「ロウネ、例の遺跡の件どうなっている?」
「現在は陛下の指定した貴族を通してワーカーチームのいくつかに依頼を打診したところです。
冒険者と違い、各チームで様々な調査を行っているため返答が出揃うまでは、少々時間がかかると思われます」
「……そうか、ところでじい」
ロウネの報告を聞いたジルクニフは傍らの椅子に腰かけるフールーダに視線を向けた。
「はい、陛下」
「どのようにして、あの遺跡を見つけた?」
「偶々としか答えようがないですな」
「偶々……ですか?」
フールーダの言葉にロウネが首を傾げた。
「そろそろ今年も例の戦争が近づいておりますからな……カッツェ平野の近辺を視ておったところ、記憶にない丘がいくつもありましたので」
「ほぅ、それで確認していたら見つけたと」
「そのとおり」
もっともな話ではあると思う。
その一方で、何故カッツェ平野から離れた場所を調べる必要があるのかは疑問に感じる。
既に幾度も行っているこの戦争という名の小競り合いは、毎回変わることなくカッツェ平野を主戦場としている。
帝国軍はカッツェ平野近郊に建てた砦を前線基地とし、王国軍はエ・ランテルを前線基地とし、それぞれ前線基地近辺に陣を張る。
王国の現状を鑑みるに、調べる必要すら感じない。
昨日の王都の騒乱で王国はその力を大きく減じているし、それでなくとも毎年のこの戦争で徐々に力を失っているのだ。
それから考えれば調べるにしてもカッツェ平野を中心に各前線基地近辺を調べれば事足りるだろう。
少なくとも、遺跡のあったトブの大森林の近辺まで調べる必要はなかったはずではある。
なにより、「今年は戦争そのものを見送ってもいいのでは?」という案すら出ていた中でそこまで調べるだろうか?
「陛下、お疲れのようですな」
考え込むようにして、眉間を抑えながら顔を顰めるジルクニフにフールーダは苦笑した。
事実、ジルクニフは疲れていた。
皇城の謎の破壊、謎の美女の侵入者。
たった二件と思うことなかれ、そのいずれもがこの2か月のうちに起こったことであり、その真相を全く把握できていないのだ。
皇城の尖塔は修復中であるし、侵入者に至っては誰もがその顔を見ているにもかかわらず身元不明。
前者はダイレクトに国庫に響くし、後者は皇帝の安全を脅かす由々しき事態。
連日対応に追われるが、対策案すら生まれない。
また、それとは別に城下の各地で街並みが破壊される事件が頻発しているのだ。
ジルクニフの心労は甚大だった。
「失礼しますよ、陛下」
大きな声と同時に執務室の扉が開かれると、なんの遠慮もなくバジウッドが入室した。
ジルクニフはそバジウッドの姿を認めると、口元を歪めて、皮肉のように笑った。
「どうした?なにか厄介ごとか?」
「あ~、まぁそんなところです」
「…………………どうした?」
「城下で破壊があったと報告が上がってきてましてね」
「………はぁ」
ジルクニフは大きなため息を吐いて続きを促す。
「破壊の規模自体は大したことないらしいですが……」
「どの程度の被害だ?」
「大通り百メートル程に大量の陥没、石畳の破砕。大通りに面した家々に壁や窓が破壊されるなどの被害が出てます」
「下手人は?」
「目撃者の証言では黒の外套を被った小柄な人物と白い鎧、それからダンテです」
「……………また、あいつか」
ジルクニフはその報告にやっぱりという思いと共に先程より深く重いため息を吐いた。
そして、ジルクニフの心労の原因となっている城下の破壊の悉くにダンテの目撃証言が上がっている。
それも含めて先に挙げたジルクニフの心労の原因の全てがダンテに起因するものであるが、それは誰も知らない。
城下の破壊については、ダンテによる
もちろんダンテは
そして、城下の破壊について、申し訳ないなぁとは思ってはいるのだ。
一方で悪魔が跋扈しているよりはマシだろうと開き直っている。
「それなんですがね、奴を庇うわけじゃないんですが、今回奴は襲われた側のようでして……」
「どういうことだ?」
「今回は白昼堂々、人通りの多い大通りっていうこともあって、目撃者が多いんですよ」
