この鎮守府の提督はいろいろ規格外でした。   作:ペペロンチーノ伯爵

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ウワァァアン↑疲れたもお↑ぉぉぉ↓おん!


第四話『お帰り、そしてただいま』

一度牢から出て周辺を再度見渡して誰もいないのを確認、牢に戻って時雨に近寄る。

 

「時雨、お前の服はどこだ?」

 

「着ていたのは……部屋だけ…ど……っ」

 

「時雨……?」

 

マズいな……栄養失調で身体が弱ってる……さっきはステロイドによる一時的な肉体強壮のおかげで動けたのだろう、だがそれも栄養失調のせいで長くは効果が続かないのか。

俺はバックパックから予備に入れていた三本目のステロイドを取り出して自分に打ち込む。

そして意識を落とした時雨をおぶって立ち上がる。

 

「ッ……二本でやっとか…この身体もなかなか不便だな」

 

深創はおぶったままこの悪趣味な部屋を様々な角度から視認してその視覚情報をイェソドに送った。

それとは別に、様々な器具が揃えてある棚の引き出しから気になる書類を発見した。

 

「これは……っ、さあ、外に出よう」

(まだ他にもいたのか……今の俺に救えるのは時雨だけだ。ならば……)

 

《深創…情報を受け取った、それとー》

 

「今すぐ憲兵隊をこっちに寄越してくれないか、時雨を救出した、かなり消耗してる。急いでくれ」

 

《何だと?分かった、出来るだけ急ごう》

 

来た道を戻り、ゆっくりゆっくりと時雨に負担が掛からないように長い通路を歩いていると、上り階段に差し掛かったところで時雨がうめき声を上げながら目を覚ました。

 

「ん……あれ?僕は…」

 

「起きたみたいだな、大丈夫か時雨?」

 

「う…うん、大丈夫、歩けるよ……」

 

「そうか、それなら降ろすぞ」

 

時雨を降ろし、まだふらつくその足取りを支える。

 

「まだまだ本調子じゃないな、辛くなったらすぐに言ってくれ」

 

「分かった……いまは大丈夫だから…」

 

俺から一歩下がって一定の距離感で着いてくる時雨を気に掛けながら階段を上り、酒保側からではなく、壁に付いたレバーを引いて裏手の壁を押し開け太陽の光を階段に差し込ませる。

ふらつく時雨のに手を差しのばした、この暗い世界から彼女を助け出す為に。

 

「…………」

 

時雨の視界の先には、自分を優しく見つめながら白く清いその手を差し出してくれる彼の顔をジッと見つめ、手を取る。

 

(何故だろう……男に近寄られると考えただけで吐き気がする。それなのに…なぜこの人の手なら握れるのだろう?なぜこの人の傍にいると落ち着くのだろう?安心する……離れたくないと思ってしまう)

 

時雨は深創が他の人間とは違う何かがあることに気付き、不思議と気持ちが安心するような感覚に浸る。

 

「さあ行こう時雨、この場所からー」

 

ドゥーッ!!

 

「………え…?」

 

目映い閃光の一瞬、時雨の身体を壁の隅に投げ飛ばした深創は首を傾げて耳元を通過する高熱の弾丸を躱した。

 

「……コルトパイソンとはな、いい銃を持ってるじゃないか逢沢提督?」

 

「………チィッ!」

 

「っ…………!」

 

不意打ちが失敗した逢沢は悪態を吐きながら両手に握ったリボルバーピストルを再び深創へと狙いを定める。

 

「いいのか?俺を殺したら不審に思った大本営が調査しに来るぞ」

 

「ッ………クソが!」

 

逢沢は端に倒れ込んだままの時雨に向けて銃口を向け、その引き金に指を掛ける。

そして人差し指に力を掛けた瞬間、深創に腕を掴まれてしまう。

 

「おい……何してる?」

 

「ッ…ぁガァァァァァァァァァぁ!!」

 

逢沢の膝を蹴り落とし、右手に握りしめたコルトパイソンを奪って腕をへし折りパイソンの36口径マグナム弾で蹴り落とした左脚の太股を撃ち抜く。

 

「ハァァァァァ!………ああああぁぁぁ……!」

 

「質問に答えろ、お前、他にも艦娘を記録から消して『売り飛ばして』いるだろう?」

 

「ッ……このクソやッー」

 

二発目、今度は片耳を弾き飛ばした

 

「質問にだけ答えろ……悪いが俺には余裕がない、さっさと言え、5分後には憲兵隊が到着する、その前に吐けば事前降参という事で刑を緩くしてやる」

 

