この鎮守府の提督はいろいろ規格外でした。   作:ペペロンチーノ伯爵

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oh……一万字いっちゃうよこれは。うん、しょうがないね。ではお楽しみ下さい!!


第十三話『全ての正しさ』

深海悽艦の剥鬼を退けてから3日後、深創は執務室で羽ペンを滑らせながら書類を片付ける。

あの時に公になってしまったこの力はかなりリスクが高い、これは俺の予想だがこの黒い炎の力、使用すればするほど使い終わった後の代謝がでかくなるようだ。

実際にあの後彼女達と話してからも身体から疲労や頭痛が抜ける事はなかった。

 

「………………」

 

文輝から連絡が来ない、こちらから連絡してみても応答しない。

だが代わりに彼の秘書艦である加賀に出てもらい、文輝は情報操作に追われて忙しくしていると言われた時は申し訳ない気持ちでいっぱいだった。

 

「…………6時か、そろそろー」

 

「っ……提督?」

 

来たか。

今日の秘書艦は時雨だったな、そういえば霞にも言えることだが二人ともすっかりここの生活に慣れてくれたようだ。

基本的に時雨は朝早く6時くらいから執務室に来てくれる。

 

「今日はよろしくな時雨」

 

「提督……ちゃんと寝てるのかい?」

 

「心配するな、しっかり寝ているよ」

 

「………………」

 

「そんな顔をするな、俺は大丈夫だから」

 

「…………うん」

 

この心配性っぷりは変わらないな。

時雨は給仕用の机の前に立って新しく買ってきたコーヒーポットに手を掛ける。

そんな光景を見ながら俺は羽ペンを置いて口を開く。

 

「時雨。この前の話だが……」

 

「……提督の過去…その話かい?」

 

そうそれだ、霞とは話を付けたが結局時雨とはまだ話し合っていない。

複雑な心境を見せる深創に振り返った時雨は苦笑いを浮かべる。

 

「提督には申し訳ないけど、正直ボクは提督なら何だっていいんだ」

 

「………?」

 

「提督の過去を聞いても僕は何も変わらないよ?僕が提督が好きだから、僕が提督を知っているから、それでいいんだ。提督が間違ってるとか、そんなの考えたことないよ」

 

「…………そうか」

 

「うん、だから心配しないで、僕は提督を置いていったりしない」

 

その優しさに触れながら再び羽ペンを手に取った瞬間、備え付けの外部専用電話機がけたたましく鳴り響いた。

 

「……?こんな朝早くに誰だ?」

(文輝……?いやそれは無いだろう)

 

それと同時に目の前に置かれた淹れたてのコーヒー、俺は時雨に礼を言って心無しか慎重に受話器を取る。

 

「こちらは黒羽鎮守府。提督の深創だ」

 

《……ラバウル泊地第四予備鎮守。その司令官を勤めさせてもらっている者だが》

 

………………なるほど。

受話器を耳に当てながら背もたれに深く寄りかかり、鼻歌まじりのご機嫌な時雨に視線を向けてアイサインで静かにさせる。

調べたところ、彼は俺よりも階級は雲泥の差で上だ、面倒がないようにしなければな。

 

「そうですか、先日の大規模作戦はお悔やみ申し上げます」

 

《皮肉などいらん、それはそうと貴殿の鎮守府は全く新しく建設されたそうじゃないか?》

 

「…………そうですが…いきなり何のお話でしょうか?」

 

《いやなに、ここは大先輩として見に行きたくてな、まだ艦娘も潤沢ではないだろ?その辺りのアドバイスも含めてな》

 

「なるほど、それはありがたいお話しですね、是非ともいらしてください」

(ここで断ったら面倒になりそうだしな、受け入れよう)

 

《なら今日の午後にでもどうだ?正確な時間は追って連絡する》

 

「分かりました、ではお待ちしております」

 

受話器を置き、しばらくじっと考える。

電話の内容はいつの間にか真横にいた時雨にも聞こえており、真剣な顔をしていた。

 

「……時雨」

 

「なに…?」

 

「聞いていたとうりだ、客が来る」

 

「うん、でもあの感じは…」

 

