この鎮守府の提督はいろいろ規格外でした。 作:ペペロンチーノ伯爵
翌日、僕は提督と一緒に文輝元帥の所に向かっていた。
昨日の夜提督が何をしていたのかは教えてくれなかったけど適合者の話は教えてくれた、それになにより早く帰って来てくれたのは本当に嬉しかった。
部屋に入ると文輝元帥にイスに座るように言われる。
提督の隣に座り、出されたお茶を眺めていると元帥が優美に語り始める。
「お前の提督入りが決定した」
「っ……!!」
「そうか、いろいろ世話になったな文輝。これで俺は……」
「そうだ、お前は俺達の仲間入りだな!」
「……やったね提督!」
「ああ、そうだな」
少し口元を緩ませるだけで大した感情の変化を見せない深創は静かに己の決意を強く結ぶ。
「ただし!」
「……なんだ?」
「以前の沖縄防衛戦で消耗した全鎮守府の回復には四年掛かる、新たに建築された鎮守府は要望どうり最前線に用意したが」
「基本的な支援は出来ない……そうだな?」
「ああ、資金面の援助も資源の支援も初期艦配布すら無い。全て自給自足で運営して貰う」
「そ……そんな、ただでさえ支援があっても厳しい艦隊運用をを一切の支援なしでやれって言うのかい!?そんな無茶な……」
「仕方あるまい、用意してくれてありがとう文輝。感謝する」
「まあ心配すんな、こっちからも幾分か分けてやるよ」
「それは素直にありがたい、何から何まで悪いな」
文輝はシワが広がる叔父顔でニヤリと笑う。
「それじゃ早速、俺の艦娘から数人そっちに貸してやるよ、全てがゼロからなんだ、まともに動けないだろ?」
「いや、その必要は無い。俺には時雨がいるからな」
「………ま、そうだよな。そうだこれ…書いてくれ」
そう言って手渡された紙にはこれから配属される新しい鎮守府の名前を記入する欄があった。
「ん…?なんだ、鎮守府には名前があるものじゃないのか?佐世保とか…横須賀とか」
「言ったろ?新築だって、最前線の鎮守府は殆ど奴らに潰されちまったからな。だからお前が好きに決めてくれ」
「ふむ………どうするか」
「そうだね。『こくふ』なんてどうかな?『黒』に『羽』と書いて黒羽」
「ほう、なぜその名前に?」
「僕は闇の中にいて、提督はそんな僕に闇から抜けるための羽をくれたからさ、翼じゃなくて羽をね」
「ふむ……ならそれで行こう」
「そうか、なら黒羽で申請を済ませておこう。車を待機させてるからさっさと行ってこいよ」
言われるがまま部屋を追い出された二人は互いに顔を見合わせながら大本営の外に出る。
外にはご立派な文輝御用達のリムジンが待機していた。
「お待ちしておりました、深創様、時雨様。どうぞお乗り下さい」
「よろしく頼む」
「お願いするよ」
~am08:00~
最前線海岸部
ー『黒羽鎮守府』ー
「…かなりデカいな」
「ぼ、僕たち二人だけで大丈夫かな…」
二人の目の前にそびえ立つ鎮守府は他とは違って新しく、大きかった。
艦娘寮は司令塔と一緒に直結しており、倉庫間の行き来も簡単になって明らかに近代的だ。
鎮守府を見上げたまま静止していると文輝から電話が掛かってきた。
《おう、感想はどうだ?》
「素晴らしいの一言だ、よくも極限状態でこんなものが……」
《だろ?でも中には間宮も明石もいない、大淀なら艦隊指令部との連携でいるが基本的にいる艦娘がいない状態だから我慢しろよ》
「ああ。それなら大丈夫だ、気にしないよ」
《という訳で、祝辞は俺から一言だけ》
スマホ越しに文輝が思い切り息を吸っているような音が聞こえる。
《これより其方を黒羽鎮守府の総指揮官に任命すゴッホゴホ!……任命する!偉大な活躍をはっくしゅん!!活躍を期待している!!》
「………………」
《………………》
「………………」
《……………なあー》
「さあ時雨、行くぞ」
「そうだね」
《え、いやちょ》
ガチャッツー………
走り去るリムジンを見送り、さっそく外庭を抜けて中庭に入る。
外装はしっかりしているのか鎮守府周辺の見た目は綺麗に整っており外見は問題ないだろう。
鎮守府内部の内装も目立った箇所は見当たらず普通も普通だ。
