この鎮守府の提督はいろいろ規格外でした。   作:ペペロンチーノ伯爵

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遅れて申し訳ありませんでした!orz書き貯めしていたのを放置してました、これから上げていきますので、どうぞお楽しみ下さいな!


第十五話『内なる苦しみと亡霊狩り』

~pm12:30~

黒羽鎮守府

ー『波止場近辺』ー

 

 

「…僕は………」

 

港の手すりに手を付いて光輝く自由な海原を眺めながら呟く。

今更になって相沢……前の提督の言葉がフラッシュバックする。

 

『お前だけ帰って来やがって!お前だけが!!』

 

「…………そうだ」

(いつだってそう、僕は死神……疫病神なんだ。必ず僕が生き残って…………みんな沈むんだ)

 

扶桑も……山城も……みんな、みんな僕がいるから…………夕立…………ごめんね。

きっと今回も僕がみんなを殺す、僕がみんなの運を奪って沈めるんだ。

 

「ッ……なにが幸運の……僕のなにが幸運なんだ……僕はただ皆の死骸を踏みつけて生き長らえてるだけじゃないか……」

 

こんな想いは二度とごめんだ……二度と味わいたくない……その為にはー。

 

「時雨、隣いいか?」

 

「…………提督……」

 

きっと提督に僕の声は聞こえていたのだろう。

提督は僕の了承をもらってから手すりに寄りかかり、僕と同じように海原を眺める。

 

「提督……僕は、どうしたらいいのかな?」

 

「……………………」

 

「きっと皆と一緒に出撃すれば……僕はみんなを殺しちゃうよ……」

 

「……………………」

 

「もうあんな想いはしたくない……!絶対に……嫌だ」

 

「……………………」

 

「でも僕は艦娘だ、戦うために生まれた存在…でも戦うために海へ出れば……いっそのこと死んだほうがいいのかもしれないね」

 

「……………………」

 

ずっと黙ったまま僕の話を聞いていた提督はしばらく二人で沈黙しているとやっと口を開いた。

 

「……それで?」

 

「……え?」

 

「話はそれだけか?もう満足か?」

 

「え……え…………?」

 

「お前はそれでいいのか?それがお前の正しさなのか?」

 

「……………………」

 

提督は淡麗に、冷酷に、平然と無表情を僕に見せる。

 

「お前の気持ちが理解できるなんて言わない。『そんなことを言うな』とも言わない」

 

提督は手すりに背中を預けて空を見上げ、ため息を着いた。

 

「お前が死にたいというならば死ねばいい。それがお前の正しさならそうしろ、俺にお前を止める権利はない」

 

「………………!」

 

「その選択はお前が自分の意思で決めたことなんだろう?なら俺は止めない。いまお前がここから海に飛び降りたとしても俺はお前を助けないさ……」

 

「…………そう……ねえ提督?」

 

「なんだ?」

 

「提督は……仲間が死んでも……平気でいられるの?」

 

僕はダメだった、非情になりきれない、すぐに人を好きになってしまう僕は……悲しくておかしくなりそうなんだ。

提督はきっと……非情になれたんだ、僕とは違う、死を受けれる事が出来るんだよね?。

深創は時雨の問いに少し沈黙してから口を開く。

 

「……205人だ」

 

「え…………?」

 

「今までの人生で敵に攻撃されて失った仲間の数だ」

 

「……………………」

 

「903人……」

 

「…………それは?」

 

「俺が殺した仲間の数だ」

 

「っ!?」

 

視線を落として己の両手を見つめる提督の姿にはどこか暗い何かを感じた。

 

「助かる見込みの無い者……自白剤を最期まで耐え抜いて正気を失った者…………裏切った者…みんな俺が殺した」

 

「っ…………」

 

提督は海原に向き合って懐かしそうに海を眺める。

 

「あとの仲間も全員死んだ、あの沖縄の作戦で」

 

「…………」

 

