ナノハさんの憂鬱   作:神凪響姫

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相変わらずコメディっぽい何かです。行き詰まった時の気分転換みたいなものですので、どうか皆様も頭カラッポにしてゆっくりしてってください←


第1話 なのはさんは憂鬱

 

 

 

 2月14日。

 

 夜も遅く、機動六課での勤務も峠を越えて、やっと一息つけるところまでくると、高町なのはは背伸びをした。

 

 デスクワーク続きの毎日が続き、事務作業に飽きが来ていた頃だった。

 

「なのは」

 

 廊下の向こうから、同じく帰り支度をしていたフェイトがやって来た。

 

「あ、お疲れ様。今から帰り?」

「うん。良かったら一緒に帰ろうかなって」

「あー……。ごめんね、ちょっとまだ仕事が残ってるから、先に帰ってもらえるかな?」

 

 そっか、とフェイトは残念そうに笑う。

 

「じゃあ、これあげる」

「へ?」

 

 差し出されたのは、黒い包装紙と赤いリボンが可愛い、手のひらサイズの箱だった。

 

 思わず受け取ると、フェイトは嬉しそうに微笑んだ。

 

「待ってるから」

「え? いや、何が……」

 

 訳も分からず問いかけるが、フェイトはソニックフォームでもないのに残像ができそうなスピードで廊下を疾走すると、どこかへと消えていった。

 

 箱を手にしたままフリーズするなのはだけが、ぽつねんと取り残される。

 

「えええー……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから一時間後。

 

 

「ねぇーヴィータちゃん。どうすればいいかなぁ?」

「いきなり人の部屋押しかけて開口一番がそれか? あ?」

 

 

 なのはは知人の部屋に来ていた。赤い髪をした小柄な少女、ヴィータの部屋である。

 

 

 ヴィータは不機嫌そうな顔をして、ベッドの上に座ってあぐらをかいている。寝る寸前だったのだろう、寝巻き姿だった。なのははその対面に椅子を引っ張り出して座っている。

 

 仕事が終わってやっと休めると思った矢先、ヴィータの元へなのはがズカズカと入り込んできたのだ。機嫌が悪くなるのもむべなるかなといったところか。

 

 

「いきなりプレゼントされてビックリしちゃってさ。フェイトちゃん、何も言わずに立ち去っちゃうんだもの」

「プレゼントねぇ……。あー、そういや今日はバレンタインだったな」

 

 

 ヴィータは思い出すように言う。言われてなのはもようやく思い出したのか、ああ、と驚嘆するような声を放った。

 

 

「じゃあ、これってもしかして……」

「いわゆる友チョコってやつじゃねーの?」

 

 

 常識的な解答をヴィータは用意した。その横顔はどうでも良さげな一言に尽きた。眠いようで、目が半開きである。

 

 しかし、なのはの顔は晴れない。何か気になる点があるようで、うーん、と考え込んだまま唸っている。

 

 

「んで、そんなことでアタシの部屋まで来たのかよ?」

「だってこういうの貰うの初めてだもん。チョコレートなんてさ」

「まーそりゃそうだな。ひとまず開けてみろよ。……自分の部屋でな?」

「じゃあさっそく開けてみよう」

「話聞けよコラ」

 

 

 口の端を引きつらせながらヴィータは凄むが、なのはは無視した。

 

 こうなった以上、なのはをどうにかするのは難しい。だが明日はまた早くから仕事がある。今日はさっさと寝たい。

 とっとと追い出して早く寝よう。心に決めたヴィータは、ちゃっちゃと終わらせようと心に誓った。

 

 

「んで、それの中身は何なんだ?」

「うーん、よく分かんないんだよね。これあげるって言っていきなり押し付けてきたから、何をくれたのかサッパリ」

「自分の部屋で開けてくりゃ良かったじゃねーか」

「え? だって箱開けた瞬間爆発なんてしたら怖いでしょ?」

「どんなビビリ方してんだよ。つーかアタシも巻き添えくらうじゃねーか!」

 

 

 まぁまぁ、となのはは怒るヴィータを宥めながら、包装紙をビリビリ破いていく。なんて自分勝手な女なんだ、絶対B型だなコイツ。ヴィータは半目で睨みながら思った。

 

 

 包装紙をひっぺがすと、中から白い箱が現れる。蓋を開くと、手作りと思しきチョコケーキがあった。非常に丁寧に作られていて、フェイトの本気具合が伺える。

 

 