(これなら大丈夫だろうな、俺の予想をいい意味で遥かに越えてくれたな)
食堂と入渠ドックとやらの内装も確認し、最後に執務室を確認するのみとなった。
「案外キレイだったね」
「そうだな、これだけ内装がそろっているなら後は今後の動きをー……なに?」
ドアノブをひねり、執務室の中を覗くと、そこには無地の壁の奥に付けられた両開き窓、そして空虚感が漂う部屋の真ん中にダンボール詰めにされた二人の荷物が置いてあるだけだった。
日常用品はもちろん、ましてやイスや執務机すら無いのだ。
「………荷物を解いたら二人で分担して買い物だ」
「うん分かった……」
~pm13:00~
黒羽鎮守府
ー『執務室』ー
「ふう、とりあえずこんなものかな?」
「すまないな時雨、大変だったろう」
「そうでもないよ、提督はどう?」
深創はクローゼットの位置を固定し、耐震シートを貼り付ける。
「こっちも終わりだ」
「それにしても、この執務机はどこで買ってきたの?そこらには売ってないと思うけど…」
「それか?それは放棄された鎮守府から輸送で回収したものだ、もう向こうには必要ないからな、イェソドにも話は付けてある」
「そうなんだ、これからどうするの?」
「執務室を整えてくれてる間にお前の部屋を繕えて来た。駆逐寮で寝るんだ」
「え…でも僕はー」
「いつまでも俺と寝る訳にはいかないだろ、一緒にいるとは言ったが日常生活くらいは一人でも出来るようにしないとな」
「……うん、そうだよね」
「時雨、お前のためなんだ」
「分かってる…」
そんな顔をするな……。
深創は悲しげに俯く時雨にため息を着き、頭を撫でる。
「それに今日からって訳じゃない、ある程度艦娘が増えたらの話だ。少ない内は艦娘同士の共同部屋があるしな」
「……じゃあ今日は?」
「今日は忙しくなる、進捗次第だな」
「なら急がないとね、何をするの?」
「まずは『勉強』だな」
「勉強…何の?」
深創はあらかじめ文輝から基本的な艦隊運用についてまとめられた書物を持ってきており、それを執務机に広げる。
「俺の専門は陸海空の三連性だが艦隊を指揮する知識はない、艦娘についての知識だって基本的な事だけで無知に等しい。だからお前に教えてほしいんだ」
「え、僕に?でもその教科書があればー」
「もちろんコイツからも吸収するがマニュアルには限度がある、だからこそお前を頼りたいんだ時雨」
「頼りたい……か、分かった。僕で良ければ出切り限り教えるよ」
「すまないな、ならその前に夕食にしよう」
「うん、そうだね」
その後僕達は提督が作ってくれた夕食を済ませ、一休みしてから執務室に戻る。
イチから艦隊運用について勉強するのは並大抵の事じゃ出来ない筈だから僕も鉢巻きを付ける程気合いをいれてたんだよね、でも…。
ー艦隊運用学習開始から20分後ー
「す……すごいね」
「なるほど、陣形の種類、効果、弱点は全て覚えたし艦種も問題ない。案外簡単だったな」
深創はこの20分で艦隊運用に必要な知識、更には海戦や艦娘についてのあらゆる情報を記憶したのだ。
これは単なる記憶力とは異なり、深創の頭は得た情報を映像化してイメージ、感覚的に感じる事が出来る。
つまり計画された作戦を事前に高度な脳内シミュレーションで作戦成功率を割り出す能力を持っていた。
「これは記憶力……なのかな?」
「どうだろうな、出来る事をしてるだけだが」
「そ、そう」
(あれ、僕いるかな?)
「それより時雨、かなり助かった。すまなかったな」
「ううん、提督の約に立てたならよかったよ」
和やかに純粋な笑顔を見せる時雨の頭を撫でながらもはや必要なくなった書物を執務机に備え付けてある小さい本棚に仕舞う。
「さて……とりあえず現状を再度確認しよう」
深創はタブレットを取り出して画面を表示させる。
このタブレットには黒羽鎮守府の情報がひとまとめにされているため、素早い状況確認にはもってこいだ。
「工廠……入渠ドックが現在使用不能、妖精さんの配備が必要不可欠。ふむ、妖精か」
基本的な支援が無いという事はもちろん妖精さんもいないわけだ、これはかなりの苦行だな。
そう考えていた時、不意に。
ヨンダカ?
