けどすぐにみんなして脳が弱くなるのは作者の技量でしょうかそうなんでしょうか。
ともあれ、第二話どうぞ。
「どうしてなのはは私に振り向いてくれないんだろう……」
唐突に、フェイトは切り出してきた。
「休憩中にいきなり訪ねてきたと思ったら、なんなんだい? 喧嘩でもしたの?」
苦笑しているのは、ユーノ・スクライア。眼鏡をかけた理知的な雰囲気漂う青年で、フェイトとは幼馴染の関係にあたる。なのはやフェイトとは違い前線での戦闘は近頃控え、裏方へと回っているが、異例の若さで無限書庫の司書に抜擢された逸材であった。
そんな彼が本局の談話室で休憩時間を満喫していると、唐突にフェイトが部屋にやって来たのであった。
しかも窓を人型にぶち抜いて。普通に入って来いよ。
「喧嘩? そんなことなのはとするわけないじゃない」
「じゃあ、どうしたの?」
至極真っ当な問いに、フェイトは疲れたよう肩を落とした。
「一緒に帰ろうって言っても仕事あるからって断っちゃうし、ご飯食べに行こうって言っても休日出勤のせいで行けないって謝るし……いや、そんななのはも良いんだけど、でも休みの日ぐらい一緒にいたっていいじゃない……」
はぁ、と深い溜息をつくフェイト。
物憂げな表情とその呟き、どこか遠いモノを見るような目。まるで恋煩いでもしているかのような横顔に、ユーノは答えに行き着いた。
「もしかして、フェイトって、なのはのこと、その……好きなの?」
「は? 何言ってるのユーノ。そんなの好きに決まってるじゃない」
「それは友達としてって意味だよね?」
「友達として性的な行為を前提に付き合いたいんです」
「それは違う友達だよ!」
ちょっと待て、とユーノは待ったをかけた。フェイトはきょとんとした顔で小首を傾げている。その可愛らしい仕草に頭がくらっとしたが、頭を振って精神を正常に保った。
なのはのことが好きなのは前々から知っていた。それは友人として、という意味だとばかり思っていたが、世間的にかなりアウトな道を進みかけている。既にワンアウトくらいかかってんじゃなかろうか。
フェイトがかなり危ない道を突き進んでいることを知った以上、友人として止めなくてはならない。妙な使命感を抱いたユーノは、ひとまず話を聞くことにした。
「えーと。話を総括すると、フェイトはなのはのことが好きなんだけど、向こうに気づいてもらえてないってことなの?」
「うん。こないだなんか、なのはの後ろの電柱に隠れて、なのは一緒に帰ろうって呟いたにスルーされたし」
「そりゃ気づかないに決まってるだろ」
なんだか会話の雲行きが怪しい。もしかして自分はとんでもない人と対話しているんじゃなかろうか。ユーノの予想は見事的中することになるのであった。
「で、でもフェイトってば、なのはと仲良いじゃないか。同じ場所で仕事してるんだしさ、他の人よりリードしてるんじゃないの?」
「リードしたいんじゃない、トップを爆走して優勝賞品をさらってとっととマイハウスでキャッキャウフフしたいの」
「どこまで突き抜けてんだ! あとよだれを拭け!」
フェイトは袖で口元をぐしぐし拭った。この子ってこんな頭湧いてたっけ、休憩してるはずなのに疲れが出てきたユーノは額の汗をハンカチで拭いた。
「はぁ……好きなのは分かったけどさ、そんなになのはのこと気になってるの?」
「そうだよ。――四六時中なのはのこと考えて異変があったら真っ先に第六感が働いていやらしい目で見つめる輩をひとり残らず排除してなのはのためなら次元世界全てを敵に回しても百回死んでももう私何も怖くないしとりあえずベッドにお持ち帰りして隅から隅まで舐め尽くしても構わないくらいには」
「うわぁ」
ユーノは内心300メートル分くらい引いた。バック転ができそうな勢いだった。
これはもう駄目だ。異常とかそんな可愛いレヴェルじゃない。説得できる領域をはるかに逸脱している。頭にインプラントでもしない限り彼女はまともにならないだろう。
あまりにも残念な話がまだまだ続きそうなので、嫌な予感が現実のものとなりつつあるユーノは、とっととフェイトを追い出そうかと考える。
