仮面ライダー電王LYRICAL StrikerS Vol.1 Spring Party   作:(MINA)

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第十一話 「オーナーからの贈り物」

機動六課隊舎の廊下を高町なのははこれから教導するフォワード四名を連れていた。

(そういえばこういうケースは数少ないなぁ)

なのはの教導は大概が一《自分》対多数(十名以上)のものであり、四名というのは少ない部類に入る。

利点とすればそれぞれの長所と短所に徹底的に向き合えるという事だ。

欠点は少人数ゆえに短所が浮き彫りになりやすいという事だ。

(でもやりがいがあるのは確かだけどね)

なのははチラリと自分の後ろを歩いている四人を見る。

(頑張らないと!)

人に何かを教えるのに必要なモノと何だろう?と訊ねられて即答できる人間はそうはいないと、なのはは答えるだろう。

彼女とて『教導に王道はない』と考えているので、『こうすればいい』とか『コレさえやってれば完璧』というようなものがあえて持たないようにしている。

後から会話が一つもないのに、なのはは不思議と感じた。

(もしかして……)

フォワードというポジションに就く事になっている四名はまだ互いに自己紹介をしていないのではないかと。

スバル・ナカジマとティアナ・ランスターは数年間コンビを組んでいるので、今更する必要はない。

だが残りの二人---エリオ・モンディアルとキャロ・ル・ルシエは違う。

フェイト・T・ハラオウンの話ではこの二人は二週間前に知り合ったばかりなのだ。

もちろん、この二人がこれからフォワードというポジションで苦楽を共にするスバルやティアナを知っているはずがない。

「そういえば自己紹介はした?」

なのはは訊ねてみる事にした。

「え、えと……」

「名前と経験やスキルの確認はしました」

「あと部隊分けとコールサインもです」

スバルがどもるが、ティアナとエリオが報告した。

ちなみにキャロは発言した三人の顔を見ながら黙ったままだった。

(そこまでやってたんだ……)

なのははまだこの四人の人間関係は『仲間』ではなく、『同僚』か『知り合い』レベルだと認識する事にした。

(これから変わっていくんだね……)

「そっか。早速だけど訓練に入りたいんだけどいいかな?」

「「「「はい!」」」」

全員が声を揃えて返事をして、姿勢を正した。

 

 

コハナに気絶させられていたモモタロス達はというと。

「あーあ。イマジンぶちのめしてぇ」

満天の青空を見ながら、隊舎の外の芝生で寝転がっているモモタロスは別世界《ここ》の住人が聞いたら卒倒してしまいそうな事をサラリと告げた。

「センパイ。気持ちはわかるけどもう少し言葉を選んだ方がいいって。僕達ただでさえ、立ってるだけで恐れて逃げられちゃうポジションにいるんだしね」

ウラタロスはモモタロスを窘めるものの、ここ数週間で不必要に怖がられている事には内心穏やかではなかった。

「さっさと『サイキョウニシテサイアクナルモノ』をぶちのめして、帰りたくなるなぁ」

比較的細かい事には気にしないキンタロスも露骨に恐れられる事にストレスを感じており、自分達の『使命』をさっさと切り上げたがっていた。

「ふあーあ。僕もう一眠りするね~」

シャボン玉銃で遊んでいたリュウタロスも飽きてしまい、芝生に寝転がって睡眠を取ろうとしていた。

「アンタ達っていっても、私もやることないのよね~」

ミッドチルダの文字に慣れようと新聞を読んでいるコハナも、新聞を畳んで枕代わりにして寝転がっていた。

チームデンライナーはあぶれていた。

正式な局員でもないので時空管理局の仕事をさせてもらえるわけがないというのも重々承知しているが、『退屈を埋めたい』という欲求を抑えるのは至難の業かもしれない。

「赤チビや銀チビでもからかいにいくか?」

「やめなって。ボコボコにされちゃうよ」

モモタロスの思い付きをウラタロスがダメ出しする。

「なのはの修行の現場に行ってみるってのはどうや?」

「僕行くー!!」

キンタロスの提案にリュウタロスは即座に乗った。

「迷惑かけるんじゃないわよって、私も行こっと」

寝転がっていたコハナもキンタロスの案に乗り気になっていた。

チームデンライナーは退屈しのぎに、なのは達の訓練を見学する事にした。

 

