この鎮守府の提督はいろいろ規格外でした。   作:ペペロンチーノ伯爵

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表現の仕方をこう……なんかあるはずなんよ


第六話『強さの証・全てはゼロから』

これは……マズいな……。

深創は正面に佇む不知火を見定めながら心の中で呟く。

この状況は素人目でも分かる程、深創の圧倒的不利を表しており、それは体格差などと言った身体的要因では無く根本的なものにあった。

 

『艦娘と人間が生身で殴り合う』

 

不知火には自分の腕に自身があった。

自分の司令官がいくら評価しようと目の前にいるのは所詮人間、艦娘が持つ異常な腕力や身体能力を駆使すればまず負けることは無い。

そう思っていた。

それに伴い深創には情報が無い、なんせ艦娘についての知識はほぼ皆無に等しいのだから。

つまり艦娘の身体能力が人間を遥かに凌駕している事さえ深創は知らない、なにも知らないのだ。

 

(……練度は97。ダメだ、なんの参考にもならないぞ。プロセッサーが教えてくれる情報にも限度があるからな…)

 

もう一つ深創が不利になる要因として、この組み手は深創本来の技量を大きく制限しているのだ。

その訳はー

 

「では不知火から行きます」

 

「っ……!」

(速い……!)

 

小さくも鍛え抜かれた身体から振り抜かれる左ストレートを右手で受け流し、全身で不知火にタックルをかまして距離を取る。

 

「ッ!!」

 

「…………」

 

「ッッ……ふん!」

 

適切な距離感を保っていた矢先、不知火の踏み込んだ素早い回し蹴りが深創の顔面に繰り出される。

振り払われた左脚に右腕をぶつけて不知火から遠心力を奪い、左手の平で彼女の頬を殴ってまた距離を置く。

 

「ンッ…っ!」

 

「っ…………」

(ふむ……なるほどな)

 

「……深創さん」

 

「………?」

 

不知火はいきなり構えを解き、深々と深創に頭を下げた。

 

「え…?」

 

「すみません、半殺しにすると言いましたが…元々そんなつもりは無かったのです」

 

「……そうなのか?」

 

「はい、ですので。加減をした事を謝らせていただきます」

 

「…………なるほど」

(あれで加減をしていたのか?一撃でもまともに喰らったら危ないあれが?)

 

深創は苦笑いを浮かべ、自分の置かれているただでさえ厳しい状況が更に不利となる感覚を噛み締める。

 

 

「…あれだけの組み合いで貴方の力量が『不明瞭』になったので……本気で行きます。貴方に加減している場合ではないと悟りました」

 

「……お手柔らかに頼む」

 

「それでは、行きます!」

 

「ッ!!」

(更に速くなった?本当に加減していたのか)

 

驚いた……まさかこんな少女がここまで動けるとは。

全く同じタイミングで振り抜かれた左ストレート、一度見た攻撃を喰らう深創ではない、さっきと同じように受け流そうと右手を押し当てたが。

 

「ングッ……!?」

 

「………当たりましたね」

 

「提督!!」

 

深創は軽々と押し返された右手の甲と一緒に顔面を殴り飛ばされ、マジックミラーの壁に浮かんだ身体が激突する。

 

「ッ……クッ……!」

(なんだ今のは……異常な力だ…まるで最高加速に到達した新幹線とぶつかった感覚だ……だが今ので………)

 

折れた鼻から噴き出す鼻血を抑えながら起き上がったその時、不知火の回し蹴りが深創の側頭部に振り払われていた。

 

「ッ……!」

 

「っ……避けた?」

 

間一髪で回避して不完全な受け身を取りながら地面を転げ回り不知火から離れる。

そして血が止まった鼻を擦りながら指先で鼻血を拭い、不知火の前に立ち尽くす。

 

「お……?」

(いつ治したんだ?さっきまで折れた鼻がああも綺麗に……)

 

「なるほど……それが艦娘の力か……」

 

「分かって頂けましたか?出来ればもう降参していただきたいのですが?」

 

「いいや、今ので情報はそろった。続けよう」

 

「………そうですか」

(情報が…そろった?)

