この鎮守府の提督はいろいろ規格外でした。   作:ペペロンチーノ伯爵

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く、こんなことしたくなかった!だが致し方のない犠牲さ。切り捨てるのみよ!!ではお楽しみ下さい。


第十四話『暗黒を喰らう者』

深創には選択肢が二つある。

一つ、雷をなんとかその場で説得して攻撃を止めさせる。

二つ、シンプルに雷を殺してやる。

今の状況で深創の頭にあるのは一つ目の選択肢、今にも飛び掛かって来そうな雷を前に集中して言葉を選ぶ。

 

「雷……覚えていることは?」

 

「うるさい!うるさい!アンタ達なんか嫌いよ!!」

 

「俺の……俺たち(司令官)何がそんなに憎いんだ?」

(あの目……尋常じゃない憎しみがこもってるな)

 

「お前は私達を!電達を!!」

 

なるほど、分かってきたぞ、反軍権派の奴らは艦娘の救世主のような振る舞いをして彼女達を引き込んでいるのだな。

酷く差別的な扱いを受けている艦娘を引き取って海軍に対する憎しみを解放させて利用する一種の救済。

 

(最悪だな、憎悪の思想に染まった者ほど死を恐れない……これは最悪の事態だ)

「そうか…そうだな。俺が憎いか?」

 

「憎いわよ!電を返して!!」

 

そう言って第二の追撃に迫って来る雷の攻撃を躱しながら深創はゆっくりと、冷酷に話し始める

 

「ふむ……電か、彼女なら俺が預かってる」

 

「なんッッ!!」

 

「会いたいか?」

 

「この……!!!」

 

憤怒に任せて振りかざすナイフを叩き落とし、肩を押し出して距離を取る。

深創の狙いは戦いを終わらせる事、そのためには雷の憎しみを嘘でもいいから深創『一人』に向けさせる必要があった。

 

「全ては俺の仕組んだことだ。お前の……お前達の敵は俺だ」

 

「全部……全部…オマエガァ!!!」

 

二本目のナイフを抜き、素早く切り込んでくる、だがそれらは深創によって軽々と受け流されて制された。

 

「そうだ、悔しいか?憎いか?なら俺を殺してみろ、やってみろ」

 

「クッ……!!」

 

これでいい、今のところは上手くいってる。

雷の攻撃は洗練されており、小綺麗な暗殺術を完璧に身につけていた。

 

(人を殺すための技術だ……だが雷。お前のは……不意討ちでしか効果を発揮しない物ばかりだな)

「………………」

 

「ッッ……!!」

(当たらない…………どうして!?)

 

雷が繰り出す攻撃は確かに人を殺すためだけの技だ、だが偏りが激しい。

同じトリックで雷を後方に投げ飛ばしながら深創はゆっくりと解説する。

 

「お前の攻撃はどれもこれも一撃必殺に頼りすぎてる」

 

「っ…………!?」

 

「踏み込みは完璧だ、フットワークも熟練、だがメインの攻撃がワンパターンでは当たるものも当たらないぞ」

 

「黙れ!!」

 

「こうするんだ雷」

 

雷に有無を言わせず背後に回って四肢を落として操り、操り人形のようにレクチャーする。

無論、雷には逆効果でより逆上させるだけだ。

 

「はなッッせ!!」

 

「………………雷に会いたいか?」

 

「っ…………!!!」

 

「会わせてやる、だから……もう止めるんだ。戻ってこい」

 

「戻る…?またあそこに!?嫌!!いや!イヤァ!」

 

「…………ん?」

(なにかおかしい…どうしてあそこまで過剰に…………?)

 

ここで深創は雷の異変に気付く。

だがそれを確認する暇もなく雷は足踏みをして迫ってくる。

よく分からないが何かある、だがそれが分かっても今の雷を引き戻すのは無理だ……クソ、仕方ないな。

 

(やるか……)

 

ついに手首のアサシンブレードを作動させ、雷の喉仏、頸動脈を集中して狙う。

タイミングは雷が攻撃を繰り出してきたその一瞬、カウンターを入れて最速で仕留める。

深創は雷の右手に収まったナイフが己の眉間に差し迫った瞬間、スウェイ・フットワークを使って刃身を躱し、大きな踏み込みで雷の懐に入り込む。

 

(すまない雷、電……許せ………っ!?)

 

左手を雷の首筋に殴り込もうとしたその時、深創の耳が『ある音』を感知した。

そしてその音に驚いた深創は思わず動作を止めてしまった。

それが隙になると分かっていながらも。

刹那、雷は絶叫しながら深創に飛び掛かり、馬乗りになってコンバットナイフを両手で振りかざし渾身の力で落とす。

 

(しくじったッ……!)