 

「はい侑斗さん。私からの餞別や」

八神はやてはヘリの発着場へと向かう中で桜井侑斗に三枚のカードを渡した。

そのカードは、ゼロノスを知る者ならば誰もが見覚えのあるものだった。

黒い本体に緑色と黄色のカラーが施されているカード。

本体色は同じだが、緑色と赤銅色のカラーが施されているカード。

黄色と赤銅色のカラーが施されているカード。

計三枚をはやては侑斗に渡していた。

「ゼロノスカード?」

口を開いたのは野上良太郎だ。

「お前が作ったのか?というよりお前、作れたのか?」

侑斗がそのような事を言うのも無理のないことだった。

使用者である侑斗も実を言えばゼロノスカードがどのような構造になっているかなんて全く知らない。

それはF1レーサーが自身のマシンのメカニズムがどのようになっているかを事細かく知らないのと同じ様なものなのかもしれない。

「間違えたらアカンのはコレをゼロから設計したんは『青い狩人』なんよ。それでここまで作ったんはマリーさんや」

「「マリーさん?」」

良太郎と侑斗は首を傾げる。

「はやて。良太郎達はマリーさんを知らないって」

フェイトがはやてに指摘する。

「ああ、そやそや。堪忍な。このカードを作ったんはマリーさんことマリエル・アテンザさんなんよ」

それでも二人の青年は首を傾げるだけだった。

「会った事がないんじゃ無理もないけどね」

フェイトは苦笑いを浮かべるしかなかった。

「で、このカードにはどんな効力があるんだ?」

侑斗が三枚のカードを一瞥してから、はやてを見る。

「外見は侑斗さんのゼロノスカードそのものといってもええ出来になってるけど、そのカードはダミーゼロノスカード(以後:ダミーカード)なんや」

「ダミー?てことは劣化品ってことか?」

「欠点がある以上は劣化品といわれても仕方あらへんね。何せそのダミーカードはある場所限定のカードなんよ」

侑斗の評価にはやては首を縦に振る。

「ある場所限定?」

 

「陸戦空間シュミレータ限定のカードや」

 

「フェイトちゃん。陸戦空間シュミレータってなに?」

良太郎は隣のフェイトに訊ねる。

「リアル体感できるシュミレータールームって言えばわかる?」

「現実に近い設定で色んな訓練が出来る部屋ってこと?」

「うん。それで合ってるよ。なのはがスバル達を連れていってるのもその部屋なんだ」

「そのカードがあれば侑斗さんはシュミレータ内やったら無代価で変身が出来るわけや」

良太郎とフェイトが話し合っているが、はやては気にせずに侑斗に説明を続ける。

「仮に外で使ったらどうなるんだ?」

「多分やけど、動かへんと思うで。試しようにも試せる人がおらへんかったからわからへんのが本当の話なんや」

はやては自身の失態のように申し訳ない表情をしている。

「限定的だが無代価で変身できる、か……。訓練にはもってこいかもな」

良太郎を一瞥してから手にしている三枚を侑斗は凝視する。

「ユウトさん。くれぐれもなくさないようにするですよ!なくしたら、紛失届けとかを書かなきゃいけなくなるですから」

はやての隣で浮遊しているリィンが釘を刺してきた。

「わかってる。ありがとな八神」

「え、ええって。私と侑斗さんの仲やん。今更お礼なんか言われたら私照れてまうって……」

侑斗に素直に礼を言われて、はやては顔を赤くしてしまう。

憎まれ口の叩き合いくらいが自分達にはちょうどいいコミュニケーションと感じているからだろう。

「はやてちゃん。お顔が真っ赤ですぅ~」

「本当だ。これは、なのはとシャマルに報告しておかないと」

リィンは純粋にはやてのリアクションを見てはしゃぎ、フェイトは普段弄られている仕返しとしてこの手の話に興味津々のなのはや三度のおかずよりもこの手の話が大好きな

シャマルに報告しようとしていた。

「ちょっ!やめてぇ!私の威厳がなくなるやん!?」

「そんなのお前にはないに等しいものだろ」

はやてがフェイトに抗議するが、侑斗はサラリとキツイ事を言う。

「なっ!?侑斗さん、すぐそういう意地悪言う!!」

「事実なんだから仕方ないだろ」

「むー!!」

侑斗を睨みながら言うが、睨まれている側はどこ吹く風の調子で受け止めていた。

 

