オーバーロード~慎重な骨と向う見ずな悪魔~   作:牧草

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4連休?知らない子ですね。


mission 30

振り下ろされた巨大な爪を飛び退いて避けると、挨拶代わりにエボニーを引き抜き一発見舞う。

 

──キンッ!!

 

硬質な音とともに銃弾が弾かれる。

銃が効かないなら剣だと、ダンテはリベリオンを構え、飛び退いた距離を一瞬で詰めながらの突きを放つ。

力を剣先に集中させて突く単純な攻撃ながら、ダンテにとって十八番であり絶対の自信を持つ(スティンガー)

 

 

「あ?」

 

 

しかし、その剣戟も敢え無く弾かれる。

間の抜けたような声を上げ、剣を弾かれたダンテの体勢は大きな隙である。

その隙を見逃さなかった悪魔の爪による攻撃をもろに受け柱をへし折りながら壁に激突した。

 

 

「ハハハハハハ!!!大きな口をたたいた割に大したことのない虫ケラめ!!」

 

 

マグマを内包した外郭が蜘蛛の姿を象り、巨大な蠍の尾をもつ悪魔ファントム。

今までダンテが相手してきた本当の雑魚悪魔と違い、ファントムは上位の大悪魔である。

 

その威圧感は今までダンテが排除し続けていた、雑魚悪魔とは比べ物にならなかった。

ダンテ否、ユーゴがこの世界に限らず、ユグドラシルをプレイする前、つまりリアルを含めても今まで感じたことのない圧力。

 

一般人が耐えられるはずもない圧力。それにも拘らず瓦礫の中からコートに付着した砂ぼこりを叩きながら出てきたダンテは平然とファントムを見ていた。

この世界に来てから覚えている限りでは初めてまともに食らったダメージ。

それなり(・・・・)に痛む身体。それでも支障なく動けそうだった。

ダンテに目の前の強大な悪魔に対する恐れはない。

痛みに対する恐れもない。

人間が痛みを恐れないことなどありえない。

それは人間として出来損ないか、人間とは違うモノであるに違いない。

元々は人間であったユーゴが知らない何かに変異していくことに対する恐れもなかった。

 

 

(あぁ、やっぱり俺も人間辞めてるんだなぁ……)

 

 

考えていることの悲壮感とは裏腹に口角が上がっていくのをダンテは感じていた。

気分が高揚していく、リベリオンを握るその手に力が籠る。

その笑みを湛えたままファントムに向かって疾走し、その勢いをそのままぶつけるべくリベリオンを振りかぶった。

 

 

「しぶとい虫ケラめ!!」

 

 

ファントムからしても、想定以上にダメージのないダンテに対し苛立ちを感じていた。

数万年生きてきた中で死にかけたことは何度でもあるが、ここ数千年は敵と対峙することすらなかったのだ。

それほどの力を蓄えてきたファントムにとってダンテのなんと腹立たしいことか……

言葉通り虫ケラを叩き潰すべく再び己の爪をダンテに向かって振り下ろした。

 

眼前に迫る爪に対してダンテはリベリオンを叩きつける。

いくらかは相殺するが、ダンテは力負けして壁際まで押し戻された。

 

再び距離を詰めようとするダンテの眼前に突如火柱が上がった。

急制動をかけ方向転換したダンテの足元からさらに火柱が上がる。

駆け抜け、飛び退きながら幾筋も上がる火柱を避ける。

しかし、ゲームとは違ってファントムの攻撃はそれだけではなかった。

頭を地面にねじ込みながら火柱を上げ続けるファントムはその長く伸びる蠍の尾で持ってダンテを突き刺そうと執拗に振り回していた。

ダンテも尾の攻撃を横跳びに避けながら銃で反撃するが、硬質な音を立て弾かれる。どうしてもダメージが与えられないでいた。

ファントムの発生させる火柱は天井までも届き、建物そのものをも損壊させていく。

ガラガラと天井が崩れ落ちる。

 

