Fate/Dainsleif   作:英雄ならできたぞ?

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第4話

ミレニア要塞にある自室で、カウレス・フォルヴェッジ・ユグドレミニアは体を備え付けのベッドに投げ出しながら深く息を吐く。

先程まで王の間で見ていた『赤』のセイバーとカウレスが契約する『黒』のバーサーカーの初戦。圧倒的なステータス差でほぼ敗北と呼べる戦闘。

 

見ているだけで不安だった。

カウレスは自らのサーヴァントを自身と対等な存在として扱う節がある。それは魔術師としては間違っているが、人間としては非常に好ましいものである。

 

本来ならば初戦は『黒』のセイバーが行うはずだったが、突然リーダーであるダーニックが、変えるように指示を出し、急遽『黒』のバーサーカーが戦うことになった。

ダーニックが何を考えてその命令をしたのかは分からない。だが結果的に三角しかない令呪を一つ、カウレスは失った。

 

得られた成果は『赤』のセイバーはとてつもなく高いステータスを持つであろうこと。如何せん、『赤』のセイバーは何かしらの宝具で自らのステータスを隠蔽していたので、正確な基準は分からない。

実質成果は何もなし。

 

そのことを『黒』のセイバーのマスターのゴルド・ムジーク・ユグドレミニアは痛いくらい付いてくる。

ゴルドは自尊心の高い典型的な魔術師だ。今回の聖杯大戦で最優とされるセイバーのクラスのサーヴァントを召喚したことを鼻にかけて、何度も見下すようなことを言ってくる。

そして今回のダーニックの支持で何を勘違いしたのか、自らを秘密兵器だと思っている。そんなゴルドを見て、カウレスは子供か、と思ったが口には出さなかった。どうせ何か言っところでまた嫌味を言われるだけだから。

 

「別に怒ってないから、早く出てこいよ、バーサーカー」

 

「ヴ・・・」

 

ベッドの近くで『黒』のバーサーカーが霊体化を解く。その体に『赤』のセイバーに付けられた傷はない。回復魔術をカレウスがかけたからだ。

 

「お前は悪くないよ。俺が魔術師として力不足だったから悪いんだ。気に留める必要はないよ」

 

「ヴィ・・・」

 

そう。カウレスは魔術師として、マスターとして力不足だ。なんの間違いか聖杯はカウレスに令呪を与えた。ユグドレミニアの一族にはカウレスよりも実力が高い魔術師がいたにも関わらず。

そして魔術師としての力量は直接サーヴァントにまで影響を齎す。

魔術師としての実力が低いカウレスがサーヴァントを召喚すれば低いステータスのサーヴァントしか召喚されない。

だからこそ、意思疎通が不可能になり魔力消費が多くなるがステータスを上昇させるバーサーカーのクラスを選んだのだ。

 

「ヴヴ・・・」

 

「だから、大丈夫だって。ほら、自由にしてろよ」

 

カウレスがそう言うと、バーサーカーは頷いて霊体化する。すぐに気配はなくなった。恐らくはお気に入りの花園にいるのだろう。

 

「はァ・・・ホント嫌になるよ」

 

フランケンシュタイン。人造で作られたホムンクルスとは違った人間。創造主によって呪われた人形。そんな彼女に対して、マスターとしても何も出来ない。そんな自分が、本当に嫌になる。

 

 

——————————————————————————

 

 

「機嫌が良いのか悪いのか、ハッキリしてくれないか?」

 

場所は変わって教会。昼になっても変わらず人がいないその場所に、ピアノを弾き続けるアヴェンジャーと長椅子に両手を回して座るマスターの男。男は先程から何度もガッカリしたり、喜色に染まったりしている。

そう。昨夜の戦闘から。

 

「何度も言っているが、召喚されてしまったものはどうしようもないのだぞ?私のようにな」

 

自虐しながら諭すアヴェンジャー。その最中も手は止まらない。楽譜などいらず、弾くのは己の心。心の向くままにピアノを弾く。サーヴァントとなろうが、『無辜の怪物』になろうがそれは変わらない。

 

「全く・・・」

 

アヴェンジャーは予測する。恐らくは男が見たかったのは両者の本気の戦闘だったのだろう。昨夜の戦闘、『赤』のセイバーは確実に本気で戦っていなかった。宝具は解放していたが、宝具なしの戦闘では何度か慢心により『黒』のバーサーカーから手痛い攻撃を受けている。