発着場に着くと、ヘリコプターのジャイロが回転しながら騒がしい音を奏でていた。

ヘリコプターの側でヴァイス・グランセニックはこれから搭乗する三人を待っていた。

まだその三人の姿は見えていない。

「仮面ライダーかぁ……」

これから同じ職場で手を取り合っていく相手を呟く。

ヴァイスにとっての『仮面ライダー』は電王やゼロノスではなく、『青い狩人』のAゼロノスの事を言っている。

彼及び機動六課のスタッフほとんどが『P・T事件』や『闇の書事件』に電王やゼロノスが深く関わっていた事を知らない。

いきなり現れてこれから仲間と言われても戸惑うのが当然だ。

(確か電王---野上さんの方がシグナム姐さんを倒したって人なんだよなぁ)

ヴァイスは良太郎の顔を思い浮かべる。

印象としては『優男』という感想だった。

とてもあのシグナムを倒せる力を持っているとは思えなかった。

だが見かけで判断してはならないという事は管理局に勤めて八年の彼は知っている。

現に自分の上司となる存在はみな、その例に当てはまるからだ。

(そういや野上さんの事を話す時のシグナム姐さん、今までに見たことねぇ表情《顔》するんだよなぁ)

シグナムとて女性。色恋沙汰に縁がないわけではない。

(どっちかつーと同姓にモテるんだけどなぁ)

過去に何度かシグナムが女性局員に花束やらプレゼントなどをもらっている現場を目撃した事がある。

(ま、まさかシグナム姐さんって野上さんに……)

ヴァイスは『まさか』の予想をする。

(でも野上さんってフェイトさんのフィアンセって噂が……)

そしてそれは決して外れてはいないという事を彼は知る由もなかった。

「あ、来た」

これから乗せる三人と見送りに来た二人が発着場へと足を踏み入れてきた。

「あ、ヴァイス君。もう準備できたんか?」

「準備万端!いつでも出れますぜ!!」

はやての言葉にヴァイスは即答する。

「うわっ。このヘリ、結構新型なんじゃない?」

フェイトが新型が機動六課の御用達のヘリコプターを一瞥しながら訊ねる。

「JF七〇四式。一昨年から武装隊で採用され始めた新兵器です。機動力も積載力も一級品ですよ!」

ヴァイスが誇らしげに語る。

やはり自分はヘリコプターの話をしている時が一番『生きている』という実感があるようだ。

「こんな機体に乗れるってのはパイロットとして幸せですねぇ」

ヴァイスが悦に浸ろうとした時だ。

「むっ!ヴァイス陸曹!!」

リィンが前に現れた。

「ヴァイス陸曹はみんなの命を乗せる乗り物のパイロットなんですからぁ!ちゃんとしてないとダメですよぉ!」

リィンがヴァイスに自身の責任を再確認させる。

「ヘイヘイ。わかってまさぁね!リィン曹長」

とヴァイスは特に恐縮するわけでもなく返す。

「あのぉ」

ヴァイスはヘリコプターの周辺を見回している二人が目に入る。

その二人とは、フェイトとはやてではない。

良太郎と侑斗だ。

「何やってるんスか?お二人は……」

 

