この鎮守府の提督はいろいろ規格外でした。   作:ペペロンチーノ伯爵

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この話に艦これ要素はほとんど出てきません、読まなくても物語に支障はないので心配しないでください。


第十二話『グレイブス・フェニックス』

「……やはりこれを見せた方が早いな」

 

深創はもうひとつのタブレットを取り出し、二人の前に置く。

 

「好きに見てくれ、聞きたいことがあったら遠慮なく聞いてくれ」

 

霞は黙ったままタブレットを手にとり時雨の方に寄せながら端末を開いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《現在この記録は抹消済みとされています。閲覧にはゴースト所属クリアランスレベル5、及びヒロイックの許可が必要です》

 

記録日:2001年2月19日

記録者:イェソド・ヒロイック

対象者:グレイブス・フェニックス

ゴーストネーム:オシリス

 

グレイブス・フェニックスが孤児として産まれたのは1983年のスーダン、その当時スーダンでは内戦が勃発しており、親に捨てられたまだ赤子の彼は、誰に引き取られる事もなく戦場の灰を這いずっていた。

産まれ落ちた時からグレイブスにはただ単純な『生き残る』才能があったのだ、地面を這いずり、地に伏せる死体に触れ、それらが持つ鉄に触った瞬間にグレイブスの本能が全てを理解する。

内戦の影響で死に絶えた鳥や小動物、虫を食らいながら生き抜いて来たグレイブスが初めて人を殺めたのは『1才』の時、何処の国かも分からない軍服を着た暴徒7人に殺されかけたグレイブスは手元にある石や砂、木の枝を使って本能的に銃を所持した大人を惨殺していた。

ゴーストが彼に目を付けたのは奴が6才になった頃。

1989年のポーランド極秘テロ殲滅任務遂行時の話だ、ゴースト分隊が目的地に到達した時には既に工作員470人にも上るテロ組織の本拠点が全滅しており、売春に駆り出されるはずだった少年少女達は個室で静かに息を潜め、野郎共の死体の山で静かに佇んでいるグレイブスを発見する。

 

 

 

1989年10月29日

 

時刻am02:30

以下ゴースト分隊員の胸元に着けている録音器から引き出した音声記録。

会話は本部と少年(グレイブス)、ゴースト・フレディの声のみ記録。

主質問者:ゴーストチーム隊長『ゴースト・フレディ』、『本部』

回答者:グレイブス・フェニックス

 

フレディ:『こちらイプシロン。フレディ、本部……応答を願う』

本部:『こちら本部、イプシロン。報告せよ』

フレディ:『作戦該当区域に到着、テロ組織は既に壊滅しており……一人の少年を発見しました』

本部:『敵勢力の可能性は?』

フレディ:『いえ、どうやらこの少年が組織を壊滅させたようです…………これより接触を図ります』

本部:『まて、武装しているのか?』

フレディ:『はい……Tシャツに黒のパーカー、その上に迷彩の弾倉ベルトを着用しており。武装はメインにG36C、サブは旧式のM1911、左手にサバイバルナイフを持ち手の平をテーピングして手放さないようにしてます。とても素人とは思えません』

本部:『接触は十分に気を付けろ、敵対行動をした場合即刻終了しろ』

フレディ:『了解』

 

14秒間の雑音……≪移動する音≫

 

フレディ:『君、聞こえるか』

少年:『………………』

フレディ:『名前は、何故ここに?』

少年:『……………………お前らはコイツらとは違うようだな』

フレディ:『私達は敵ではない』

少年:『……だが味方でもない』

 

7秒間の雑音……≪立ち上がる音≫

 

フレディ:『……これは君がやったのか?』

少年:『ああ……これか。そうだ』

フレディ:『一体どうやって…?』

少年:『どうって……ここにあるもの全てでだ』

フレディ:『どういう事だ?こいつらは少なくとも400はいるんだぞ?』

少年:『それが……なんだ?俺はただ殺しただけだ、やり方なんて分からない……気付いたら、こいつらの上で座ってた』

フレディ:『……………そうか』

少年:『お前達は何者だ?俺を殺す気がないなら彼らを助けてやれ』

フレディ:『彼ら……?』

 

