オーバーロード 新参プレイヤーの冒険譚   作:Esche

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甘々な展開を描いてみたかった。
反省は……。


dumb, wishy-washy

「――カッツェ平野を真っ直ぐに南東まで抜けると竜王国。そこからはビーストマンの大草原、いくつかの山や谷を越えつつ、ずーっと進み続けた荒野の向こうに、ようやくと現れる“古代の魔法都市”か」

 頭の中で地図を広げながら口にしてみれば、あまりの果てしなさには溜め息も出ない。

 前回から参加しているカッツェ平野の共同調査を踏まえても、その全域を探索するまでには至っておらず、更に先を目指す道程がどれほどに困難となるのかは想像もつかない。

 そうして、やっとのことで目的の古代都市遺跡に辿り着けたとしても、お目当てのマジックアイテムを発見できる保証はないのである。

「…………えっと、“アンデッドでも飲食可能”になるアイテムだよなぁ」

 アインズ・ウールゴウン魔導国を統べる絶対の支配者――“魔導王”に招かれた宴の席で見かけた意外な光景を思い返してみれば、随分と思いつきだけで発言をしてしまったものだと、ユンゲは湯船の中で静かに頭を抱えていた。

 突然の異世界転移を経験し、転移前には経験できなかった様々な料理や美酒に魅了されたユンゲとしては、飲食のできない不死者〈アンデッド〉の身体があまりにも不憫に思えてしまったのだ。

「……ゴウン様も、ちょっと期待していそうな感じだったし、頑張るしかないよなぁ」

 ぶくぶくと鼻先までも熱い湯の中に沈めるようにしながら、ユンゲは答えのない思案に耽ける。

 ――城塞都市〈エ・ランテル〉において、最高級の名を冠する宿屋“黄金の輝き亭”。その中でも貸切風呂付きの特別な客室は、魔導国傘下になった冒険者組合の福利厚生として提供されなければ、決して利用することはなかっただろう。

 そして、「未来への投資だ」と楽しそうに語っていた魔導王の言葉に、際限なく膨れ上がっていく大恩が重圧となってしまうのも確かだった。

 

「ユンゲ、お疲れだねー」

 不意の呼びかけにやおらと視線を向ければ、脱衣所の扉から顔を覗かせたキーファが、可愛らしく小首を傾げていた。

「んー、まぁ……何というか、ゴウン様のお世話になってばかりだからな」

「ははっ、ホントだねー」

 軽く肩を竦めてみせたキーファは何事もなく浴室へと足を踏み入れるや、さっと掛け湯を流してから軽やかに湯船の縁を跨ぎ、スーッと手を突くように泳ぎながらユンゲの傍らにやってくる。

「いや、だから……もう少し恥じらいをだな――」

「まっ、良いから良いから!」

 屈託のない笑みとともに華奢な身体をくるりと寄せられたのなら、纏め上げた栗色の髪が柔らかに揺れて鼻腔をくすぐるのは甘い香り。

 こちらに躊躇いもなく凭れかかってくる無防備なキーファの振る舞いに、ユンゲは内心の焦りを堪えながら喉奥で息を呑んだ。

 ほっそりとした肩や首筋、健康的な素肌の白さは眩しいばかりで、特有の細長い耳にかかる髪を梳いていく繊細な指がいらない妄想をかき立てる。

 辛うじて平静を取り繕えていられるのは、何度となく入浴中に突撃されたことによる“慣れ”であり、ようやくと浴室内ではタオルを巻くことに了承してくれたからに他ならない。

 一般的な公衆浴場で湯船にタオルを持ち込むのはマナー違反だと思っているものの、客室付きの貸切風呂であれば適用されない……はずだ。

 そうでなければ、ユンゲは早々になけなしの理性を失ってしまう事態となっていただろう。

 もっとも、湯に浸かったタオルは、白い柔肌へと吸いつくように森妖精〈エルフ〉の繊妍とした肢体を却って浮かび上がらせてしまうのだが――、

(……マジで、こっちは大変なんだよ)

 ふと淡いにごり湯の中で揺らめくのは、短めなタオルの裾からすらりと伸びる少女の脚線美。

 あまりに魅惑的な光景から無理矢理に視線を逸らし、ユンゲはカッツェ平野に蔓延るアンデッドの群れと戦った記憶を思い返していく。

 しかし、骸骨〈スケルトン〉や動死体〈ゾンビ〉を範囲魔法で薙ぎ払い、骨の竜〈スケリトル・ドラゴン〉の巨軀を蹴りつけ、振り下ろした剣腹で散々に打ち砕いても、一向に雑念は晴れてくれない。

(――――っ、もっと何か考えろ!)

