時代にはNPCとして配置されているだけで実際に働くことはなかったはずだがそれは置いておく……

 

 

ただ、今日という日には彼女等のモチベーションアップにつながることがあるのだ。

それだけで、普段のルーチンのような仕事内容にも特別感が付随されている。

 

彼女等は一体何のためにそこまで張り切っているのかといえば……

 

 

「飾り付けの進捗45%!そっちは?」

 

「料理の進捗は20%、ちょっと遅れ気味……」

 

「料理長たちしかいないから仕方ないわよ」

 

「飲み物完了!」

 

 

彼女たちは明日行うパーティの準備をしている。

何のパーティかといえば、それはナザリックがこちらの世界に来て初めて行う大々的な作戦行動。

一般メイド故に作戦の名称はおろか内容自体を知る由もないが、その成功を祝ってという名目である。

 

しかもその作戦は失敗してしまうので成功を祝ってというものになり得ないのが残念な部分ではある。

 

しかし、パーティそのものはアインズの承認をも得ているものであり、アインズはその話を聞いたとき殊の外喜んだという。

 

アインズに報告を行ったアルベドを含め何がそこまでアインズの琴線に触れたのかは理解していないが、喜んで貰えた事実が彼女たちのヤル気をさらにアップさせている。

飲み食いのできないアインズが何故喜んだのかはシモベたちに理解することは難しいだろう。

 

 

ちなみに現在時刻は午後11時といったところである。

今まさに、リ・エスティーゼで過去最大級のマッチポンプが行われようとしているところだった。

 

現時点で誰もがこの作戦が失敗する事など考えてもいない。

 

 

 

「プルミエ~、ダンテ様用のイチゴは〜?」

 

 

一般メイドの一人であるデルニエは同僚のプルミエに声をかけた。

プルミエは先ほど件のイチゴを貰いに上層へ行った二人を思い出す。

 

 

「今、ヌヴェルとプランミディが第6階層の副料理長の畑に行ってるわよ」

 

「ダンテ様用のイチゴって?」

 

 

その話を近くで別の作業を行っていたプレーヌが拾い上げる。

プレーヌはダンテ用のイチゴと聞いても何に使うものなのか理解できていないようだった。

 

 

「え?プレーヌ知らないの?」

 

「ダンテ様用のイチゴといえば、ストロベリーサンデーに使うイチゴよ」

 

「あ~ダンテ様がよく召し上がっているって話のデザートね。話にはよく聞くのだけど実物を見たことはないのよね……」

 

「私はダンテ様が召し上がっているところを見たことあるわよ。確かにおいしそうに召し上がっていらしたわ」

 

「どんな味なのかしら……」

 

「気になる……」

 

 

種族──ホムンクルス──としてのペナルティである食事量の増大のせいもあり、食に関しては皆かなり敏感であるため、このナザリックでダンテだけが食べているストロベリーサンデーの味に興味深々だった。

 

 

「でも、副料理長もダンテ様の為に用意したものだって言ってるし私たちが食べれる可能性は低いかも……」

 

「このパーティ、ダンテ様もいらっしゃるのよね?私ダンテ様にお願いしてみようかしら」

 

「プレーヌ……あなた怖いもの知らずね」

 

「ダンテ様は怖くないわよ、ただちょっと口が悪いだけよ」

 

「ホント大物ね……」

 

 

プレーヌの思わぬ発言に引き気味で呟くプルミエ。

そこでいったん会話が途切れ、話ばかりでもいけないと、気を取り直してそれぞれの仕事に戻っていった。

 

余談ではあるが、この時点でダンテはパーティのことなど一言も知らされていなかった。

 

 

 

 

 

一方、ダンテのためのイチゴを貰いに出かけたヌヴェルとプランミディ、二人のメイドは絶賛遭難中だった。

 

 

「……ここどこ?」

 

「第6階層よ」

 

「知ってるよぅ……」

 

「なら、聞かないで」

 

 