そこでゴーストは売春の子供達を確保、立ち去ろうとした少年を引き止め記録再開。

 

フレディ:『まて、何処に行く?』

少年:『どこ……さあな。次の戦場だろう…』

本部:『ゴーストチーム・イプシロン応答せよ』

フレディ:『……こちらイプシロン、応答』

本部:『いまその少年について調べた。思いがけぬ逸材だ、ゴーストとして回収しろ』

フレディ:『…………は?』

本部:『これは命令だ、あの少年を回収しろ』

フレディ:『ですがまだ子供です!』

本部:『関係ない、命令だといったはずだ、さっさと回収してランディングゾーンに連れてこい』

 

音声記録終了。

 

 

 

そうしてゴーストに回収された少年グレイブスはゴーストの中でその才能をフル活用、10才で専属のゴーストチーム『ナイトフォール』の分隊長となる。

 

 

「それが俺の歴史、表の部分だ」

 

「え……?」

 

「表…………?」

 

「ああ……それは表だ」

 

深創はソファから腰を起こし、窓辺に移動して背中を預ける。

 

「いいか?まず大前提に俺は今で言う自衛隊やアメリカのレンジャーのように人目について戦う人間じゃない。ゴーストは正規の軍隊が関与することが出来ないグレーゾーンや手が届かないようなダークな問題を解決する」

 

二人になるべく分かりやすいようにタブレットの資料や身ぶり手振りで詳しく教える。

 

1900年、アメリカ大統領『ウィリアム・マッキンリー』による大統領考案の最重要極秘機密部隊

≪Ghost部隊(幽霊部隊)≫

彼らの仕事は主に『掃除』であり、政府軍が関わるわけにはいかない問題を解決する。

分かりやすい例の一つとして挙げるならば。

『少年兵の殲滅』これが一番分かりやすく伝わるだろう。

 

「少年兵……?」

 

「ああ、俺のように子供の頃から戦場で戦う運命を持った子供達の事だ」

 

「それの殲滅……アンタの仕事が?」

 

「そのとうりだ、いくらなんでもアメリカの正規軍が子供を撃つわけにはいかないからな」

 

深創は静かに、何回か間を置きながらゆっくりと話を進める。

 

「俺が参加した任務で話そう」

 

作戦名『クワイエット・チルドレン(沈黙の子供)』正式名《It did not exist children》

1991年1月19日、アメリカの関与が無かった筈のシエラ内戦にゴーストが投入されたのは本格的な紛争が始まる前、紛争地帯が激化する前にゴーストは作戦区域内にいる少年兵を暗殺、掃討していたのだ。

その中でもグレイブスが殺した少年兵の数は数多く、約1700人にものぼる。

 

「作戦は真夜中に行われ、分隊で散り散りになって暗殺を開始し。最後にランディングゾーンへ集合、撤退する作戦だ」

 

「………………」

 

「だが仲間の一人がしくじった」

 

「何を……?」

 

「…………いま思えば、あの出来事が大きく響いて俺が後にゴーストの分隊長に指定されたのかも知れないな」

 

 

1991年1月19日

~pm23:40~

シエラレオネ・敵勢力本拠地

ー『野戦軍事キャンプ』ー

 

 

グレイブスは『それ』からコンバットナイフを引き抜き、頬に付着した濃血を親指で拭い定時連絡をするため耳元の無線機に触れる。

 

「こちらゴースト・オシリス、この区間は終わった。報告を頼む」

 

《………………………………》

 

「…………おい、報告しろ」

 

《………………………………》

 

「……まずいな」

 

本部に繋ごうと左胸に付けたチャンネルを切り替える為のダイヤルに手を伸ばすが、ここは臨戦態勢の敵本拠地、ここで緊急チャンネルに切り替えれば自動傍受に痕跡を残してしまう可能性が高い。

グレイブスはキャンプから抜け出し、通信が途絶えたゴーストのキャンプまで静かに移動する。

 

