この鎮守府の提督はいろいろ規格外でした。   作:ペペロンチーノ伯爵

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やっぱり字数増えてますねw見るの大変だわ


第九話『極限の環境の中で』

深創率いる黒羽鎮守府の活動開始から一週間が経過。

 

現在世界の制海権は深海棲艦に奪われており、鎮守府海域付近にも頻繁に凶悪な戦力を持った敵艦隊の出現も確認されている。

それなのにもかかわらず深海棲艦は陸上を侵略せずなにかを『待っている』かのようだ。

 

 

~pm13:30~

黒羽鎮守府

ー〖執務室〗ー

 

 

「ふむ……深海棲艦には五段階の強化個体がいるのか」

 

深創は資料をめくり、必要性の高い情報を手帳に写す。

深海棲艦の個体にはそれぞれその強さを表すランクが決まっている。

見分け形は目が発光しているか、その身にオーラを纏っているかで見定めること。

 

 

深海棲艦個体ランク

 

無色・水色〖Normal(ノーマル)〗(下級ランク)

赤色〖elite(エリート)〗(中級ランク)

狐色又金色〖flagship(フラグシップ)〗(上級ランク)

赤色・オーラ〖改elite(改エリート)〗(準最上級ランク)

狐色又金色・オーラ〖改flagship(改フラグシップ)〗(最上級ランク)

 

 

「提督?なに見てるの?」

 

「ん、ああ…深海棲艦の個体ランクについての資料がやっと届いたからな、目を通していたんだ」

 

目の前に湯呑みを置いてくれた時雨の顔を見ながら淹れたての緑茶を啜る。

どこか期待しているような視線を向ける時雨には申し訳ないが、大してこれといった感想は無かった。

日本に来てから初めて『お茶』を嗜んだ時はその渋さと独特な風味、淹れたての味濃さには驚いたものだが今となっては舌が慣れてしまったようだ。

だがもちろん感想がないとはいえ美味いものは美味い。

 

「……美味いな」

 

「本当かい?それならよかった」

 

「いつもすまないな」

 

ここ一週間で時雨もずいぶんこの環境に慣れてくれたようだ、四日前から自分の部屋で寝るようになってくれたのが一番嬉しい事かもしれない。

 

「それはそうと時雨、海航は問題ないか?」

 

「うん、問題なく艤装は動くし鈍っている事もないかな」

 

「そうか…しばらく出撃は無いが身体は慣らしておかないとだからな」

(今日で一週間。今日の夜に届くか)

 

俺はカレンダーを見ながら息づく。

ここ最近俺はある問題を解決するために執務と平行して『仕事』を引き受けており、その成果が今日の夜中に得られる手はずになっている。

時雨が身体慣らしの為に海へ出れたのは回収された艤装に若干ながらも燃料が残っていたからだ。

無論それも二日間の身体慣らしで尽きてしまった。

 

(艦娘をいくら救えど、こんな状態ではいろいろ不自由をさせてしまう…時雨をこのまま腐らせる訳にも……そうだ)

「……時雨」

 

「なんだい提督?」

 

「組み手…分かるか?」

 

「くみて…?」

 

やはりか…不知火と闘ってみて気付いた事がいくつか。

 

「ふむ……格闘は知ってるか?」

 

「それは知ってる、提督と不知火が闘ってた…よね?」

 

「そうだ、ソレをやる」

 

「え…僕、提督と戦うなんてやだよ?」

 

「そこで組み手だよ、要するに訓練だ、感が鈍る鈍らない以前にお前達は陸上の戦い方を知らないだろう?」

 

時雨は深創の言葉に首を傾げる。

 

「でも僕達艦娘は海上で戦うわけだから…」

 

「この鎮守府には海上演習場の他に陸上演習場もあったな、そこに行こう」

 

「う、うん……」

(提督はなにがしたいのかな?)

