オーバーロード 新参プレイヤーの冒険譚   作:Esche

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なんとなく“オリ主の視点7話+別キャラの視点1話”という形で、これまで物語を進めていますが、色々な視点から描いたほうが読んでいただける方には分かりやすいのかなぁ、と悩む今日この頃です。

荒れた天候が続いておりますので、皆様十分にお気をつけください。


(Side-M)葛藤

 気落ちした重苦しい空気の中で、冒険者たちは設営していたテントを解体し、遺跡攻略のために持ち込んでいたアイテムとともに大型の荷馬車へと積み直していく。

 未知の冒険に思いを馳せながら荷積みを進められた出発前とは異なり、撤収作業はどこか身の入らないまま続けられている。

 今回の依頼のために用立てられた、軍馬五頭以上という破格の値段で取引される八足馬〈スレイプニール〉が、その尋常ならざる膂力を発揮する機会は訪れなかった。

「……そう思い詰めるな、マリー」

 背後から投げかけられた声に、僅かばかり身を強張らせながら振り返る。

 口許に柔らかな笑み浮かべたリンダが、「マリーが悪いんじゃない」と言い含めるように言葉を続けた。

「でも、私のせいでユンゲさんが――」

「マリーがしなかったなら、私が止めていたさ。……危ないから行かないで欲しい、とな」

 だから私も同罪だ、と冗談めかすように肩を竦めてみせるリンダに、返すべき言葉を見つけられず、マリーは俯向くことしかできない。

 バハルス帝国内でも腕利きの請負人〈ワーカー〉たちを呑み込んだ未知の遺跡を前に、何が正しい選択だったのか、マリーには判断することができない。

 それでも、意を決した様子のユンゲは遺跡の危険性を承知しながらも、“漆黒”の二人とともにワーカーたちを救出するために動こうとしていた。

 そして、まだ生き残っていたかも知れない者たちの全ての可能性を閉ざしてしまったのは、マリー自身の浅はかな行為だった。

 小さく呼吸を整えたユンゲが一歩を踏み出した、あの瞬間――言い表すことのできない嫌な予感に、思わず駆け寄ってしまっていた。

 前のめりに倒れかけたユンゲを咄嗟に支えた場面までは良かった。

「……なんで、離さなかったの?」

 伏せたままの視線で自らの右手を見つめながら、マリーは情けない気持ちを吐露するように疑問を心の内に投げかける。

 ユンゲの袖口を掴み、離そうとしなかった小さな手――なんて醜く浅ましいのだろう。

 取り繕うための言い訳なら、いくらでもあった。

 未知の遺跡は表層が墓地であり、遺跡内に棲まう者たちが外部へ出入りしている様子のないことから、おそらくはアンデッド系のモンスターが跋扈しているものと予想されていた。

 あの時点で、ワーカーたちの潜入から既に半日以上の時間が過ぎており、かなり希望的に見積もったとしても彼らが生存していた可能性は高くない。

 また、如何にマリーでは想像も及ばない最高位アダマンタイト級の冒険者の“漆黒”に加えて、ユンゲが同行したとしても、一切の情報も得られていない中での生存者の捜索は、人の手の届かない深い森の中で特定の希少な薬草だけを見つけ出さなくてはいけないほどの困難だろう。

 何より遺跡内の脅威が判明していない以上、生息するモンスターの難度や巧妙な罠の類いのために、強行突入した“漆黒”やユンゲさえも帰還が敵わない可能性すらあったのだ。

 大切な相手がどこか遠くへ連れ去られてしまうような怖ろしい悪寒に駆られたとき、マリーはユンゲの袖口を掴んだ手に込めた力を緩めることができなくなっていた。

 しかし、それらはどこまでも言い訳に過ぎなかった。

 自らに差し伸ばされた救いの手を臆面もなく取って置きながら、他人に向けられようとしていた救いの手まで、図々しく自らのものとしてしまう。

 誰からも嘲笑されるほどの、見下げるほどの強欲さだった。

 何の見返りも求めないままに見ず知らずのマリーやキーファ、リンダを最悪の奴隷身分から解放し、剰え足手纏いにしかならない三人を見捨てることもなく、ともに“チーム”として歩んでくれるほどの底抜けなお人好しが見せた苦渋の表情。

