オーバーロード~慎重な骨と向う見ずな悪魔~   作:牧草

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忘れられている可能性をひしひしと感じながら…

壁|`)っ[最新話]スッ

壁|彡サッ


mission 32

「ダンテ様、本当に介入されるのですか?」

 

「やめておいた方がいいと思うんだけど……」

 

 

王国、帝国の両軍が見渡せる小高い丘の上にダンテたちはいた。

レイナースの疑問に同調するようにクレマンティーヌは介入しない方がいいと告げる。

もっとも、クレマンティーヌはダンテの冒険者の立場を考えての発言であり、レイナースとは心配の方向性がまるで違っていたが、どちらもダンテの心配をしていることに変わりはない

 

 

「アインズが来ないならそのまま帰るけどな」

 

「私としてはかの魔導王が現れた時点で逃げ出したいのですが……」

 

「あたしはその魔導王をよく知らないけど、強いの?」

 

 

ダンテの答えに口元を引きつらせるレイナースとワクワクしたような顔を向けるクレマンティーヌ。

二人の反応は対象的だった。知る者と知らぬ者ではこうも違うものだろうかというほどである。

 

そういう意味では、最初から慎重に事を運んでいる皇帝ジルクニフは正しい。

ジルクニフの慎重さのあらわれであるこの戦争は、例年の小競り合いに加えアインズの魔法を開戦の合図とすることで、アインズおよびナザリックの脅威を各国の有力者たちに知らしめることを目的としている。

つまりはアインズを知らぬ者達を知る者達側へ強制的に引きずり込む腹積もりである。

ミスがあるとすれば、それはアインズないしナザリックの戦力の計り間違いだろう。

 

 

「……なんでついてきた?」

 

 

ダンテは付いてきた二人に肩をすくめながら目を向けた。

一人で来る予定だったダンテは二人について来てほしいとは思っていなかった。

もし、アインズと戦うことになった時、自分一人ならばどうとでもなるが、二人を守りながら戦う自信はない。

そもそもダンテは誰かを守りながら戦うことに慣れていない。

ありていに言えば邪魔だった。

 

そもそもダンテは攻撃偏重のスキル構成であり、攻撃こそ最大の防御を地で行く。ダンテはユグドラシルにおいても基本はソロであったため、自分の安全のみに気を配っていた。否、自分の身に危険が及ぶ前に敵を倒すことに専念していた。

そして数少ないパーティプレイでは基本的に特攻型の遊撃手として切り込むことが殆どだった。

手数の多さからヘイトを稼ぎながら敵の攻撃を避ける回避タンクとして機能するのみで、範囲攻撃などから味方を守る術は持ち合わせていないのだ。

 

 

「心配でしたから……」

 

「楽しそうだったから」

 

 

ダンテは正反対の理由を述べる二人にため息をついて、もうどうにでもなれと首を振って考えることを諦めた。最悪ケルベロスにでも咥えさせて帰らせようと思った。

 

ふと帝国の陣地の空気が変わったように感じたダンテは目線を上げる。

 

 

「………」

 

 

ダンテが帝国側の陣営を見ると、アインズ・ウール・ゴウンのギルドの紋章を旗として掲げた馬車があった。

その中から現れたのは豪奢なローブに身を包み、赤い仮面をつけた人物。

それに加え先日皇城で地割れを起こし、帝国四騎士の一人であるナザミを亡き者にしたダークエルフの片割れだった。

レイナースとクレマンティーヌは見えていないようだが、ダンテにはその様子がはっきりと見えていた。

しかし、レイナースは直感的に魔導王がいると感じたのかその身を震わせた。

一方でクレマンティーヌはふと真顔になるダンテと震えだすレイナースに首を傾げていた。

クレマンティーヌはその様子から魔導王が現れたのだと考えたが、一方で違和感も覚えていた。

レイナースが震えるほどの強者であれば、なにかしら感じ入るものがあるはずにも拘らず、それがない。

その一事で考えれば己の感覚は強者ではないと訴えているが、レイナースは恐怖している。

アインズが強者としての気配を完全に隠しているからクレマンティーヌには何も感じられないのだがクレマンティーヌにそれを知るすべはない。

 

 

(マーレか……ん?)