 

「まだ聖杯大戦は始まったばかりだぞ?このまま進んでいけば貴様の求める存在がいるかもしれないだろう?」

 

「お前だって俺と同じように会いたがってんだろう?神に愛された男とよォ」

 

突如アヴェンジャーの手元が荒れ狂う。表現するのは怒りと殺意。脳裏に浮かぶ存在を、盲信的なまでに殺したくなってくる。

 

「てめぇは嫌ってるが、俺はお前のその本気が好きだぜ。その怒りは最高だ」

 

「・・・お褒めに預かり恐縮だよ」

 

吐き捨てるようにアヴェンジャーが言う。今の演奏で少し疲れたように見える。胸の内に秘められた殺意に舌打ちしながら、鍵盤から手を離して蓋をする。

今の気分でとても弾けるものではない。

 

アヴェンジャーにとって怒りは音楽にならない。不協和音、雑音である。生前、生粋の音楽家だったからこそ、今の自分の奏でる最高の音楽が怒りであることを嫌悪する。

 

「そんじゃ、出かけようぜ」

 

「ふん、すきにしろ」

 

凸凹な主従は、街へと降りていく。

 

 

——————————————————————————

 

 

街で開かれていた市は盛況を見せている。元々ルーマニアの中でも人口が多い場所が理由だろう。

アヴェンジャーは何度も立ち止まって物色している。彼のいた時代でも市はそれなりに開かれていたが、生前貴族であったため見ることは叶わなかった。

色々と珍しいのだ。

 

「こうしてみるとサーヴァントになったのも悪くないかのかもしれぬな」

 

買った果実に口をつける。代金は男持ちだが、男から時計塔や教会へ、「聖杯大戦における必要経費」ということで請求が来るだろう。

 

「そろそろ昼食にしないか・・・って、我がマスターはどこに行った」

 

アヴェンジャーが周りを見渡しても影も形もない。普段から上半身をはだけさせた目立つ格好をしている人物はここにはいない。念話をしても届かない。どこにいるかの追跡も今は不可能。

アヴェンジャーは召喚されてから何度目かのため息をついて、懐にある財布の中を確認し、

 

「いない貴様が悪いのだ。私は贅沢をさせてもらおう」

 

探す様子も、心配する様子もなく、アヴェンジャーは明らかに高値の店を探し、歩き始める。

 

 

——————————————————————————

 

 

男はアヴェンジャーとわざとはぐれ、一人裏通りを通っていた。その道はまるで人気のない路地。それもそのはず。最近になってルーマニアで起こっている連続殺人事件。

毎夜行われる犯行に、住民達は恐怖している。だからこそ、気を紛らわせようといつも以上に市を盛り上げようとするのだ。

 

その事件を男とコトミネは知っている。その事件が『黒』のサーヴァントによって引き起こされているということを。

14騎の英霊が集った次の日、魔術協会が日本で発見したユグドレミニア一族の魔術師の死体。そのものの死体もまた、今回の連続殺人事件と同じだった。

 

コトミネが男に一つ頼み事をしていた。『黒』の連続殺人犯の勧誘である。コトミネの計画上、サーヴァントは多ければ多いほど有利になれる。現在コトミネ含めて7騎のサーヴァントを保有しているが、足りない。

計画はより盤石なものにしなければ、完璧足りえないのだから。

 

「まっ、見つかるわけねぇか」

 

半分諦めている男。今までの犯行からアサシンと思われるサーヴァント。アサシンのクラスは総じて気配遮断を持っているため、見つけにくい。

そしてそもそも、男からしてみれば引き入れなどどうでもいい。何方かと言えば敵になってくれた方が嬉しいのである。

 

「じゃっ、コッチの相手をしてやるか」

 

右から左から出てくるは皆一様に銀の髪をした少年少女。彼らが纏うは白き衣装。間違いない。男が時計塔で見たことがある、ダーニックが着ていた服と同じようなもの。

彼らはユグドレミニアによって創り出された戦闘用ホムンクルス。魔力精製用のホムンクルスとは違い、その肉体は並の人間を軽く凌駕する。

 

