Fate/Dainsleif 作:英雄ならできたぞ?
アヴェンジャーが『黒』のライダーと交戦を始めた時、同じ森の別の場所でも戦闘が起ころうとしていた。
地面を走る音がする。百二百では足りない。四桁はあるであろう、軍勢の足音。足音の正体は骸骨。魔術師間ではスケルトン、更に詳しく材質で分ければ竜牙兵の大軍が、ユグドミレニア要塞へ進行していた。
竜牙兵は『赤』のアサシンが創り出した兵士。竜牙兵の量が英霊の質に勝てるとは思っていない。これから行うのはサーヴァントの足止めではなく、要塞への突入でもなく、マスターの殺害でもない。
ソレらは『赤』の予想通り、やってきた。岩や土、木などの様々な物質で作られたゴーレムの大軍。四桁の竜牙兵に対して、ゴーレムはたったの百余ほど。
ゴーレムはそれで十分だというように、大地を踏みつけて陣形を作る。竜牙兵は躊躇わずに攻めていく。
幾多もの骨剣をゴーレムに叩きつける。ゴーレムの材質は岩、骨では効果は薄い。だから数で攻める。同じところに何度も叩き込む。体によじ登り、上から壊す。
一体一体、壊すのには時間がかかるだろう。だが数に頼れる間はそれでいい。
ゴーレムの振るった拳で五の竜牙兵が壊され、再起不能となる。それでも減ったようには思えない。数が多すぎるのだ。
量の竜牙兵と個のゴーレム。同じサーヴァントに生み出された両陣営が、捨て身で戦う。
その様子を、離れた木の上でファヴニルは退屈そうに眺めていた。
「数と質か。なかなかに見ものだが、これがサーヴァントと人間だったら、まだ心踊ったんだがなァ」
ファヴニルのいる場所は森を全て見通せるほどの場所にいる。現に、遠見の魔術を使って離れた場所で戦闘しているアヴェンジャーと『黒』のライダー。そして援護の機会を狙っている『赤』のアーチャー。さらには森を悠々とかけている『赤』のライダーまでもが見える。
戦場を全て把握できる場所ほど、戦いやすい場所はない。
今回の作戦はアヴェンジャーでサーヴァントを一体、最高二体引き寄せながら、反対側で『黒』の陣営のゴーレムをおびき寄せ、無限に湧き出るのではないかと思う数の竜牙兵で叩く、単純な作戦。
反対側、と言っても角度で表したら120度ほど離れさせているので、どちらかに『赤』のサーヴァントの伏兵が潜んでいる可能性を考慮して、安易にサーヴァントを動かすことは出来ない。
「まっ、それくらいはダーニックもお見通しか」
ダーニックは第三次聖杯戦争で生き残る、勝ちはしなかったもののナチス・ドイツから聖杯を奪い、今まで秘匿してきたのだ。当然、頭は回るし聖杯戦争での戦い方も熟知している。ただ圧倒的な『
何よりこれは聖杯大戦。どのように駒を、手札を切るかで自らの首を絞めることもある。
「一騎をアヴェンジャーに。二騎を森に入れて二騎が城に待機、そんで一騎は行方不明ってか」
事前の情報として『黒』のアサシンがユグドミレニアに合流してないことはコトミネを通じて知っている。暗殺者のクラスとはいえ、サーヴァントを一騎でも戦力から除外するのは『黒』にとっては相当な痛手だっただろう。
「さて、こっちの第二目標は達成してくれりゃいいんだが、誰を向かわせるか」
右手に持ったとある物を弄びながら考える。今のところ連絡はない。まだコトミネの『射程距離』に入っていないのか、それとも伝えずに裏で何かを企んでいるのか。
どちらでもいい。その上で行動すればいいのだ。読み合いで負けようが勝とうが、結果が最重要なのだから。それは双方、同意の上で。
「んじゃ、俺もすきにやらせて貰いますか。って、アヴェンジャーの奴はボロボロじゃねぇかよ。しょうがねぇ。マスターらしく支援くらいならしてやるよ」
パスを通じて回復魔術を流し込む。普段から自分自身にかけまくってるので、普通の魔術師の何倍も効率がよく、効果もある。
魔力が減った分、体内の魔力炉が生産する。なれた感覚に襲われながら、標的目指して跳び上がる。
今度は気配など消しはしない。敵意殺意害意悪意剥き出しで襲撃する。もはや奇襲などではなくとも構うものか。近くに、目の前に麗しの英雄がいるのだ。なりふり構うものか。あっちは剣を構えている。こっちは爪を研ぎ終えた。ならば必然、殺し合うのが礼儀だろう?
