Fate/Dainsleif 作:英雄ならできたぞ?
「そろそろですね」
シロウは魔術協会から貸し与えられた霊基板と、己の持つサーヴァント探知能力で標的を見つける。ようやくルーマニアに入り、シロウの領域に入ったルーラーのサーヴァントを。
「では、予定通りランサーに出てもらいましょう」
本来ならばルーラーと戦闘をするなど誰が思うか。ルーラーは本来であれば敵にするよりも自陣に組み込み、その能力を極限まで使用してもらうようにするのが常套句。
だが『赤』はそれをしない。
ルーラーという存在は『赤』からしてみれば単なる邪魔者。
そして邪魔者を消すのは早い方がいい。
「ええ、分かっていますよ。貴方にも出てもらいます。いい加減、待つのも疲れたでしょう。存分にその牙と爪を奮ってください。時間と都合の許す限り、いつまでも」
確実に決めていく。やり直しなど効かない、これっきりなのだ。己の目的を叶えるために、シロウは己の持つ全てを使う。
それが例え、自分を裏切るかもしれない制御不能の邪竜でも。
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ルーラーのサーヴァントにして、世界で一番有名な聖女であるジャンヌ・ダルクは、荒野で一人の男と対峙する。彼女はここまで一人で来たわけではない。
親切な人に車で送ってもらっていたのだ。
だが近よってくるサーヴァントの気配を感じ取り、無理矢理下ろしてもらった。
「『赤』のランサーですね」
目の前に立つ男は『赤』のランサー。真っ白な肌にオッドアイが特徴的な青年。そして一つの神話において頂点に限りなく近い武芸者。
「そういう貴様はルーラーとお見受けする。・・・覚悟」
「・・・ッ」
是非も問わず。槍を構えた『赤』のランサーの突貫。その速度は正に迅雷の如し。常人なら目で軌跡を追うことさえもできない。
だが相対する彼女もまた英霊。本気も出していない『赤』のランサーの攻撃に傷一つなく、攻撃範囲から逃れでる。
彼女の服装は学生服だったものから、鎧、そして象徴である旗が握られている。
「私はルーラーのサーヴァント。聖杯戦争の裁定者です。その私に牙を向くことの意味がお分かりですか」
これは警告である。無闇に攻撃しようものなら令呪を使って強制的に停止、もしくは自害をさせると。あまり使いたくないが、裁定者である自分が、こんな序盤で落ちるわけにはいかない。
「分かりきったことを聞くな。俺がここにいることが、貴様への宣戦布告としれ」
だからどうしたと言わんばかりの『赤』のランサー。警告など気に止める必要は彼にはない。高々令呪一、二画で止められるほど、自分は弱くないと自負しているから。
「私を仕留めて何になるというのですか」
「知らぬよ。俺はマスターに命令されただけだ。なら契約上、マスターの命令に従うまで」
それがサーヴァントだから。実に理にかなっている。サーヴァントがマスターに従うのは大抵は当たり前のこと。故に今回もそうするのみ。どうな命令だろうと、マスターの命令にとことん従うタイプなのだ。
「貴様の特権を考慮すれば、手加減してやる必要は無い。手向ける一撃、必殺であるとしれ」
『赤』のランサーが手に持った槍に魔力が纏わる。それは正しく炎と形容するのに相応しいもの。流石は太陽神スーリヤの子。
「いくぞ、ルーラー」
『赤』のランサーが槍を動かし、ルーラーが攻撃に備えると、
「やれ!セイバー!」
声がした。声の方向からはサーヴァントの気配はない。普通の人間の気配だ。肝心のサーヴァントは上。上空から『赤』のランサー目掛けて既に剣を振り下ろしている。
『赤』のランサーは冷静に対処する。上空からの奇襲程度、彼からしてみれば奇襲にならない。
鋼の打ち合う音が響く。
「貴様は『黒』のセイバーだな」
「・・・」
手に持つ獲物、そしてマスターらしき男の叫びから易々とクラスは見抜けた。
対する『黒』のセイバーは何も答えない。ただ己の銀剣を敵に向けている。
「危ないところでしたな、ルーラー」
ルーラーの元に駆け寄る小太りの男。この男が『黒』のセイバーのマスター。ゴルド・ムジーク・ユグドミレニア。ゴルドは額の汗をハンカチで拭きながら、ルーラーをもてなすような口調で喋る。
「なるほど、貴様らの目的もルーラーのようだな」
「お迎えに上がりました。私、『黒』のセイバーのマスターのゴルド・ムジーク・ユグドミレニアと申します」
胸に手を当てて敬礼する姿。その姿に少なくとも自分に悪意を抱いていないと判断する。
「『赤』のランサーよ!貴様がルーラーを殺害しようとしていたの、確かに見たぞ!聖杯戦争を司るルーラーの抹殺を図ろうなど、最大のルール違反だぞ!」
「否定はせん。無論、『黒』の陣営が現れたのならそちらを優先するのが常だが・・・」
