Fate/Dainsleif   作:英雄ならできたぞ?

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第7話

始まりは暴走だった。

 

『黒』の陣営のマスターであるゴルドが提案した、サーヴァントに与える魔力を常に最大値を保つ方法。

 

サーヴァントが消費する魔力は並のマスターならば現界させるだけで命懸け。宝具など使わせようものならば一瞬で命ごと搾り取られる。

聖杯大戦はチーム戦である。個人では覆せない実力を、多対一にすることにより覆すことも出来る。

長期戦に陥りやすいのだ。

戦闘が長引けば長引くほど、マスターの生命は危険にさらされる。

 

だからこそ、魔力不足を補う必要があった。

 

ゴルドが提案したのはムジーク家の錬金術を使って魔力特化のホムンクルスを大量に生産、管理して魔力を各マスターたちに永久的に供給するという方法だ。

人としては人道に反していると言われるだろう。実際にカウレスとフィオレという人の道から反することをあまり良く思っていない、魔術師らしくない二人は若干の躊躇いを覚えた。

だがダーニック、セレニケ、ゴルドは純粋な魔術師。

足りない物は他所から持ってくる。実に魔術師の理にかなった方法である。そしてその理論を実現にしたゴルドの魔術師としての才は十分に証明された。

 

順調に進んでいった。自我もほとんどなく、まともに筋肉は発達しておらず、ただ魔力を作るために生まれたホムンクルス達は、その命を魔術師へと捧げていった。

正に完璧なシステム。完全な状態が保たれた。

 

だが、そこに不備が生じた。

 

ホムンクルスの一体が意識を、自我を自覚し、培養基から出ようとして無意識に魔力を暴走させたのだ。

バレれば殺されるか、また培養基の中に戻されてしまう。生まれてからまもなくとも、一度も外の世界を見てなくとも、彼らには知識が与えられていた。彼らは聡明に作られた。

 

逃げなければ。

 

その思いで動かぬ筋肉を無理やり動かし、地を這いながら逃げ出した。

そして、見つかった。見つけられた。

 

騎士鎧に純白のマントを羽織った、長いピンク色の髪の少女に見える少年に。

ホムンクルスは担がれ、その少年の部屋へと運び込まれた。少年はサーヴァント。誰も無断で部屋に入ろうとする者などいない。唯一の安全地帯へと逃げることが出来たのだ。

 

 

これは『黒』の幕間の一端。

短く薄く儚い物語。誰にも認知されなかった、ただ埋もれて消えていくだけのものが、堂々と表へ逃れていく。

 

 

 

 

 

 

——とある少年と英雄——

 

 

 

——————————————————————————

 

 

森の中を黒い影が疾走する。影は全身が黒に覆われており、所々が紅く輝き、軌跡を残しながら疾走する。

木にはぶつかる前にひらりと避ける。小枝など避ける意味は無い。アヴェンジャーの体躯の倍程のゴーレムがその道を塞ごうとするも、アヴェンジャーが手に持つ細剣で切り刻まれていく。

迫り来る障害を難なく潰しながら、影———アヴェンジャーはユグドミレニア要塞へと駆ける。

 

「殺す、殺す、殺す、殺す、殺す」

 

殺意以外のなんの感情も抱いていない声で、同じことを呟きながら走り続ける。

今のアヴェンジャーに自我はほとんど存在しない。普段の理知的な彼からはありえない姿がそこにはあった。

 

「アレがアヴェンジャーのクラスのサーヴァントか。どう思う、姐さん?」

 

アヴェンジャーを離れた木の上から見ている二人。緑の髪に銀の鎧を身につけた『赤』のライダーと薄緑の髪に新緑の衣装の『赤』のアーチャー。

彼らは今回はアヴェンジャーを囮にした奇襲、もしくは遊撃を命じられていた。

 

「私の名はアタランテだライダー。ふむ、確か彼奴は音楽家、吟遊詩人の類であったな。奴がああなったのは恐らくは纏っている鎧、いや外装の影響だろうな」

 

「神々の呪いには劣るが、なんて禍々しい呪いだ。普通の音楽家があんな呪いを押し付けられるなんて、やはり人も、時としては神よりも恐ろしい」

 