「『黒』のセイバァァァァァアアアアアア!!!!」
絶叫し、雲に隠れた月を背に突撃する。
さぁ、始めよう!今度こそ心ゆくまで踊り殺し狂おうぞ!我が麗しの
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森の中を疾走する二体の『黒』のサーヴァント。『黒』のセイバーと『黒』のバーサーカーはマスターの、王令の元に敵を殲滅すべく、駆け抜けていた。マスター等の予想ではアヴェンジャーと竜牙兵の軍団の間を縫って攻撃を仕掛けてくる。ならばやられる前に迎え撃つ。ユグドミレニア要塞の方がかなり手薄になるが、あそこには知名度最高の『黒』のランサーがいる。問題はない。
「・・・」
「・・・」
片方は話すことを禁じられ、片方は話すことが出いないため、非常に無口な時間が続く。呑気に話しているのはどうかと思うが、気を紛らわすのには会話はうってつけなのだ。
木々が揺れる。風が吹く。ゆっくりと、生温く。
咄嗟に二人は武器を構える。大剣とハンマーを天へ向け、来たるべき邪悪な意思を迎え撃たんとする。
敵の予想はつく。サーヴァントの気配ではなく、ここまでの敵意を向けてくる『赤』の陣営の存在。
『黒』のセイバーの宝具の直撃を喰らって生きているなど半信半疑だったが、今ここで確信した。あの男は、ファヴニル・ダインスレイフは生きていると。
「『黒』のセイバァァァァァアアアアアア!!!!」
喜色の歓声と共に邪竜が飛来する。手につけられた
「ウガァァ!」
『黒』のセイバーとファヴニルの前に『黒』のバーサーカーが割り込む。ハンマーと
「会いたかったぜジークフリートォ。来たぞ来てやったぞ、俺はテメェの魔剣から生き抜いた」
己の身体を誇張するように両腕を広げる。身体には僅かだが火傷だけが残っている。他は、完治。
たった一日足らず。それだけの短い時間でここまで、あの時と遜色なく動けている。いや、むしろ少しだけ確実に速くなっている。
「ヴぅ・・・!」
自分もここにいる、無視をするな!と言いたげに『黒』のバーサーカーが一歩前へ出る。ファヴニルはそんな『黒』のバーサーカーを見て満足げに頷く。
「ああ、いいぜいいぜ。お前も俺の竜爪で刈り取ってやりてぇけどよォ」
『黒』のバーサーカーが横に走る。『黒』のセイバーは飛来するモノを切り伏せようと剣を構えるが、狙いは『黒』のセイバーにあらず。
『黒』のバーサーカーが先程までいた場所に一本の矢が刺さる。魔力で作られた矢は粒子となって消失し、あとには魔力が残るも、それも散らばって消えてしまう。
「喋れねぇお前の代わりに言ってやるよ。『赤』のアーチャーだ。まっ、矢を使ってる時点でバレバレだがな」
矢が来た方向には深緑の狩人が弓に矢をつがえている。狙いはまたも『黒』のバーサーカー。最初からそれだけを狙っているかのように、『赤』のアーチャーは狙いをつける。
「一対一だ。さぁ始めようぜ。英雄か邪竜か。正義か悪か。いくぜジークフリートォォオオ!」
「・・・っ!」
ギチギチと爪を鳴らしながら、ファヴニルは心臓と首をめがけて
「伝承通り・・・防御型の常時発動宝具か!」
銀閃が走る。迸る。閃く。正確に強力に無慈悲に振るわれる
「いいねいいね!やり甲斐があるぜジークフリートォ!」
「・・・クッ!」
ファヴニルが加速する。銀剣を絡めとるように腕を捻り、爪を引っ掛ける。絡めとった場所を起点に、身体をひらりと翻して脚で『黒』のセイバーの首を絞める。竜爪が効かないのなら首での窒息死。英雄とはいえ人であることには変わりないのだ。苦しみもがいてくたばりやがれ。
「・・・!」
だが彼は英雄なのだ。一の邪竜、百の戦場、千の戦士を潜り抜けてきた、皆が認める英雄なのだ。
身体を急速にひねる。そこで作られた一瞬の隙間に腕から自由を取り戻し、更に身体を高速で回転させる。たった一度の回転。だが作られた遠心力はファヴニルを見事に引き離した。
「・・・ッ!」
防御は捨てよう。我が身に宿る邪竜の血により形作られた宝具で、邪竜の攻撃を防ぎきろう。守る必要などない。既に盾を持っているのだ。ただ攻めろ、攻めて攻めて攻め続けろ。
「・・・!」
流れるような動作で銀剣を振るう。次へ繋げ続ける。一呼吸で五回の動作を。止まる必要は無い。ただ動き続けろ。剣を振るえ。邪竜の首を斬り落とし、主へ勝利を捧げるのだ。
「ヒハハ!流石だぜジークフリート!」
ファヴニルは反撃する暇もない。剣を振るう速度はほぼ同じ。なのに自らの
弾き逸らし躱し掠る。
一度でも反撃を許せば即座に背中を傷つけられる攻の戦法。本来ならば『黒』のセイバーなどの極小数しかやらないだろう。なまじ防御が硬すぎるせいで、完璧な戦法として完成している。