「………?お前は」
「あれ?妖精さんじゃないか」
いつの間に、いや始めからいたのか?
深創の左肩からひょっこりと顔を出した妖精さん、この妖精さんは逢沢の元にいたあの時の妖精さんだった。
「なぜこんなところに……?」
アソコキライダカラミンナヲツレテキタ!!
「なるほ……ん?皆?」
すると続々執務机に所狭しと現れる『熟練妖精』の群れは深創と時雨に可愛らしく敬礼をした。
「これだけいれば入渠ドックと工廠が稼働出来る、妖精さん、頼めるか?」
アイアイサー
ガンバリマスー
ハリキッテイキマショー
チョットイイトコミセタゲル
賑やかに、そして何よりも楽しそうに慣れた風格で入渠ドックと工廠の二手に手際よく別れていった。
「よかったね提督、というか妖精さんが見えるんだね」
「どういう事だ?」
「説明してなかったけど、あの妖精さんは一部の人間にしか見えないんだ、適性が無い人とある人がいるとか何とか。それでね、妖精さんが見えるのはちらほらいるけどまともに『会話』が出来るなんて事例は見たことも聞いた事も無いかな」
「そうなのか……まあ会話はコミュニケーションが取りやすいかなり便利なものだからな、別に困ることはないだろう」
さて次だ、この鎮守府の経済的な状況を確認するか。
俺はタブレットの画面に触れる指先を軽くスライドさせる。
資源状況
〖燃料0・鋼材0
弾薬0・ボーキ0
バケツ10・開発資材10〗
これは文輝からもらった御慈悲の結果、資源は一切無いがバケツや開発資材はこの状況なら十分すぎる量だ、彼には感謝しなくては。
「他の鎮守府の状態はどうなってるんだ?」
時雨には買い物の他に情報収集を頼んでいた。
「僕が調べて見たのは。とにかく壊滅状態って事かな、詳しく言うとね」
あの沖縄防衛戦によって受けた代償は大きく、現在運用されている艦娘の数は500人を切っている。
かなり重要な戦力だった最前線の鎮守府は殆ど全て壊滅し、放棄されたものだけが残り大本営が保有していた技術力も今や失われていた。
「文輝の言っていた鎮守府の完全復活の四年間は前提条件である大本営の安定も入っているのか」
「うん、今の大本営や総司令部はガタガタだからね」
「そうか。ひとまず把握出来た、時雨、悪いがしばらく留守番を頼みたい」
「……すぐ帰って来る?」
まだ俺がいなくなるのが不安のようだ、頭を撫でる左手を頬に下ろして添える。
「ん……」
「安心しろ、すぐに帰って来る。それまで頼めるな?」
「…分かった、行ってらっしゃい」
「行ってくる」
執務室のドアノブに手を掛ける深創を見送っていた時雨は我慢出来ずその背中に抱き付いた。
力の配分を考えながらも力強く抱きしめて顔を埋めて深く息をする。
「……?」
「……………はぁー…うん、大丈夫。行ってらっしゃい」
「………ああ」
時雨の行動は理解出来なかったがどこか安心してくれたのは分かった。
深創が出掛けた後一人残された時雨はイスに座って執務机に突っ伏して今までの事を振り返ってみる。
そしてその中で時雨はあることに気付いた。
「提督もしかしたら一睡もしてないんじゃ…!?」
提督は基本的にいつも同じようなコートを常時着ている、一緒に寝るときだって脱いだことは無いし、そもそも提督がまとも寝たり休んでいるところを見たことが無い。
提督に見守られて眠ってから目が覚めれば既に提督は起きていて朝食を作ってくれてる。
食後だって誰かと仕事の電話をしたり手持ちのタブレットとにらめっこして全く休憩になっていない。
「提督は男の人なのに食事は僕より少ないし……このままじゃ提督が倒れちゃうかもしれない……提督…」
窓から差し込む夕日の暖かい狐色の光が自身の腕を照らす様子を眺めていると時雨はいつの間にかその瞼を閉じていた。
「ぅ……ん?」
ふと目が覚めて揺らぐ意識を動かしながら電気の付いた執務室をゆっくり見渡す。
窓の外はすっかり暗くなっており、自分で買ってきた掛け時計を見てみると時計の針は21時を指していた。
「起きたか」
「うん……提督は何処行ってたの?」
意識がはっきりしてくると、ドタバタと何かが忙しなく動いている音が聞こえてくる。