「お前達艦娘が撤退してからの3日間俺達ゴーストの全勢力341名は必死に奴ら深海悽艦に抵抗した」

 

「そうなんだ……」

 

「大量出血で死ぬ者、四肢の破損によるショック死、他にもあるがキリがない。だが最後は俺が、俺だけが生き残った」

 

「…………」

 

「仲間が死んでも平気かどうか……だったか」

 

「っ………」

 

「正直に言えば、おれは仲間が、お前達が死ぬなんて『考えた事がない』そのビジョンが見えないんだ」

 

「ビジョンが見えない?」

 

「ああ、その想定が俺には出来ない。お前が戦いで沈むビジョンなんて浮かばない、考えられない。だが……それでも」

 

提督は僕に向き直り、僕の手をとってじっと見つめる。

 

「人はいつか必ず死ぬ、だがそれを決めるのは俺達じゃない。その時に死んだそれこそが『死に場所』で、いまお前は生きてるだろう?」

 

「……生きてる」

 

「そうだ、お前は生きてる。ならお前の死に場所、死ぬ時はまだ分からない……」

 

「それじゃあ死んでいった僕の仲間達は……」

 

「彼女達の死に場所が、死ぬ時がそこだっただけの話だ。そこに不幸も何も無い、ただ『いつか死ぬその時』が来ただけだ、お前のせいじゃない」

 

「なら僕は……どうしたらいいの?教えてよ……提督」

 

深創は涙目に訴える必死な時雨から目を剃らし、確かな意思が籠った鋭い眼差しを浮かべて冷酷に言葉を紡ぐ。

 

「さあな、お前が決めるんだ。躓いたなら転べ、路頭に迷ったら頭を抱えろ、戻れないと感じたら戻るな。ここで終わりだと思ったら終わりなんだ………少なくても俺はそうやって生きてきた」

 

「…………そうか」

(そうだよね、これは僕の人生だ。僕だけが決定権をもってる人生なんだ……それなら、こんなところで終わりたくない!まだ……提督と一緒にいたい、不運だとか死神だとか……そんなのはもうどうでも良いんだ。僕が決める)

 

気持ちのよい潮風が頬を撫でて前髪を揺らす、深創の厳しい横顔を見ながら時雨は己を取り戻して自分の過去との決別を決意した。

 

「それと……」

 

「…………?」

 

「お前が失った仲間達は自分の想いどうりの死に方を出来た筈だ」

 

「どういうこと?」

 

「いや、これは俺の勝手な妄想だが。仲間の為に死にたいと考えていたならば……それは叶ってるじゃないか?」

 

「あ……」

 

「そうだ。お前の言う扶桑や山城……史実の西村艦隊は自分の死に方を出来たんだ、それを悲願していいのか?」

 

「……そうか、扶桑達や皆は…綺麗に眠れたの…か…………」

 

時雨は涙ながらに深創の胸にうずくまって静かに、そして短く涙腺を崩壊させる。

 

「ありがとう提督…………ありがとう」

 

「……………」

(すまない時雨……俺はきっとお前が目の前で沈んだとしても………悲しむ事はないだろうな。俺の経験が……本能がそれを許さないだろう)

 

俺は…………そうやって生きてもいるからだ。

だからこそ俺はこれをお前にくれてやる。

 

 

翌朝

~am07:30~

 

 

港で艤装を装備して集まった彼女達を見渡しながら深創は自作した作戦概要を手元に広げる。

 

「いま一度確認する。この初作戦は丸一日の遠征作戦だ、結果はどうだっていい。大事なのは余力を持って全員帰ってくること……沈むことは許されない、分かるな?」

 

「わかってるわよ、そんなに力まなくても軽く成功させて来るわ」

 

「頑張るのです!」

 

「まっかせて司令官!雷がいるんだから大丈夫よ!」

 

「……行けるな時雨?」

 

「うん、もちろんだよ」

 

作戦概要の書類を伏せ、深創は一人一人の決意の籠った凛々しい姿と目付きを確認し、一滴の恐れや動揺を感じない空気を感じ取る。

 