 

この黒羽鎮守府には、近くの港にある一区の海上演習場とは真逆に位置する広い道場、陸上演習場が存在する。

綺麗に仕上げられた木造建築の道場、新築なのだがどこか風格を感じられる気もしてきた。

中はもちろん広々としており黒い木目の床の冷たく滑らかな質感が靴下越しでもはっきりと感じられる。

 

「こんなところがあったんだ…知らなかった」

 

「俺も来るのは初めてだ、しばらく執務に追われていたからな」

 

「それで…ここで何するの?」

 

「お前には陸上戦を学んでもらう」

 

「……さっきも言ったけど僕達は船なんだよ?海上で戦うのにどうして陸の戦いを学ぶんだい?」

 

「知っておいて損は無いからだ。それに、必ず必要になるときが来る」

 

時雨から見た深創の言葉にには確かな確証があるように聞こえた。

しばらく考えたあと、時雨は少し笑ってから一歩だけ深創と距離を離す。

 

「いいよ、僕に教えてよ。提督が言うなら必ず使うときが来ると思うからね」

 

「ああ、少なくとも無駄にはならないさ」

 

深創は素人相応の無意味な構えを造る時雨を懐かしそうに見つめながらノーガードスタイルを見せる。

 

「……どうしたの?」

 

「いや、お前を見ていると少し懐かしい気分になる」

 

「どんな気分?」

 

話しながら深創は人差し指をクイクイと曲げて時雨からの先制を誘う。

 

「昔の話だ、気にする必要は無い」

 

そう言って深創は色の無い笑顔を見せる。

 

「そうだな、とりあえず打ち込んで来い」

 

「分かった……行くよ!」

 

繰り出される鋭い右拳、素人でも艦娘である時雨の拳は実に力強く素早い、こんなものが直撃すれば人間など一撃でノックダウンだ。

だが深創にとっては無駄な予備動作が多すぎるそれを躱すなど造作もない。

そこから数時間、夕暮れが鎮守府を照らし始めた頃。

 

「ッ!!」

 

「………………」

(いやはや……驚いたな)

 

時雨の蹴り込みを受け流し、追撃の左ストレートを躱しながら深創は驚愕していた。

 

(まだ荒削りだが。たった数時間でもうプロ並みだ……覚えが早いなんてレベルじゃない、これはもはやセンスだな、身体が勝手に覚えていってくれているのだろう)

「飛ばしすぎだ時雨、ガタが来るぞ」

 

「はぁ…ハァ……でも…提督は汗一つ掻いてないじゃないか」

 

「俺は長期戦に慣れてるからな、これくらいじゃ発汗しない」

 

「……………」

 

「今日は休め、いきなりの集中運動だ、明日は筋肉痛かもな、マッサージでもしておけ」

 

「じゃあ提督がー」

 

「却下だ、ほら戻るぞ。タオルは向こうだ」

 

「む………」

 

 

~pm20:00~

ラバウル第四予備鎮守府

ー『鎮守府正面海域』ー

 

 

《……聞こえるか?》

 

「………ええ」

 

《これより20分後、鎮守府海域奪還作戦を開始する》

 

「……………」

(なにが作戦よ……こんなの……)

 

《それじゃ作戦どうり製油所地帯沿岸までの『単艦囮作戦』まかせたよ》

 

「………」

 

《……返事は?》

 

「分かってるわよ……」

 

《おい、逃げたらどうなるか分かってんだろうな?》

 

「ッ………」

 

《俺がお前みたいな奴をわざわざ先方に頭を下げて使ってやってんだ、さっさと逝ってこいよ、帰れるなら帰ってきてもいいぞ?》

 

ブツッ

 

「……………………」

 

少女は歯軋りを鳴らして目の前に広がる黄色く発光した『奴ら』を睨み付ける。

 

「クソ………」

 

 

~pm21:30~

黒羽鎮守府

ー『執務室』ー

 

 

「これは……提督」

 

「どうした?」

 

タブレット型の情報端末を眺めていた時雨が不意に声を上げる。

 

「近くって程でも無いけど、ラバウル第四予備鎮守府が鎮守府海域奪還作戦を決行したみたいだよ、まだ補給も来てないのに頑張るね」

 

「そうだな、出来ることなら加勢してやりたいが今の俺達じゃ足手纏いだろう。成功を祈るしかないな」

 

その時、深創の携帯が通話のバイブレーションを鳴らし始める。

 

「ん、来たか……」

 

「どうしたんだい?」

 

「ああ、ああ………時雨、外に出るぞ」

 

「え?」

 

深創はスマホを片手に執務室の扉を開けた。

 

「提督…?」

 

「シ、今行く……そうだ。倉庫はそっちを突き当たりに行ったところだ、先に詰めててくれ」

 

通話を閉じ、時雨を連れて鎮守府の裏手にある倉庫に向かう。

倉庫に顔を出すと、倉庫から数人の憲兵隊が出たり入ったりを繰り返していた。

 

「こんな時間にすまないな、整理はこちらでするから中に運んでくれるだけで助かる」

 

