オーバーロード~慎重な骨と向う見ずな悪魔~   作:牧草

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mission 24

「まずは長期に渡る情報収集ご苦労だった。セバス、そしてソリュシャンよ。よくやってくれた」

 

 

数多くのシモベたちが集まる玉座の間にアインズの声が響き渡る。

アインズはこれから行うつもりである上位者としての振る舞いにない筈の胃をキリキリと痛ませ、セバス、ソリュシャンの二人に前へ来るように言った。

二人は事前に申し合わせたかのように揃って玉座の前まで進み再び跪く。

 

 

「顔を上げよ。お前達の見事な働きを讃え、褒美を与えよう」

 

 

至高の御方々に仕え奉仕するのが当たり前だの信賞必罰が当たり前であるとか言い合っているのをダンテは欠伸を噛み殺しながら壁にもたれかかりながら見ていた。

 

 

「さてダンテ、他に褒美を与えるべき者はいるか?」

 

 

セバス、ソリュシャンほどの功績とは認められなかったがエントマの活躍に対し彼女の要望を聞いて一段落したところでアインズがダンテに問いかけた。

流石に予想もしていなかった問いかけにダンテは驚いた。

誰が何していたのかさっぱり知らないのに何を言い出しているんだコイツという感想だった。

 

 

「あ~、アルベドにナニかやったらどうだ?」

 

 

ダンテはニヤニヤと笑いながら無難にアルベドを推した。

アルベドは王都には来ていなかったようだったが、ナザリックのことや兵站的なことをやっていたのだろうと思ってのことだった。

何も細かいことは知らないが、少なくとも大過なくこなしたのだろうとは思う。

基本的にダンテはアルベドのことをポンコツだと思っているが、それはアインズのことに限りで、その他は十分以上に優秀であると理解していた。

 

アルベドはアルベドでまさかダンテから自らの名前が挙がるとは思ってもおらず、困惑していた。

驚いたような顔でこちらを見ている。

 

 

「今回のことだけじゃねぇ、アインズがナザリックを離れている間はずっとアルベドがここを管理していたんだろう?」

 

「確かに…」

 

 

アインズはそう呟くとアルベドの方を見遣る。

 

 

「アルベド、お前の献身を当たり前に感じ放置していた私を許して欲しい」

 

「何を仰いますか!私はシモベとして当然のことをしたまででござます!」

 

「先にも言ったが、私はお前たちが真摯に仕えてくれることを当たり前とは考えてはいない。……そう、とても嬉しく思っている。そんな主から褒美を贈らせてほしい」

 

 

アインズの言葉に感動したかのようにすすり泣くような声が其処彼処から聞こえてくる。

 

 

「アルベドよ、望みを言うが良い」

 

「は、い……その、後程お伝えに参っても宜でしょうか?」

 

「良い、それではアルベドは望みが決まったら私に伝えに来い」

 

「かしこまりました」

 

「褒美の授与は一旦ここまでとしよう、今後も働きによって褒美を与える。一層の働きを期待する」

 

 

アインズはなんでもかんでも褒美を与えればいいとはさすがに思っていない。

本当は皆に褒美を与えてやりたいと思っているが、特別でなくてはならないと考えているためここで区切る。

 

アインズは「さて…」と呟きながら玉座の間に集まったシモベたちを眺めた。

 

 

「皆、王都での作戦ご苦労だった。残念ながら思ったような成果を得ることは叶わなかったが、私はこれもまたアリだと考えている。多くの改善点が見えたことだろう。想定外というものの怖さを身をもって理解したことだろう。それらを含む多くの経験を得られたことこそ収穫である」

 

 

居並ぶ者たちの顔を見れば、一部の者たちは悔しそうに顔を歪めたりしている。

デミウルゴスはその最たる例だろう。

 

 

「取り返しのつかない事柄での失敗ではない以上、誰かに責任を取らせることはない。あえて責任を問うのであればそれは私だろう」

 

 

アルベドはすぐさまアインズ言葉を否定しようとするがアインズに手で制される。

 

 

