「……嘘だ…ろ?」
ダンテは絶望の表情を浮かべ項垂れた。
「あ?なんでそんなことで嘘つかなきゃいけないんだ」
腕を組んだ店の親父がダンテに怪訝そうに言い放つ。
「大体おめぇ、そのすとろべりぃさんでぇってのはどんな料理なのかすら想像できねぇ」
「……わかった。もういい」
ダンテはそう告げると店を出た。
「この世界は地獄かよ!!!」
店を出た途端、ダンテは昼間の人目も憚らず叫んだ。心からの慟哭だった。
地味な色合いの服の多い街で真っ赤なコート、加えて白銀の頭髪、背中に剣を背負った大男。
そんなダンテの風貌も相まって、凄く目立っていた。悪目立ちだった。
ダンテは今、城塞都市エ・ランテルに来ていた。
長い検問の末に到着したばかりだった。
早速調査と銘打って飲食店らしき店に入ってピザを注文、デザートにストロベリーサンデーと考えていたが、ストロベリーサンデーはなかったのだ。
(ピザも無かったら、この世界マジで無価値だな…)
ピザにしても似ているなにかだったので、ダンテが望むピザとストロベリーサンデーを食べようと思ったらナザリックに帰るしかなかった。
とりあえず、これ以上飲食する必要も、金銭的余裕もないのでダンテはアイテムボックスから《リング・オブ・サステナンス》を取り出して装備した。
リアルでも口にしたことが無いような美味い食い物を我慢したくはないが、無い袖は振れないのだ。
ともあれ、これで飲食不要となる。
「金を稼がないとな…」
ダンテは稼ぐ方法として自分にできることを考えた。
しかし、現状できることは戦うことだけだった。
一瞬、酒場かどこかでネヴァンで1曲とも考えたが、ネヴァンがノリノリで観客の精気を吸い取って昏倒させている様が目に浮かんだのでやめた。
(やるときはネヴァンに絶対吸い取らないよう言い含めてからだな)
あちこち見回しながらあてもなく歩いていると、ふと周りに比べて武器や防具を装備した物々しい連中が次々と入っていく建物があった。
ダンテは引き寄せられるようにその建物に入って行った。
ダンテが建物に入って一番最初に感じたのは多くの視線。
こちらを値踏みするかのような無遠慮な視線はダンテの全身をくまなく動くと首元を見た後外されているように感じた。
ここはエ・ランテルの冒険者組合。
ダンテを見ていたのはこの街の冒険者たちだった。
見知らぬ派手な男が入ってきた為、思わず目を向けた。
一見特に防御力もなさそうな赤いコートが目を引く、背中には剣を背負っているのだろうが正面からではよくわからない。
大半の冒険者は軽薄な笑いを浮かべた派手な男という印象をもっただけだった。
何より首からはプレートを下げてはいない。依頼者か新しく冒険者に登録に来ただけの男という判断だった。
ダンテはそんな視線を意にも介さず、あたりを見まわす。
目に入るのは正面のカウンター、壁の掲示板、そして多くの冒険者がたむろしている待合室のような空間だった。
(役所みたいだな)
ダンテはリアルの似た場所を思い出していた。
役所の割に武装した連中ばかりな事に違和感を覚えた。
しかし、ダンテは自分で考える必要性を感じずカウンターへ歩を進めた。
わからないなら聞けばいいだけなのだ。
「いらっしゃいませ、本日はどのようなご用件でしょうか?」
「あー、ここはなんだ?店?」
受付嬢の定型挨拶に対する、ダンテの一言に組合中がざわめいた。
「…え?はい、えっとここは冒険者組合です」
「冒険者組合?」
冒険者という言葉にワクワクしたダンテが問いかけた。
この世界、少なくともこの国において常識に近い冒険者組合のことを知らないダンテに受付嬢は一瞬うろたえるも説明を始めた。
「冒険者組合は冒険者、つまり組合に登録した方々に仕事の依頼や情報提供を行っています」
「………あー、OK、OKわかった。もういい」
長々と語る受付嬢にダンテは辟易していた。
ダンテの中で冒険者とは名ばかりで制限盛り盛りの傭兵という認識に落ち着いた。
(つまらなさそうだな…)
「それではいかがなさいますか?冒険者登録をなさいますか?」
「……いや、やめとく」