 難題ばかりを吹っかけてくる嫌味な皇帝、好々爺を装いながらも執拗な魔法狂いの老宮廷魔術師、断り続けているのに何度でも押しかけてくる厚かましい大闘技場の狸親父――それらの脳裡に思い浮かべた錚々たる顔触れは、気持ちを萎えさせるために相応しいはずだった。

 

「むぅー、ユンゲはこっちを見てよ!」

「んっ、あぁ……いや、勘弁してくれよ」

 不意の呼びかけに肩を落としたユンゲが、やや背けるようにして顎先を持ち上げたのなら、ぷくりと頬を膨らませて抗議するキーファの横顔。

 不満を訴える横合いからの上目遣いに、ほんのりと朱の差した頬は可愛らしく、ふと垣間見えた艶やかな鎖骨から覗く誘いには、やはり抗い難い想いが胸の内から込み上げてしまう。

 衝動に身を委ねてしまいたい湯情の中で、ギリッと鷲掴みにした太腿部の肉を握り潰し、ユンゲは鋭い痛みで強引に理性を呼び覚ます。

「と、とりあえずは、ゆっくり風呂に――」

「――ねぇ、あたしにでも……魅力は感じてくれてるんだよね?」

 誤魔化すための言葉は遮られ、野葡萄色の真剣な眼差しに迎えられた。

 そして、僅かに湯を波打たせている繊麗な身体の震えに、隠し切れない不安の影を見遣れば――、

「……っ、当たり前だろ。だから、こうして堪えてるんだよ」

 いつかの涙跡が思い起こされるようなキーファの正面に向き直り、ユンゲは勢い任せの情けない台詞を言い放っていた。

 流石に鈍感を気取るつもりはなく、キーファからの好意を理解している。

 しかしながら、その端緒となった出来事は間違いなく“最初の出会い”であり、虐げられていた彼女たちを奴隷の身分から解放したことだろう。

 かつての過酷な日々を振り返り、使い潰されるのを待つばかりだったと寂しそうに述懐していたキーファたちを目の前にすれば、自身の行為は間違っていなかったと確信できる。

 そうであっても、ユンゲが英雄譚に謳われるような義侠心を持ち合わせていた訳ではない。

 今更にして思い返したのなら、偶然から手にした身の丈に合わない“ユグドラシルの恩恵”に自惚れて不相応な力を振るい、少しばかり良い格好をしてみただけに過ぎないのだ。

 そして、相手の不幸な境遇につけ込むような小狡さに嫌悪感を覚えて、自分にばかり都合の良いからと葛藤していたことも、あのカルネ村での月夜にマリーの身体を求めてしまった事実から、言い逃れることは決して許されない。

(……今更になって、俺が真人間っぽい誠実な振りをするのは烏滸がましいよな)

 

 これまでに散々と内心で重ねてきた言い訳も、或いは転移前の倫理観を建前にした甲斐性なしの戯れ言に過ぎなかったのだろう。

 僅かに頭上を仰ぎ見たユンゲは、ゆっくりと一つ大きく息を吐いた。

 ユグドラシルを“ぼっちプレイ”で過ごしていた頃とは違う――これからの未来を思い描こうとしたのなら、キーファたちと離れることは微塵も考えられないのだから、たとえ謗りを免れないとしても腹を括るべきなのだと分かっている。

