とりあえず、ひとつ言えることは取り付けは業者に頼むべきだったってことです。
疲れました…
次回への繋ぎのお話。
「昼間のモモンさんの戦闘、凄かったですね」
「そうですか?ありがとうございます」
ンフィーレアの言葉に、若干照れながらモモンことアインズがお礼を言う。
街の薬師ンフィーレア・バレアレ──先日ダンテから超希少タレントの持ち主であるという情報を貰った少年──からの薬草採取の護衛依頼を受けていた。
冒険者となるにあたりモモンは漆黒のフルプレートを纏う偉丈夫として、ナーベ──
モモンが本来の魔法詠唱者としてならともかく剣士モモンとナーベの二人だけでのンフィーレア護衛は難しいと判断した。
そこで、たまたま一緒にいた冒険者チーム漆黒の剣を仲間に加えていた。
現在モモン達一行は焚き火を囲みながら語り合っていた。
話題は、昼間に遭遇したモンスターたちとの戦闘についてだった。
「しかし、こうも短期間にオーガの両断をやってのける人物を立て続けに見てしまうと自分の弱さが嫌になりますね」
ペテルが苦笑いを浮かべながら愚痴のようにこぼす。
その言葉に漆黒の剣の面々はうんうんと頷いているが、残る3人はよく分からないといった表情を浮かべていた。
モモンの表情そのものは分からないが、首をかしげていたのでよく分かっていないのだろう。
もっとも、モモンとナーベの分からないとンフィーレアの分からないでは意味合いが全く違う。
前者はオーガの両断くらいそこそこの物理攻撃力があれば誰でも可能だろうという考えから来るもので、後者にいたってはオーガの両断の凄さが分かってないだけだった。
「ダンテ氏であるな」
「ダンテですか?」
ダインの言葉にモモンが聞き返す。
「あれ?モモンさんダンテの事知ってるの?」
「そのダンテが銀髪、赤コートでテンション高めに戦う大男なら知り合いですが…」
「特にテンションが高いという感じはしませんでしたけどそれ以外の特徴は一致してますね」
(あぁ、敵があんまり弱いんでテンション上がらなかったのか…)
ニニャの返答にモモンはそんな風に結論付けた。
「テンションの話はともかく銀髪赤コートなんてダンテ以外見たことないし、ほぼあたりじゃないの?」
「きっと、そうでしょうね。それにしても驚きました。まさか皆さんがダンテに会っていたなんて」
「意外と世の中は狭いですね。それにしても強い人は強い人と引かれ合うんですかね?」
「ダンテ氏もモモン氏に劣らぬ戦士であったからな」
うんうんと頷く漆黒の剣の面々。
「いや、今の私ではダンテの足元にも及ばないですよ」
皆さんにそう言って頂けるのは嬉しいですけどねと付け加えてモモンは言った。
その言葉に漆黒の剣の面々は驚きとモモンの謙虚さに驚いていた。事実ではあった。
今のモモンは魔法詠唱者が魔法で作った鎧と剣を装備して戦士の真似事をしているだけなのだから当然といえば当然だった。
漆黒の剣の面々にはレベルが高すぎて分からないのだが…見る人が見れば一目瞭然といえる。
「でも、知り合いなのでしたら一緒にチームを組まないのですか?」
ペテルの問いにモモンは苦笑いで答えた。
「いや、ダンテはちょっと自由すぎてチームを組むのはしんどいといいますか…」
「「「あぁ…」」」
モモンの答えに漆黒の剣の4人は納得したように頷いた。
モモンは漆黒の剣の中においてもダンテのスタンスがブレていないことに少し笑ってしまった。
「ところで、ナーベちゃんもダンテのことは知ってるの?」
「……
「ナーベ」
ルクルットの質問に嫌悪感を隠そうともしないナーベを諫めるモモン。
「…ダンテ様のことはもちろん存じています」
「ダンテ様…って」
「……?」
ルクルットの驚愕の表情に何かおかしなことを言ったかな?と首を傾げるナーベ。
「こほん!私達はちょっと周辺を見回ってきます。行くぞナーベ」
「はい、モモン…さん」
このままだと、テンパったナーベが何を言うか分からないと直感したモモンはナーベを連れ出したのだった。
「……えーと」
「モモンさんがライバルなのかと思いきやダンテかよ!モモンさんならともかくダンテに顔面偏差値勝てる気がしねぇ!」
ニニャが苦笑している横でルクルットが悶えていた。