 

 

アインズが連れてきたのがマーレであると認識したダンテはマーレが装備するには不釣り合いに見える白と黒の対比的な籠手に目を奪われた。

「強欲と無欲」それはギルド、アインズ・ウール・ゴウンが所有するワールドアイテムの一つであり、その効果は所有者が取得する経験値を強欲が吸収、蓄積し、無欲が蓄積した経験値を必要に応じて使用することができる。

その経験値の使用用途はレベル上げに始まり、経験値消費型のスキルの発動にと多岐に渡る。

ユグドラシルにおいては非常に使い勝手のいいアイテムだった。

 

 

(マーレに大量虐殺でもさせて経験値を貯めるのか?)

 

 

ダンテの予想は完全にハズレで、アインズは今回の最初の一撃によってユグドラシルプレイヤーを釣り出すという目的があるのだ。

実際にユグドラシルプレイヤーが釣れれば、強欲と無欲の蓄積経験値を放出する必要のあるスキルを使用してでも撤退する予定だった。

 

 

「レイナース」

 

「はい」

 

「いつ始まる?」

 

「正確にはわかりませんわ。おそらく明日か明後日」

 

「なげぇな……」

 

「戦争なんてそんなものですわ」

 

 

すでにお互い面と向かっているのだ、始めてしまえばいいのにとダンテはうんざりした。

 

 

 

 

 

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王国戦士長ガゼフ・ストロノーフは王のいる天幕の前で帝国の布陣を睨みつけていた。

 

 

(本当に来てしまったのかゴウン殿)

 

 

斥候の報告によってアインズの参陣を知ったガゼフは顔をしかめた。

アインズが義に厚いと思い込んでいるガゼフは参陣には何か理由があるのだろうと思ってはいるが、現実として相対することは避けられないと観念していた。

できれば戦いたくなどない。

それは戦えば自分が死ぬからという理由ではなく、間違いなく王国に大きな被害が出るからである。

むしろ自分の命一つでアインズを留められるのなら喜んでこの命を差し出そうとさえ思っている。

一方で、アインズと同じくカルネ村を救ったダンテが参陣していないことに安堵していた。

 

 

(当時のゴウン殿の話しぶりからすればダンテ殿も相当の御仁、しかも王都で空飛ぶ巨大生物を討伐しアダマンタイト級冒険者となった彼が帝国側に見受けられないのがせめてもの救いか……)

 

 

または、冒険者として戦争には加担しないだけだろうか。

考えても仕方ないことを考え込んでいるガゼフの正面からブレインがやって来た。

 

 

「どうしたガゼフ、難しい顔をして?」

 

「ブレインか。いやなに、あちらにゴウン殿と一緒にダンテ殿がいなくてよかったと胸を撫で下ろしていたところだ」

 

「はぁ?ダンテ?なんでダンテが魔導王と一緒にいるんだよ?」

 

「む?それは、俺がカルネ村でゴウン殿に助けられた時、ダンテ殿が一緒にいたからだが……」

 

「マジかよ、ダンテはやっぱりあっち側か!?」

 

 

何かを思い出したようにブレインは顔を歪めた。

 

 

「というか、ブレインはダンテ殿のことを知っているのか?」

 

 

絶望に顔を歪ませるブレインを不思議に思いながらも、ガゼフが疑問を投げかける。

ブレインにとってダンテは強者を気取っていた頃の自分を破壊し尽くした元凶のようなものだ。

武技に関しての調査で見知らぬ場所へ連れて行かれたもののそこから連れ出したのもダンテだったのだ。

ブレインが魔導王とダンテに繋がりを見出していたのは、連れ出されるときにダンテと話していてた犬顔の女(ペストーニャ)が口にしたアインズ様という名前からだったのだ。

ブレインはその時初めて、自分が連れてこられた場所がアインズ・ウール・ゴウンの居城であると知った。

ダンテもアインズの関係者ではあるだろうと当時は考えていたが、ダンテの性格を知ったブレインはダンテが従うはずもないと考え、ダンテが何かしらの依頼を受けていただけなのだと思い込んでいた。

ナザリックのことを口外してはいけない約束ではあったが、そのナザリック自体が表舞台に姿を現した以上、意味のない約束である。

そう考えたブレインは以前ガゼフの家で語らなかったこれまでのことをガゼフに話した。

 

 

「ってことがあって、俺はあのアインズ・ウール・ゴウンの城?にしばらくいたことがある」

 

「それは本当か!?」

 

 

ガゼフが掴みかかるように詰め寄るが、ブレインはひらりと躱す。

 

 

「そんなに詰め寄られても何も情報はないぞ?もちろん隠してるわけではないからな?」

 

