Fate/Dainsleif 作:英雄ならできたぞ?
「なぁおい、いい加減こいつを解いてくれや。流石にコイツは窮屈過ぎるぜ」
大聖堂に似つかわしくない医療機器に囲まれながら、ベッドに術式で拘束されているファブニル。そんなファブニルを優しい笑みを持って見下ろすシロウ。
『赤』のライダーとの一戦後、修復しかけのファブニルの肉体は、またも壊れてしまった。そもそも完璧には治しておらず、順次パーツを入れ替えていく予定だったのだが、それを一気におジャンにするほど動き回った結果、修復前とほぼ変わらぬ状態になるまで肉体を損傷させた。
「ダメですよ。どうせ外したら外したで、今から『外』に乱入するつもりでしょう?今の貴方を前線に出すにはいきませんし、小競り合いにも参加させられません」
血濡れの包帯を袋に詰めながら、シロウは嘆息する。今現在、教会の外では『黒』のアサシンが同じ『黒』の陣営のサーヴァントと『赤』のセイバーと戦闘をしている。恐らくファブニルは戦闘の匂いでも嗅ぎとったのだろう。
長い付き合いだ。見ていれば分かってしまう。今すぐ参戦させろと、ボロボロの肉体など気にも触れずに飛び出そうとしている。
「焦らすのが上手だな。俺は今すぐ混ざってやりてぇ。アサシンとはいえサーヴァントには変わりはねぇ。この聖杯大戦に参加する全てのサーヴァントと本気で戦いてぇんだよ」
「はぁ・・・アサシン」
シロウがため息を吐きながら、『赤』のアサシンに予定通り命令を下す。突如幾多の魔法陣が現れその中心から鎖が解き放たれる。何重にも拘束されているファブニルの肉体を十を超える鎖がその肉体に巻き付けられた、ギチギチと音を鳴らしながらファブニルの肉体を抑えつける。
「貴方は私達の切り札なんですから、ゆっくりと療養していてください。貴方だって、いざと言う時に肉体が思うように動かないのは嫌でしょう?貴方の悦のためにも、今はゆっくりと寝ていてください」
「クハ。俺の身体を好きなように弄り回して、今更ゆっくり寝ろって言っちまうのかよ。忘れちまったのか?俺の頭はもう睡眠なんて必要としていねぇ」
「勿論、覚えてますよ」
ファブニルの脳はもう睡眠という機能を持っていない。ファブニルの要望の元、シロウがファブニルの脳に電極を入れたり、薬物や魔術などを定期的に、時には過剰使用でファブニルの脳は常に覚醒状態にして健康状態。常に最善の状態で物事を考え、捉えることが出来る。
そんなファブニルにとって、暇になるというのは何よりも苦痛なこと。常に脳が覚醒状態になっている以上、睡眠をとることなんて出来ないのだ。だから今のように、拘束され何も出来なくなっている状態、そして外では大好物の英雄達が殺しあっていると思ってしまうと、ファブニルは自分でも我慢出来なくなる。
「貴方が本当に本気を出したいのであれば、今は我慢してください。ここが耐え所です。ここを乗り切り、その怪我を治せば、私達の聖杯大戦が始まります。今度こそ、貴方の望む全面戦争が始まります」
シロウがファブニルの手を取り、落ち着かせるように語りかける。その行動に一人静かに苛立った『赤』のアサシンは鎖の力を強めるも、ファブニルにはまるで効果が見えない。
「それで、動き出すのは何時になるのじゃ?こちらの宝具の準備は既に終わっている」
『赤』のアサシンの宝具。それは通常の聖杯戦争においてはほとんどメリットらしいメリットが得られないが、複数の英霊、そしてファブニルが味方に着いている今の状況において、現在過去未来あらゆる世界線でもっとも便利な状態となっている。
シロウが振り返ると、壁に背を付けている『赤』のライダー。物陰に潜むように立ちながらも、その存在感を強烈に発揮している『赤』のランサー。そして譜面を読んでいた顔を上げたアヴェンジャー。異常なほど静かに、だが狂気的な瞳を爛々と輝かせながら一心不乱に羊皮紙に羽根ペンを滑らせている『赤』のキャスター。
「開戦は36時間後。これは私達が『黒』に与える猶予です。ですので時が来れば———」
シロウは美しく、そして清々しい笑顔になる。そこに込められたのはどのような感情か。哀れみか、余裕か、愉悦か、喜びか、憎悪か、怒りか、憐憫か、殺意か。笑顔という古代より伝わる、誰もが持ち得る仮面を究極なまでに定着させたシロウの笑みの真意は誰にも伝わらない。シロウ本人も伝わると思っていないし、周りも、『赤』のランサーを除いて理解できると思っていない。
長い時を生きているからこそ、人が人を理解しきれないと解っているのだ。
「『黒』には、速やかに滅びてもらいましょう」
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同刻、シギショアラにて一つの
「小汚ねェ暗殺者風情が!このオレの背後を何度も取らせるか!!」
