オーバーロード 新参プレイヤーの冒険譚   作:Esche

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投稿話数が増えてきたので、今回から章管理を使ってみました。話数をかけている割りに、物語的な進展はあまりないのですが……。


(39)決起

「――ジュゲムさんっ、どこの軍隊なのか分かりますか?」

 先導する屈強なゴブリンの背中を追って、村の正面門へとひた走るエンリが、息を切らせながら問いかける。

「俺たちに紋章の知識はないんですが、ンフィーレアの兄さんが言うには、リ・エスティーゼ王国の国旗を掲げているらしいです」

 首だけで振り返ったゴブリン――見事なロングソードを担いだ戦士の装いであるジュゲムの言葉に、思わず息を飲む気配が伝わってくる。

 急き立てられるようなジュゲムとエンリの少し後ろを遅れて駆けながら、ユンゲは周囲へと視線を巡らせる。

 村を囲う立派な塀とゴブリンのような亜人種が景観に溶け込んでいることを除けば、牧歌的な農村を絵に描いたようだったカルネ村の様相は、もたらされた危急の報せに一変していた。

 気安い調子で声をかけてくれた中年の男が手にしていた農具を取り落とし、談笑を交わしていた婦人たちは声を潜めて青白い顔を晒している。

 先ほどまで賑やかにキーファやマリーと追い駆けっこに興じていたネムも、今はリンダの胸に抱かれるままに身体を強張らせていた。

 今にも涙が溢れてしまいそうな沈痛とした表情を見遣れば、春先の襲撃がどれほど心に深い爪痕を残していたのかは明らかだった。

「王国軍の……、ンフィーはどこに?」

「今はあそこに登って確認を――」

 エンリの問いに答えて、ジュゲムの太い指が示した先には、閉じられた門の傍に設けられた物見櫓。

「ンフィー!」

 エンリが呼びかけると顔を覗かせた華奢な人影が、弾かれたように駆けてくるのが見えた。

 目許までかかる長い前髪を振り乱しながら、「エンリ!」と声を上げた十代半ばほどの少年――エンリの口から何度か名前の挙がっていた、ンフィーレア・バレアレだろう。

「王国の軍隊だ! それも王族にしか認められていない王旗があった」

「え、えっと……どういうことなの?」

「僕にも分からない。トブの大森林が目的なら軍隊を差し向ける意味はないし、明らかに村の方角へ向かって来ている。初めは噂になってた内乱の可能性も考えて、王家の直轄領であるカルネ村を狙っているのかとも思ったけど、どうも違うみたいだ」

 慌ただしくかぶりを振り、エンリを正面から見据えたンフィーレアは、「でも、考えてる時間はない」と言葉を続けた。

 言い含めるようなンフィーレアの声音には、僅かな怯えの感情が揺らぐ。

 それでも、相手を不安がらせることのないようにと紡がれた言葉には、誠実な想いが感じられた。

 腕の良い薬師の友人と伝え聞いていたが、駆け寄った二人の様子に目を向けたなら、それだけの関係でないことはユンゲにも察せられる。

「そ、そうよね。相手が村に着く前に少しでも森に逃がさないと――」

「エンリの姐さん、申し訳ない。発見するのが遅れたせいで、今から逃げ出すとなると全てのものを置いていくことになりそうなんです」

 エンリの発言に割って入ったジュゲムが、森から出現するモンスターを警戒していたことが裏目になりました、と謝罪の言葉を口にした。

 一瞬のうちに蒼褪めるエンリの顔色に、ユンゲは小さな舌打ちをこぼす。

 表面的には穏やかそうに見えたカルネ村の暮らし振りも、やはり多くの開拓村の例にもれず、余裕はないのだろう。

 春の訪れを待ち侘びながら冬の間を堪え忍ぶ辺境の村にあって、秋の身入りを失うことは、文字通りの死活問題になってしまう。

 カルネ村へと迫りくる数千の軍隊は、まさしく脅威以外の何物でもないはずだった。

(……王国の軍隊がカルネ村に? カッツェ平野で帝国との戦争が始まる頃じゃないのか――)

