この鎮守府の提督はいろいろ規格外でした。   作:ペペロンチーノ伯爵

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この辺りから難しくなってくるなぁ……だが諦めませぬぞ!!


第五話『軌跡の始まり』

深創の口から出て来たその言葉の意味を理解出来なかったイェソドはしばらく沈黙した後、再確認する。

 

「本気か?自分で海軍の犬にはならないと言ってたじゃないか」

 

「もちろんそのつもりだ、俺は連中の為には動かない。俺は……」

 

「はぁ、分かってる。その子の為だろ?」

 

「ああ、『この子達』の為だ」

 

しばらく考え込み、深創の膝上で安らかに眠る少女の寝顔を見ながら小さな溜息を付いた。

 

「覚える事はたくさんある、提督業に就くにはいくらか試験を合格しなければならない。今から説明するから少し待っていろ」

 

数分後に資料を持ってきたイェソドは短絡的に分かりやすく深創に説明する、まず今の段階から提督業に就くのはそう難しくはない、だが。

 

「試験は二種類、筆記試験と実技試験だ。正直言って実技試験は厳しいぞ、だがお前なら無難に実技で通過したほうが楽に行ける」

 

「ふむ、なら実技で行こう」

 

「んぅ……?」

 

膝上から頭を上げた時雨は寝ぼけ眼を擦りながら深創に寄り添い、意識がハッキリしてきたのか目の前のイェソドを目視した瞬間に身体をビクつかせて深創の背中に隠れてしまった。

 

「っと……すまないイェソド」

 

「構わないさ、ならそれでいこう。手続きはしておく」

 

「ああ…任せた」

 

部屋を出て行くイェソドを見送り、背後に隠れた時雨の手を握る。

 

「あ………」

 

「もう大丈夫だ、ほらおいで」

 

「…うん」

 

まるで犬だな…。

常に俺の身体に頬を擦り付けながら隣に座る時雨の頭を撫で下ろす。

頭皮をなぞる指に合わせて気持ち良さそうに唸る時雨から手を離し、ベンチからゆっくりと起き上がる。

 

「っ!何処行くの!?」

 

「落ち着け、どこにも行かないよ。大丈夫だ」

 

「本当に……?」

 

「ああ、とりあえず朝食にしよう、何か食べたい物はあるか?何でもいいぞ」

 

「僕はパンと水さえあればいいよ……」

(僕なんかの為に負担を掛けさせたくない……)

 

「パンか……ふむ、分かった。そこで座っててくれ」

(意外と洋食が好みなのか?……ならあれでいこう)

 

深創はあることを思い付き、時雨の肩を叩いて寮にある備え付けのキッチンに立つ。

ゴースト用の待機室と言っても戦闘要員は深創しか残っていないため、ここはもはや深創の部屋みたいな物なのだ。

 

「確か買い置きの新しいフランスパンが……あった」

 

「うん……?」

(フランスパン……?あれ?)

 

テキパキと材料を捕らえて台所に並べ、分厚いフランスパンを斜め6等分に切り分けて大皿に乗せる。

フライパンに油を引いて火を付け、市販のあらかじめカットされたベーコンを12枚敷いて裏面だけじっくり焦げ目がつくまで焼く。

 

「………………」

(時雨の体調からして……点滴である程度は復活しているがしっかりとした物を与えないと弱る一方だ、多少多めに作るか)

 

「……良い匂い」

(あれはなんだろう?深創は料理が得意なのかな?)

 

背を向けてベーコンの焼ける甘い匂いに包まれる深創を眺めていた時雨の腹の虫が激しく唸り声を上げた。

 

「あ……」

(しまっ……!)

 

「すまんな時雨、すぐ終わるから待っててくれ」

 

「う、うん……ごめんなさい」

 

顔を俯かせて赤面を隠す時雨は恥ずかしさで思考をいっぱいにしながらも出来る限り何も考えないようにした。

 

「……あとはこれを……よし、出来たぞ時雨、食べよう」

 

「うん、ありがとう……???」

(あれ?僕のは……?)