「なんだ、思ったより普通じゃねーか」

「ホントだね。なーんだつまんないの」

「何を期待してたんだよ」

 

 

 やれやれとでも言いたげななのは。無駄に気構えていた分、空振りして肩を落としていた。

 

 特に何もなくてヴィータも一安心した。

 

 が。

 

 

「あれ? 手紙が入ってる」

「お、マジか」

 

 

 箱の蓋の裏に、手紙がくっついていた。なのは宛らしい、可愛いピンク色の便箋だった。

 

 中を見てみようと、なのはは端っこの方からビリビリと破って中身を引っ張り出した。

 

 なにやってんだテメー、と目線で問うと、「いや、だって怖いし」とよく分からない返事がきた。脳の異常かもしれないのでヴィータは深く突っ込まなかった。

 

 中身を引き抜き、開いた。

 そこにはたった一行だけ、こう書かれてあった。

 

 

 

 

 

『なのはのことを思うと ムラムラしまくぁwせdrftgyふじこlp』

 

 

 

 

 

「…………」

「…………」

 

 

 無言で目線を交わす二人。

 

 

「あの……」

「言うな。何も聞きたくねぇ」

 

 

 ヴィータが首を振る。なのはは苦笑しようとして失敗したような顔だった。

 

 

「なんだろう、この途中まで書いたはいいけど恥ずかしくてあああああとなった失敗作をポイ捨てするわけにもいかずとっといたら間違えて送っちゃいました☆みたいな手紙は」

「まさにそのとおりなんじゃねーのか」

 

 

 ていうかこれって……。二人が同じことを思おうとした瞬間、天井が爆発した。

 

 

 粉塵がパラパラと舞い落ちる中、フェイトが上から飛び降りてきた。

 

 華麗に着地すると、素早い動きでなのはの手から手紙を奪い取る。呆然とする二人の前で、息を切らしたフェイトは手を合わせて謝罪した。

 

 

「あ、ごめんねなのは! ちょっと手紙間違えちゃった! 本物はこっちね! じゃあそういうことで!」

 

 

 言い終えるや否や、脱兎の如く走り出し、扉をぶち破って立ち去った。

 

 後には唖然としたままのヴィータと、人型の穴が空いた扉が残された。

 

 

「……天井、直さないとね」

「いやそこはどうでもいいだろ」

 

 

 ヴィータは律儀に突っ込んだ。けれどもフェイトのことに関しては藪蛇になりそうなのでひとまずスルーした。

 

 

 とりあえず、ヴィータとしてはこの不幸の手紙二号を開けたくないが、なのはが無言でビリビリと封を切り始めたので仕方なく付き合うことにした。

 というかさっきから何で普通に開けないでビリビリと引きちぎっているのか。

 

 

「いや、だって開けたらカミソリの刃が出てきたら怖いじゃない」

「どんな恨み買ってんだよ」

 

 

 まさかそんなことはないだろう、と思いつつ、なのはの手元を覗き込む。当たり前だが、カミソリの刃など出てこなかった。ピンク色の便箋だけで、開いてみると、中にはまた一行だけの文章があった。

 

 

 

 

 

『今夜は私とアルデンテ』

 

 

 

 

 

 意味不明。

 

 

「何これ」

「アタシに聞くなよ」

「どうしよう」

「アタシに聞くなっつてんだろーが」

 

 

 ヴィータは取り付く島もない。そりゃそうだ。

 

 

「フェイトのヤツ、仕事のしすぎでストレス溜まってたのか……? こんな意味不明な文章書くくらい追い詰められてるとは思わなかったな」

「違うよヴィータちゃん、フェイトちゃんは昔っから妄想癖逞しいエロ執務官筆頭株主だったけど、昔は神童って呼ばれるくらいの子だったんだよ? こんなこと書くような頭弱い子じゃないよ多分。きっと何か魔が差してやっちゃったんだと思うよ」

「フォローすんのかけなすのかどっちかにしろよ」

 

 

 フェイトの評価は小豆相場並みだった。

 

 

「つーか今更だけどよ。そもそも、なんでアタシんとこ来たんだよ? 他のヤツでも良かったんじゃねーのか?」

「うん? だって、こんなこと相談できるの、ヴィータちゃんしかいないし」

「お、おう。そうか?」

 

 

 ヴィータはそっぽを向いた。その頬がちょっと朱に染まっているのは気のせいではない。

 もともと、自己完結するきらいのあるなのはが、誰かに相談するのは珍しい。以前も自分の負荷を軽視したせいで怪我をしたものだ。

 

