嬉しいです!
1万字越えちゃいました、その上戦闘までたどり着きませんでした……
bomb様、クオーレっと様、Sheeena様 誤字報告ありがとうございました。
「ユーゴさん、一体何を考えているんですか!」
ナザリックの自室に戻ってきてモモンガは開口一番ユーゴに問い詰めた。
「ちょ、ちょっと待ってモモンガさん」
「なんです?」
「ネガティブタッチ切って!痛い、地味に痛い!」
「っと、すみません」
モモンガはユーゴを離す。触れるだけで負のダメージを相手に流し込むという、マジックキャスターにはあまり意味のないスキルだったはずだが、地味に効いていた。
「…えっと、本当に悪いんだけど、何をそんなに怒ってるの?」
ユーゴは掴まれてた腕をさすりながら首を傾げた。
ユーゴは馬鹿だが、NPC達と戦闘していたことが怒りの原因だとは感じている。
地表でのやり取りから己が傷ついていたことをモモンガが怒っていることはわかっているのだ。
戦闘すれば傷つくのは当たり前だし、今まで何度もPVPだったりPKKだったりを行ってきているのだから。
ゲーム内での傷に意味はない。故にユーゴには理解できなかった。
モモンガはユーゴの心底意味がわからないといった表情を見て、ある可能性に思い至った。
「ユーゴさんはそういう人でしたね…いいですか?一つずつ確認しますよ?」
モモンガはため息混じりにユーゴに確認する。
「…はい」
ユーゴはユーゴで釈然としないながらも素直にうなずく。
「まず、ユグドラシルは0時をもって終了するはずでした。ここはいいですね?」
「は、はい(えっ?そこから?)」
「現在、その予定時刻はとっくに過ぎていますが、強制ログアウトされていない。これがおかしなことであることは理解してますね?」
「もちろん。俺もそこは不思議に思った。あと寝落ちしても強制ログアウトされなかった」
「寝落ちも…そうですか、ますますもって現状ではログアウトできなさそうですね。それともう一点、終了予定時刻以降でコンソールが表示されないのは気付いていましたか?」
「マジ!? ってマジだよ…」
「………」
モモンガは光った。
モモンガはユーゴが予想以上に何も確認していないことに頭を抱えた。
「幸い、魔法やスキルの使用はできるようですが、今までと使い方が違います」
今まではコンソールに表示されている魔法やスキルのアイコンを選択すれば発動した。
しかし、今ではコンソールが表示されないため、今までの使い方はできず。己の内に意識を向け直感的に使う(言葉にすると妙な感覚だがそうとしかいえない)のだった。
「コンソール出ないんだもんな、そうだよな……」
「ちょっと待って、ユーゴさんさっき戦ってましたよね? スキル使ってないんですか?」
「いや、使ったよ。たぶん無意識だけど……」
モモンガは光った。
「言いたいことは山ほどありますが順番に行きましょう。今ここは草原のど真ん中です。異常ですよね?」
「………異常だね」
「ちなみに、その傷痛みますか?」
「いや、殆ど痛みはないけど?」
モモンガは光った。
モモンガはない筈の胃を押さえた。
「痛みがあることが、異常なんですよ!?」
「……あ」
「いいですか? この異常状況は私たちの姿とかを除けば限りなくリアルに近いんです。痛みを感じるということは死ぬ可能性が十分にあるっていうことなんです」
「………」
「先ほど、魔法も使えるといいましたが、ほんの少し実験しただけで効果範囲や効果そのものが違ってしまっている魔法がありました。なにより、ユグドラシルではありえなかったフレンドリーファイアが有効になっています」
「……ごめんなさい」
ユーゴは素直に頭を下げた。
自らの浅慮に……モモンガが理不尽に怒ってるわけでもなく、心からの心配をして怒ってくれていることにようやく気付いたのだ。
「私が何に怒ってるかわかってくれたようでなによりですよ」
---コンコンコン
ノックの音が響き渡る。タイミング的にペストーニャだろう。
「入れ」
モモンガが短くそう告げると。扉が開いて頭部こそ犬だがスタイルのいいメイドが入室してきた。
そのメイドの顔の中央には傷跡のような線が一本走っており、それを縫い合わせたとも思える痕跡があった。
「モモンガ様、お待たせいたしました。お呼びにより罷り越してございます…わん」
「よく来てくれたなペストーニャ。こちらへ来てユーゴを回復してやってくれ」