「そうか、少しでも情報があればと思ったのだが……」

 

「そういう意味なら、あそこの連中は武技が使えない可能性がある」

 

「何?武技が?」

 

「俺があそこにいた理由が武技の研究のようだったからな……」

 

「なるほど、武技が使えないからこその研究か、それはなかなかいい情報だ」

 

「……そうでもないさ」

 

「ブレイン?」

 

 

ボソリと呟いたブレインに訝しげな表情をガゼフは向けた。

 

 

「一つ言えることは、あの場所では俺はほんの小さな虫ケラ以下の存在だったってことだけだ。武技が使えようが使えなかろうが関係なくな……」

 

「………」

 

 

二人の周囲に沈黙が降りる。

そのきっかけを与えたのはブレインがだがそれを破ったのも同じくブレインだった。

 

 

「ガゼフ、俺たちは弱い。帝国の兵士相手ならともかくあの化け物どもと絶対にことを構えるな」

 

「そうだな、だが俺は王国兵士長。王を守るためならば引くことはできない」

 

 

ブレインの本気の警告だった。

しかし、ガゼフの返答を聞いたブレインは苦虫を噛み潰した。

「お前はこんな王国のために死んでいい男ではない」そう叫びたかった。

 

 

「そんな顔をするな。死ぬと決まったわけではない」

 

 

ガゼフは自身の予感とは正反対をブレインに告げた。

敵対すれば確実に死ぬ。これまでのどんな死地よりも明確な死の気配をガゼフは感じていた。

 

 

「それより、約束を忘れるなよ?この戦争が終わったら飲むぞ!」

 

「……あぁ、俺たちとクライム君とでな」

 

「そうだ、まだ死ねないさ。それに動きがあるのは明日以降だろう。今日のところはゆっくり休んでおこう」

 

 

ガゼフはそう言って笑うと、手を振りながら去っていった。

 

 

それから2日後、ガゼフはアンデッドの大軍と空に浮かぶ巨大な幾何学模様を目にした。

 

 

 

 

 

 

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突然帝国の陣営で動きがあった。

兵士たちが左右に分かれるとその間を死の騎士(デス・ナイト)を含むアンデッドが行進していた。

ここまでずっと軽口を叩いていたクレマンティーヌもこの光景には口を開けて呆けていた。

 

 

「な、なにあのアンデッド……」

 

死の騎士(デス・ナイト)。帝国の魔法省の地下にあれと同じアンデッドが1体厳重に封印されていますわ、それが騎乗しているモンスターが何なのかはわかりませんが……」

 

 

クレマンティーヌの呟きにレイナースがナザリックに赴いた際に知った情報を含めて答えた。

事ここに至りクレマンティーヌはアインズのヤバさに気が付いた。

相手は人間ではないのだ、あのアンデッド軍団を率いる者が弱いはずもない。

ただ自分がアインズの力を感知できていなかっただけだと気が付いた。

 

 

「ダンテ様!始まりましたわ!」

 

「え?何アレ………」

 

 

レイナースがダンテを呼ぶ声に交じって、クレマンティーヌの呆けたような声がダンテの耳に届く。

大欠伸をしながらテントの中から這い出てきたダンテは帝国陣営で超位魔法を発動しようとしているアインズを目にした。

 

 

「あいつマジか!?」

 

 

空中に浮かぶ大きな立体の魔法陣はその見た目こそ幻想的で目を引かれるものがある。

しかし、第10位階を超えるその魔法は圧倒的な効果をもたらす。

ユグドラシルにおいては脅威故徹底的に対策され、その見た目の派手さから隠密性はなく対処も容易になっていた。しかし、ここは異世界。

そんな対処法を知っている者はいない。

 

すぐさま伝言(メッセージ)をアインズに飛ばす。

しかし、つながる気配はなかった。

 

見下ろす王国軍側の左翼が動き始めていた。

ダンテは伝言(メッセージ)でアインズを止めることを諦め、スパイラルを構えるが遅かった。

 

一瞬にして幾重もの魔法陣が展開さらにその大きさを増し膨れ上がると、黒き風が動き始めていた王国軍の左翼を吹き抜けた。

 

 

「「…………」」

 

 

クレマンティーヌとレイナースは完全に言葉を失っていた。

吹き抜けた風の跡に動く人や馬の影はなく、完全に静まり返っていた。

 

 

「嘘、あれで死んだの?」

 