 

「ぐああああああ!!!」

 

 

信者の一人がそれに巻き込まれ、押し潰される。

その断末魔の声が響き渡ったところでファントムが現れてから恐怖のあまりフリーズしていた者達が再び動き出した。

叫びながら我先にと逃げ惑う。

その光景には思いやりという言葉は存在しない。

女だろうが老人だろうが関係なく逃走の邪魔になるのであれば引き倒し、踏みつけ同時に幾人も通ることができるはずもない出入口に殺到する。

瓦礫に押しつぶされた信者の断末魔の声とは比較にもならない程の絶叫がそこかしこで上がる。

 

 

アルシェやイミーナも我に返ったようで、祭壇で気絶している双子を抱きかかえてこちらを見ていた。

 

 

「っと……ぐっ!?」

 

 

落下する天井から飛び退いた先を狙いすましたかのように尾の先端が目の前にあった。

辛うじてリベリオンで受けきる。しかし顔を上げれば、口元に光り輝く巨大な火球を生成しているファントムと目が合った。

まずいと思ったときには火球は発射されていた。

 

 

「──ダンテェ!!!」

 

 

アルシェが叫ぶ。

火柱──アルシェは吹き上がる炎(ブロウアップフレイム)だと思っている──とは比べ物にならない熱量の火球は流石のダンテも危ないと感じたが故の叫びだった。

 

火球は途轍もない速度でダンテを飲み込みそのまま壁に当たり大爆発を起こした。

モクモク上がる粉塵の中、パタパタと手を振り粉塵を払おうとする影が出てくる。

 

 

「ゲホッ!ゴホッ!いいからここから出てろ!!」

 

 

粉塵の中から咳込みながらも出てきたダンテも流石に無傷とはいかず、頭から血を流していた。

いつになく余裕のなさそうなダンテの姿に二人は身震いした。

そんなダンテからの言葉に二人は双子を担いで足早に立ち去った。

 

 

「弾き返せるんじゃなかったのかよ……」

 

 

ダンテがぼやく。

タイミング的に避けることが不可能であると判断したダンテはその火球を弾き返すつもりでリベリオンを振り上げたのだが、火球を弾くことはおろか、押しとどめることも反らすこともできずに飲み込まれてしまった。

ダンテはゲームのようにいかなかったことに納得のいっていない様子だが、ありていに言えば力が足りなかったのである。

 

立て続けに火球を発射するファントムに舌打ちしながらもダンテは「絶対に弾き返す」とムキになっていた。

 

 

「おおおおおおお!!!!」

 

 

ダンテにしては珍しく雄たけびを上げながら全霊の力を込めてリベリオンを火球に叩きつける。

すると、先程とは違って火球と拮抗する感触を得た。

しかし、それでも足りないのか徐々に押し込まれていく。

 

 

「っ!!」

 

 

咄嗟に一瞬だけクイックシルバーを発動し、火球を跳び越す。

クイックシルバーが使えてよかったとホッとする一方で、ファントムの火球を軽く弾き返す本物(ゲーム)のダンテの化け物具合を思い知った。

 

しかし、偽物の自分に力が足りなかろうが、ゲームなどより柔軟に動く身体があり、本物のダンテがマレット島でファントムと対峙した時には質屋に入っていただろう魔具も手元にある。

時系列的に、マレット島の戦い後に手に入れたはずのモノまでも手中にあるのだ。

多少力が足りないくらいで負ける道理はない。

柔軟性、戦略性はこちらの方が圧倒的に上だ。

 

ダンテはリベリオンを背負うとベオウルフを身に纏った。

 

 

「死ねえええええ!!」

 

 

三度ファントム火球を吐き出す。

ダンテは火球が発射されるのがわかっていたのか、腰を捻りながら脇に拳を構えてタメを作っている。

火球がダンテを飲み込む直前、その拳が唸りを上げる。

猛烈な勢いで拳を叩きつけられた火球は真っすぐファントムに向かって跳ね返り、その顔で大爆発を起こした。

 