「そ、そういうことならさ。僕に相談するより、女の子同士で話し合った方がいいんじゃないかな? ほら、小学校時代からの友達。アリサとすずかだっけ? フェイトとも仲良かったでしょ?」
「ああ、あの国産和牛と外国産ホルスタインのこと?」
「お願いだからその言い方やめてくれない?」
女性の醜い一面を見て涙を流すユーノであった。
「あの連中と話し合えって? 嫌に決まってるじゃないそんなの! あんな下心丸見えのチチデカ星人と同じ人種だなんて、私絶対認めないよ!」
「ごめん、怒られること分かってて言うけど、鏡見てモノ言ってくれる?」
「ねぇユーノ、どうしたらいいのかな!? ユーノ女顔なんだから女のキモチなんか余裕のよっちゃんでしょ!? なんかいい知恵出してよ!」
「よっちゃんじゃなくて申し訳ないけど、僕男なんで分かんないし分かりたくもないです」
「どうしよう……なのはを他のメス豚にとられたら私、ちょっと何をするか分からない」
「そうならないよう努力してくれ僕のいないところで」
一方的にギャーギャーと騒ぐフェイトと、呆れ顔のユーノ。既に談話室に他の人影はなく、誰もが飛び火を恐れて出て行ってしまっていた。いや、ただ単にフェイトに対するイメージをぶち壊したくないから現実を拒否して出ていっただけかもしれないが。
と、ちょうどその時、タイミング良く近くを通りかかった人物がいた。
「何騒いでるんですかこんなところで」
「あ、ティアナ!」
「あれ、君は……」
見知った顔の登場にフェイトは顔を明るくし、どこか見覚えのある顔にユーノは僅かに驚きを作った。
橙色の髪をした少女、名前はティアナ・ランスター。冷静沈着なフォワードのリーダー格で、フェイトの同僚である。
「ああ、ユーノは会うの初めてだっけ? 彼女はティアナって言って、ウチの同僚なんだよ」
「どうも初めまして、ティアナ・ランスターです。嫌いなモノはシスコンです」
「うん。その挨拶だけでどんな人かなんとなく分かったよ」
ハハハ、と乾いた笑い声しか出なかった。既にSANが尽きかけているユーノは、もうこの状況が良い方向にいくならなんでもいいやーとなん新なげやり状態である。ただこの子が来てくれれば僕の疲れも半減するだろうか、なんて考えていた。
差し出された手に応じて、ユーノも名乗ろうとする。
「あ、僕は――」
「ああ、知ってますよ。管理局員人気投票で『嫁にしたい男性局員部門』堂々一位のユーノ・スクライアさんですね?」
「同僚に変な目で見られたのはそれのせいか……ッ!」
ユーノは頭を抱えた。ティアナは悪気があって言ったわけではないようで、頭を傾けている。
「そうだ! ねぇティアナ聞いてよ! なのはにどうやってアプローチしたらいいのかユーノに相談してたんだけど、頭良いクセにさっきから適当なことばっかり言って何も教えてくれないんだよ! これだから童貞は!」
「フェイト、さすがにその言い方はちょっと許せないんだけど」
「フェイトさん。その言い方はマズいです。ちゃんと『処女』って言わないと」
「なんでだよ! 処女じゃないよ! 童貞って言えよ! あ、童貞って言っちゃったよ!」
「ユーノの童貞だろうと後ろの処女だろうとなんでも捧げるからティアナも手伝って」
「はい。なんでしょうか?」
露骨に無視されてユーノはため息をついた。腹の立つヤツが増えただけだった。
フェイトがあらかたの事情を説明すると、ティアナは腕を組んで目を閉じた。何かを熟考してるらしく、口も固く閉ざしている。
ややあってから、ティアナは言った。
「愚問ですね」
「え?」
「フェイトさん。貴女は何か勘違いしています」
どういうこと? と言いたげな二人の前で、ティアナは無表情に語りだす。
「なのはさんが貴女のことを好きじゃないのかって? そんなの、好きに決まってるじゃないですか」
「ふぇ?」
「え、ちょっ!?」
ユーノが慌てて止めに入ろうとしたが、ティアナにギロッと蛇睨みされると押し黙った。
「だってそうでしょう? 昔の話を少し小耳に挟みましたが、好きでもない子のために体を張って助けに行こうなんて思いますか? どんなお人好しだって命まではかけられませんよ。これってつまり『命<フェイトさん』ってことですよね? それはつまり何が彼女をそうまでさせたのでしょう? ――『愛』ゆえにと言わずに、何と言うのですかッ!」