 彫りの深い切れ長なユンゲの瞳、その最奥に宿っていた哀惜の色が、自らの醜悪さを白日の下に曝してしまう残酷な鏡のようにマリーの胸は詰まり、小さく悲鳴のような嗚咽がこぼれた。

「……なんで、信じて送り出すことができなかったの?」

 答えを求めることのできない問いが、青草の薫る緩やかな丘陵を渡っていく風に吹き散らされる。

 

「あの状況では次善の選択をするしか道はなかった。あまり自分ばかりを責めるんじゃないぞ」

 葛藤の合間を縫うように穏やかな声音で告げたのは、思い詰めるようなマリーの様子を見遣ったリンダだった。

 すらりとした腰に手をやりながら、真っ直ぐにマリーを見つめてくる蒼の凜とした眼差し。やおらと顔を上げれば、いつもの慈愛に満ちた笑みを浮かべるリンダの立ち姿があった。 

 その涼やかでも温かな笑顔を直視できず、マリーは視線を足下に落としてしまう。

 不意に、肩を軽く叩かれた。

「……強くなろう、マリー」

 さらりとした長い銀の髪が、中天からの降り注ぐ明るい陽の光に、冴え冴えと鮮やかな白に輝いていた。

「今の私たちではとても叶わないが、いつかユンゲ殿とともに立てるように……守られるだけでなく、いつか背中を預けてもらえるように――今日の後悔を糧にして、強くなろう。先に散った者たちからは、傲慢と責められても仕方ないが、今の私たちにはできることは何一つもない。悔しいし、あまりにも情けないが、嘆いても現実は変えられない」

 何かに急き立てられるかのように、ひと息に言い切ったリンダが深く息を吐いてから、ゆっくりと顔を持ち上げてマリーを見据える。

「……だから、私は強くなると決めた。自分の弱さを嘆いて苦しみや痛みに、生き恥に堪えるだけの時間は、もう要らない」

 穢されてしまったと羞恥に震え、自らの身体を心の内まで刻むように傷つけていた過去と決別するように――遠い記憶の中、遥かに霞んでしまうほど懐かしい故郷での日々にあった、柔らかくも凛々しいリンダの微笑み。

「だから、私は強くなると決めた。“泣きべそ”マリーは、どうしたい?」

 同じ言葉を言い聞かせるように重ねたリンダが、悪戯っぽくしなを作って問いかけてくる。

 色鮮やかな織物のように広がる大空の青と大地の緑とが、視界の中で溶け合うように滲んでいく。目に痛いほどの眩しさは、目許に溢れ出す冷たい雫に乱反射する日差しの輝きだった。

「……守られるだけなのは、嫌だ」

 口からこぼれた小さな呟き。不安を抑えられないままに見上げれば、マリーよりも頭二つ分くらい高い位置で、リンダが先を促すように小首を傾げる様子が目に映る。

 サイドで括った髪を振り乱す勢いで、かぶりを振った。

「一緒に歩けるようになりたい」

 今度の言葉は、はっきりと口にすることができた。

 吹きつける風にも散らされることのない、確かな想いを込めた言葉だった。

 真摯な態度で耳を傾けてくれたリンダが、一つ小さく頷きを返してくれる。

「……なら、やらなくてはいけないことばかりで、これから大変だな」

 凝り固まっていた緊張の糸を解すようにリンダが口調を緩め、「先ずは顔を拭こうか。涙と鼻水で大昔の“泣きべそ”マリー、そのままになってるぞ」と冗談めかせながら背負い袋に手を伸ばして、一枚のタオルを引っ張り出した。