説明にあった国家間の戦争などにはそもそも興味はないので参加できないのは構わないのだが、その他政治不介入などの暗黙の了解についてがダンテには不満だった。
もちろんダンテは政治には興味はない。
ダンテが嫌がっているのは《暗黙の了解》というやつだった。
匙加減一つで意見がコロコロと転がる、例外の多さ…解釈の違いで振り回されるのが目に見えるのだ。
ダンテは冒険者組合を出ようと受付嬢に背を向けた。
「失礼ですが、旅の方ですか?」
「まぁ、そんなとこだ」
「でしたら、やっぱり冒険者がいいと思いますよ?」
「…そうなのか?」
ダンテは理由が分からず、引きとめた受付嬢に再び向き直った。
「はい。旅の方ということでしたら、行く先々でお金を稼ぐ必要がありますよね?」
「そうだな」
普通は訪れた先でしばらく休みながら働き、ある程度資金が貯まったら、また旅立つ。
少なくともこちらの世界では金だって大量にあり過ぎれば運ぶのも大変なのだ。
「伝手だったり、身分を保障できるものが無いと仕事に就くのは結構大変なんです。少なくともリ・エスティーゼ王国ではそうなのです。しかし、冒険者は組合で登録すれば仕事はありますし、登録していることこそが身分の証明になります」
「へぇ」
「いかがですか?」
ダンテは考えた。結局ダンテにできることは戦うこと、選択肢は多くない。
兵士、傭兵、あとはこの冒険者くらいのものだろう。
(一番自由が効きそうなのは冒険者か…)
「わかった、登録を頼む」
「かしこまりました。では私ウィナ・ハルシアが担当いたします」
ウィナと名乗った受付嬢は用紙を取り出す。
「こちらに記入をお願いします」
「………なんて書いてあるんだ?」
ダンテは字が読めなかった。
「……代筆いたします。お名前を教えてください」
「ダンテだ。よろしく頼む」
ウィナがダンテに質問をしながら用紙の必要事項を埋めていく。
「これで、ダンテさんは冒険者となります。最後にこれを…」
ダンテはウィナが差し出した銅板のネックレスを受け取った。
冒険者の証ということらしい。
登録料+代筆料をなけなしの手持ちから払い無事に冒険者として登録した。
「あと、ダンテさんは拠点を決めていないとのことでしたので、いくつか宿屋を紹介します」
「安いとこで頼む」
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「オラアアア!!」
ダンテは気合一発、握った相手の手を机に叩き付けた。
机に手を叩きつけられたその人物は勢いあまって床に転がっていた。
現在、ダンテはウィナに紹介してもらった宿屋にて先輩冒険者達の手荒い歓迎を受けて…はいなかった。
「いてて……くっそ」
「はっはー!もっと力をつけてから出直してくるんだな!」
ダンテはワインを瓶ごと呷り口元をぐぃっと腕で拭って床に転がった相手を指差した。
「次はどいつがやるんだ?こいよ!ビビってんのか?先輩方?」
「次は俺だ!調子乗ってんじゃねぇぞ新人!」
男はダンテを指差してにらみつけた後、ダン!と机に肘をついて腰を落とした。
「返り討ちだ!」
ダンテも机に肘をついて男の手をガッシリ握りこむ。
「よし、俺が合図をしてやる……レディ……ゴー!!」
別の男が合図を出すとダンテとダンテの手を握っている男が同時に力を入れた。
突発腕相撲大会開催中だった。
「ンウェー!!」
雄たけびと共にまたしても対戦相手を床に転がし勝利のポーズを決めるダンテ。
なぜこのような状況になっているのか、と問われても特に深い理由があるわけがなかった。
ダンテが取った部屋へ向かおうとした時、横からすっと足が伸ばされたのが始まりだった。
ようするに先輩冒険者達の新人冒険者に対する恒例の値踏みが元だった。
ダンテは暇なうえ金がなかった。宿代を払ったら素寒貧になっていた。
もう、こいつらで暇つぶししようと、思いながら足を払いのけテーブルに肘をついた。
「メンドクセーことしてないで勝負しようぜ」
腕相撲の文化があるか知らなかったが、単純な力試しだと説明してやればこの手の連中は食いつくだろうとダンテは確信していた。