「――ッ!」
その時、フェイトに電流が走った。
いい加減黙って見ていられなくなったユーノが力づくで止めようとするが、ホルスターからクロスミラージュを引き抜いたティアナがヘッドショットをかます方が早かった。
ガシッ! とフェイトの手をつかみ、ティアナは力の入った大演説。
「恋っていうのはいつだって我儘なんです! 自分の気持ちを上品に着飾らないでください! もっと傲慢になって、相手に気持ちを我儘にぶつけて下さい! そうして相手が応えたとき、本当の愛が芽生えるんです! それが幸せってもんじゃないんですか?」
「ティアナ……!」
フェイトは感激したように涙目になる。彼女の様子にティアナは満足げに頷いた。
言ってることはかなりまともなのだが、今のフェイトにはキャンプファイヤーにニトログリセリンなレベルの危ない発言だった。顔が( ♡ q ♡ )←こんな感じになり、真っ赤にした頬を手で押さえてグヘヘヘと笑っている。かなり不気味である。
なんとか急所を避けたユーノが額から流血しつつ立ち上がる。
「ちょ、ちょっとティアナ! 説得しないどころか後押ししてどうするんだよ! フェイトの目がヤバいことになってるじゃないか!」
「まぁ根拠なんてないんですけどねー」
「今更否定しないでよ! あと、もっと大きな声で言ってよ! フェイトまったく聞こえてないじゃないか!」
「嫌ですよ。なんで私がそこまでしないといけないんですか」
「ここにきて面倒くさがらないでくれ!」
「ぶっちゃけなのはさんやフェイトさんがどうなろうと知ったこっちゃないんで」
「ぶっちゃけるなよ!」
ティアナの肩を掴んで説得するが、ティアナは相変わず無表情である。心底興味ないというのはマジらしい。
このままだとフェイトは暴走特急よろしく走り出しかねない。ユーノが困り果てていると、ティアナは大きな息をついた。
「仕方ないですね。ユーノさんが見事に役立たず状態から脱却できないみたいなので、私がなんとかしましょう」
「元はといえば君のせいだろうが!」
「うるさい人ですねぇ。私がカンツォーネでも歌ってあげますから、ちょっと静かにしてくれません? オホン、ゲフン。……おぉそぉ~れ♪」
「いらないよ!」
チッ、とデカい舌打ちをしたティアナは、渋々フェイトの説得に入った。また余計なことをしないよう、後ろでユーノも見張ることにした。
「フェイトさん」
「――やっぱり籍は相手の方に、いや、ウチに引っ張ればミッド戸籍に、いや、面倒だから既成事実作ってからの方が、いや、それならヴィヴィオを洗脳して私をママに、いや、もう手は打ってあるからまずは向こうの両親を……」
「フェイトさん」
「いや、それなら母さんの技術使って子供を、いや、子供が住む環境を用意して、いや、いっそのこと最高評議会ヌッ殺して私が法律になれば万事解決に……」
「クロスミラージュ、ファントムブレイザー発射準備」
『Wha!?』
キャラも忘れてビックリ仰天クロスミラージュ。
ティアナが強硬手段に出る前に、ユーノが頭をどついて正気に戻した。
「やっぱり無理矢理なのは相手にも引かれる原因となる恐れがあるので、お友達から始めたらどうでしょう?」
「お友達……?」
「いや、なのはとフェイトは元々友達じゃ……」
これにはユーノも苦笑するが、ティアナが無言のまま目線で「本当にそう思うんですか?」と問いかけると、二の句が告げなかった。
確かに、こんな脳みそ3グラムしかなさそうな脳内お花畑状態のフェイトがまともな交友関係を構築できていたとは思い難い。ユーノは確かにフェイトやなのはと長い付き合いだが、年がら年中一緒だったわけではない。今ほど友人関係はちゃんとしようと思ったことはなかった。
「というわけで、僭越ながら、私が教授したいと思います」
「わぁーすごいやティアナさん、頼りになるねぇー」
「ユーノさん。実はやる気ありませんね?」
事実なので知らん顔した。
「いいですか? まず、友達になるにおいて大事なことがあります。それが友情のさしすそ、です」