キョロキョロとあたりを見回すように落ち着きのないプランミディ。

対して、一見冷静に見えるヌヴェル。

 

 

「こんなことなら、アウラ様のご厚意に甘えるべきでした……」

 

 

ぽそりと呟くヌヴェル。彼女も実のところ不安でいっぱいになっているのである。

 

二人は第6階層に来た際、今回の作戦には参加していないアウラと会っていた。

「森は広いから連れて行ってあげようか?」というアウラの提案を忙しいであろう階層守護者の手を煩わせるわけにはいかないという思いで断っていたのだ。

 

今頃、畑ではアインズが連れてきたドライアードがイチゴの収穫を終えて二人を待っている頃だろう。

ただでさえ、普段は第9、第10階層でしか仕事をしていない彼女たちが第6階層に一人で行くのが不安だからと二人で出てきているのだから、他の仕事に支障が出てしまう可能性がある。

 

時間をかけてはいられない。

それは彼女たちの共通認識ではあるのだが、いかんせん解決策がない。

 

来た道を戻れば済むのでは?

そう疑問に感じる者もいるだろうが、それができるなら遭難しているなどとは表現しない。

森を甘く見てはいけないのだ。

知識のないものが軽々に踏み込めばあっという間に方向感覚を失い、現状をなんとかしようと動けば動くほどドツボに嵌る。それが森というものである。

彼女たちはまさにその典型だった。

 

 

「……あんなところでぐるぐる回って、キョロキョロしてなにしてるんだろう?」

 

 

急いでるんじゃなかったのかなぁ?とアウラが呟く。

 

 

「ねぇ、アンタ達?」

 

「ひゃいっ!?」

「!!!?」

 

 

ヌヴェルとプランミディは突如背後から掛けられたアウラの声に飛び上がるほど驚いた。

 

 

「あ、アウラ様ですかぁ……驚かさないでくださいよぉ」

 

「ごめんごめん」

 

 

プランミディの抗議の声に同調するようにヌヴェルがコクコクと頷く。

 

 

「で、アンタ達こんなところでいつまでも何やってるのさ。副料理長の畑に行くんじゃなかったの?」

 

「アハハ……」

 

「?」

 

「そのぉ……」

 

 

言い淀むプランミディの脇を突いて早く言えと促すヌヴェル。

そんなヌヴェルを恨みがましそうな目で睨むプランミディ。

一応黙って反応を待っているアウラの頬がぴくぴくと動くのを認識したプランミディはふぅと一息つくと、自分たちの現状を伝え始めた。

 

 

「はぁ……だから、連れて行こうかって聞いたのに」

 

「「申し訳ありません」」

 

「いいよ、じゃあ一緒に行こう」

 

「ありがとうございます」

 

 

再びのアウラの申し出にヌヴェルがペコリと感謝の意を伝える。

 

 

「アウラ様~!本っ当にありがとうございますぅ!」

 

 

プランミディは半ば涙目、涙声でアウラに抱き着くようにして謝意を伝えた。

背丈としてはアウラよりもプランミディの方が高く、絵面としては逆ではないかと思える光景だった。

アウラもヌヴェルもそんなプランミディの行動を苦笑いで見つめていた。

 

一般メイドが階層守護者に抱き着くというのは、普通の組織、例えば会社で言えば新入社員が部長に抱き着くようなものだろう。普通に考えれば失礼といえるだろう。

 

しかし、基本的にナザリックにおいては至高の41人を頂点とし、その創造物の間には与えられた役割としての上下があるだけで身分としての差はないので別に問題になるようなことではなかった。

 

そういうこともあって、このプランミディはついこの間もアルベドにも抱き着いている。

どういった経緯でアルベドに抱き着いたのかは想像に任せるところである。

 

 

「はいはい、分かったから離れて。行くよ?プランミディ、ヌヴェル」

 

 

そういって歩き出したアウラの後を追って歩くこと数分。

目的の畑に到着した。

あまりにもあっさり到着したのでヌヴェルもプランミディもポカンとしている。

 