「もしも、万が一にも敵艦隊と出会った場合はどうするのよ?」

 

「任務の基本は遠征だからね、あまり戦い合っても赤字になるだけだから……」

 

「そうだな、なるべく無駄な戦闘は避けろ。だが霞の言う通り止む終えない場合は…………」

 

「場合は…?」

 

「どうするの司令官?」

 

「一匹残らず撃滅しろ。会敵した瞬間に最大戦力で潰せ」

 

一見無駄な戦闘継続指示に聞こえるが、その言葉は彼女達の士気を最大限に引き出していた。

艦娘とは戦いの本能を持って生まれた存在、その存在から戦いの高揚を奪うなど愚の骨頂、だからこと過剰なくらいの鼓舞が丁度良い。

 

「さあ行ってこい。お前達のやり方を見せてくれ。通信は常に開いておくから何かあったら……本作戦旗艦の時雨、お前が連絡しろ」

 

「うん、わかった、それじゃあ皆。行こうか」

 

「行ってくるのです!」

 

「待っててね司令官!すぐ帰ってくるから!」

 

「こんな楽勝な作戦でいくら時間使ってんのよクズ、行ってくるわ」

 

悠々と心地良さそうに海原を滑って行く彼女達が見えなくなるまで見届けると、俺は海原に背を向けて鎮守府の中にに戻る。

 

「さて………イェソド」

 

《ああ、悪いが逆探知の件はまだ終わってない。だが面白い情報を入手したんだ》

 

「それは?」

 

《どうやらお前の事を嗅ぎ回ってる奴がいるらしいぞ》

 

「俺の事をネットスランブで検索していた奴等と関係が?」

 

《いや、それとは別件だな。それとは接続回線が違う、それで……》

 

「それで?その俺を嗅ぎ回ってるって奴ってのは?」

 

《反軍権派に助力していると思われる鎮守府のお偉い司令官様達だ》

 

そうだろうとは思ったが……これでは誰が敵で誰が味方か分かったもんじゃないな。

 

《それでだ、お前に奴等からの招待状が届いてるぞ》

 

「……招待状とはなんだ?」

 

《要するに飛び込みで着任した新任提督の状況を知りたいってところか。意味は分かるな?》

 

「うむ、いいだろう。何時なんだ?」

 

《それはお前の都合に任せるそうだ、何時にする?》

 

「丁度時間が空いてる。11時からで頼む」

 

《了解、因みにだが……ゴーストの任務も平行してもらう》

 

「もちろんわかってる。その反乱分子の終了処分だろ?」

 

イェソドが言っていた通り、かなりの上層部に位置するレベルの者を公式に裁くのは時間がかかるし最悪はうやむやにされるのがオチ、だからこそ海軍は機密にゴーストと契約しているのだ。

公式で裁けないなら亡霊に裁いてもらう、白にはなれない灰色以下の俺達亡霊が。

 

《わかってるとは思うが、いつもどうり作戦遂行中はお前の国籍を抹消させてもらう》

 

「ああ……」

 

《こちらからのバックアップは通信サポートのみだ、万が一にも敵に捕らえられても俺達ゴースト、及び政府は無関係を決め込む、いいな?》

 

「もちろんだ、場所は向こうに任せる。また連絡する」

 

《ああ、通信終了》

 

深創は装備品を身に付け、軍部に車両を手配してそれまで念入りに装備の整備をして時間を潰す。

一方その頃、時雨たち遠征艦隊は問題なく海上を目的地に向かって優雅に滑っていた。

 

「時雨っ?目的地まであとどれぐらいなの?」

 

「そうだね……あと30分くらいで第一給油場に着くからそこで資材ドラム缶を受け取ってからまたしばらくは航海して第二給油場に行くよ」

 

「司令官からもらった紙には今日の22時14分39秒に港付近の安全海域線を全員が越えて帰還出来るって書いてあるわ?」

 