「6、7万はいたように思いましたが………」

 

 

目の前の光景を信じられない二人はダンテを振り返って、そのまま息を飲んだ。

いつものヘラヘラとしたような態度ではなく、ほんのさっきまでの焦ったような態度でもない。

そこには無表情に両目を赤く光らせたダンテが立っていた。

 

ダンテの視線の先にはぽっかりと空に穴が開いたような黒い円があった。

じわじわと大きくなる円からドロリと穴と同質のような黒い何か、敢えて例えるなら光を全く反射しないコールタールのようなものが零れ、そのまま地面に落ちていく。

それは黒き風によって息絶えた兵士たちを飲み込みながら広がっていく。

そして兵士たちを覆いつくしたモノから漆黒の木が生えた。

黒く広がった大地から次々と木が生え増えていく。

しかし、それは木ではなかった。

風もなくゆらゆらと揺れる。否、うねうねと言ったほうが正しいだろう。

それは触手だった。

 

 

──メェェェェェェエエエエエエ!!

 

 

可愛らしい仔山羊のような声があちこちからこだまする。

その声に引っ張り上げられるように黒の大地から噴き出すように何かが姿を現した。

触手の生えた真っ黒い蕪のような見た目の粟立つ肉塊に蹄のある足が5本ほど生えている。

 

 

──メェェェェェェエエエエエエ!!

 

 

肉塊に亀裂が入りべろんと捲れ上がると仔山羊の声が亀裂から漏れ出る。

しかもその亀裂は複数個所存在し、そのいずれからも仔山羊の声が聞こえる。

その亀裂には歯が並んでいて、だらだらと粘液を垂らす口だった。

そんな化け物が5体現れていた。

 

 

「ケルベロス!!二人を守れ!!」

 

 

ダンテはそう言い放ちながらヌンチャクを放り投げる。

ヌンチャクの形が3つ首の犬の形に姿を変えるのを確認することもなく、戦場に駆け出して行った。

クレマンティーヌとレイナースは以前の恐怖を思い出したかのように抱き合って震えた。

 

ダンテはカッツェ平野を異様な速度で駆け、漆黒の化け物に弾丸のように飛び掛かった。

ちょうど呂律の回らない言葉を喚いている隊長が指揮する王国軍の部隊が蹂躙されたタイミングだった。

 

 

 

 

 

 

 

突如足を止めた1匹の化け物が何かと交戦するように触手を振り回すが、その触手は一本、また一本と千切れ飛んでいく。

王国軍に限らず帝国軍にも騒めきが広がる。

しかし、他の4体は王国軍を蹂躙せんと進撃を続けている。

 

 

「いくらダンテと言えどもこの数の仔山羊たち相手では手が足りないようだな」

 

「はい!」

 

 

逃げ惑う王国軍の様子を見ながら上機嫌で語り合うアインズとマーレの近くにいたニンブルが引き攣った笑みを浮かべた。

 

 

(この化け物共が……)

 

 

一方でニンブルはこの場の誰もが手を出せない化け物──アインズが仔山羊と呼ぶ漆黒の化け物──と戦える力を持つダンテに一縷の望みを見出していた。

それはニンブルに限らず対岸の火事を見つめる立場にある帝国兵も同じ気持ちだった。

いつこちらに矛先が向くかわからない恐怖と、敵といえども凄惨すぎる光景に痛む良心とが綯交ぜになった複雑な感情だった。

 

 

(予想以上に仔山羊のHPの減りが早い……早めに次の段階に移行するか)

 

 

アインズは召喚した仔山羊たちの様子を監視しながら残り時間を逆算した。

そして、一番近場にいた仔山羊を呼び戻す。

 

帝国陣地に向かう仔山羊の姿に兵士たちから悲鳴が上がる。

帝国兵士たちは「喝采せよ」と声高に笑うアインズに応えるように声を上げた。

しかし、なかなか止まる気配のない仔山羊にとうとう兵士たちは我先にと逃げ出した。

 

 

「お前たち!!」

 

 

咄嗟にニンブルも叫ぶが逃げるわけにはいかない己の立場を恨んだ。

そんな様子を見ていたアインズはニンブルに対し、帝国兵たちの代わりに自分が働くことを伝え、仔山羊に乗り王国兵の陣地の方へ移動し始めた。

そんなアインズを後目にニンブルはカーベイン将軍と共に兵の掌握を急いだ。

あの化け物のせいで兵たちは恐慌を起こしている。

放っておけば一切の戦闘行為を行っていないにもかかわらず怪我人が多数出てしまうことは容易に予想できる。

 