「やめろルクルット…モモンさんにかなり失礼なことを言っているぞ」
「顔など関係ないのである。あれほどの強さの御仁のそばにいるのだから元々勝ち目などないのである。」
「皆さんはモモンさんの顔をみているんですか?」
ンフィーレアが反応した。
「えぇ、国外の人なのは間違いない顔立ちをしていましたよ」
「どこの国の人ですか?」
「そこまでは聞いていませんが…どうしたんです?」
ンフィーレアのあまりの食いつきにペテルが問いかけた。
「あ、すみません。この辺では使われていないポーションとかあるのかなって気になってしまって」
もともとンフィーレアがモモンにこの依頼をもち掛けた理由でもあった。
モモンが宿屋で起こした騒ぎの末、ある冒険者に渡した赤いポーションの秘密を探るためなのだ。
「ところで、先ほどから気になっていたんですけど、オーガを両断するって言うのはどれほど凄いことなんですか?いまいちピンとこなくて…」
「そうですね…たしかにオーガと近接で戦ったことのない人にはわかりにくいかもしれませんね」
話題をそらすかのように投げかけられたンフィーレアの質問にペテルが答える。
「一概に言えるものでもないと思いますが、モモンさんはかの王国戦士長に匹敵するのではないかと思っています」
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モモンたちが語り合っているのと同じ頃。
薄暗くなりつつある時間帯、ダンテは路地裏をゆったり歩いていた。
裏路地は立地の問題もあって薄暗い程度の時間帯であっても夜のように暗かった。
普通であれば明かりが欲しいと思うような中ダンテは特に気にした様子もなく歩いていく。
ダンテは特にやりたい依頼もなかったので、今日はゆっくり街中を歩いていた。
依頼を受けないとはいえ、宿屋で一日中寝てるのも勿体無い気がして街に繰り出したはいいが、やることはなく、なし崩し的に街をぶらぶらしているだけだった。
ふと、風に乗って血の匂いがダンテの鼻をくすぐった。
ダンテはニヤリと笑い野次馬根性を隠そうともせずその血の匂いのもとへ向かうことにした。
路地を曲がるとそこには地に倒れ伏した数人の男と、話をしているらしき男女がいた。
しかし、男は身体に傷を負っているようで血を流しているにも関わらず和かに女と話をしていた。
一目で異様な光景だとわかる状況だったが……
「なんだ、人間同士か」
ダンテは興味を失ったように踵を返した。
「ねえ、お兄さん。覗き見はちょーっと趣味が悪いんじゃない?」
「なんだよ、こんな往来でおっぱじめる方が悪いだろ?俺はお楽しみのところ邪魔しちゃいけないと思って空気を読んだつもりなんだが?」
背後からかけられた声にダンテは振り返ることなく返事をした。
「それなら、もう一歩空気読んで一緒に気持ちよくなろうよ」
「はっ!とんだ痴女だな!」
ダンテは女の言葉に笑いながら振り返った。
──ビュッ!
女のスティレットがさっきまでダンテの顔のあった辺りを突き抜ける。
ダンテは首を傾けて躱していた。
「しかも、せっかちだ。どうせならゆっくり楽しもうぜ」
「……もう、待ちきれない!」
女はそう言うと連続で突きを放つ。
対するダンテはその怒涛の突きを危なげもなく避け続けた。
突く、突く、突く……
≪疾風走破≫、≪流水加速≫、≪能力向上≫、≪能力超向上≫
突く、突く、突く……
最初に比べ、速さも強さも段違いに上がった突きを続ける女に対し、ダンテはまるで踊るように回避していく。
「な、なんで……」
「ん?終わりか?」
女の突きが目に見えて鈍ってきたのでダンテは声をかけた。
女は明らかに疲弊していた。
「このクレマンティーヌ様がこんな男にっぃぃぃ!!」
「クレマンティーヌっていうのか、いい名前だな」
「くっ、このぉおおおお!!!」
フェイントも織り交ぜクレマンティーヌの戦士としての経験全てを注ぎ込んだ攻撃を繰り返すが、フェイントには反応せず、実際に当てるつもりの攻撃のみが避けられる。
「くっ……これでっ!」
クレマンティーヌが悔しそうに一旦、距離を取って短距離走のクラウチングスタートをさらに低くしたような姿勢をとる。
(あのにやけ面、目玉に刺し込んでやる…)
──ダンッ!!