「なにそれ?そんな時間ピッタリで書いてもその通りになるわけないじゃない」

 

「なのです……何が起きるか分からない敵性海域でそんな正確には……」

 

「そうだね、油断せずに行こう」

 

30分後、特に敵対接触もなく時雨達の遠征艦隊は横須賀鎮守府の第一給油場にたどり着き、港まで寄る。

港には給油担当の艦娘達が待機しており、手を振ってこちらを誘導してくれた。

 

「黒羽鎮守府の皆さんですか?」

 

「そうだよ、僕は旗艦の時雨……って分かるね」

 

「はい、ウチの横須賀鎮守府にも居ますから」

 

時雨は提督から託された身分証明書を担当者を勤める艦娘の神通に見せて己の配属を証明する。

 

「はい、確認しました。さあ皆さん。よろしくお願いします」

 

「はい神通さん!。ん……あら?霞なの?」

 

「朝潮じゃない、お疲れ様。早くドラム缶をよこしなさいよ」

 

「う、うん………はいっ」

 

「まったく……トロいんだから」

 

「……………………」

 

他の駆逐艦と一緒にドラム缶を運ぶ朝潮にキツい言葉を吐く霞を見ながら時雨は呆れたため息を付いて朝潮に申し訳なさそうに口を開く。

 

「ごめんね、霞は早く提督に会いたいだけなんだ」

 

「え?そうなのですか?」

(あの霞が……?)

 

「ちょっと!そんなわけ無いでしょ!!」

 

「ほらね?」

 

「は、はぁ……」

 

「なにが『ほらね』よ!いいからさっさと運びなさいよ!!」

 

資材の入ったドラム缶を分担して艤装に積み、礼を言う時雨達を無視して霞は顔を真っ赤にしながらさっさと港を離れて行った。

 

「もう……礼も言わないで行っちゃうなんて……」

 

「ちょっと怖かったのです……」

 

「まぁまぁ、本当にごめんね朝潮。霞を恨まないであげてね」

 

「あ、あの……」

 

「うん?なんだい?」

 

朝潮は遠慮しがちに周りをキョロキョロと見渡してから時雨に呟くように聞いてきた。

 

「そちらの鎮守府の司令官はどんな方なのですか?」

 

「………どうして?」

 

「いえ、ウチの鎮守府にいる霞でもあんな顔は見せなかったので……」

 

「そうだね、口で表すのは難しいけど。少なくとも僕は好きだよ?上官としても、異性としても……僕は提督が好きさ」

 

「そ、そうなんですか?」

 

「うん、それは霞も同じだと思う。たしか君たち横須賀鎮守府は一週間後に僕達との実戦演習があったよね?その時に話してみたらどうかな?」

 

「えっと……その……」

 

「ふふ、急に捲し立ててごめんね。それじゃあ僕達はこれで、またね」

 

「はい、気をつけて!」

 

 

~am10:50~

銀座

ー『ホールレストラン』ー

 

 

10分早く到着したグレイブスはシワが目立つ黒のコートを靡かせながらレストランの中に入っていく。

レストランの自動ドアの向こう側に足を踏み入れた瞬間、グレイブスは目を細めて広いこの空間の隅々にまで視線を滑らせる。

 

「……………………」

 

受付の監視カメラに映るグレイブスの顔は妖弧のお面に覆われており、不気味な雰囲気を醸し出していた。

引き付った笑顔を見せる受付に写真の無い正式な名刺を渡し、偽造スキャナーに掛けてもらう。

 

「本人を確認しました……お楽しみ下さい」

 

「……………………」

 

受付をスルーして完全貸し切りのホールを通り、指定の部屋の前に立つ、部屋の前には六人の艦娘が待機しており、中に入るように促してきた。

中は雰囲気の良い黒一色の壁で覆われた箱形の部屋で、光源がオレンジに暗い防音のその部屋には既に名高い英雄様達が座っていた。

 

「おお……随分個性的なんだな」

 

