仮面ライダー電王LYRICAL StrikerS Vol.1 Spring Party   作:(MINA)

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第十七話 「相手は野上良太郎!?」

 

訓練場の中央で、野上良太郎は眼前の相手を見てはいた。

しかし、心はここにあらずだった。

「あー」

そんな間抜けた声を出すが、何かが変わるわけでもなかった。

(どうして僕はここにいるんだろう?)

訓練場で足を踏み入れた時からすでに数回にわたって同じ事を問答していた。

訓練だと思って割り切る事はとりあえずはできる。

相手はやる気満々だ。

自分と戦える事に喜びでも感じているのかもしれない。

(そんな価値があるとは思えないよ)

良太郎は自分と戦う事に対して、相手が過大評価しているのではと考える。

今までの戦いで強くなったという自覚はある。

だが特訓でモモタロス達に勝ったことは一度もない。

これから一戦交える相手は、高町なのはの教え子達だ。

そこいらのチンピラや不良達とはワケが違う。

苦戦はするかもしれない。

四人はまだ知らないだろうけど、実は電王には変身できないのだ。

何せパスを没収されているのだから。

「はあ……」

溜息をついてから良太郎はこうなる経緯を振り返る事にした。

 

 

 

 

「全員せいれーつ!」

白いバリアジャケットを纏い、レイジングハート・エクセリオンを右手に握っている高町なのはは教え子四名を召集した

ガーッとローラーの車輪を滑らせながら寄るスバル・ナカジマを筆頭に、ティアナ・ランスター、エリオ・モンディアル、キャロ・ル・ルシエそして翼竜のフリードリヒも集まった。

なのはのバリアジャケットとは対照的に四人の全身はあちこち土埃が付着していた。

また、なのはが息一つ乱していないのに対し、四人は両肩を上下に揺らして呼吸を整えていた。

「じゃあ本日の早朝訓練ラスト一本。みんな、まだ頑張れる?」

「「「「はい!」」」」

なのはの言葉に四人は即答した。

その瞳にはまだ『闘志』が残っていた。

(うん。いい目してる)

四人の瞳を見て、なのはは満足してから唇を動かし始めた。

「じゃあシュートイベーションをやるよ。レイジングハート」

『オーライ。アクセルシューター』

レイジングハート・エクセリオンを前に構えてから、足元に桜色の円形のミッドチルダ式魔法陣が展開される。

なのはの周りに桜色の魔力球が数個出現される。

「私の攻撃を五分間被弾なしで回避しきるか、私にクリーンヒットできればクリアー。誰か一人でも被弾したら最初からやり直しだよ」

ルール説明をするなのはの周囲には桜色の魔力球が自律しているように、宙をグルグルと飛び回っていた。

それは全てが、なのはの意思でコントロールされているものだという事はこの場にいる全員が知っている。

しかしその動きを見たらどう見ても、制御下に置かれているようには思えなかった。

前に構えていたレイジングハート・エクセリオンを引っ込めてから、四人を見る。

「準備はオッケーみたいだね。それじゃあ……」

なのはが右腕を振り上げると同時に、飛び回っていた桜色の魔力球は静止して引っ張られるようにして上っていく。

 

「レディィィィゴォォォォォ!!」

 

右腕を振り下ろすと同時に、桜色の魔力球が光線となって四人へと向かっていった。

 

 

「このボロボロ状態で、なのはさんの攻撃を五分間捌ききる自信ある!?」

手製のアンカーガンを構えてから、ティアナは前にいるスバル及び後方のエリオ、キャロに訊ねた。

「ない!!」

「同じくです!」

スバルとエリオは意味合いが全く同じことを告げた。

口には出さないが、キャロとフリードリヒも同じだろうとティアナは考えている。

その事に関してはティアナ自身は異論を唱えるつもりもないし、三人を叱咤するつもりはなかった。

何故なら、自分も同じようなものだからだ。

「じゃあ何とか一発入れるわよ!」

「はい!」

ティアナのこれからのプランにキャロが返事する。

スバルとエリオは返答なしだが、反対意見をしないところからして賛成だろう。

「よーし!行くよエリオ!」

リボルバーナックルを装着している右腕を上げる。

「はい!スバルさん!!」

エリオもストラーダを構える。

なのはが右腕を振り下ろすと同時に、無数の桜色の魔力球が光線となって向かってきた。

 

「全員撤退回避!!二分以内に決めるわよ!!」

 

ティアナが告げたと同時に四人が全員魔力を帯びた光となって散開した。

なのはが狙いをつけた場所には土埃が立っているだけで四人の姿はなかった。

 

 

「!!」

なのはの肌に魔力流が伝わってきた。

誰かまではわからない。

目つきが鋭くなり、戦いに対しての心構えはできている。

後は迎え撃つのみ。

振り向くと空中に水色の魔力で構築された道が出現していた。

(スバル!)