ふむ、とジルクニフは顎を撫でる。
確かにこれまでの城下の破壊とは少々毛色が違うようである。
今までは殆どが夕暮れから明け方、人目の少ない路地裏やスラム街。
目撃者も酔っ払いや浮浪者などほんの少数に限られている。
しかし、それらの目撃証言もダンテが暴れているところを見たというわけではなく、ただ近くで見たというだけなのだ。
証拠というには弱く、かといって放置するにも件数が多い。本当に厄介だった。
ジルクニフたちは十中八九ダンテが犯人だと思っているのが現状である。
「当時、大通りにいた連中からすれば奴は逃げる時間を稼いでくれたヒーローってことです」
「では、襲ってきたというのは?」
「外套の人物です。そいつがダンテに斬りかかったらしいですぜ」
バジウッドが報告のあった聞き取りの内容を読み上げていく。
すべて聞き終わったジルクニフは相変わらず顔を顰めながら、ため息を吐く。
「つまり、不可抗力であると」
「まぁ、報告によれば……ですが」
「………それを信じろと?」
ジルクニフはバジウッドから聞かされた荒唐無稽な報告の数々に「もう、うんざりだ!」と今にも机に拳を叩きつけたくなる衝動を抑えて声を絞りだした。
一体誰が信じるというのだろうか……
・周りに人がいる間中、外套の人の攻撃を受け止め続けて逃げる時間を稼いでくれた。
・一撃を受け止めたら足元の石畳が砕けた。
・外套の人物が鎌を振る度に石畳やレンガ造りの家が切刻まれた。
・見てたら彼女ができました。
etc...etc...
「無理ですね」
引き攣った苦笑いでバジウッドではなく、ロウネが答えた。
全員が引き攣ったような表情を浮かべる中、一人表情を変えないフールーダに対し、ジルクニフは視線を向けた。
「じい、外套の人物や鎧の人物に心当たりはあるか?」
「人物についての情報が少なすぎて難しいですな……とはいえ、心当たりということであれば、白い鎧については
「法国の者か……」
「確証はありません」
「確証がないのでは、文句を言うこともできないか……」
忌々しそうに舌打ちをしながら顔を顰めるジルクニフ。
そんなジルクニフを見ていたロウネはふと思い立ったように口を開いた。。
「陛下、例の遺跡の調査をダンテにも打診してみるのはいかがでしょう?」
「……ほぉ、なかなかいい考えではないか」
どうして思いつかなかったのかと、ジルクニフは膝を叩いてロウネを称えた。
ダンテは冒険者ではあるが、Devil May Cryという、半ばワーカーのような形態を取って仕事をしていると報告を受けていた。
つまり、Devil May Cryへの依頼という形を取れば、ダンテが動く可能性が出てくるのだ。
さらに、ダンテが帝都を離れるということは、間接的にダンテによる帝都の破壊を免れることに繋がる。
現状は証拠不十分でダンテに責任を取らせることも出来ていないのだが、ダンテが調査に赴いた結果、被害が減るのであればダンテが原因であるということに大きく近づく。なにより、被害を最小限に抑えることができる。
そしてあわよくば、ダンテに死んでもらいたい。
もとより、この遺跡の調査は何があってもいいように、粛清候補である貴族を利用し、数が減ろうがたいした影響のないワーカーを利用することで自らが責任を負うことを逃れられるのだ。
何かあっても、隠れ蓑である貴族の責任であるし、使い捨て前提で依頼をしているワーカーが減ったところで帝国はなんら痛痒を感じることはない。
「早速、手配しろ」
「かしこまりました」
ジルクニフの言葉にロウネは一礼すると、部屋を足早に出て行った。
その様子を見ていたバジウッドはコホンと一つ咳払いをするとジルクニフに向き直った。
「で、城下の破壊についてはいつも通り、でいいですかい?」
「………致し方あるまい」
苦虫を大量に噛み潰したような顔でジルクニフは頭を搔いた。
「あいつを王国に送り込んでおけば、毎年の戦争などやらなくてもいいんじゃないですかねぇ」
「それは確かにそうだが、戦争をやっているからこそ、後に帝国が吸収できるのだろう?」