「ううぅ……ちくしょう……クソックソ……!」

 

「早くしろ、次は逆脚をぶち抜いてやろうか?」

 

「ああちくしょう…分かった……分かった………そうだ、『俺達』は用済みになったり、命令を無視した駆逐艦を解体したことにして売っぱらったんだ」

 

「それで?売買先は何処だ?」

 

「そ…それは言えなー」

 

逢沢が口篭もった瞬間、深創は容赦なく右足を撃ち弾き、左手の小指を折り曲げる。

 

「ガァァァァッ……!!ちくしょう…ちくしょう……場所は渋谷の地下裏商売人だ!今は674-9942にいる!!」

 

「………ふむ、そうか。ならもう用はない、お前が誰かを傷付ける事もない」

 

「………?」

 

逢沢から奪ったコルトパイソンの銃口を握り、グリップを大きく振りかぶって逢沢の股下に思い切りねじ込む。

鈍く生々しい音と共に破裂したモノを抑えながら泡を吹く逢沢もいくら人間性が腐っていても軍人、ギリギリで意識を保っていた。

 

「ふしゅる………ふしゅ………あの女……あの女は……」

 

「………?」

 

逢沢は歯を食いしばり冷や汗を垂れ流しながら時雨を睨み付ける。

 

「そこのクソ女は他人の運を奪う疫病神なんだよ!!」

 

「ッ……!」

 

「……………」

 

泡を吹き出し、大量の涙を流しながら僻む逢沢の口は止まらず、叫び散らす。

 

「最初の頃からお前ばっかり『一人』で帰って来やがって!駆逐艦は使い捨てる!なのにお前だけ!帰ってくるのはいつもお前だけなんだよ!!挙げ句の果てに俺の命令を無視してノコノコと……さっさと死ねよ!!!」

 

「う………僕は……」

 

「お前みたいな疫病神でも人間様の約に立てるようにしてやったのに……お前は黙って股を広げてればいいんだよ!!」

 

「っ………」

 

「言いたいことはそれだけか?」

 

最後の最後まで冷静かつ無表情だった深創は地べたを這いずる逢沢の顔を引き上げ、残った片耳に口を近づけ、時雨に聞こえないようにボソリと呟く。

 

「今回は生かしてやる。だが次もう一度、時雨の前に姿を現したらその時は……俺も『我慢の限界』だ」

 

「っ……ヒッ………」

 

自分を睨み付けるその眼は深淵に染まり、狐色に輝く眼光の周りを黄金色の炎が纏っており、そこから溢れ出る様々な怨念に似た何か、鳴き声や叫び声が逢沢の聴覚を埋め尽し始める。

 

「それ……それは……改の………」

 

逢沢は暗黒から見つめられているような禍々しい深創の眼に耐えきれず白目を向いて気絶してしまった。

 

「憲兵隊だ!!深創はいるか!?」

 

「ここだ…ここにいる」

 

タイミングよく憲兵隊が鎮守府に到着し、二人に近付く。

その内の一人が深創の足元に転がる男を見ながら多少引き気味に口を開ける。

 

「一体……何が?」

 

「彼女を救出した時に不意打ちをもらったから反撃しただけだ、ここの視察官は俺だ。殺さず独房に入れて情報を引き出せ、詳細は追って知らせる」

 

「了解……それでこの艦娘は…」

 

深創の背中に隠れる時雨に手を伸ばした瞬間に時雨はコートと一緒に深創にしがみついた。

 

「おっと……すまないが女性職員を連れてきてくれないか?見ての通り極端な男性恐怖症だ」

 

「りょ、了解……おい君!こっちに来い!」

 

女性の憲兵を呼び出し、入れ替わりで深創の前に来る。

 

「どうしましたか?」

 

「時雨を頼む、服と食事を。極度の男性恐怖症と重症化した栄養失調だ」

 

「分かりました、なるべく女性だけで当たらせます」

 

「そうしてくれ、よかったな時雨……時雨?」

 

 

深夜・am01:30

ー『大本営・ゴースト用待機室』ー

 

 

深創はバラバラに分解したガバメントのオイル差しと磨き上げを終わらせ、組み立て作業に掛かる。

あの後、極度の緊張状態から解放された反動で眠ってしまった時雨を女性憲兵たちに任せて俺はイェソドに始末書を提出したところだった。

 

カチャ…カチャカチン…ガチャ…

 

心地の良い銃創の音が響く部屋のなかで一人座り込んで機械的に手を動かす深創はふと逢沢の声を思い出す。

 

『疫病神なんだよ!!』

 

あの子に………伝えなくては……

 