ふと戦場に目を向ければ、遠目に化け物が1体消滅していた。

おそらくダンテがやったのだろう。

帝国で相対したときは厄介極まりない男だという印象しかなかったが、この場においては救世主にすら見える。

何を思って参戦したのかは定かではないが、今これほど頼りになる存在はほかにいないだろう。

 

なんとか兵たちを掌握し終えたころに、ニンブルは違和感を覚えた。

ずっと響き続けていた化け物たちの足音が聞こえないのだ。

恐る恐る顔を上げてみれば、置物のようにピタリと止まっている化け物たちの姿があった。

一拍おいて昼日中にあっても目を焼くような光の柱が天に昇るとまた一体化け物が消滅している。

 

 

その光の柱を相対したアインズとガゼフたちも見ていた。

 

 

「あの光は……」

 

「ダンテだな」

 

「ダンテ殿が………」

 

「あの様子ではあまり時間もなさそうだ、もう一度聞くとしよう。ガゼフ・ストロノーフ。私の部下となれ」

 

「何度問われても同じことだ。お断りさせてもらおう。俺は王国戦士長、王の剣だ。二君に仕えることはない」

 

「愚かな……では──」

 

 

アインズはため息を吐きながら視線をガゼフに向けたところで一瞬止まった。

ガゼフが剣をアインズに突き付けていたのだ。

 

 

「──なんだ?」

 

「ゴウン殿、恩義を受けた身で無礼を謝罪する!汝に一騎打ちを申し込む!」

 

 

動揺する気配がガゼフの背後から広がる。

それはアインズも同じだった。

思わず本気か?と尋ねるほどにはアインズも動揺していた。

 

 

「敵の王が目の前、剣の届く距離に来たのだ。首を取ろうと試みるのはごく当然の流れだろう?」

 

「確かに物理的な距離は近い。だが、圧倒的な開きがあるように見えるぞ?」

 

 

ビュン!とアインズの背後で停止していたはずの黒い仔山羊の触手がガゼフに向かって振るわれるが、それは一瞬のうちに千切れ飛んで行った。

 

 

「意外と近いかもしれないぜ?」

 

「ダンテ……」

 

 

アインズとガゼフの間に降り立ったダンテはいつもの軽薄そうな笑みを浮かべ、しかし、目だけは赤く光らせたままアインズと睨み合った。

あたりを見れば仔山羊の姿は1体もなく、兵士の死体のみが転がっていた。

しかし、あれらを放置していたならば命はなかっただろうはずの兵士たちがそれなりの人数逃げ延びただろうことにガゼフは一つ息をついた。

 

 

「ダンテ殿、助太刀感謝する。だが、今はそこをどいてくれないだろうか」

 

 

ガゼフの感謝の言葉共に放たれた明確な拒絶の意思にダンテは一つため息をついて腕を振るった。

ガキンと金属がぶつかる音が響いたかと思えば、後方で何かが爆発したかのような音と土煙が上がっていた。

ダンテのすぐそばにいたガゼフはリベリオンの腹で叩かれ吹き飛んでいた。

 

 

「ストロノーフ様!!」

 

 

吹き飛んだガゼフに目を白黒させながら、クライムがガゼフに走り寄る。

辛うじてガードが間に合ったのか、ガゼフは驚きの顔を張り付けたままよろよろと立ち上がろうとしていた。

 

 

「だ、ダンテ殿、何を…!?」

 

「………」

 

 

ダンテはため息をつき、振るったリベリオンを肩に担ぎながらブレインを見遣る。

ブレインもダンテの意図に気付いたのか、足早にガゼフの元に向かった。

 

 

「アインズ、殴られる覚悟はいいか?」

 

「……そういえばそうだったな。あぁ、できているとも。もっとも一方的に殴られてやるつもりはないがね?」

 

 

ダンテは以前警告したことを今思い出したかのようにつぶやくアインズを睨みつけ、そのまま弾丸のように飛び出した。





大変長らくお待たせいたしました。(待たれていなくてもお待たせしました!)

前回投稿後からリアルがバタバタしていました。
申し訳ない……


仕事も忙しくなってきてしまっていますが、できる限り早く次話を投稿できるよう頑張ります。
また次回もお付き合いいただければ幸いです。

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