Fate/Dainsleif   作:英雄ならできたぞ?

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不可能?本気の前でそのような言葉は存在しないのだよ。


第11話

どれだけの時間がたっただろうか。

 

四方八方から襲い来る大地からの攻撃に精神を削られ、生前にも味わったことのない緊張感の中で、『黒』のランサーは槍を振るう。

振るった槍は邪竜の爪に容易く防がり、臣下である『黒』のセイバーの力強い剣戟も通用せず。生傷が増えていくのは自分達のみ。邪竜の身体にはもはや攻撃は届かず。

だが、それでも———

 

「ハァッ!」

 

槍を振るう。突く。薙ぐ。

剣を振るう。突く。薙ぐ。

 

何度も何度も。二人は邪竜に挑んでいく。

 

「ケハハ!まだだ。まだまだ物足りねぇぞ。もっと本気出せよ、護国の英雄、竜殺しの英雄。俺の首はまだここにあるぞ?忌むべき邪竜は健在だぞ?そら、英雄なら俺の首の一つや二つ、落として見せろや!!」

 

疲れた様子を一切見せず、その武にほんの一つの淀みもなく、永劫力を振るっているファヴニル。元からのステータスや知名度などで英霊の中でも頭の抜けた性能をしているサーヴァント二体に、喰らいつくどころか既に追い越し、はや彼らでさえ手の届かない場所にいる。

 

その事実を受け止めても、彼らの闘志は揺るがない。勝機はあるのだ。勝つ方法は分かっているのだ。ならば後はそこに届けるのみ。

しかし邪竜はそれを許さない。

 

「グゥっ・・・!」

 

「ソラ、吹き飛べや!!」

 

篭手剣(ジャマダハル)の爪がついに、『黒』のランサーの脇を抉り、ファヴニルの蹴りが『黒』のランサーの胸を穿つ。肋骨が折れ、少量の血を吐き出しながら吹き飛ばされる。

人間の蹴りにして凄まじい破壊力。

その事実に驚愕し、大きな隙を生み出してしまった。

 

「なっ・・・!」

 

『黒』のセイバーが苦悶の声を漏らす。それもそう。たった一瞬、『黒』のランサーの意識が逸れたところで『極刑王(カズィクル・ベイ)』の追撃を逃れた邪竜の牙が『黒』のセイバーを襲った。

 

いきなり増えた攻撃の手に、弱点の背中に二発、牙が突き立てられる。傷は浅く、『黒』のセイバーの耐久が高いのでそこまでのダメージにはならないが、首の皮一枚で繋がっていた均衡は完全に崩れてしまった。

 

「グゥっ・・・!」

 

「そらそらそらそら!!耐えろよ耐えてくれよ!この程度でくたばってんじゃねぇぞ英雄!」

 

『黒』のセイバーが一瞬でも孤立したうちに、ファヴニルが攻撃の回転率を上げてくる。『黒』のランサーが近づけぬように地形を再整形し、『黒』のセイバーに追い打ちを仕掛ける。

 

徐々に鋼の肉体は浅い傷から深い傷へ変わっていき、その喉笛を噛みちぎらんと深くまで攻め込んでくる。

ファヴニルの猛攻が『黒』のセイバーの右脇腹を深く抉る。鮮血が吹き出て地面と篭手剣(ジャマダハル)を赤く濡らす。

 

「イイねぇ、これが本場の竜血かァ。最高だァもっと寄越せよ、テメェの持ってる財宝を」

 

篭手剣(ジャマダハル)に付着した血を舐め取りながら、ファヴニルはゆっくりと歩を進める。対して『黒』のセイバーは己の脇腹がゆっくりとだが治癒魔術によって修復されているのを確認しながら、銀剣をファヴニルへ向ける。

 

「次行く———な、にィッ!?」

 

ファヴニルが体勢をかがめ、さらなる追撃を仕掛けようとした時、大地の壁を突き破り、杭の雨が掃射された。杭だけではない。杭を目くらましに、『黒』のランサーの槍がファヴニルの知覚を超えた速度で飛来し、ファヴニルの腹部に突き刺さる。もしファヴニルではなく同じサーヴァント、もしくは普通の人間だったならば、槍は大穴を作って肉体を突き抜けるか、五体を爆散していただろう。

だがファヴニルは耐えた。槍が大穴を開け、失血死で倒れぬように、全身に力を込め、突き抜けようとする槍を押しとどめる。

 

造られた大地の大穴から『黒』のランサーが疾走する。その身には杭が五本、身体の至る場所に刺さっており、致命傷を逃れているのは奇跡だろう。

 

「よォ、遅かったじゃねぇ———チィっ!しくじったか!!」

 