「かしこまりました…わん」
ペストーニャは扉の前で一礼するとユーゴの前までやってきた。
「ペス、久しぶりだなぁ」
「ユーゴ様、ご無沙汰しております」
「……覚えてるの?」
「もちろんでございます。それでは回復します…わん」
ペストーニャの尻尾がフリフリと揺れているのを見ながらモモンガは考え込んでいた。
アルベド、セバスはユーゴの名前は知っていたが、姿は知らなかった。
デミウルゴス、シャルティア、コキュートスは先ほどのそのどちらも知らなかっただろう。
ペストーニャはユーゴの顔と名前が一致している。
「ありがとうな、ペス」
回復が終わったのかユーゴがペストーニャにお礼を言いながら頭をなでていた。
「とんでもございません」
「あぁ、助かった。下がっていいぞ」
モモンガそう言うと、ペストーニャは「失礼します……わん」と一礼し部屋を出て行った。
「ユーゴさん、確認したいんですが。ナザリックのNPCで直接見たことあるのは誰だったか覚えていますか?」
扉が閉まるとモモンガはユーゴに向き直って問いかけた。
「……直接? ペスと、エクレアにアウラ、マーレ…それにパンドラ……あとは、ごめん一般メイドも何人か見てるはずだけど名前が出てこない」
「間違いないですか?」
「多分……一体なんです?」
「推測ですが、このナザリックでユーゴさんの名前と顔が一致しているのは、ユーゴさんが直接見てるNPCつまり会った事のあるNPCだけなのではないかと思いまして」
「ペスは俺を覚えていましたしね。あっ、そういうこと?コキュートスかシャルティアのどちらかに会ったことがあったらさっきの戦いは起きなかったってことです?」
「おそらくですが…確認してみますか」
「なら、パンドラに会いに行こう!」
「却下です!!」
モモンガは光りながら、叫んだ。
「え~(パンドラカッコいいのに…)」
「とりあえず、アウラに会いに第6階層に行きましょう。ついでにユーゴさんの装備の確認もしておきましょう」
(……ってか、モモンガさんさっきから何で光ってるんだ?)
ユーゴはアウラに連絡しているらしきモモンガを見つめながら首をかしげた。
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「ようそこお越しくださいました!モモンガ様!!」
「日に何度もすまないな」
「いえいえ、モモンガ様ならいつでも大歓迎です!」
モモンガの謝罪にブンブンと首を振りながら否定するアウラ。
「それに、ユーゴ様もお久しぶりです!」
「あぁ、アウラ久しぶりだな」
ニコニコと嬉しそうに見上げてくるアウラを思わず撫でる。
アウラもユーゴを覚えていたので、多分推測は間違っていなかったということだろう。
「あっ、えへへ~」
「ちょっと装備の確認に闘技場を使わせてもらってもいいかな?」
「はい、あたしは構いませんけど…」
ユーゴの言葉に頷きながらモモンガの方を見るアウラ。
「私からも頼む」
「そんな!?モモンガ様が頼みなんて!!どうぞお使いください!なにか準備するものとかありますか?」
アウラは、モモンガの言葉に目を白黒させた。
「いや、何もいらないよ。ちょっと場所だけ貸してくれ」
「はい!ご存分に!」
「ユーゴ、ちょっと」
ユーゴは慌てぶりの可愛いアウラをくしゃりと一撫でし、モモンガに向き直る。
「はい?」
「パンドラの確認はここではやめるように」
「あー、了解」
何がどう変わったか分からない現状においてユーゴの持つ《災厄兵器パンドラ》は何が起きるか分からない文字通りのパンドラの箱となっているのだった。
そんなパンドラは使用しないことを了承したユーゴはモモンガとアウラから少し離れて手持ちの装備を順に確認し始めた。
「アウラ、ユーゴとは親しいのか?」
「え?そんな、モモンガ様のご友人の方に親しいなんて恐れ多いです」
「む、そうか?」
「はい、良くしてくださったことは間違いないです。ユーゴ様は何度か闘技場を利用していらっしゃいますから。その度にあたしやマーレのことを撫でてくださいました」
「ほう、ユーゴのPVPとかをアウラは見ていたってことか?」
NPC達の記憶について興味を持ったモモンガは会話を掘り下げることにした。
「はい、たっち・みー様との戦いは特に記憶に残ってます」
「あれか……確かにすごかったな」