「私が言いたいのは難しいことではない。この失敗を教訓とせよということだけだ」

 

「「ハッ!!」」

 

 

アインズの言葉に玉座の間に集まったシモベたちが即座に返事をした。

 

 

「その反省の一環として、今回の作戦を振り返りたいと思う。作戦を成功させるためにはどうすべきだったか…何か意見のあるものはいるか?」

 

「では、私からいくつか」

 

 

すぐさまデミウルゴスが反応する。

 

 

「まず、今回のことで、我々は同程度以上の相手に対して非常に脆いことが判明しました。予てよりアインズ様が仰られていた、相手を侮ってはいけないというお言葉に従うことが結果的にできておりませんでした。

所属不明の謎の悪魔の出現が想定外であったとはいえ、我々の行動が後手に回ってしまっていたことは事実です。

そこで私が考えるのは、戦闘に類する作戦が行われる場合には、()()()予備戦力の準備が必要であるということです」

 

「待って、デミウルゴス。今回も予備戦力は用意していたわ」

 

 

デミウルゴスの言葉をアルベドが遮る。

 

 

「もちろん、アルベドが戦力を準備していたことは承知しているよ。私が言っているのはその『輸送手段』を含めて()()()機能する予備戦力の話だよ」

 

「……ふむ。続けろデミウルゴス」

 

「かしこまりました」

 

 

アインズに向かって一つお辞儀をした後、デミウルゴスは今回の作戦でメインの輸送要員であったシャルティアが戦闘に従事しなければならなかったことを例に挙げ、転移門(ゲート)に頼らない、もしくは頼るとしても確実な物資や人員の輸送手段の確立を検討することを提案した。

折角準備しても使えなければ意味はないのだ。

 

確かに、今回の場合は早期段階でナザリックからの増援があれば、物資も王国民の拉致も可能になっていたかもしれない。

戦力的にもリヴァイアサンが召喚した悪魔たちに引けを取るものではない。むしろあの程度であれば圧倒すら可能である。

しかし、輸送手段が貧弱なばかりに結果としての逐次投入になってしまっていた。

それは目も当てられない結果である。

 

 

「また、ナザリックは地上戦力において諸勢力に対して圧倒的優位を保てますが、航空戦力の不足が目立ちました。流石にダンテ様が倒したリヴァイアサンを倒せるほどの戦力をとまではいかないでしょうが、一考する余地はあるかと……」

 

 

「なるほど、航空戦力か……今までのナザリックの運営では発想すらわかなかったことだな」

 

 

ナザリックの戦力がそもそも拠点防衛のために存在しているため、航空戦力として期待するほうが間違っているのだが、外へ打って出るというのであれば、航空戦力は必須ともいえる程に使い勝手が良いだろう。

情報収集しかり、それこそ物資の運搬などにも使えたりと利用価値は無限大である。

 

 

「他にも──」

 

「待て、デミウルゴス」

 

「はっ」

 

「まだ、あるのか?」

 

「もちろんでございます。今回の一件、アインズ様は我等シモベに責任はないと仰ってくださいました。しかしこのデミウルゴス、己がもっとうまくやれていればと考えること止めることができません」

 

「そうか、その様子ではこの場ですべて語り尽くすことはできそうにもないな……ならば、デミウルゴスよ。お前の考える改善案をまとめて提出せよ、後にアルベドも交えて協議するとしよう」

 

「はっ!一両日中にはご提出させていただきます」

 

 

アインズは、「そんなにあるのかよ!?」と叫びたい衝動にかられたが、ぐっと抑え込んだ。

 

 

「他の者も何か思うことがあれば、まとめて提出せよ。では、あまり拘束しても仕事が滞ってしまう者もいるだろう。これくらいで解散するとしよう。お前たちの一層の忠勤に期待する」

 

 

アインズは立ちあがりそう宣言した。

 

 

「ダンテ、こちらへ………ダンテ?」

 

 

アインズ・ウール・ゴウンの指輪でダンテを連れて転移するためダンテに近くに来るよう声をかけたが、ダンテからの応答がない。

 