「何だい、それ」
「刺さない・死なない・スベらない・せかさない・そんなのどうでもいいや、です」
「途中で考えるの面倒になっただろ」
ユーノが指摘するがティアナは無視した。
「でも友達かぁ……友達っていいよね? すれ違った時に挨拶しても、一緒にお出かけする時に手をつないでも、軽くボディタッチしても、一緒にベッドインしても、友達なら許されるんだよね!?」
「最後の方はアウトだよ」
「結婚は法律的に許されなくても、友達同士なら子供産んでも問題ないよね?」
「何言ってんだこいつ」
しかし、ユーノ自身は女性ではないので、女の子同士の友情がどの程度のものか皆目見当がつかない。
幸い、この場には意見を聞くに値する参考人がいる。参考にならない可能性120%だが、聞くのはタダだ。とんでもないことをぬかしたら今度は転移魔法でボッシュートしてやればいい。
「ねぇティアナ。君、友達いるでしょ? ちょっと会話する時どういう――」
「いませんよ」
「――ことを話し、て……え?」
セリフの途中でユーノは止まった。聞き捨てならない発言に、眉を顰めて振り向く。
ティアナは淡々と語る。
「友達なんていませんよ」
「え、嘘でしょ? なのはから聞いてるけど、同い年くらいの同僚がいるって……」
「あくまで同僚ですよ。友達なんていませんし、作る気もないです」
「ええー……何この頼りにならない後輩は」
「随分失礼なことを言うじゃないですか。名誉毀損で緊急逮捕しますよ」
「こんな時だけ職権乱用するなよ!」
その場合しょっぴかれるのは間違いなくフェイトだけだろう。
「あー、なんだか不安だなぁ。ねぇーティアナ、なのはから見て私ってどうなんだろ?」
「さぁ? 私じゃ分からないんで、ユーノさんに聞いてください」
「なんでそこで僕に振るのかな……」
「ユーノさんどうせぼっちなんだから、友達いない県民のフェイトさんと気持ちを共有できるんじゃないかなと思って」
「友達いないやつに言われたくないよ!」
「ティアナは友達いないかもしれないけど、仲間はいっぱいいるんだよ! 万年ぼっちで無限書庫の片隅で本相手にシコシコしてるだけのユーノと一緒にしないであげて!」
「そうですよユーノさん。知人の人数片手で数えられる程度の人は黙ってて下さい」
「こいつら腹立つわー」
ユーノは拳に力を込めた。が、振り下ろす前にファントムブレイザーとブラズマザンパーブレイカーが飛んできそうだったので、涙をのんでそっと手を開いた。
「何泣いてるんですか、いい年して恥ずかしい」
「この世界に神はいないんだなって……」
「はぁ……?」
逃げ場がなかった。
「メルアド交換とか、どうですか?」
「メルアド……?」
「交換……?」
三十分後。
結局話が一向にまとまらないので、そろそろ面倒になってきたティアナが助け舟を出した。そろそろ飽きたのだろう、ユーノほどではないが、疲労感が漂っていた。だったら早く言えば良かったのに――ユーノは思ったが口にはしなかった。
その提案には、フェイトだけではなく、ユーノまで驚愕していた。
「直接言葉じゃ伝えられないことだって、メールなら簡単に伝えられるじゃないですか。遠まわしで効果は小さいですけど、何もしないよりかはまだマシじゃないですかね」
「携帯……そういやそんなのあったね。あの時々ピカピカ光ったり開くと時計になったりするアレのことかな? 字がちっちゃくて読めないからほったらかしにしてたよ」
「フェイトさん、言ってることがお婆ちゃん並みですよ」
「聞いたことがあるな……携帯電話は、遠くの人と会話したり文章を送信できる、画期的なシステムが搭載されているんだと。メモ帳にしか使ってなかったから忘れてた」
「ユーノさん。貴方知人さえいないんじゃないですか」
冷ややかな目のティアナ。
とりあえず、フェイトになのは宛のメールを送ることに。どんな些細な話題でもいいから、関係を地道に築いていくのが肝要だと、ティアナはそう語った。さっきから言ってることがいちいちまともなのになんで頭がエクストリーム入っているんだろう。ユーノは六課メンバーの非常識具合が気が気でならない。