「お前の艤装を用意してきた、いま妖精さん達に運んでもらっている。まだ出撃する予定は無いがいずれ役に立つ」
「僕の艤装?そのためだけに出掛けてたの?」
「いや、お前の艤装は妖精さんのアテで手に入れたものだが俺が出掛けた用事は不正鎮守府だ」
忘れていた、そういえば元々提督は憲兵として活動していたのだ。
今も、活動を続けているのだろう。
「それで…どうしたの?」
「どうやら制海権奪還のために駆逐艦種の艦娘を使い捨てるのが今の主流らしい。海軍の古き良き週間だな」
「っ……て、提督?」
時雨は自分を見下ろす深創の眼差しに畏怖を覚える。
まさかと思った時に深創はその言葉を放った。
「このやり方は正しいのだろうな、駆逐艦ならば安いコストでいくらでも量産出来る」
「……………」
「まあ俺のやり方とは真逆だが」
「え……?」
深創は手に持つ海軍用のマニュアルを燃えるゴミに捨てる。
「俺は精鋭隊戦を好む、ましてや『仲間』を消耗品にするなどあり得ない。一つずつ完璧に極めるのが俺のやり方だ、俺のやり方をお前に言っておこう時雨」
「提督の決意?」
まず大前提に、この黒羽鎮守府に配属する艦娘を使い捨てるような真似はしないということ。
そして艦娘を『建造』しないという異質な考えてを深創は時雨に話した。
「艦娘を……建造しない?」
「そうだ、俺は艦娘の建造は一切しない。俺達の方針は『艦娘を救う』事だ」
「救う?どうやって?」
「つまり艦娘を使い捨てる鎮守府から艦娘を保護してウチの仲間に入れるんだ」
「そんな事できるの?」
「……正直な話、やってみないと分からない」
「もしそれが出来ても、精神的にダメージを受けた艦娘をまともに運用するなんて…」
「確かにそのとうりだ、だが俺は彼女たちを救いたい。これは俺の決意、時雨の決意じゃない…嫌になったらいつでも言ってくれ文輝と話してお前を引き取るようにー」
「気が早いよ提督、僕は嫌だなんて言ってない。僕だって苦しむ艦娘を助けたいんだから」
「そうか、すまないな」
そうこう話していると、執務机の上に工廠の技工妖精が現れる。
「終わったか?」
オワリマシター!
「終わった?何をしてたの?」
「お前の艤装のチェックだ、いくつか破損個所が見つかったから妖精さんに修理してもらったんだ」
「そう、ねえ提督。艤装…着けてみてもいいかな?」
「ん、ああ。もちろんだ」
二人は妖精さんと一緒に工廠へ向かい、真新しい廊下を抜けて工廠内部に備え付けてある無臭の鉄部屋に入る。
部屋の中心にポツンとちゃぶ台が置いてありそこには複数の妖精さんが何かを囲って微かなバーナーの臭いを放っていた。
「時雨、これだ」
ちゃぶ台の中央に置かれていたのは『12.7㎝連装砲B型改二』『61㎝四連装(酸素)魚雷』『10㎝高角砲+高射装置』これは時雨が最後に所持していた装備だ。
「……確かに最後の出撃はこれだったね……夕立…」
「……記録は見た、その12.7㎝連装砲B型改二についても…辛かったな」
「ううん、もう今は大丈夫。これが……」
時雨は慣れた手つきで素早く装備を着ける。
その姿を見ていると自動的にプロセッサーが時雨の情報を更新した。
〖駆逐艦・白露型二番艦〗
『時雨(改二)』練度80
装備
『12.7㎝連装砲B型改二』
『61㎝四連装(酸素)魚雷』
『10㎝高角砲+高射装置』
なるほど、装備を着けたらステータスも変動するのか。
「どうだ時雨?」
「問題ないよ、違和感もないしすぐに実戦に入っても大丈夫そうだね」
「それはよかった、他に必要なものはあるか?出来る限り用意してやる」
「ひとまずは大丈夫かな、念のために自分で整備してもいいかな?」
「もちろんだ、好きにするといい。執務室で待ってる」
「うん、妖精さん。少しいいかな?」
ハーイ!!
深創は妖精さん達に囲まれる時雨を後にして執務室に戻った。
どうやら鎮守府の近くにいれば心配なさそうだな、時雨もやっと慣れてきてくれたかもしれん。
そんな事を考えながら総司令部から届いた資料に目を通し始める。
なんだがだんだん字数が多くなっているような?