「……もう少しだけ、待っていて欲しい」

 不安と期待が綯い交ぜになっていたキーファの瞳を真っ直ぐに見つめ、せめて真摯に言葉を続ける。

「本当は今すぐに抱きたい……けど、まだダメなんだ。“紛いもの”の俺が、自分の力を誇れるようになるまで……そのときはキーファを抱かせてくれ」

 あまりにも身勝手な台詞には自身でも苦笑いすることしかできないものの、それは偽りのないユンゲの本心であった。

 こちらを見つめ返していたキーファが浮かべるのは、ふと呆気に取られたような表情。

 その様子に一抹の申し訳なさを覚えつつも、ユンゲは努めて口許を引き結ぶ。

「……ほ、ホントに?」

 消え入りそうなキーファの問いかけ。

「あぁ、撤回するつもりはない」

 はっきりと言い含めるように答えたユンゲは、たとえ最低男と揶揄されようとも殆ど開き直ってみせるくらいの心境で強く頷いてみせた。

「――ほ、ホントに!? えっと……でも、ユンゲは剣も魔法も凄いし、とっても頼りになるよ?」

 驚きに見開かれた瞳と僅かばかり弾んで聞こえるキーファの声音――そして、当然の疑問が浮かぶ気配を前にして、ユンゲは小さくかぶりを振った。

「――いや、足りない。これは俺自身の力じゃなくて……ただの“チート”というか、神様からの貰ったみたいなものんだからさ」

 かつて、帝都〈アーウィンタール〉の大闘技場で挑んだ賭け試合――実力差を考えれば最初から負ける要素があるはずもなく、彼女たちを救い出すことができたのは必然であり、決して胸を張って誇れるような出来事ではなかった。

 ――それが、長らくと燻り続ける負い目になっていたのだろう。

 こちらの意味が分からないであろう説明に、特大の疑問符とともに小首を傾げるキーファを見遣り、ユンゲは軽く肩を竦めてみせた。

「――俺は強くなりたい。偽りの力じゃなくて、胸を張れるように自分で努力してさ。それで、自信を持つことができたら……ってことかな」

 随分と嵩増しされた能力にはなってしまうが、やはり何でも気の持ちよう次第だろう。

「……むぅ、それって結局どれくらいの強さになったら抱いてくれるの?」

 再び頬を膨らませたキーファは抗議の上目遣いを向け――、不意打ちの笑顔とともに立ち上がる。

「でも……“言質”は取ったよ!」

 殊更に元気な声がユンゲの耳朶を震わせ、ザァッと鮮やかな湯飛沫が広がった。

 

「――――っ!?」

 優れた半森妖精〈ハーフエルフ〉の動体視力が、刹那の絶景を網膜に焼きつける。

 湯船に浸かり、しっかりと湯を含んで重くなっていたタオル――身体に巻き付けていても、胸元で軽く留めていただけの結びは立ち上がった勢いに負けて、あっさりと解れてしまったのだろう。

 浴室内に灯されていた〈コンティニュアル・ライト/永続光〉が、前触れもなく輝きを増したような気がした。

 はらりと落ちていく布地の合わせから露わとなるのは、小振りながらも形の良い真っ白な双丘。

 温かな湯に当てられて、桜色に映えていく下腹部からは、日頃の鍛錬で引き締められた腰回りへと艶めかしい曲線が続いている。

 惜しげもなく晒された裸身の眩しさに思わずと見惚れてしまうユンゲは、数瞬ばかりの間を置いてから、ようやくと意識を取り戻した。

 遅れて視線を落とした先――、ふと沈んでいったキーファのタオルを慌てて湯底から拾い上げ、焦りに顔を背けながら突き返す。

「――頼むから早く隠して……って、うぇっ!?」

 伸ばした手を不意に払われたかと思えば、いきなり首許へと抱きつかれていた。

 するりと背中に回されたキーファの細腕からは、あまりに心地良い締めつけ。

 跳び込んでくる勢いに押しつけられ、張りのある瑞々しい乳房が、むにゅっと蕩けるような柔らかさで胸板の上に潰れる光景は刺激的に過ぎており、視覚と触覚の暴力に晒された理性が飛びかける。