 不名誉な幼い頃の渾名に苦笑しつつ、マリーはリンダの差し出してくれたタオルを受け取って顔を拭う。

「マリーは、昔から悪い方にばかり考え過ぎる癖があるからな」

 揶揄うようなリンダの声音を右から左へと聞き流して、マリーは心地良いタオルの手触りに深く顔を埋める。

 自らの口にした言葉を胸の内で反芻し、噛み締めるほどに想いは強くなっていった。

 後ろ向きな気持ちを刮ぎ落とすつもりで、マリーは顔にゴシゴシとタオルを擦りつける。

 そうして、やおらとマリーが顔を上げれば、やれやれとばかりに溜め息をこぼしたリンダの苦笑いが迎えてくれた。

「ふふっ、強く拭き過ぎて、鼻が赤くなってしまってるじゃないか。……良い顔になったな」

 リンダの手がゆっくりとマリーの頭へと伸び、細く長い指先がほつれてしまった髪をさらさらと梳いていき、柔らかく撫で回してくれる。

 どこか擽ったくも懐かしい感覚に、マリーは堪らなくなって目を細めかけ――、「さて、優しいお姉さん役はここまでだ」というリンダの言葉に、ハッと気付かされて目を見開いた。

「結構な時間をかけてしまったからな、早く作業に戻ろう」

 意識を切り替えるようにリンダが凛とした口調で言い差し、不意に相好を崩しながら言葉を続けた。

「……それに、キーファにばかり良い思いはさせられないからな」

 肩越しに向けられたリンダの視線を追っていけば、八足馬に繋がれた荷台の辺りには言葉を交わしながら荷積みをしている二人の姿。

 思わず震えかけた肩に、ポンッと手の置かれる感触があった。

「お互い、頑張らないとな?」

 溢れてくる笑いを堪えるようなリンダの声音。「何を?」と訊き返す無粋な真似をマリーはできない。

 問うまでもなく、皆が同じ想いを抱いていることは既に知れている。

「……そうだね」

 肩の力を抜くように一つ深呼吸をして、マリーは深緑の大地を踏み締めるように駆け出した。

「リンダ、早く行こう!」

 走りながら後ろを振り返って声を投げたなら、「……調子の良いヤツめ」と呆れるように溜め息を吐いたリンダが、苦笑とともに追いかけてくるのが見える。

 自然と綻んでしまう口許から、楽しげな笑い声がこぼれた。

「こらっ! 待て、マリー」

「ダメ、待たない!」

 背中を押してくれるような風に身を委ねて、マリーはどんどんと足を早めていく。

 騒がしいやり取りに気付いて、こちらに向けられた愛しい顔に驚きの表情が浮かぶ。

 もう止まれない。そのままの勢いに任せて、思い切り良く地面を蹴って飛び込んだ。

「――うわっ!? ととっ、突然どうしたんだ?」

 思い描いた通りに抱き止めてくれた温かさに、軽やかな心が弾む。

「……私、強くなりますから!」

 上目遣いに仰ぎ見ながら、マリーは決然と宣言する。

 からりとした秋晴れの空に金のざんばら髪が燃え立つように映え、深い湖のような青の瞳には特大の疑問符が浮かぶ。

 焦っている様子には構わず、問われる前に抱きついて厚い胸板に頬を寄せ――、マリーを追って駆け寄ってきたリンダから、小さな拳骨を落とされた。

「……痛いよ、リーちゃん」

 調子に乗り過ぎた自覚はあったので、マリーは控えめな抗議をこぼすが、「自業自得だ、バカ!」とリンダには術なく一蹴されてしまう。

「…………ていうか、二人ともいきなりどうしたんだ? 何かあったのか?」

 ようやくと状況を認識したらしいユンゲから、当然の疑問の声が上がる。

 辺りの様子を確かめるように、ユンゲが視線を巡らせる一瞬の間に目配せを交わし、マリーはリンダとともに声を合わせて答えた。

「「何でもありません!」」

 どちらからともなくこぼれた笑い声が重なり、涼やかな風に乗って舞うように見渡す限りの広大な草原を渡っていく。

「ありがとね、リーちゃん」

 ふと昔の呼び名で声をかけていたことに気付いたが、それもまた良かったのかも知れない。

 ユンゲと同じように疑問符を浮かべていたキーファが訳知り顔となり、リンダと一緒に強く抱き締められる。

 故郷からともにした三人の仲間で肩を寄せ合いながら、心の底から楽しいと笑える日が戻ってきた感慨に、マリーの口許は柔らかな笑みを形作っていた。

「……いや、意味が分からないんだけど」

 ただ一人だけ蚊帳の外に置かれたユンゲの問いに答えてくれる相手はなく、身動ぎした八足馬の上げた嘶きによって、詮なくかき消されてしまうのだった。

 

