この鎮守府の提督はいろいろ規格外でした。 作:ペペロンチーノ伯爵
一日1話の自分ルールが崩れてしもた……。
~am07:00~
ー『大本営・総司令管理室』ー
グレイブスは文輝に連れられるがまま東京に位置する海軍の大本営に入り、受付の奥にあるエレベーターで7階に上がったすぐ突き当たりの部屋に案内される。
「俺はここでお別れだ、何かあったり知りたい事があれば連絡してくれよグレイブス?」
「分かった、すまないな。すぐ頼ることになりそうだ」
文輝から名刺を受け取り、俺は文輝と別れて部屋の中に入る。
「………来たかグレイブス」
「イェソド?なぜお前が……?」
部屋の中央に設置されたソファベットに腰掛け、優雅に緑茶を嗜んでいたイェソドと呼ばれる男はグレイブスに座るよう促す。
厚めのマフラー巻を首に巻き、長袖長ズボンで全身をアラブ人のように黒一色で覆い隠していた。
紫色の髪から見える貫くような鋭い目は生まれつきなのだろう。
この男は我がゴースト部隊の中でもかなりデリケートな情報や戦略を扱う存在そのものが機密と言われた程の最重要情報管理人『イェソド』
「よく生き残ったなグレイブス、いや…生まれ変わったと言った方が正しいか?」
「……ゴーストの歩く最高機密がなぜ公式軍の大本営にいるんだ?」
「それには訳がある、追って話そうか」
イェソドはやる気の有る無しが判断つかないような落ち着いたトーンでグレイブスに全てを話した。
まず一つ目に、今回の作戦はグレイブス率いるオシリス分隊だけではなく、ゴースト部隊の全力出撃であり、グレイブス以外の戦闘員は全てあの防衛作戦で死亡した事。
その話は車の中で読んだ資料の中でだいたいの予想通りに知っている。
二つ目、ゴースト部隊の壊滅に伴って戦力を失った本部はやむを得ず日本の海軍と交渉し、技術力と資金面で協力する事になった。
「そして三つ目だが……これにはお前が深く関係してる」
「俺が?」
「これが作戦開始前のお前の身体情報だ」
懐から取り出した二つのタブレットをテーブルの前に置く。
ゴースト本部は基本的に部隊員の身体情報をリアルタイムで管理・記録しているのだ。
「こっちが作戦前、見てくれ」
『作戦前』
生命活動:正常
毎分平均心拍数:74
平均体温:18~20
体重:49㎏(正常値を下回り)
精神状態:オールグリーン
「ふむ…やはり少し痩せたか?文輝の車に乗った辺りから気になっていたんだが妙に身体が軽かったんだ」
「そんな程度で済めば良かったんだが」
「?、どういう事だ?」
「お前を『回収する』……これを見ればその言い回しの意味が分かるだろう」
「ッ………これは…?」
「そういう事だ」
グレイブスは現在の身体情報が載っている方のタブレットを閉じ、しばらく冷静に頭の中を整理して深呼吸をする。
そしてイェソドにタブレットを返し、ソファから立ち上がって一言。
「……俺はどうすればいい?」
「選択肢は二つ。一つはこのままゴーストとして続けるか、もしくは海軍の実験体になるかだ」
なるほど、選択肢は一つと言いたいんだな。
「前者で頼む、海軍の犬になるつもりはない」
「それはこっちも嬉しいんだが、本部の判断で俺達ゴーストの主管理を海軍に譲り渡した」
「なんだと?ゴーストは祖国(アメリカ)の部隊だ、日本軍の管理下に置ける訳がない」
「その件は俺も上に問いかけたが、答えは返って来なかった」
グレイブスは両手を振りながら溜息を付き、やるせないように納得のいかない顔をする。
それも当然だ、自分の部隊が他国の管理下になるなど言語道断も甚だしい。
「ともかくだ、お前は記録上死んだ事になっている。だから共通点を消すために名前と国籍を変える必要がある」
「……確かに、死んだはずの人間が生きていると外部に漏れたら大変だからな、ふむ……名前か」
ペンと数枚のメモ用紙を手にしばらく考え込んでいると、グレイブスの脳内に一瞬の激痛が走り、ズキリと痛む脳のイメージに血文字が浮かび上がる。
『オ前ハ私達ノ物ダ……名ヲ遺セ……深ミノ底ヘ……』
「ッ………??」
「ほう、『深み』に『創る』と書いて深創(しんらぎ)か。なかなかシャレだな」
「え……?」
手を動かした覚えが無いグレイブスの左手に握られたメモ用紙にはいつの間にか自身の筆跡で『深創』と刻まれていた。
「この名前でいいのか?」
「………あ…ああ、大丈夫だ。その名前で頼む」
何故だろうか…不思議とこの名前に違和感を感じない、むしろこの名前こそが『自分自身』を証明しているような気もする。
「次はどうしたらいい?」
「学力テストに……精神鑑定だな、今更だが日本国籍にするなら海軍にもお前の記録を機密でも残さなきゃならない。だから多少の学歴が必要なんだ、精神鑑定はいつも通りだな」
「そうか、分かった。さっさと始めてくれ」
~pm13:30~
「………これで終わりだ。相変わらず優秀だなグレ……深創?」
「ふむ……他にはもう無いのか?」
グレイブス改め深創はペンを置いて両腕を高々と伸ばして息抜きをする。
「………少し話しておきたいことがある」
「?」
「それで最後にする、いいか?」
「ああ、話してくれ」
三日後の早朝
~am06:00~
ー『大本営・ゴースト待機室』ー