 

「さぁ……始めようか?」

 

「ッ……!」

(まただ…この違和感はさっきも…)

 

不知火は初めに感じた違和感と同じものを発する深創を睨み付け、拳を身体の定位置に振り上げるように構える。

 

「では、次は『止まりません』から」

 

「ああ…来い」

 

不知火は素早い小ぶりな踏み込みからの綺麗なアッパーを繰り出すも、完全に動きを捉えていた深創にいとも容易く躱される。

それを見越していた身体は柔軟な捻りで隙を隠して流れるように右ストレートで深創を追撃する。

 

「………ここだ」

 

「ッ!!」

 

深創は不知火の拳を身体を逸らして回避し、突き出された右腕を更に引きずり込む事で生じた力のエネルギーとは逆、前のめりにタイミングを落とした彼女を支えるように、無防備な左腕に腕を絡めて一気に硬い床へ後頭部から叩き付けた。

 

「がはっ…!」

 

「oh…ありゃ痛ぇぞ」

 

「っ……まだ!」

 

脚を振り上げて俺を追い払い、揺らぐ視界を叩きながら起き上がる不知火との距離を殆ど0距離にまで詰める。

不知火は一瞬の動揺を見せつつも素早く拳を構えて隙の無い渾身のブローを放つがこれも安易に躱されてしまい、足払いと同時、遠心力の向くまま背負い投げられた。

 

「っ……アッ……!」

 

「……………」

 

俺は全身を強打した衝撃で肺に空気が詰まり息苦しそうに悶える彼女の傍に近寄り、その背中を平手で強めに叩く。

 

「ゴホ!ゴホ!ッッ…………ハァ…ハァ……っ?」

 

「空気が入ったか、これで大丈夫だ」

 

「………なぜ?」

 

「……?」

 

不知火は喉元を抑えながら深創に問う。

 

「私が悶えていた隙を付けばトドメを刺すことも出来たハズです……それをなぜ貴方はー」

 

「殺してしまうからだ」

 

「………え?」

 

文輝達に背を向けているため三人には見えないが、不知火を見下ろす深創の瞳は人のそれとは思えぬほど冷たく、無機質だった。

 

「いいか?人を守る技と殺す技は違う」

 

「………それは…」

 

「お前の技はあまりにも平和過ぎる。日本の技をどこまで引き上げても実戦の死地で磨かれた近接格闘術とはレベルが違う」

 

不知火の手を取り、負担が掛からないように引き起こす。

 

「お前の言うトドメを刺すというのは『気絶(スタンブレイク)』だろう?悪いが俺達の業界で使われるトドメは『処刑(エクセキューション)』という意味なんだ、逆に気絶させる技術なんて俺達は教わっていない」

 

「っ……………」

(レベルが…違いすぎる……)

 

まるで見えない次元の歪みがそこにあるかのような感覚を覚える不知火は深創から一歩後ずさり、顔を逸らして俯いた。

そもそも深創視点から見た不知火の攻撃はもはや止まっているも同然に見えており、実力差は歴然だったのだ。

いくら力で勝っていようと技術で劣ってしまうならば話は変わってくる。

 

「………不知火の負けです。認めましょう」

 

「ふう……そうしてくれると助かるよ。これ以上は無利益だからな」

 

「ふむ、決まったか」

 

一息付いたその瞬間、深創の無線に通信が入る。

 

《ッッ……深創、いるか?》

 

「ああ…イェソド、実はー」

 

《試験中にすまないが仕事だ。『反軍権派』の過激化グループが大本営の総司令部に大挙してきてる》

 

「反軍権……?」

 

俺は文輝の方に視線を向ける。

文輝にも連絡が行ったのか深刻な顔で不知火と加賀を集めて作戦を練っているようだ。

俺も時雨を手招きして引き寄せ、事情を伝える。

 

「反軍権派が……それは大変じゃないか!」

 

「そうだ、俺は文輝と状況の対処に向かう。時雨は文輝の近くにいるんだ、わかったな?」

 

「どうして?僕だって戦えるよ。少なくとも人間には負けない事実がある!」

 

「だろうな、だがまだお前には早い。今は文輝から離れないことだ」

 

「っ………分かった」

 

時雨の納得してからの聞き分けの良さはありがたい事だ。

丁度のタイミングでこちらに振り返った文輝にアイコンタクトを送り、時雨を預けて総司令部に向かう。

 

「深創、俺は後からお前を追う。だから無茶すんじゃねぇ。分かったか?」

 

「分かった、待ってるぞ」

 

試験会場から飛び出し、真反対に位置する総司令部へ駈け出そうと足を踏み出した瞬間。

空中から小さな黒の軍事ボックス(救援物資)が地面にめり込む勢いで降ってきた。

 

『ようやくだ深創、次は壊すなよ』

 

「分かってる。気を付けるよ」

 

この軍事ボックスの中に入っているものこそが深創本来の姿を表す。

ボックスの中に入っていたのは両手首にはめる事で使用する『突出式ブレード』横6センチ、縦18センチの鋭い刃は非常に高いステルス性能を持っている事から『アサシンブレード』とも呼ばれている。

 

「よく馴染む……久しぶりの出番だな」

 