「………すみません、いま外します」

 

「人見知りなのかな?」

 

「ええ……まぁ」

 

仮面を外し、ゆっくりと歩き始める。

重鎮の一人が俺に向かっていつもどうりの口調で構わないと言ってくれたので口調を戻して一礼してから一番奥、壁際の席に座る。

テーブルの上には豪勢な料理が広がっており、グレイブスは沈黙したまま自分の料理を見下ろす。

 

「…………ふむ」

 

「どうしたのかね?食べないのか?」

 

「そうだな……ドウモイ酸、クラーレ、ムッシモール」

 

その三単語でこの場の空気が凍りついた。

この三つの一つ一つは致命傷にはならないものの、組み合わせでは即死する毒性を持っている。

 

「かなり隠密性が高く、暗殺にはもってこいの代物だ。何度か盛られた事がある」

 

「っ……………………」

 

「っ…………」

 

奴等は驚愕の表情を見せ、畏怖する。

だがその中で一人だけ、俺を見て感心したかのように笑い出す者がいたのだ。

 

「はっはっは!やはり私の言った通りだろう?この男はただ者ではないと!」

 

「確かに、そのようですね」

 

「大将殿の見込みは確かでしたな」

 

「……なんの話だ?」

 

「いやいや、君を試したのだよ。これで死んだらそれまでだが……いやはや予想以上だ」

 

「これなら引き入れてもいいのでは?」

 

「そうだな、これほどの逸材を放っては置けない」

 

「…………?」

 

この場にいる俺を除く六人の男達はお互いに賛同をしたように頷き、こちらを見てくる。

 

「君を招待した理由は一つ、君に我々『反軍権派』に入って欲しいのだよ」

 

「…………………」

(来たか……やはりビンゴだったな)

 

ここまで来ると滑稽だな。

深創は席を立ち、スプーンを手にスープを掬って口に入れてよく味わってから飲み込む。

そして側に置いておいた仮面を再び着ける。

 

「……………………」

 

「…………?」

(いま……スープを飲んだぞ!?)

 

「一体何を……!?」

 

グレイブスは沈黙したままスマホを片手に取り出し、この部屋の照明を管理している外のブレーカーをハッキングして窓の無いこの部屋を完全なる暗黒空間に落とした。

しばらく経ったのちに部屋から出てきたグレイブスの姿に驚いた艦娘達は一斉に部屋の中に入り、凄まじい絶叫を発する。

 

「なかなか時間がかかったな……だが」

 

《必要な情報は引き出せた、こちらで調べてみる》

 

「ああ、まさかあそこまで尋問に抵抗されるとはな……これよりー」

 

「待って下さい!!」

 

「……………………?」

 

振り返るとそこには部屋から出てきた血まみれの艦娘である五月雨が主砲をこちらに向けて震える足で睨み付ける。

 

「どうして……どうしてこんなことを!!」

 

「……………………」

 

「さっきまで……さっきまで大丈夫だって笑ってたのに……どうして!!!」

 

「……………………」

 

他の艦娘もぞろぞろと出てくる、受付が通報したのか憲兵までもがレストランの外に動き出していた。

 

「貴方は一体何者なんですか!?」

 

「こんなことを……黒羽鎮守府の提督じゃないな?」

 

「司令を……許さない!!」

 

「……………………」

 

《おい……グレイブス?》

 

「……………………」

(またこれか……)

 

吸い出していく、彼女達の怒りや悲しみを俺の身体が吸い込む。

だがもう慣れた、面倒ごとは御免だ。

 

「……………………どうする?」

 

《憲兵は何とか出来る、だがその艦娘は無理だな》

 

「わかった…………始末する」

 

グレイブスは血みどろの両手首のアサシンブレードを作動させ、何の躊躇いもなく主砲を向ける彼女達に近付く。

ゴーストは存在しない、それは世界の定義。

だからこれから俺がする事は誰にも知らされる事はないだろう、少なくとも真実が語られることは絶対に。

 