 頼られて悪い気はしない。ちょっとくらい相談に乗ってやるか、と居住まいを直した。

 

 

「だってヴィータちゃん、見た目は子供でも何百年も生きている、シーラカンス顔負けの生きた化石なんでしょ? 昔から無駄に培ってきたしょーもない知識の中に、良い解決策と言っても過言じゃない何かが埋没していたら、是非サルベージして私の役に立てて欲しいんだよ」

「オメェちょっと表出ろや!!」

 

 

 アイゼンを振り回さなかった自分を褒めてやりたい気分である。

 

 しかし、なのはってこんな頭沸いたこと言う奴だっただろうか。ヴィータは長年の友人の頭を心配するが、よく考えたら大怪我をした頃から頭がエクストリーム入ってる気がする。気のせいか。

 

 いや、んなことない気がするな絶対。多分前からだ。ヴィータは内心頷いた。

 

 

「……はぁ。なのは、もうアタシの手に余るわコレ。はやてやシグナム辺りにでも頼ってくれ」

「ダメだよヴィータちゃん。ちゃんと自分で考えもせずに最初から人に頼るなんて。もっと考えようよ」

「鏡見てから言え!」

 

 

 いい加減堪忍袋の緒が切れそうだった。

 

 

「けど、他に相談する相手かー。こんなことに力を貸してくれそうな人って、他は人妻歴ウン十年のリンディさんか、リア充街道爆進中のクロノ君くらいかなぁ」

「なんでその選択肢しかねぇんだよ。オメェ昔から仲良かった奴らいたろ? そいつらにでも聞けよ」

「えー。だってアリサちゃんとすずかちゃんはちょっとなぁ……」

 

 

 言葉を濁す。これまた珍しい反応だった。

 

 今挙げた二人が、なのはにとって日常における親友であることは、ヴィータも知っている。気軽に相談できる相手だと思っていたが、そうでもないのだろうか。

 

 

「なんだよ、気が進まないのか?」

「うーん。相談したって結果は目に見えてるからねぇ」

「んなことやってみなきゃ分かんねぇだろうが」

「だってねぇ。小学校の頃、アリサちゃんはバレンタインにロールスロイス一台プレゼントしてくれたし、すずかちゃんは頼んでもないのにカウンタック用意してくれたんだよ?」

「馬鹿じゃねぇのかそいつら!」

「馬鹿じゃないよヴィータちゃん。ただちょっと変なだけだよ」

「それがちょっとなら世の中おかしい!」

 

 

 ヴィータは額を押さえた。いい加減なのはをどうにかしたいが、この件が解決しない限りなのははテコでも動かないだろう。ならばさっさと話を進めるに限る。

 

 

「んで、そのお返しはどーしたんだよ? そんなモン貰ったんなら、ホワイトデー大変だったんじぇねぇか?」

「うん。でも二人共気持ちで良いよって言ってくれたから、その場でホッペにちゅーしてあげたら狂喜乱舞してたよ」

「凶行にはしったのはオメェが原因じゃねぇのかそれ!」

 

 

 ベッドをバシバシ叩きながらヴィータは言った。

 

 これは故意犯ではなかろうか。ヴィータは疑ったが、なのはの行動は多分天然だ。彼女に悪意は無い。ただ無意識のうちに悪意をこれでもかとサービスしているだけだ。多分。

 

 

「……まぁ、前例がそんなんじゃ、確かにお返しどうすりゃいいって話にもなるわな」

「お願いだよヴィータちゃん。とっとと良い案出してよ」

「自分で考えろや!」

「そんな簡単に思いついたらヴィータちゃんに相談しないよ」

 

 

 かなりまともな返答だったが、納得がいかないのは何故だ。

 

 

「チッ。なら、もらって喜ぶようなモンくれてやりゃあいいだけの話じゃねぇのか?」

「F90でも買ったら喜んでくれるかな?」

「どこの世界に戦闘機買って喜ぶ女がいるんだよ!? 軍人だって喜ばねぇよ!」

「そうかなぁ? ちょっと散歩したい時とかにあると便利じゃない?」

「だからその『ちょっと』の定義おかしいだろ絶対! 大体買える金あんのか!?」

「中学の卒業式の時に二人からもらった黒いカードがあるよ」

「おいぃいいいいッ! ソイツら何考えてんだぁあああああッ!?」

 

 

 財布から出した黒いカード二枚を見てヴィータは頭を抱えた。

 

