「はぁ?足が吹き飛んで死んだ?」
「そ、そうなんです!パーンってぎゃああああ!!ってなっていつの間にか死んだんです」
「……よくわからないな」
村を襲撃していた部隊に所属しているロンデスは部下の支離滅裂な報告を聞いていた。
部下はよっぽど混乱しているのか、正直話にならない。
仕方がないので、ロンデスはこちらから質問するという形でなんとか事情を聞きだした。
「つまり、逃げた住人を追っていたら、村の者ではない男に邪魔をされて手も足も出ず一人殺された…と」
あまりに端的過ぎる要約ではあったが、部下はガクガクと頷く。
ロンデスはこの程度の話を聞くのに掛かった時間を考えると眉間を押さえたくなるが、逆に考えればこの程度の報告ができないほど混乱させられたと考えれば相手が脅威であることが想像できた。
幸い村の制圧はほぼ完了しつつある。
少し人数を割いて調査に向かわせようと思ったところ、報告していた部下がある一方を見つめながらガタガタと震え始めた。
ロンデスが緊急事態かと部下の見ている方向を見ると、赤いコートの男が村娘であろう二人を抱えて立っていた。
また、それに近づいていく隊長の姿もあった。
「なんだぁ貴様ぁ?村娘を連れてきたのか?なんだそのもの欲しそうな目は感謝でもして欲しいのか?ならばそこでじっとしていろ。俺達の任務は極秘なんだ、見られたからには死んでもらう」
「あ?」
ダンテはエンリとネムを地面に降ろしながら、微妙に甲高い声で話しかけてきた男を見た。
さっき襲ってきた男達と同じような鎧を着込んでいる。若干その男だけ鎧の意匠が違うように見受けられる。
「キャンキャンうるせぇワンちゃんだな」
「なに!?貴様もう一度言ってみろ!!」
「……ハウス!」
「ぐっぬぬぬ、貴様ぁ……おい、お前達!あいつを捕らえろぉ!!」
ダンテの言葉に激昂したその男は周りの者にダンテを捕まえるよう指示した。
(命令するって事は、あいつが隊長かなんかなのか?)
ダンテはヘルムを弾き飛ばしてやろうと思い、アイボリーを引き抜き魔力を加減して込める。
弾丸に込められる極々少量の魔力を込めて放つ。
━━ターン!
「……………」
ダンテはまた、やっちまったと目頭を摘んで空を仰いだ。
「ベリュース隊長ぉ!!」
ロンデスが叫んだ。しかし、ベリュースと呼ばれた男の頭はどこにもなかった。
どさりと頭のない身体がその場に崩れ落ちた。
『ダンテさん…』
モモンガからの
『違うんです、殺すつもりはなかったんですよ?』
『あ、それはどうでもいいです。それより今の銃撃はどの程度の想定でした?』
ダンテの言い訳にモモンガは声色ひとつ変えず銃撃の想定レベルを尋ねてきた。
『……レベル15程度の装備を弾く想定です』
『なるほど、一人だけ鎧の意匠が違うところを見ればそいつがこの部隊の隊長なのはおそらく間違いないでしょう。例外の存在は警戒する必要はありますが、全員レベル10以下と考えてよさそうですね』
『そう、だな…』
『あと、面倒なので
『了解』
ダンテはモモンガの言葉に了承の意を伝えると、ぐるりと騎士達を見回した。
「ひぁあああああ!!」
ダンテの視線が向けられた騎士の一人、いや二人が叫びながらその場を逃げ出した。
ダンテはエボニーを引き抜くと逃げ出した二人の騎士にそれぞれエボニーとアイボリーを向けて発砲した。
今度は一切魔力を込めずに。
━━タターン!