モモンガはそのPVPを思い出した。
あれはまさにワールドチャンピオンという公式チートVS運営のお気に入りの戦いの名に恥じない一戦だった。
「そういえば、あれは記録として残っていたはずだな…」
「え?またあの戦いが見れるんですか?」
「ん?あぁ、たしか図書館に保存されていたはずだ、見たいのか?」
「もちろんです、たっち・みー様の戦いが何度も見られるなんてすごいです!シモベなら誰でも嬉しいと思います」
これからのことを考えればユーゴをナザリックの戦力とできるよう、皆に紹介するべきだろうとモモンガは考えていた。
そのときに、このPVPの映像を見せればシモベたちはたっち・みーの勇士を見ることができるし、ユーゴの凄さも伝わるだろう。
「そうだな…少し探してみるとするか」
図書館で記録を探すことを心の中で決定したモモンガはユーゴの様子を窺う。
と、ユーゴはなにやら握った二振りの剣を前に「喋るな!」などと言っているように聞こえた。
「どうかしたか?」
「あ、モモンガさん。なんかこいつら急に喋りだしたんですけど…」
そういってモモンガに見せたその武器は赤と青の鋸のような刃のついた1対の剣だった。
「《アグニ&ルドラ》…だったか?」
「えぇ、確かに原作ではよく喋る設定の武器なんですが、作ったときにそういう設定を書き込んだ覚えもないですし…」
「これもこちらに来た影響か?」
モモンガは興味深そうにアグニ&ルドラを眺める。
「我ら、ダンテに呼ばれれば」
「いつでも、その力となろう」
「……喋るな。聞かれたことだけに答えろ」
「なんだ?」
「なんだ?」
「呼べば来るのか?」
「当然」
「我ら、ダンテの所有物」
「……おらぁ!!!」
「ちょっ!?一体何を!?」
唐突にアグニ&ルドラを闘技場の外にまで放り投げたユーゴをにモモンガは驚いた。
「実験ですよ、モモンガさん」
ユーゴはそう言って両手を広げた。
「何を?」
「呼ぶだけです。アグニ!ルドラ!」
ユーゴがそう叫ぶと投げた方角とは関係なくどこからともなくアグニとルドラが飛んできてユーゴの手に収まった。
そのまま、演舞のようにアグニ&ルドラを振るう。
周囲に炎の風が吹き荒れる。
「ふむ、まぁまぁだな」
「まぁまぁ?」
「最高では?」
ユーゴの評価に異を唱えるように不満の声を上げるアグニ&ルドラ
「いいから、黙ってろ」
「「………」」
「それでいい」
アグニ&ルドラを黙らせるとユーゴは二刀を地面に突き刺して、背中に背負っていたリベリオンをアイテムボックスに格納したあと、右手を掲げた。
「リベリオン!」
当然のように現在アイテムボックス内にあるはずのリベリオンがユーゴの右手に収まっていた。
「おぉ……」
黙って見ていたモモンガが感嘆の声を上げる。
「どうやら、召喚できるみたいですね」
ようやく確信できたのかユーゴはリベリオンを背に掛けながらモモンガにそう告げた。
「召喚?」
モモンガは不思議に思った、ユーゴは召喚系のスキルは一切なかったはずだ。だというのに召喚を行なったと言う。
「えぇ、元々俺の武器の殆どは悪魔なんですよ。単純な悪魔召喚と同じことっぽいです」
「つまり、今は形態変化で武器の形を取っているだけということか?」
「そう、ユグドラシルでは武器としての設定しかしていなかったのですが、こちらに来て何かが変わったのか、本来の悪魔としての意識もあるみたいなんです」
ユーゴが現状考えられる予想を話す「だから喋るし、多分ここでなら悪魔の形態をとることもできるはずです」と付け加えた。
「なぜ召喚できるのか、こいつらの強さとかはおいおい調べていきますよ」
「それじゃあとりあえずの確認は終了でいいか?」
モモンガがそう確認するとユーゴは頷いた。
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その後、放置されていたユーゴのグリーンシークレットハウスを回収し、ナザリックの隠蔽作業をしていたマーレに会ってユーゴの記憶があるか確認してモモンガの私室へ戻ってきていた。
マーレはユーゴの記憶を持っていた為、NPCの記憶に関しては推測通りということに落ち着いた。
「ユーゴさん、これからのことを考えたいと思うんですが、先に聞いていいですか?」
「どうぞ?」
「さっき、闘技場でアグニとルドラがユーゴさんのことをダンテと言っていましたが?」
「あー、それなぁ、どうしよう…」