 

「眠っていらっしゃるようでありんすね」

 

 

シャルティアの言葉通りダンテはいつからか腕を組んで壁にもたれかかりながら眠っていた。

アインズはそんなダンテにため息をつきながら、負の接触(ネガティブ・タッチ)をアクティブにしたままダンテに近付き肩を掴む。

ダンテが負の接触(ネガティブ・タッチ)のダメージに驚いてビクッと身体が跳ねるのと同時に玉座の間から転移した。

 

 

 

 

 

 

「疲れた……」

 

「お疲れ」

 

 

アインズに自室まで拉致られたダンテは自分を放ってベッドにダイブする骨を冷めた目で見ていた。

 

 

「完全に骨折り損だ……骨だけに……」

 

「あ、はい……」

 

「でも、ダンテさんのおかげで助かりましたよ」

 

「あぁ、リヴァイアサン?」

 

「えぇ、さっきデミウルゴスも言ってましたが、ナザリックに航空戦力がないので浮いている敵には手も足も出ませんね」

 

 

フライの魔法で飛べるシモベもいるにはいるが、そこまで数が多くないのだ。

もっともリヴァイアサンはダンテの知る限りでは内部から破壊するしかないので、戦力が整っていようと外からの攻撃では落とせないだろう。

 

 

「まぁ、仕方ないだろ?」

 

「えぇ、王国を滅ぼすつもりはなかったので本当に助かりました」

 

 

ベッドに座りなおしてペコリと頭を下げるアインズ。

ダンテは肩をすくめて返事した。

 

 

「ところで、王国民の拉致って本気だったのか?」

 

「やっぱりそこは引っ掛かりますか?」

 

「まぁな」

 

「反対してたダンテさんに言うのもなんですが、本気でしたよ」

 

「………なにか理由があるのか?」

 

 

ダンテはこれでもアインズのことは何も考え無しに行動をする奴ではないと信頼している。

今回もきっと何か理由があるのだと……

 

 

「ナザリックのためですよ」

 

「……それだけ?」

 

「えぇ、それだけ。でも俺の最大の理由です」

 

「相手は何の関係もないのにか?」

 

 

ダンテは目を赤く光らせアインズを睨む。

 

 

「言いたいことはわかります。ただ、この世界に来てから人間に対して感情を抱くことがなくなってきていて、今回にしても何の疑問も抱かずに、ナザリックのためになるならいいやと思ったんです」

 

 

心が身体に引っ張られているみたいですね。とアインズは他人事のように呟いた。

 

 

「ダンテさんも異形種ですし、そういうことはありませんか?」

 

「………ないな」

 

「そうですか、ずっと人型でいることに何か関係があるのか……?もしくは───」

 

 

ダンテの答えが予想外だったのかアインズはブツブツと呟きながら考え込んでいる。

ダンテはとっさに「ない」と答えたが、本当は心が身体に引っ張られているような感覚を感じていた。

もっとも、それはアインズのように人間に対して何の感情も抱かないというまるでアンデッドのような感覚ではない。

 

むしろダンテは前より人間を好きになっていた。

 

それこそ本当の人間だったリアルでも考えられないくらいだ。

リアルでは自分のことだけで精一杯で他人のことなんて考えている余裕はなかった。

しかし、余裕がないのは一部の上流階級の者を除けば、ほぼ全員といえる。

それはダンテ…もといユーゴも例外ではなく、他人に興味なんて持っていられなかったのだ。

それが当たり前の世界に生きていたのだ。

 

しかし、この世界に来てからというもの、無関心ではなくなっている。

明らかに、ダンテとしての身体に引っ張られている。そう思うのは自然の流れだろう。

もしくは、己が大きな力を持った事も関係しているのかもしれない……

力の有無がそのまま生死にかかわるこの世界において、ダンテの力はリアルでいう上流階級の者の持つ余裕でもある。

余裕があったればこそ、自分以外にも関心が持てる。それは人間であれば当たり前ともいえる。

逆説的にいえば、リアルにおいてもそれほどの余裕があれば、他人に関心を持つこともあったのかもしれない。

 