地面を踏み込んだ音とは到底思えないような破裂音に近い音を残してクレマンティーヌは疾走する。
スピードと全体重をかけた一撃をダンテに与えるつもりだった。
「あっ、ストップだ」
気の抜けたようなダンテの声とともにクレマンティーヌの頭に急激な過負荷が与えられた。
ダンテがクレマンティーヌの頭に手を置いて走るクレマンティーヌを押しとどめたのだった。
この世界でもトップレベルの速さを誇るクレマンティーヌよりも早く彼女に接近したダンテを当の本人は何が起きたか分からないといった表情で見上げていた。
「腹減ったから帰る。アディオス!セニョリータ!」
「はぁ!?ちょっと待てテメェ!!」
クレマンティーヌとすれ違うように去ろうとするダンテを止めようと振り返るが、もうそこには誰も居なかった。
「…………なんなのよ!!あー!!もう!!!首痛い!!」
暗い路地裏でクレマンティーヌは一人地団駄を踏んだ。
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翌日、ダンテは冒険者組合で受付嬢のウィナに依頼を見繕ってもらっていた。
「今日はオススメというかお願いしたい依頼があるんですけど…」
「へぇ、どんな依頼なんだ?」
カッパープレートで受けれる依頼はどれもダンテには興味のないものばかりなのでお願いというのなら受けるのも悪くない。とダンテは思った。
「実は昨晩、シュリー商会のシュリード氏のご令嬢が行方不明になったようなんです。人命が懸かっていますのでランクに関係なく協力者を募っています。発見者には相応の報酬を出すとのことです。発見でなくても有力な情報にも報酬があります」
「OK、それやるから、詳しく」
「ありがとうございます。ですが捜索を始めたばかりで情報は殆どありません」
「昨晩だしな、仕方ないか…分かる範囲でいい」
人相書き、背格好などの情報をウィナから得たダンテはまずは街をまわることにした。
行方不明になったのはレイラ・シュリード(16)小柄ながら男受けしそうな身体つきの女らしい。
自宅周辺の簡単な聞き込みの結果、レイラは引っ込み思案な性格でありながらも礼儀正しく、時間があれば本を読んでいるような女であるとのこと。
友人も少なく、典型的な箱入りお嬢様といったところだろう。
次にダンテは自らの勘に従い墓地へ来ていた。
一見関係などなさそうなものだが、勘なのだから理屈ではないのだ。
少なくとも一番内側の城壁内にいるとは思えなかった。
ダンテは広大な墓地の数ある霊廟の中、なんとなく気になった霊廟を調べてみることにした。
「………この霊廟だけ妙に人の出入りがあるな」
他の霊廟に比べて埃が積もっていないのだ。
不自然な点はあるものの、レイラ失踪についてはあんまり関係なさそうな気もしていた。
「おいお前、そこで何をしている」
「あ?」
ダンテが本腰を入れてこの霊廟を調べようとしたところに声がかかった。
複数人の男達がダンテを半包囲するようにしてこちらを伺っていた。
首元を見ればプレートが光っている。
「なんだ、お前も冒険者か…カッパー風情が一人で何をしているんだ」
ダンテが男達のプレートに気付いたのとほぼ同時にむこうもこちらのプレートに気付いたようで、最初に声をかけたときと比べて明らかに見下したような言葉を放つ。
チームのメンバー達はダンテが冒険者だと分かると包囲を解いた。
しかし、最初に声をかけてきた男は相変わらずダンテを睨んでいた。
「レイラ・シュリードを探しているんだが?」
「お前もレイラかよ…ちょうどいい、持ってる情報寄こせ」
「何も掴んでねぇよ、話は終わりだな?」
ダンテは虫を払うようにしっしっと手を払う。
「おいお前、先輩に対する礼儀がなってねぇんじゃねえか?」
男はあしらわれたことに青筋を立ててダンテの胸倉を掴む。
男の仲間が止めようとするが男はその制止を振り払う。
「そいつは失礼、どこの先輩か知らねぇがカッパーごときに噛み付くクソ暇な先輩?」
ダンテの物言いに掴みかかっている男はもちろん、それを止めようとしていた仲間達の表情までも強張った。
「てめぇ!俺達がミスリル級の《クラルグラ》だと分かっていて言っているんだろうなぁ!」
「クラルグラ?知らねぇな、ってかそれミスリルだったのか?色が似てるから銀かと思ってたぜ」
「どうやら痛い目見ないと分からないようだな」
男は片手でダンテの胸倉を掴んだまま、もう片方の手でナイフを引き抜いた。
「ぎゃあああ!!」
首筋に当てて脅してやろうと思った次の瞬間にはナイフが自らの太腿に突き刺さっていた。
「イグヴァルジ!!」
クラルグラのチームメンバー全員が武器を構えた。
瞬間全員が霊廟の中から吹き飛ばされた。
吹き飛ばされたことによるダメージはない。
咄嗟に態勢を立て直し武器を構え直した。
──ザシュッ!
