この鎮守府の提督はいろいろ規格外でした。   作:ペペロンチーノ伯爵

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第十一話『絶頂を受け入れる者』

霞を迎え入れてから今日で4日か……。

なんと言うか、初めよりもだんだんと俺に対する言葉遣いに遠慮がなくなってきたな。

だがまぁ、それだけ霞が慣れてくれたと言うことなのだろう、それはそれでいいか。

そんな悠長な事を考えている隙にも深創の耳に霞の饒舌が滑り込んで来た。

 

「なにボーッとしてんのよ、さっさと行くわよ!」

 

「ああ……」

 

「提督、大変だね」

 

今俺は霞、時雨と三人で東京都内まで日用品の買い物に来ていた。

時雨はともかく霞は初めての外出で色々と困惑していたが割りと容易く環境に対応してくれた。

俺が一番懸念していた時雨と霞の関係だがたった2日ほどで仲直り?してくれて良かっと思っている。

 

「行くとは言うが他に何を買うつもりなんだ?」

 

「それは……その……とにかく色々よ!他にも買っておかないといけない物があるかもしれないでしょ!?」

 

「ふふ、要するにせっかくの外出を楽しみたいって事だよ提督。分かってあげてね」

 

「……なるほど」

 

「ちょ、違うから!そんなわけないでしょ!」

 

……そうか、よく分からないな。

この完成された鈍感男にはもはや何かを察することはできなかった。

時刻は昼前、平日だと言うのに行き交う人の数は増え続け、三人列になって歩くには狭くなってきた、それに周りの目線が段々とこっちに集まって来ているのはなぜだ。

 

(今日買ったのは、僕と霞のクシと歯ブラシと手鏡……あとスマートフォンも買ってくれたね、他にはヘアゴムに爪切り……あれ?)

 

時雨は気付いた、そしてすぐに深創の裾を摘まんで引っ張る。

 

「どうした?」

 

「ねぇ提督……提督は何か買った?」

 

「あ……そういえば確かに…」

 

「何を言ってるんだ?買った物はここにー」

 

「そうじゃなくて……」

 

「あんたが自分の為に何か買ったのかって聞いてんのよクズ」

 

「いや……特に買ってないが?」

 

「どうしてだい?」

 

「どうしてもなにも、別に買うものがないからだ」

 

あっけらかんとしている深創に頭を抱える時雨は大きなため息を付いて深創を見る。

 

「提督って本当に欲が無いんだね」

 

「そうじゃない、俺の必要な物はここでは揃わないから買わないだけだ」

 

「そうなの……?」

 

「え、もしかしてアンタ……超絶ブランドじゃないとダメとか…?」

 

「違う、確かに金は掛かるがそういった類いの物じゃない」

 

「じゃあ一体ー」

 

「ッ!待て霞…!」

 

畳み掛けようとする霞の言葉を遮った刹那、深創達の背後から巨大な轟音と叫び声が響き渡った。

崩れ落ちるビルの下、その噴煙から人々が逃げ惑う中からぬらりと一人だけ人間と酷似しているが明らかに人間とは違う何かが姿を見せる。

 

「うそ……あれって…」

 

「ああ……」

 

「間違いない…ね」

 

長く白い髪を靡かせ、豊満な胸を持つところを見れば女であることは用意に分かる。

その眼は鋭く、左目は蒼く発光している炎を纏わせていた。

悠々と歩くその身を護るのは黒光りする漆黒の甲冑、いや鱗だろう、見た目で判断すれば非常に硬い甲殻である鱗は彼女の目元から顎にかけてを完全に覆い尽くし、見える白銀の肌身は目元より上に限られている。

だがそれよりも気になるのが…………。

 

「深海悽艦……しかも改フラグシップッ!?」

 

「なぜ陸上に奴等が?」

 

「二人とも、下がってろ」

 

なぜ奴等が陸上を歩いている?