アスファルトの床に足を付けて靴紐をキツく縛り、本部から取り寄せたいくつかの私物を腰に下げたバックパックの中に詰め込む。
そして愛銃の『M1911・ガバメント』をホルスターに仕舞って準備を整える。
「よし……っ…イェソド、聞こえるか?昨日はひどい強風だったからな、こいつが遅れて届いたよ」
《ッッ……バッチリだ、問題ない》
左耳の鼓膜に付けたステルス性重視の機密無線をイェソドから支給された『SHT(スマートフォン型ハッキングツール』で遠隔操作し、音量・音質を確認する。
「こっちも大丈夫だ、これならイケるな」
俺は待機室の殺風景な景色を横目に電気を消して外に出掛ける。
生まれ変わって初めての任務はいきなり大本営からの依頼であり、これまた初めてのジャンルで『視察』だ。
秋に掛かった10月の空を見上げながらすれ違う人々の中に紛れて視察先へ足を運ぶ。
「………これが鎮守府というやつか」
《……着いたようだな、お前の位置は常にこちらでモニタリングしてる。さっそくブリーフィングどうり視察に移ってくれ》
「了解……」
目の前にそびえ立つ鎮守府の前の外門をくぐり、外庭の土を踏む。
見渡す限りに『艦娘』の姿は確認出来ない。
庭の端にある砂場に放置された作りかけの砂山、その隣には小さい遊具シャベルが二つ。
反対側の木陰にはおままごとセット一式が綺麗に放置されていた。
「………変だな」
とりあえず人気のない外庭を真っ直ぐ進み、正面玄関と思われる木製の扉の横に付いた来客者用ベルを鳴らす。
すると鎮守府の建物内から速いペースで近づく足音を聞き分け、タイミングを見て一歩後ろに下がった瞬間に扉が開く。
「お待たせしました、憲兵殿。視察ですね」
「そうだ、貴殿はー」
「自己紹介は後ほど、執務室はこちらです、付いてきて下さい」
出迎えてくれた厳格そうな中年男性の身体を包むくたびれた軍服姿から見える顔は事前のブリーフィングで見た通りだ。
どうやら秘書艦?を付けていないようだ、これはブリーフィングになかったな。
この視察では主に鎮守府予算を横暴した私用や大本営への反乱分子の特定、これら二つを探り。黒が判定すれば『現行犯逮捕』が基本だが例外もある。
もしも逮捕を拒んで抵抗した場合は憲兵本人の判断により即刻その場で『終了処分』を下す事も許されている。
(この大作戦の混乱に乗じて不正を犯す輩が増えているらしいからな、目を光らせておかなければ)
「さあお入り下さい憲兵殿。そちらに掛けてどうぞくつろいでください」
「ああ、すまんな」
執務室に通され、わざわざ用意したのであろう新品の黒皮椅子に座り、もう一つ目の前に用意した椅子に相手が座った。
「自己紹介が遅れました、自分、ここの横須賀地区第三鎮守府を任せられている『逢沢・研人(あいざわ けんと)』と申します」
逢沢は軽く自己紹介を済ませると、先ほどから手に持っていた封筒を俺に手渡してきた。
封筒の中身はここの鎮守府の詳しい詳細が載せられた資料だ。
「……こちらがもってきた情報と照らし合わせてみよう」
「どうぞご自由に……」
資料に提示されている文章を見つめていると、二日前に深創の両眼に移植された『思考・視覚プロセッサーシステム』が自動的に起動する。
視界の隅に電子ログが現れ、両手の生態電気と連動し、人差し指を空に滑らせて視界に映る『ファイル』をタップしてイェソドが調べた情報と見比べる。
「どうでしょうか?」
「……………ふむ」
(特に問題は無い…予算の横暴も反乱の予兆も見られない。だがこれは……不自然だな)
深創は逢沢の着任期間と艦娘のリストをズラリと見渡す。
(なぜだ?戦艦、空母、軽巡、重巡はこいつの着任期間と添うように数や練度がかなり多く、高い。が……なぜこうも『駆逐艦』の数と練度が少ないんだ?艦娘保有数はまだまだ余裕なはずだが……ん?)
そこで一つ、ある疑問点を見つけた。
三日前の解体艦娘リストの中に数少ない駆逐艦の名前と練度が深創の目を引く。
(これだ……『白露型駆逐艦二番艦・時雨』この子の練度が80を超えている……改二とか言うやつにもなっているのにもかかわらずなぜ解体されたんだ?)
「……逢沢提督?」
「何でしょうか?」
「どうやら大した問題は無さそうだ、これで事務的な視察は終了とするが、これからこの鎮守府内部の視察を始めてもいいかな?」
「鎮守府内部の見回り……ですか、そんな話は聞いていませんが?」
「当然だ、なんせこれは抜き打ちの視察なのだから」
「………なるほど」
逢沢はしばらく左手で顎を擦りながら考え、クスリと微笑んで深創に頷く。
「もちろん構いませんよ、むしろ我々の鎮守府を見回って頂けるなんて光栄です」
「そうか、ではさっそく」
「ええ、自分はこれから執務がありますので視察はどうぞご自由に」
俺は椅子から立ち上がり、執務机に戻った逢沢を余所目に執務室を出る。
そして膨れ上がる疑問を確信に近づけた。
《深創、今回の視察に鎮守府内部の調査は含まれてないぞ。何のつもりだ?》
「心配するなイェソド、間違いなく……ここには何か別の秘密があるはずだ」
《はぁ……分かった。だが問題は起こすなよ》
「もちろんだ……これより視察を開始する」
ここから展開を大きくしていきます!どうぞ次号をお楽しみに!