 ユンゲが胸の内で疑問を呟く間に、追いついてきたマリーが傍らに身を寄せてくる。

「……何が起きているんでしょうか?」

「正直、分からん。とりあえず、この村がヤバそうな事態ってことだけは確かみたいだな」

 小首を傾げるようにして、上目遣いに向けられる碧の視線に小声で返しつつ、ユンゲは微かな苛立ちを覚えながら空を仰いだ。

 中天を僅かに超えたばかりの陽射しが、やけに眩しく感じられる。

 雲一つない青の天蓋はどこまでも高く澄み渡り、遠く雄大なアゼルリシア山脈の頂きを越えて、遥かな彼方へと広がっているように思えた。

(……こんな美しい世界で、何をやっているんだ)

 鬱屈とするような感情を落ち着かせるために、ユンゲは深い呼吸を繰り返す。

 心地良い草木と土の香りが鼻腔をくすぐり、吐いた息が白い靄となって視界の端に散っていく。

 

「――だったら、持って逃げる時間がないなら、戦う準備をしつつ、食料などの最低限の物を隠す!」

 語気を強めるエンリに神妙そうな面持ちのンフィーレアが、ジュゲムとともに村の方針を話し合っている姿が映った。

 恐怖に抗しようとするかのような強張ったエンリの横顔を慮ったなら、彼女もまた春先の襲撃から負った心傷を抱えているのだろう。

 短い言葉を交わしただけでも、先ずは生活に欠かせない物質を地下室に運び込むことに加えて、相手の目的を知ることを優先すると三人は意見の一致をみたらしい――が、何よりの懸念は迫っている軍勢の数が多過ぎることにあった。

 目算ながら数千という軍隊の規模は、仮にどのような目的や意図があったとしても、辺境の開拓村に差し向ける戦力としては過剰に過ぎる。

(帝国と戦争をするなら、戦力は少しでも多い方が有利に決まっている。……なら、わざわざカルネ村に戦力を割いたことが、王国の立場としてもっと大きなメリットになっているはずだよな)

 より多くの兵士を戦争に動員するために、今年の労役を免除されているカルネ村からも、改めて徴兵をしようというのか。或いは、食料などの物資を供出させるつもりなのか。

 ――どちらにせよ、ユンゲの考えられる範囲では、数千という軍隊を派遣するほどの理由には足りないだろうと思われた。

「……この村にゴブリンさんたちがいることを知られている、という可能性はないかな?」

「それは……ないはずよ」

 言葉を選ぶようなンフィーレアの問いに、エンリが躊躇うように視線を泳がせてから、小さくかぶりを振ってみせる。

 亜人種に属するゴブリンは、冒険者組合においても討伐対象として設定されているように、本来であれば人間に仇をなす危険なモンスターだった。

 アダマンタイト級の冒険者である“漆黒”の二人が、森の賢王と呼ばれた魔獣〈ハムスケ〉を連れているように、組合に所属する冒険者がモンスターを使役しているという形であれば、誰からも咎められることはないのだろうが、辺境の開拓村に過ぎないカルネ村では事情が異なってくる。

 ゴブリンと共存していることが、国家の上層部ないし冒険者組合に露見したなら、モンスターの存在を危険視した討伐部隊が送り込まれるということもあるのかも知れない。

 まだ夏も初めの頃、“翠の旋風”がゴールド級に昇格して間もない時期に、渓流での魚釣りからの帰路で出会ったエンリが――迷惑をかけられた相手であるはずのユンゲとマリーを前にして――ゴブリンの存在を組合には報告しないで欲しい、という願いを口にしていたことが思い出された。

 傍らのマリーに小さく目配せをして、お互いの理解を確かめたなら、エンリが先ほどの答えを逡巡した理由にも合点がいく。

 部外者であるユンゲが、村の方針を決める場に割り込むのは気が引けるものの、黙っているべきではないだろう。

 

「一つ、発言させて貰っても良いでしょうか?」

 努めて落ち着いた態度を心掛けながら、ユンゲは静かに口を開く。

 考え込んでいたエンリたちばかりでなく、正面門の周辺に集まっていた住人たちからの視線も向けられる気配があった。

「えっと、貴方は……どちら様でしょうか?」

 尻すぼみとなった疑問の声は、前髪に隠れた瞳の奥に困惑の色を宿したンフィーレアからだった。

 エンリとジュゲムの後に続いていたユンゲたちの存在に、声をかけられてから初めて気付いたような様子を見れば、それほどに切羽詰まった状況に陥っていたということなのだろう。