 

「……どうした時雨?食べないのか?」

 

「え……これ!?」

 

時雨の目の前にある皿に乗せられたフランスパンの切り身。

その上に盛りつけられた下敷の香ばしいベーコン、積み重なるトマトスライスにオニオンとチーズ。

 

「飲み物はミルク……えっと、牛乳でいいな」

 

「あ……う、うん」

(ど、どうしよう。全く予想外だよ……た、食べてもいいのかな?)

 

チラッ

 

「ん?なんだ、気にせず食べてくれ」

 

「分かった……いただきます…」

 

恐る恐るパンを手に取り、チラチラと深創の様子を伺いながら一口頬張ってみる。

 

「ッ…!」

 

フランスパン特有の硬さが下顎を固定し、上前歯で上から噛み付く。

チーズやオニオンと共に乗せてある厚めのトマトスライスが溜め込んでいた甘酸っぱい水分が溢れ出してパンに染み、思っていた以上にいとも簡単にパンを噛み千切る事が出来た。

ベーコンの肉汁とねっとり濃いチーズの味をサッパリと食べやすく調和させるオニオンスライスの甘い苦味やトマトの水分が実に素晴らしい案配で成り立つ。

 

「どうだ?」

 

「……美味しい、すごく美味しいよ!」

 

「そうか、それはよかったよ。今日はそれで我慢してくれ、次からは出来る限りしっかりとした物を作るよ」

 

「次から……?」

 

「ああ、これから一緒なんだ、食事はちゃんと採らないとな」

 

「え?それって……」

 

「少しだけ、待っててくれ。俺が『動ける』ようになるまで」

 

そういう事だったんだ。

時雨は深創と話していた男との会話を聞いてはいないが大体予想がついた。

 

「キミも……提督になるんだね?」

 

「そうだな、俺はお前達の為の提督になる。海軍の為じゃない、お前達を救うために提督になるんだ」

 

「………!」

 

凛々しい輝きを放つライトブルーの瞳に胸を貫かれたような感覚に陥った時雨は再び沸騰し始める顔を深創から背ける。

 

「……?」

 

「………提督はずるいな…」

(全く……本当にずるいよ)

 

「気が早いぞ、まだ提督にはなってない」

 

「そんなことないさ、僕は信じてる、絶対になれるよ」

 

「………ありがとう時雨。さぁほら、まだパンはある、ゆっくり食べろ」

 

「あ…うん!」

 

俺は美味しそうに頬張る時雨を見ながら微笑み、一時の休息に息を着く。

その日の午後、朝食を終えてしばらく休憩していた二人はイェソドの呼び出しで事務室に来たのだが、深創は思わず頭を抱えてしまった。

 

「だから来なくてもいいって言っただろう?無理してくるから……」

 

「うぅ……」

 

「おい、話を続けていいか?」

 

「すまないイェソド、続けてくれ」

 

イェソドに怖がって胸に縋り付く時雨に困った顔を浮かべる深創はアイコンタクトで謝罪の意をイェソドに向ける。

 

「はぁ…それじゃあまずこれを見てくれ」

 

「ふむ…この資料は?」

 

「実技試験の内容だ、試験日は二日後、手続きはこちらで最速で終わらせておいた」

 

「相変わらず仕事が早いな……ふむふむ」

 

まず大前提として、海軍の中で実技試験を受ける者は年間で約10%しかおらず、その中でも試験を突破できるのは3%程と言われている。

筆記試験とは最高峰の海軍兵学校4年間を卒業した天才が合格し、そこから更に5年の研修を経てやっと鎮守府へ配属されるが、実技試験とは海軍兵学校に入籍していない志願兵でも受ける事が出来る試験、だがその課題の合格ラインの高さに挫折して振り落とされる者が多い。

実技試験は筆記試験と違って一度合格ラインを走り抜けば即刻『希望する』鎮守府への配属がその日のうちに決まるのだ。

 

「……なるほどな、実技試験の厳しさは分かった」

 

「ま、お前なら難なくこなせるだろう。何も心配はいらん、ゴースト選抜を生き残った猛者からしたら大したことはない」

 

「まぁ、どうなるかは分からないな。最悪の事態は考えておこう」

 

「……いつものクセだな」

 

「いつもの……クセ?」

 