神代を生きてきた二人だからこそ分かる。アヴェンジャーの外装は鎧であり、呪いであると。

込められたのは世界中の人々からの怨恨。アヴェンジャーのとある事情から交わった二つの逸話の片方が集め、連鎖してもう一つへと繋がった呪い。

神は呪いを解くのに試練を求める。試練は難題だが、いずれは解くことが出来る。神とはそういうものだ。いくら無理難題を押し付けようとも、その裏にあるのは試練を与えられた者の真の限界。頑張れば、努力すれば、本気を出せば乗り越えられるのだ。

 

だが人の呪いは違う。人は神と違って数が恐ろしく多い。現在過去未来、ここまで増えた生物は人間だけだろう。

解く方法など存在しない。永劫呪いを背負わせるのだ。懺悔をしても、悔改めても。

 

「さて、近づいてくるサーヴァントが一体。そんじゃまぁ、俺らも始めるとするか」

 

 

——————————————————————————

 

 

アヴェンジャーの行進を止めたのはピンク色の髪に白いマントを羽織り、馬上槍を構えた少女だった。少女はアヴェンジャーの前に立ち塞がる。

方や騎士風の少女、方やドス黒い感情を吐き出しながら怨みの声を漏らしているアヴェンジャー。

善と悪。正義と邪悪。

この二人を表すならばこれだろう。

 

「ここから先は行かせないよバーサーカー!僕は『黒』のライダー!シャルルマーニュが騎———ってちょっとちょっと!最後まで名乗らせてよ!」

 

『黒』のライダーが自分の真名に関することを言おうとしたその瞬間、アヴェンジャーがレイピアを構え、『黒』のライダーの心臓めがけて突き刺してくる。

名乗りを邪魔された『黒』のライダーは馬上槍でレイピアの先端を受け止める。

 

「殺す・・・貴様は私が・・・殺す」

 

「も〜ちょっとは会話を楽しもう、よっ!」

 

レイピアの刺突を『黒』のライダーが皮一枚で躱し続け、馬上槍の殴打を素早く射程から逃れることで避け続けるアヴェンジャー。

甲高い金属音を打ち鳴らしながら、剣を、槍を振るう。

『黒』のライダーは流麗な騎士の戦い方。優雅に舞うように、敵をいなして削っていく。

アヴェンジャーの戦い方はまさに獣のもの。隙あらば心臓にレイピアを突き立てようと、休む暇なく攻め続ける。無闇矢鱈に、無鉄砲に。

 

アヴェンジャーは速い。出鱈目にレイピアを振るいながらも、未だに一撃も受けてないのだ。

『黒』のライダーの敏捷はアヴェンジャーに劣っており、さらには取り扱いが難しく巨大な馬上槍。さらには周りの木々が邪魔だ。如何に英雄といえど、大木をぶった斬りながら同じ英雄と同等に矛を交えるのは一握りだけだ。

そして『黒』のライダーは一握りには入らない。

 

「おりゃあ!」

 

音すらも置き去りにして馬上槍を振るう。アヴェンジャーに迫る鋼鉄の鈍器。避けるのは容易い。だがこのまま避け続けたところで平行線が続くのみ。

戦場、武器、力量、ステータス。ありとあらゆる面を取って、この二人は絶妙に拮抗していた。

音を置き去りにしながら武器を打ち付け合う。平面上でおこなわれた絶対強者による殺し合い。

 

「これでどうだ!『触れれば転倒!(トラップ・オブ・アルガリア)』」

 

苛烈な打ち合いの中、馬上槍がアヴェンジャーの持つレイピアに触れた瞬間に『黒』のライダーが馬上槍に込められた真名を解放する。その次瞬、アヴェンジャーの脚が本人の許可無く、霊体化して消える。

脚がなくなれば、当然自らの自重に体が耐えられるはずがない。アヴェンジャーはドサリと地面に崩れ落ち、『黒』のライダーを自然と見上げる形になった。

 

「それ!」

 

「ガァっ!」

 

振り落とされた馬上槍を転がって避ける。地面に叩きつけた衝撃で石や土が強烈な礫となってアヴェンジャーの体に叩きつけられる。それだけではない。地面に転がっていたゴーレムの残骸が、転がった衝撃でいくつか体に突き刺さった。

 

「まだまだ〜!」

 

更に一撃。今度は叩きつけではなく突き。脚はまだ霊体化を解くことが出来ない。またも土に塗れながら転がり避ける。今度は完全に避けられず。槍の穂先が腕を擦る。

 