戦争というプロセスをスキップしても結果は変わらないだろうが、それでは戦勝国ではなく、ただ弱り目の王国を簒奪したという評価になるだけである。
それでは、あまりにも聞こえが悪いし今後を考えても得策とは言えない。
「王国の滅亡が早まるのは確かだろうがな」
悲しいかな、冒険者やワーカーを国外追放以外で外に追いやる術がないため、ダンテに手が出せないのだった。
自嘲気味に笑うジルクニフは背中が煤けていた。
後日、伯爵家の使いを名乗る男がDevil May Cryを訪れた。
依頼内容はもちろん、リ・エスティーゼ領内の遺跡の調査だった。
「いかがかな?十分な報酬だと思うが──」
「断る」
間髪入れず食い気味で切り捨てたダンテに伯爵の使者はもちろん一緒に聞いていたクレマンティーヌやアルシェも驚いていた。
使者はともかくクレマンティーヌとアルシェはダンテが「面白そう」の一言で遺跡調査に向かうと思っていた。
ダンテの助言からフォーサイトはこの依頼を断っているが、まさかダンテまで断るとはアルシェ自身思っていなかったのだ。
ダンテですら行きたがらない調査、その理由は明らかとなってはいないが、アルシェはしみじみと断ってよかったと思った。
「理由を聞いてもいいだろうか」
「話は終わりだ、とっとと帰りな」
「なっ!?貴様無礼なっ!」
唾を飛ばして怒鳴る使者にダンテは机に上げていた足を下ろして、机越しに使者の胸倉をつかみ引き寄せる。
鼻と鼻がくっつきそうな距離で使者の目を覗き込む。
「帰れ」
再びそう告げると、事務所のドアが吹き飛ぶことも構わず、使者をそのまま外まで放り投げた。
「……あれ死なない?」
「………大丈夫だろ」
クレマンティーヌの言葉に興味なさげに答えたダンテだが、普通に死んでもおかしくない距離を投げられた使者はピクピクと痙攣している。
打ち所が良かったのか気絶しているだけのようだった。
「──行かないの?」
「行かねぇよ……」
ダンテからしてみれば勝手知ったる他人の家。もとい、友人宅なのだ。
好き好んで情報を渡すわけがない。まして強盗のような真似などするはずもない。
以前「外に出る」というワードに対しアインズは否定しなかった。
それはすくなからず表舞台に立つことを意味する。
それがこの周辺諸国の「味方」としてなのか「敵」としてなのかはまだ分からないが、
何をするにしてもアンチというものは存在する。
慎重なアインズのこと、ナザリックの防衛テストのようなものも兼ねているのだろう。とダンテは思っている。
侵入者は十中八九皆殺しだろう。
否、素直に殺されるならまだ幸運だろう。
かつて捕獲された上に蘇生され生き地獄を味わっている陽光聖典の隊員たちを思い出す。
少なくとも生きてナザリックの外に出られる可能性は限りなく低い。
遺跡に侵入し、防衛のアンデッドを倒しながら財宝を発見し持ち帰る。
人の価値観としては問題ないが、ナザリックの価値観および立場的には完全に強盗殺人のそれである。
家人に返り討ちにあって殺される。自業自得といえる結末だろう。
それがアインズの仕掛けた罠であり、完全なマッチポンプであることは若干気に入らないが仕方ないことだろう。
「ただいま戻りました。表に転がってるのは何です?」
レイナースが幾分嫌そうな顔で使者をまたいで入ってきた。
「ゴミだゴミ」
「はぁ、何か貴族からの依頼でもありましたの?」
使者の装いから貴族の使いであると察したレイナースが苦笑いでソファーで本を読んでいる双子の元へ向かう。
「レイナースお姉さま、おかえりなさい」
「おかえりなさい」
「ただいま戻りました、ウレイ、クーデ」
レイナースは天使のような笑顔を浮かべる二人の頭を撫でながらソファーに腰を下ろした。
ちなみにこの双子、使者が扉を突き破って外に放り投げられたその音に驚きはしたものの、「いつものことか」というような態度で読書に戻っていた。
Devil May Cryにきて嫌な方向に図太くなってしまっている。
「──今、例の遺跡の調査依頼がダンテにきて、それを断ったところ」