乾いた発砲音の直後、逃げ出した二人の騎士は四肢すべてを撃ち抜かれ、叫びとともに地面に倒れ伏した。
今度は手足の原型は残っているようだし、元気に叫び続けている。
おそらく死ぬことはないだろうとダンテは人知れずホッと息をついた。
「て、撤退だ!合図を出して馬と弓騎兵を呼べ!残りの者は時間を稼ぐぅっ!!」
ロンデスは敵には距離など関係なく攻撃できる手段があると考え、手に負えないと判断した。
即座に撤退を指示を出す。
が、必死に叫んでいる最中にダンテに撃ち抜かれた。
「行動開始ぃ!!」
撃ち抜かれ、地に倒れたロンデスはそれでも気力を振り絞り行動開始を指示した。
しかし、すべては無意味だった。
時間を稼ぐためダンテに襲い掛かる騎士たちのことごとくは踏み出そうとしたその瞬間に両足を撃ち抜かれ一歩も進むこともなくその場に倒れた。
また、合図を出す騎士も笛を吹いた直後撃ち抜かれた。
ダンテは全員捕獲するため、合図を出すのを待っていたのだった。
さっきのロンデスの命令からすれば撤退のため一度はこちらに来るはずなのでそのときを狙い撃つことにしたのだ。
合図を聞きつけ駆けつける弓騎兵もすべて撃ち抜き、馬から落とす。
(落馬で死んだら流石に事故だよな)
馬達は聞いたこともない発砲音に驚きそのまま走り去っていく。
ダンテは勿体無いなと思いながらもこの場を動かずに馬を捕獲することができないため諦めた。
気付けば騎士達全員が地面に倒れ伏し、痛みに悶え苦しんでいた。
「ダンテ、そこまでとしようか」
ふと聞きなれた声に上空を見やるダンテ。
そこには骨の身体を覆い隠すようにキッチリローブを着込みガントレットで手を隠し、泣いているような怒っているような表情を浮かべたマスクを装備したモモンガと完全武装のアルベドがいた。
(なんで嫉妬マスク…他にも選択肢はあるだろ)
ダンテは噴き出しそうになるのを辛うじて抑えこんだ。
アルベドはそんな様子を察知したのか、ダンテに殺気を向ける。
「随分、遅かったな」
ダンテはアルベドを無視して両手を広げてモモンガを迎えた。
モモンガとアルベドはゆっくりダンテの前に着地し、完全に置いてけぼり状態の村人達に声をかけた。
「さて、君達はもう安全だ」
「あ、あなた様方は一体…」
村人達の中から壮年の男が一人前に出てきてモモンガに尋ねた。
「私はアインズ・ウール・ゴウン。この村が襲われているのを見かけ、助けに来たのだ」
(アインズ・ウール・ゴウン?)
ダンテは疑問の視線をモモンガに投げかけた。
『ダンテさん、後でいろいろ説明します』
『…了解』
後で聞けるなら文句はない。モモンガのことだから何か理由があるのだろうとダンテは考えていた。
(しかし、
村人との話はモモンガに任せることにして、ダンテは背後でこちらを見ているエンリに目を向けた。
「あー、ネムだったか?寝てるのか?」
「気絶してしまって…えっと…騎士の頭が、その…」
エンリに抱きかかえられるようにしてネムは目を閉じていた。
胸が上下しているので死んでいるわけではなさそうだが、ネムは騎士達の隊長の頭が弾け飛ぶところを目撃し、あまりのショックに気を失ったようだった。
「あぁ、そうか悪かった。あそこまでやるつもりはなかったんだ」
「いえ!私達を助けてくださってありがとうございます!」
エンリはネムを抱きかかえたまま勢いよく頭を下げた。
ダンテはエンリの前に座り込みネムが目を覚ますまでの間、エンリと話をすることにした。
村人総出で後処理が始まっていた。
モモンガ改めアインズの指示で村人達は生き残った騎士達の装備を剥ぎ取り、縛り上げた上で倉庫に放り込んだ。
その後は村人達は犠牲者を弔う準備を始めた。
姉妹の両親は亡骸が発見されており、両親の遺体に縋り付いて泣くエンリとネムの姿をダンテは眺めていた。
村にはかなりの数の犠牲者が出ていた。対して襲ってきた騎士達の犠牲はたった二人。
ダンテが力加減を間違えた二人のみだった。
多くの村人達が騎士達を入れた倉庫を睨み付けるように立っていた。
ダンテはそこに憎悪が渦巻いてるように感じていた。
「やりたいならやれよ」
ダンテは村人達にそう声をかけた。
必死の命乞いもむなしく無残に殺された村人に対し、騎士達は怪我こそ負っているが無事。
あまりに遣る瀬無い、そんな気持ちがあることはダンテも理解していた。
倉庫を睨み付けていた中の一人の男が倉庫に向かって歩き始めたが、途中で俯き立ち止まった。
肩を震わせながら固く拳を握っているのがわかる。
しかし、前を向いてごしごしと顔を擦ったかと思うと、踵を返し倉庫から離れていった。
ダンテは去って行く男の背中を嬉しそうに見送った。
他の村人達も次々と倉庫を離れ、犠牲者を弔う準備に加わった。
(そういうの、最高にカッコいいぜ)
その間、アインズはこの村の村長と話をしていた。
周辺地理、貨幣価値その他諸々。