「「え?」」

良太郎と侑斗は同時にヴァイスのいる方向に顔を向けて、声を出した。

揃ってはいるが、狙って行ったわけではないというのはすぐにわかった。

「僕達の世界ではヘリなんてテレビくらいでしか見れないから」

「生で見るなんて貴重な体験だからな。この際……」

良太郎達はいくらイマジンと戦っている『仮面ライダー電王』、『仮面ライダーゼロノス』といっても世間での立場は『一般人』である。

ハッキリ言えば、ヘリコプターを拝めずに一生を終えてしまうことも別段おかしくない事だった。

「侑斗さんだって持ってるやないの。ヘリ」

はやてが言っているのはゼロライナーニ輌目『ナギナタ』である。

「アレは俺が操縦するわけじゃないし、電車からヘリになるわけだしなぁ。純粋にヘリを見るなんて初めてなんだよ」

「僕もデンライナーやら『時の列車』は結構見てるんだけどね」

良太郎も庶民的な感想をもらす。

「マジッスかぁ!?」

ヴァイスが信じられないという表情をしている。

フェイトやはやても同じ様な表情をしていた。

「ヴァイス君には悪いけど、ヘリよりも高性能な乗り物を乗り回してる人が……」

「デンバードⅡ(マシンデンバードⅡの略称)なんて近未来的なバイクを持っている人が……」

 

「「ヘリに乗ったことがないなんて……」」

 

「もしかして君達の中では僕達ってその手の乗り物に乗ってて当たり前って思ってるの?」

「「うん」」

良太郎の台詞にフェイトとはやては即座に首を縦に振った。

「あのな、俺達がいくら電王やゼロノスに変身できるといっても、軍人でも政治家でもマスコミでもないんだからそんなヘリなんて当たり前のように乗れるわけないだろ」

侑斗は、自分の世界で主にヘリコプターに乗る機会が多い職業の方達を述べる。

「フェイトちゃん達だって管理局に入らなかったら多分、ヘリとかに乗る機会なんてなかったと思うよ」

「そう言われると……」

「頷けてまうんやなぁ」

良太郎の指摘にフェイトとはやては納得する。

「あのぉ、そろそろ時間おしてますんでいいですかい?」

「遅れちゃうですよぉ!」

ヴァイスとリィンが時間を見ながら、盛り上がっている四人に割り込みをかける。

「「「「あ、すみません」」」」

それから三十秒後に発着場から一機のヘリコプターが飛び立った。

「どうしよ……」

「今更俺達の事を説明しろってのも難しいよなぁ……」

はやてがヘリコプターに乗り込む前に、告げた事を思い出した。

「「はあ……」」

退屈にはならないが、どのようにして六課スタッフに上手く説明できるかで頭を悩まされる事になった。

 

 