「フェイトさん。アドレス帳に一件も入ってないんですが、どうやって送るつもりなんですか?」
「えっと、なのはのアドレス、知らないから……」
「ユーノさん。ちょっと無限書庫でなのはさんのアドレス調べて下さい」
「いや、ないから。無限書庫にもさすがにそんなデータないから」
「ついでになのはさんのスリーサイズも教えてください」
「それもないから!」
「どうせ女性管理局員全員分のデータをメモってんでしょ、いやらしい」
「してないから! 知らないから!」
「ティアナ、知りたいなら教えてあげるよ?」
「なんで知ってんだよ!」
「じゃあ生理の周期データと交換ということで」
「ゴクリ。私も知らない貴重なデータ……!」
「お前ら本来の目的忘れてるだろ!」
なのはのアドレスは、偶然ティアナが所持していたので問題は解決した。新たな問題がそこかしこにゴロゴロ転がっているが、いちいち回収していると無限書庫の仕事に差し支えるどころかもう徹夜確定である。早く仕事に戻りたいと思ったのは初めてだよ……ユーノは書庫の空気が異世界のように感じられた。
「ついでですから、ユーノさんのアドレス聞いても良いですか?」
「え? うん、いいけど。じゃあティアナのも聞いてもいいかな?」
「嫌です」
「なんで!?」
「そうやって年下の女の子のアドレスを漁ってネットにバラ撒いて嫌がらせしようという魂胆が丸見えなので」
「するわけないだろ! どんだけ陰湿なヤツだと思われてんの僕は!」
「冗談です。ご安心ください、ユーノさんだけに教えないってわけじゃないです。私のアドレスは誰にも教えてませんから」
「いやちっとも安心できないけど……って、なんで誰にも教えてないの?」
「いえ、だって、その…………今まで誰にも聞かれませんでしたし」
「え、ああ。まぁ確かに魔法での通信が発達してるからいらないっちゃあいらないんだけど……あれ? というかさ、人にメール送ったら自動的にアドレスって分かっちゃうんじゃないの?」
「私のメールは受け取って開封した直後、添付されたウイルスが携帯を破壊しますので問題はないです」
「問題しかねぇよ!」
徐々にユーノの言葉遣いが荒くなってきた。なんなんですかもう、とちょっと口を尖らせてそっぽを向くティアナ。
はたと思い至る。先ほどのセリフから察するに、ひょっとして、この子、実は友達が欲しかったんじゃなかろうか。不器用で人とまともに話したことがないから、あんな話し方になってしまったのではないのか。
ユーノの新たな推測は、きっと間違ってないだろう。不機嫌そうに腕を組むティアナを見て、確信へと近づいた。
そう思うと、ティアナを見る目が少しだけ変わった。
「何やらしい目で見てんですか。本人を目の前に視姦だなんて良い度胸ですね、さすがは童貞やることが半端ない鬼畜」
「前言撤回」
これが素なんだろうな……ユーノは肩を落としました。
二人が頭のやり取りをしている間、熱心に携帯のちっこい画面とにらめっこしていたフェイトは、メールを五分かけて書き上げた。馴れていないと時間がかかるのは、仕方ないことだろう。
ただどんな文を書いているのか気になったので、完成したら見せるように、と言ってある。本人も了承済みだった。
「できたよー」
「どれどれ」
横からティアナと一緒に覗き込んだ。
内容は↓こんな感じだった。
件名:神隠しメール
――――――――――――――――――――――――――――
このメールは『神隠しメール』です。
このメールは、ただのチェーンメールではありません。
本当に、呪いがかかっています。
これを受け取ってしまった貴方は、呪いにかかってしまいました。
呪いを解くには、24時間以内にメールの返事をフェイト・T・ハラオウンに送って下さい。
このメールを無視したある女性管理局員が、先日から行方不明になっています。
貴女が『神隠し』に遭わないことを、心よりお祈り申し上げます。
「なんでだよぉおおおおッ!」
ユーノは派手にシャウトした。耳元で叫ばれたティアナとフェイトは、ひどく迷惑げな顔だった。
「チェーンメールじゃないかコレ! タチが悪いよ! しかも送り先が何で君限定なんだよ! 色々おかしいだろ!」