 

「がぁぁ!!虫ケラが!!」

 

 

ファントムも自らの炎に顔面を焼かれながらもダンテに向け尾を突き出す。

強烈なアッパーカットで飛び上がったダンテはそのまま空中で両手を組み、ダブルスレッジハンマーでファントムの尾を叩き落とし、間髪入れずにファントムに向け急降下しながら蹴りを放つ。

再び軽く飛び上がるとケルベロスを振り回す。

ファントムは高速回転するダンテに合わせて振り下ろされるケルベロスに連打され地面に叩きつけられた。

しかし、ファントムが地面にキスしているのも一瞬のことで、次の瞬間には地面から生えてきた氷の塊に押し上げられ、上体を起こす。

 

 

「ぐぅぅぅ……」

 

 

怯むファントムの目の前にはトランクケースを担ぎ、口の端を歪め笑うダンテが立っていた。

トランクケースが開くとケースの大きさに見合わないギミックが飛び出し、目まぐるしくその形を変えていく。

ダンテがそのまま地面に叩きつけると巨大な砲のように形を変えたケースから閃光が迸る。

ファントムはダメージを受けながらも眼前にいるはずのダンテに向けて爪を振り下ろす。

しかし、既にそこにダンテはいない。

 

ファントムが周囲を見渡そうとした瞬間眼前がさらに爆発を起こす。

 

 

「ハッ!固いのはガワだけだな?」

 

 

ダンテは嘲笑い踊るようにルシフェルから魔力の剣を引き抜き、外骨格の関節に突き刺していく。

 

 

「貴様ぁああああ!!」

 

「こっち見てて大丈夫か?」

 

 

ファントムの咆哮にダンテはピタリと動きを止めると魔力の剣を突き付けて笑う。

 

 

「黙れえええええ!!──ガァッ!!」

 

 

言葉と同時に叩きつけられる衝撃にファントムが揺れる。

ファントムの背後では黒い影が拳をファントムに突き付けている。

 

黒い影の背格好、その構えはベオウルフを装備したダンテと酷似していた。

ダンテの影が分離し、ファントムを攻撃しているのだ。

つまり、今のダンテの足元には影がないのだ。

 

形を持ったドッペルゲンガー(ダンテの影)がファントムを攻撃する。

ファントムがドッペルゲンガーを攻撃しようとすれば、本体のダンテが突き刺した魔力の剣が爆発を起こしファントムの動きを阻害する。

また、本体のダンテに攻撃を仕掛ければ、ドッペルゲンガーから強力な一撃が襲い来る。

 

 

「標本にしてやるよっ!」

 

 

ドッペルゲンガーの強烈な一撃により宙に浮かされたファントムに向けてダンテはそう宣言すると、ドッペルゲンガーがダンテと重なるようにして消えていく。

 

直後、ダンテはファントムの目の前まで飛び上がり、リベリオンをフルスイングした。

強かに腹を打たれたファントムは壁際まで吹き飛ぶ。

しかしそこは大悪魔、攻撃直後のダンテに対して火球を飛ばす。

 

 

「フッ」

 

 

鼻で笑うようにダンテの姿が掻き消えファントムの頭上に現れる。

まさに一瞬の出来事だった。

ダンテは再び背に現れたルシフェルから次々と魔力の剣を引き抜き投擲する。

藻掻くように爪を振り回し、幾本かの魔力の剣を叩き落とすが、落とし切れなかったそれらが正確にファントムの関節に突き刺さる。

そのたびに、苦悶の声を上げる。数秒後ファントムはすでに身動きが出来ないほど壁に縫い留められていた。

既に大半の力を失ってしまっているのか、外骨格の中で赤く煌々としていた筋肉は光を失い黒くなりつつあった。

ファントムを磔にし終わったダンテは、着地してファントムの前でウロウロすると一つため息を吐いた。

 

 

「向きを間違えたな……」

 

 

現状、ファントムは腹側が見えているのだ、本来虫の標本は背中側が見えているものである。

と、次の瞬間ファントムに刺さっていた魔力の剣が爆発を起こした。

その爆発はファントムの関節を破壊し、すべての脚が千切れ、ファントムは重力に引かれ地面に落ちた。

 

 

「この……虫ケラがあああああ!!!」

 

 

ファントムは唯一破壊を免れた尾をダンテに向かって突き出した。

 

 

──ダーン!!