教導隊制服に着替えたなのはと暇つぶしとして先に来ていたイマジン四体とコハナは海に浮揚している異様な物体を見ていた。

六角形のパネルが繋がって海上へと敷設されていた。

海上に敷設されている幅からすると人工島と呼ぶにはあまりにも狭い。

何かのテレビ番組でやっていた『武舞台』に似ていた。

「広ぇな。あそこで戦うのかよ?」

「戦うって……。まぁ間違ってはいませんけど、ちょっと違いますね」

モモタロスの質問に、なのはは笑みを浮かべながら返す。

「ドームみたいになってると思ったけど、雨とかで訓練できるの?」

ウラタロスの言うように、海に浮揚している場はどう見ても訓練場に適しているとは思えなかった。

「ちょっとした仕掛けがあるんですよ」

なのはは笑みでやっぱり返す。

「でも何で海に浮いとる感じになってもたんや?」

「他に適した場所がなかったんです。でも環境破壊はしてませんから大丈夫ですよ」

キンタロスの質問に、なのはは環境に関することも告げる。

「壊れたりしないー?クマちゃんやモモタロス、バカ力だからだよー」

リュウタロスは耐久について心配する。

「にゃはは。大丈夫大丈夫。モモタロスさん達の衝撃にも耐えられるように設計されているからね」

なのはにしてみればリュウタロスの意見は予想の範囲だったので自信を持って答えることが出来た。

キャリーバッグを持った陸士隊服を着た女性---シャリオ・フィニーノが手を振りながら歩み寄ってきた。

「シャーリー!」

そして陸士隊服から動きやすい服装へと着替え終えたフォワード四人が走ってきた。

スバルとティアナはシャツの色が白色で、エリオとキャロは黒色のシャツを着ていた。

全員が揃うと、なのははシャリオに目で合図を送り四人のデバイスを返していった。

「今返したデバイスにはデータ記録用のチップが入っているからちょっとだけ大事に扱ってね」

なのはが返却したデバイスが以前とは若干違う事を説明した。

「それとメカニックのシャーリーから一言」

なのはが視線をシャリオに向けた。

「えーメカニックデザイナー兼機動六課通信主任のシャリオ・フィニーノ一等陸士です」

シャリオは軽く会釈する。

それだけの仕種なのに、モモタロス達は拍手を送った。

だが事が進まなくなるのではないかと危惧したコハナに全員拳骨で沈められた。

頭を抱えて蹲っている四体のイマジンを見て、なのはとコハナを除く全員が一瞬だけ呆然としたがすぐに平静を取り戻した。

「みんなはシャーリーと呼んでいますので、よかったらそう呼んでね」

シャリオは笑顔で薦めた。

「チャ……ってオイ構えんじゃねぇよ!?コハナクソ女!」

モモタロスが何かを言おうとしたが、コハナが拳を握っていたので中断した。

「アンタ。次に下らないこといったら問答無用で沈めるわよ」

一体と一人のやり取りを見ながら、シャリオはなのはに歩み寄る。

「なのはさん。あのハナって子は何者なんですか?イマジンを平気で拳骨で沈めるなんて並の魔導師よりも強いと思いますよ」

「にゃはは……。私もよくは知らないんだよね。ハナさんって初めて会ったときからモモタロスさん達に拳骨とか蹴りとか繰り出してたから……」

なのは自身も、コハナの戦闘力に関しては一度訊ねてみようかと考えた。

「ゴホン。みんなのデバイスを改良したり、調整したりもするので訓練を見せてもらったりもします。あ、デバイスに関する相談等があったら何でも言ってね」

「「「「はい!!」」」」

フォワード四人は揃って返事をした。

「じゃあ、早速訓練に入ろうか」

「は、はい……」

スバルは返事をしたものの自分のいる場所が訓練に適しているとは思わないので戸惑っている。

「でも、ここでですか?」

ティアナの反応に、なのはは内心では『待ってました!』という声を出していた。

「シャーリー♪」

なのははこれからすることをシャリオに任せる。

「はーい♪」

シャリオは右手を上から下に滑らせるように動かす。

直後に彼女の周囲に数種類のモニターが展開された。

フォワード四人は特に驚く事はないが、モモタロス達やコハナにして見ればまるで手品のようなので、大きく目を開いた。

「機動六課自慢の訓練スペース。なのはさん完全監修の陸戦用空間シュミレーター」

シャリオはこれから披露するものの説明をしながら、両手はカタカタとモニターを操作していた。

モニターの一つに『Stage Set』と表示されて、シャリオは人差し指で押す。

六角形のパネル物体が輝きだしていく。

その場の空間が歪むようにして、まるで蜃気楼が現れていくようにしてある物が出現していく。

出現していくものとは『都市』の一部分だった。

これには誰もが口をポカンと開けてただただ驚くしかなかった。

 