イェソドの言葉に反応した時雨が初めてまともに振り返ってイェソドを見つめる。

 

「そうだ、こいつは何をするにも最悪の事態を常に想定する」

 

「そうなんだ…なんかすごいね」

 

「別に凄くはない、今この時にいきなり地球が半分に割れてしまう事だってあるかもしれないからな」

 

「それは……さすがに無いかな」

 

「無いな」

 

「そ……そうか」

 

深創は書類をひとしきり読み終わるとテーブルに置き、気分を切り替えるように深く目をつむって雰囲気の変わった視線をイェソドに向ける。

その空気をイェソドも察知したのか、小さく頷く。

 

「すまない時雨、先に戻ってくれるか?」

 

「え……?」

 

「そんな顔をしないでくれ、大事な話しなんだ。頼む」

 

「………………分かった」

 

時雨は激しく深呼吸をしながら精一杯に深創を抱き締める。

 

「……時雨?」

 

「うん……よし、それじゃあ僕はこれで失礼するよ」

 

「あ……ああ、ありがとう?」

 

名残惜しそうに事務室を出る時雨に首をかしげながら深創は苦笑いを浮かべる。

 

「さて……あの件だな?」

 

「そうだ、艦娘を売り買いしている裏商売人、捕らえたのか?」

 

「もちろん、憲兵隊は優秀だな。発見から逮捕までの流れは一瞬だったぞ」

 

「………解放された艦娘は?」

 

「精神的に運用不可能と判断され、数分前に解体された」

 

「……そうか」

 

「おい」

 

イェソドは深創の肩を掴み、優しく揺さぶりながら気迫こもった声で言い聞かせる。

 

「お前が救える数には限りがある、何度も言ってるだろ?『俺なら助けられた』などと甘い考えは持つな、分かってるな?」

 

「大丈夫だ……分かってる…」

 

「それならいい、あと2ヶ月前から修理していた例のヤツも二日後に届く」

 

「了解だ、いつもすまないな」

 

「謝るならもうアレを壊すのは勘弁してくれ」

 

「善処する」

 

イェソドに礼を言って事務室を出て待機室に戻る。

その後の時間を全て時雨に奪われたのはまた別のお話し。

 

 

二日後午前・06:10

大本営・実技試験会場

『ゴースト用待機室外』

 

 

鋭さを増していく肌寒さを感じながら大本営の外会場に顔を出す。

隣にぴったりとくっついている時雨の頭を撫で下ろし、会場にずらりと並ぶ実技試験参加者の列に入り込む。

 

「時雨、大丈夫か?」

 

「うーん……まだ、なれないかな」

 

「だろうな、オマケにこうも広いと迷いそうだ。大本営にこんな場所があるなんてな」

 

いま二人がいる試験会場は東京ドーム二個分の広さを持ち、課題ごとに区間分けがされているようだ。

周辺の様子を伺っていると、列から外れた場所から聞き覚えのある声で呼ばれる。

 

「おーい、深創ー!!」

 

「ん…?文輝か?」

 

声のする方向に振り返ると、そこには二人の艦娘を護衛に付けてこちらを手招きする文輝の姿が目に映る。

鎮守府の司令官であることを象徴する真っ白なくたびれた軍服に身を包み、帽子は浅く適当に被るだけ。

俺は時雨の手を引いて文輝の元に近付く。

 

『おい見ろ、元帥殿だ』

 

「……ん?」

 

『すげぇ……俺達の目指す希望が目の前に……』

 

「ほう……かなり知名度が高いんだな文輝?」

 

「いやぁ、困ったもんだな」

 

列に並んでいた全員の目を引いている文輝は頬を掻き、深創の隣にいる時雨に気付く。

 

「ん?艦娘が何でこんなところに?」

 

「っ……提督…!」

 

「ああ……この子は訳ありでな、察してくれ」

 

「ははーん、了解だ。ここは人目を引く、こっちに来い」

 

「いや、俺は試験がー」

 

「んなもん俺が何とかしてやるって。いいからほら、お前さんには『別課題』だ」

 

「???」

 

そのまま文輝に連れられるがままに試験会場の全貌を見渡せる防音監査場に押し込められた。

 