「グゥォォ・・・!」

 

怨みの声を上げながら、上体を起こし、脚を実体化させようとするアヴェンジャー。脚はゆっくりと、太股の先から実体を取り戻していくも、まだ遅い。

 

「これで・・・最後!」

 

『黒』のライダーが横に馬上槍を振りかぶろうとしている。中途半端に起きたことが仇となった。このままでは胴をはねあげられ、一撃で殺される。殺されずとも、しばらく動くことは出来まい。

レイピアで守ろうにも、この姿勢で守りきれるはずがない。宝具も使えない。この状況では宝具をつかう余裕さえない。万事休す。絶対絶対。今ここに、聖杯大戦最初の脱落者が決まるその時、

 

「ふん、遅いぞ・・・アーチャー」

 

アヴェンジャーの耳は何かを感じ取り、怨念の声とは違う、安堵が混じった声を出す。その声の直後、『黒』のライダーが何かに気付く。

咄嗟に動作を止めようと手を引き戻し、身を翻す。だがもう遅い。矢は放たれ、既に『黒』のライダーの目前まで迫っている。

 

「うわっ!」

 

『黒』のライダーは自らバランスを崩すことで、心臓めがけて放たれた矢を、なんとか自分の左肩で抑える。鋭い痛みが走るが、構わず後退。圧倒的な有利が、実力未知数の『赤』のアーチャーによって元に戻された。

アヴェンジャーも脚が完全に実体化を取り戻し、立ち上がってレイピアを構えている。

 

「うへぇ〜二対一はちょっとキツいかな〜」

 

森のどこかにいる『赤』のアーチャー。正面で殺る気満々のアヴェンジャー。どの道簡単には逃がしてもらえそうにないし、逃げる気もない。

 

「ォォォォォオオオオ!!」

 

アヴェンジャーが地面を蹴り、『黒』のライダーへ直進する。警戒するのはアヴェンジャーだけではない。アヴェンジャーの背後にいると思われる『赤』のアーチャー。少しでも油断すれば、狩られる。

 

「『触れれば転倒!(トラップ・オブ・アルガリア)』」

 

またも真名を解放した馬上槍を振るう。二対一は現状まずい。先程の有利は真名解放によった不意打ちで作ったものだ。発動条件が馬上槍に触れることなのは、おそらくは既にバレている。アヴェンジャーは狂っていようがバカではない。仮にも英霊。一度バレたものが二度通用するなんて甘い考えはない。

 

「ウソだろ!?」

 

アヴェンジャーは馬上槍には触れず、武器も振らず、跳びあがって『黒』のライダーの遥か後方へ着地する。その瞬間、『黒』のライダーは左右へ移動しながらこの場を逃れ出ようとする。

直後、『黒』のライダーがいた場所に撃ち込まれる無数の矢。

 

「面倒だな!!」

 

後ろから『黒』のライダーの頭部を抉り刺そうと迫るレイピアを馬上槍で弾く。だが一度ではない。連続で何度も何度も。真名解放をする間もなく、怒涛に攻める。時折降り注ぐ『赤』のアーチャーの弓矢も警戒しながら、一進一退の攻防が続く。

ただ、続く。地面は動く度に削り取られ、木々は戦闘の余波で切られ叩かれ刺される。例えそこに美しい草花があろうとも、彼らは微塵も気にせず踏み潰す。

 

「うわっ!」

 

形勢は段々と『赤』が有利になっていく。木々の隙間を縫って正確に『黒』のライダーへ当ててくる『赤』のアーチャーの存在が大きすぎる。真名解放のために少しでも動作に停止を入れればその瞬間、矢によって串刺しにされる。

何度もマスターに念話を送る。援軍頂戴。返ってくるのは否定の言葉。誰も動かすことは出来ない。例え量産品の『黒』のキャスターのゴーレムでも。

 

「・・・ホントにもう、勘弁してくれないかな」

 

「貴様は殺す。私が貴様を殺すのだ」

 

「だよね〜」

 

分かりきっていたアヴェンジャーの返答に苦笑いしながら、その身へ迫るレイピアを避ける。段々とアヴェンジャーの動きには慣れてきた。だが同時に、アヴェンジャーも『黒』のライダーの動きに慣れてきている。

 

(仕掛けてみよっか)