 

「えっ?こんなに近かったんですかぁ!?」

 

「アンタ達ずっと同じところをグルグル回ってただけだったからね」

 

「…………」

 

 

突き付けられた現実にヌヴェルは言葉を失っていた。

 

森での遭難の嫌なところは、実はすごく浅いところでただ只管ぐるぐる歩き回っているだけだったという現実が往々にしてあることだろうか。

遭難していた時こそ必死だが、後からその事実を突き付けられれば恥ずかしくなってくるものである。

二人はまさにそれを実感しているところだった。

 

 

「あー!やっときたぁ!」

 

 

アウラたちを見つけたピニスンというドライアードは声を上げた。

ピニスン・ポール・ペルリア、彼女はもともとはトブの大森林で暮らしていたが。

コキュートスがリザードマンの集落を支配する少し前にナザリック入りを果たしていた。

そこからはナザリックの第6階層でリンゴやイチゴなどを育てる仕事をしていたのだ。

つまり、畑としては副料理長のものだが、その中でも今回の主目的であるイチゴ畑の責任者は実質ピニスンということになる。

 

 

「すみません。お待たせしました」

 

 

ヌヴェルがピニスンにペコリと頭を下げる。

実はこのヌヴェルの行動、普通のナザリックのシモベたちにはありえない行動ともいえた。

たいていのシモベたちはナザリック外の存在を下に見る傾向があるのだ。

 

ナーベラル風に言えば「下等生物のくせに」というやつである。

しかしヌヴェルは自分が悪いと思えば誰であろうと素直に謝ることのできる良い子であった。

 

 

「いいよいいよ!やっとなんて言ったけどどれくらい待ってたのか覚えていないし」

 

 

ケロッと言ってのけるピニスン。

ドライアードは樹木の精ということもあり、かなりの長寿である。

樹齢にして……よくわからないが200年以上は生きていることだろう。

そんな彼女はやはり時間の感覚は薄い。

少なくともイチゴの収穫をして待っていたのだからそこまで長い時間ではないはずである。

 

 

「ありがとうございます」

 

 

ヌヴェルがお礼を述べるとプランミディはピニスンに近付きイチゴの入った袋を受け取った。

ピニスンはこれで用は終わりとばかりに、挨拶もそこそこで畑に戻っていった。

 

 

「くんくん……中身はイチゴ?」

 

 

ひくひくと鼻を動かしてイチゴの香りを嗅ぎ取ったアウラが尋ねる。

 

 

「はい、ダンテ様のストロベリーサンデー用に必要とのことです」

 

「あれかぁ、おいしいよね」

 

「アウラ様はお召しなったことがあるんですかぁ?」

 

 

少し驚いたようにプランミディが問うとアウラが何か変なこと言ったかな?というように首を傾げた。

 

 

「前にダンテ様がナザリックに戻ってきたときにたまたまご一緒してね、その時にご相伴に預かったんだ」

 

「いいなぁ」

 

「イチゴ準備してるってことはダンテ様戻ってくるんでしょ?お願いしてみたら?」

 

「それは、いいんでしょうか?」

 

 

流石に不敬なのではと心配するヌヴェルを他所にプランミディはその手があったかと手を一つ叩いた。

 

 

「やめなさいよ?プランミディ」

 

「え~」

 

「ダンテ様なら大丈夫だと思うけどなぁ」

 

 

アウラのつぶやきは二人に届くなくことなく消えていった。




注)今回名前の出た一般メイドはオリジナルです。

リュミエールやエトワルと同じフランス語が元となったメイドたちです。
8人分くらい考えた中の5人です。
残りの3人にお目見えの機会があるかどうかわかりませんが……


このお話の一般メイドたちは結構のびのびと暮らしています。


たくさんのお気に入り、感想、評価。本当にありがとうございます。
また、誤字脱字の報告もありがとうございます。
どれだけ見直しても気付かないものなんですねぇ(遠い目


また次回もお付き合いいただければ幸いです。
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