ホムンクルスたちは己の武器を構える。弓を、剣を、斧を、ハルバードを、槍を、槌を。

対する(邪竜)に武器はない。今は預けているので手元にない。武器対素手。そして圧倒的な戦力差。素人から見ても勝敗は確実。量の勝利と口を揃えて言うだろう。

 

だからどうした。

対する(邪竜)は鼻で笑う。この程度、彼からしてみれば歯牙にもかける必要はない。

男は欲望竜(ファブニル)である。巨大な欲を持って生きている。だからこそ、他者の欲にさえ敏感である。

彼の鼻が告げている。ホムンクルス達には欲がないと。事実、彼らは創造主であり、絶対の主であるユグドレミニアのための存在。そんな彼らに自我や欲といったものは必要ない。

あるのはただ、逆らえない忠誠心のみ。

 

欲望さえない彼らでは、眼前の(邪竜)を打ち倒すことは出来ない。そう。いつだって『邪竜』を倒すのは『人間』であって、断じて『人形』ではない。

 

「ほら、かかってこいよ。テメェらの本気を、この俺に見せてみろ」

 

握られる拳。

 

ホムンクルスたちが襲いかかる。効率よく戦闘を進めるために、前と後ろを分けている。いつでもサポートに出れるうにされている。

前に出るのは剣や旋風を持った者達。

彼らの役目は男の首を撥ねるだけの簡単な作業。容赦なく振り下ろされる幾多の刃物。次の瞬間には男の首は胴から離れているだろう。

 

そのはずだったのだ。

 

「ヒハハハッ!!」

 

(邪竜)の拳が一人の顔を穿つ。顔には拳がめり込んでいく。勢いは止まらず、それどころか加速する。肉を裂いて突き進む拳は、顔に拳大の穴を開ける。

 

「見え見えなんだよ!!」

 

荒々しい武技が放たれる。振り下ろされた剣は腕ごと引きちぎり、戦斧は上半身と下半身を分断させる。

飛び散る血に狂喜しながらさらに拳を振るう。

 

一人、胴を裂かれた。

一人、心の臓を貫いた。

一人、四肢を喰われた。

一人、頭を穿たれた。

 

運良く(邪竜)の体へ入った武器は、肉に刃が通らない。まるで鍛えた鋼を殴っている感触に、驚愕したらもう終わり。次にあるのは永遠の黒のみ。

 

 

心臓が震える。脳が興奮する。顔は喜色に溢れている。アア、ダメだ止められない。もっとだ。もっと本気を見せてくれ。なぁまだ余力はあるんだろ?出してくれよ見せてくれよ。

その剣は俺の鱗を潰すんじゃなかったのか?その戦斧は俺の肉を引き裂くんじゃなかったのか?その槍は俺の喉に突き刺すんじゃなかったのか?その弓は俺の目を穿つんじゃなかったのか?

 

足りねぇ足りねぇ。もっと出せよ。死力を尽くせよ。俺が味わってやるよ。てめぇらの全力を。

 

(邪竜)の拳が振るわれる。既に拳は血に染まっている。返り血は顔の半分以上を覆っている。まだ熱は冷めない。冷めるはずがない。

 

「ちっ、もう終わりかよ」

 

最後の一人を殺した。先程までシンプルな造りをしていた路地裏は、今では(邪竜)が撒き散らした血と死体で溢れている。

 

「まっ、暇つぶしくらいにはなったんじゃねぇの」

 

ダメだ足りない。やはり意思がいる。確固たる意志が。何者にも負けず、折れない不屈の精神が。英雄を英雄たらしめるのは武芸でも知恵でもない。心なのだ。

本気を出せば夢は叶う。ああ、叶えてみせるとも。叶うに決まっているとも。

 

「必ず俺が殺す。英雄に滅ぼされた邪竜(ファヴニル)にして、英雄を討ち滅ぼす魔剣(ダインスレイフ)であるこの俺が!」

 

天へ手を掲げ、映る太陽に手を重ねて握り締める。その手は何も掴んでいない。あの時と同じように。だがもう逃がさない。今度こそ、最後までとことん殺り合うのみ。誰にも渡さぬ、己のものだ。

 

これが、俺の邪竜戦記なのだから。




たかがホムンクルスな相手に覚醒などするはずもないよね。

今までの投稿を振り返ってみて、一度も主人公の名前(大体みんな知ってる)がなかったからルビ付けて入れてみました。

注意)邪竜戦記はまだ始まってません!
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