『お前ばっかり一人で帰って来やがって!!』

 

本来受けるべきだった……その言葉を…愛情を。

 

「時雨……そうか…お前は……」

 

組み立て終えた新品同様のガバメントをホルスターに入れて深創は待機室を飛び出した。

 

 

夜・pm01:40

ー『海軍・最高医療施設周辺』ー

 

 

30分前に目を覚ました時雨は、新しく新調された自分の制服に着て病室を抜け出し、一人としてすれ違うことのない冷たい夜道を歩いていた。

 

「……………」

(僕は…どうすればいいんだろう……)

 

きっとあのまま病院にいても、待っているのは解体のみだろう。

記録に残っていない艦娘なんて解体したほうが面倒が無く処理できる、ましてや僕は駆逐艦、そうなる可能性は高い。

あの人はどこに行ったのだろうか……僕が目を覚ました時にはもういなかった。

 

(やっぱり……結局僕は一人になるんだ……僕に帰る場所なんて……)

「………あ」

 

気付けばいつの間にか夜空を悪雲が覆って大振りの雨が降り始めていた。

綺麗に整っていた三つ編みは雨の水分を含んで重くなり、新調されている染み一つ無い制服も濡れて色を深めて肌に吸い付く。

 

(冷たい……いやな雨だな…もうこのまま………)

 

「時雨……!!」

 

「え……あ…」

 

全てを諦め、虚ろな目で途方に暮れていた時雨の前に深創が現れた。

ずぶ濡れの前髪を掻き上げながら時雨の前まで近付き、今度は深創の方から時雨にコートを掛けてくれる。

そして膝を崩し時雨と目線を合わせて一言、『時雨』と名前を呼びながら強く抱きしめた。

 

「時雨……すまない、このままお前を行かせてしまうところだった……」

 

「……どういう…こと?」

 

『お帰り、帰って来てくれてありがとう時雨』

 

「……………!」

 

初めてだった、耐性がなかった、深創から発された『お帰り』は時雨の堕ち掛けた心を繋ぎ止める。

 

「いままでよく頑張ったな……ありがとう、ありがとう時雨」

 

「意味が……分からないよ…僕は……僕は違うんだ…」

 

本来日常的に貰うべき『お帰り』、その言葉を時雨は望んでいたのかもしれない、誰一人として共に帰れなかった時雨から奪った常識は深淵の過去を深く根強くさせるには十分だった、それを俺は気付けなかった。

 

「お前の気持ちが分かるなんて綺麗事は言わない、だが言わせてくれ」

 

「…………?」

 

「遅くなってすまなかった……もう大丈夫だからな、時雨」

 

「……うん……うん…。ありがとう………っ…よし…」

 

時雨は溢れ出る涙を雨で隠しながら顔を拭き、名残惜しそうに深創の胸から離れ、生気と希望に満ちた蒼く美しい瞳で深創を見つめる。

 

「ふぅ………ただいま」

 

きっとこの雨は僕の『負』を洗い流してくれているのかもしれない、君とまたこうして引き合わせてくれたんだから。

 

「良い雨だね……」

 

「……?そうか」

 

「そういえば、まだキミの名前を聞いてなかったね」

 

「ああ……俺は深創、これだけ覚えてくれれば良い、よろしくな」

 

「深創……分かった、僕は白露型駆逐艦二番艦の時雨。改めてよろしく」

 

時雨の笑顔を見ながら微笑む深創はあることを決意し、実行する事にした。

 

 

~am07:20~

ー『大本営・ゴースト用待機室』ー

 

 

「なるほど……お前の言っていた問題ってのはそれか」

 

「すまないなイェソド、わざわざこっちまで来て貰って」

 

「気にするな、それで?どうなんだその子は?」

 

俺は膝の上に頭を預けて眠っている時雨の頭を撫でながらイェソドの問いに答える。

 

「病院には戻してない、ここに連れて来て風呂に入れてからすぐに寝てしまったんだ」

 

「ふむ…この感じは……」

 

「ああ、眠っているにも関わらず俺の位置を把握して離さない…典型的な不安症候群だな」

 

「窶れているな、病院にいたんじゃなかったのか?」

 

「点滴だけだぞ?回復量などたかが知れてる。それよりも、大事な話し…いや質問がある」

 

「ん?なんだ言ってみろ」

 

時雨の頭を撫でる右手の動きを止め、真剣な眼差しを向ける深創の口から発された一言。

 

『提督業に就くにはどうしたらいいんだ?』




いいか?もう一度言うぞ?ウワァァァン疲れたモオオぉぉぉん!!
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