深創は二人を庇うように前へと立ちふさがり、嘲笑いながら辺りを見渡す深海悽艦を呼び寄せるようにわざと指を二回、甲高く鳴らす。

 

(陸上の深海悽艦はたとえ改フラグシップだとしてもかなり無力になるはずだが……あの倒壊したビルを見る限りそんな感じは一切しないが…)

「………………」

 

「て、提督!?」

 

「なにしてんのよアンタ!いくら陸上の深海悽艦でも改フラグシップ相手に人間が敵うわけないでしょ!」

 

「ン……?」

 

一度はこちらに振り返った深海悽艦は瞬く間に警察パトカーと緊急消防隊に取り囲まれる。

 

「さすが…早いね」

 

「…………」

(あれは……高圧力ホースか?)

 

深創も初めてお目にかかる、警察と消防隊は共同して深海悽艦を四方から囲んで深海悽艦目掛けて一斉に秒速120キロの放水を行う。

流水は一瞬で深海悽艦を潰してしまうような勢いで覆ってしまった。

逃げていた人々はその圧倒的な光景を見て安堵したのか少しずつ野次馬が現場に近づき、警戒を解いていた、それは時雨や霞も同じだったが。

 

「…………まずいな」

 

「え……?」

 

 

この男だけは身構えたまま警戒心を一切解かなかった。

呟きを聞いた霞が再び集まる野次馬の中に埋もれた現場に視線を戻したその時、一閃の爆発が目の前を塞いだ。

 

「ッ!!」

 

「これはっ……!」

 

「………………」

 

横転しながら燃え盛る消防車とパトカー、その中から這い出しながら燃え尽きる亡骸、集まっていた野次馬は一瞬にして消し飛ぶ。

 

「奴は一体……」

 

爆風に吹き飛ばされた瓦礫や残骸の一部を避け深創はじっと業火に焼き払われるその場のある一点を見続けていた。

 

「フフフ……アハハ!」

 

焔と黒煙からゆっくりと歩き出てくる深海悽艦は深創を見ながら暗く歪んだ笑い声を上げる。

 

「オマエ…オモシロイナ」

 

「…………?」

 

「ズットワタシカラメヲ離サナカッタダロウ?イイ目ダ」

 

「お前は……何者だ?どうやって陸上を歩いている?」

 

「コレカ?コレハキサマラカラヌスンダモノヲ使ッテイルダケダ」

 

俺達から……日本(俺達)から盗んだ物だと?そんなものが有るのか?

深創は背後の二人を交互に見つめた後、一歩踏み込む。

 

「ワタシハキサマガ気ニイッタ、モウニガサナイゾ」

 

深海悽艦はその右手に握っている西洋風の淡い緋色の輝きを放つ長剣を振り下ろし、深創に近付いてくる。

奴の側にはいつの間にか側近の筋肉質な巨大主砲が二体、口を開けて俺を補足していた。

なるほど、さっきからの爆発はアレの仕業か。

 

「心配するな、俺も逃げる予定はない…。お前に恨みは無いが、これ以上此処で好きにさせる訳にはいかないからな」

 

「ちょっと待ってよ提督、本気で戦うの!?」

まさかの展開に時雨は深創にしがみついて引き戻そうとする。

 

「心配するな時雨、俺は死なない、まだやるべき事があるからな」

 

「なにかっこつけてんのよ!あれは力を失ってない完全状態の改フラグシップの人型なの!分かる!?ましてや素手でどうにかなるわけないでしょ。早く逃げないと駄目よ!」

 

「霞、時雨を任せたぞ」

 

「ちょ…もう!」

 

深創は震えながらしがみつく時雨を引き剥がして霞に託し、恐れる事なく深海悽艦との距離を徐々に詰めていく。

 

 

黒羽鎮守府所属・最高指揮官

ー『深創』ー

 

 

「さて……やるか」

 

 

(後命名)

深海悽艦・鬼型改フラグシップ

覚醒前リ級

ー『陸特剥鬼』ー

 

 

「アソボウカ、ニンゲン……」

 

 

先に動いたのは剥鬼、背後に付いていた二体の主砲を下がらせ、地面を踏み割って深創の懐にたった一歩で詰めよって来る。

深創は斜めに斬り上げられる斬擊を易々と躱し、更なる連擊をくぐり抜けなから剥鬼の腹を蹴り上げた。

 

「っ……フハハ…」

 

「…やはり決定打にはならないか」

 

「提督っ!危ない!!」

 

「オワリダァ!」

 