『黒』のセイバーをそっちのけで、掃射される杭を走って避けるが、足から幾多もの杭が生え、ファヴニルの足を地に縫い止める。

ほんの数瞬、出来た隙に『黒』のランサーは『黒』のセイバーと目配せし、さらに速く駆け抜ける。止まらぬ牙を手に持つ二本の杭で破壊し、新たに生み出した杭で迎え撃つ。

 

「うぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」

 

「ヒハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!!そうだもっとだもっと来い!!本気で来いよ!!まだまだ本気出せんだろ!?出し惜しみなんて詰まんねぇことしてんじゃねぇよ!!そら!討ち取るべき邪竜の首はここにあるぞ!!英雄を討ち取らんと牙を研いでいるぞ!?

領地を守りたいんだろ!?蛮族をを串刺しにしたいんだろ!?ならやれよ!!本気出してやって見せろや!!」

 

英雄は雄叫びを上げ、邪竜は狂声を上げながら英雄を喝采する。ファヴニルの身体から青白い光が漏れでる。気分がさらに高揚する。力が漲る。魂が震える。

 

遂に二人は眼前まで接近する。両者の身体には互いの杭や牙による穴が空いている。互いの治癒魔術が間に合っていないのかとめどなく血が流れ出ている。

踊るように爪を、杭を振るい、その度に大地が赤いアートに染め上げられていく。

 

竜爪が肉を抉りとる。杭が肉を抉りとる。

知るか知るかそんなもの。その程度は怪我とも傷とも言わん。まだだまだ戦えるぞ。まだ血は湧く。肉は踊る。

 

どれだけ攻防が続いただろうか。当事者達からすれば無限の出来事。周りからすればほんの数秒の出来事。それだけで『黒』には十分だった。ほんの数秒稼げれば、悪しき邪竜は打ち倒せるのだ。

 

「ォォォォおおおおおおおおおおお!!」

 

「ラァッ!!貰ったぞォォ!!」

 

『黒』のランサーが決死の行動に出た。竜爪を迎え打った瞬間に、宙で杭を離して、浮いた杭を後ろから飛来した杭で撃ち抜き、ファヴニルの身体に一発打ち込む。だがその行動により『黒』のランサーの右腕は肩から大きく切り裂かれ、抉られた。

腕だった肉塊は彼方へ吹き飛び、魔力となって消えていく。

肩から吹き出た血が『黒』のランサーの頬を濡らす。『黒』のランサーは吹き出る血を利用し、ファヴニルの目を潰す。

 

「グァッ・・・テメェ、俺の目を・・・!———また足だと!?」

 

ファヴニルに出来たほんの一瞬の隙をまたも突く。ファヴニルの足は『黒』のランサーの杭により串刺しにされ、ズタズタに引き裂かれる。

それを確認せずに、『黒』のランサーは一瞬で撤退する。

 

「逃がすかア!!」

 

気配で『黒』のランサーが引いたことを感じたファヴニルはあろう事か自らに刺さっていた槍を引き抜き、『黒』のランサーに投擲する。その投擲は『黒』のランサーの左足を貫き、破壊された大地の壁へ突き刺さる。

 

「セイバアアアアアアアアアアアアアア!!!!!」

 

「承った・・・!!」

 

『黒』のランサーが上空へ気付き、ファヴニルもそこでようやく思い出す。上空にいる『黒』のセイバーという存在に。完全に思考から外していた彼の存在は、『黒』のランサーの決死の攻撃より十全な存在となった。

 

「ハ、ハハハ、ヒハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!!」

 

「忌まわしき邪悪な竜よ、今度こそ安らかに息絶えよ!!

 

幻想大剣・天魔失墜(バルムンク)』!!!!!」

 

出会った時と同じように、ファヴニルが『黒』のセイバーの必殺の宝具を迎え撃つ。今度は防御の呪符はなく、逃げようとも足が殺られて逃げられない。

ならばファヴニルはどうするか?答えは決まっている。喜んで受けようじゃないか。両手を振って歓迎しよう。

 

「・・・ッ・・・!!ヒハハ・・・俺もまだまだ本気が足りんなァ。もっと頭を本気で動かすべきだったよォだ・・・」

 

ファヴニルの背中に突き刺さっている血染めの杭。ギリキリ宝具の射程距離にいた『黒』のランサーが、最後に突き刺した宝具だ。ファヴニルは己の未熟を恥じる。まだ努力が足りないと、本気が足りないと己を叱責する。

 

ファヴニルは無防備に光へ飲み込まれる。大地の盾でた最大威力のこの宝具は止められない。魔力の奔流にその身を委ね、笑いながら必殺を受ける・・・はずだった。

 