霧煙る街で『赤』のセイバーが叫ぶ。同時に霧中に振るわれる赤雷を纏った王剣が、雷を撒き散らしながら振り下ろされる。
「ふふふ、ダメだよ。これじゃあ私達には当たらないよ?」
「チィっ!チョロチョロと鼠みたいに逃げ回りやがって・・・!」
敵対者である『黒』のアサシンに容易くすり抜けられる。いや、すり抜けるというよりは霧へ消えた。そう錯覚するほど速く、姿が見えなくなるほど霧の濃度が濃くなってきている。
姿が見えたとしても一瞬だけ。気配を感じたとしてもそこに姿はない。オマケにこの霧には微量の毒が含まれている。攻撃が当たらず、まるで遊ぶかのように背後を取られる続ける。そんなこと、『赤』のセイバーが耐えられるはずもない。
「大人しくぶった斬られやがれ!!!」
最早周囲への被害も頭の中から抜け切っている。獅子劫の悲痛の叫びがパスを通して聞こえてくるが、激昴している『赤』のセイバーには聞こえない。赤雷は『赤』のセイバーの怒りに呼応したかのように、その光を増していく。
「チョロチョロ動きまるなら、その足を止めちまえばいいんだよ!!」
掲げた王剣を道路へ叩きつけた。瞬間、赤雷は地面を伝播し地表は雷で覆い尽くされた。それだけではない。叩きつけらた道路があまりの威力に爆散飛散し、全方位にショットガンの如く、石礫を撒き散らす。
「うわっ!」
撒き散らされた礫はサーヴァントであっても無視できないほどの威力。後ろから既に『赤』のセイバーに向かって飛びかかっていた『黒』のアサシンは礫を避けるのに身を捻って、攻撃の手を止めてしまった。
その隙を、無論のことながら『赤』のセイバーが見逃すはずもない。声がし、動きが一瞬とはいえ止まった。『赤』のセイバーが跳んだ。獅子劫から魔力を無理やり吸い取って、魔力放出によりジェット機のごとき急加速で『黒』のアサシンに近づいていく。
だが『黒』のアサシンも案山子ではない。近づいてくる『赤』のセイバーに対し、逆に好機だと思い、その手に持つ銀のナイフを振り抜く。
「くたばりやがれェェェエエエ!!!」
打ち合う互いの武器。だがその武器は火花を散らす暇もなく、圧倒的な速度と力により振り抜かれた『赤』のセイバーの王剣が、銀のナイフを両断しながら、『黒』のアサシンを切り裂かんと迫る。
しかし、
「———狙撃!?『黒』のアーチャーか!?」
『黒』のアサシンの体を両断しようとした直後、無防備な『赤』のセイバーの背中へ三本の矢が飛来する。音速を超えているのではと思える速度で飛来した矢。直感スキルにより即座に矢の存在に気づいた『赤』のセイバーは追撃の手を止め、振り返ると同時に王剣を振り上げる。
「おぉぉおおおおお!!」
一本、二本と切り伏せるが三本目、回避不能、防御不能の位置取りを狙っていた。王剣を振るうのは間に合わず。三本目の矢は『赤』のセイバーの心臓を貫き、そのまま霊格を破壊して消滅させるだろう。
「ナメるなよ、弓兵風情が!!!」
上体を逸らし、心臓への命中を遅らせる。だが遅らせただけだ。むしろ逸らしたせいで心臓から頭へと狙いが変わった。同時に、『赤』のセイバーの未来も、頭に矢が生えるという未来へと変わった。
だが『赤』のセイバーは圧倒的な筋力を持って道理を捻じ曲げ、腕の筋肉を壊し、血を噴出させながら無理矢理にも剣を振るった。
振るわれた王剣の腹に、矢は命中して弾かれた。同時に有り余るほどの矢の威力が王剣ごと『赤』のセイバーを弾き飛ばす。『赤』のセイバーは両足をアンカーのように大地へ突き刺し、無理やり減速しながら止まる。
「ちぃっ!一体どこから射ってきやがった!?」
敵が見えない。少なくとも霧が張っていても『赤』のセイバーに確実に当てられる位置。だが遮蔽物が多い市街地で、霧の上から狙い撃つなどという絶技が果たしてできるだろうか。
「またか!?」
またしても霧の中を突き進んでくる三本の矢。あらかじめ
そちら側に警戒をしていたからこそ、先程よりも早めに、そして万全に迎え撃てる。
予測通りの角度で、そして予想通りの速さと威力。これなら、
「てめぇも巻き添いにしてやるよオ!!」
両方同時に対処出来る。王剣を地に突き刺し、魔力を爆発させる。赤雷の形として周囲へ撒き散らされる魔力は、矢を焼き尽くし、潜み殺そうとしていた『黒』のアサシンの奇襲すらも防いだ。
そして、
「今度は逃がさねぇぞ!!」
またも踏み込み、加速。もう獅子劫が枯れるのではないかも言うほどの莫大な魔力の連続使用。だがその甲斐はあり、今度こそ『赤』のアサシンは『黒』のアサシンを絶対的な窮地へと追い込んだ。
王剣が『黒』のアサシンの脇腹を、右腕の腱諸共切り裂く。吹き出る血潮。未だ幼い『黒』のアサシンの顔が苦痛に歪む。声を出さないのは痩せ我慢か、それとも余裕か。
