ちょっと短めですがドゾ
「なんだここは……」
「………どこかに飛ばされたか」
ダンテはアインズの呟きに自身の感覚で応えた。
つい先ほどまでカッツェ平野でアインズと喧嘩していたはずなのだが、
フワッとした浮遊感があったと思ったら、この薄暗い場所に立っていた。
感覚としては不意に足元の地面が消えて奈落に落ちたような、
マイルドに言えば、下りのエレベーターに乗ったような浮遊感だ。
あたりをよく見れば古い洞窟のように床や天井には鍾乳石が生成されている。
普通の洞窟とは違うのは、壁が巨大生物の体内にいるかのように蠢いていることや、解読はできないが天井にプロジェクションマッピングで投影したような赤い文字が映し出されていることだろう。
「なんていうか気持ちの悪い空間ですね……」
「……何かで見たことがあるような気がするんだが思い出せねぇ」
いつなにが出てきてもいいよう、アインズとダンテは背中合わせで周囲を警戒する。
少なくとも生き物の気配はないようだが、ダンテの勘は危険が迫っていると警鐘を鳴らしまくっていた。
「来るぞ!」
ダンテが前方にエボニーとアイボリーを抜き構える。
アインズはすぐに最低限いくつかの補助魔法を自らとダンテにかけていく。
すぐに目の前の地面に変化が現れ始めた。
ゴボゴボと音を立てて地面の隙間から湧き出る粘性の強い液体。
「スライムなのか?」
アインズがぽつりと呟いた。
確かに見た目は体内に骨の浮いた汚いスライムだ。
しかし、ダンテには見覚えがあった。そしてすぐに思い出した。
魔界をも滅ぼすことが可能な魔帝ムンドゥスの創造した最高傑作にして最大の欠陥兵器。
ナイトメア。
その名の通り、悪夢のような存在である。
現在のこの形態の時には一切の攻撃が効かないうえ、これに取り込まれると悪夢を体験する空間に転移させられる。
悪夢といっても夢ではなく、この空間で死ねば普通に死ぬ。
正直言っている意味が分からないが、そんなトンデモ空間の持ち主である。
そのうえ、異様に高い攻撃力をも持ち、レーザー、ブーメラン(?)、槍などなど多彩な攻撃を行ううえ、ただでさえスライム形態では攻撃が通らないのに、条件次第ではさらにこちらの攻撃を半減してくるという。
設定だけ見ても戦いたくない相手の上位に位置するのがこのナイトメアである。
とにかくダンテはあたりを見回した。
どこかにあるだろう
欠陥兵器といわれる所以であるナイトメアの暴走は設定では魔界をも滅ぼしかねないとされている。
魔界で暴走する分には「いい気味だ」と笑えるのだが、それがこの世界で起きようものならどんな影響があるか計り知れない。
魔帝ムンドゥスは魔界の滅びを避けるためナイトメアに拘束を施したのだ、倒すためにはそれを利用する必要があるのだ。
ダンテの知る限りダメージを与えるためには拘束文様を起動しナイトメアのコアを露出させてそこを叩く必要がある。
それがゲームでの攻略方法だった。
「……は?ないじゃないか!?」
「何の話だ!?」
焦ったようにダンテがあたりを見回す。
アインズも普段の飄々としてダンテの態度からは考えられない焦り具合に嫌な予感を覚えた。
「ヤツを倒す手段がわからない……」
「どういうことだ?」
ダンテはあくまでゲームの内容しか知らない、ギミックを使った攻略しかゲームでやっていないのなら、それ以外の攻略法など知る由もない。
「ッ!!? 避けろ!!」
ダンテは嫌な予感に声をあげながらアインズに駆け寄る。
アインズの回避が間に合わないことを察しナイトメアの攻撃を相殺するべくリベリオンを振り抜く。
──ガキンッ!!