逆もまた同様に、身体が心に引っ張られているとも感じている。

ゲーム『Devil May Cry』の主人公ダンテの理念からすれば、ナザリックは完全にダンテの敵である。

にもかかわらず、ナザリックを敵に回すことに忌避感を抱くのは、ユーゴとしての心によるところが大きい。

ナザリックに所属こそしてはいなかったが、ギルド「アインズ・ウール・ゴウン」のメンバー達と親交を持ち、苦楽を共にすることが多かった。

ユグドラシルの世界において一番付き合いのあった人たちとその子供たちに対して非情になり切れないのだ。

 

心と身体が相互に引っ張り合いかえって人間らしくなっているのが今のダンテだった。

そういう意味では、今の『彼』は『ダンテ』でも『ユーゴ』でもないといえる。

 

 

「で?アインズはそれでいいと思っているのか?」

 

「うん?どういう意味です?」

 

「人間であったはずのモモンガさんは、完全なアンデッドになることを良しとしているんですか?」

 

 

それはダンテではなくユーゴとして言葉だった。

完全なアンデッドになってしまったアインズ。それはギルドメンバーが信頼したギルド長なのか、そんなアインズをみんなは認めてくれるはずがない。

ギルド『アインズ・ウール・ゴウン』を外部からそれも限りなく近くから見ていたユーゴにはそれがわかる。

 

 

「………」

 

「ギルドメンバーたちの和を重んじていたモモンガさんはそれでいいんですか?みんなに胸張って会えますか?」

 

「それは…………」

 

 

正義を標榜するたっちさんは間違いなく怒るだろう。悪を目指していたウルベルトさんだってユグドラシルがゲームだから悪のロールプレイをしていたに過ぎない。別の世界とは言え現実でそんなことをすれば怒ってくれるはずだ。

死獣天朱雀さんのような人生の先輩であればどんな言葉をかけてくれるだろうか、少なくとも褒めてくれることはないだろう。

 

 

「アインズ……まだ、人としての感覚が残っているうちに言っとく。もしもの時は俺が殴ってでも止めてやる」

 

「えぇ、覚えておきますよ」

 

 

ダンテはこの言葉に意味はないと理解していた。

「今」だからアインズは頷いてくれたが、実際に殴って止めるような事態になったらアインズはダンテの行動を認めはしないだろう。

その時は身も心もアンデッドになっているのだから当然だろう。

ダンテがアインズを止めようと殴った時、それはアインズ・ウール・ゴウンとダンテとの戦争の開始となる。

 

 

「俺に殴らせるなよ?俺は平和主義者なんだ」

 

「バトルジャンキーが何を言ってるんですか……」

 

 

 

 

 

 

 

*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王都騒乱──作戦ゲヘナの失敗──から数日後、ダンテ達一行はエ・ランテルに滞在していた。

名目は怪我の療養である。

クレマンティーヌもレイナースも負った怪我はダンテ所有のアイテムで完治しているし、ダンテに至っては無傷である。

療養など必要ないのだが、この事件はかなりの広範囲に広まっており周辺各国で知らない者はいないほどだった。

ダンテやクレマンティーヌ達のことまで広まっているとは流石に思わないが、厄介ごとを回避するために一定期間療養しておくべきであるとはアインズの言であり、ダンテは渋々ながらそれに従っている。

その他にもいくつか理由を言っていた気もするがほぼ聞き流していたため、ダンテは覚えていない。

 

エ・ランテルに来た主な理由は王都が復興で忙しく、療養には向かないという表向きの理由。

本音では暇つぶしもできそうになかったからである。

そうしてエ・ランテルに移動してきた3人は宿屋で暇を持て余した結果、爛れた生活を送っていた。

 

クレマンティーヌとレイナースは怪我こそ完治しているが、精神的な疲れからか療養には賛成だった。

そのため、二人は宿に籠ることが多くなっていた。

 