「だって、こうしたらなのはも真っ先に私へメールか相談の電話してくれるかなって……」
「真っ先に警察に通報するわ!」
「ユーノさん、唾を飛ばさないでくださいよ。童貞が移ったらどうしてくれるんですか」
「移るかそんなん!」
結局、まともな出来のメールを送るのに一時間かかり、ユーノは仕事が遅れに遅れ、二度とあいつらと関わりたくないと誓ったのだが、そんな誓いは運命のいたずらの前ではゴミに等しいということを後々知るのであった。
翌日。
遊びに行きませんか、という無難なメールを送ったフェイトは、公園で待ち合わせしていた。ちょうど午前で仕事が終わる日だったこともあって、なのはも二つ返事で了承したという。
待ち合わせの時間まであと三十分ほど。既に来ていたフェイトは、普段あまり着ないお洒落な格好をしていた。気合の入れようが伺えるが、これらは全てティアナとユーノがコーディネートしたものである。
「フェイトさんが自分で選んだら露出多い歩く性犯罪者ですからね」
「もうちょっと控えめな表現してくれ」
わざわざ見に来たティアナとユーノ。待ち合わせまでの時間、フェイトが迂闊な行動に走らぬよう、フェイト共々、草木の茂みに隠れて最終チェックをしている。なんでちょっと街に出かけるくらいでこんなに気合入れているのかはお察しください。
「ね、ねぇティアナ、この格好で平気? 私変じゃないかな?」
「大丈夫ですよ。頭はダメでも外見は及第点ですから問題はないでしょう」
「頭に関しては触れてやるなよ……」
なのはとお出かけすることが、フェイトから搾りかす状態の常識を根こそぎ奪っていた。昨日までとは違った方向で頭がイっちゃっている。
「あとは野となれ山となれですね」
「僕らが何かできるとしても、ここまでだしなぁ」
「ということでフェイトさん、慎重に行動してくださいよ」
「うん。分かってるよ。何事も慎重にってことだよね」
「なんだろう。反芻してるだけなのにすっごく不安にさせられる」
不安になったところで何も解決しないのは分かってはいたが。
「さて時間が迫ってきてますね。フェイトさん、今日は本番なんで昨日みたいな醜態はさらさないよう細心の注意を払ってくださいよ?」
「やっぱり派手じゃないかなーコレ。アサルトフォームくらいのにしてくれない?」
「なんも分かってないだろ!」
と、公園の入口から、見知った顔が歩いてくるのが伺えた。私服姿のなのはが、ゆっくりとした足取りでこちらへ歩いてきている。
すると、フェイトの緊張と喜悦ゲージが限界突破した。
「ややややばいよなのは来ちゃったよどうしよどうしよとりあえず服脱がなきゃ」
「では撮影の準備を」
「すな!」
服をがさごそ脱ぎ始めたのを見たティアナはカメラを構えたので急いで取り上げる。
やっぱついてくるんじゃなかった……ユーノは後悔した。
「ではフェイトさん、あとはどうぞご自由に」
「まぁ落ち着いてれば平気だと思うけど……」
「そ、そうだね! おおおおおぉえうおお落ち着いて突撃しないとねねね! あああああ心臓がバクバクしすぎて思わず止まっちゃいそうあばばば」
「ダメだこりゃ」
ユーノはさじを投げた。ここまで来てテンパるほどなのかと呆れ果てた。
もう帰ろうかな、となんとはなしになのはの方向を見ると、先程までいなかった人物がなのはの隣に立っていた。
「あれ? あそこにいるのって、はやて?」
「え!?」「え?」
ティアナは無表情に、フェイトは残像ができそうな速度で振り向いた。
ついさっきまでなのはの周囲には誰もいなかったが、今は茶髪の少女が立っていた。見まごうことなどない、なのはやフェイトと付き合いの長い知人・八神はやてである。
一体いつの間に、という思いがあるが、それは些細なことだ。待ち合わせまで時間があるからか、フェイトが来るまで談笑と洒落こんだらしく、仲睦まじげに話している光景が広がっていた。
さぁ、ここで黙っちゃおけねぇ人がいました。
「え? なのはが私に黙って女と密会してる? 隣にいるのは私じゃない? ……え? これどういうこと? 宇宙の法則が乱れてない?」
早速フェイトが壊れていた。