 

「いやちげぇ・・・まだだ・・・!!まだだろうがァ!!」

 

 

叫び、杭から足を引き抜き構える。血が急速に抜けて身体に一気に倦怠感が押し寄せるが知るかそんなもの。右腕の篭手剣(ジャマダハル)を構え、極大の魔力を流し込む。ギチギチと壊れるのではと思うように振動する。

 

「第一宝具・・・解放・・・!」

 

使うは英雄より簒奪した破魔の宝具。かつて槍の形をしていたソレは、粉々に砕かれて篭手剣(ジャマダハル)の素材となり、『赤』のキャスターの手によってかつての力を取り戻し、今ここに開放される。

 

 

破魔の(ゲイ)紅薔薇(ジャルグ)・・・!」

 

聖杯大戦が始まってから二回目、『黒』のセイバーの宝具がファヴニルへ直撃する。

 

「グおおおおおおおおおおおおお!!!!!」

 

全身が焼け落ちそうだ。血液が沸騰している。呪符がどれだけ役に立っていたか骨身に染みて理解する。だが諦めん。倒れるものか。

 

 

「勝つのは・・・俺だァアアアア!!」

 

 

——————————————————————————

 

 

青白い宝具による魔力の奔流が消滅する。銀剣を携え、『黒』のランサーの近くに『黒』のセイバーが着地する。

『黒』のセイバーは『黒』のランサーに手をかそうとしたが、手を振って制止する。

 

「手応えはどうだった?」

 

「完璧に。今度こそ倒せた」

 

「そうか」

 

その答えに安堵する。もし幻想大剣・天魔失墜(バルムンク)から逃げ延びていたら、今度こそこちらは負けていた。ただでさえ負傷の激しい『黒』のランサーでは、これ以上ファヴニルに対抗する術は少なかった。

 

「何はともあれ、勝ったのは我々だ。今は城に戻り、祝杯を———」

 

『黒』のランサーの声が止まる。動きが止まる。何が、と思い『黒』のセイバーは同じ方向を見る。そこには今まさに、宝具の影響で作られた砂塵が晴れようとしていた。

 

「バカな!?」

 

『黒』のセイバーが声を荒らげる。彼らの視線の先には一人の男———ファヴニルが両手をだらりと下げて、天に顔を上げて、若干身体を反りながら突っ立っていた。身体は見るも無様な姿で火傷の痕がひどい。生きているか死んでいるかの区別もつかない。

だが、肉体は残っている。宝具を受けてなお、消滅せずに残っているのだ。

 

「アレは・・・地面が・・・!」

 

地面が抉られているが、ファヴニルの周囲に抉られていない場所がある。まるで盾か何かで宝具から身を守り、ついでに地面も守られたかのように。

 

「もしや・・・まだ生きているのか?」

 

微かな吐息が聞こえる。やってやったぞと言うかのように、誇らしげに邪竜が息を吹き返す。

 

「ならば今度こそ、余の宝具で仕留めてやる」

 

手足はあまり動かないが、宝具は放てる。作られた4本の杭はファヴニル目掛けて飛んでいく。

殺った。そう確信を得た。攻撃されてもなお、ファヴニルは動けない。宝具を防いだことは驚異的だが、既に虫の息なのだ。

 

「させませんよ」

 

ファヴニルに杭が当たる寸前、横合いから何かが杭を弾く。弾いたものは黒鍵と呼ばれるレイピアとも見える礼装。黒鍵が来た方向には神父服の男。シロウ・コトミネ。

『赤』の増援、だが人間だと思い余裕にふけるも、ファヴニルという例外を前にしてなので警戒を怠れない。

 

「ああ、だいぶ手酷くやられてしまいましたね。興奮しすぎで壊しすぎです。少しは修理する私の身にもなってください」

 

シロウがファヴニルを肩に担ぐ。すると『黒』のセイバーとランサーの方を向き、丁寧にお辞儀をする。

 

「ファヴニルと戦ってくれてありがとうございます。私たちはここで引かせてもらいます。では」

 

懐に手を伸ばした時点で『黒』のランサーが杭を飛ばすが、魔法陣が現れてシロウとファヴニルの体を飲みこみ、あとには何も残らない。まさかの転移魔術に驚愕しながら、残された『黒』は城へと戻っていった。

 

 

——————————————————————————

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そうですね。ジーク、なんて名前はどうでしょうか?」

 

「ジーク・・・ジークか。ああ、とても、気に入った」

 

とある聖女と■■■■の会話。




祝、ファヴニル生存。しばらく主治医の指示で絶対安静本気禁止が続きます。

さて、そろそろ親子に試練を与えようか。
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