「そうだ、単に見に来る訳じゃない、きっと霞の事を知ってる」

 

「それなら今すぐに断っー」

 

「時雨っ」

 

「っ……?」

 

「余計なことはしなくていい、霞には自然に接してやれ、だがこの件については話さなくていい」

 

深創は時雨に有無を言わせまいとその頭を撫でくりまわし、時雨も満更ではなさそうにされるがまま頷く。

 

「ちょっと!朝っぱらから何してんのよクズ!」

 

「ん?霞か、おはよう」

 

「やあ霞、おはよう」

 

「おはようー……ってそうじゃない!」

 

いつもはここから朝が始まる筈なんだ、だが今日は……油断しないようにしなければ。

この子達を守るために。

 

「さて、朝食にしようか」

 

「ふーん、話変えようって魂胆ね?そんなんじゃ騙されなー」

 

「一緒に手伝ってくれるか霞?お前が必要なんだ」

 

「ッ……!し、しょうがないわね!ほんっとに私がいないと駄目ね、だらしないったらありゃしないわ!」

 

「そうだな、助かってるよ」

 

「ふん!」

 

よし、オーケーだ。

 

「あはは…………」

 

チョロすぎる霞を見ながら時雨はどうしようもないと苦笑いを見せ、枯れた笑い声を上げる。

朝食を済ませ、執務室に戻ってきた深創は既に終わらせていた報告書類を整理して組分けていた。

 

「………もうそろそろだな」

 

時間は11時40分、事前にもらった連絡によれば12時丁度に伺うとの事だ。

その間に俺はソファのズレを直したり、茶菓子の用意などの必要最低限出来る限りの準備をする。

 

「……言葉には気を付けないとな、下手にしくじってこちらの立場が不利になれば霞は守れない」

(うまく挑発しなくては…………な)

 

 

~pm12:30~

黒羽鎮守府・艦娘駆逐艦寮

ー『霞の部屋』ー

 

 

「…………んぅ」

 

いつの間に眠ってしまったのだろうか、朝食を終えて時雨と……クズ司令官と別れてから部屋に戻ってすぐに?

 

「………こんなこと、あり得なかった…」

 

こうやって暖かいお布団を被ってゆっくりお昼寝なんて…なかった。

そもそも『寝る』という事がない、明石さんの工廠の隣で錆びた鉄の壁に背中を預けて全身の痛みに耐えながら眠れずにうずくまるだけだ。

でもそれが今のやり方、それは正規で正しいやり方なの、艦娘は戦争の道具。

これは常識、日常、習慣のようなもの、だれも文句は言わない、それどころか一番効率が良い。

 

「でも……アイツは違う」

 

霞は布団は剥いで敷き布団から這い出る。

寝相は良い方で髪の毛が崩れたりはしない、いつもどうりに長い銀髪をサイドテールで楽に仕上げ、少しだけ鏡と向き合ってから 部屋を後にした。

 

「………………」

 

部屋から出たは良いがやることがない、一人で訓練しても構わないが気分じゃない……クズ司令官の様子でも見に行こう、どうせ時雨とイチャついているに決まってる。

 

(なんだか腹が立ってきたわ)

 

そうしてしばらく執務室に向かって歩いていると、どこか変な違和感を感じ、自然と忍び足になっていた。

 

(………男の声…?客でもいるのかしら?)

 

こんな鎮守府に客なんてくる……え?

この声には聞き覚えがある、冷静で自分より格下を常に見下すようなこの声はまさか……。

ゆっくりと、一歩一歩に細心の注意を払って歩を進める。

執務室に近付くにつれて大きくなっていく声、どうやら怒鳴っているようだ。

 

「あいつは俺の艦娘だ!ここにいるのは分かってるぞ!」

 

「落ち着いて下さい、藤田さん」

 

「ッ!!」

(私を……連れ戻しに来たの?)