時雨の叫び声が聞こえたときには既に剥鬼の長剣は深創の首筋を完全に捕捉して横凪ぎに振るわれていた。

 

「っ…………ガッ!?」

 

「お前の狙いが首でなく腹だったら俺の負けだった……」

 

ゴーストの実戦に置ける基本的なムーヴセットの一つに『スウェイ・フットワーク』と呼ばれる物がある。

これは頭部などを狙った即死性の高い近接攻撃を繰り出された際に必要となるテクニックで、地面に足を付けたまま瞬時に後方に『仰け反り』再度一瞬の踏み込みで距離を詰める技。

見てくれや仕様は簡単だがそれを極めるのは至難の業だ、何故ならこの技は相手が使用する武器の長さが長ければ長い程仰け反らなければならない距離が伸びる。

カッターや軍用のサバイバルナイフならば精鋭であるゴースト隊員でも難なく躱すだろう、だが今回は全長1m60㎝の長剣による攻撃、それを避けた深創のスウェイ・フットワークは常人のそれとは全く異なっていた。

深創が長剣をスウェイで1m61㎝下がってから、再び距離を詰めるまでに掛かった時間は約1.2秒。

踏み込んだ深創は左手の平を剥鬼の脇腹に叩き付ける。

叩き付けられた箇所からは大量の血が吹き出し、深創の左腕を染め上げた。

 

「突出式ブレード、通称『アサシンブレード』だ」

 

「カフ……フシュ…クソガァ!」

 

「逆上するな、動きが鈍るぞ?」

 

剥鬼は握りしめた長剣を掲げて深創に振り落とす。無論やることは同じ、スウェイからの踏み込み、剥鬼に見切れる筈もなく右手のアサシンブレードは剥鬼の脇腹を的確に貫く。

がその瞬間、剥鬼は不気味に微笑みながら深創の右腕を握り締め、首を傾げる。

 

「ッ……!まさかあの振り下ろしは……」

 

「ソノトウリ………」

 

首を傾げた剥鬼の先に見えたのは剥鬼が下がらせた二体の主砲。

凶悪な牙から覗く歪んだ口径は完全に全ての準備を終えていた。

 

「ハナテノアイズ……♪」

 

「ッ……しくじったか」

 

刹那、深創と剥鬼は眩い閃光と共に爆発の粉塵に巻き込まれた。

それと同時に爆煙から深創と思われる人型の何かが肉片と血飛沫を撒き散らしながら20メートルほど空中を舞うように弾き出され、地面に叩き付けられる。

その光景を間近で見た二人は唖然とし、特に時雨は霞にすがり付きながら静かに崩れ落ちる。

 

「あ…………あぁぁ……」

 

「そんな……ッ」

 

晴れ行く爆煙と粉塵の中から姿が見えた剥鬼は両腕を広げて狂った様に笑い始める。

 

「アッハハハハハ!ヤハリニンゲンハモロクヨワイイキモノ……ア?」

 

「っ…………提督…?」

 

「……ッ?」

 

それは動いていた、いや、正確には蠢いていた。

右腕を喪失し、熱風で溶け爛れた顔の右半分の眼球は蒸発し、顎の骨格がむき出しになっているそれはゆっくりと着実に起き上がろうとしていた。

 

「フム……アハハ、マダイキテイタカ。シブトイニンゲンダナ……イイゾ」

 

「……………………」

 

引き裂かれた両足を無理やり動かしながら爆風でへし折れた左腕をダラリと垂らしてゆらりと立ち上がる。

 

「…………………………」

 

 

右目が見えない……まるで痛風だな…。

 

 

「ン……?ン?…………ナンダ?」

 

「そんな……何が起こって…」

 

 

右腕は……よし、動く。これで大丈夫だ…。

 

 

「提督……?」

 

「ニンゲン?…………??」

 

 

右目も見えてきたぞ……左腕も再ってる……さて。

 

 

異常も異常、常軌を逸した光景が三人の目の前に広がっていた。

ものの数十秒前までズタボロだった深創の肉体を黒く禍々しい霧が覆い着くし、瞬く間に破滅的な傷を綺麗に再構築、再生していた。

 

「予想はしていたが……なかなか早いな、ふむ。どうやら身に付けていた服や装備も再生するみたいだな」

 