突如、『黒』のセイバーが『赤』のランサーから背を向けて移動する。本来であれば敵に背を向けるなど絶対にしない行為。だが事態が事態である。進んだ方向は己のマスターであるゴルドの背後。そこに立っているのは凶暴な
「生憎と、今回は色々と事情があってな。『黒』の陣営には手を出さん」
「なっ・・・!?」
ゴルドの背後で金属音。ゴルドはいきなりの音に身を縮こませながら驚愕する。ゴルドも、ルーラーもその男に気づいた素振りはなかった。
高々人間が、サーヴァントの背後をとることが出来たのだ。
有り得ない、あってはならない。本来であればそう言われる事態。
「流石は最優秀の英雄様。ここまで近づけば、流石にバレちまうか」
男の両腕に付けられているのは巨大な篭手。それは明らかにサイズが間違っていて大きすぎる。だが篭手は重要じゃない。篭手から生える片手に5本ある鉤爪。
その武器の名は
『黒』のセイバーが押し返す。弾かれた男は器用に宙でバランスを取りながら着地する。
男の顔には狂気とも見間違うほどの純粋な喜色が浮かんでいる。その顔をみてルーラーとゴルドは自分の背中に冷たい物を刺された感覚に陥る。
なんだこれは?こんなものが人間であってはいいのかと。
「貴様は・・・・・・まさか・・・!?」
月光を浴び鮮明に映し出された男の顔を見てゴルドが後さずる。その顔は有名すぎるのでもちろん知っている。
一度、魔術協会や執行者達から追われながらも、追っ手を全て捩じ伏せて、正常な地位につけられた異端の魔術使い。
魔術を学問としてではなく道具として見ているので、時計塔では嫌われていたが、彼の誇る武勇がそれを口には出させない。
曰く、地形を変えるほどの魔術を片手間で使える。
曰く、模造聖杯戦争において召喚された劣化サーヴァントを一人で全て相手取り、無傷で倒している。
ありえないと鼻で笑えるその功績を、誰もが否定することは出来ない。この男なら可能だと、頭が勝手に判断しているから。
「ファ・・・ファヴニル・ダインスレイフ・・・だと!?」
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「ファヴニル・・・ダインスレイフ」
その名をルーラーは口に出して反復する。その名前に込められているのはどこまでも邪な逸話を持つ邪竜と魔剣。
ファヴニルは人を脅かし、英雄に討たれた邪竜。
ダインスレイフは一度鞘から抜けば、所有者後を吸い尽くすまで破壊をやめない滅亡剣。
そんな名前を名乗る魔術師は一体?
「そうか・・・!ダーニックが何故初陣からセイバーを外したのか・・・!これが原因だったのか!」
ゴルドは何やら忌々しそうに顔を歪める。
「クソ・・・!セイバー!まずはあの男から倒せ!」
マスターの命令を受けて『黒』のセイバーは頷き、剣を向ける。一言も言葉を発さず、何を考えているか全くもって分からないサーヴァント。
「クハハ。いいねいいね。随分といいやる気じゃねぇかよ。まぁ、お前が俺にセイバーを押し付けなかったら、コッチは聖女様から殺らせてもらってたんだが、案外どうして、予想以上に思い通りになる」
「・・・」
ランクBの脚力で『黒』のセイバーがファヴニルへ襲いかかる。その速度は確実に人間の目を超える、先程よりも速く鋭い一撃。
必殺を狙う。
相手は人間。サーヴァントではないのは気配で分かる。確かに先程の奇襲はなかなかだったが、あれは恐らく何らかの魔術の行使によるもの。気配遮断の魔術は一流と見た。
「・・・ッ!?」
「バカな・・・!?」
『黒』のセイバーとゴルドが驚愕を露わにする。受け止めた。英霊の全力の斬撃を、ただの人間如きが。いや、受け止めただけで確実に『黒』のセイバーの銀剣は少しづつだが押している。だが、それだけなのだ。
「・・・ッ!!」
続く第二第三の連斬。宙に銀の軌跡を残しながら、確実にファブニルの首を刈り取ろうとする。
だが当たらない。『黒』のセイバーの剣は尽く、ファヴニルの
強いのではなく、巧い。
一見力押しが得意そうに見えるファヴニルは、『黒』のセイバーから見れば既に技巧派の男だ。
これは受けられないと思った攻撃は最小限のダメージにするためにわざと受け、尽くを防ぎ尽くす。
「に、人間相手にいつまでそうしているつもりだセイバー!!早くそいつの首を狩れ!」
痺れを切らしたゴルドが離れたところで叫ぶ。自分は最優秀のクラスであるセイバーを召喚したはずなのに、未だに人間一人倒せない為に怒りが増している。対する『黒』のセイバーはやはり何も言わない。
三合四合、打ち合い続ける。段々と銀剣は邪竜の肉を切れなくなり、邪竜の鉤爪は英雄の四肢を刈り取れない状況が続いた。完全な膠着状態。攻めているのは終始『黒』のセイバー。ファヴニルは常に守りに徹している。
あまりの防御に『黒』のセイバーは城を相手にしていると見紛う。首を狙った一撃は鉤爪で阻害され、脇を狙った二撃は避けられ逆に切り込まれる。