左手首の下から突き出した煌びやかな鋼鉄の刃をまるで恋人を扱うかのように、優しく撫でる。

 

「さて……行くか」

 

《深創、お前には北西部から行軍している反軍権派の対処を任せた。手段は問わない、装備が届いたろう?俺達(ゴースト)のやり方で歓迎してやれ》

 

「了解、状況を開始する」

 

 

南西部・大本営区域

『総司令部内』

 

 

「荒れてるわね」

 

「反軍権派の中でも独立した過激派グループ……司令官、艤装を展開しても?」

 

戦闘する気満々の不知火を手で制し、ゆったりと余裕の表情で窓の外を眺める。

 

「だめだ不知火、『そういうの』は憲兵に任せて俺らは傍観を極め込む」

 

「…………提督……」

 

「……彼が心配かしら?」

 

「…………うん」

 

加賀は自分達から一歩距離を置いて終始俯いている時雨に近寄り、目線を合わせ、淡々と語り始める。

 

「私が言うのはおかしいけれど、きっと彼なら大丈夫よ。人の身を持つ彼が艦娘を負かしたのよ、それもウチのエースである不知火を……だから大丈夫」

 

「……提督が強い人なのは分かってる。始めから勝てるって分かってたから」

 

「………そう」

(それは分かる気がするわね。あの子と深創さんが立ち会った時に不可解な感覚……不知火が勝つビジョンが全く見えなかった…)

 

「それに。僕は提督を信じているから」

 

顔を上げ、薄らと微笑みを見せてくれた時雨のことをジッと見つめていた加賀はキッパリ答えを出す。

 

「ならシャキッとしなさい、貴方も……艦娘なのだから」

 

「………かもね」

 

憲兵がゲリラ組の側面に回り込んで挟み撃ちにした辺りで窓のカーテンを閉める文輝は鳴り始める銃声をBGMに北西部を見つめる。

 

(……これから大変だぞ深創。様々な苦難がお前を襲うだろう。1からのスタートなら楽だが、全てがゼロから始まる、まぁ。それがお前の持つ強さの証って訳なのかな?)

「よーしお前ら。深創の様子を見に行くか!」

 

「司令官、ご自分のお仕事は?」

 

「んあ?後は憲兵に丸投げだよ。ほら行くぞ!」

(これ以上心配そうな顔をする時雨ちゃんを見てられん)

 

 

北西部・大本営

『総司令部外』

 

 

血の色濃く広がる匂い、まるで日課の如く、当たり前のように嗅ぎ、浴びてきた血液の雨。

俺の存在価値を新しく更新してくれる生暖かい人間の生気の証である血液。

深創ではなくグレイブスを救ってくれる人間の死、生まれた時から見て感じて来た人間の死、物心付いた時には既にゴーストの一員だった。

人を殺したり壊したりする技術だけを吸収し、学んで来たこの身体に、何が出来る?

 

「俺の足がああぁぁぁァァァア!!」

 

断末魔が耳に響く、これは日課だ

 

「ちくしょう!死ねぇ!!」

 

人に憎悪を向けられ罵詈雑言を吐かれる、これは習慣だ

 

「……………」

 

ピッ……

 

「ッ……カ……ゴボ……ココ……」

 

シュッ!

 

「アグッ…ッッ……カハ……」

 

より正確に綺麗に殺す、これは日常だ

 

「…………」

 

見渡す限りあたり一面に広がる死体と深紅に染まる俺、こんなのは常識だ。

 

「………ん?」

 

「提督………っ!!」

 

「なんてこと……」

 

「…………何故ここにお前達が?」

 

「いや……お前の様子を見に行く事になって……こいつは驚いたな」

 

文輝は血まみれの深創から目を逸らし、その周りに向ける。

ざっと40人くらいかそれ以上のゲリラの死体が散乱しており、中にはまるで精密なメスか何かで切断された手足や首が転がっており、打撃や銃創の後は見当たらない。

あるのはゲリラ部隊が使ったであろうM4A1の5.56㎜弾の薬莢が散らかり分解されたストックの部品が落ちていた。

 

「これをお前が一人で?」

 

「………ああ、それよりも気になる事がある」

 

「いやいやまてまて!んな何事も無かったかのように話を進めるなよ」

 

「何を言ってるんだ?何事も無かっただろう?負傷者は無し、これは返り血だ」

 

「……マジかよ………お前ホントにいかれ野郎だな」

 

文輝は頭を抱えて歪んだ苦笑いを浮かべる。

この男は狂っている、もう手遅れな程、『規格外』に狂ってしまっていたんだ。




安定してきました!次もジャンジャン更新しますね
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