「分かりました、報酬は全て運び入れます。後にご確認下さい」

 

「提督……これって、資材!?」

 

倉庫に運び込まれている物はしばらくの出撃や開発には困らない分のこの黒羽鎮守府には十分すぎる量の資材だった。

 

「そうだ、少し『憲兵隊の仕事』を手伝っていてな、その報酬で少しだけ大本営から資材を分けてくれたんだ」

 

「なるほど」

(手伝い……やっぱり僕が寝ているときに提督は頑張ってくれていたんだね…)

 

「全部運び終わりました。また次もよろしくお願いします」

 

「もちろん、『ああいう』のは俺の本業だ。資材の報酬と引き換えならいつでも引き受けるさ」

 

深創は憲兵隊に礼を言って見送る。

他の鎮守府から見れば今回の資材の量は決して多くはない、むしろ笑い物だろう。

だが俺達にとってはこの資材が全てだ。

 

「ふむ…約束の量はしっかりあるな。これだけあれば大丈夫か」

 

「提督、さっそくなんだけど…一ついいかな?」

 

「なんだ?」

 

「夜間の海航に行って来てもいい?」

 

「夜間の……ああ、駆逐艦は夜戦が得意だったな」

 

「そう、だから少し練習したいんだ」

 

「そうだな、いいぞ。行って来るといい」

 

「ありがとう、提督」

 

さっそく時雨は工廠にいる妖精さんと共に補給、艤装の整備を終えて港まで向かう。

 

「そうだ時雨」

 

夜間の肌寒さが突き刺さる潮風の中声を掛ける。

時雨は首を傾げながらも微笑み、振り返ってくれた。

 

「ん、どうしたの?」

 

「無理はしなくていい……だが出来ればラバウル第四鎮守府の作戦の様子を見て来てくれないか?戦局だけでも知りたいんだ」

 

「うん、分かった」

 

「……さあ、行ってこい。必ず帰ってくるんだ」

 

「大袈裟だよ提督、それじゃあ行ってくるね」

 

特にこれといった不信感なく時雨は何度かこちらに振り向きながら夜の海に消えて行った。

港を離れて執務室に戻り、明日分の書類を引き抜いて捌き始めた途端、プロセッサーにCALLが入った。

プロセッサーを付けた者同士ならば内密に通信することが出来る。

因みに対話は互いの声帯か『思考』を使用して行う。

 

(CALLは初めてだな、プロセッサーはゴーストの技術で作られたものでまだ実装段階には移行出来ていないはず、つまり使用している奴は限られてくるな)

「……イェソドか?」

 

《ああ、お前に話がある》

 

「急だな、こんな真夜中になんの話だ?」

 

《率直に言えば、反軍権派の連中にマークされてるぞ》

 

やはり来たか。

 

「そうか、あれだけ殺したんだ。標的にもされるさ」

 

《ああ、だが問題はそれだけじゃない》

 

「というと?」

 

《いくつかの鎮守府に悪い意味で目をつけられているようだ。一括管理されているサーバーログにお前を調べようとした痕跡がいくつか残っている》

 

深創は顔をしかめて窓の外に広がる夜中の高波を眺める。

 

「何故だ?こんな小さな鎮守府に目をつける理由は?」

 

《検討もつかない、それらの鎮守府がお前を調べ始めたのはお前が大本営を反軍権派の奴らから守った一日後だからな》

 

「俺が提督になる前から……分かった、気を付けておく」

 

《そうしてくれ、お前を失うわけにはいかないからな》

 

「……そうか」

 

窓枠に手を付き、これから起こり得る可能性を想定する。

 

「イェソド、もしそいつらと俺が敵対したら……俺は負けるのか?」

 

《愚問だな、お前はゴーストの切り札だ。負けるわけがないだろう?》

 

「なら大丈夫、俺のことは心配いらない」

 

イェソドとの通信を終え、窓辺から離れて椅子に深く腰掛けた時、次は艦隊専用回線で繋いでいる胸元の無線にノイズが走る。

 

「時雨か?」

 

《うん、今ラバウルの作戦海域付近から離れた製油所地帯沿岸辺りにいるんだけど……》

 

「製油所地帯沿岸?なぜそんな深部まで行っているんだ、もう作戦は終わっているのか?」

 

《ううん、まだ鎮守府海域で手こずってるよ》

 

「なら何故………そこは危険だ、もう帰って来い」

 

《提督っ》

 