目からハイライトが消えそうなフェイトに、どう手をつけるべきか困惑するユーノ。
するとティアナがフォローに入った。
「落ち着いてくださいフェイトさん。あれはなのはさんと似た人で別人です」
「いや、その言い訳はちょっと苦しんじゃ……」
「よく言うじゃないですか。世界には同じ顔をした人があと二人はいるって」
「え!? ということはどこかの世界にまだ見ぬなのはが2人も!? やっば人生楽しさ倍増美味しさ三倍!」
「何言ってるかわかんねぇよ!」
またも暴走しかけるフェイトをチェーンバインドで押さえつける。何が悲しくて友人を拘束しなきゃならないんだしかもこんなどうでもいいことで。ユーノは俯くが、チェーンが軋みを上げているのを見てちょっと血の気が引いた。
「ねぇ、ティアナ。あれってどう見ても……」
「まぁ100%なのはさんでしょうね。上から下までしっかりなのはさんです」
「そんな商品説明みたいな感じで言わないでくれる?」
「察するにはやてさんと偶然会って話が弾んだというその程度のものでしょう。ほら、離れていきますよ」
物陰で騒ぐフェイトを鎮めるのに手間取っている間に話が終わったらしく、はやては何かを手渡すと手を振ってどこかへと去っていった。本当に偶然会っただけらしい。それか、途中まで一緒に来ただけなのかもしれない。
頭をぶっ叩かれて正気に戻ったフェイトが茂みからフラフラと出てきたのは、その直後である。
「はやてちゃん、なんか上機嫌だったけど、何かあったのかな?」
終始楽しげな様子だったので、もしかしたら久々の休暇で浮かれてるのかもしれないね。なのはは少し笑って、はやてからもらったモノを見る。一枚で二人分使えるチケットで、たまたま手に入ったがいらないのであげるともらったのだ。
一体何のチケットなんだろ、と表面を見た。
『次元世界拷問器具大全 ~クラナガン講評会招待券~』
どこでやってんだこんなの。
「うーん……拷問に興味はないし、誰かにあげようかな」
はやてには悪いが、と思って扱いに困っていると、フェイトが歩いてくるのが見えた。外出用のおめかしした姿に男性たちの目を惹いているが、若干フラフラしていた。疲れ気味なのかな、なのははあまり深く考えなかった。
「なななななのは、おおおお待たせせせ」
今にも卒倒しそうなくらい紅潮している。やっぱり疲れてたんだね、となのはは内心苦笑するが、気遣いが得意ななのはは口には出さず、今日はゆっくり羽を伸ばそう、と心に誓う。どうでもいいところで無駄な気遣いを発揮しないでください。
「あ、フェイトちゃん。ちょうど良かった」
「ふぇ!? ななな、何かな!?」
目に見えて動揺するフェイト。
どうしちゃったんだろ、気分でも悪いのかな。なのははどうでもいいところで鈍感を発揮しつつ、手にしていたチケットをフェイトに見せた。
「こんなの手に入ったんだけど、フェイトちゃん欲しい?」
「えっ」
フェイトの目が色々な意味で丸くなった。
なのはとしては、なんとはなしに言っただけなのだろう。しかしあまりにも誰得アブノーマルなチケットであること、見方によっては一緒に行こうと誘っているようにも見えなくもない状況であることを、深く考えなかった彼女のミスであった。
そして。
なのはから誘いを受けたことで、嬉Cメーターが一瞬で天元突破してしまったフェイトは、瞬間湯沸かし器並の勢いで顔が紅潮。ほとばしるパトスが鼻から滝のように溢れ出し、耳から蒸気が噴出した。人間なのかこいつ。
知人の突然の豹変に驚くなのは。
ガシッ! と差し出された手を引っ掴んで、鼻血ブーのフェイトは言った。
「ごごご拷問って素敵でしゅよね! もちろん行きます地獄の果てまでも! ななな、なのはが望むならなんだってするから! やっぱり無難に首輪つけて×××から!? あ、それともやっぱり×××に×××入れちゃう感じ? ででででも×××をしながら×××ってのも捨てがたいし、いや、いっそ×××を外で×××しながらっていうのもいいよね、いいよね!? ああ初めてが×××って辛抱たまりませんけど合意と見なしてよろしいですか!」
「はい回収ーッ!!」
茂みから出てきたユーノとティアナが歩く犯罪を確保した。