その結果アインズは街で情報を集めることを心の中で決定した。
ある程度情報も仕入れ、やることもなくなったので撤収しようとした矢先、王国戦士団がカルネ村に訪れた。
リ・エスティーゼ王国に仕える戦士団は王国戦士長ガゼフ・ストロノーフに率いられた精鋭ということなのだが…
(これで精鋭……装備もしょぼいし、ガゼフもあんまり強そうに見えない)
さっきまでカルネ村を襲っていた連中に比べれば幾分強そうではあるが、ダンテにその違いは分からなかった。
ダンテが戦士団を眺めている間、アインズとガゼフは情報交換をしていた。
すると戦士団の一人が慌てた様子で敵襲を伝えてきた。周辺状況、状況からみても法国の部隊が押し寄せてきたとしか思えなかった。
暫定法国の部隊はマジックキャスターの集団のようで、魔法を駆使して数多くの天使を召喚していた。
ダンテとアインズは顔にこそ出していないがうんざりしていた。
いや、ダンテはしっかり顔に出ていた。
「はぁ…」
声にも出ていた。
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現在ダンテは、村の一番大きな倉庫(村を襲った騎士達を詰め込んだ倉庫とは別)の屋根の上から法国の部隊との戦闘の様子を見ていた。
法国の部隊から村を守るため、アインズが防御魔法をかけた倉庫に村人達を集めて守りを敷いている。
屋上にダンテを配し、ダンテが殺した二人の兵士を使ってアインズが創造した
さらにアインズはエンリに《小鬼将軍の角笛》を二つ与えて身を守るよう言付けていた。
ガゼフが法国の部隊に後一歩でやられるのを確認してから、アインズはアルベドを連れガゼフと入れ替わるように戦闘に向かった。
アインズが消えたことで村人たちに動揺が走った。あまりの慌てぶりにダンテはアインズが戻ってきたガゼフの代わりに戦いに行ったことを説明した。
しかし、充分すぎる守りの中にありながら、村人たちは安心できないのか肩を寄せ合って震えていた。
ダンテは村人達がアインズがこの場からいなくなったことで放置されているように見える
ダンテはあまりにも暇なので《スパイラル》で敵を狙撃してみようかとも考えたが、出撃前のアインズとの会話を思い出して止めた。
『ダンテさん、申し訳ないけど今回はここで村人を守ってください』
『え?戦っちゃ駄目なの?』
『ダンテさんが戦いたいのはわかってますが、お願いします。譲ってください』
『あー、なんか理由があるっぽいね』
『よくよく考えたら、ここで何もしてないんですよ』
アインズはちょっとばつが悪そうな声でそう言った。
『考えてもみてください。村人達から見れば、実際村を救ったのはダンテさんです。私はすべて終わった頃にいきなり出てきて仕切り始めた魔法詠唱者』
『なるほど…』
『村人からすれば、ダンテさんの手柄を横取りしたように見えるんですよ。それはこれからのことを考えても良いことはなさそうなので、実績を作っておきたいんです』
『そういうことなら、仕方ないですね』
ダンテはよくそこまで気が回ると感心していたのだった。
同時に気にしすぎなのでは?という思いも抱いていたが、どう考えても雑魚しかいないのだから、実験にはもってこいとも言える。
そういう理由でダンテにしては珍しく戦いの場にいながら戦いに参加しない。お預け状態に甘んじているのだった。
ダンテとしては手柄とかどうでもいいから戦わせて欲しいというのが本音である。
ダンテが溜息をついていると、アインズ達が戦ってる方向で強烈な光が溢れていた。
光が収まると大きな天使がそこに存在していた。
(なんだ、
光り輝く光景に期待していただけに、失望感も強烈だった。
ダンテは戦いの終了を感じ取り、心底つまらなさそうに屋根から飛び降りた。
「ピザ食いてえ…」
ダンテはナザリックに戻ったらピザを準備してもらおうと心に決めた。
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カルネ村での一連の騒動から撤収し、アインズの私室でアルベド、デミウルゴスの二人を加えて情報の共有を済ませたところで
「アインズ、俺はナザリックを出て街を見てみようと思ってる」
ダンテはアインズにストロベリーサンデーを食べながら告げた。
「あぁ、奇遇だな私もそろそろナザリックの外を調査する必要があると思っていたところだ」
「それはアインズが行くのか?」
ダンテはアインズにスプーンを振りながら尋ねた。
「そのつもりだ」
「僭越ながら私は反対でございます」
「何故だ?アルベドも調査の必要性はわかっているだろう?」
「はい、必要でございます。しかしアインズ様御自ら赴く程のことではありません」
アルベドは、アインズのプレッシャーに負けることなく言い放つ。
「しかし、私自身が現場を知ることが適切な判断に繋がると考えている」