 

そう思いながら少しだけ開いた執務室のドアの隙間から視線を通す。

執務室にはソファに座った司令官と私のよく知っているクソ野郎が対面しており、クソの隣には秘書艦の電が恐怖心に包まれた顔で俯いており、司令官側には無表情の時雨が静かに藤田を睨み付けてるように見つめていた。

 

「……確かにここに『霞』はいます、ですが貴方の艦娘ではありませんよ。彼女はこの黒羽鎮守府の艦娘です」

 

「しらばっくれるな!!ならその霞に会わせろ!さあ早く!!」

 

藤田は深創との間に置かれたテーブルをバンッと叩いて威圧するが深創はそんな陳腐な物には一切動じない。

 

「藤田さん、貴方は先の大規模作戦で多くの艦娘を失い、資材を枯渇させた」

 

「それがなんだってんだよ!?」

 

「艦娘をまともに建造出来る余裕が無いのは分かりますが、ですがそれで無理やりこじつけてここの霞を寄越せと言われても困ります」

 

「黙れぇ!!ならお前はどうなんだ!?ここにいる霞がホントにお前の艦娘だと証明出来るのか?あぁ!?」

 

「…………出来ますよ、霞。入れ」

 

「なんだと?」

 

「っ!!!!!!」

 

深創は予想外だったが霞が来ていたことなど既に知っており、ドアの隙間から顔を出す霞と目を合わせて手招きする。

 

「霞っ!?」

 

「………………」

 

「霞、俺の隣に座れ」

 

霞はあえて藤田と目を合わせず静かに深創の隣に座る。

いきなりバレてしまった事のショックとこの男に対する憎しみでぐちゃぐちゃになってヤケクソになってきていた。

 

「一つ聞きたい、霞?お前はー」

 

「悪いけど、私はここにいるクズ司令官の艦娘よ。あんた誰?」

 

そう、これでいい、言ってやれ。

藤田は顔を真っ赤にしてソファから立ち上がる。

だが深創も霞も不自然なほどに落ち着いており、深創に関しては伸びを始める。

 

「んな…貴様誰に向かって!」

 

「アンタよアンタ、人の鎮守府に来て何の用?さっさと出ていきなさいよ」

 

「この……!おい貴様!この艦娘は今、貴様の事をクズと言ったぞ!?いいのか!?」

 

「ふむ……何か問題でも?確かに口は悪い、でも自分に対してならば気にしないです」

 

「フン!」

 

「ッ……あまり調子に乗るなよ!!」

 

藤田は我慢の限界が来たのか懐から銃を取り出してこちらに向けようとした瞬間、藤田が気付いたときには既に彼は壁に背を付けて無様に崩れ落ちていた。

背中の激痛に唸りながら視点を前に向けると、自分がソファを乗り越えた向かいの壁に激突していたことに気付く。

 

「ッ……ァ…!」

 

藤田を投げ飛ばしたのは深創の左隣で立っていた時雨だった、奴が持っていた銃を奪い取ると同時に豪快に投げ飛ばしたというわけだ。

 

「時雨、それを見せてくれ」

 

「……これ?」

 

時雨は藤田から奪い取った小さくコンパクトな銃を深創に受け渡す。

 

「ふむ……MP『マカロフ』か。なかなか良い銃を持ってるじゃないか」

 

マカロフの弾倉を抜き取り、じっくりと調べる。

 

「弾丸重量は95gr、6gか…種類は基本的なFMJではなく改良型のAPか………」

 

「…………何言ってるのか僕は理解しなくて良いのかな?」

 

「ああ、そうだな。暇な時に教えてやるさ、それよりも………」

 

深創の視線はマカロフから藤田に切り替わる。

弾倉を入れてスライドを引き、銃口を藤田へと向けて引き金に指を掛けた。

 

「…………こ、殺すのか?」

 

「………………はぁ、やめだ」

 

……………………は?

俺は呆れ果てたように深いため息をついた深創の顔をまじまじと見ていると、深創の手の中で踊り始めるマカロフが手から離れて俺の手元に帰って来た。

 

「それはお前に返そう、ところで。電と言ったかな?」

 

「は…はい?」

 

先ほどからずっとビクついていた電に向き直り、悠々と歩みよる。

そして彼女の目の前に立って一言。

 

「お前もか」

 

「…えっー」

 

その瞬間、深創は電の制服を胸元までたくしあげた。

 

「ッッッ!!!!」

 

「んにゃっ!!!!!!!!???」

 

「ちょっ!!!」

 