その結果、宿屋内の酒場は現在大いに盛り上がっていた。
「お前ら、ヤル気あるのか?」
ダンテは冒険者達を煽りながら、これは勝利者の報酬だといわんばかりに負けた男のテーブルにあった肉にかぶりついた。
トトカルチョも始まり、この日の宿屋は深夜まで大いに盛り上がった。
その結果ダンテはしばらくの間の活動できるだけの金額を手に入れていた。あくまでこの宿屋で過ごすならばという注釈は入るが…
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翌日、ダンテは冒険者組合に顔を出した。
組合に入ると昨日と同様に、こちらを値踏みする視線が刺さる。
が、それだけではなかった。
「おう、ダンテ!テメェ遅かったじゃねぇか!」
昨日と違い、声をかけてくる男もいた。
この男は昨日の宿屋で腕相撲をした中の一人だった。
チームのメンバーと談笑しながらこっちに手を振っていた。
「あ?こっちは全員の相手させられて疲れてたんだよ」
ダンテは肩をすくめながらカウンターに向かった。
カウンターにはウィナがこちらに小さく手を振りながら待っていた。
「おはようございます。ダンテさん。昨日はよく眠れましたか?」
「いや、まだ眠いぜ」
「そうですか…体調がよくないのでしたら。依頼はまたにしますか?」
「いや、金は稼いでおきたい。実入りのいい依頼はないか?」
ダンテは昨日のうちから字が読めないことが分かっていたのでウィナに依頼を選んで欲しいと伝えていた。
「そうですね、カッパーのプレートで受けられるなかでは、この薬草の採取が安全で報酬も良い部類になります」
「薬草か…どんな薬草だ?」
ダンテは安全なのか…と少しあてが外れた思いを抱きながら詳細を確認する。
ウィナは薬草のイラストを見せながらダンテに説明したが、ダンテは薬草の見分けが全くできなかった。
イラスト通りの薬草を探すだけだというのに、他のイラストとの違いすら分からなかったのだ。
「無理そうですかね?」
ウィナはダンテの様子を見て、そう確認してきた。
ダンテも特に見栄を張ることなく「無理そうだ、全く分からん」と告げた。
間違い探しなど子供でもできるというのに理由は全く分からないが認識の阻害を受けてるようにも感じた。
「他にはないのか?」
「カッパープレートですと、戦闘が予想される依頼含めても今日はありませんね」
ダンテはカッパーの依頼のつまらなさに既に面倒臭いと思い始めていた。
(早いとこランク上げないと暇つぶしもままならないな…)
ダンテはランクが上がっても暇つぶしには至らないのではないかと薄っすら感じていたが、そこは考えないように努めた。
「でしたら、上位のプレートの冒険者に同行させてもらうのはいかがですか?」
「そんなことができるのか、なら頼む」
ダンテがそう返事をすれば、ウィナは立ち上がって掲示板を眺めている冒険者達のところへ駆けていった。
その後はあれよあれよという間に、ダンテはシルバープレートのチーム《漆黒の剣》の仕事に同行させてもらうこととなった。
リーダーで戦士のペテル・モーク、レンジャーのルクルット・ボルブ、ドルイドのダイン・ウッドワンダー、魔法詠唱者のニニャ。
お互いに自己紹介を済ませ、目的地へ向かっていた。
ダンテはこいつらすげぇお人よしなんだなと他人事みたいに考えていた。
普通に考えれば、誰が好き好んで新人なんて足手まといを連れて行きたがるだろうか。
ウィナの人柄なのか話術なのか、はたまた弱味でも握っているのか同行の許可を取り付けてきたのだ。
「では、ダンテさんにも今回の仕事について説明しておきましょう。まぁ、正式な仕事というわけではないのですが…」
仕事へ向かう道すがら、ペテルがそう言って、説明を始めた。
要するに、モンスター退治をするというだけのことらしい。
モンスターを討伐し、討伐の証としてモンスターの部位——を持ち帰ることでモンスターごとに決められた報酬が支払われる。今回はそれを主目的とした仕事ということになるとのことだった。
ダンテは信念として、悪魔を狩ることにしているのだ。