 *

 

 ナザリック地下大墳墓の最奥に位置する、最重要施設である玉座の間――見上げるほどに大きく重厚な扉の左右には、今にも動き出しそうなほど精緻な女神と悪魔の美しい彫像が傅くように並び立ち、煌めくばかり金を散りばめた装飾の施された白亜の壁面には、それぞれのギルドメンバーを描いた巨大な旗が垂れ下がる。

 天井から吊り下げられた豪華なシャンデリアからは、七色の宝石で作り出され幻想的な輝きが降り注いでおり、中央に敷かれた毛足の長い真紅の絨毯の伸びる先、十数段を上がった大理石の絢爛優美な壇上には、巨大な水晶から削り出した世界級アイテム〈諸王の玉座〉が鎮座している。

 傍らに守護者統括たる純白の悪魔――アルベドを伴いながら、支配者然として優雅に腰かけた玉座のアインズは、ナザリックの各種データを表示させたモニターに視線を巡らせ、「……見事だ」と重々しく口を開いた。

「侵入者は脆弱ではあったが、この世界の人間の中ではそれなりに力を持つ者たち。それをこの程度の支出で討ち取れたのだから、今後の防衛をアルベドに任せて何も問題はないな」

 アインズの発した褒め言葉に、緊張した面持ちから一転して安堵の表情を浮かべたアルベドが、「ありがとうございます」と深々と頭を下げる。

 コストが必要となる罠の使用は最小限に抑えつつ、事前の想定通りに侵入者たちを踊らせて、鮮やかに迎撃してみせたアルベドの手腕は、やはり素晴らしいという一言に尽きた。

 この成果をもって、デミウルゴスの立案した“アインズ・ウール・ゴウン”による世界征服を進めるための計画は、次の段階へと移行することが可能となる。

「ところで、地表部にてこちらの監視を続けている者たちについては、いかがいたしましょうか?」

「……冒険者たちか。連中がナザリックに対して害をなさない限り、こちらから手を出す必要はない。何かあれば、パンドラズ・アクターが上手く対処するだろう」

 畏まりました、と恭しく答えるアルベドの様子を横目にしながら、アインズはいくつも表示しているモニターの内から、ナザリックの地表部を映しているものへと目を向ける。

 侵入者たちの末路を知ることもなく、律儀に警戒を続ける二組の冒険者たち――自らの意思でナザリックへと侵入し、アインズが仲間とともに築いた財貨を掠め獲ろうとした薄汚い請負人〈ワーカー〉どもとは異なり、分相応を弁えている相手には対応を変えるべきだろう。

 玉座の肘掛けに置いた骨の手に、思わず力を込めてしまったのは、第六階層の円形闘技場でみせてしまったアインズ自身の失態を思い出してのことだった。

 事もあろうに仲間の名を騙ろうとした憎むべき盗っ人の戯れ言に、アインズが僅かでも付き合ってしまったのは、やはり別のプレイヤーの存在を意識させられていたからなのかも知れない。

 モニターの中央には、小高い丘の頂きに胡坐をかいてナザリックの地表部を見下ろしながら、先ほどから大口を開けてエルフ特製の焼き菓子だという“レンバス”を食べ続けている、風変わりな冒険者の様子が映し出されている。

 このユンゲ・ブレッターという自分以外のプレイヤーの存在――既に様々な検証を重ねた上で、この仮説はアインズの中で確信となっている――が、どうしてもアインズの胸の内にある小さな希望を抱かせてしまうのだ。

 即ち、ユグドラシルにおける最凶にして最高のギルド“アインズ・ウール・ゴウン”のかけがえのない仲間たちが、今のアインズと同じようにこの異世界へと転移している可能性だ。