そして数秒で制服を下ろしてはたき、右手に回収した一丁の銃をテーブルに投げ捨てた。

 

「……さて、『俺の』本題に戻ろうか」

 

騒然とする三人を完全に無視して壁にもたれ掛かる藤田を睨み付けて口を開く。

 

「今回なぜお前がここに来るのを許したと思う?」

 

「っ…………?」

 

「一つ、断ると面倒になる可能性があると言うこと。二つ、お前……『反軍権派』の奴らと取引をしてるな?」

 

よし、流れは俺に切り替わってきた。

このまま行こう、最短で終わらせる。

 

「な……なにを言っている!そんな訳がー」

 

「証拠はある。お前が行ったあの大規模作戦の直後、かなりの大金が所属不明の団体から入金されてる。これについて説明出来るのか?」

 

深創は隙を与えず畳み掛ける。

 

「反軍権派の連中は海軍、特に艦娘に対しての反発が強い、これは俺の予想だが……概ね『自分の艦娘を壊滅させて海軍にダメージを与えれば金をやる』……といったところか?」

 

「ッッ……!」

 

「だが俺の友人(イェソド)の情報によれば反軍権派は艦娘を洗脳して暗殺やスパイとして使っている事例もあるらしいな」

 

俺は電に目をやり、図星の如く分かりやすい同様を見せる彼女に優しく微笑む。

 

「彼女も反軍権派に引き込もうとしたな?」

 

「う……ぐっ……」

 

「如何なる理由があろうと反軍権派に助力したものは発覚した時点で厳罰を受ける……知らないわけではなかろう?」

 

腰に掛けた無線機に手を掛け、憲兵隊本部に連絡を入れる。

 

「こちら黒羽鎮守府の提督だ、反軍権派の海軍司令官を摘発、回収を頼む」

 

「ま、待て!俺はー」

 

「なんだ?言い分があるなら憲兵に言ってくれ。時雨、こいつを拘束しろ」

 

「分かった……」

 

時雨は深創から手渡されたグリップロープで藤田の両手を後ろで縛るが、その行程で時雨は一瞬だけ動きを止めて縛り途中の小指を握りしめる。

 

…………バキッ

 

「ッッアガァァァァァア!!」

 

「…………時雨?」

 

「びっくりしたなぁ……五月蝿いからじっとしててよ」

 

「このクソアマがぁ……俺の……俺の指をッッ……!」

 

「…………黙ってくれないかな?」

 

「ひ……」

 

時雨は藤田の耳元に口を寄せ、そっと囁く。

 

「本当はね?僕は今すぐにでも君を殺してやりたいんだよ、でも……我慢してるのさ。これくらい許してよ」

 

「ッッ………………!!」

 

「時雨、早くしろ。なにをもたついてる」

 

「うん、ごめんね。もう終わったよ」

 

ふむ……。

俺は電に視線を向けてゆっくりと近付く。

それに合わせて電も怯えながら後ずさるが、すぐに壁に背中を取られてしまった。

 

「さて、電?お前はどうなる?」

 

「……え?」

 

「お前は……どうなるんだ?」

 

電は動揺し、怯え、恐怖しながらも正直に答える。

 

「た、たとえ『如何なる理由があろうと反軍権派に助力したものは発覚した時点で厳罰を受ける』……これは艦娘にも適用…………されます」

 

「そうだ、ましてやお前は駆逐艦、処罰を通り越して解体だろうな」

 

「………………」

 

「……………………反軍権派に引き込まれたのはお前だけなのか?」

 

「っ……!」

 

「姉妹艦はいるのか?他に仲間は?」

 

「………………」

 

「あの戦いで沈んだのか?」

 

「……連れて行かれました」

 

「連れて行かれた…………反軍権派の奴らか」

 

静かに頷く電を見ながら深創はテーブルに投げ捨てた銃を手に取り、電に見せるが彼女はすぐにそれから目を逸らす。

 

(これは……まだ生きてるな)

「電、彼女達を助けたいか?」

 

「っ!出来るんですか!?」

 

「……必ず約束は出来ない」

 

「え…………」

 

その時、仕事の早い憲兵隊が到着し、摘発された藤田を連れていく。

話の続きをと俺は電をソファに座らせ、同じ鎮守府だからと電の隣に霞を座らせる。

時雨は俺が言う前に俺の隣に座っていつも通りに微笑む。

 

「あの……その、お姉ちゃん達を……」

 

「まてまて落ち着け、霞。悪いがお茶でも出してやってくれないか?」

 

「ん……」

 

「…………」

(あれ…………?)