ユーゴはあからさまにめんどくさそうな顔をしながら頭をガシガシと掻く。
「多分ごっちゃになってるんですよね、モモンガさんは俺のこのアバターの元がゲームであることを知っていますよね?」
「もちろん、耳にタコができるほど聞いていますからね」
「んで、あいつらを始めとした、俺の武器もすべてそのゲームが元なんですよ」
「そのゲームの主人公がダンテでしたね」
モモンガは納得したとばかりに頷く。が、ことはそう単純ではないとすぐに気がついた。
「つまり、ダンテでないことを言うのもリスクがあると…」
「そうなんですよ、殆どの武器が意思をもってしまっていますから、離反されちゃうと丸腰になっちゃうんですよ」
「……なるほど」
モモンガは己の事情に通ずるところがあると感じた。
シモベ達の望む支配者であることを強いられている現状、もしそれに反した場合に叛旗を翻されると一気に状況が悪くなるのと同じことだろう。
もしかするとユーゴの方がまずいかもしれない。モモンガは万が一守護者達が叛旗を翻しても戦うなり逃げるなり手段はいくらでもあるが、ユーゴの場合はまず、戦う手段を殺がれてしまうのだ。
「いっそ、これからダンテとして活動するかな…どうせ、名前変えたところで名前の表示があるわけでもなし、バレないだろ」
「それも、手かも知れませんね。少なくともダンテではあると言えます」
「そうしよう。これからはダンテロールもやっていくことにします」
「分かりました、これからはダンテさんと呼ぶことにしますね」
「モモンガさんはどっちでもいいですよ。どっちも俺であることは変わらないんで」
ユーゴ改めダンテは笑いながら言った。
「さて、それじゃあ本題のこれからのことですね」
「はい」
モモンガの言葉に神妙に頷く。
未知の世界で何も考えずに動くことの危うさをさすがにダンテも学んだ。
もっとも、ダンテの場合は戦闘でも始まろうものならそんなことはスポーンと頭から抜けてしまうのだろうが…
「まずは、情報収集が必要です」
モモンガの言葉にダンテはこくりと頷いた。
情報収集をするためには外に出る必要がある。その際に重要になってくるのは己の身を守る方法である。
外に暮らす人たちは自分達をワンパンで圧倒できるほどの強者である可能性だってあるのだ。
外に向かう以上、退路や拠点の安全性は十分以上に確保する必要がある。
「とりあえず、俺はこれまでと同じようにアインズ・ウール・ゴウンに協力するってことだけは変わらないんだから。ナザリックで都合のいいように配置してくれればいいと思いますよ」
「それはありがたいです。それじゃあダンテさんをナザリックにいられるようにする必要がありますね」
「おまかせします」
モモンガはダンテの返事を聞き、アルベドへ
「今すぐ、デミウルゴスをつれて私の部屋へ来い。今後の話がある」
「さて、二人が来るまで多少時間がかかるでしょうからその間に自分達について確認しておきましょう」
「自分達について?」
「えぇ、たとえば私は見たとおりアンデッドです。設定通りなら、飲食睡眠不要、疲労、その他バッドステータス無効なはずです」
「ふむ、まぁ俺もその辺はアイテムで同じようにはできるけど、飯はうまいもの食えるなら食いたいし、睡眠はとっておきたいな」
「…やっぱり、そう思いますよね?」
「?」
不思議そうな顔をするダンテにモモンガは自分の考えを話した。
不要だから摂らないというのは不健全なのではないか、人のもつ欲求を満たさずにいても弊害はないのだろうか。
心が壊れやしないだろうか…など。
「なるほどねぇ、…そういや、モモンガさんって今は性欲とかどうなの?骨だしムスコいないんじゃない?」
「……確かにムスコはいませんが、性欲は…全くないわけではないと思います」
「その心は?」
「アルベドの胸揉んだときに感じるものがあった気がします」
「あんた何してんだよ……」
「あっ、いやそれはっ!」
いきなりNPCの胸揉んだ発言にドン引きしたダンテにモモンガは慌てて言い訳しようとするが、光ってモモンガの感情が抑制された。
「コホン、ゲームとの違いを確認する手っ取り早い方法だったので実行しただけです」
「ハラスメント警告ね……で?モモンガさんちょいちょい光ってるけどそれなに?」
「え?光る?」
「うん、なんかピカァって」
「って、言われてもなぁ…」