深創は自分のコートと右手首にはめてあるアサシンブレードを見下ろしながら自身の身体に適応していく。

薄々こうなるかもしれないとは予想していた、というよりは確信かな。

不知火との闘いで折れた鼻に撃たれた傷……それだけで十分の判断材料になる、そしてこうなったら試してみたい事がもうひとつ……。

 

「……俺の攻撃は効いてないみたいだな」

 

「アンナチッポケナオモチャデワタシヲタオセルトデモ?」

 

「いや……まぁ、期待はしてなかったが消耗さえさせれないとは思わなかった。だがそれも今はどうでもいい……」

(人目に付くが。このままじゃどのみち敗戦濃厚……やるしかないか)

 

「ム…………?」

 

既に駆け付けていたものの状況対処で精一杯の警察や救急隊員、更にはマスコミに一般市民が遠目に見守る中、深創はそれを使った。

全身を覆って行く黒炎に包まれながら狂った様に両目から溢れる暗炎、その中から覗く蒼色の眼は赤色に変わり、目の動きに合わせて緋色の残光が跡を追う。

これを見れば彼が人間だとは誰も思わないだろうが、それは彼自身わかっていたことだ。

 

 

絶頂の覚醒者

深海化形態・elite(エリート)

ー『深創』ー

 

 

「第二ラウンドだ……やろうか」

 

男の覚醒と同時に周りの空気が変動する。

そして聞こえるはずのない幻聴に似た何かの声が聞こえ始める。

これは歌…もしくは叫び声だろうか?それは誰にも分からない、まるでオーケストラの大演奏、不気味だが引き込まれるようなコーラスと共に全ての者の耳に入り込む歌声、もしくは叫び声。

シズメシズメ、オチロオチロと訴えるような声が不可思議に響き渡る中、深創は剥鬼へと歩を進める。

 

「オモシロイ……クルガイイ!!」

 

「全てはイメージ……ならば…」

 

右手を振り上げ、空を裂くように振り落とすと、その後をなぞるように黒の狐炎が続く。

そして振り落とされた深創の手には見事に黒炎だけで形成された長剣が握られていた。

 

「……この質量でこの軽さか…なるほど」

 

「オマエ…マサカワタシタチト……」

 

「さあな、だが味方同士でない事は確かだ。悪いが死んでもらう」

 

第二ラウンドの先制を奪ったのは深創、この黒炎によってスピードが上がる訳もなくその踏み込みは速いが剥鬼程ではない。

深創のもつ異常な加速点は瞬発的な回避やカウンターで発揮される。

黒炎の長剣を振りかざして剥鬼との間合いを詰め、一気に斬り込む。

 

「ッ……!!」

 

「……なるほど、黒炎だけで形成されているが分裂はしない…物理的に止められるのか」

 

剥鬼に受け止められた長剣を余所目に深創は左手を開いてイメージする。

そして左手に構成されたのは細く鋭い一本の槍、それ剥鬼目掛けてを思い切り突き上げた。

 

「チィッ!!」

 

「…………………」

 

致命傷は避けたが、槍は剥鬼の左肩を深々と貫いて空洞を開ける。

それによって生じた一瞬の隙を深創は逃さない、剥鬼を貫いた槍と受け止められた長剣を消失させ、投擲用の短剣を両手に一本ずつ造り上げ、的確に投げ飛ばす。

一本は右膝に命中、遅れて投げた一本は体制の崩れた剥の眉間を狙ったのだがギリギリで躱される。

 

「まだ躱せるのか……タフだな」

(もう少し……もう少しでリズムが掴めそうだ…)

 

「ッッ…………クソガ!」

 

「次、行くぞ」

 

「クッ……!」

 

戦いが激化するかもしれないと悟った霞が時雨を連れて下がろうとすると、足元に硬い何かが当たる。

 

「あれ……これって」

 

足元に落ちていたのは深創のタブレット、どうやら主砲に撃たれたときに吹き飛ばされたのだろう。

特に大した理由は無いが気付けば無意識に腰に下げたポーチに仕舞っていた。

 

「ほら、さっさと下がるわよ」

 

「う、うん………」

 