この場合の悪魔というのは心が悪魔であるということである、つまり人間であろうと悪魔のような非道を繰り返すような輩は狩りの対象であるし、悪魔であっても思いやりの心がある場合にはその限りではない。
それはモンスターであっても同じことだった。
今回に関して言えば、ダンテが私欲のためにモンスターを殺すということになる。
特に、今回の主な標的はゴブリンやオーガといった森から出てきた亜人種が対象となっている。
今更といえば今更だが、ダンテは気分がノらないでいた。
「………」
ダンテ…いや、ユーゴはこのアバターのオリジナル、Devil May Cryの主人公ダンテの父親であるスパーダの生き様に憧れているのだ。
悪魔でありながら人を愛し、絶対的な力を持って人を守る生き様に憧れた。
ユグドラシルにおいてそのことはあまり考えてこなかった。それはそうだろう、どれだけリアルに見えていてもただのデータでありゲームだった。
そこに生き様はないのだ。
しかし、ここはユーゴやモモンガの
それに気付いたときユーゴはゲームの時のように何もかもを殺すことは間違っているのかもしれないと考えた。
カルネ村で初めて人を殺してしまった日、その日の夜、一人になった時にも考えた。殺してしまったことに理性では(やってしまった)と思っていたはずなのに心では特に何も感じていなかった。心と理性の食い違いに困惑した。
スパーダのように人を守りたいのかと問われれば、守れるなら守りたい。
しかし、その辺の有象無象に比べれば、ナザリックの面々の方が優先度は高い。どちらかを選べと問われれば迷うことなくナザリックを選ぶ。
少なくとも、盲目的に人だけを守りたい訳ではない。
「ダンテさんはニニャの近くで待機!!」
ダンテが考え事をしている時、突如ペテルの声が耳を打った。
前方を見れば、ゴブリン15体とオーガ8体が森からこちらに向かってきていた。
ぼんやりしていたダンテはとりあえずペテルの指示通りニニャの隣まで下がって、漆黒の剣の面々の戦いを眺めていた。
──
ダインがオーガの足止めを行い。
──
ニニャが魔法で牽制と攻撃を行い。
──武技!要塞!!
ペテルは武技で防御を固め。
ルクルットは次々と矢を放ちゴブリンを攻撃していた。
ダンテから見れば、正直漆黒の剣は弱かった。
しかし、弱いなりにチームで助け合って生き延びてきたのだろうと思わせる程度には連携は取れていた。
良いチームだとダンテは感じた。経験さえ積めばかなりのものになるだろう。
ダンテは意を決するようにふぅとため息をついた。
迷ったら守りたいものを守る。それがダンテの出した答えだった。
どうしても人間寄りになってしまうことは間違いないが、カルネ村を助けたその晩、寝る前の3分悩んだ末の答えだ。
スパーダみたいにはなれないかもしれないが、悩んでも分からないことが分かったので悩むのはやめたのだ。
背負ったリベリオンを抜き放つ。
「え?ダンテさん?」
ニニャがダンテの行動に気付いたのと同時にダンテは飛び出した。
ダインの魔法による足止めを抜け出そうとしているオーガに対し突きを放ち、胸に大きな風穴を開ける。
ついで、飛び上がりながら近くにいた別のオーガを両断し、空中で《災厄兵器パンドラ》を構える。
パンドラが機関銃の形に変形するとダンテは掃射を開始した。
射線上にいた残りのオーガは弾丸の雨に身体のあちこちを吹き飛ばされながら絶命した。
ダンテは掃射を止め着地すると、パンドラを大きく振りかぶって投げた。
投げられたパンドラからは刃が飛び出しており、まだ生きていたゴブリンの首を次々と撥ねてブーメランのようにダンテの手元に戻ってきた。
モンスターは全滅していた。
その一連の動作を見ていた漆黒の剣の面々は固まっていた。
「ふぅ……」
ダンテは一息つくとパンドラを地面に置き踏みつけた。
「ちょっ、ダンテ!お前今一体何をしたんだ!?つか、武器?なんだそれ?」
「うぉっ!?ちょっと待て、待てってば」
硬直からいち早く立ち直ったルクルットが慌てたようにダンテに駆け寄って肩をつかんで揺さぶった。