ダンテは二人の相手をする以外の時間は割と自由にかつ頻繁にエ・ランテルを出歩いていた。

もちろんナザリックに戻ってストロベリーサンデーを食べることも忘れない。

なぜかメイドたちに囲まれながら食べる羽目になった理由はダンテには見当もつかなかったが……

 

ちなみにダンテはストロベリーサンデーを全部で15杯頼んだが自分の口に入ったのは一杯分だけだったりする。

 

 

エ・ランテルに戻ってからは顔見知りの多い酒場で飲んで暴れたり、ふらっと冒険者組合に顔を出せば、王都での活躍により一足飛びにアダマンタイト級冒険者となった。

最低位冒険者から最高位冒険者への前代未聞、異例の大躍進だった。

それは動乱で生き残った蒼の薔薇含む冒険者からの報告や王家からの異例の推薦もあって実現したことだった。

ついでにウィナから説教を食らった。

 

ほんの少し前までエ・ランテルの最高位冒険者はミスリルであったのに、この短期間でアダマンタイトが二組も現れ組合は歓喜に沸いた。

しかし当のダンテは舞い込む依頼について、「疲れている」、「気分がノらない」などと適当に拒否して一切の依頼を断っているため、早くもアダマンタイトとしてダンテは不適合なのではないかという声すら上がっていた。

また、貴族たちからダンテの居場所について問い合わせがあったりと組合への負荷はかなりのものとなった。

問い合わせの理由についても、王城の修繕費の請求のためだったりと、エ・ランテルの冒険者組合では『あいつは王都で一体何をやらかしたんだ?』と疑念も湧き上がってきていた。

 

モモン君と比べダンテ君は礼儀がなっていないし常識もないとはエ・ランテルの冒険者組合長プルトン・アインザックの言である。

その風評でダンテを主に担当してきていたウィナにまでとばっちりが及んでしまい。ダンテはさらに彼女から苦言を呈されることになった。

 

ある意味平和な一か月を過ごしたのち、ダンテ達一行は帝都アーウィンタールまで戻ってきていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

ある日。

 

 

「ねぇ、お出かけしましょ?」

 

「………」

 

「ダンテ?寝てないでいきましょ?」

 

 

Devil May Cryの定位置で机に脚をかけ、本を顔に被せて眠っているダンテにウレイリカとクーデリカがまとわりつく。

袖やら裾やらを引っ張るせいで本がずり落ちる。

 

 

「おーい、アルシェ!」

 

「お姉さまなら朝からお出かけよ?」

 

「ダンテ、お姉さまにご用事?」

 

 

ダンテはまとわりつく双子を煩わしく感じ、アルシェに何とかするように伝えようとしたが、残念ながら外出中のようだった。

 

 

「マジかよ……誰もいないのか?」

 

「クーデリカと」

 

 

ウレイリカがクーデリカを指差し。

 

 

「ウレイリカと」

 

 

クーデリカがウレイリカを指差し。

 

 

「「ダンテだけよ」」

 

 

二人でダンテを指差す。

ダンテはキラキラした目でこちらを見上げてくる二人にげんなりした。

 

アルシェが不在な理由はダンテにはわからないが、クレマンティーヌは闘技場、レイナースは皇城だろう。

特にレイナースは忙しい。

というのも、皇城で多くの人目のある中で謎の襲撃者──ネヴァン──に攫われたのだから帝都に戻った時に大騒ぎになってしまうのは火を見るより明らかだった。

攫われて一ヶ月以上、生死すら定かではないと半ば諦められていたレイナースが戻ってきた。

帝国四騎士の一人が戻ってきたというのはそれほどのことなのだった。

 

そして案の定レイナースは色々と説明を求められた。

ダンテにとってレイナースがことの真相をどのように誤魔化すのかについて興味はない。

しかしレイナース本人にとっては頭を抱えてしまう程の問題だろう。と普通であれば思うのだが、レイナースは「ダンテに救出された」とシレっと言ってのけた。

 

レイナースが何故そのようなことを言ったのか、その理由は単純にレイナース本人がネヴァンに攫われてから王都の宿屋で目を覚ますまでの間に何があったかなど全く知らないからだった。