モモンガ自身光ってる自覚などないので分からなかった。
「どんな時に光ってました?」
「ついさっきアルベドの胸揉んだ発言の直後とか、あぁ、俺がコキュートスとかと戦ってたところを止めた後とか、その後ここで俺に説教してたときとかかな」
「………うーん、関係あるのか分からないですけど、こっちに来てから稀に感情が押さえつけられるように収まることが何度かあったんですよ」
「それは、怒りとか焦りとかですか?」
「……多分、あらゆる感情のようにも思えます。ロールプレイには便利なんですけどね」
「……なんか聞いてると、飲食不要とかより感情抑制とかの方がよっぽど不健全だと思うよ」
「……確かにそうですね」
感情はバッドステータスにかかわることが多いから過度な反応が抑制されるのか…などブツブツと呟くモモンガ
---コンコンコン
扉がノックされる音が響く。
「ダンテさん、NPC達のいるところではお互い呼び捨てで対等な感じでお願いします。さっきまでは私だけが上位者みたいになっていましたから」
「了解」
ダンテの言葉にモモンガは頷いて応えると扉のほうに目を向けた。
「入れ」
モモンガが魔王ロール時の低めの声で応えた。
「失礼いたします。アルベド、デミウルゴス両名参りました」
アルベドとデミウルゴスが室内に入り跪くと同時にアルベドが落ち着いた声で来訪を告げる。
「二人ともよく来てくれた。こちらに来て座ってくれ」
「いえ、私達はこちらで…」
「いいから座りなさい」
アルベドは着席を固辞しようとするがモモンガはそれを許さなかった。
なんとかアルベドとデミウルゴスを席に座らせるとモモンガは早速本題に入った。
「二人を呼び出したのは他でもない、今後のナザリックについて相談するためだ」
「相談など…モモンガ様の思うようご命令くださればよろしいかと存じます」
「それではいけないのだ、私はナザリックの防衛や運営をお前達にも任せると口にしている。それを一日も経たないうちから反故にするなど、そんな横暴な主になるつもりはないのだ」
「大変失礼いたしました」
モモンガの言葉にアルベドは素直に謝罪し、デミウルゴスは「おぉ」と感嘆の声を上げていた。
「では、まずは紹介しておこう。アルベドには外に出た際に少し説明していたが、こちらは長年アインズ・ウール・ゴウンに協力してくれていたユーゴだ」
「ユーゴだ、ワケあってこれからはダンテと名乗るのでそっちでよろしく」
ダンテはアルベドとデミウルゴスの二人をにこやかに見つめながら名乗った。
「第7階層守護者デミウルゴスでございます。ダンテ様、先ほどは申し訳ございませんでした」
デミウルゴスは名乗りの後、ダンテに向かい深々と頭を下げた。
「え?デミウルゴスに謝ってもらうようなことは何もなかったはずだが?」
「いいえ、地表においてダンテ様にコキュートスとシャルティアをけしかけたのは私でございます」
「へぇ、俺としては楽しかったからいいんだが…」
ダンテは言葉通り特に気にしていないのだが、楽しかったと口にした途端にモモンガの視線が重く感じたため言葉が尻すぼみに小さくなっていった。
「こほん、デミウルゴスよ。ダンテがよいと言っているのだ。次に生かせるよう精進するように、それでこそ許し甲斐もあるというものだ」
「はっ、お二方の寛大なる御心に感謝いたします」
デミウルゴスが頭を下げ、再び頭を上げるのを確認すると、アルベドが静かに一礼した。
「ダンテ様、お初にお目にかかります。守護者統括アルベドでございます。お見知りおきくださいませ」
「へぇ……」
アルベドの極上の笑顔を湛えた挨拶にダンテは感心した。
心にもないことをよく言うものだと…
「いかがなさいましたか?」
「いや、なんでもないさ(目の奥は笑ってないな)」
アルベドにしてもこの挨拶だけで自らがダンテに抱いている負の感情に気付かれたことを悟った。
「よし、では本題だ。各守護者達を集めたときにも話してはいるのだが、この異常事態において我々は座して待つことなく、行動を起こす必要があるのは理解しているはずだな?」
モモンガの言葉に、アルベドとデミウルゴスは静かに頷いた。
「現時点で最重要なのはこのナザリック地下大墳墓の防衛である。そんな中、私の友であるダンテが駆けつけてくれたのだ」
(実際には入れ違いになった挙句、ナザリックに押し入ろうとしてたんだけどな…)
現実とモモンガの言葉の齟齬にダンテは苦笑いを浮かべる。