 一拍の間を置いて、こちらの紹介をしようと動いてくれたエンリを軽く手で制してから、ユンゲはンフィーレアに向き直って頭を下げる。

「――失礼しました。私はエ・ランテルの冒険者組合に所属する、ユンゲ・ブレッターと申します。彼女たちとともに、冒険者チーム“翠の旋風”として活動しています」

 倣うように会釈をしたマリーたちの様子を視界の隅に捉えつつ、ユンゲは端的に言葉を続けた。

「こちらのカルネ村には、移住者の斡旋をしている“水の神殿”からの依頼を受けて、簡単な調査のために訪問させていただきました」

 首から下げた冒険者のプレートを改めて示したなら、訝るような視線も少しだけ和らいだらしい雰囲気がある。

「――こちらこそ、失礼しました。僕は薬師のンフィーレアと申します。えっと、ブレッターさんは何かお気付きのことが……?」

 律儀に名乗り返してくれたンフィーレアに、「ユンゲと呼んでいただいて構いません」と軽く肩を竦めてみせながら、ユンゲは冒険者組合で依頼を受けたときの状況について説明を始めた。

 一昨日、ユンゲたちが冒険者組合を訪れた時点において、カルネ村がゴブリンなどの亜人種と共存しているといった話題は、妙に面倒見の良い受付嬢の口からも語られていない。

 都市の様子に目を向けてみても、バハルス帝国との戦争が間近に迫る情勢下では、エ・ランテルの住民たちが辺境の開拓村に関心を寄せる余裕はなかっただろう。

 そして、リ・エスティーゼ王国の上層部にしても、差し迫った状況は変わらないと推察できる。

 例年にない冬の季節に帝国から宣戦布告を受けたことに加えて、近隣諸国では最大勢力と目されるスレイン法国が、帝国側の支持を表明したことは、異例中の異例だったと市井の噂になっていた。

「……この時期に、帝国との戦争ですか?」

 やや怪訝そうなンフィーレアの問いに、ユンゲは一つ首肯を返す。

「ご存知ありませんでしたか。昨日、私たちがエ・ランテルを発ったときには、大勢の王国兵士が都市の外周部に集められて、今にもカッツェ平野へ進軍していきそうな様子でした」

 言葉を重ねながら、カルネ村が今年の労役を免除されていたということを思い出す。

 村の男手を徴兵する予定がなければ、わざわざ他国との開戦の報せを寄越してもくれない、ということなのかも知れない――が、春先に起きた襲撃事件を鑑みたなら、帝国との国境にも程近い位置にある開拓村に、注意喚起の伝令くらいは送っても罰は当たらないだろう。