「………ふむ」

 

キャンプ周辺の兵士は全て死んでいるが、キャンプ内で肝心の少年兵の姿が見えない、このおかしな状況に違和感を覚えたグレイブスは完全に気配を消して室内を探索し始めた。

すると食堂辺りから微かだが気配を感じ、ナイフとセットで消音付きのM1911ガバメントを構えて物陰から食堂を覗く。

 

「………………」

 

「おい、これで全員か?」

 

「ああ、少年兵は全員集めた。でも本当にやるのか?」

 

「そうだ、この子達は被害者なんだ。殺すなんて出来るわけない」

 

…………なるほどそういう事か。

つまりこいつらはゴーストであることを忘れ、現世に留まることにしたのか。

食堂の真ん中で気絶した少年兵を集めて話し合うかつての仲間達を見ながらグレイブスはガバメントのセーフティを解除、姿勢を低くして聞き耳を立て、録音機器のスイッチをオンにする。

 

「でも俺達三人でやるのか?グレイブスは?」

 

「あいつを連れていくわけないだろ、ありゃ化け物だ、キリングマシーンなんだよ」

 

「それじゃ……ゴーストはどうする?」

 

「抜けるんだ、もう懲り懲りなんだよ…!誰にも見られず、称賛も褒め言葉もない裏の闇でなんの為かもわからず大量虐殺するのは!」

 

「そのとうりだな、ここを出て子供達を保護したらゴーストの存在を公表しよう、なんで俺達がお前ら(アメリカ)の尻拭いをしなくちゃならないんだ」

 

「なるほど、そういう事か」

 

そういってグレイブスは三人の前に姿を表す、オンにしたままの録音機器をポケットに入れ、三人を哀れむように見下ろす。

 

「ッ……聞いてたのか」

 

「まぁ…………お前達は正しい事をしているのだろう。可愛そうな被害者の少年兵を保護し、己の正義を突き通そうと言うわけだ……」

 

「含みのある言い方だな…?」

 

「お前達は正しい…だがそれには必ず結果が伴う、その一つが……これだ」

 

グレイブスはガバメントを三人に見えるようにちらつかせる。

妖狐の仮面から覗くその青く透き通った目は冷たく、そして鋭かった。

無線機に手を掛け、本部に繋ぐ。

無線傍受用の機器はここのキャンプにあり、既に破壊されているのを見つけていた。

 

「…………本部」

 

「なるほどな……俺達を始末するつもりか」

 

「…………ああ、俺だ。これから報告する」

 

「でも俺達は三人……お前は一人だ」

 

「…………作戦遂行中の俺を除く三人が任務を放棄、これより終了させる。ランディングゾーンにヘリを寄越してくれ」

 

「しかも俺達ゃ元ゴーストだ、いくら天才殺戮少年のお前でも三人相手は無理があるだろ?最年少のゴースト様」

 

武器を構える三人に首をかしげ、鋭く見下ろすその視線はより深く殺気が籠っていく。

 

「ゴースト……?お前達はおかしな事を言うんだな…………この世に幽霊は存在しない」

 

 

 

「…………それで、どうしたの?」

 

時雨の問いに深創は窓辺から視線を反らして彼女の目を見つめる。

 

「殺した。首を落として服を脱がし、持ち帰って処分した」

 

「食堂に集めていた子達は?」

 

「もちろん殺してきた、一人ずつ確実に」

 

「ッ…………」

 

深創はしばらく目を瞑り、時間を確認すると手を叩いて二人の顔を上げさせる。

 

「もう遅い、話はまた今度だ。さっさと寝るんだ」

 

「……………………」

 

「……………………っ」

 

「行け……」

 

最初に執務室から出たのは時雨だった、何とも言えないような表情をしながらもしっかりお休みを言ってから部屋に戻って行った。

だが霞は執務室から出ようとしなかった、俺の目を見て何か言いたそうにしている。

 

「さぁ、お前も部屋に戻れ、明日に障る」

 

「アンタ……自分が最低なクソ野郎だって事に気付かないの?」

 

「………………」

 