「……………………」

 

「……止まって!!」

 

亡霊など非科学的だ、居るはずがない。

そのとおり、ゴーストは存在しない。

 

「…………暗くなって来たわ…司令官は大丈夫かしら」

 

「なのです……」

 

「時刻は20時30分……やっぱり提督の予想よりもずっと速く鎮守府に着きそうだね」

 

「そうね……っ!?ちょっと待って!!」

 

霞の声で動きを止め、その意味を理解した三人は自動的に単縦陣を組んで夜の月明かりに足らされた薄暗い海原を見渡す。

 

「霞ちゃん!距離は?」

 

「ッ…近い!時雨、あんたの500メートル先よ!」

 

「うん……見えてるよ」

 

時雨の目先には深海悽艦の水雷戦隊がこちらに向かって迫っており、数で劣る分逃げれば戦闘せずやり過ごせる、だがここで逃げたりすれば鎮守府から遠ざかる事になるだろう。

 

「どうするのよ……時雨?」

 

「…………提督はやむ負えない場合って言ってたからここは逃げよう、みんな練度が高いとはいえ向こうは六隻、こっちは四隻だからね」

 

「賛成なのです、あまり戦いたくはないのです」

 

「安全に切り抜けられるならそれが一番いいと思うわ!」

 

「そうね、あたしもそれで良いわ、一旦下がりましょ」

 

最大出力で時雨を先頭に敵の水雷戦隊を振り切り、付近にあった離島の影に隠れて視線を外す。

陣形を作り直し、しばらく待機してから再び鎮守府に向かって推力を上げる。

離島から離れ、鎮守府に向かう道すがらで不運が続いてかなりの時間を掛けてやっとの事で鎮守府近海の安全海域線を全員が越えた。

そしてそれを遠くから波止場で見ていた深創は腕時計を見ながらぼそりと呟く。

 

「ふむ……22時14分39秒か……ぴったりだな、どうやら最悪の事態は避けられたみたいだが」

 

しばらく波止場でじっとしていると、見ればみるほど疲労困憊の彼女達の顔が見てとれた。

 

「うう……びしょびしょなのです…」

 

「ほんっと最悪だわ!なんでいきなり海が荒れるのよ!雨が降るのよ!」

 

「司令官!雷たち頑張ったわ!」

 

「提督、ただいま」

 

「なかなか良い体験をしたみたいだな、お帰り」

(……敵と会敵した様子は無し、だが見なかったわけでは無さそうだ。無駄な戦闘は控えてくれたのか)

 

四人に事前に用意しておいたタオルを渡し、補給を済ませて休むように促す。

艦娘寮で時雨達と別れ、資材の入ったドラム缶を妖精さん達と一緒に資材保管用の倉庫に入れて執務室に戻った。

 

「……………………」

 

執務室で背もたれに全身を預けていた深創は右腕に黒炎を纏わせ、その揺らめきをじっと眺めながら考える。

 

(今日殺したのは合計で『13人』……なぜだろうか、殺せば殺すほど……この力がより身体に馴染むような……)

 

気のせいではなかった、現に深創はこの黒炎に身体的または精神的に違和感を感じなくなっていたのだ。

そして何かを吸収しながら何かを失っていく感覚が深くはっきりと感じれる。

 

「さて、そろそろ任務に入るか。今回の標的は確かー」

 

「司令官?入るわね?」

 

「っ…………雷?」

(執務室の前まで来ていたのか……気付かなかった…?)

