『キリトさん!!』
突然頭に響いてきたその声に、一瞬反応が遅れる。爪のひっかき攻撃。軽い攻撃だからHPは急ぎ回復するほどは減っていない(安全マージンをとって攻略していた時なら別だが)。そんなことよりもこの声の主、ユイと別れたときのことを思い出す。随分と酷い別れをした。そんな相手からの突然の呼びかけ。
『キリトさん、聞いてください!今、The Queenと接敵していることと思います。天井から吊るされている女王個体は、自分の産んだ卵たるEgg Chamberを攻撃すると、激昂状態になり下りてきます。とにかく卵を壊してください!』
「卵?こいつのことか・・・!」
オブジェクト名、Egg Chamberに刺突攻撃を放つ。見慣れた蛍光緑の液体をまき散らして壊れるそれは、すぐに破壊エフェクトに変換される。そして―――
グェョィイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイ!!!!!!!!!!!!!!!!
喚き散らす女王個体の醜さたるや。そして自ら拘束を外し、いや、引きちぎり。排卵管を引きはがして今、女王は地に降り立つ。
フスゥゥゥゥゥフスゥゥゥゥ・・・・・・・・・
とても冷静とは見えない呼吸。まるで闘牛を相手にしているように思いつつ、キリトは素早く装備を切り替える。返り血による消耗で、武器の切り替えには慣れている。煌びやかなエフェクトに包まれて、二振りの片手直剣が背中に現れる。この剣を持つのはいつぶりだろうか。まだ一月も経っていないのに、もう何年も握っていなかった気がする。漆黒の剣『エリュシデータ』。それに対を成す闇を祓う剣『ダークリパルサー』。それぞれの剣を抜き放ち、口の中で小さく呟く。
「重いぞ、この剣は。」
まっすぐ突っ込んでくる女王を軽くいなす。しかし、その程度では女王の攻撃は止まらない。後方に回り込んだキリトめがけて尾による刺突攻撃。槍のように長いリーチは埒外の攻撃となりキリトを襲う。避けるタイミングを逃したと瞬時に察し、エリュシデータの腹に当てて攻撃をそらす。好機と捉え、そのまま背中へ切り込みに駆けだす。これが槍による刺突攻撃であれば模範解答であったが、実際には違う。変幻自在な可動域をもつ尻尾は、そのまま穂先をぐるりと変え、再びキリトの頭へと向かう。あと数センチというところまで尻尾が差し迫る瞬間、ガクリとキリトは体制を崩す。
いや、体制を変えた。腰を落とし、二対の片手直剣を交差させるこの独特な構えから放たれる剣撃は実に十六連撃。尻尾による攻撃をあきらめ、身体を正面に向けた女王が最後に見たのは、二色の残像のみ。上下左右、女王より圧倒的に小さい身から繰り出されるそれは、何時間にも感じるほどに長く、しかしほんの刹那の出来事。
この十六連撃はユニークスキル『二刀流』を持つものにのみ許された英雄の技。この世界で最も反応速度に長けた人間だからこそ扱えるソードスキル。
「スターバースト・ストリーム!!!!!!!!!!!!!!!!」