力業でどうにかしようにも、その隙さえ与えない。守りながら攻められている。
そして何よりも、
「・・・ッ!?」
「オラオラ!ちゃんと防げよ!!」
段々と『黒』のセイバーの動きにファヴニルが対応している。先程までは受けに徹していたファヴニルが、着々と反撃の回数を増やしている。なんという力量だろうか。
平和なこの現代ではなく、戦乱溢れる時代なら間違いなく名を残していた英雄に匹敵する男。
「ぐぅッ・・・!」
「胴が空いたァ!」
両腕を跳ね上げられ、晒された胴体にファヴニルの蹴りが炸裂する。とある事情による守りで直接的な痛みはない。だが纏った鎧の上から来るこの衝撃。それだけで苦悶の声を漏らしてしまう。
「ハハハ!ようやく声出したなァ!」
攻守が切り替わる。先程まで攻め続けていた『黒』のセイバーが一気に守勢へ押し込まれる。場の流れがファヴニルに流れた証拠だ。
戦闘において、攻守の流れはかなり重要なものである。その切り替えに順応できるものほど、その腕はたつ。
ファヴニルは間違いなく一級品の強者。英霊にさえも遅れを取らない。現に英霊である『黒』のセイバーが押されている。
「クハハ!最高だよ英雄様ァ!!」
四方八方から襲いかかる鉤爪の連撃。間合いから出ることさえ許さないその絶技。完全に嵌められた『黒』のセイバーでは、この状況から簡単に抜け出せない。
直感的に不安なのだ。
前述通り、『黒』のセイバーにはとある事情により常時守りがついている肉体がある。だがファヴニルはその守りさえも引き裂き噛み砕きそうな、そんな悪い予感が。
縦横無尽に攻めてくるファヴニル。並の英霊でもその鉤爪をマトモに受ければタダでは済まない。出鱈目とも言える連撃を受け止め続ける『黒』のセイバーは、流石はセイバーと言える。
そして、とうとう滅亡剣の一撃が『黒』のセイバーの腕に入る。
「あ?なんだこれ。魔術的防御?」
「・・・ッ!」
聞こえたのは鈍い音。そんな音は人体を切り裂いた時に流れるものではない。まるで鋼鉄を打ち付けたかのような感触に怪訝としているファヴニルの間合いから、『黒』のセイバーは飛び出る。
「セイバー!宝具を使え!そいつを貴様の宝具で消し飛ばせ!」
離れたところにいるゴルドが叫ぶ。セイバーは本当にいいのかと問おうとするが、ゴルドから声を発することを禁じられているので頷くしかない。
「へぇ・・・撃ってくれんのか。いいぜ来いよ。食らってやるよ、テメェの本気を俺にぶち込んでこい!」
両手を広げて、撃ってくれと言わんばかりに迫るファヴニル。その姿に『黒』のセイバーは若干の驚愕を顔にしながらも、命令通り己の宝具を解放する。
胸の前に掲げた、銀剣が輝き、膨大な魔力が吹き荒れる。
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ファヴニルと『黒』のセイバーが戦闘を開始した頃。ゴルドはルーラーにユグドミレニア城への招待状を渡し、ここから離れていった。
故に残されたのはルーラーと『赤』のランサー。
どちらも警戒は解いていない。いつでも戦えるように、常に相手を見張っている。
「アレは・・・本当に人間なのですか?」
『黒』のセイバーとファヴニルの殺し合い。ファヴニルが人間であり、『赤』のマスターなのはとうに理解している。だからこそ、目を疑ってしまうし目の前の現実を信じたくない。ただの人間が英霊とまともに殺しあっていることに。
「人間であることは確かだ。さて・・・」
「・・・ッ、やはりやめる気はないようですね」
「無論。先も言ったであろう。俺がここにいること自体が貴様への———何?」
『赤』のランサーが一人げに何かを感じ取り、ファヴニルの方を見る。恐らくはマスターからの念話が来たのだろう。
「いいのか?・・・ああ。俺に異論はない。ただ命令に従うまでだ」
「?」
「残念ながら俺はここまでだ。あとは好きにするといい」
「ま、待ってください!」
武装を解き、魔力放出を使って空へ飛翔する『赤』のランサー。止めようにもその飛翔速度はサーヴァントであるルーラーでさえも届かず、また彼女は空を飛べないため追うことは出来なかった。
「一体、何がどうなって・・・」
正直頭がおかしくなりそうだ。ルーラーである自身の抹殺。そして英霊と張り合える『赤』のマスターであるファヴニル。英霊という常識外の存在になってもなお、理解できないものもあることを改めてルーラーは知った。
邪竜おじさん「有名な旗の聖女がいるって聞いて興奮して本気で気配遮断して近づきました」
『黒』のセイバーが『赤』のランサーに自然と背中向けてるけど、『赤』のランサーが何も言わなかったのはコトミネの指示です。
そしてそのことに気づかなかった『黒』のセイバーは邪竜おじさんに集中していました。
ゴルド?知らんな。
アヴェンジャーはおいてけぼりです。
次回、『黒』のセイバーの告白。英雄の思いは邪竜に届くのか。