 ピタリと寄せられる湯よりも熱い身体と、間近に迫った微笑み――もう僅かな揺れでも互いの口唇が触れてしまいそうなほどの距離に、ユンゲは否応もなく狼狽えてしまう。

「お、おい……キーファ!?」

「んー、どうしたの?」

 こちらが仰け反っているのも構わずに、やや見下ろすような馬乗りの姿勢から向けられるのは、悪戯めいた野葡萄色の視線。

 楽しそうに持ち上げられたキーファの口許を見遣れば、ぞくりとした予感が背筋に迸っていく。

「良く分からないけど、ユンゲが自信を持てたら良いんだよね? じゃあ、それまでは頑張って堪えてくれれば……ん、頑張らなくても良いのか」

 こっちも元気みたいだしね、と含みのある揶揄いの台詞は小悪魔の誘い。

 これまではチーム内においても可愛らしい稚気を発揮してくれていたキーファが、こうした婉艶とした振る舞いを見せることにユンゲは戸惑い、倒錯的なギャップに駆られてしまう。

「――ま、待って。本当にヤバい!」

「我慢できない? あたしは一向に構わないよ。ユンゲが我慢できないなら、こっちのものだしね!」

「…………っ、頼む。今は勘弁してくれ」

 ほっそりとしたキーファの肩を掴み、ユンゲは少しだけ力を込めて押し返す。

「むー、つれないなぁ」

 ペタンと湯底に腰を下ろしつつ、わざとらしく口を尖らせたキーファが、「……でも、どうせならリンダも一緒の方が良いか」と目許を綻ばせた。

 さらりととんでもない発言を受けて面喰らってしまうが、今は冗談として聞き流すべきだろう。

 このままの雰囲気に呑まれていけば、脆弱な理性の枷は僅かでも保ちそうになかった。

 そうして、男としては垂涎の情景を目の前にしながらも、まだ手にしていたタオルをキーファに突き返し、ユンゲは取り繕うように言葉を紡いでいく。

 

「――ってかさ、パーティメンバーの全員に手を出そうとしてる奴って、客観的に見たら危ないと思わないか? あまりに節操ないというか……」

「そうかな? 森妖精〈エルフ〉の王様とか、そんな感じみたいだよ。沢山の妾さんを集めてるし……それに、人間でもそうじゃない?」

 ピンと立てた人差し指を顎先に添えながら、「ほらっ、“英雄は色を好む”みたいな」と笑みを浮かべてみせるキーファは、あまりに無邪気だった。

「いや、流石に王様を基準にされてもなぁ……」

 思わずと苦笑いを返しつつ、ユンゲは半ば諦めるように身を投げ出して頭上を仰いだ。

 王族であれば自らの血筋を絶やさないために色々と手立てを講じる必要もあるのだろうが、こちらは一介の冒険者に過ぎない。

「……比較するだけでも、変な話だよ」

 ふと天井に備えられていた〈永続光〉が視界に散らつき、ユンゲは小さな溜め息をこぼした。

 何となく夜空に浮かぶ星たちを眺めたい気分だったので、ここが露天風呂でなかったことを少しだけ残念に感じてしまう――と、

「んー、どうかしたの?」

「あぁ、いや……ちょっと前に似たような話を聞かされたことを思い出してさ」

 傍らに身を寄せて覗き込んでくるキーファを見遣り、ユンゲは肩を竦めるように苦笑いを返した。

 以前に呼び出された貴賓館での記憶を探り、バハルス帝国の重鎮たちと交わした“世間話”を振り返ってみれば、帝国騎士団の装備を山小人〈ドワーフ〉のルーン製に新調する報告に始まり、皇帝からの寵愛を拒否して次世代の養育だけに力を注ぐ稀有な愛妾、四人の妻の尻に敷かれる帝国最強の騎士といった意外な話題に触れたことを思い出す。

 そうした内情をこちらに伝えてきた“鮮血帝”ジルクニフ・ルーン・ファーロード・エル=ニクスの狙いは知りたくもないが、その軽妙な語り口は人心の掌握に長ける鮮やかなものだった。