 

電はあの頃と様子の違う霞の後ろ姿に違和感を感じながら目の前の司令官に意識を集中させる。

彼女にはそれだけの重要性をもった話なのだ。

 

「それで……お前の姉妹艦だが…『雷』『響』『暁』……で合ってるか?」

 

「はい、そうなのです……」

 

「俺も情報が少なくてな、反軍権派のアジトはもちろん、一体どれ程の力を持ってるのかも不明なんだ」

 

「でも……それでも……」

 

「分かってる。もちろん必ず見つけよう、だがそれには条件がある」

 

「っ…………そう、ですよね」

 

「ああ、ここの艦娘になってくれないか?」

 

当然、そうなるだろう。

これは電も想定していた事だ、きっとここでも酷使されて使い捨てられるに決まっている。

そんな暗く深い感情を浮かべていた時、背後から肩を叩かれると共にお茶を手渡される。

 

「……あの司令官なら…………大丈夫よ」

 

「…………霞ちゃん?」

 

やはり霞ちゃんの様子がおかしい。

あの頃の霞ちゃんは生気を失って死体同然に、機械的に戦っていた。

でも違う、こんなにも暖かく生気の籠った生き生きとしている彼女は見たことがない。

 

「信じても……いいのですか?」

 

「ええ、もしもの事があったら殺していいんじゃない?」

 

「おい霞っ」

 

「冗談よ、それで?電はどうするのよ」

 

「ええっと……お、お願いします」

 

「そうか、ありがとう電……」

 

「…………?」

(いま…………ありがとうって)

 

深創は電の手をとって深く礼をして感謝の意と言葉を表す。

もちろんこの行動に動揺してあわてふためく電がいたことは容易に想像出来るだろう。

その後、秘書艦を時雨から電に交代してもらっている頃には夕時だった。

 

「さて、そろそろ昼飯にするか」

 

「え?出撃してないので補給はー」

 

「そうだね、今日は僕が作ろうか」

 

「四人分だし、私も手伝うわ」

 

「え、え?」

 

困惑する電に気付いた深創は優しく微笑んで電の小さな頭に右手を乗せる。

 

「っ……!」

 

「電っ。ここではそれが普通だ、補給だけじゃない。ここの鎮守府では人間としての生活をしてもらう」

 

「人間……としての…?」

 

「そうだ、食事をとり、寝て、朝はしっかりと起きる。これを徹底する。それが普通なんだ」

 

「普通…………」

 

「なに偉そうに語ってんのよ、そんなこと言ってアンタは寝てないじゃない」

 

「そうだよ、しっかり寝なきゃダメじゃないか」

(僕とは最近一緒に寝てくれないし…………)

 

「いや……それは……」

 

「ふふふ……クスクス」

 

クスリと笑う電の笑みをオチに時雨と霞は食堂の奥に入っていく。

 

「俺も手伝いー」

 

「ダメよ!」

 

「ここは譲れない……!」

 

「え、そ……そうか」

 

他はともかく女子力でも深創に圧倒的差をつけられている彼女達は女としてのプライドを守るために最近は朝食しか深創に食事を作らせないようにしている。

俺は首を傾げながら電と適当な席に隣り合わせで座る。

 

「電、お前の姉妹達の事だが。必ずしも助けられるとは限らない」

 

「………………」

 

この話は早めに決着をつけなくては、彼女に受け入れてもらわないといけない。

 

「これは政治や立場的な話ではない。彼女達自身の話だ」

 

「……?」

 

「さっき、艦娘を洗脳と行ったがあれには語弊がある」

 

「語弊ですか?」

 

「そうだ、もちろん。お前の姉妹達を見つけたら説得してみよう、だが反軍権派に居ることが彼女達の『意志』に寄るものだったならば、反軍権派が彼女達の『家』だったならば……保証は出来ない」