 と、その時だった。

 

 

「何事だ、騒々しい」

 

 

 低めの声がして、なのはとヴィータは同時に振り向いた。

 

 一体いつの間に入ってきたのか、筋骨隆々の銀髪の男、ザフィーラが、腕を組んで扉にもたれかかっている。

 

 

「ザフィーラ? いつの間に来たんだよ。てか何勝手に入ってきてんだよ」

「声が廊下にまで響いていた。それと、ノックはしたぞ」

「ホントか?」

「ああ。―――心のノックを、な」

 

 

 あまりにウザい口調にイラッとしたが、なのはが手で制した。

 

 

「会話が聞こえてて、わざわざ来てくれたってことは、ザフィーラも手を貸してくれるの?」

「構わん。そこの不出来なロリBBAと違って、期待に添える結果を見せてやろう」

「さすがはザフィーラなの! どこぞのポンコツガールと同じで脳筋ドッグかと思ってたけど、伊達に筋肉溢れてるわけじゃないんだね! 頼りになるぅ!」

「アイゼン。ラケーテンハンマーだ」

『Nein!』

 

 

 拒否られた。

 

 

「つーかコイツに相談しても意味ねーだろ。年がら年中犬になってるような奴だぞ、バレンタインとは無縁じゃねーのか」

「ふん、くだらんな。これだから身長1hyde以下のお子ちゃまは困る。貴様の低次元な脳みそでは到底及びもつかない崇高な頭脳が俺には備わっているのだぞ、並列に語るなよ」

「テメェ喧嘩売ってんのか、ああ!?」

「落ち着け。いいから無い頭を使って考えろド低脳、ついでに無い胸も使って思考しろ」

 

 

 ヴィータは暴れそうになったがなのはが取り押さえた。

 

 

「いいか? 貴様ら管理局の魔導師は日々戦場に身を置く存在、常日頃から生と死の境を練り歩いている……戦地において戦士は孤独だ。生きるか死ぬか、殺す殺されるという環境に浸り続けたテスタロッサは、ふとした拍子に気づいたのだろう。自分が生きた証を残したいと」

「…………」

「…………」

「何が大事で、何を守るべきなのか。誰もが一度は思うことだ。奴の思いが確かならば、貴様もその思いに応えてやらねばならん。

 俺が言えることのはこれくらいだ。成功を祈る」

 

 

 そう言うと、ゼフィーラは扉の穴をくぐって出ていった。なんで扉開けてかねーんだ。ヴィータは思ったが声に出すのも面倒だった。

 

 

 ややあってから、ヴィータが口を開いた。

 

 

「何が言いたかったんだアイツ」

「うん。でも一つだけ解ったことがあるよ」

 

 

 なんだよ、と問うと、なのははキッパリ断言した。

 

 

「ザフィーラ、反射神経だけで生きてるよね」

「オメェに言われたか無いと思うけどな」

 

 

 

 

 

 

 

 

「結局、何も解決策が出ないんだけど」

「アタシに愚痴ってもしょーがねぇだろうが」

 

 あれから三十分ほど話し合い、もとい、挑発されては憤慨するの工程を三十回ほど繰り返したが、この二人では建設的な会話など望めるはずもなく、ただ無為に時間を過ごすだけに終わった。

 

 

「あーあ、もう十二時過ぎちゃったよ。せっかく早めに仕事切り上げられたと思ったのにー」

「文句言いたいのはこっちだっつーの! いい加減自分の部屋戻れよ!」

「何か良い案が浮かんだら帰るよ」

「ぐ……! 良案も何もなぁ……あ。そうだ、さっきのクレジットカード使って高い服でも買ってやれよ。それならハズレは少ないんじゃねーか?」

「えー。そんな金にものを言わすようなの、私ちょっとやだなぁ」

「今更常識人ぶるんじゃねぇーッ!」

 

 

 ぜぇぜぇと肩で息をするヴィータ。そろそろ体力的にも限界だった。元々疲れて寝る予定だってのに、この女の出現で穏やかな夜の時間が台無しズム全開になってしまった。

 

 最早なんでもよくなってヴィータは、投げやりな口調で言った。

 

 

「ったく。だったらオメェ、本人に聞けばいいじゃねぇか」

 

 

 え? となのはは驚いた顔で完全停止した。

 

 

「今まで言わなかったけどよ、ここでウダウダ考えるよりもずっといいんじゃねーの? 分からないんならストレートに聞いちまえ。仲良いなら聞けるだろ? 第一、お返しってのは気持ちが重要だろーが」