宝具、
ファヴニルの強化魔術は殆どが自らの身体強化。英霊との戦闘に互角に持ち込むために、自らの身体を改造し、理解し、効率よく強化する。武器の強化など微々たるものだ。ほとんど使わないと言ってもいい。
「チイッ!!」
ならば連続で、同じ所へ叩き込む。
さらなる剣戟。英雄の剣と邪竜の竜爪は、英雄の体には微塵の傷を付けず、邪竜の体にのみ浅い傷を残していく。
「グゥッ・・・!ガハッ!」
無限の時間のように続いた剣戟。それがとうとう均衡が崩れた。ファヴニルの胴に横一線。銀色の剣線が走る。硬い感触と共に、確かに斬ったという絶対の手応えが『黒』のセイバーの腕に残る。
すかさず追撃、銀剣を全力で一閃。だがファヴニルは一瞬で後方へ跳び退く。無理に肉体を激しく動いたせいで、ファヴニルの傷口から血が溢れる。ファヴニルの口からも逆流した血が喀血する。地面を侵食し、辺り一帯を赤黒い色彩で塗り潰す。
「ああ・・・やっぱり最高だぜジークフリートォ・・・。まさかこんなに楽しませてもらえるなんてなぁ」
傷など気にしない、どうでもいいのだと言わんばかりに楽しそうに声と体を震わせる。それと同時に『黒』のセイバーの直感が叫ぶ。何かが起こると。とてつもなく、悪いことが。
ファヴニルの体から青白い光が漏れでる。魔力ではない不可思議な物体。ファヴニルの目がギラギラと光る。その眼光がもう逃がさんと言わんばかりに、『黒』のセイバーを捉える。
「もうダメだ我慢ができねぇ。コトミネの奴には無闇矢鱈に使うなって言われてたがもう限界だ!こんな素晴らしい英雄を前にして出し惜しみなどしていられるはずがねぇ!!」
ファヴニルは『黒』のセイバーに敬意を抱いている。どこまでも深く、まさに神を称えるかのごとく。
天地が震える。彼らが怯える。此の世に生を得て、
「だからとっととくたばってくれんなよ!俺の本気を受けてくれよ竜殺しの英雄よ!」
これから、これからが本当の邪竜戦記。英雄に殺された邪竜が、英雄を滅ぼす滅亡剣となる物語。
邪竜は顎を開いたぞ。竜爪は大地を抉ったぞ。翼を広げて世界を駆け、無辜の民を傷つける邪竜は真の意味で降誕する。
「創生せよ 天に描いた星辰を 我らは煌めく流れ星」
邪竜の咆哮が天へ轟く。さぁ、輝く
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「これは・・・」
戦場の合間を抜けるように、ユグドミレニア要塞へ向かう人影。その人物はコトミネ。コトミネは迎撃してくるホムンクルス、ゴーレムを目にも止まらぬ速さで仕留め、今はまだ無傷で活動できている。
その足が、止まる。
森の木々がざわめいている。動植物が叫びを上げたかのようだ。それと同時に、爆発する気配。魔力でもない不可思議な力の奔流。コトミネはやれやれと頭に手を当てる。
「やはり、もう使ってしいましたか。これは計画を急がせる必要があるようだ」
複数のサーヴァントの視界を覗き見る。『赤』のアーチャーは『黒』のバーサーカーを抑えている。『赤』のライダーは恐らくは『黒』のアーチャーと思わしきサーヴァントに翻弄されている。
『赤』のランサーはユグドミレニア要塞の反対側で奇襲を仕掛け、その迎撃として『黒』のランサーが出ている。『黒』のキャスターがゴーレムの練成師だということは分かっている。城にこもっていることは容易に想像できる。
「やはり首輪でも付けておけば良かったでしょうか」
まぁ、付けたところね喰いちぎるでしょうが。
指と指に挟んだレイピアのような礼装、黒鍵を投擲し迫り来るホムンクルスの頭に突き立てる。まだストックはあるがいかんせん、数が多い。ルーラーがこの近隣にいないことは確認でいている。今のうちに、できるだけ動いておかなければ。
やってきたホムンクルスの追撃を木の上に逃げることで回避する。黒鍵とてタダではなく、無駄な浪費はよろしくない。
コトミネは彼方を、ファヴニルがいる方向を見る。
「全てはあなたの思うがままに。安心してください。あなたという欲望竜は、誰にも止めることができないのですから」
止めるのは無粋。好きに暴れて勝とうが負けようが生きようが死のうが構わない。勝ちはもう、目の前なのだから。
まだ使う予定じゃなかったけど、出し惜しみは邪竜おじさんには似合わなかったから、ね?
超ハイペースで進んでいく物語。描写されていないところは原作通り、もしくはご想像にお任せします。
ジーク君については・・・多分次回。
※ファヴニルの詠唱を「天昇せよ——」から「創生せよ——」に変更しました。