隊舎屋上に一人の青年が立っていた。

侑斗だ。

ちなみにデネブはというと、食堂で厨房スタッフと共にミッドチルダの料理に関して話を弾ませていた。

イマジン達の中では意外に人と順応するのが早いのが、デネブだったりする。

「アレが八神が言っていたシミュレーターか」

侑斗は出現した仮想都市を見てから、はやてから渡されたダミーカードをポケットから取り出した。

「コイツを唯一使える場、か」

「ソレもらってたんだ。侑斗」

侑斗の背後から声がしたので振り向くが、そこには誰も姿がなかった。

侑斗は視線を見下ろす。

おさげ髪の少女で『見た目は子供、頭脳は辛うじて大人』ともいえるヴィータがいた。

「知っていたのか?」

「うん。はやてがマリーに早く作るように急かしてたくらいだから」

ヴィータは大まかにダミーカード誕生の経緯を話す。

「今回は相手が相手だからな。いくら俺が強くて運があったとしても、用心に越した事はないかもしれないな」

「相変わらずだなぁ。お前」

ヴィータは侑斗以外が言ったら嫌味にしかなからない台詞を聞きながらも視線は仮想都市を見ていた。

「そういや良太郎は?」

「あいつなら八神が言ってた仕事をしてるんじゃないか?」

「どんな事?」

「俺達の事を六課の連中に教えるって仕事だ」

「ソレ、ギガ難しくない?」

「大まかなことさえわかれば問題ないだろ。俺達だって事の全てを知ってるわけじゃないしな」

侑斗にしても『時の列車』がどのように製造されたのかとか、ゼロノスや電王は誰が考え出したものなのかはわからない。

自分達はその『力』を使う事が出来るから使い、その『力』がおいそれと振るっていいものではないという事も何となくはわかっているだけだった。

「考えてみたら得体の知れない力を使ってるんだよな。俺達……」

ダミーカードを器用に人差し指でクルクルと回転させながら、呟く。

「もしかして侑斗、怖ぇの?」

ヴィータは侑斗の真意を訊ねてくる。

 

「事実を受け入れてなけりゃゼロノスになんてなれねぇよ」

 

侑斗はヴィータの質問を曖昧にぼかしながら答えた。

否定していないが、肯定もしていない答えだった。

 

 

機動六課の隊舎でチームデンライナーとゼロライナーに設けられた部屋で一人、良太郎は天井を仰ぎながら椅子を傾けていた。

「僕達の事を説明するっていってもねぇ……」

良太郎も侑斗同様に自分達が行使する力を全て把握しているわけではない。

自身がわかっていない事を他人に伝えるというのは極めて至難な事だ。

「みんな、ずるいよ。外に出ちゃってるもんなぁ」

ここにはいない仲間達に愚痴をこぼしながら机上の紙を見下ろす。

どのような事を説明すればいいかというプランを立てようとしているのだが、紙は白紙だった。

「あーあ……」

いくら唸っても腕を組んでも、天井を仰いでもいいアイデアは出てこない。

「とりあえずこの三つくらいかなぁ」

良太郎はボールペンでサラサラと書いていく。

箇条書きで三つの事が書かれていた。

 

電王やゼロノスの事。

イマジンの事。

特異点の事。

 