 

「も、もし……そうなっていたら?」

 

「最悪の場合は……悪いが始末させてもらう」

 

「………………」

 

「すまないな電、俺は楽観的にお前を励ましてやることは出来ない」

 

「いいのです……司令官さんは電に正直に言ってくれたのです。でも……可能性はあるのですよね?」

 

「ああ、彼女達を説得できる可能性はゼロじゃない、もちろん説得出来ない可能性の方が圧倒的に高いがな」

 

「なら……電は大丈夫なのです」

 

「そうか、お前は強いな。偉いぞ電」

 

「ひゃう……!」

 

再び触り心地のよいその髪を撫で下ろす。

その光景を食堂のキッチンから見ていた時雨は羨ましそうに電を見つめ、霞に関しては新参者のくせにっと何かがキレる。

食事を済ませ、深創は電と一緒に執務室に戻ってまだ途中だった書類作業を片付け始める。

 

「えっと……司令官さん、これは……?」

 

「ああ、それか。それはな……」

 

馴染みの早かった電は物分かりも良く、潤沢に書類作業をこなして行く。

あらかた片付いた所でコーヒーを出してくれた電に礼を言うと、電は照れくさそうに顔を俯けてソファに腰掛けた。

 

「あの、司令官さん。一つ……聞いてもいいですか?」

 

「なんだ?」

 

「反軍権派の人たちや……あの司令官さん達は……正しい事をしているのでしょうか?」

 

「…………当然だ、あいつらは正しい」

 

「…………え?」

 

深創の口から出てきた答えは電が予想していたものとはかけ離れていた。

 

「そもそもこの世に間違っていることなどない。この世に起こりうるあらゆる出来事は全て正しいんだ」

 

「………………」

 

「例えば、一人の大人が何も罪のない純粋な子供を惨殺したとする。これはその大人にとっては正しい事なんだ」

 

「っ……?」

 

「そしてそれを捕らえようとする『正しさ』が『結果』を生み出す。いいか?この世の全ては正しい、だがその正しさには必ず『結果』が伴うという事を忘れるな」

 

「じゃあ……お姉ちゃん達が反軍権派に入ったとしてもそれは正しい……そういう事です?」

 

「ああ、だからその正しさにも結果が伴う」

 

この世は正しさしかない。

深創は……いや、グレイブスはそれを何度も実感してきた、殺すという『正しさ』には殺したという『結果』が生まれる。

全ては正しい、全ては間違っていない、全てに結果は憑き物だ。

 

「お前も、彼女達も、誰一人間違ってはいない」

 

「それじゃあ……司令官さんも正しいことをしてるんですね」

 

「………………」

 

天真爛漫な笑顔を咲かせる電の言葉に俺は答えてあげられなかった。

答える訳にはいかない、俺はあまりにも汚れすぎてしまった、堕ちすぎてしまった……殺しすぎてしまった。

 

「司令官さん……?」

 

「ん、いや。何でもない、それよりも執務はもう終わったぞ……下がって大丈夫だ。今日はゆっくり休め、部屋は自由に使ってくれ」

 

「はい、ありがとうなのです司令官さん!失礼しますなのです!」

 

「ああ……」

 

電を見送り、次の事を考えながら書類を整理しているとイェソドからの無線が入る。

俺は思考・プロセッサーの思考通信をオンにさせてファイリングした書類を引き出しにしまう。

 

「……俺だ、イェソドか?」

 

《ッッ……ああ、ゴーストの仕事だ。悪いが今から本部まで来れるか?今回は重要性と機密性の高い内容だからな。直接話したい》

 

「了解だ、今すぐ向かう」

 

通信を切り、黒のコートを羽織って寒々しい外気に触れて鎮守府の外に出る。

そしてそれを何処からか監視していた者は深創の姿を双眼鏡越しに追っていく。

 

《…………ターゲットが鎮守府から出てきたぞ、分かってるな?》

 

『……分かってる。すぐに終わらせる』

 

「………………」

(ふむ。3000メートルくらいか、俺を監視してる奴がいるようだ、少し泳がせておくか)

 