 精神抑制に助けられるアインズとしての冷静な思考では、そのあまりにも儚い可能性を理解していながらも、鈴木悟の残滓とでも言うべき心の奥底には、かつての仲間を探し求めてしまう弱々しい自分自身の姿があった。

(…………そう言えば、貰ったレンバスをナーベラルに渡していなかったな)

 無理やりと意識を切り替えるように、アインズは別のことに考えを巡らせようとしてみる。

 モモンとして未知の遺跡に臨みながら薄曇りに霞む夜空を見上げ、思わず感傷的な気分になり弱音を吐いてしまったアインズを気遣うように、ユンゲからは二つのレンバスを手渡されていた。

 アンデッドの身体では食べることもできないと直ぐに意識の外に追いやってしまっていたが、ナーベのためにと渡された分までアイテムボックスにしまい込んでいる訳にはいかないだろう。

(……どんな味がするんだろうか)

 凄まじい勢いでレンバスを食べ続けるユンゲの姿は、それだけでありもしない胸焼けを覚えるほどだが、傍らに駆け寄ったエルフの少女から更に追加の包みまで受け取っているところを見れば、相当に美味しいのだろうということは想像に難くない。

 そうして、隣に腰を下ろした少女と楽しそうに言葉を交わしている様は、長年を連れ添ったようにとても自然体であり、常に絶対的な支配者としての行動を求められてしまうアインズとって、酷く羨ましい光景に映るのだった。

(……いや、自業自得だとは分かっているんだけどね)

 この世界に転移した直後は、守護者たちからの忠誠を信じ切ることができず、虚勢を張るように最上位者としての役回りを演じるほかになかったのだが、今にして思い返せば、あのときの尊大な振る舞いが守護者たちに完全無欠な支配者たるアインズのイメージを形成してしまう端緒だった。

 それ以降も際限なく上昇していく守護者たちからの忠誠を思えば、今更になって膨らみ過ぎている偉大なる支配者としての虚像を修正することも憚られてしまう。

 しかし、どこまでも気の休まることのない支配者としての生活は、アンデッドである肉体的にはともかく精神的な疲労が積もっていくことから逃れられない。思えば、モモンという冒険者を作り出したことも、最初は現地の情報収集を名目としたアインズの気晴らしに過ぎなかった。

(……単なる小卒のサラリーマンだった俺には、荷が重いんだよなぁ)

 誰にともない言い訳と愚痴を心の内でこぼしつつ、縋るような思いでアインズは再びモニターに映るユンゲの姿を見つめる。

 同じく“ユグドラシル”のプレイヤーであり、突然の異世界転移を経験した境遇にあるはずのユンゲとならば、或いは何か分かり合えることもあるのだろうか。

 ユンゲを通して仲間の存在を強く意識してしまったからこそ、情緒が不安定になっている自覚はあったものの、腹を割った関係となって気兼ねない話をしてみたいという思いに駆られるアインズは、存在しない胃痛を堪えるような心境に至っていた。

「……アインズ様、少しばかりお時間をいただいてもよろしいでしょうか?」

「――えっ」

 暗い思考に沈んでいたアインズの意識は、不意のアルベドからの問いによって呼び起こされる。

「どうした、何か問題がでもあったのか?」

 焦りを取り繕うようにアインズは慌てて言葉を紡ぎながら、慈母のような笑みを浮かべたアルベドへと向き直る。

「実はご提案がありまして、先ほど円形闘技場にて愚か者どもが言った件に関してなのですが――」

 そうして、アルベドの流暢な話し振りに耳を傾けながら、アインズの胸の内には郷愁にも似た寂しさが次々と去来してしまうのだった。

 

 




物語の時系列的には、前話の前半部→今話の後半部→前話の後半部→今話の前半部となります。

前話の最後辺りで、ユンゲがナーベから睨まれていた理由については、モモンからレンバスを手渡されたナーベが「至高の御方からはとても受け取れない」等々のやり取りを挟みつつ、最終的には受け取らされて内心で喜んでいたところ、ユンゲからの贈り物だと知らされて、がっかりさせられたといった感じでしょうか。

なお、原作の通りにアルベドとパンドラを主体とした“至高の御方々を捜索する最強のチーム”は結成されました。
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