揺さぶられた拍子にパンドラを押さえてたダンテの足が離れてパンドラが開いてしまった。
パンドラから漏れ出した光がパァッと一気に大きくなりあたりを包み込む。
直前でダンテが慌てて閉じた。
「あっぶねぇ…皆揃ってアフロになるところだったぞ」
「「「………」」」
ルクルットはダンテの肩を掴んだまま呆然とし、ニニャは屈み込んでガタガタ震えていた。
ペテルとダインはそんなニニャを守るべく各々武器を構えていた。
「……アフロで済みますか?」
光が収まったことで落ち着いたペテルが武器をしまいながらダンテに尋ねた。
ニニャの怯え様からペテルは今のがとんでもないものだと感じていた。
「さぁな」
ダンテはヘラっと笑って流した。
多分無理だっただろう。
極短時間の使用のためパンドラのチャージがほぼ出来ていないので先の光に包まれたところでたいした威力にはならないはずなのだが、漆黒の剣くらいのレベルだと消滅は免れないだろう。
ダンテはパンドラをアイテムボックスに収納した。
実際パンドラの実験は不十分で、先の光《PF666 オーメン》はまだ確認していなかったのだ。
設定上エリア全域への広範囲攻撃に分類されるが、ユグドラシルと違ってその範囲は不透明であるし、攻撃対象が自身も含まれる可能性も捨てきれないため、アインズと相談した結果、現時点で使用禁止が決定されているのだ。
「語り合いたいことは山程あるが、先にモンスターの処理をするのである」
「そ、そうだな。皆手分けして換金部位を集めよう」
その後、ダンテと漆黒の剣の面々はダンテによって無残にも飛び散った残骸から換金部位を苦労して集めるのだった。
その間ニニャはダンテに一切近寄ることはなかった。
(嫌われたか?……俺臭いのかな?)
ダンテは血でも浴びてしまって臭いのかと身体の匂いを確認していた。
とりあえず、血を浴びたわけでもないので、ニニャのことは一端放置とし、ダンテはペテルについて換金部位を集めることにした。
『ダンテさん、今大丈夫ですか?』
『大丈夫ですよ』
アインズからの
『明日、私とナーベラルもエ・ランテルに行きます。あと昨日のうちに伝えておきたかったのですが、繋がらなかったので…今日、セバスとソリュシャンがエ・ランテルに到着します』
『…了解』
『そうそう、私達は一応冒険者として名を上げるつもりでいます。ちょくちょく協力してもらうことがあると思うのでお願いします』
『あ、アインズさんも冒険者やるの?』
『ってことはダンテさんはもう、登録を済ましているんですか?』
『あー、身分証明できないから仕事できそうになかったし…なりゆきで』
『どうですか?冒険者』
『これはね、詐欺だよ。期待しないことをオススメする』
『…そうですか、残念です。そうそう、一応私達は《モモン》と《ナーベ》ということで登録しますので、会った際にはそちらでよろしくお願いします』
『名前変えるんだ…まぁ了解だ。俺はダンテのままだから』
『わかりました。それじゃあまた明日』
アインズはそう告げると
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その後、何度か戦闘を繰り返し、エ・ランテルに戻ってきて換金を済ませると、漆黒の剣の面々とささやかながら打ち上げを行うことになった。
「「「カンパーイ」」」
漆黒の剣が逗留している宿屋の酒場でジョッキをぶつけ合う。
「いやぁ、ダンテのおかげで稼げたなぁ」
ルクルットが上機嫌に酒を煽りながら笑う。
「俺としては歯ごたえなさ過ぎて詰まらなかったんだが…」
「ははは……なんか強さが段違いすぎて嫉妬する気持ちもわかないですよ」
「ダンテ氏の強さ、お見事である」
「それにしてもダンテさんは強さもそうですがかなり多くの武器を扱っていましたよね?」
口々に今日を振り返る。
ニニャの言葉通りダンテは今日そこそこの数の武器を使用していた。
「そうだったか?」
ダンテはいつも無意識で武器を切り替えているので何をどれだけ使ったかはあまり覚えていなかった。
いくつか試した結果、雑魚狩りには《アルテミス》が効率が良いということで最終的にはアルテミスしか使っていなかった。
