Fate/Dainsleif 作:英雄ならできたぞ?
先のファヴニルの攻撃で周囲に多大な被害を被ったユグドミレニア城の一室、一族の長であるダーニックのみに許された部屋で、ダーニックは優雅にワインを飲んでいた。
先程まで数多の書類に目を通していたため、少々疲れが溜まっているようにも見える。
本来であれば、ダーニックがここまで疲労することはなかった。
「やはり規格外の化け物だな。流石は
一度目の『黒』のセイバーとファヴニルの邂逅で、ダーニックはファヴニルの実力を把握していたつもりだった。だからこそ、二回目は己のサーヴァントである『黒』のランサーにも出向かせたのだ。確実に悪しき邪竜を討ち取るために。そのために一度目の時にファヴニルがいることをゴルドに知らせなかった。その力の大きさを知らしめるために。
考えていた通り、『黒』のランサーは動いた。だが勝てなかった。ルーマニアという地でヴラド三世が殺しきれなかったのだ。
「今回で仕留められなかったのは痛いな」
ダーニックはファヴニルが成長することを知っている。英雄と邂逅し、戦い悦び強くなる。既にサーヴァント以上の戦力を持つほどに。
ダーニックの頭の中では既に次の作戦が始まっていた。それは現在ユグドミレニアのセレニケとフィオレに追わせている『黒』のアサシンが居なくても続けられる作戦。
だがそのためには、サーヴァントを一騎切り捨てる必要がある。『黒』の最高戦力の二体と戦って互角以上なのだ。そこら辺のサーヴァントでは足止めが限界なのは目に見えている。
だがそれだけ出来れば十分だ。
既に『黒』のランサーは傷を癒し、切断され魔力へ分解された腕はホムンクルス達から搾り取った魔力で完治させた。
ゴルドが言うには『黒』のセイバーも万全、とは言い難いが直に回復することだろう。このまま一気に勝負を決め、聖杯に願いを叶えさせる。次こそ本当の総力戦となるだろう。いや、総力戦にする。
出し惜しみはしない。そう、
「最期のその時まで、ユグドミレニアの為に存分に力を奮ってもらうぞ。ランサーよ」
最後の戦いと決めたのだ、故に、刻まれた令呪を使うことは辞さない。『黒』のランサーの忌まわしき宝具にして、塗り替えられた伝承を再誕させる。
『黒』のランサーは怒り狂うだろう。だがそんなこと、ダーニックの知ったことではない。所詮『黒』のランサーなど、叶わぬ願いを持った一介の使い魔でしかないのだ。
擦り切れるまで使い潰す。『黒』のランサーの末路を、どこまでも魔術師らしいダーニックは決めていた。
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「さて、どうしようか」
ユグドミレニア城の最下層。そこには広大な空間があり、一体の
ユグドミレニア———ダーニックは勝利のために《黒》のキャスターの宝具を完成させようとしている。故にユグドミレニアの私財を注ぎ込み、世界各地から素材を集めてここまでゴーレムを完成させた。
「炉心がないのはやはり痛い」
いくら性能が優秀とはいえ、エンジンがなければ動かない。数日前まで炉心にしようとしていたホムンクルスには逃げられてしまった。炉心となれるのは類まれなる優秀な魔術回路を持つ者だけ。あれほどの炉心は二度は現れないだろう。
一応追っては差し向けた。ホムンクルス20人にゴーレム6体。ゴーレムに関しては『黒』のキャスターが直々に製作した物。そのゴーレムは現代の魔術師が一生をかけてようやく作れるか作れないか。
だが仕向けたホムンクルス、並びにゴーレムは全てが殺し倒された。ゴーレムと視覚を同調させていた『黒』のキャスターはその時驚きを隠せずにいた。まさか
「何者かから、弄られたのか」
『黒』のキャスターは召喚されてから幾度も、炉心に成り得る可能性を持つホムンクルス達を見てきた。それこそ数百はくだらない。結果として炉心にはなれなかったが、逃げ出したホムンクルスを含む彼らには一つの共通点があった。
「恐らく彼は、炉心になる予定だった時と全く違う存在になった」
先刻の戦いで『赤』のマスターと思わしき神父が侵入してきたと聞いた。もしかしたら逃げ出し弱っていた所を慈悲の気持ちでもって助けた。有り得ないと断言したいが、人間というものの理解を辞めている『黒』のキャスターは判断できない。
「いずれにせよ、相応しい炉心がなければゴーレムは動かない」
ほかのゴーレムとは違い、特別製なのだ。このゴーレムは救済の力を兼ね備えているのだから。
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シギショアラの共同墓地。そこには『赤』から離反し独自に動いている『赤』のセイバーのマスターとサーヴァントが揃って休んでいた。
実は彼らも先程の戦闘に参加しようとした。否、正確には参加しようとした。だが参加しようと『赤』のセイバーの荒っぽい運転でアメ車を壊しながら戦場へ向かっていた最中、同じ『赤』のランサーに襲われたのだ。