そんな霞達の様子を横目に見ていた深創は心の中で霞に礼を言って剥鬼に向き直る。

剥鬼の攻撃を見切り、左手で振り払うように黒炎を爆発させて弾き飛ばす。

そして身体を回転させながら両手に黒炎の特大剣を握り締め、剥鬼というよりは地面に向かって叩き付けた。

黒炎の刃が地面に触れた瞬間、自分ごと剥鬼を巻き込んだ広範囲に及ぶ焔の大爆炎が起こる。

 

「まぁ……無論俺は無傷な訳だが……?」

 

「ッ……ヴウアアァァァァァァァァァア!!」

 

爆炎にまみれながら長剣を突き出してきた剥鬼の攻撃を躱して背後に回り、槍を出現させ疲労しきった彼女の背中を心臓目掛けて貫通させる。

 

「ガ…ハ!……………………っ」

 

「急所は人間と同じなのか…?」

 

深創がガクリと崩れ落ちた剥から槍を引き抜こうとしたその直後、剥鬼は最後の力を振り絞ってその身を奮い立たせる。

身を捩って背骨で槍をへし折り、素早く振り向いて長剣を深創の横っ腹にねじ込む。

 

「……………」

 

「ッ……ンナ…バカナ…………」

 

深々と抉られている自分の腹部に見向きもせず深創は剥鬼を冷酷に見下ろす。

その手から伸びる細く長い黒炎の刺剣は深創に振り向いて長剣を突き立てる前に彼女の身体を貫いていた。

 

「キサマ……クソ……ク……………ソ…………っ」

 

「………ふう……ッ!?」

 

剥鬼が事実上絶命した瞬間、その亡骸から黒く淀んだ霧が爆発的に放出されて深創の身体を覆い尽くす。

 

「ッ……なんだこれは?」

 

「提督!!」

 

「行っちゃだめ!危ない!」

 

時雨は霞を引き剥がして深創を覆い尽くした霧の中に飛び込んでしまった。

霞も心の中で舌打ちをしながら後に続いて入ろうとするが、駆け出す直前である男に腕を捕まれ引き止められる。

 

「何よアンタ!離しなさいよ!!」

 

「落ち着けお嬢ちゃん、俺はアイツの親友さ」

 

「はぁ!?いいから離しなさ………あ」

 

「深創……………」

 

「これは………」

 

いきなり急速的に消え去った霧から姿を現した深創は自分に抱き付いている時雨の頭を撫でながら己の身体を見渡す。

目に見える何かがあった訳じゃない、だが妙な感覚だ、まるで何かを得たような失ったような……これは……そう。

ある一ヶ所のパズルのピースを何か別のものと取り替えたような、そんな感じだ。

 

「提督…………?」

 

「俺は大丈夫だ、それよりも文輝。これが何か分かるか?」

 

深創は霞の隣にいた文輝に疑問を問う、途中から文輝がさっきの戦闘を見ていたのは戦いながら分かっていた。

 

「いや……全く分からんな、だがお前があの霧を取り込んでいたのは分かった」

 

「ああ……こいつから何かを吸収したのは確かだ、それよりも…………」

 

「おいやめろよ、考えないようにしていたのに……たく」

 

深創と文輝は互いに背を向けて辺りを見渡す。

周りは一般市民や警察官だけではなく、基本的に問題しか起こさないマスコミが集まっていた。

 

「んー……とりあえずお前ら帰れ、マスコミの対処は俺に任せな」

 

「すまない、なら任せていいか?」

 

「おうよ、また後で話そう。んじゃな」

 

「ああ…」

 

二人を背後に、血塗れた男は人々の中を歩いていく。

 

 

バケモノ……?

 

「…………………………」

 

気味悪い………

 

「…………………………」

 

人間なのか……?

