私はリゼを次期トップする使命があります。
私はアールグレイを守る使命があります。
私はダージリンを次期トップにする使命があります。
私は、誰のために進むのか
決勝4日前
「残念ですが、先の黒森峰戦にて我々は切り札を使い切りました。よって我々が得意とする浸透強襲戦術を小細工なしで実施するのが、ベストと考えます」
「正面から戦うと?」
「そうです。我々は対黒森峰として、様々な対策を施し、そして勝利しました。しかしその対策はもう使えません。何故なら決勝戦の相手であるプラウダに、黒森峰戦を研究されているからです」
「確かにプラウダは黒森峰と同じ重戦車をメインにしています。先の試合から対策を講じる可能性は高いですね。では4日後の決勝戦は、正々堂々正面からプラウダを打ち負かせばいいのですね?」
「その通りです。アールグレイ様」
「じゃあいつものようにダージリン小隊、リゼ小隊が前衛とし、私の小隊が後方という陣形にしたいと思うのだけど・・・アッサム」
「はい。当日は大雨の予報となっています。また過去プラウダとの練習試合及び公式試合の結果では勝率は4割となっています」
「「「・・・」」」
「水樹?」
「何でしょうか?リゼ様」
「あるのでしょう?」
「何がでしょうか?」
「必勝の作戦が」
「・・・」
「先ほどの話では貴方は「切り札を使いきった」といいましたね」
「はい」
「しかし、先の黒森峰戦のように、「隠した作戦」があるのでは?」
「そ・・それは」
「我々は今現在負けても準優勝という偉業を達成します。しかしそれでは納得できませんわ。「優勝」へ手が届く位置に居ながら、それを諦める訳にはいきません。わかりますね?」
「はい」
「さぁ、話しなさい。どのような作戦でも、それをフォローするのが上級生の役目・・・そうですわよね、アールグレイ様?」
「そうね。水樹、もしも他に作戦があるなら、ここで報告しなさい」
「過去のプラウダの戦術は、知っての通り、囮を使います。そして釣られてやってきた車両を両側から集中砲火・・・勿論フラッグ車は安置で待機しています。おそらく護衛は2~3両となります。それへの対策としては、囮にワザと釣られます。釣られた部隊は、両側からの集中砲火から逃れず、反撃します。そしてのその隙に、安置にいるフラッグ車を撃破します」
「なるほど」
「しかし、問題があります」
「攻撃力?」
「はい。この作戦を成功させるには、速さが重要になります」
「相手のフラッグ車を探し出し、撃破する・・・探し出す役目はクルセイダー、でも攻撃力不足、他の車両なら大丈夫でしょうけど、機動力が不足・・・という訳ね」
「これを解決出来る手段が一つだけあります」
「それは?」
「・・・ダージリン様?」
「何かしら?」
「最近整備課の新入生にある車両の整備、いえレストアを依頼しませんでした?」
「ええ、クロムウェル巡航戦車の事ね。最近錆が酷くなってきましたので、まさか!!」
「クルセイダーと同等の機動力、そして、それ以上の攻撃力をもっているクロムウェル巡航戦車は、この作戦に相応しいと考えます。しかし・・・」
しばし、沈黙があり、俺は発言する。
「しかし、OG,OBの方々がそれを良しとしません」
聖グロは強い。車両、隊員の練度、どれも強豪校と言ってもいいぐらいのレベルだ。それにイギリスとの提携や卒業生の経済支援により、財政的には問題ない。しかしこの卒業生によるOG会の存在がヤバイ。 在学時代に乗っていた戦車に合わせて、OG会が組織されているのだが、主力戦車であるマチルダ会・チャーチル会・クルセイダー会の3つは、資金を出す代わりに学園艦の運営方針にも口出ししている。結果、強力な戦車の新規導入が、他校より遅れる。原作でクロムウェルをダージリンが導入、運用したのは、ヤバイ成果と俺は現状から思う。
「ダージリン?」
「何でしょうか?アールグレイ様?」
「レストアの進行状況は?」
「装甲面は完了していますわ。しかしエンジン関連が手つかずですわ」
「そう。それとカヴェナンター巡航戦車は、今どうなっていますか?」
「カヴェナンターですか?それなら懲罰用の車両して現在保管されていますわ」
それを聞いたアールグレイは紅茶を飲む。そしてカップをソーサーに置き
「水樹、アッサム?」
「「何でしょうか?」」
「今の状況では、我々の優勝は無い?」
「現状では難しいかと。大雨の影響で相手車両の機動力は大きく低下します。しかしプラウダの戦術からして、殆ど関係ないと考えられます」
「水樹と同意見です」
「そうですか。ならば仕方ありませんね。
諦めましょう」