 

雷の両手を掴んで押さえようとしたが、艦娘の力に深創の力が勝てるわけもなくスムーズに深創の胸元に振り落とされて行く。

ほんの一瞬の出来事で終わるはずのそれは実にスローだった。

死に際に起きると言われるアドレナリン現象(デッドオアスロータイム)とは違う、だが似ている。

 

(……なんだ?何が起きてる?)

 

スローモーションに流れる時間の中で深創に聴こえていたのはけたたましい憎悪の絶叫と悲願の声、そして目前でナイフを押し込む雷から沸き立つ黒い煙のようなものが見える。

余りにも激しく、狂わしく叫び散らすそれらの声は全て雷のものであり、全世界を否定し、俺たちのような司令官に対する圧倒的な憎悪を訴えていた。

 

『許さない許さない許さない許さない!!!』

 

(……………………)

 

『使うだけ使って用なしになれば棄てる!それだけじゃない!!』

 

(……………………)

 

『あの時もそうだ!!夜中に執務室に呼び出してボロボロの暁を……お姉ちゃんを!!!』

 

(……………………)

 

ああ……そうか、そうだったのか。

ならば……それを受け入れよう。

完全に無意識だった、意識したわけでもないのに深創の身体は勝手に深海、深淵の力を解放して掴んだ雷の両腕から黒い煙を全て吸収したのだ。

雷の黒く深い感情は全て深創の思考に入り込み、受け入れる。

その憎しみを、悲しみを、後悔を、怒りを、そして……殺意を。

 

(ッ……戻ってこい……)

 

「ッ!!うああァァァァァァァ!!!」

 

雷は絶叫しながらコンバットナイフを深創の心臓部に根元まで深く突き立て、血飛沫を浴びる。

そしてー…………。

 

「……雷…ちゃん?」

 

「…………………………はえ?」

 

「ごふ……っっ」

(…………………クソ)

 

深創が感知した『ある音』とは『電の足音』である。

普通に考えてこんな夜更けに来る筈がないと踏んでいた深創はその音に驚き、一瞬の硬直を見せてしまったのだ。

それだけならまだいい、問題はこのタイミングで電がこの場所に来てしまった事が大問題。

 

「…………いな……ずま?」

 

「電ちゃん…何して……司令官さんに何してるのです!?」

 

「え……あ…これ……」

 

負の感情を吸収された雷は瞬間的に自分がやっていることに気付けず、傘を落として走り寄って来た電に突き飛ばされた。

 

「血……血が…司令官さん!司令官さん!!」

(ど、どうすれば!?まずは血を!血を止めないと……!!ああ…………)

 

「………………」

 

出血が止まらない深創の身体を揺さぶりながら泣き付き、必死に最善の策を捻りだそうとするが、血を吐いて全身の体温が失われていく彼を見ていると思考が白紙に変わる。

 

「あ……あああ…………」

 

「ッ……!!」

 

すぐ横で崩れ落ちる雷を睨み付け、両肩を鷲掴みにして勢いよく揺さぶる。

 

「どうしてこんなこと!!司令官さんは電を助けてくれたのです!」

 

「助けて……?」

 

「あの司令官さんから……電を……引き取ってくれたのです………連れてかれた雷ちゃん達を助けてくれるって…やってみるって…それなのに……!!」

 

知らない……そんなの知らない!!

訳が分からない……憎かったはずなのに……殺してやりたいって思っていたのに……なんで急に心が苦しくなるの?何が起きてるの?

 

「………………………………電」

 

「ッッ!!!」

 

「あ…………」

 

その声は小さく、このどしゃ降りの雨と雷に掻き消されたはずの声はしっかりと電と雷の耳に届いた。

電は飛び込むように深創に這いより、その顔を覗き込む。

 

「司令官さん!?」

 

「ッ…………離れてろ」

 

「ああ!無理に抜いちゃ駄目なのです!!」

 

うっすらと目を開けた深創は左胸に突き刺さったナイフを右手で握り締め、強引に引き抜く。

出血と吐血は更に激しくなったが、それと同時に深創の身体から黒い霧と炎が発生し、胸の傷は瞬く間に修復された。

 

「ふむ……もう慣れた」

 

「……だ、大丈夫なのですか?」

 

「ああ、傷はもう大丈夫だ」

 

「っ………………」

 

「…………さて」

 

俺は左手に付いた血痕を雨の水で拭い、綺麗にはならなくとも何とか拭いてから完全に殺気が抜けた雷の頬に付いた自分の血を親指で払い、肩に右手を乗せて優しく口を開く。

 

「…………?」

 

「いいか雷。俺の事は憎くていい、嫌いでいい、殺したくても構わん、それでもいいから……頼む、電の隣に居てやってくれないか?」

 