あちらがしてきたのは降伏勧告と『赤』に戻ること。だが既にシロウ・コトミネの手によって、自分以外の戦友のマスター達を全員失っている獅子劫からしてみれば信用などできるはずもない。アッシリアの女帝の毒なんて死んでもゴメンなのだ。
「おいマスター、いつまでこんな所で篭ってるつもりだ?」
「落ち着けセイバー。今はとはやくその傷を癒しておけ。まだここが安全だと、決まったわけじゃないからな」
退屈そうに『赤』のセイバーが言う。先の戦いで『赤』のセイバーは無視できないほどのダメージを負った。赤雷で切り伏せようとも全て先読みされたかのように対処され、『赤』のランサーの放つ灼熱の魔力は確実に『赤』のセイバーを死に近づけていた。
だがこうして生きている。敵が撤退したのではなく、こちらが撤退したのだ。『赤』のセイバーは憤怒していたが、獅子劫は有無を言わさず壊れかけのアメ車で撤退を選んだ。
「怯えてんのか?」
「ああ、怯えてるね」
「それはこのモードレッドが負けるって言ってんのか?」
「・・・ああ。このままじゃあ確実に俺達は負ける」
「あのファブニルって人間にか?ふざけるなよ、マスター!」
『赤』のセイバー———モードレッドが獅子劫の胸ぐらを掴み、その膂力をもって持ち上げる。獅子劫は少しだけ抵抗するが、直ぐに辞めて大人しく持ち上げられる。
モードレッドの怒りは正当なものだ。それを獅子劫は未だ短い付き合いながらも理解しているし、出来ている。モードレッドはかの有名なアーサー王伝説にて、騎士王を討ち取った反逆の騎士。己への絶対の自信に満ち溢れた彼女が、マスターに人間に負けると言われて怒らないはずがない。
「相手はたかが人間なんだぞ!このオレが負けると!?魔術師如きに負けるだと!?巫山戯るのも大概にしろ!!」
「ガアッ!」
獅子劫の身体を壁へ叩き付けるように押す。あまりの衝撃に、口から苦悶の声を漏らす。モードレッドの表情は憤怒さえ通り越している。まるで狂戦士のクラスで召喚されたようだ。
「オレは王を討った反逆の騎士だ」
「ああ、そうだ。お前は騎士王を討った」
「そのオレが勝てないだと?」
「そうだ。お前はあの男には勝てない。この先な」
「なんだと?」
モードレッドが胸倉から手を離すと、獅子劫は咳き込みながら崩れ落ちる。息を整えた獅子劫は座り込み、モードレッドを見上げる。
「俺達がファブニルと戦っていいのは最初の一度までだ。それも速攻で決めなきゃいけない。それが出来なかったら以降は絶対に戦わせないし、もし戦ったとしても勝ち目はないだろう。アイツはそういう存在だ」
「?」
「分からなくて当然だ。理解なんてできるはずがないだろうさ。だがこれだけは覚えておけ。ファブニル・ダインスレイフはサーヴァントの天敵になる。時間さえあればどれだけ強い攻撃も、どれだけ固い防御も、あの男は必ず適応する。必ずだ」
ファブニル・ダインスレイフの恐ろしいところだ。たとえどのような逆境であれ、時間さえあれば適応してしまう。逆転してしまう。切り札などと呼べるものではなく、誰しもが当たり前に持っている、気合と根性でだ。
絶対の防御を誇る英雄である『赤』のランサー。獅子劫の予想では彼の防御でさえ、ダインスレイフは貫きかねない。放っておいたら神にさえ喧嘩を売りに行きかねない男なのだ。
ズキリ、と獅子劫の傷が疼く。顔に刻まれたこの傷はかつてファブニルに付けられたもの。戦火に包まれる戦場で竜の爪によって刻まれた傷。痕は残ったが既に治っている傷痕は、まるで幻肢痛のように時折疼く。
あの日見た悪夢を、獅子劫は永遠に忘れない。
獅子劫の散弾銃を含む数多の魔術使い達の攻撃を躱し弾きその身で受けながら驀進してくる人型の邪竜。気付けばほとんどの魔術使いは軒並み殺され、獅子劫もまた傷を負った。
生きていることは奇跡であった。そう言わざるを得ない状況だった。
「セイバー、一撃だ。もしファブニルと敵対した場合、全霊の宝具での一撃で決めろ。決して油断はするな。少しの力も緩めるな。周りの被害もこればかりは気にしないで構わない」
それが唯一ファブニルを倒す方法なのだ。適応させず、根性すら出させず、エンジンをかけさせずに倒しきる。それには絶大な火力がいる。防ぎようのない破壊がいる。
「それが邪竜を殺し、滅亡剣を折れる唯一の方法だ」
聖杯を必ず手に入れる。獅子劫を蝕む呪いから、必ず一族を救い出す。
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重く、金属が打ち合う音がトリファスの協会裏に響く。打ち合っているのは二人の男。一人は槍を振るう若草色の髪の男。その男の槍を振るう速度、敏捷さから人間ではなくサーヴァントということが判断できる。もう一人は全身の至る所に包帯を巻いている傷だらけの男。手に持つ