まぁ…………そうなるだろうな。

 

「アンタが殺した三人は正しい事をしようとしていたのよ!それなのにアンタは殺した!人の命を何とも思ってないクズよクズ!人殺しが!」

 

「………………」

 

「任務だからって被害者の子供達を虐殺して!それでいて何の罪悪感も感じないなんて……アンタは正真正銘の殺戮マシーンだわ!」

 

「………………」

 

「ッ…………っ……ッ!!」

 

霞はソファから立ち上がり、深創を睨み付ける。

 

「なんとか言いなさいよ!」

 

「………………」

 

深創は歩み寄ってくる霞の拳に力が入っているのを見て、殴られると悟りながらも無抵抗に眼を瞑り、反撃もカウンターも捨てた。

これでいい…………コレが一番の選択なんだ。

 

「………なんとか」

 

「っ…………?」

 

身体に何かを押し付けられるような感覚を感じて目を開くと、俺の胸に顔を埋めて啜り泣く霞がそこにいた。

 

「……霞?」

 

「何で……なんで言い返さないのよ…………」

 

「………………」

 

「言いなさいよ……『お前に俺の何が分かるんだ』って…………怒りなさいよ……!」

 

「………俺に言い返す権利なんてない」

 

深創は霞の背中に腕を回して優しく包む。

 

「霞の言っていることは至極正しい、お前は正しいんだ、それを突き通せ。迷うな」

 

「なにいって…………」

 

「俺は人殺しだ、殺戮するためだけに生まれた人ではない『何か』なんだ。だから俺に人権なんて物は存在しない」

 

「ッ……そんなこと……」

 

「お前も見ただろう?あの力は俺が人ではない証、証拠だ。だが」

 

「…………?」

 

「俺は自分が何かを背負ってるだなんて思っていない」

 

「どういう…?」

 

霞の肩を掴んで目の前に引き離し、しゃがんで目線の高さを合わせる。

深創はアニメや漫画で言う悲劇の主人公などではない、この男は己の境遇を背負ったりはしない、深創という男は。

 

「俺は背負わない、受け入れる」

 

「受け入れる…………?」

 

「ああ……俺は仲間を殺したことも、少年兵達を殺した事も……それ以外に殺した人間。そのどれに対しても『後悔』や『懺悔』したことなんてない」

 

「……………………」

 

「俺は受け入れたんだ、全てを」

 

男は受け入れる。

この世に産まれ落ちた時から彼は一度だって泣いた事も辛いと感じた事もない。

目の前で大切な仲間が死のうとも、どんな絶望的な状況に立たされようとも彼が後悔したことは無い、いや、後悔を受け入れる。

だがそれは無感情という訳ではない、もちろん仲間が死ねば悲しい、どんな軍人でも戦友が死ねばその現実を完全には受け入れられず、思い出す度に泣き崩れるだろう。

だが彼の場合は違う、彼も仲間が死ねば悲しむ、だがその悲しみは仲間が銃弾に弾かれ、即死して地面に崩れ落ちる頃には終わっており、既に受け入れているのだ。

 

「それも中途半端に受け入れたりはしない、その現実を完全に受け入れる事が出来る」

 

「…………」

(それって…………)

 

霞には理解出来た、深創という男を、グレイブス・フェニックスという存在を。

 

「俺は何も背負わない、悲しむことはない、俺は受け入れる。あらゆる結果を、正しさを、全て受け入れよう。自分という化け物を」

 

「…………お休み、クズ司令官」

 

「……?ああ。お休み霞」

 

全てを瞬時に受け入れられる。

それはつまり…………悲しみや後悔を悲痛で発散できないという事なのだ。

人間は『それ』が受け入れがたいからこそ 泣き喚き、項垂れ、後悔し、己や相手又は物を憎んで現実から一時的に逃れ、精神的ダメージを発散するのだ。

だが深創はどんなことがあっても発散する暇もなく自然と、はたまた機械的に受け入れてしまう。

これがどれ程辛いことか、霞には理解出来た、だが深創は気付かず、理解も出来ない。

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