「え……?」

 

「司令官さん………」

 

「これは命令じゃない。俺からの個人的なお願いだ」

 

「お願い………」

 

「そうだ、お願いだ」

 

「雷ちゃん。電からもお願いなのです、司令官さんを信じてあげてほしいのです……!」

 

「………………」

 

雷は電と深創を交互に見つめしばらく沈黙してからぼそりと呟いた。

 

「信じても……いいの?」

 

「…………ああ」

 

「私達を捨てたりしない?」

 

「もちろんだ」

 

「電や皆に酷いことしない?」

 

「しないさ」

 

「私達を……守ってくれる?」

 

「当然だ、お前達は俺が守る」

 

その瞬間、雷は何かから解放されたように涙を溢れさせ、俺にのし掛かるように泣き付いた。

そこに電も加わって三人はその場で激しい雷雨に晒され続けた。

俺は二人を優しく抱き締めながら雷の右耳に着いていた無線機を外して自分の左耳に装着する。

 

「……………………」

 

《……………………お前は……》

 

「お前達は何者だ?反軍権派にしては組織が大きすぎる、バックに何がいる?」

 

《……深創…………お前を必ず殺してやる》

 

「…………そうか」

 

無線機を地面に叩き付けて踏みにじる。

そして起動中の思考プロセッサーの思考通信を開く。

 

「イェソド、どうだ?」

 

《逆探知は十分、これで任務の10%は成功したな。次の報告を待て、またすぐに動いてもらうぞ》

 

「いつでも大丈夫だ。これより鎮守府に帰投する」

 

電の落とした傘を拾い上げ、今更意味などないが雨を遮ってすがり付いたままの二人を連れて鎮守府へと踵を返した。

 

(あれは一体なんだったんだ?俺は雷に何をしたんだ……?)

 

やけに身体が重い、それは二人のものではない別の重量感……まあいい、とにかく戻ろう。

 

 

~am03:20~

黒羽鎮守府・艦娘寮

ー『駆逐艦寮』ー

 

 

「着いたぞ、とりあえず雷は電の部屋を使ってくれ」

 

「…………うん」

 

「びしょびしょなのです……」

 

「そうだな……とりあえず風呂に入ってこい。着替えは妖精さん達に持ってくるようにお願いしておく」

 

「………司令官も……びしょびしょよ?」

 

「俺か?俺はこれから仕事だ」

(次に備えて装備を整備しなければ……いつ何が起きるかわからん)

 

「これからなのですか?もう真っ暗なのです!」

 

止めようとする電の頭に手を乗せて撫で上げ、大丈夫だと言い聞かせてやる。

遠慮しているが心配そうな雷も同様に撫でてやる、多分だがこれが最善策。

 

「折れてくれ、すまないな」

 

「…………なのです」

 

「…………」

 

「良い子だ、それじゃあ出来るだけすぐに寝るんだぞ?」

 

二人と別れ、艦娘寮を離れて執務室へと続く廊下を歩いている深創は徐々にその動きが鈍くなり、遂には廊下の壁にもたれ掛かってそのまま崩れ落ちる。

 

「ッ…………なんだ?」

(身体が……重い……異常なほどに……クソ、幻聴も酷いな)

 

これは雨の水滴じゃない、俺の汗だ。

顔中から溢れる水滴はどしゃ降りだった雨に晒され続けたことによる水滴ではなく深創自身の汗だった。

 

「汗か………何年振りだろうな」

 

聞こえる幻聴は雷の声と類似した憎悪の叫び、怒りの絶叫。

頭の中で怒鳴り散らしている憤怒の声は深創の視界を歪ませ、狂ったような金切り声は激しい頭痛を引き起こした。

それでも深創はなんとか身体を起こして執務室の扉を開ける。

 

「……………………よし」

 

その症状を受け入れた深創は落ち着きを取り戻し、水分を吸って重くなったコートを脱いでハンガーに掛ける。

執務机にいた数体の妖精さん達に雷と電の服を持っていかせるように頼み、腰のP226を抜いて机に遅く。

引き出しからストップウォッチを取り出してこれはP226とは少し離れた場所に置いてからスタートさせる。

 

「……………………ふむ」

 

ストップウォッチを止める、その時間は7秒。

深創は右手に持ったP226を再び置いて背もたれに深く身を預ける。

ストップウォッチが計測していたのはシンプルな構造で出来ているハンドガン『P226』を『精密分解してから再び組み立てて目標に構えて撃つまで』の時間。

つまり深創は分解からの組み立て発射、そのリサイクルを7秒で完了させた事になる。

 

「さて……部品を確認するか」

 