ボールペンをカタンと置くと、今度は窓から外を見る為に席から離れる。

「あれ?あんなところに街、あったっけ?」

良太郎は突如出現した都市に目を丸くする。

「気分転換に見にいってみるか」

気が滅入るので、気分転換の為に外に出て仮想都市を見にいく事に良太郎は決めた。

部屋を出て、廊下を歩くと見慣れた女性が両腕にアルミケースを手にしてこちらに歩み寄ってきた。

機動六課といういわば一つの組織の中で自分や侑斗、モモタロス達よりも目立つ服装をした女性---ナオミだった。

「あ、良太郎ちゃ~ん。ここにいたんですかぁ」

ナオミがやっと見つけたというような表情で、こちらを見ていた。

「ナオミさん。どうしたんですか?その荷物は?」

「あ、これは良太郎ちゃんと侑斗君にってオーナーからの贈り物だそうですぅ」

「僕と侑斗に?中身は何だか聞いてます?」

「いいえ~。私はコレを良太郎ちゃん達に渡すようにと言われただけなんで」

ナオミは首を横に振りながら、自分は職務を全うしに来ただけという感じで答える。

「わかりました。ちょうど侑斗やみんながいると思われる所に行こうとしていたんです。その時に渡しておきます」

「助かります~。それじゃ私はこれでぇ」

ナオミはアルミケースを良太郎に渡し終えると、適当なドアを開けてそのまま『時の空間』へと戻っていった。

良太郎は今の光景を見られていないか、周囲を見回す。

ナオミが帰っていく光景はある意味、魔法だが明らかに別世界《ここ》での魔法とは違うものなので見られた日には説明するのに骨が折れる。

「よかった。誰も見てない」

更に廊下を歩くと、見知った女性がこちらに向かって歩いてきた。

長身で桃色の髪をポニーテールがトレードマークともいえる女性、シグナムだ。

「野上」

「シグナムさん」

「久しいな。かれこれ十年、いやお前にしてみれば一月ぶりか?」

「侑斗から聞いてるんですね」

「ああ。それは?」

シグナムは良太郎が両手に抱えているアルミケースに目がいった。

「オーナーから僕と侑斗にってナオミさんが」

「デバイス、か?いやお前も桜井も魔法は使えないからデバイスを有していても意味はないか……。しかし野上、質量兵器は禁止だぞ」

「質量兵器?何ですか?ソレ」

聞き慣れない単語に首を傾げる。

「お前が知らないのも無理はないか。質量兵器というのはわかりやすく言えば魔力以外で使用する武器、つまりお前達で言えば拳銃や刀剣になる。それらの使用は原則厳禁となっている」

「あの、シグナムさん」

シグナムの説明に良太郎はある疑問を感じた。

「それじゃ魔法を使えない人、ええとこの場合は局員の人達はどうなるんですか?」

「現場に出ることはないし、その局員が高官だったとしたら魔導師や騎士が護衛につく事になる」

良太郎の真面目な質問に、シグナムも真面目な表情になる。

もっとも彼女の場合、少し表情を引き締めただけなのだが。

「裏をかかれたらひとたまりもありませんね……」

つまり暗殺とかになるとひとたまりもないという事だ。

「ああ。それにイマジンの事もある。その対策として質量兵器の使用許可を働きかけている動きがあるという話も出ているしな」

「それって可決されるって事は……」

「正直わからない。質量兵器が認められれば必ずといっていいほど『死の武器商人』と呼ばれるような輩やソレを中心とした犯罪組織が確立されるのは間違いないだろうからな」

シグナムの表情からして質量兵器の全面禁止は必ずしも良策とはいえないらしい。

『一般市民に武器を持たせない事によって殺生がなくなる』---その一点だけで見れば良策だろう。

しかし、裏を返せば『魔力を持たない者達は魔力を有する者達から自身を護る術がない』という事が露呈されているのも事実だ。

「禁止されていたとしても、自身を護る手段として裏取引をしてでも手に入れようとする人達は後を絶たないでしょうね……」

法が護ってくれないなら、自身で護る。たとえ法を犯す事になってもという考えに行き着くのは決して大袈裟なものではないだろう。

「ああ。そういった者達を取り締まなければならないのは胸が痛むな」

「シグナムさん……」

「すまない。愚痴っぽくなってしまったな」

「いえ、気にしないでください」

「それで野上。お前はどこに行くつもりだ?」

「侑斗やみんながいる所に行こうと思っています。コレを侑斗に渡さないといけませんし」

良太郎は左手に握られているアルミケースをシグナムに見せるようにして持ち上げる。

「なら、心当たりがある。よければでいいが案内しようか?」

シグナムの申し出に良太郎はというと。

「わかりました。お願いします」

笑顔で応じた。

 