 

「…………………………」

 

何か怖いわ……

 

「…………………………」

 

ああ…………いつもどうりだ、俺の日常。

これこそが俺が今まで生きてきた日々、これでいい、これでいいんだ……。

 

「…………提督?」

 

「ん……いや、少し……安堵していただけだ」

 

「??」

 

「気にするな、さあ。帰ろうか」

 

 

~pm11:30~

黒羽鎮守府

ー『執務室』ー

 

 

その日の夜、深創は執務室の椅子にもたれ掛かって激しい頭痛と戦っていた。

 

「ッ!!…………一体なんなんだ…」

 

こんなことは今までなかった、つまり原因はこの力を使いすぎた事による副作用だろう、まさかデメリットがあったとはな。

 

頭を抱えながら目眩に眩まさて深創は首筋を伝う汗を拭う。

そしてあることを確認するためにコートのポケットに手を入れる。

 

「ん?………まずいな、タブレットがない。あのときに落としたか?」

 

そう言った矢先、執務室の扉が開かれた。

 

「……霞か、こんな時間にどうし…それは」

 

「……………………」

 

こちらを見たまま動かない霞の右手には俺の大切なタブレットが握られていた、拾ってくれていたのだろう有り難いことだ。

 

「丁度それを探していたんだ、返してくれるか?」

 

「ええ、もちろんよ…はい」

 

「すまないな…………っ」

 

深創の手に渡ったタブレットの電源は入っており、画面は深創の身体状況を表示していた。

霞はこれを見たのだろう……『俺が人間ではない証拠』を……。

 

 

本名『グレイブス・フェニックス』

現在使用中の名『深創』

現在の身体状態を表示します

 

重要課目

生命活動:停止

平均心拍数:0(死亡)

体重:9㎏(警告)

握力・腕力平均:14キロ(肉体的衰弱)

嗅覚:半径24㎞(異常数値)

聴覚:半径38㎞(異常数値)

総合結果:死亡確認、速やかなエラー修復。

 

 

「……………」

 

「…………ねえ」

 

意外にも先に口を開いたのは霞だった。

ジッと深創のことを見つめ、その目に迷いはない。

 

「一番始めに見たときは驚いたわ、でも……」

 

「止すんだ霞、これを見れば分かるだろう?俺は人間じゃない」

 

「それでも…あんなクズ共よりよっぽどマシよ、あたしはアンタが人間で無かろうと気にしないわ」

 

「……………………」

 

「それは多分時雨も同じよ。でもここに来た理由はそれを追及するためじゃない」

 

「じゃあ…………なんだ?」

 

「…………」

 

霞はソファに腰を降ろし、しばらく黙ったまま俯く。

 

「あたしが聞きたいのはアンタ自身の話よ」

 

「俺自身……?何故だ?」

 

「この前時雨と話したの、お互いの過去について」

 

「そうだったのか……」

 

「それで…互いについて知っておくのは大切だと思う。そうでしょ?」

 

「………………………」

 

「どうしたのよ?」

 

深創は黙ってしまった、言える訳がない、とても人に話せるような暖かい過去など無い。

血と、死と、暗闇に囲まれた過去など、まだ年端もいかない少女に話してなんになる?むしろ彼女を傷つけてしまうかもしれない。

 

「ふむ……霞」

 

「……?」

 

「世の中には知らなくても良いことがある、ましてや俺の歴史は血にまみれている」

 

「…………それでも、そうだとしても、アンタはあたし達に話す義務があるはずよ、違う?」

 

確かにその通り、俺は二人の過去を知っている、そして彼女達は俺を知らない。

俺には伝える義務がある、これは当然のことだ。

だが……………。

 

「…………長くなる」

 

「別に構わないわ、付き合ってあげる」

 

「……………………分かった」

 

深創は執務机から立ち上がり、霞の正面のソファに座る。

そしてゆっくりと深呼吸をしながら執務室の入り口に視線を向ける。

 

「忍ばなくていいぞ時雨、入って来い」

 

《う!?……う、うん》

(どうしょう……今日は提督と一緒に寝ようと思って執務室に来たらなんか話と空気が重い……)

 

恐る恐る執務室に入って来た時雨は深創に誘導されるがまま霞の隣に座らされる。

 

「さて……初めから話そうか」

 

深創は二人の顔を見ながら自身の過去を振り返りながら静かに語る。

ここから拓かれる歴史は深創ではなく、今は亡きグレイブス・フェニックスと呼ばれる男の暗い記憶の焚書。




あれ、これ十五話くらいには一万字越えとるんや無いか?
次回の十二話は艦これ要素が皆無の内容なので興味が無い方は見なくても物語に支障はありません。
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