 僅かな間だけ、向かってくる軍隊がカルネ村を防衛するための戦力という可能性が過ぎったものの、事前に連絡がないことを思えば、望みは薄いと考えざるを得ない。

「……とりあえず、カルネ村のゴブリンたちが問題視されての事態ではないと考えられます」

 横道に逸れかけた思考を中断して、ユンゲは言葉を結んだ。

「なるほど……戦争が始まるなら、カルネ村にも徴兵や物資の供出を……でも、それにしては軍隊の規模が――」

 口許に手を当てながら、考え込むンフィーレア。

 やはり、ユンゲと似たような考え方にまでは行き着くものの、確信を得られないらしい。

 同じように頭を抱えているエンリやジュゲムからも視線を外し、ユンゲは小さくかぶりを振った。

 何気なく周囲の様子を見回してみれば、門の付近に集まった悲壮な住人たちの中に、先ほどまでエンリと戯れていた褐色の美女〈ルプスレギナ〉の姿がないことに気付く。

 結局、どういった素性の相手なのかを訊ねる前だったことを思い出すが、今は構っている場合ではないだろう。

 何かが引っ掛かるようなもどかしさを覚えながらも、気持ちを切り替えるようにユンゲが再び寒空を仰ぎ見たとき――、

「……助けて、ゴウン様」

 不意に、幼い少女の呟きが耳に留まった。

 やおらと目を向けた先に、リンダの胸に抱かれたままのネムが、涙を堪えるように口許を引き結ぶ健気な姿。

 閃めきのように思考が一つの道筋として繋がり、リンダとユンゲの視線が交錯する。

「……それが、理由なのか?」

 疑問はユンゲの口を衝いてこぼれた。

「そう……かも知れません」

 表情を引き締め直したリンダが、小さく頷きを返してくれる。

 これまで覚えていた違和感が、更々と解けていくような思いがあった。

「とにかく逃げる準備をしつつ、彼らがなぜここに来たのか、その理由を聞くべきだね。戦いを挑むのは……最後の手段――」

「――アインズ・ウール・ゴウンだ」

 ンフィーレアの言葉を遮り、ユンゲは集まっている村人たちにも届くように声を張った。

「エンリさんからお聞きした、この村を救った凄腕の魔法詠唱者〈アインズ・ウール・ゴウン〉という人物が、関係している可能性が高い」

 その名前を口にした瞬間、固唾を飲むようだった周囲からの視線と空気が、剣呑とひりつくような気配を帯びた。

 

 *

 

「――理解したならば、すぐに門を開けよ! これ以上は、王国に刃向かうものと見做すぞ!」

 王国軍の使者を名乗った男の吐き捨てるような怒鳴り声が、高い塀越しにカルネ村へと響き渡った。

 高圧的な態度で開門を要求する相手に、村の代表者として必死の問答を続けていたエンリの表情にも疲労の色が窺える。

 それでも、カルネ村の門前に集結する軍隊の陣容や目的は、エンリの献身によって知れてきた。

 軍を率いているのは、バルブロ・アンドレアン・イエルド・ライル・ヴァイセルフという名の大柄な男であり、ヴァイセルフの姓が示す通り、リ・エスティーゼ王国における第一王子……つまりは、次期王位継承権の第一位を有する者らしい。

 そして、カルネ村へと軍隊を進めた目的には――やはりと言うべきか、ユンゲが予感したように――バハルス帝国と同盟し、王国への敵対姿勢を表明した謎の魔法詠唱者の存在が影響していた。

 使者である騎士は、「アインズ・ウール・ゴウンと関わりのあった村人たちの調査を行いたい」と声を張っていたものの、少しばかり物見櫓に登らせてもらったユンゲが確認できた範囲であっても、完全武装の兵士たちの仰々しい様子を思えば、調査が友好的なものとは考えられなかった。

 そうして、ユンゲの仮説を是認する使者からの物言いに、集まったカルネ村の住人たちの意見は、軍隊の受入と拒否で紛糾されてしまっている。

 村の大恩人である“アインズ・ウール・ゴウン”が帝国側についたのであれば、間違っているのは王国側だと断じる自警団の一人に同調する声が上がり、一方では調査を受けるだけなら問題ないのではないかと戸惑う婦人たちの姿もあった。

 何を考えるにしても、目前まで迫る数千という規模の軍隊は脅威であり、不安を煽るような軍馬の嘶きに晒されながらの村人たちに、冷静な判断を求めることは酷だろう。

 救いを探すように見つめられてしまったエンリも、板挟みとなる状況では、村の命運を左右する決断をできずに口を噤んでいた。

 全員の脳裡に過ぎるのは、春先に故郷の村を焼かれたことへの恐怖であることを思えば、部外者に過ぎない――加えて、国家に帰属しない冒険者の身分であるユンゲたち“翠の旋風”が、口を出す訳にもいかないだろう。

 四人で顔を見合わせながらも、妙案は浮かばないままに無為な時間ばかりが過ぎてしまう。

 

 そうした風向きが変わったのは、焦れたように続けられた使者からの怒声だった。

「……直ちに門を開けよ! お前たちの不審な行動は国家への反逆となる! 嫌疑を晴らしたくば、代表者はカッツェ平野の戦場へと赴き、アインズ・ウール・ゴウンに降伏の嘆願をせよ! それをもって、お前たちの忠誠が王国に向いていること、王国の民であることを証明せよ!」