 

執務室に入ってきた雷は可愛らしい黄色のパジャマ姿で嵐で濡れぼそった髪を降ろしている。

さっきまで元気だった雷の顔は眠気がキてるのか少し暗かった。

 

「…………どうした?悪いが俺はこれから役割を果たしに行きたいんだが?」

 

「役割…?お仕事?」

 

「ああ、お前はもう寝ろ。話ならまた今度聞いてやるさ」

 

そう言って雷の頭を撫で下ろし、横を通り抜けて執務室から足を踏み出したところで雷に呼び止められた。

 

「司令官……!」

 

「……なんだ?」

 

「雷を……尋問しないの?雷からあの人達の情報を引き出そうとしないの…?」

 

なるほど、雷はそれが知りたかったのか、そんな下らない事を気にしてたのか。

 

「…………お前は電の隣にいて時雨達と共に命を賭けて戦ってくれてる」

 

「……?」

 

「何時死ぬかも分からないお前達に……それ以上の事をさせるつもりはない。俺のお願いは電の隣に居て欲しい、ただそれだけだ……十分じゃないか」

 

「司令官…………」

 

「聞きたい事は終わりか?ならもう寝るんだ、明日の朝には帰る。それじゃあな」

 

「まって司令官!まって!」

 

雷は泣きながら深創にすがり付き、コートの裾を精一杯引っ張る。

 

「司令官……お願い……暁を…響を…………助けてあげて…!!」

 

「……………………約束はできない、だが……やってみよう」

 

これは本心だ、彼女達を全て助けられる確証などないしそれを隠す気もない、この子達は本当の事を知りたいのだ。

だからこそ嘘は付かない、無駄な期待は失意につながるから。

 

「俺はこれから反軍権派の小規模基地に行ってくる、もしもそこに二人がいたならば最善をつくす。それでいいか?」

 

「…………うん」

 

「すまないな雷、俺はこういう性分なんだ、お前を安心させれる一言でも掛けてやれればいいが……」

 

「ううん、司令官はやってみるって言ってくれたからそれで雷は満足よ!行ってらっしゃい司令官!」

 

「そうか、雷は強いな……それじゃ行ってくる」

 

そしてそのまま雷を置いて歩き出す、徐々に大きくなっていく寂しい泣き声を背にしながら振り向かずにその場を発った。

 

(きっと彼女は苦しみ続けたんだ……だがこれからもっと、より深く苦しむ事になるかもしれない…………)

 

深創はコートを翻し、人気の無い裏道を進みながら残秋の夜空を見上げ、己の武器に手を掛ける。

 

「これが……コイツらが俺の全てだ……頼んだぞ、これからはー」

 

刹那、前方から突発的に迫ってきた何かを頬を掠めながら躱す。

躱した寸前に見えた物は弾丸状の『注射針』だった、その注射針を見た瞬間に深創は敵の正体を突き止める。

 

「ッ……!!」

(これはまさか………!)

 

「……………………」

 

ここから北東にある高い放棄された丘公園にいるスナイパーの位置を特定した深創はそれを睨み付けながら駆け出し、正確な補正射撃でスナイピングしてくる注射針を弾き落とし、躱しながらどんどん距離を詰める。

 

(やはりオリジナルライフルか……消音機器とスコープが内臓されて距離計の改良型、自動距離補正器を使ってる……間違いないな)

 

「……………………」

 

(一撃でも喰らったら終わりだ……全て防がないとな)

 

カバーセクションを転々と移動し、P226にサイレンサーを着けてスナイパーの位置に目星を付け、腰だめに銃口をカバーの外に出した一瞬にP226は放たれた注射針によって破壊、弾き飛ばされた。

 

(…………やっぱりな……これは確定だ、受け入れるしかない)

「……………………アマンダ…」

 

「ッ………………」

 

深創はカバーから転がりながら飛び出し、目と鼻の先まで接近出来たスナイプポジションに飛び込み、ネイビーブルーの光学迷彩バトルドレスのコートを羽織って深々とフードを被るスナイパーに投擲用ナイフを二本投げ飛ばす。

狙撃手は右手にライフルを担ぎ、左手で飛ばされたナイフを弾き落とす。

その隙に狙撃手の懐に滑り込んだ俺は左手のアサシンブレードを腹部の致命傷に狙いを付けて突き出すが膝蹴りで狙いを逸らされた。

 

「ッッ……!」

 