 

「ゥォォォォォォオオオオ!!」

 

わざと隙を見せて、仕掛けさせる。そしてアヴェンジャーは嵌った。自然な隙に、いや、人為的だろうが自然なものだろうが、戦闘の素人であるアヴェンジャーは気づかない。

獣の如き雄叫びを上げてレイピアを突き刺してくるアヴェンジャー。『黒』のライダーは馬上槍で防がず、地面に背中から倒れ込んだ。

 

「おいで、『この世ならざる幻馬(ヒポグリフ)』!」

 

二つ目の宝具を解放する。まず反応があったのはアヴェンジャー。アヴェンジャーの優秀すぎる耳が、何かが空を切る音を捉える。気づいた時にはもう遅い。ソレは距離を無視して眼前まで迫っていた。

 

「ガアァァァァァァアアアアア!!!!」

 

ソレは『黒』のライダーのスレスレを滑空し、アヴェンジャーに突進して撥ね飛ばす。回避の遅れたアヴェンジャーはマトモに突進を受けてしまう。

 

「アヴェンジャー!」

 

隠れていた『赤』のアーチャーが出てきた。その手には弓に番えられた二本の矢。だがその矢は使われることはなく、やってきたソレは『赤』のアーチャー目掛けて突進。

 

「アレはまさか・・・幻獣、ヒポグリフか!?」

 

すれ違いざまにその全貌を見た『赤』のアーチャーは驚愕する。鷲の頭に馬の体。現代では存在していない幻想の獣。これこそが『黒』のライダーの第二宝具。ライダーとして掲げる宝具。

 

(なんだと!?こんな時に汝は何を!?くっ・・・!了解した)

 

「すまないバーサーカー!私はあちら側の援護へ向かう!」

 

念話で何を聞いたのか。結果として『赤』のアーチャーはアヴェンジャーを見捨て、違う戦場へと走り去ってしまった。

『黒』のライダーは怪訝に思うも、一つの戦場を囮にして、違う場所で戦力を集めて叩くのだろうと納得させる。

ならば自分も向かわなければ。そしてその前に、敵を倒さねば。

 

「グゥッ・・・やってくれたな『黒』のライダー・・・!」

 

痛む腹部を抑えながら、アヴェンジャーはボロボロの肉体で立ち上がる。脚は震え、今にも崩れ落ちそうだがまだいける。マスターであるファヴニルがパスを通じて魔力供給をしている。まだ、なんとか動ける。生きていられる。

 

「これで、終わりだァっ!」

 

ヒポグリフに飛び乗り、アヴェンジャーへ突進させるよう命令する『黒』のライダー。速度が高くて避けることは叶わず、筋力が足りず退けることは出来ない。

運良く生きたとしても、やはり嬲り殺し。

 

「まだだ・・・!まだダメなのだ・・・!我は死ねないのだ。死ぬわけにはいかぬのだ。奴をこの手で、今度こそ我が殺すのだ。そうだ・・・」

 

死の間際に頭の中によぎる、ヘラヘラとした天才。ふざけた男でも神に愛され続けたもの。自らの使命を思い出す。その男を今度こそ殺す。誓ったのだ。自分の存在意義を果たすと。今度こそ、自分が何者かを証明すると。

 

「私が殺すのだ。奴を、貴様を、殺す殺す殺す殺す」

 

怨みは届いた。殺意は成長した。悪意は増殖した。

開かれるは地獄の演奏。人が汚し、犯し、作り上げた死の曲(レクイエム)

刮目するがいい。恐れ慄くがいい。これが、これこそがアヴェンジャー、アントニオ・サリエリの演奏(宝具)なのだ。




ファヴニルによる緑召喚でアヴェンジャーが来たのはお互いに、殺したい相手がいたから。

アヴェンジャーさん、レイピアのみで騎士と戦い抜く!
慟哭外装がなかったら一撃で消されていたヒポグリフの突進を二回も受けて生きてるってかなり凄くない?設定じゃヒポグリフの突進ってAランク攻撃・・・。まだだで立ち上がる・・・。
ペットは飼い主に似るってことで・・・。

ジークに関しては特筆することが全くない。英雄への憧憬って普通に原作でもあったからあんまり書く気になれない。書くとしたら次は心臓あーんの時かな?

アヴェンジャーの肉体労働はまだまだ続きます。
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