「……断られましたの?」
「あぁ……」
ダンテはレイナースに答えながら、壁に立てかけていたリベリオンを背負う。
腰に差したエボニーとアイボリーをポンポンと叩いて確認すると、つい今しがた破壊された出入口へと向かう。
「ダンちゃん今日も行くの?最近奴らに遭遇してないみたいだけど?」
「嫌な予感がするからな」
ダンテは「怖いこと言わないでよ」なんて言って笑うクレマンティーヌの声を背に外へ出ると事務所前に転がっている使者の足を掴むとそのまま引きずりながら、さらにスラムの奥へと歩を進めた。
「あれ?大通りに捨ててくるんじゃないの?」
「──きっと何か考えがある」
クレマンティーヌとアルシェは使者を引きずるダンテを見て不思議に思うも、そういうこともあるかと気にしないことにした。
使者を引きずって歩くこと数分、ダンテが悪魔を排除することで、ホームレスも悪魔もいない空白地帯となている場所で、ダンテは手にしていた使者を前方に転がした。
「いつまでも寝たフリしてんじゃねぇ」
「………」
「それだけの匂い垂れ流しといて誤魔化せると思ってるのか?」
「…………」
「ちっ、ダンマリかよ」
──ダァン!!
ダンテは舌打ちすると、何の躊躇いもなく使者の眉間を打ち抜いた。
ビクンと一つ身体が跳ねるも、次の瞬間にはサラサラと砂のように消えていった。
実のところ、話しかける必要はなかったのだ。
ポロリと情報を溢してくれれば儲けもの程度の行動。
先ほどクレマンティーヌが言っていた通り、ここ数日正確に言えばリ・エスティーゼから戻ってきてからは悪魔と遭遇していなかったのだ。
今にも悪魔が出現しそうな濃厚な気配があるにも関わらず、全くと言っていいほど、出くわさないのだ。
しかもその気配は日を追うごとに強くなっている。
この調子で気配が強まれば、あと数週間でこの帝都が一月前の王都と同等レベルの魔界になってしまいそうなほどである。
未だ誰にもこのことを話してはいないが、あまりにも不自然な現象であるため、何か原因があるだろうと日々歩き回っているのだ。
そこへきてこの使者である。
正直、胸倉を掴んで顔を近づけるまでは気付かなかったが悪魔の気配を確かに感じた。
撃ち抜いた結果。間違いなく悪魔であると判明した。
悪魔でなければどうするといわれてしまうかもしれないが、ダンテは使者が悪魔であると確信を持っていた。
これほどまでに気配が強いのに悪魔が表に出ていないというのは、何かしらの意図があるはずだ。
そのために巧妙に隠蔽しているのだろうとは思う。
「陰険野郎が……こそこそ見てないで出て来いよ!!ビビってんのか!?」
ダンテの声が響く。
相手の意図はわからない。
しかし、間違いなく何か仕掛けてくるとダンテは確信してた。
だが、そこまでだった。
こちらの世界に転移してから、勘は働くようになったし、戦う力も得た。
それでもほんの数か月前までは何の力もない一般人だった男である。
特殊な職に就いていたわけでもなく、特殊な技能も持ち合わせていない。
つまり、今のダンテには水面下で何かが蠢動していたとしてもそれを察知する術を持ち合わせていない。
情報を分析する明晰な頭脳や、経験を持っているわけでもない。
そもそも、情報を得るルートなど確立していない。
勘に頼るしかないのが現状であるが、それでは判断を誤ることもあるだろうし、遅れもするだろう。
それではよくないとわかっているだけに、ダンテは現状にイラついていた。
*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*
「姉さん、それは本当かしら?」
「本当よ」
現在アルベドは第5階層は氷結牢獄へ姉のニグレドに会いに来ていた。
ニグレドから齎されたのはダンテに帝国から遺跡調査の依頼があったということだった。それはもちろん進行中の計画であるナザリックの防衛に関する実験となる。
ニグレドはナザリックにおいて他の追随を許さない情報戦特化のビルドであるため、ダンテがその依頼を断っていることも掴んでいた。