深創はその存在に気付きながらも振り返らず、わざと背中を見せて本部まで歩いていく。

 

『………………』

(……気付かれてる、泳がせるつもりか)

 

そしてその存在も自分が深創に気づかれていると確信しながらも一定の距離を保って尾行を開始する。

 

 

~pm21:00~

大本営:情報統計支部

ー『情報統計支部・外』ー

 

 

「雨か……かなり強いな」

 

イェソドから仕事を受けた深創は大本営の外に出てどしゃ降りの雷雨の中を歩いていく。

だが深創の濡れた足先が向かう先は黒羽鎮守府への街道ではなく、その途中に逸れて人気が無く薄暗い工場地帯、しかも更に暗く気配を感じない裏路地に入る。

そして裏路地の真ん中で深創は激しい雨音と雷鳴が鳴り響く空間に声を通す。

 

「お前も気付いているだろ?ここなら誰かに邪魔される心配はないぞ?」

 

…………………………。

 

刹那、深創は本能的に後方に転がってその場から距離をとると、もといた足場が意味不明な爆発で吹き飛んだ。

破片を避けて噴煙の先を見つめていると、不意に感じた背後の殺気に振り返る。

するとそこにはカッパにフードを被った小柄の何かが背中に立ってデリンジャーを構えていた。

 

「っ…………」

 

「ッ!!」

 

俺はそいつからデリンジャーを奪い捨て、左足の膝裏を蹴り落として肩と腕を掴み、爆発が起きて崩れた地面に叩き付ける。

 

「アッ……が…!」

 

「…………女?」

 

「ッ……!」

 

凹凸のある地面に叩き付けたのにも関わらず小柄の少女は素早い足払いで起き上がり、右足に差したサバイバルナイフを取り出す。

 

「……………」

(タフだな…身長は150㎝と言ったところか?声質からして子供のようだが………フードを取って顔を視認しなければプロセッサでスキャン出来ない)

 

「クッ……」

 

「どうした?こい」

 

「…………ッ!!」

 

速いっ!、少女は素早い踏み込みから瞬時に深創との距離を詰めてナイフを思い切り急所目掛けて突き出してきた。

俺は少女の腕を受け流して更に踏み込み、渾身の力で腹部を膝で蹴りあげる。

 

「ごふっ……!?」

 

「さあ……顔を見せろ……!」

 

前のめりに浮かび上がる頭に深々と被るフードを手の平で払いのけ、肘で顔面と思われる部分を殴り付けて前方に仰け反らせた。

払われたフードから見えたのは電と良く似た狐色の濡れぼそった短髪と右前髪のピン。

そして鼻血を押さえる左手から見えるオレンジ色の眼差しを捉えた思考・プロセッサーが出した結果が視界の左上に表示される。

 

スキャン完了

暁型 3番艦 駆逐艦

ー『雷』ー

 

「…………そうか、そうなのか」

 

「ッッ……痛いじゃない……!」

 

俺は一切の動揺を見せず冷静に考えて目の前の雷を見定め、両手のアサシンブレードの動作を確認する。

 

 

黒羽鎮守府所属:最高指揮官

ー『深創』ー

 

 

「雷…まずはお前を取り戻す……」

 

 

元ラバウル泊地第四予備鎮守所属:艦娘

反軍権派同胞・暁型 3番艦 駆逐艦

ー『雷』ー

 

 

「許さないんだから……もう全部嫌い!!」

 

 

その頃、夜中に目が覚めてしまった電は夜灯しか付いていない廊下を進んで何処となく気付いたら執務室に来ていた。

そしてそれと同時に外が強い雷雨に覆われているのを確認して光が漏れる執務室の扉を開ける。

 

「司令官さ……いない?」

 

一体どこに…。

執務室の周りを見渡していると、机の上に置き手紙が置いてある。

内容はただ単純に『大本営まで外出する』とだけ、そして執務室の壁に立て掛けてある傘を見て電は慌てる。

 

「大変なのです!こんなどしゃ降りで傘無しは風邪引いちゃうのです!」

 

傘を手に取って電は備え付けのカッパに気付かず鎮守府の外に飛び出した。

 




いやー楽しい(直球)うん本当にね、この調子で行きたいですね!
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