「グアッ!」
「グッ!」
ダンテはナイトメアの放つ槍の一撃をかろうじて受けたがそのまま吹き飛ばされアインズと衝突する。
「す、すまない」
ロイヤルガードを使用すればダンテはノーダメージだろうが、アインズがダメージを負う可能性が高かった。
アインズはそれが理解できていたため、思わず謝った。
「早くこの悪趣味な空間から出たいしな、久々に共闘と行こうか」
ダンテはちらりと背後のアインズに笑いかけて言った。
アインズはただ「あぁ」と呟いて、ダンテと自身に様々な補助魔法を掛けていく。
それと同時にナイトメアがガトリングのように弾丸を発射する。
ダンテは自分に照準されているのを確認し、アインズから離れるようにナイトメアの周囲をぐるりと回るように走りだした。
突き出される槍をスライディングで避け、追尾するようなブーメランを身体を寝かせるように回転させながら飛び上がって避け、一瞬も止まることなくエボニーとアイボリーを乱射しながら走る。
「できるだけ移動しながら、地面を這う虫に注意しろ!!もし本体に近づく場合は取り込まれないようにな!」
「了解!
地面から飛び出す数多の骨の槍が虫やナイトメア本体を襲う。
虫そのものは排除できたが、ナイトメア本体にダメージが通っているようには見えない。
ダンテもアルテミスで魔力を発射しナイトメアを釣る瓶撃ちにする。
「ちっ、やっぱ無理か……」
拘束文様がないナイトメアを攻撃し続けた場合にダメージが通るかはさておいても、暴走を誘発しないかという懸念がある。
ゲームでは拘束文様があるからこそどれだけ攻撃を加えても暴走することはない。
そして何より、どれだけ攻撃を加えても魔人化するための魔力が溜まらない。
ゲームにおいてもナイトメアに魔力を吸い取られていたような覚えがあるが、今はそれが常態化しているような気がした。
ダンテはそんな状況から仮説を立てた。
1.ナイトメアは常に魔力を消費して存在しているため、周囲の魔力を吸収している。
2.ナイトメアの暴走は消費と魔力暴走である。
3.戦闘時はナイトメア自体が活性化して周囲から吸収する魔力量が増える。
戦い続ければ暴走を引き起こすことになる。暴走時には更に吸収量が増えるかもしれない。
4.拘束文様はナイトメアの魔力吸収を制限あるいは放出するものである。
5.ゲームにおいてのコアの露出は魔力吸収を効率化するためのものである。
つまりゲームにおけるナイトメアのコア露出は息継ぎのようなものである可能性。
コアを露出させるには、魔力の吸収を抑制させるか、吸収より多くの魔力を使わせるしかない。
アインズからもMPが吸収されていると考えられる以上、長期戦は望めない、長引けばアインズはMPを失い何もできなくなるので早急に手を打つ必要がある。
こちらの攻撃が効かない以上、通常より多く魔力を使わせる方法は思いつかない。
残るは魔力吸収を抑制させる方法しかないが、ダンテにその手段はなかった。
「アインズ、気づいているだろうが、あいつは魔力を常に吸収している。何とかそれを阻害できないか?」
「………効果があるかわからないが、やつに接触する必要がある。援護してくれ!」
アインズの応答を聞いた瞬間、ダンテはアグニとルドラを両手に携えナイトメアに接近し怒涛の勢いで斬りつける。
ダメージがあろうがなかろうが関係なく、とにかくヘイトを稼ぐ心積もりだ。
「効いてくれ!