「ん?シグナム。良太郎」

隊舎屋上で侑斗と一緒にフォワード達の訓練風景を眺めていたヴィータは後からシグナムと良太郎が新たに入ってきたので、顔をそちらに向けた。

「やはりここだったか。ヴィータ、それに桜井もいたか……」

「侑斗が一番に来てたけどね。ん?良太郎、何持ってんだよ?」

ヴィータは目ざとく良太郎の手にしているアルミケースを見る。

「オーナーからの贈り物だよ。侑斗、コレ」

そう言いながら、左手で握っているアルミケースを侑斗の前に差し出す。

「何だよ?コレ」

侑斗は受け取って、アルミケースを一瞥してから良太郎に視線を向けた。

「わかんない。中身は見てないし」

良太郎はしゃがんでアルミケースを地面に置いてから、ガチャリとストッパーを外してから開く。

中に入っていたのはスチロールで収められていた黒いパーツが四個とそれを収めるためのホルスターが入っていた。

「コレは電王の際に使っていた武器だな……」

「ホントだ……」

良太郎の横で覗き込んでいるシグナムに釣られてヴィータも覗き込んでみる。

過去に散々手痛い思いを遭わせられれば嫌でも憶えているというものだ。

「てことは侑斗の方も……」

ヴィータは侑斗のある身ケースの中身も覗きこむ。

中にはスチロールで収められている二等辺三角形の黒い物体ともう一つ黒いパーツがあり、その二つを収めるホルスターがあった。

それはゼロガッシャーだとヴィータはすぐにわかった。

「手紙だ……」

侑斗は閉じられている手紙を開く。

「ええと。『これからの戦いは電王やゼロノスになって戦うばかりではない状況に追い込まれるかもしれません。そのため、護身用として変身前限定で使用可能なデンガッシャー

とゼロガッシャーを送ります。有効に役立ててください。追伸:もし、局員の人達に訊ねられても『アームドデバイス』と言っておけば大丈夫なので安心して持ち歩いてください。オーナー』

何したんだ……。あの人」

侑斗が同じ様に、手紙を見ている良太郎を見ていた。

「まぁ……いいんじゃない。正直、変身できない状況で武器なしっていうのは正直きついしね」

「あのオッサンが何したのか気にならねーのかよ?良太郎」

ヴィータは侑斗と対照的に楽天的な返答をした良太郎を見る。

「オッサンって……。ヴィータちゃん、モモタロスみたいだよ」

「なっ!?あ、あんな脳みそ空っぽの赤鬼と一緒にすんじゃねーよ!!」

ヴィータは自分の中で同列されると最も屈辱になる者の名前を挙げられて憤慨した。

「ところでヴィータ。お前はいいのか?」

ヴィータの怒りが収まった頃を見計らってシグナムは口を開いた。

「四人ともまだヨチヨチ歩きのヒヨッコだ。あたしが教導を手伝うのはもうちょっと先だな」

ヴィータは平静を取り戻しており、フォワード四人の現状況を見てから適した事をいう。

「それに自分の訓練もしたいしさ……。同じ分隊だからな。あたしは空でなのはを護ってやらなきゃいけねぇし、それに……」

「ん?」

ヴィータが何かを言おうとして押し黙り、シグナムは声に出して訊ねはしないが何をいいたいのか気にはなっていた。

 

「アイツをあのバカ鬼を倒すのは、あたしだからな……。借りはきっちり返してやる……」

 

「そうか……」

シグナムは納得してくれたようだ。

「そういえばシャマルは?」

ヴォルケンリッター『湖の騎士』の所在を訊ねる。

「自分の城にいる」

シグナムが短く答えた。

 

 

シャマルが掌を合わせて、喜色の色を浮かべていた。

「うーん。いい設備♪」

笑顔で机を擦っていた。

「これなら検査も処置もかなりしっかりできるわね♪」

「本局医療施設の払い下げ品ですが、実用にはまだまだ充分ですよ!」

「みんなの治療や検査。よろしくお願いしますね。シャマル先生」

「はーい。ってでも私の仕事がたくさんあるって褒められる事じゃないでしょ」

払い下げ品の最終チェックをしているルキノ・リリエとアルト・クラエッタの言葉に返事で返すが、即座に突っ込んだ。

いわゆる『ノリツッコミ』というものだ。

シャマルの仕事は医療だ。

主にスタッフの身体管理及びメンタルケアなどだ。

暇な時は、湯呑みに茶を淹れて和菓子を食べながら唯一寛ぐ事の出来る場でもある。

しかし訓練などの時は怪我人が出やしないかと胃をキリキリしてしまう事もあるが。

「訓練初日で怪我人は出ないでしょ。多分」

なのはの訓練で医務室に運び込まれるとしたら相当なもののはずだ。

しかし、シャマルは自分の読みの甘さを知る事になる。

 

これより三時間後に。

 




次回予告

第十二話 「訓練と訓練まがい?」
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