 やはり、権力者や実力者には様々な思惑とともに多くの異性が集まるのは自明なのだろう。

 頑強な騎士像を体現していた“雷光”バジウッド・ペシュメルが、女性に絆されやすいと揶揄われていたのは新鮮だった。

 何故か上機嫌なジルクニフという不吉の代名詞を前にして、気の休まらない時間ではあったが、それなりに貴重な機会となったのかも知れない。

「……えっと、王様が無理なら“雷光”さんに相談してみるのはどうかな? とりあえず、ユンゲが早く自信を持ってくれれば良いんだよ」

「んっ、いや……そこまで気安い相手じゃないし、そういう自信とは少し違うというか――」

 名案だ、とばかりに目を輝かせるキーファを宥めつつ、ユンゲはこぼれそうな溜め息を飲み込む。

 確かに一夫多妻を実践しているバジウッドに相談することができれば、甲斐性なしのユンゲであっても何かしらの参考意見を得られるだろう。

 しかし、間違いなくキーファたちの尻に敷かれる結果となるのは、火を見るより明らかだった。

 これまでにも散々と醜態を晒しているので、今更に取り繕ったところで意味はないのだろうが、ユンゲにも米粒ほどのプライドがある……はずなのだ。

 

「――何か気にしてるみたいだけど、周りからの印象はそんなに変わらないんじゃないかな?」

 んーっ、と気持ち良さそうに湯船の中で伸びをしていたキーファが可愛らしく小首を傾げながら、こちらに柔らかな笑みを向けてくる。

 綺麗な野葡萄色の瞳に映っているのは、煮え切らない態度で唸るばかりの情けない男の姿。

「……変わらない、って?」

「たとえば、“漆黒”のモモンさんとナーベさんは恋仲だ、って噂されてるよね?」

 ――実際のところは分からず、本人たちも否定しているが、傍目にはそうとしか思えないだろう。

 駆け出し冒険者向けの酒場において、強面の主人から詰められても相部屋を拒否する二人を初めて見かけたとき、ユンゲは素直に納得した覚えがある。

 稀代の英雄として名声を馳せる現在でも、長らくと滞在していた“黄金の輝き亭”を引き払った後は、二人住まいの邸宅を構えているほどなので、市井の噂が尽きることはないと思われた。

「まぁ、確かに……そんな感じだよな」

 曖昧に受け答えてみるが、ユンゲは発言の意図することを掴めない。

 こちらの疑問を察したキーファが、やれやれと肩を竦めながら呆れるように溜め息を一つ。

「――ほらっ、ユンゲは普段からエルフの美少女を三人も侍らせてるんだからね!」

 衒いもなく自らを“美少女”と言い切って立ち上がり、「えっへん!」と軽やかに胸を張ってみせる。

 入浴時は纏め上げている艶やかな栗色の髪と、どこか幼さを残しつつも凛とした顔立ち。

 均整の取れた華奢な肢体を気持ちばかりの巻きタオルで隠しただけの立ち姿は、実に堂々としていながら可憐で魅力的な“美少女”だ。

 そして、この場にはいない“翠の旋風”の仲間たち――リンダやマリーにしても、そうそうと出会えないほどの美貌の持ち主であることを思えば、周囲の人々から嫉妬や羨望めいた視線を向けられた記憶も一度や二度では足りない。

「あぁ、なるほど……無性に情けなくなってきた」

 ようやくと意味を理解し、ユンゲは羞恥に火照る顔を抑えるように、力なくかぶりを振った。

「……俺って、こんなにヘタレだったかなぁ」

 結局、これまでは自身の優柔不断さを適当な理由付けで、誤魔化していただけなのだろう――と、

「大丈夫だよ、ユンゲ」

 ふと間近からの呼びかけは、柔らかく甘い囁き。

 そうして、するりと再び無防備に凭れかかってきたキーファが、肩越しにこちらを振り返る。

「あたしたちの英雄〈ヒーロー〉なんだから、ユンゲは大丈夫だよ。……早く自信を持ってね!」

 そこに咲き誇っている満面の笑みを眩しく見つめて、ユンゲは無意識に肩の力を抜いていた。

 帝国の重鎮に相談を持ち込むのであれば、菓子折りくらいは用意するべきなのだろうかと、そんな取り留めのない考えを胸の内に抱きながら――。

 

 

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