「人間の身、そして重症でありながら、このオレと渡り合える強者が存在するとは。素晴らしいぞ、アヴェンジャーのマスター!」
「クハハ。そっちこそ、まだ余力を残しているくせして速すぎて全く目で追いきれねぇ。気配でも追いつくことが出来やしねぇ。嗚呼、堪らないぞライダー」
「そういう割には未だ一撃も受けてないじゃないか」
戦っているのは『赤』のライダーと、やはりファブニルである。はじまりは『赤』のライダーが夕日に向けて槍を振るっている所に、重症の身であるファブニルが戦おうぜと武器を持ってやって来たのだ。
初めは『赤』のライダーは遊ぶつもりでやっていた。自慢の速度の半分も出さずに、早足感覚で戦っていたら、突然ファブニルから五発、刃をその身に受けたのだ。早足感覚とはいえ、それはこの聖杯大戦において、間違いなく最速を誇る英雄にとっての早足。その速度は凄まじいものである。だがファブニルは、その程度の速度でと言わんばかりに、全て急所に打ち込んだのだ。
やがて『赤』のライダーにエンジンがかかり、お互い段々と本気で戦い始めてしまったのだ。
初めに歓喜したのは、やはりファブニルだった。そもそも英霊と戦えること自体がファブニルにとっては喜ばしいことなのだが、相手が神代の英雄であり、全ての英傑において最速とされる英雄。狂喜乱舞しながら、重症の身を酷使していった。
次に歓喜したのは『赤』のライダーだった。サーヴァントと戦える人間ということでそれなりに期待していたが、ファブニルは予想を大きく裏切って『赤』のライダーと渡り合った。未だ余裕があり、速度を上げればすぐにファブニルが適応してくる。殺す気はないとはいえ、非常に楽しく思えてきてしまう。現代の英雄と呼ぶに相応しきファブニルの力に、段々と余裕をなくし、その分気分を高揚させる『赤』のライダー。
「ラァっ!」
「ヒハハ!」
『赤』のライダーの高速の石突がファブニルの右脇腹を打撃し、ファブニルの
良くやったと、素晴らしいと『赤』のライダーはファブニルを心の中で喝采する。敵であれば、どれだけ楽しい戦が出来るのかと、幻視してしまう程だった。
「ようやくだァ。長かったぞ、お前にかすり傷をつけるのはァ・・・!」
「何?」
「クハ!気になるなら右肩を見てみろよォ」
『赤』のライダーが右肩を見る。そこにはいつもと変わらない、己の頑強な肉体がそこにある。そう、変わらない。傷一つない肉体が———。
「これは・・・バカな!?神性のない人間である貴様が、このオレの身体に傷を付けるだと!?」
そこには確かに、小さい引っかき傷のようなものがあった。そのことに有り得ない、どんな手品を使ったと仰向けに倒れたファブニルを見下ろす。
「これが俺の持つ『本気』だ。全ての者が持つ可能性だァ。神が施した不死身の肉体?人では決して傷つけられない?誰が決めた誰が試した。根本的に本気が足りてねぇんだよ、ソイツは」
「は、はは———」
ファブニルの言っていることに、『赤』のライダーは感銘を受けたかのように体を震わせる。あまりの馬鹿げた言葉に、言葉は既に彼方へと消えている。
「ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!そうか、本気か!なるほど、納得したよ。確かにお前の言う通りだ。かつてオレに挑んできた者は皆、途中で何処か諦めを持っていた。お前の言う通り本気が足りなかったようだ。ああ、そうか」
『赤』のライダーは爆笑しながら天を見上げ、己を誇示するかのように吼える。
「オリュンポスの神々よ!!再び生を受け与え、この出会いを起こしてくれたことに、心からの感謝を!!
なあ英雄を殺そうと意気込むものよ、同じ『赤』の陣営だがオレはお前と、全霊をかけて戦いたくなった。お前なら、このオレを殺せるだろう?」
「クハハ。当たり前のことを聞くんじゃねえよ。俺は英雄に滅ぼされた邪竜で、英雄を滅ぼす滅亡剣だ。嗚呼麗しの英雄よォ。その身に俺の爪牙を突き立て、首を天に掲げ、お前の言う神々に言ってやる。お前達の英雄はこの俺が滅ぼしたと」
「面白い。やってみろ」
ライバルというわけではない。邪竜は滅ぼすべき対象として英雄という存在を認め、英雄は邪竜を己と対等に戦える相手と認める。
友情など存在しない。そこにあるのは純粋な戦闘欲。戦い殺すことでしか潤すことの出来ない渇き。
共通するのは一つ。殺すと決めた、故に必ず殺すのだ。
この後、ファブニルはシロウに本気で引き摺り病室へ戻され、古今東西に伝わるあらゆる拘束術式を全身にかけられながら、説教と共にその身を本気の療養へ費やした。
休んでいる間に人物像をほとんど忘れちまった。本当はファブニルとライダーを戦わせるつもりはなかった。
バカみたいな展開だけど、どうかこれからも呆れないで見て欲しい。
この辺り変じゃないか?というご指摘がありましたら遠慮せずにお願いします。