「ごふっ!」
「……へ?」
メンバーの一人が構えた剣にイグヴァルジが突き刺さっていた。
理解の追いつかないメンバー達はダンテの方を見遣る。
そこには先ほどまでと全く表情の変わらないダンテがいた。
ただ、胸倉にはイグヴァルジの腕だけがぶら下がったままの状態だった。
リーダーが戦闘不能で混乱しているメンバーはこの状況をどうしたらいいのか考える余裕もなくなっていた。
ふと、ダンテが頭を掻きながら近づき剣に突き刺さったままのイグヴァルジを見下ろす。
「やりすぎちまったか?…このままじゃ死ぬかな?」
もとよりダンテに殺すつもりはなかったので、アイテムボックスからポーションを取り出し、イグヴァルジにふりかけた。
流石に切断された腕が繋がるほど回復はしなかったが、とりあえず命の危機は脱したようだった。
「とっとと行けよ」
ダンテはイグヴァルジの腕を放り投げ、再びしっしっと手を払う。
クラルグラのメンバーはイグヴァルジを抱え一目散に逃げていった。
「……ったく、無駄な時間を使っちまった」
本来ダンテはここまでのことはしない、あの程度のやっかみであればヘラヘラ笑い、からかいつつその場を立ち去るだけだっただろう。
ダンテはイライラしていた。原因はクラルグラではなくレイラ失踪事件だった。
勘ではあるが、レイラの失踪が事故ではなく誘拐だとダンテは確信していた。
その手の弱者を狙った犯罪が本気で許せないのだ。
これはダンテとしての設定ではなくユーゴとしての本音の部分。
「くそっ」
──ダン!と霊廟に拳をぶつける。
衝撃でグシャリと霊廟が潰れてしまった。
しかし、ダンテは気にせず歩き始めた。
『アインズさん?今大丈夫?』
ダンテは墓地には何かありそうなことをとりあえず、アインズに伝えようと
『ダンテさん?急ぎでないなら後でもいいですか?』
『OK、アルベドにでも伝えとくから、彼女にでも聞いておいてくれ』
ダンテはそう言うとアインズとの通信を切り、アルベドに繋ぐ。
『アルベド、聞こえるか?』
『…ダンテ、様ですか。どうかしましたか?』
明らかに不機嫌そうにアルベドが返事をした。
『そう怒るなよ。最近ちょっと露骨だぞ?アインズは何も言わないが絶対気付いてるからな?』
『……それで、どのようなご用件でしょうか?私も暇ではございませんので』
『まぁいい。エ・ランテルに墓地があるのは知ってるな?そこがどうにもきな臭い。方法は何でもいい調べてみてくれ』
『きな臭い…?一体何を根拠に』
『勘だ』
『勘ですって?それでナザリックの戦力を動かせと?ふざ───』
『アインズのために情報を集めてやってくれ。後にアインズから連絡を入れるように言ってある』
『承知いたしました。エ・ランテルに潜入中のシャドウデーモンを数体墓地に向かわせます』
見事な手のひら返しだった。
ダンテは
そして、日が暮れるまで門の付近で聞き込みを始めた。
この後アルベドはアインズからの連絡がいつ来るかそわそわしながら待ち続けることになった。
しかし、当のアインズが完全に忘れていた為、アルベドは待ちぼうけになってしまったのだった。
「なぁ、エ・ランテルって娼館ってあるのか?」
「…ぶはっ!!なんだダンテ!!溜まってるのか!?」
「やめとけ!やめとけ!俺じゃ手も出ない金額だぜ?」
宿屋に戻ってきたダンテはいつから飲んでるのか分からない冒険者達に話しかけた。
「確かに溜まってるけどな!……で?」
「なんだ、本当に行くのかよ」
「《琥珀の蜂蜜》、《天空の満月亭》、《紫の秘薬館》このあたりが有名どころだな、それだけに馬鹿高いがな」
「……おう、ありがとな。一杯ずつ奢るぜ」
ダンテは適当に金をテーブルに置くと、そのまま宿屋を出て行った。
情報を教えた冒険者達は珍しいものを見たとでも言わんばかりの表情でダンテを見送った。
「なんだ、ダンテのやつ変なものでも食ったか?」
「あいつが物食って、おかしくなるタマかよ」
「お前ら分かったようなこと言ってるけど、あいつまだこの街来て3日だけどな……」
「馴染みすぎだろ」
まじめに働くダンテには違和感しかない…
それはともかく、早いもので投稿を始めて約1ヶ月。
1週間に一本とかが関の山かななんて考えていましたが、皆様のお気に入り、評価、感想のおかげでモチベーションが上がり思いのほか執筆が進みました。
本当にありがとうございます。
感想への返信は遅れることもありますが、時間が出来次第やっていきます。
それにしても、感想を拝見しているとアルベドへの違和感がやばいみたいですね…
自分の中だけで折り合いつけてても仕方ないんで、一区切りな時にでも幕間みたいな感じでアルベド編でも挟みますかね。
次回はこの続きです。一区切りつけれると思います。
そしたらアルベド編へ…
お時間ありましたら、次回もお付き合いください。