「俺のことはモモンガの部下と思って、防衛にでもなんにでも使ってくれて構わない」
ダンテは自信満々といった表情で胸を叩いた。
「ありがたいことに、こう言ってくれているのだ。デミウルゴス、ダンテを防衛に組み込めるか?」
「はっ!もちろんでございます。しかし、より万全な防衛線の構築のため、不躾ではございますがダンテ様を戦力として見た場合どの程度を見込めばよいかお教えいただけないでしょうか?」
「うむ、それは大事な情報だな……そうだな、ギルドメンバーと同格の戦力とみなすがいい」
「………はっ」
「どうした、デミウルゴス。歯切れが悪いようだな?何か気になることでも?」
ダンテの戦力としての価値を聞いたデミウルゴスの反応が少し遅く感じたモモンガはデミウルゴスに問いかける。
「申し訳ございません。モモンガ様。至高の御方々と同格であるということでございましたら、有事の際には第9階層入り口または第8階層に上がって防衛戦に参加いただくのがよろしいかと思います」
「いいえ、デミウルゴスそれは違うわ」
デミウルゴスの提案にモモンガが何かを言う前にアルベドが反対を表明した。
「御方々と同格、それほどの方であれば遊撃を担って頂くほうがいいと思うの」
「アルベド、転移の制限されるナザリックで遊撃などできないことは貴女も理解しているでしょう?」
「もちろん理解しているわ、けれど、防衛戦において連携は不可欠。実力の突出するダンテ様を既存の防衛線に組み込むのは愚策だわ」
モモンガの前であることも覚えていないのか議論を白熱させる様子をモモンガは嬉しそうに見ていた。
一方でダンテはアルベドの透けて見えそうな思惑に辟易としていた。
(事故に見せかけて消す。ないしはナザリックから追い出すくらいのことは考えてそうだな。遊撃とだけ言っておいて実際には地表で待機みたいな)
ダンテはアルベドになぜここまで嫌われているのか不思議に思った。その一方でどんなことを仕掛けてくるのか少し楽しみにも感じていた。
「なかなか難しい問題のようだな?二人で協議した後、報告せよ」
なかなか決まらないので一旦持ち帰らせて二人に考えさせることにしたモモンガは「ただし…」と目を赤く光らせながら言った。
「ダンテは部下扱いで良いといってくれているが、私の友だ。それを忘れるな……下がれ」
「「かしこまりました」」
アルベドとデミウルゴスはモモンガの迫力に一礼すると、そそくさと部屋を出て行った。
そんな様子を苦笑しながら見ていたダンテはモモンガに向き直った。
「そういえば、俺なんかアルベドに嫌われてます?確か、ビッチだったはずだし、俺の知っている設定なら嫌われることなさそうなんですけど…モモンガさんなんか知りません?」
「…え?」
モモンガは光った。
「いや、すごい分かりやすいわ」
ダンテが感心するように頷きながら、「で?」とモモンガに返答を促す。
モモンガはアルベドの設定の一部を書き換えてしまったことを白状した。
「へぇ…モモンガを愛してるねぇ…まぁ、最後だしな。アルベドってモモンガさんのどストライクだろうしなぁ、いいんじゃない?タブラさんだって玉座の間に控える設定にしたからには、モモンガさんに付けるつもりだっただろうし」
「魔が差したんです。反省してます」
ダンテとしてはタブラの設定を勝手に書き換えたことに何も思わない訳ではないが、ここ数年モモンガが一人でナザリックを維持してきたことを考えればそれくらいいいのでは?と思っていた。
「まぁ、そのおかげでアルベドがモモンガさんを裏切ることはないんじゃないかな?」
「それは、私も思います」
(じゃあ、あれは嫉妬かなんかかな?なんだ、歳相応の可愛いお嬢ちゃんじゃないか。モモンガさんの果報者め)
ダンテはアルベドに対する警戒度を下げた。
基本的に女性に甘いのだった。
次こそ、戦闘を…気合入れて書きます!
お時間ありましたらお付き合いください。
たくさんの閲覧、お気に入り、評価ありがとうございます。
オルステッド123様、クローリー様
万屋よっちゃん様、ayasaki様
アサシン.様、JINAX様
糺之守様、モニ男様
盗る猫様、そるぶれ様
マルボロB様
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ちょっと自分の顔は見せられないほどニヤニヤしちゃっています。