さらに言えば、自分を攫った女がかつて自分とクレマンティーヌを恐怖のどん底に突き落としたケルベロスと同等のダンテが所持する武器の一つであることも知らないのだ。

つまり、レイナースにとっては正しくダンテに救助されたという認識なのだった。

ケルベロスに比べればネヴァンは見た目的にもいくらかマイルドなわけだがやはり恐怖の対象には違いなかった。

本当はダンテのダンテによる誘拐事件であるにも関わらずである。

 

帝国上層部の中でダンテのことはなんだかすごいマジックアイテムを持っている男という認識に過ぎなかったのだが、帝国最強のフールーダが手も足も出なかったネヴァンに攫われたレイナースを救出した男として認識されるようになっていた。

もちろんジルクニフは最初から只者ではないと直感していたが、明確な比較対象が現れたことで皇城に仕える兵士たちまでもが同じ認識になった。

それがダンテにとって良いことではないのは言うまでもない。

 

 

 

 

「……二人で出かけて来いよ」

 

 

現状自分以外に大人がここにいないことを悟ったダンテはため息交じりにひらひらと双子に手を振った。

 

 

「でも……」

 

「お姉さまが、二人でお出かけしちゃダメって……」

 

「………」

 

「「………ダメ?」」

 

 

ダンテと出かければ良いというのは何か違う気がしなくもないが、懇願するようにこちらを見上げてくる双子に、ダンテはハァとため息をついて、机の上に転がしていたエボニーとアイボリーを腰のホルスターに格納し、コートを掴んで二人に振り返った。

 

 

「はぁ……で?どこ行きたいんだ?」

 

 

双子はダンテのその言葉に喜び、ダンテに飛びついた。

ダンテは二人をぶら下げたまま、外へ繰り出した。

 

 

 

 

 

 

快晴の午後ということもあり、大通りはかなり賑わっていた。

出店の類も多く出店しており、特に食べ物を扱う店からは食欲を刺激するような匂いが漂っている。

人出も多く、連れとはぐれてしまえば合流するのも一苦労だろう。

そんな喧噪の中にあってなお、ダンテとウレイリカ、クーデリカの三人はそのアンバランスさもあって目立っていた。赤コート銀髪の大男の両脇に金髪の双子がコートの端を掴んでちょこちょこと歩いている。

手でも繋いでいれば微笑ましい光景とも見えるのかもしれないが、生憎ダンテは身を屈めてまで双子と手を繋ぐつもりはなかった。それくらいの身長差がありダンテが身を屈めず双子の手を握れば、二人はブラブラと宙に浮くことになるだろう。

子供故、それでも相当喜びそうではあるが……

 

 

「あれ、ダンテ?デート?」

 

 

双子にコートを引かれ大通りを歩いていると、聞き覚えのある声がダンテ達の足を止めた。

 

 

「イミーナ、お前にはこれがデートに見えるのか?」

 

「それもそっか。二人もつれて、しかも明らかに彼女って歳じゃないし」

 

「当たり前だ、20年は早い」

 

「うわ、何その妙にリアルな数字……」

 

「──ダンテ……本気?」

 

「「お姉さま!」」

 

 

イミーナの背後からひょっこりと顔をのぞかせたアルシェに双子は嬉しそうに飛びついた。

そんな双子を撫でながらアルシェは心底嫌そうにダンテを睨む。

 

 

「あー、いや、ねぇな」

 

 

ダンテはこの双子が20年もすればいい感じに成長するだろうと考えたが、双子の姉を見遣り、成長的な意味で望みは薄いかと思い直した。

 

 

「──………」

 

 

アルシェはダンテの意図を正確に把握したため、ジト目でダンテを睨む。

 

 

「あのねお姉さま。ダンテに連れてきてもらったの」

 

「──え?ダンテが?」

 

「へぇ、優しいじゃん?」

 

「ダンテは優しいのよ?私たちに歩く速さを合わせてくれたもの」

 

「手を繋いでくれればもっとよかったの」

 

