Fate/Dainsleif 作:英雄ならできたぞ?
ルーマニアの一角にある街。その街で最も大きな教会に、二人の男は立ち寄っていた。
一人は上半身を半分以上さらけ出している服装をし、左目の下から顎まで伸びるタトゥーを入れた男。
もう一人は紳士服をビシッと着こなし、隣の男と比べるといかにも礼儀正しさが滲み出ている男。残念なのは目が死んでいることだけだ。
「入るぜ」
遠慮なく扉を開く。昼時という時間帯を考えればまだ拝礼をしている人間がいるかもしれない。だがそんなことはお構い無しに堂々と入っていく乱雑な男を見て、彼に従っている男は内心溜息をつく。
「誰も・・・いないな」
「そりゃそうだろ。なんせ、人払いがされてるしな。ほら、テメェも座れよアヴェンジャー」
男は丁寧に並べられていた長椅子に勢いよく腰掛ける。腰掛けた衝撃で長椅子が後に少し下がるが、それはそれで都合がいいと言わんばかりに前の長椅子が丁度いい幅になったので両脚を乗っける。
アヴェンジャーと呼ばれた男もその行為に内心呆れながら、反対側の長椅子へ自分も座る。
豪奢な造りでも質素な造りでもない、その丁度いいバランスが取れた教会をアヴェンジャーは観察する。教会の造りからして間違いなくキリスト教に系列を並べる教会だろう。アヴェンジャー自身、信仰深いとは言えないがキリスト教だったため、少しだけ思うところもある。
「おうおう、客人待たせて遅いお出迎えだなァ」
「すみません。私の予想としては貴方は今晩か明日に来ると思っていましたので。まさかこんなにはやく来るとは」
教会奥の扉が開き、そこから一組の男女が出てくる。言葉を投げられた男は優しそうな青年。褐色の肌に白髪というアンバランスな組み合わせで、更には着ているカソックが更に彼を異質な見た目にする。
「ほう・・・貴様が最後の『赤』のマスターか」
「おうよ。俺が最後の『赤』のマスターだよ。アッシリアの女帝様」
「ふん」
女は鼻を鳴らして男を睨みつける。傍にいた青年がまぁまぁと宥める。
アヴェンジャーはアッシリアの女帝という名前に頭の中で調べをつける。
「それにしても、面白いサーヴァントを召喚しましたね。まさかエクストラクラス、それもアヴェンジャーという希少なクラスでの召喚とは」
「待て、アヴェンジャーだと?バーサーカーではないのか?」
「縁召喚、ですね」
正解と言って男は笑う。その獰猛な目を見た女帝は男を信用できない相手、場合によっては全ての状況をひっくり返してしっちゃかめっちゃかにして面白がる、ある意味聖杯大戦において最悪のマスターだと判断する。
「それで、今ここに何人いるよ?」
「セイバーとセイバーのマスター以外。セイバーのマスター以外は、我々の『おもてなし』を受けています」
「くっくっく・・・ああ、そうかい。それじゃァ・・・」
「ええ。計画に抜かりはありません。強いて言うならば貴方ですが・・・」
青年が男を見る。彼の計画における一番の不確定因子。彼もまた、女帝と同じく男を危険視しているが、
「まぁ、なんとかなりそうですね」
今までの付き合いからみて大丈夫だと判断する。なんやかんや言って、青年と男の付き合いは長い。男同士にしか分からない『何か』がそう判断する。
そんな青年を見て女帝は深くため息をつく。
「部屋は奥に用意してあります。工房を作るならばそちらで。あともう一つ」
青年は教会の奥を指さす。そこには丁寧に置かれ、整備されている巨大な黒い物体。これは青年の所有物でも、女帝のものでもない。
全くの第三者の所有物。
「あのピアノ、自分でなんとかしてくださいね?」
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案内された部屋は如何にも教会の部屋、などではなく、明らかに金がかかっている部屋だった。部屋の飾りつけ、初めから設置されていた本棚。そして明らかに誰かが書いたと思われる魔術の研究資料。
これだけで元々の部屋の住人、もしくはこの教会の主は教会を隠れ蓑にしながら魔術の探求をしていたと思われる。