 

 

ファントムの尾はダンテ顔を貫く直前でピタリと止まった。

エボニーの弾丸で顔面を打ち抜かれたファントムはその身体をボロボロと崩していく。

 

 

「だから、虫ケラはお前だろう」

 

「…も…しわけ……ま…ん、………様……」

 

 

ボソボソと何かを言いながらファントムは完全に崩れ消え去った。

 

 

「今なんて……? いや、まさかな……」

 

 

ファントムが最後に誰かに謝罪していたのを辛うじて捉えていたダンテは首を振る。

最悪の予想が頭を過る。

しかし、考える時間など与えないとばかりに、頭上から瓦礫が降ってくる。

本格的に建物が倒壊しようとしていた。

 

 

 

倒壊する建物に巻き込まれないうちに脱出したダンテを待っていたのは皇城に詰めるはずの騎士たちだった。

騒ぎを聞きつけてやってきたのだろう、騎士たちのダンテを見る目は険しい。

その先頭にいるのは黒い鎧を着こんだ金髪の優男だった。

ダンテがため息を吐くとほぼ同時にその優男は一歩進み出る。

 

 

「ダンテですね?私はニンブル・アーク・デイル・アノックと申します。帝国四騎士の一人といえばお分かりになるでしょうか?」

 

「知らねぇよ、こっちは疲れてるんだ。依頼ならまた今度にしてくれ」

 

「いいえ、今あなたには建造物損壊の疑いがかけられています」

 

 

ニンブルは「疑いというよりは現行犯ですかね?」と肩を竦めた。

 

 

「冗談じゃねぇ、いったい何の話だ?」

 

「この状況でそう言い切る自信は何なのでしょうね」

 

 

ニンブルは背後を指し示す。

ダンテが釣られて振り返ると、ズズーンと大きな音を立てて建物が完全に倒壊した。

 

 

「俺じゃねぇ……」

 

 

自らで言っていて絶対信じてもらえないんだろうなと半ば諦めながらも訴えかける。

大半はファントムの火柱や火球が建物を破壊していたが、倒壊のきっかけはルシフェルの魔力剣だったのである意味間違っていなかった。

 

 

「大人しく来ていただきましょうか。怪我の手当てくらいはさせていただきますよ」

 

「勘弁してくれよ……」

 

「勘弁していただきたいのはこちらです、ダークエルフとドラゴンに襲撃されてそれどころではないのに……」

 

「………」

 

 

この国はちょうどナザリックからの報復を受けたところなのだった。

どれ程の被害が出たのかダンテには分からないが、アウラとマーレが盛大にやったのだろうとは想像がつく。

若干申し訳ない気分になるが、ダンテにしてみれば完全にとばっちりだった。

 

 

 

 

~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~

 

 

 

 

ダンテがニンブルに皇城に連行されてから3日後、ダンテはナザリックに向かう途上にいた。

 

 

馬車内でダンテは暇を持て余し、リベリオンの剣先を床につけくるりくるりと回す。

その度にキーン、キーンと澄んだ金属音を響かせる。

なかなか趣のある音色だった。

とはいえ、ダンテと同じ馬車に同乗している者たちにそんな余裕はなかった。

 

尻に響く振動などないし、外の冷たい空気を感じることはない。

皇帝同一の馬車とはいかないが、そこいらの馬車とは比べものにならない程の高級馬車である。

平民など一生乗ることはできないだろう。

帝都からナザリックまで馬にまたがり走る兵士などに比べれば格段に楽なはずだが、全員が冷や汗をかいていた。

 