「ッッ……なんだいきなり?」

 

「いやな?お前が実技試験に出て提督になろうとしてるって紫髪の兄ちゃんから聞いてな?」

 

「イェソド………はぁ…」

 

「それで俺は考えたんだ」

 

文輝は俺と時雨の椅子を用意し、座るように促す。

 

「考えた……?何をだ?」

 

「おっと俺としたことが、二人の紹介がまだだったな。不知火と加賀だ」

 

「初めまして、不知火です」

 

「一航戦、加賀です。」

 

「ああ…俺はー」

 

「知ってます、提督が飽きるほど語っていましたので」

 

「ん……?」

 

「いやはや……まあそうだな」

 

あんたに俺を語れるきっかけあったか?

そんなことを考えながら不知火と加賀の二人に軽く会釈をして椅子に腰掛ける。

 

「それで?一体なんなんだ?」

 

「さっきもチラリと言ったがお前には別課題だ、正直な話しあんなチンケな試験じゃお前の力量は測れないと思ってな?事前にいくつか調べさせてもらった。その結果だが……」

 

文輝は事前に用意していた深創に関する情報が掲示された文書を見ながら鼻で笑う。

 

「いやお前化け物だなマジで……」

 

「……?」

 

「お前の能力は桁違いだと分かったよ…本当に、だから俺は試験なんざ飛ばしてさっさとお前を提督業に就かせたいわけなんだが……」

 

文輝は自分の右隣にいる不知火を顎で指した。

 

「ここにいる不知火がお前とサシ(1on1)をしたいと言うんだ」

 

「俺と?何故だ?」

 

「ハッキリ申し上げて、心配だからです」

 

ドストレートに提言してきた不知火の圧力に包まれながらも深創は黙って話を聞く。

 

「気を悪くされたのなら謝ります。ですがこの司令官は気分で物事を決めることが多いので」

 

「なるほど……それは確かに心配だな」

 

「グフッ……!」

 

「はい、今回は事が事ですので、手早く不知火自身の力で調べさせていただきたいと思います」

 

「ふむ………」

 

「提督……」

 

「どうした時雨?」

 

「頑張ってね、僕は応援してるよ」

 

あ、もう組み手するのは確定なのか……仕方あるまい。

 

「それで?どこでやるんだ文輝?」

 

「は?ここだけど?」

 

「いや、ここは監査室じゃ…」

 

「それは反対側、ここはマジックミラーだし今は使ってない。なおかつ広くて防音だから持って来いだろ?」

 

「うーむ……いいのか?」

 

いつの間にか向き合う深創と不知火の周りにあったオブジェクトは片付けられ、自然と殴り合うには丁度よい空間に仕上がっていた。

 

「早過ぎるだろ………」

 

「先に言っておきます、加減はしません。最悪の場合…半殺しになるかもしれません、いいですね司令官?」

 

「お、おう。構わないよ」

 

「全く……俺も構わないが、キミはいいのか?ケガをさせてしまうかもしれない」

 

「不知火を心配しているのですか?申し訳ありませんが、艦娘と人間の勝負では既に決着は付いているようなものです。……もちろん油断はしませんが」

 

「そうか……了解だ、やろうか」

 

「はい、よろしくお願いします」

 

不知火は古典的な護身術の綺麗な構えを取り、拳をあげて突き刺すような眼で深創を捉える。

一方、深創は右足を後ろに下げただけの不格好なノーガードを見せて不知火を見定める。

 

「………それで構えているつもりですか?」

(……なんですかこの感覚は…)

 

「これが俺の構えだ、不満か?」

 

「いえ……別に」

 

時計周りに向き合いながら互いの距離感を計算する二人の姿を見ていた加賀が独り言のように呟く。

 

「強いわよ……」

 

「だな、なんたってウチの駆逐艦のエースだからな!」

 

「そうじゃないわ、不知火じゃなくて彼の方よ」

 

「………やっぱお前には分かるか?」

 

「ええ……なんせ…」

 

加賀は二人を観察しながら小さく呟いた。

 

『彼女が勝てるイメージが湧かないもの』




いやマジかよ…時間がねぇ。
じゃんじゃん更新していきますよー!!
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