無線越しに口ごもる時雨はどこか忙しない、一体どうしたのだろうか。

 

「なんだ?話なら後でー」

 

《駆逐艦種の艦娘を………見つけたんだ》

 

「…………?」

 

深創には理解できなかった、まだ作戦は鎮守府周辺で留まっているというのになぜそんな危険地帯に艦娘がいるのか。

そしてどうやって時雨がそんな場所まで行けたのか。

 

《機関部は完全に破損していて……武器系統の艤装は見当たらない…何処かで捨てたのかな……全身が焼けてて…死んでるのかも……》

 

「……時雨、その艦娘の首筋に指を当てるんだ」

 

《こう……かな》

 

艦娘も人間と同じ……なら生死の確認もこれで良いはずだ。

 

「どうだ?」

 

《えっと……振動?みたいなー》

 

「よし、連れて来い、その子と一緒に帰って来るんだ」

 

《え、大丈夫なの?》

 

「ああ、早く帰って来い」

 

《わ、分かった。これより帰還するよ》

 

急いで港に向かい、一刻も早く時雨と重体であろう例の艦娘を迎えるために目を光らせる。

 

(まだ作戦は鎮守府周辺……それなのにも関わらず時雨は接敵していない、奪還作戦……生きている艦娘……駆逐艦……まさか………)

 

しばらく待機していると、視界の遠く先に時雨の姿が見えてきた。

なかなかに荒れている荒波の中一人の艦娘に肩を貸しながら全速力でこちらに向かって来ている。

 

(1200メートルぐらいか……時雨が介護しているのは身長から察するにやはり駆逐艦だな、大破…いや轟沈寸前か。ここからでも見えるが間近で見たほうが良さそうだ)

 

港まで帰って来た時雨から重症の艦娘を預かり、アスファルトの床にゆっくりと寝かせる。

各艦娘ごとの見た目や服装はまだ分からないので何型の駆逐艦かは全く分からない、服装は上流小学校の指定制服に近い、気を失っているにも関わらずその顔は常にプライド高く臨戦態勢、黒煙に巻き込まれて黒ずんでいる銀髪は右サイドテールで纏められている。

 

「時雨、今すぐ入渠ドックの準備をしてくれ」

 

「分かった!少し待ってて」

 

「………さて」

 

ドックに駆け出す時雨を横目に俺はある仮設を確信に変えるためにまず初めに少女の二の腕に触れる。

 

「大量の打撃痕と炎症……どれも向かってくる攻撃を防いだ跡だな、手首の肉体的硬直は無い、つまり構えていないというわけだ。だが何度か最柔に至っている…『拳を握りしめていた』のか」

 

即ち、この少女はそもそも主砲などの武装を持たされていなかったのだ。

次に所々が小さく焼け焦げているスカートから伸びる華奢な脚に視線を移す。

 

「左脚の膝が割れて内出血を起こしている……それでいながら機関部を無理矢理動かして数十分動いていたようだ。全体的に筋肉痙攣が起きているな、連続的にかなり無茶な回避運動を行った証拠だ」

 

いや、むしろよくここまで動けたな……。

深創は大した効果が無いと分かっていながらも無意識的に少女の腕や脚を持ち合わせの応急キットで処置を施す。

 

「これは……唇を噛んで気を保っていたのか、上下合わせて肉が剥き出しになってはち切れている……」

 

全身の損傷、体温、血圧や筋肉質からして彼女が海に出たのは20時丁度か、向こうの作戦が始まったのがその20分後。偶然で片付けるにはあまりにもタイミングが合いすぎている、駆逐艦のスピードなら20分あれば敵を引きつけながら中海域を抜けれたはず、そして1時間余りの一方的な攻撃を耐えながら製油所地帯沿岸まで来た、そこから更に数十分耐えたが力尽きた。

 

………………………………………………これが艦娘………か。

 

「提督っ!ドックの準備が出来たよ。早く入れてあげよう」

 

「ああ、妖精さんと一緒にこの子をドックに運んでくれ」

 

「うん、提督は?」

 

「少し………調べたい事がある」

 

「………………そう」

(提督………)

 

そう言って背を向ける深創の背中には何処かで見たことのある身震いが止まらない異常な程のどす黒い淀みを感じれる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そう、それでいい……………深淵を生み出しなさい……深海に沈みなさい……私達を……『殺しなさい』……貴方の新たな覚醒待っている。




安定しなくなってきたw忙しくなりますな!
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