いつも通りに睡眠を忘れて翌朝を迎え、その日の執務を終わらせてファイリングしていたその時、霞が血相を掻いて執務室に飛び込んで来た。

 

「ち、ちょっとクズ司令官!!」

 

「……なんだ?」

 

「なんか一人増えてるんだけど!?」

 

「ああ……雷の事か。なにか不満が?」

 

「そうじゃなくて!一体なにがどうなって雷を連れてきたのかー」

 

「分かった分かった……簡単に説明する」

 

「詳しく!!」

 

…………………。

一から全て霞に説明し、なんとか納得してもらう。

 

「ふーん、ま、やるじゃない?」

 

「それで?今日は雷と電の二人を秘書艦に来るように伝えたはずだが?」

 

「そろそろ来るんじゃない?さっきすれ違ったからここに来たわけだし」

 

「………確かに、そのようだ」

 

「司令官さん!失礼します!」

 

「しれーかん!失礼するわね!」

 

さて、どうするか。

二人を秘書艦にしたはいいが与える仕事がもうない、こっちの仕事ももうすぐ終わってしまうからな……。

 

「司令官さん?私達は何をすれば良いのでしょうか?」

 

「何でも言って!頼ってくれていいのよ!」

 

「いや……実は今日は何もないんだ。俺の仕事もそろそろ片が着く」

 

「相変わらず早いわね……」

(こんな朝早くに終わらせられるってことはやっぱりろくに寝てないってことじゃない……クズ)

 

霞は黙ったまま執務室を出ると、静かに壁を殴って部屋に戻っていく。

 

(なにも出来ない自分が悔しい……情けないったら!)

 

「…………?」

(いまの音は……霞か?)

 

「お仕事がもうないって……電達はどうしたらいいのですか?」

 

「そうだな……ちょっと待っててくれ」

 

「じゃあお茶を淹れてくるわね司令官!」

 

雷に何かあったのだろうか、昨日の今日であそこまで元気になるとは……電が色々話してくれたのか?

そんなことを考えながら深創はタブレットとPCを開いて唸る。

 

「ん……?」

(そういえば……もうウチには四隻の艦娘がいる。練度もある程度確保できてる…試してみるか)

 

「どうしたのですか?」

 

「ああ……電、皆を執務室に集めてくれ」

 

「??。分かりました」

 

俺は雷からお茶を受け取って待機するように伝え、電は指令室の館内放送で召集をかけてくれた。

全員が集まる頃には作成しておいた書類を人数分用意し、綺麗な横一列で並ぶ彼女達を見渡していると霞が口を開く。

 

「いきなり呼び出して何の用?」

 

「……出撃だ」

 

「ッ………!?」

(出撃……!?)

 

「………………」

(時雨……?)

 

出撃、その言葉に反応した時雨は過剰な怯みを一瞬だけ見せる。

深創は作戦概要をまとめた書類を配りながら細かく説明した。

 

「出撃といっても内容は遠征だ」

 

「鎮守府正面海域の偵察……及び近海離島からの資材回収遠征任務…ですか?」

 

「そうだ、簡単な航海遠征だが低確率で深海悽艦も出現する」

 

「ふーん、まぁいいわ。要するに偵察と資材の回収ね……」

 

「分かったわ!雷に任せてちょうだい!」

 

「ああ。期待してるぞ」

 

最低艦数が足りなくて遠征をしていなかったが四隻も揃えば戦場に駆り出しても問題ないだろう。

何よりもこのまま彼女達の価値を殺す訳にはいくまいて。

 

「作戦開始は明日の早朝だ、この後pm14:00まで雷と電は霞の指導下で訓練するように。それでは解sー」

 

「ね、ねぇ提督……?」

 

さっきから窮屈そうに苦しい顔をしていた時雨が重々しくその口を開いた。

 

「ぼ……僕が旗艦って?」

 

「ん?それが適任だと思うからな、任せたぞ」

 

「…………分かった」

 

「………よし、なら話は終わりだ。解散しろ」

 

四人を見送った後に深創はしばらく沈黙して虚無を見つめる。

そして思い立ったように席を立ってコートを羽織り執務室の扉を開けて外に出る。

 

 

????

ー『??????』ー

 

 

「ふーん、結構出来上がってきたんじゃない?」

 

「ソウダナ……王姫様ノイッテイタトウリダ……」

 

「一度味見してみたいなぁ……深創ねぇ、食べたいなぁ」

 

「オチツケ、レ級ヨオマエニモシゴトハアル」

 

「そうだね、今は深創くんにもっと世界中の絶頂を喰らってもらわないとねー」

(にしても……大丈夫なのかな?あれはそう簡単に堕ちる相手には見えないけど……)

 

まぁ……その時は食べちゃえばいっか。

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