であれば、多忙を極める守護者統括を呼び出すまでもなくメッセージなり書類なりで簡単に報告を済ませればいいはずである。しかし、それはアルベドが許さなかった。
ダンテに関することは事細かに報告を、それも外部からの盗聴を含む干渉が不可能なつくりとなっているこの部屋で受けることにしているのだった。
故にニグレドはこの必要かどうかもわからないような報告の為に妹を何度も部屋に呼びつけている。
時にはダンテが現地の女と性交に及んでいるという報告すらあった。
つまりダンテがこの世界に来て何人の女を毒牙にかけたかは把握されていた。
ダンテのシモの報告のために呼び出されたアルベドが荒れたのはある意味自業自得だろう。
むしろ被害者は覗き見されていた現地の女性と、別に見たくもない情事を仕事の為に監視させられるニグレドだった。
ともあれ、情報対策がガバガバのダンテは表向きのあらゆる情報をナザリックに握られているのだった。
しかし、あまりに情報量が多いため、現在はある程度報告不要となっている。
日常的なもの以外の報告をするようにと、ニグレドの裁量に任されている。
日頃から情報を扱うニグレドは流石というか、アルベドの指定を遵守したうえで過不足のない報告を行っている。
その内容は随時デミウルゴスとも共有しており、帝国の情報収集に役立てている。
とはいえ、流石に不要な情報も多いためアインズには報告していない内容もあったりする。
ダンテの性交の報告を受けたデミウルゴスは、やたら感心しながら「流石ダンテ様」と呟いていたのが印象的だった。
「何度も言うけれど、ダンテ様は断っていらっしゃるわ。ねぇアルベド?あなた何をそんなに神経質になっているの?」
「……いえ、これはある意味いい機会かもしれないわ」
「?」
「ありがとう姉さん、とても有意義な情報だったわ」
アルベドはそう言いながら踵を返した。
◆
「それで、ダンテを帝国の調査に参加させろと?」
「はい」
「それは、デミウルゴスも賛成か?」
「はい。先のダンテ様からの情報により、レベル100に近しい実力を持つ強者の存在も確認されました。一般の冒険者と同様にそういった強者対策の実験を行っておくのもよいかと愚考いたします。ダンテ様はお一人とはいえ屈指の強者。心苦しくは存じますが、ご協力願えればナザリックの防備はより強固なものへと改善可能でございます」
アインズに問われたデミウルゴスは、優雅に礼をしながら己の考えを述べる。
その内容は正鵠を射ていた。
逆に強者への警戒を促しながらナザリックの防衛を考えていないのは片手落ちだろう。
勿論検討そのものは行ってはいたが、試すことを考えていなかった。
どこかでこの世界を下に見ていたのは確かだった。
間違いなくやっておくべきである。が、問題点もある。
「ダンテ相手に戦えるのか?」
「問題ありません」
「……アルベドはそうかもしれないが、他の者は?」
アインズの問いに即答したアルベドに内心で苦笑いを浮かべた。
懸念としては仲間内では本気度が足りないのではないかという点。
加えてアインズは仮とはいえダンテを敵に回すことを避けたかった。
後者は完全に自分の感情の問題なので置いておくが、前者についてどうするつもりなのか問いかけた。
ユグドラシルのころによく行っていたPVPとはワケが違う。
NPCおよびプレイヤーの蘇生の実験を行っていない以上、万が一にも命を落すわけにはいかないのだ。
「確かに、お互いに本気になることは不可能でしょう。それでも訓練を行うのと行わないのでは雲泥の差となります。お互いに戦闘に関してはルールを設ければよろしいかと存じます」
避難訓練みたいなものかと、とりあえず納得した。
安全に行えるというのであれば、感情的なものを除けばデメリットは限りなく0に近いだろう。
「では、当日までにルールの策定を行え。ダンテには私から話を通しておく」
「「はっ」」
「あくまで、安全第一だ。訓練で命を落としたでは話にならん」
アインズは退室する二人を尻目に、どうやってダンテに参加してもらうか頭を悩ませる。
ダンテのことだ、安全面についてとやかく言うことはないだろう。