 

双子の言葉に二人は本気で意外そうな表情を浮かべた。

ダンテはダンテで双子のエスコートに言及するような発言に、こいつら本当に5歳児かよと戦慄していた。

 

 

「で?お前は俺にこいつらの世話を押し付けてなにしてたんだ?」

 

「アルシェにはちょっと私の仕事を手伝ってもらってたのよ。ちょっと条件の良さそうな仕事の話があってね、その裏取りよ」

 

「お姉さま、またどこか行っちゃうの?」

 

 

クーデリカの問いにアルシェは息を飲んだ。

 

 

「──辞めたほうがいいのはわかってる。でも、この仕事がうまくいけば大金が手に入るから……」

 

「そういえば、ダンテはエ・ランテル近辺にいたのよね?少し話を聞かせて欲しいんだけど?」

 

 

アルシェはこれが最後のワーカーとしての仕事と考え、最善を尽くそうと動いているようだった。

また、イミーナも少しでも情報を得ようとダンテから情報を引き出そうとした。

 

 

「エ・ランテル近辺?」

 

「えぇ、なんでも未発見の遺跡が見つかったらしいのよ」

 

「へぇ……」

 

 

やる気のなさそうな相槌を打ちながら、ダンテはふと上空を見上げた。

つられてイミーナも見上げるが何も視認できなかった。

 

 

「死にたくなかったら辞めときな」

 

(それ、間違いなくナザリックだから……)

 

「は?それはどういう意味?」

 

 

真意を問いただそうとするがそんなイミーナをよそに、ダンテは自らの肩に手をまわし、リベリオンを引き抜こうとしたが、その手は空を切った。

リベリオンはDevil May Cryに置いて来ている。

ダンテは「あぁ……」とひとつ声を上げ、代わりにアラストルを召喚し空に掲げた。

次の瞬間、ガキンッ!と刃物同士がぶつかる音が響き渡った。

 

 

「「きゃあ!!」」

 

「クーデ!ウレイ!」

 

「アルシェ!こっちよ!!」

 

 

アルシェが双子を庇いながらイミーナの声に従い、ダンテから離れる。

腕利きのワーカーとして申し分のないイレギュラーへの対処だった。

 

 

「エィ・リス・トウル!あはは、 当たりだわ……」

 

「がっつくなよ、男だろうが女だろうがせっかちは嫌われるぜ?」

 

「あぁ、いいわ……」

 

 

ダンテと襲撃者の鍔迫り合いは一旦引き分けに終わった。

襲撃者がバックステップでダンテから距離をとる。

 

一瞬の出来事に静まり返った大通りは次の瞬間に悲鳴が溢れ、我先にと逃げ出す住人で混乱した。

 

行動の迅速さもあり、アルシェとイミーナ、その二人に連れられた双子はすでに建物の影まで避難している。

建物の影からはイミーナとアルシェが警戒しながらこちらを伺っていた。

 

ダンテは襲撃者の一撃を受け止めたものの受け止めたその武器は戦鎌であり、鎌特有のの曲がった刃に肩を若干裂かれていた。

しかし、痛痒は一切ないのか、ダンテはアラストルでトントンと肩を叩きながら襲撃者を観察していた。

 

外套をすっぽりと被っているため体形は見えづらいが、声から判断しても間違いなく女である。

流石にマーレのような男の娘ではないと思いたい。

フードから除く顔は前髪に隠されていてはっきりとは見えないが、その髪は白と黒のツートンでかなり特徴的だった。

 

 

「うふふ、あははは!!間違いなく強いっ!」

 

「で?どこの取立て屋だ?あいにく払える金なんて持ち合わせちゃいないんだが?」

 

 

ダンテの問いに襲撃者が答えることなく戦鎌を振るう。

対するダンテもアラストルを振るう。

 

 






たくさんのお気に入り、感想、評価。本当にありがとうございます。
また、誤字脱字の報告もありがとうございます。
どれだけ見直しても気付かないものなんですねぇ(遠い目


また次回もお付き合いいただければ幸いです。
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