ダンテの機嫌がすこぶる悪いのだ。

椅子に足を組んで座り、自分の膝に肘を掛け頬杖を付く。

ぱっと見でも態度が悪いが、ダンテの醸し出す空気が拍車をかけていた。

擬音が付くのであればゴゴゴゴゴゴゴゴ……というところだろうか。

 

原因はつい先日、皇城に連行されたときに課せられた借金問題にある。

ファントム撃破の犠牲となった建物の損害を賠償させられることになったのだ。

ファントムの存在を訴え、無実を主張するも、ファントムの存在した証拠もなく。

逃げ出した信者たちが名乗り出るわけもなく、数少ない証言者もイミーナとアルシェだけで、ダンテの身内の証言をそのまま信用するわけにいかないと棄却された。

それどころか、崩れ落ちる天井に押しつぶされ、唯一の被害者となった信者の死もダンテに原因があるとして殺害の容疑者扱いである。

 

ダンテは気付いていないが、損賠賠償額はこの一件だけではなく、ダンテが関わったと判断されたこれまでの街の被害額も上乗せされていた。

王国の貴族たちがダンテに課そうとしていた王都動乱時の補償額に比べれば少ない額ではあるが、ぶっちゃけ誤差の範疇だろう。

一般人には一生かかっても払いきれない額という点では同じだった。

 

ダンテからすれば報酬の一切ない完全な慈善事業だったのだから余計に腹立たしい。

出現した悪魔を放っておけば、建物どころか帝都に暮らす住民たちにも多大な被害出ることは間違いない。

それを最小限(だとダンテは思っている)に抑えたのだから、感謝されることはあっても非難を受ける謂れはないと考えている。

 

しかし、頭の固い者にそんな理屈が通るわけもなく、秘書官ロウネ=ヴァリミネンによって借金を負わされることとなった。

殺人容疑については追って調査することとなるらしい。

そんな容疑者(ダンテ)がナザリックへ連れられているのは皇帝ジルクニフの鶴の一声があったからだった。

「ナザリック行きへ同行し、帝国の為に働けば減刑してやる」とのことだった。

断る理由はないだろうという皇帝の態度にダンテの意志は関係なく3日間の拘留の後、現在に至る。

 

 

 

 

 

 

 

 

「帝国の調査がそんなに杜撰なはずもないんだがな、ダンテも所詮力だけの冒険者だな」

 

 

ナザリックの道中、嘲る様に鼻で笑うジルクニフ。

ナザリックへの謝罪の準備と並行し、ダンテの事件について調査を行っていたのだ。

結論からすれば、ダンテは無罪。

邪神を崇拝する教団の存在自体以前から把握していたし、その構成員についてもある程度は掴んでいた。

多くの貴族が名を連ねていることと生贄と称して殺人を犯していたことには頭が痛くなった。

構成員を捕縛し聴取を行えば、ダンテの身内の証言と一致していた。

建物を破壊したのはその悪魔だし、それに運悪く巻き込まれた信者の死は誰に聞いてもダンテの所為だとは言わないだろう。

破壊された瓦礫を調べれば高熱で焼かれた跡があり、魔法の使えない人間に出せる温度ではないことも判明している。

そんな悪魔を単騎撃破したダンテはむしろ英雄だろう。

 

 

「ロウネには貧乏くじを引かせることになってしまったな?」

 

「いいえ、陛下お気になさらず……」

 

 

ジルクニフの言葉に一礼するロウネ。

ロウネがダンテに罪を被せ、ジルクニフが減刑を餌にダンテを使う。

咄嗟だったとはいえ、絶妙な連携だった。

これにより、ダンテは犯罪者扱いとなる。

そしてダンテに救いの手を差し伸べたジルクニフに感謝するだろうと二人は考えていた。

恩で人心を縛り付ける。

なかなか難しいことだが、それをダンテに対して施せたことは大きい。

そして、英雄としてもて囃されることはなくなることも帝国にとっては利点となる。

ジルクニフは自身に忠誠のない英雄を求めてはいなかった。

今はフールーダがいるため、その必要性を感じてはいないのだ。

今後を見据えダンテが忠誠を誓うのであれば、フールーダの引退後には英雄として扱ってもいいかもしれないと考えている。

 