安全第一のルールありの戦闘にこそ難色を示す可能性の方がはるかに高い。
とはいえ、ダンテが本当にナザリックを大事にしてくれているのはわかっている。
これからのナザリックの為と言えば協力してくれるだろう。
*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*
数日後、ダンテは丘の上からモモン、ナーベと共に幻術の解かれたナザリックを眺めていた。
ダンテはモモンの要請によってアダマンタイト級冒険者としてワーカーの護衛任務についていた。
今回謎の遺跡の調査という名目でナザリックに進入するワーカーチームというのが『ヘビーマッシャー』、『天武』、『竜狩り』という3組のチームである。
ヘッケラン達『フォーサイト』も依頼を受けていたらしいが、断っているためこの場にはいない。
道中、モモンが竜狩りのリーダーであるパルパトラ・オグリオンに請われ手合わせを行ったり。ダンテが天武のエルヤー・ウズルスに絡まれたりと多少の騒ぎはあったものの、襲撃などはなく平和にナザリック近郊まで到達していた。
帝都に懸念のあるダンテはこの避難訓練ならぬ侵入者対策訓練に乗り気ではなかった。
必要性そのものは理解できる。
防衛コスト的に、この世界における多少強めの侵入者用の対策とユグドラシルプレイヤーを想定した侵入者用の対策を分ける必要性もある。
常に最高の対策を施しておくのは一番安全ではあるが、現実的ではないからである。
それでも、「今じゃなくてもいいだろう」というのがダンテの気持ちだった。
とはいえ、ここまで来た以上は手早く終わらせて帰るのが一番の方策である。
一つため息をつくとダンテは空を仰いだ。
夜になると、ワーカーたちはナザリックに侵入を開始した。
それとほぼ同時刻、モモンはアインズとしてナザリックに戻っていった。
しばらくナーベラルと話をしていると、アインズから訓練開始の合図があった。
ワーカーたちは全滅したのだろう。
「では、ルールをご説明させていただきます」
「……あぁ、あったなそんなの」
心底嫌そうに呟くダンテにナーベラルは「申し訳ありません」と頭を下げた。
ダンテもさすがに全く悪くないナーベラルに謝らせるつもりなど無かった為、ルールの説明を求めた。
「はい、まずはダンテ様の勝利条件ですが、玉座の間にあるスタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウンのレプリカを奪取した時点で勝利です。逆に敗北条件はダンテ様の撃破、および捕縛となります」
ユグドラシルのギルド防衛戦と条件は同じということかとダンテは頷いた。
「使用できるアイテムについては、ワールドアイテム以外は全て使用可能となっております」
戦闘についてリポップするモンスターやアンデッドに関しては撃破してもOK。それ以外に関してはHPが最大値の3割を切った段階で撃破扱いとし、それ以降の戦闘を行えないものとする。
罠について、攻勢の罠は全てサウンドトラップに置き換わっている。音が出た段階で一定のダメージを受けたものとする。
等々、ぶっちゃけ一度で覚えきれる量ではないルールが説明された。
「あー、ナーベラル?」
「いかがされましたか?」
「悪いが、覚えきれない」
「はい、何かあれば都度、アインズ様が
ダンテがルールを覚えきれない、または覚える気がないことをアインズは見抜いていた。
そもそも、魔法を使わねば見ることも出来ない相手のHPの残量などはダンテにはわからないので指示することが必要である。
そのため、主に撃破判定や罠については最初にルールの説明を行うが状況に応じて指示を出すということだった。
ダンテはとりあえず奥を目指せばいいとだけ理解して、ナーベラルに背を向けた。
「それじゃ、行くか」
ナザリック攻略RTAはっじまるよ~
たくさんのお気に入り、感想、評価。本当にありがとうございます。
また、誤字脱字の報告もありがとうございます。
また次回もお付き合いいただければ幸いです。