何故わざわざ教会なのか。
信仰心が強いのかもしれないが、それは魔術師から見てありえない。大抵の魔術師が信仰するのは『魔術』であり『宗教』を信仰しているのは、それこそ宗教大国の極東の魔術師、もしくは『宗教』に関連する何かを率いた魔術師位だろう。
まず一番に挙げられるのは教会に来る人々で何らかの魔術実験をしていた場合。
もう一つは聖堂教会の人間、もしくはそれに関する人物達が関わっていたか。
どちらにせよ、男からしてみれば既に
「マスター、少しいいかね?」
「あ?」
「はぁ・・・さっきのあの神父、何者かね?」
気だるそうに返すマスターに呆れながら、アヴェンジャーは問いただす。先程は何も言わなかったが、アヴェンジャーは邂逅した神父の青年を見て、かなり異質に感じた。見た目も人間。感じたのも人間。なのにほんの僅かに人ではない何かを感じた。
それは正しく、アヴェンジャーからしてみれば十分な異常だった。
「ああアイツね。アイツはアレだよ、お前と同じサーヴァントだよ。受肉したな」
「なんだと?」
アヴェンジャーは自分の耳を疑った。確かに受肉を望むサーヴァントもいる。だが実物を目にするとなると、流石に疑わしくもなる。
「アイツの真名は天草四郎時貞。今は言峰四郎って名乗ってるみたいだがな。まっアレだ。60年前の聖杯戦争の生き残りだよ」
「前回の勝者か?」
「いや、そうでもないらしいぜ。アイツの望みは受肉なんかじゃねぇよ。受肉したのはただの偶然。あっ、アイツルーラーだからお前の真名はアイツにバレてるぜ?」
「おい、それはもっと早く・・・いや、名を知られたところで特に問題はないか」
アヴェンジャーは聖杯から引っ張り出した知識でルーラーの特権を見聞する。召喚された全てのサーヴァントに対する令呪、真名判定。
数多の特権を持つルーラーは、聖杯戦争で召喚できればかなりのアドバンテージを得ることが出来る。なにせ英霊は彼らが死んだ逸話でさえも再現されてしまうのだ。逸話の中にある彼らの弱点が早々と露天することは、聖杯戦争の勝利が確実に遠くなることを意味する。
勿論、逸話が役に立たない英霊もいる。アヴェンジャーもそのうちの一人だ。生前、誰かに特別な何かをされて死んだ訳では無いサーヴァントからしてみれば、恐れるのは令呪のみである。
「待て、前回の聖杯戦争はルーラーが出るほどの何かがあったのか?」
問題はこれである。
ルーラーはエクストラクラス。普通に召喚することなど不可能である。それを言えばアヴェンジャーもなのだが、彼は本当の本当に偶然である。
そんな彼らが召喚される理由は大まかに二つ。
一つは聖杯戦争を円滑に進めるため。これに関しては特段というようなことは何もない。聖杯戦争の不備を正したりするだけである。
二つ目、これが一番問題である。それは聖杯戦争の勝利者の願い、もしくは聖杯戦争を行う過程で「世界が崩壊」もしくは多大な歪みを与える場合である。
これが判明した時点でルーラーは聖杯によって召喚される。
「まっ、召喚された原因は両方だな。過去に類を見ない十四騎の聖杯大戦。マトモに進むわけねぇよなァ。そんで二つ目は確定じゃねぇが、大体はアイツが原因だな」
それはどういうことだ。それを聞こうとするアヴェンジャー。だが言葉を発する前に、部屋の扉が外側から叩かれる。
「失礼させてもらおう。ここに『赤』のバーサーカーとそのマスターがいると聞いたのだが?」
許可も取らずに入ってきたのは薄緑を基調とした服を着て、立派な髭を蓄えた男性。気配、そして体から発せられる魔力。間違いなくサーヴァントである。
「おっと名乗りが遅れて申し訳ない。我輩、『赤』のキャスターをさせてもらっている真名、ウィリアム・シェイクスピアと申す者です」
「へぇ。かの有名な劇作家と俳優様が俺たちのキャスターか」
「ここで出会えるとは光栄だな。それと私はバーサーカーではなく、アヴェンジャーだ。今後は気をつけてくれ」
大声で礼儀正しく一礼してきたキャスターに男はニヤケながら返し、アヴェンジャーは訂正を求めながら返す。今後また同じようなやり取りを繰り返すのかと思うと、面倒としか思えない。