 

 

 ここに来てヴィータがまともな意見を口にした。疲れ果てて脳が最適な答えを用意したのである。

 

 なのはは感動したように、腕を組んでうんうんと何度も頷いている。

 

 

「そっか……分からないなら聞けばいい、平凡すぎて見過ごしていたよ。さすがは頭は平凡胸は平坦なヴィータちゃん! 無駄に長生きしてる人の言うことは違うね!」

「そろそろ本気出していいか?」

「そっかそっか。ザフィーラの言いたかったことは、つまりそれだったんだね」

「いや、それはないと思うぞ」

 

 

 小声で突っ込んだヴィータの呟きは、なのはには届かなかった。

 

 

「ありがとうヴィータちゃん! お礼にドライブに連れてってあげる!」

「え? いいよ別に……。第一オメェ免許持ってねぇだろ?」

「大丈夫。小学校の頃から運転してたから」

「おいちょっと待てそれカウンタックとかじゃねーだろうな」

「え? 違うよ、アウディーだよ」

「何台持ってんだよっ!」

 

 

 夜もふけていく。

 なのはとヴィータの楽しげな声は、しばしの間、絶えなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 その翌日のこと。

 なのはは街中にある公園に来ていた。

 

 既にフェイトにはメールで待ち合わせをしている。わざわざ公園を場所に選んだのは、人に言えないような話を聞くためでもある。

 

 

「早く来すぎちゃったかな」

 

 

 と、その時、すぐ傍を風が通り過ぎた。まるで人が猛スピードで通過したような風に、なのはは一瞬目を閉じる。

 

 目を開けると、すぐ隣にフェイトが立っていた。

 

 

「や、やぁなのは。お待たせ」

「いや、待ってないけど……ていうかその格好は何?」

「え? 変かな?」

「いや、変っていうか……」

 

 

 フェイトの着ているのは、普段着でも仕事用のスーツでもなかった。まるでシンデレラみたいな豪奢なドレスを着ている。

 どこの舞踏会に行く気だ。

 

 

「どうしたのフェイトちゃん。そんなに着飾って」

「いや、ちょっと気合を入れてみただけだよ」

 

 

 気合入れすぎて明後日の方向にぶっ飛んでる気がする。

 

 とりあえず、なのはは本題にとっとと入ることにした。

 

 

「フェイトちゃん。実は、昨日のことなんだけど」

「―――うん」

 

 

 フェイトは身を固くして生唾を飲み込んだ。

 

 

「フェイトちゃん。―――私は死なないよ」

「……へ?」

 

 

 いきなりトンチンカンなことを言い出したなのはに、理解が追いつかないフェイト。思わず間抜けな声が口から漏れた。

 

 

「私、思ったんだ。こういうのって、気持ちが大事なんだって」

「…………」

「今まで気づかなくてごめんね、フェイトちゃん。けど、もう大丈夫だよ。辛いことがあったら、私が助けてあげる。苦しいなら、私がなんとかしてあげる。過去に辛いことがいっぱいあったけれども、これからは、楽しいことがいっぱいあるんだから」

「……なのは」

「だからさ、私と一緒に、楽しい思い出、作ろうよ。ね?」

「なのは……!」

 

 

 何が言いたいかワッパリ分からないが、雰囲気だけで察したフェイトは感涙の涙を流した。それでいいんかい。

 

 手を握り締め、目線を合わせる。そうすることで、本当の気持ちを伝えようと、なのはは思っていた。

 

 

 しかし、言うことやることはかなりまともなのだが、受け取り方を間違えるとどうなるかという良い見本になっていた。

 現に同情的な眼差しのなのはと異なり、フェイトの目は良い具合に潤んできている。頬も紅潮している。僅かに呼吸も荒い。

 

 

 それを理解を示してくれたんだと勝手に勘違いしたなのはは、フェイトの手を取ったまま笑顔を強めた。

 

 

「よーし! それじゃあ気晴らしに、今から遊びに行こうか!」

「うん! 思い出いっぱい作ろう! ―――ホテルで」

 

 

 最後の声を、なのはは聞き逃した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 二日後。

 

 

「ヴィータちゃん。楽しい思い出を作ろうって言ったはいいけど、この二日間の記憶がないんだけど」

「うるさい、アタシを巻き込むな!」

 

 

 




あ、GLもBLもないですのでご安心を。ええ、多分。
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