だがどちらにせよ、斬られたことによって行動が鈍くなった。完全なチェックメイトだ。
「終わりだァァァアアアア!!!」
王剣より溢れ出る赤雷が『黒』のアサシンの肌をやき、その白肌に無骨な刃が食いちぎろうと迫り来る。
取った。そう思った瞬間、『黒』のアサシンは全身を一瞬で魔力の塵へと返し、この場から消えていった。逃げられた。そう悟った瞬間、『赤』のセイバーは怒りを更に深める。
二度ものしくじり。『赤』のセイバーからしたら屈辱以外の何物でもない。
次こそは必ず仕留める。その決意を胸に秘め、『黒』のアーチャーの射程から逃れるべく、霊体化して離脱した。
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「私は・・・何を・・・?」
『赤』のセイバー、並びに『黒』のアサシンの撤退を確認した『
「何故私は、あの時『赤』のセイバーを射ろうとした?」
既に袂を分かったと報告を受けたとはいえ、名目上は同じ『赤』。そして最優秀のセイバークラスだ。本来であればこんな真似、許されるはずもない。
「どうしてなんだ・・・どうして、私は」
原因の分からない苦痛。肉体的なものではなく精神的なものだからこそ、既に精神の成長がないサーヴァントへと突き刺さる。時が止まっているからこそ、彼女にこの痛みは自分では理解することが出来ない。
苦痛の中、ここで起こった事実を胸に秘め、『赤』のアーチャーは撤退した。
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「ヒハハ」
苦悶を見て、邪竜が嗤った。
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優しい、母のような温もり。いや、母という表現はあくまで頭に入れられた知識から引っ張ってきたものに過ぎない。本当の俺は母なんて知らない。温もりなど、あの人と共に居た刹那の時間でしか味わったことがない。
見たことの無い太陽。天に煌めいているというその存在。人を優しく見下ろす暖かな星。まるでそれが俺に触れているように。
そして俺も星に触ろうと、手を伸ばし———
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「クソ!」
吐き捨てるように叫び、路地裏を駆ける。追っ手には俺の同類達。一や二ではない。少なくとも20人以上。そして近くにはゴーレムもいる。今も尚、無傷でいられるのはここが入り組んだ路地だからだろう。大通りだったなら、今頃俺は奴らに殺されるか、また城へ連れていかれた。
俺を助けてくれた女性———ルーラーはここにいない。近くでサーヴァント同士の戦いがあるので、俺に待つように告げて行ってしまった。
一人待っていた俺に、ユグドミレニアからの追っ手が来たのだ。彼らは戦闘用に調整されたホムンクルス。それに対して俺は病み上がりの魔力生成用。
彼の英雄に与えられた腰の剣を、抜くことすらなく俺は逃げた。
数の差は圧倒的。勝てる可能性は俺にはない。
きっと運も良かったのだ。彼らの接近にいち早く気付けたのも、ゴーレムに接触しなかったのも、入り込んだのが路地裏だったのも。そして、俺が今ここで生きていることも。
それら何もかもが運と呼ばれる不確定因子の重なり合いの結果。何一つ、俺の力では引き起こすことが出来なかった全て。
「くっ・・・!」
道が一本しかなく、路地裏を飛び出でる。飛び出た先にいたのは五体ものゴーレム。その大きさは俺の身長などの倍はあるのではないのだろうか。何にせよ、ここでチェックをかけられた。
もう重なり合う偶然はない。誰かが助けてくれるなどという奇跡は二度も起こらない。
「俺は・・・!」
———諦めるか?
「俺は・・・!」
———他者に助けられた命、その命は何にせよ、お前の物だ。
「俺は・・・!」
———考えろ。何故あの英雄はお前を助けようとしたのか。その行為がバレれば処罰は免れないだろう。いくら英雄とはいえ、規律や規則は守らねばなるまい。他への示しが付かんからな。
「俺は・・・!」
———忘れるな、違えるな。生きていて欲しいから、貴様は助けられたのだろう。そう思われ命を繋ながれたお前が諦めるのか?
「俺は・・・!」
———そうだ。剣を握れ。あの英雄の願い通り、生きるために戦うのだ。貴様にはそのための力がある。俺がお前に与えよう。
「生きる・・・!俺は・・・!」
———翔べよ。貴様が目指し掲げた目的こそが、お前の太陽となるのだ。
「必ず、生き残ってやる・・・!」
———その心意気や良し。受け取れ。今からお前は、ジークという存在は天駆翔となったのだ。
「いくぞ、死にたくないなら、全力で抗って見せろ!!」
炎が吹き荒れた。