「…………!!」

 

地面を踏み込み、狙撃手に距離を取らせまいと接近するが、豪快な横盤蹴りを繰り出されて強引に距離を取らせてしまった。

夜空から降り注ぐ月明かりに照らされる狙撃手の顔はゴーストの仕事を全うする時に深創が着ける漆色の妖弧の仮面の色違い、銀色の妖弧の仮面で覆われている。

 

「……………………」

 

「……………………」

 

言葉は交わさない、いや、交わせないのだ。

聞きたいことは山ほどあるがこの状況では口を開く瞬間ですら勝敗を分ける、この二人はお互いにそれを理解している。

先に動いたのは深創、アサシンブレードを剥き出しにしながら素早く狙撃手との距離を詰め、攻撃に転じる。

狙撃手はほとんどゼロ距離のこの状況でもライフルを手放さず、むしろ深創に向けて撃ち放ってくる。

 

「ッ……!」

 

「……………………」

 

注射針を寸で躱し、足払いを掛けるが素早い蹴り足で阻止され反撃の一蹴りを喰らってしまった。

受け身を取りながら転がり立ち、更に撃ち放たれた注射針をギリギリで躱す。

負けじと距離を詰めて近接戦闘に持ち込む、狙撃手の左手ジャブを受け流して腕を掴み、抑え込んで膝を蹴り落として地面に叩きつけようとしたその時、狙撃手は裏拳で左手を抑えていた手を逆に掴み返し、異常に柔らかい関節を曲げて俺の身体を豪快に振り回して地面に投げ飛ばした。

 

「ガッ……っ!」

 

「……………………」

 

直ぐに立ち上がろうとしたグレイブスを見ながら狙撃手は左手を音速で動かして自作のナノピストルを取り出して彼の左肩に命中させると同時に、何かが自分の右脇腹に深く突き刺さった。

臓器にまで到達するほど深々と突き刺さっているのは彼の右手から射出されたアサシンブレードの刃だった。

 

「……………………」

 

「ッ……ああ……クッ……ッ……………」

 

肩に撃ち込まれた注射針に入っている液体の半分が身体に流れ込んでいる頃には既に深創の身体から力が抜けて崩れ落ち、徐々に気が遠くぼやけて来る。

ドロリと歪んだ視界のまま仰向けに倒れ込み、ゆっくりと歩み寄って来た狙撃手が視界に映り込む。

 

「アっ………アマンダ……………」

 

「っ………………」

 

アマンダ、そう呼び掛けられた彼女はライフルの銃口を深創の頭部に突き付ける。

引き金に指を掛け、力を込めるがその銃口から銃弾の注射針が発射されることはなかった。

 

「…………?」

 

「ッッ…………!」

 

指を掛ける人差し指が震え、目の前で意識が朦朧として痙攣するグレイブスを見下ろしながら必死に指に力を込めるが動かない、徐々に震えは大きくなり、遂にはライフル全体が震え始める。

 

「…………駄目……私には出来ない…!!」

 

「っ……………………」

 

アマンダはライフルを思わず投げ飛ばし、深創から後ずさる。

そして驚いたように耳元のインカムに手を当てて通信を開始する。

 

「ええ……そう、標的には逃げられた……ええ……」

 

「……………………」

 

インカムから手を離して麻酔が完全に回ったグレイブスにしゃがみこみ、脇腹に刺さったブレードを抜いて彼の右手に慣れた手つきで手首の機械仕掛けのアサシンブレードに取り付ける。

意識が混濁して今にも落ちそうなグレイブスの頬に手を添え、肩に撃ち込んだ注射針を彼のポケットに入れてゆっくりと口を開く。

 

「ごめんなさい……グレイ……私のせいで……」

 

「……………………っ」

 

そう言ってライフルを拾い上げ、何回かこちらに振り向きながらも静かに歩き去って行った。

そんなアマンダの背中を最後に深創の視界は暗闇に染まり、意識は深い底に落ちてゆく。

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