「アインズ様の安全に勝ることなどありません。どうしてもと仰るのでしたら、私をお供にお連れください」
「で?アインズとアルベド二人揃っていなくなって誰がナザリック管理するんだよ?」
ダンテがふと思ったことを口にした瞬間、アルベドの殺気の篭った視線がダンテを貫く。
「でも事実じゃないかい、アルベド?」
デミウルゴスから同意の言葉が発せられる。
「今、君がアインズ様から任されている仕事は、基本的にナザリックに居てこそ出来る仕事だ。それを誰に引き継ぐんだい?加えてナザリックの管理も行う必要がある」
「パンドラは?」
今度はアインズに殺気の篭った目で睨まれた。
「あー、はいはい」
ダンテはアインズがパンドラを出すつもりがないことを察してストロベリーサンデーに向き直った。
「パンドラズ・アクターには宝物庫の重要な仕事を任せてあるので現時点で表に出すつもりはない」
アルベドのその手があったかとでも言うような表情にアインズは先んじて却下を告げた。
若干納得のいかない扱いに面倒くさくなってきたので、アインズ、デミウルゴス、アルベドの3人で討論している姿を尻目にダンテは残りのストロベリーサンデーをかきこみ始めた。
「わかったわ…私はナザリックに居ることにします」
ダンテがストロベリーサンデーを食べ終えてしばらくした頃、デミウルゴスに何か耳打ちされたアルベドはやたら素直に引き下がった。
「しかし、アインズ様。御身が危険にさらされることに変わりはありません。何卒お一人で行かれるなどと仰られませんようお願いいたします」
デミウルゴスの矛先が急にアインズに向いた。
確かにアインズ一人で行くことは守護者の立場からすればとても容認できるものではないのはアインズも理解している。
「じゃあ俺と行くか?」
ダンテが提案する。
瞬間、アルベドの殺気の篭った目がダンテを貫く。
もう、ダンテはここにいる意味を見出せなかった。
(あー、はいはい。嫉妬深いお嬢ちゃんだことで…)
「こほん、ダンテ様はあくまで
すまし顔でアインズとダンテを近づけないよう意見もとい、苦しい言い訳を述べるアルベド。
ダンテはアインズのことになるとポンコツ化するアルベドに対し笑いを堪えるのに必死だった。
その様子ははたから見ていてもわかるのかアルベドからの視線がますます険しくなっていった。
見れば、デミウルゴスも苦笑いを浮かべていた。
アインズだけは表情が変わることはないが、困惑しているのが見て取れる。
「アルベド…本来こういった時に協力していただくのが外部協力者です。しかも、護衛という観点で見ればダンテ様ほど適任はいないのですよ?」
「………」
アルベドは涙目でダンテを睨む。
「はぁ…とはいえ、俺とアインズが行動を共にすることは戦力の無駄遣いだろう」
ダンテは不憫なアルベドに助け舟を出すことにした。
「この世界はどうにもレベルが低いみたいだし選択範囲を広げたら?」
「では、ナーベラルはいかがでしょうか?」
ダンテの援護にアルベドが復活した。
アルベドの提案したナーベラルという選択にも思惑があるのだが、それは今はいいだろう。
少なくとも、悪い選択ではない。
ナーベラルは完全に人型であるというのは大きな利点だ。
現状この世界の中に入れば無敵の強者足りえる強さもある。
「わかった、私はナーベラルと共に行くとしよう」
アインズはダンテと行くつもりだったので若干残念そうにしていた。
「じゃあ俺は━━」
「ダンテ様はお好きにどうぞ」
アルベドがダンテの言葉にかぶせるように言う。
(雑っ!まぁ、いいけど)
「では、私とダンテの間でのルールを決めておこうか。ひとつ、生存確認、情報交換のため定期的に連絡を取り合うこと。これはナザリックにいるアルベドも同様だ」
「かしこまりました」
「ああ」
アルベドはゆっくり頭を下げて承知の意を示す。
ダンテは素直に頷いた。ナザリックから離れたばかりに攻め落とされたとあっては悔やみきれないだろう。
そんなに強そうなやつはまだ影も形もないが…
「先ほども話したとおり、これからナザリックは情報収集のため能動的に動く。大きな動きがあるときはお互いに連絡を取ることとする。あと、なにか協力が必要なことがあれば連絡するというところか」
「まぁ、そこはユグドラシルのときと変わらないな」
「うむ。最後に行き先をお互いできるだけ伝えるよう心がけるとしよう」
「…了解」
ダンテは約束事が多いなと少しうんざりしていた。
「なにか不都合が生じた場合は、また随時相談ということで」
VS陽光聖典は原作どおり終了しました。
ニグンさん名前も出ることなく死亡…
基本的にさらっと流したところは原作(書籍版)どおりにことが進んだと思っていただければよいかと思います。
たくさんの閲覧、お気に入り、感想
本当にありがとうございます。
次回はついにナザリック脱出します。
またお時間ありましたらお付き合いください。