アインズはダンテごと時間を停止した。
ダンテも魔力が吸収されているため、クイックシルバーによる時間停止の抵抗は行わない。
アインズは急いでナイトメアに接近し、その身体に触れた。
そして、時間停止の効果時間が切れるタイミングを見計らって魔法を行使した。
「
魔法が発動した瞬間、ダンテはアインズを抱え後方に飛び退いた。
そしてアインズを降ろすと再びナイトメアに突撃した。
アインズが使用した魔法は名前からすればHPを吸収するかに思えるが、相手のレベルを一時的にドレインする。すこし毛色の違う魔法である。
ドレインしたレベル量に応じた様々なバフを自らに与え、相手には時間経過で消えないレベルダウンという特殊なデバフがかかる。
今回はこのレベルダウンによってナイトメアの魔力吸収能力が下がることを期待しての使用だった。
ダンテは、いつもと比べるべくもないが多少魔力が蓄積されていくのを感じていた。
ナイトメアの魔力吸収の阻害に成功したのだった。
確実にレベルダウンの効果があった。とはいえ、拘束文様ほどの魔力吸収の抑制は期待できない。
あとは、数少ないであろう
できるだけ手数を増やし、魔人化のための魔力を溜める。
一方でアインズも未だ余裕はあるが目減りしていくMPの残量に気を配りながら、さらに
「
アインズの魔法が発動し、地面から巨大な肋骨が飛び出し虎ばさみのようにナイトメアを挟み込み拘束する。
やはり不定形のスライムのように効果はほとんどないようだがほんの少しだけ動作が遅れている。
当然のようにダンテがその隙を逃すはずもなく、目にも止まらない速さでもって両手のアグニとルドラで何度も斬りつけ、いつの間にか両手両足に装着したギルガメスで連続蹴りを放ち、十八番のリベリオンによる連続突きをもナイトメアに叩きこむ。
アインズも氷の弾丸を発射する球体を叩き潰したり、地を這う虫を避け、隙をみて攻撃を続ける。
(こんな泥仕合、全っ然スタイリッシュじゃねぇ!!)
内心で不満を叫びながら攻撃を続けるとついに、ナイトメアがコアを露出した。
ダンテとアインズはお互いに見向きもせず、しかし息の合った攻撃を繰り出す。
アインズがダンテに補助魔法をかけ。
ダンテはイフリート装備によるストレート、ボディ、ハイキックからかかと落としを1発ずつ力を込めながら打ち込み、間髪入れず離脱。
そしてその離脱とほぼ同じタイミングでアインズの
ダンテは少しだけ離れた場所で
とはいえ、ゲームと条件が全く違うので予測もままならない。
むしろ拘束文様なしでコアの露出までさせたこと自体がミラクルでさえある。
再びコアを体内に格納したナイトメアを眺めながらあと何度これを繰り返さなければならないのかとうんざりした気持ちになった。
「ダンテ!もう一度だ!」
「あぁ…わかってるさ」
こいつを倒さない限りこの空間から逃れられないのは直感が訴えていた。
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「ど、どうしよう……」
マーレは目の前で起きた光景が理解できず戸惑っていた。
アインズから待機を命令され、敵地へと赴く主を見送った。
アインズの向かった先にダンテが現れる可能性があることも事前に聞かされていたためアインズとダンテの戦いが始まったことまでは問題はなかった。
きっと二人とも本気ではない、仲良く話をしているところは何度も目にしていたしほんの少し喧嘩しているだけだと考えていた。
しかし、喧嘩の割に込められている力が強すぎるような気がして心配になったマーレが二人に近づいた瞬間それは発生した。
鏡のようなものが二人の足元に現れたかと思えばそのまま飲み込んだのだ。
少し距離を取っていたマーレだから目視できたが足元でそれが起きた二人は反応できなかったのだと思った。
その跡には鏡のように景色を反射する水たまりのようなものがあるだけだった。
おそらく二人を飲み込んだものであろうことは想像がつく。
マーレは警戒しながら水たまりに近づき持っていた杖でつつく。
異空間への扉みたいなものかもしれないと考えていたマーレは想定外の感触に驚いた。
「固い……」