イフリートで炭化させてしまったり、ベオウルフで爆散させてしまったりで結構な数のモンスターの換金部位を無駄にしていた。
その点、アルテミスはレーザーを発射し複数の敵を最低限の損傷でしとめられることからとても重宝したのだった。
「あれほど多くの武器を使いこなすにはなみなみならぬ努力が必要なのである」
「そうだな、それにジュウって言ったか?あれも凄かったな」
ルクルットはダインの言葉に同意しながら銃について思い出していた。
「弓よりも遠くを早く攻撃できるなんて…弓の存在価値がないじゃないか!」
「何言ってるんだ、弓は静かに攻撃できるだろ」
銃の音というのは結構遠くまで聞こえるものなのだ、1対1で増援の心配がなければ強いのだが、そうでない場合には敵に居所を教えることになりかねない。
「それは、そうだけどよぉ……」
「ルクルット、そんなこと文句言っても仕方ないだろ?ジュウというのはこの辺では手に入らないんだから」
「なにより、凄く値が張りそうなのでボクたちには手が届かないと思いますよ?」
「ないものねだりするより、自分を鍛えるのである」
ルクルットの言葉に他のメンバーは各々たしなめる言葉を放つ。
「それより、ダンテさん。そのジュウというものの矢に当たるものはどうしているんですか?」
ニニャはふと思いついた疑問をダンテにぶつけた。
「矢?あぁ、銃の場合は弾って言うんだが、魔力で生成している」
正確には魔力で生成しているものもあるといった感じだ。
アルテミスは純粋な魔力で放っているが、エボニー&アイボリーなどは実際、アイテムとして溜め込んでいる弾丸を消費しているのだ。
この弾丸の補給についてもおいおい考えていかなければならないだろう。かなりのストックがあるが限りはある。
とはいえ、スクロールなどと違いありきたりな鉄などから作成できるのでそこまで心配はしていなかった。
「つまり、魔力がないと撃てないってことですか?」
「まぁそうなるな」
「聞いていいのか分からないんですけど、ダンテさんは魔法も使えるんですか?」
ニニャはダンテが魔力を使用していることを戦闘中に気付いていたのだ。
「いや、俺は使えない。魔力は持っているだけだ」
これも、正確には「戦闘に使える魔法は使えない」である。
「まぁ、とにかく魔力がなければ使えないならルクルットにはどのみち使えないってことだな」
「そうであるな」
「うるせえよ」
ニニャを除いた三人が朗らかに笑っていた。
「それより、ペテルが攻撃を弾いていたときに違和感があったんだが…」
ダンテは戦闘中に見た違和感について尋ねてみた。
それは武技のことであり、ダンテはその時初めてこの世界における特殊な技について知ることとなった。
ダンテは武技とタレント、それらのことについて情報を集めることにした。
ニニャも魔法習得が半分になるタレントを持っているという話を聞くことが出来た。ユグドラシルでは一瞬で魔法を覚えるため、それがどれほど凄いことなのかダンテはピンと来ていなかった。
しかし、それより凄いタレントを持っているという人間がこのエ・ランテルに居るという。
ンフィーレア・バレアレ。
いかなるアイテムをも使用できるという。
たとえばスクロールなどはその魔法適正がなければ使用することはかなわないが、ンフィーレアには使えるということだ。
特殊な条件のあるマジックアイテムも同様だ。
例えば、女性限定であっても男性のンフィーレアは使えるという。
(なんだそれ、チートかよ…)
一方でアイテムの使用によるデメリット面、たとえば経験値の消失などが上げられるが、その辺はどうなっているのかダンテは気になっていた。
(とりあえず、アインズには伝えておこう)
今回から原作(書籍版)と運命が変わる人が出てくる予定です。
ダンテに出会うことでどのように変わっていくのか…妄想が捗ります。
また次回、お時間ありましたらお付き合いください。
そして、たくさんの閲覧、お気に入り、感想、誤字脱字修正ありがとうございます。
本当にありがとうございます。