 捲し立てられた恫喝の内容に、場の空気が一変する。嫌悪……或いは、憎悪に等しい感情なのかも知れない。

 周囲の村人たちから発せられた肌のひりつく気配に、ユンゲは大気が揺れているかのような錯覚に陥る思いがあった。

「戦場に連れて行かれ、あの方の足手まといになるのは御免だ」と叫ぶ老人に同調する意見が続き、「森の中に逃げ込もう。ここで悩む前に、後のことは後で考えればいいんだ」と壮年の男が自棄のようにも声を荒げた。

 喧々囂々といった雰囲気に包まれながらも、村人たちの胸に共通している思いは、“恩を仇で返すような真似はできない”という強い感謝の念なのだろう。

 カルネ村の窮地を救っただけでなく、復興にも手を差し伸べているらしいアインズ・ウール・ゴウンという人物と過酷な労役や税を課すばかりで、肝心なときには何もしてくれない王国の有り様を比較したのなら、村人たちの選択は至極当たり前の反応だった。

(……これは、不味いよな)

 徐々に熱を帯びていく村人たちの様子を遠巻きに眺めながら、ユンゲは事態の推移に危機感を募らせる――と、不意に空気を裂くようないくつもの風切り音が飛来した。

 反射的に目を向けた先、門に隣接する物見櫓に突き立ったのは、赤い軌跡を描いた火矢だった。

「――なっ、何が!?」

 次々と降り注いだ矢が木の骨組みを穿ち、カツカツと乾いた音が幾重にも響く。

「エンリの姐さん、離れてください!」

 叫んだジュゲムが棒立ちとなったエンリの手を引っ張り、「早く!」と走り出した瞬間だった。

 物見櫓の先端から、真っ赤な炎が噴き上がる。

 藁を葺いただけの簡素な屋根は瞬く間に燃え上がり、方々で痛切に過ぎる悲鳴が上がった。

 

 ――敵だ!

 

 折り重なる悲鳴の間隙に、誰かの声が響いた。

「あれは敵だ! 敵じゃなければ、あんなことはしない!」

 俺は戦うぞ、と男が拳を振り上げて怒鳴り、王国は屑だと金切り声を上げる女の向かいでは、「奴らを一人でも多く道連れにしてやる! あいつの仇を取るんだ!」と若者が吐き捨てた。

 激烈な怒りの言葉が、狂気にも似た感情の奔流となって押し寄せてくる。

 思わず半身を引いてしまったユンゲに、冷徹にも聞こえるジュゲムの声音が耳朶を震わせた。

「……エンリの姐さん、決を採るべきですよ」

 頼もしいゴブリンの戦士に手を引かれていた少女が、息を飲むように周囲へと視線を巡らせる。

 やや遅れて駆け寄ったンフィーレアが、エンリの細い肩に手を置いて小さく頷いてみせていた。

 無言のままに見つめ合い、やがて小さく頷きを返したエンリが、大きく息を吸い込む様子が伝わってくる。

 ヴァイセルフ王家の人間に率いられた王国の軍隊が、王国の民であるカルネ村の住人たちに向けて攻撃を仕掛けてしまった。

 ――その事実は、何よりも重い。

 ユンゲは押し殺した溜め息とともに顔を伏せ、鈍い痛みを堪えるように顳顬を手で押さえた。

 この場にいる皆で村の総意を決します、と気丈に声を張るエンリをどこか遠くに感じながら、ユンゲはやおらと空を仰ぎ見る。

「村として、王国の提案に賛成な方いらっしゃいますか!」

 声を上げる者は一人もなく、ただ耳に痛いほどの静寂のうちに、頬を打つ風は凍てつくような冷たさを孕み、棚引く白雲が群青の大河を流れていく。

「ならば、命をかけてでも反対する! 王国と戦う、という方は挙手してください!」

 大気を破らんばかりの喚声に、傍らのキーファとマリーが身を強張らせる気配があった。

 固く握り締められた拳が、覚悟の表情とともに数多と乱立していく。

「――では、戦いましょう! 私たちは戦い、恩義を返します!」

 死を厭わない村人たちの叫びは、いつしか巨大な獣の咆哮となっていた。

 

 




この物語に関係はないのですが、今更ながら“オバマス”を始めました。原作書籍などとは全く違う展開に続きが気になるものの、レベルを上げないと先に進めないのが大変ですね。
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