本当に水たまりならその下の土の感触があるはずだし、異世界への扉であるなら杖は先だけでなくもっと深くまで埋まるだろうと考えていたが、まるで金属の板をつついたかのような感触だった。普通に上を歩けそうですらある。
これ以上はわからない、マーレはそう判断するとすかさずアルベドに
アルベドはきっと混乱していてそれどころではないだろうという判断からだった。
『マーレかね?アインズ様たちが消えたようだが何があったんだい?こちらでも見ていたけれど現場ほど鮮明ではないだろうから報告してほしい』
『ボクにもよくわかりませんでしたけど、お二人は何か話をしているところをスライムのような何かに取り込まれたようにみえました。そのあとには固いなにかがあるだけです』
魔力も何も感じない、下手をすれば本当に鏡が落ちているとさえ思えるモノが残されているだけだった。
『
マーレはデミウルゴスと会話しながらも色々試している。
魔法を発動する要領で魔力を込めてみたり、杖で思い切り叩いてみたり、地割れを起こしてみたりしたが鏡のような水たまりは空間に固定されているかのようにその場にあった。
「あの~、すみませんがアインズ様がどこへ行ったか知りませんか?」
マーレは己の試行錯誤の余波に巻き込まれているガゼフたち3人に声をかけた。
クライムは相変わらず気絶しているので、ガゼフとブレインの二人にだが……
「あ、あんたは……」
ブレインはマーレの姿にナザリックに囚われていた時のことを思い出していた。
主にナザリック第6階層の闘技場で武技を使わされていたブレインはこの少女ともう一人よく似た顔の少年をよく見かけていた。
「? どこかで会ったことありましたか?」
「いや、なんでもない(俺のことなど覚えるまでもないよな)」
小首を傾げるマーレにブレインは何でもないと首を振り、アインズやダンテがどこに消えたのかさっぱりわからない旨を伝えた。
マーレはその言葉に反応するでもなく、もとより期待はしていなかったとでもいうように何やら考え込んだ。
と、次の瞬間マーレは杖で二人が飲み込まれたその場所に対して杖を突き立て魔力を込め始めた。
マーレの膨大な魔力に地面が震え、空気が逆巻く。
だがしかし、特に何も起きなかった。
マーレは自分が飲み込まれるかもしれないことも覚悟の上で魔力を込めてみたのだが、不発に終わってしまった。
アインズが死んだりするはずなどないと気丈に振舞っていたが、このままアインズが戻ってこないのではないのかという恐怖。
アインズの側付を任されたものの、みすみす攫われてしまった責任に押しつぶされそうになり、ついにマーレは泣き出してしまった。
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どれほどの時間戦い続けているだろうか、アインズは自身の残りのMPを確認しつつ戦闘継続可能時間を計算していた。
最初にナイトメアのコアを叩いてから74度ほど追加で叩くことができたが、相手に弱っているような兆候はない。
「マジでいい加減してくれ……」
少し離れた位置でダンテが息も絶え絶えに愚痴をこぼす。
長引く戦闘はこちらのMPを削り、集中力を削り、確実に出血を強いてくる。
97%の攻撃を避けていても、残りの3%が時間経過でじわじわと効いてくる。
幸いポーションなど回復用のアイテムは潤沢にあるため、小規模ダメージは問題はないのだが、場合によってはかなり強力な攻撃に当たってしまう場合もあり、その一発を警戒しさらに集中力が必要となってしまう。
過去最長の戦闘時間になっているのではないだろうか?
海の水をバケツリレーして枯渇させようとしているような徒労感。
ワールドエネミーを単騎で討伐する方が楽なのではと思わず考えてしまう。
とはいえ、コアを攻撃できる間隔は確実に狭まっている。
効率よく攻撃できている証拠だろうが、アインズ自身のMPが尽きかけており、このペースで攻撃できる機会も残りわずかとなりそうだった。
「ダンテ!そろそろMPが切れる!!」
「マジかよ……」
思わず振り返ったダンテが目にしたのは今まさにナイトメアに取り込まれそうになっているアインズだった。
何かを考える間もなくアインズの手をつかんだ瞬間、二人はナイトメアに取り込まれた。
次こそは早く……
また次回もお付き合いいただければ幸いです。