 

ダンテを少しでも知っている人間が聞いたらありえないと否定するほどの皮算用だった。

まず、ダンテが英雄扱いを喜ぶはずもなく、犯罪者扱いなど気にもしないだろう。

故に、ジルクニフへの感謝などありえないし、忠誠心など芽生えるはずもないのだ。

 

もっとも、ジルクニフは頭の片隅でそんな可能性について思いを馳せるが、ダンテを重用しようなどとは欠片も考えていなかった。

一番可能性が高いのはダンテをアインズ・ウール・ゴウンにぶつけるということだろう。

 

 

数時間後、一行はナザリックに到着した。

馬車から降りたジルクニフは目の前の美女二人に目を奪われた。

 

 

「お待ちしておりました。ジルクニフ・ルーン・ファーロード・エル=ニクス皇帝陛下。私は皆さまを歓迎するよう任されました。ユリ=アルファと申します。失礼いたしました。そして後ろの者は私の補佐としてつけられた、ルプスレギナ=ベータと申します。短い間となりますがよろしくお願いいたします」

 

 

ジルクニフは平伏した状態で挨拶を述べるユリやその隣のルプスレギナの美貌を称え、女性受けする甘いマスクと声色で語りかけた。

その間もジルクニフは高速で頭を回転させている。

 

アインズに与えるつもりで連れてきた帝国でも指折りの美人である貴族の娘たちも、目の前の美女に比べれば見劣りしてしまうのだ。

時間がなかったばかりに連れてくることのできなかったエルフの娘を無理にでも連れてくるべきだったかという考えがよぎる。

ともあれ、無い物ねだりをしていても仕方がない。

そう気を取り直したところで立て続けに驚愕の事象が押し寄せてきた。

天気を操る、魔法省の奥に封印されているという伝説のアンデッド(デスナイト)が複数体出てくる。

しかも、そのアンデッドはアインズが支配どころか作ったという。

危害を加えることなどありえないというユリの言葉があっても配下の人間はフールーダを除いてそのアンデッドの恐怖に慄いていた。

 

 

「ところでダンテはどうした?」

 

 

デスナイトが用意した席で飲み物を堪能したジルクニフが帰りたい衝動に駆られる中、思い出したようにレイナースに声を掛けた。

 

 

「馬車の中で眠っておりますわ」

 

「起こしてきやしょうか?」

 

 

レイナースの言葉を引き継ぐようにバジウッドが苦笑いを浮かべつつ問いかけた。

 

 

「良い放っておけ、なんとなくで連れてきたが嫌な予感しかしない」

 

「嫌な予感ですかい?」

 

「うむ……場を掻き乱しそうな気がしてな、そんなことをされればおちおち話もできん」

 

「なるほど、一緒の馬車に乗っていた者の報告ではずっと不機嫌だったようなんで俺も放っておくのがいいと思いますぜ」

 

「それで、不貞寝か?まるで子供だな」

 

 

ダンテの言われように若干ムッとするレイナースだがちょうどその時、「お待たせいたしました」と、ユリが声を上げた。

いよいよかと一行は気を引き締め直したのだった。

 




キャラクターの強さって悩みますね。
現状は「魔界の大悪魔」>「プレイヤー」>「NPC」>「現地人(強者)」>「魔界の雑魚悪魔」>「現地人」くらいで考えていますが、バランスは相当難しい…… 


たくさんのお気に入り、感想、評価。本当にありがとうございます。
また、誤字脱字の報告もありがとうございます。


また次回もお付き合いいただければ幸いです。
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