「おお!おお!まさかエクストラクラスのサーヴァントと出会えるとは!こちらこそ光栄の至り!いやぁ、サーヴァントとなった今でも、やはり我輩は恵まれている!」
男とアヴェンジャーをそっちのけで、脇に抱えていた紙に色々と書きはじめる。興奮が押さえきれてないのか、鼻息がだいぶ荒い。
「キャスターって言っても、戦闘要員じゃないんだろ?」
「勿論ですとも。我輩は魔術師ではなく作家です。サーヴァントとなった身で最低限の魔術は使えますが、戦闘能力は皆無と考えていただいて結構です。出来ることといえば宝具によるサポートくらいですか。まぁ私の宝具は————しかできませんがね」
「へぇいいじゃねぇかよオモシレェ。なら———と———の———は出来るか?」
「ええ。どれほどの出来になるかは分かりませんができますとも。同じ『赤』の陣営。協力は惜しみませんとも。その代わりと言ってはなんですが、今後の参考に何か話を聞かせてくれませんか?別に内容はなんでもよろしいので。過去話でも空想話でも、一向に構いません。何か面白そうなネタを持っているのでしょう?」
「ああ、トビっきりのネタを持っているぜ。どこにでもある、バカみたいなまでの英雄譚がよ」
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「まったく、いつまで話し込んでいるのやら」
あれから男とキャスターはずっと何かしらを話し込んでいる。アヴェンジャーは早々に退出し、時間を潰していたがしばらくして部屋に戻ろうとしても灯りは消えていない。外まで伝わる楽しそうな会談。まるで長年の友人同士のようだ。
その中の空気にアヴェンジャーは入ることができない。生前に何度も出ていた社交界とも違う彼らの会話。アヴェンジャーが入ったとしても聞き続けるだけだろう。
「やはり、ここに落ち着くか」
気づけば男が注文し、教会に届けられたピアノを前に座っていた。指は既に鍵盤の上に乗っている。なぞるように上から下へ動かしている。
「ふっ」
微笑みながら鍵盤を叩く。旋律が流れ、緩やかな夜に音色が流れる。音の世界に入り込み、泳ぐように弾いていく。
緩く。速く。奏でる音は万人に安らぎを与えていく。
だがアヴェンジャーの心は鍵盤を弾くたびに荒れていく。
ダメだ。コレではダメだ。届かない。追いつけない。触れない。視認できない。
コレでは
外から聞こえる音色は鎮魂歌。だがアヴェンジャーの耳には愚かな雑音。比べれば聞くに耐えない騒音にしか聞こえなくなる。だがそれでも、そんな心でも間違えず、乱れず弾けるのは流石としか言いようがないだらう。
やがて曲は終わり、心の中で暴れる嵐はおさまる。いつの間にか少しばかりの汗が流れて、前髪が額にくっついている。邪魔だ気持ち悪いとかきあげる。
そこでようやく、誰かがいることに気づく。
「素晴らしい演奏だった。素直に賞賛する」
パチパチパチ、と手を叩いて現れたのは白い髪に病人の如き白い肌。そして黄金の鎧を見に纏ったサーヴァント。
「俺は『赤』のランサーだ。よろしく頼むぞアヴェンジャー」
「・・・お褒めに預かり光栄だよ、ランサー」
「本当に素晴らしい音色だった。まるで・・・・すまんな、俺は口ベタなんだ」
「・・・いや、構わないさ」
ランサーの実直な態度に、アヴェンジャーは少し、いやかなり戸惑う。
アヴェンジャーは比べられて、比べられることさえもされなかった。どうしようもない程の天才と比較され、挙句の果てには相手にすらされなかった。
所詮はただの天才。神に愛された者には逆立ちしても勝てないのだ。
「それでは失礼させてもらう」
そう言ってランサーは自らの体を霊体化させて奥へと向かっていく。今思えばまだ基本的な方針も、アヴェンジャーは聞いていない。若しかしたら自分以外は共有してるかもしれないと思うと、無性にイライラしてくる。
やはり仲間はずれはいい気分ではない
自分以外は誰もいなくなった聖堂で、アヴェンジャーはただただピアノを弾き続けた。
まだまだアップは続くぜ。