特殊な魔法なので、使い手が誰なのかはすぐにわかった。

「うおおおおおおおお!!」

水色の魔力道---ウイングロードの上をスバルがお手製のローラーを滑らせながら右腕を振り上げて向かってきていた。

なのはの両耳に、何かが収束されている音が入ってきた。

挟み込むようなかたちで陣形をとっているティアナがアンカーガンを構えて、魔力を収束させていた。

「アクセル!」

『スナイプショット』

レイジングハート・エクセリオンが飛び回っている桜色の魔力球をコントロールする。

なのはが左腕を振ると、左右にある桜色の魔力球がスバルとティアナへと向かっていった。

スバルは紙一重で上体を動かして避けて、ティアナには直撃した。

「<ruby>幻術<rp>(</rp><rt>シルエット</rt><rp>)</rp></ruby>……。やるねティアナ」

避けたスバルも直撃したティアナもその場には影も形もなかった。

ティアナの用いた幻術では視認では判別がきわめて難しい。

安全策としては解析魔法などを用いるのが常套なのだが、それは距離がある程度離れている時という条件もつく。

つまり、今のなのはの距離では幻術か否かを判別するには一発くらわせるという乱暴な方法しかないわけだ。

それでもなのははアクセルシューターで行っているため、近接で判別するよりは遥かにリスクは低いわけだが。

「!!上!」

横ではないとしたら頭上か真下か逆側かのどれかにはなるが、逆側はビルなのでウイングロードを生かせる場ではないので除外する。

真下というのもウイングロードを敷くだけならば問題ないし、攻撃をするという点でも死角になりやすいがローラーが上り坂を昇るという行為が魔力でコントロールしているといっても平地を走行するよりも消耗が激しいため、疲労困憊状態では使えるものではない。

となると、頭上からの攻撃に絞られてくる。

ウイングロードを下り坂にして、ローラーの機動力+慣性で攻撃力を向上させることもできるし、今の状態ならこの手が一番ベストともいえるだろう。

「!!」

なのはは空いている右手をスバルに向けてかざす。

掌を中心に桜色の魔法陣が展開される。

「くううううううう!!」

障壁に向かって拳を向けているスバルが声を上げているが、変化はない。

その中で、なのはは眼前のスバルに視線を向けてはいるが頭の中では別の事を考えていた。

飛ばしていたアクセルシューターのうちの二つの軌道を変更していた。

向かう先は眼前のスバルだ。

両サイドから何かが向かってくるとスバルは本能的に察知したのか、攻撃を中断して下がった。

左右から飛んできたアクセルシューターは見事に躱されたが、なのはの表情は笑みを浮かべていた。

「いい反応♪」

なのはの手にチェックリストの様なものがあれば、間違いなく『よくできました』というシールを貼ってもおかしくない動きだった。

 

 

「わっ!?え!?」

スバルが後方に下がってウイングロードに着地したが、ローラーが言う事を聞かずにずるずると滑り落ちていこうとしていた。

ローラーがスバルの魔力と意思でコントロールできるため、市販されているローラースケートのような事は滅多には起きない。

だが例外というものもある。

それはローラーの耐久力がスバルの魔力についていけなくなっている事や単純な老朽化だ。

ガリガリガリっと音を立ててはいるが、なかなか停まらない。

それでもバランスを保ちながら、体勢を立て直してから追撃してくるアクセルシューターから逃走する。

(スバル!馬鹿!危ないじゃないの!!)

「ご、ごめーん」

念話の回線を開いて叱咤してきたティアナに謝罪しながらもローラーに魔力を込めて全力で逃走した。

 

 

(待ってなさい。今撃ち落とすから!)

ビル内に潜んでいるティアナはスバルにそのように告げてから、アンカーガンの銃口をスバルの背を狙っている二つのアクセルシューターに向ける。

銃口にはオレンジ色の魔力球がキュィィィィィンという音を立てながら収束されていく。

「よし!」

アクセルシューターを打ち消すだけの威力まで練り上げられたと実感すると、引き金を絞る。

カチン。

「いっ!?不発(ミスファイア)!?」

アンカーガンはティアナの意思とは逆に練り上げたオレンジ色の魔力球を発射しなかった。

「ティアぁー、援護ぉぉ~!!」

逃走しているスバルからの援護要請が飛んできた。

念話ではなく地声で。

「この肝心な時に!!」

ティアナはアンカーガンに装填されているカートリッジ二つを排莢してからすぐに新しいカートリッジを二つ再装填する。

銃口をアクセルシューターに向けて、すぐにオレンジ色の魔力球を練り上げる。

そして引き金を絞る。

銃口から四発のオレンジ色の魔力弾が発射された。

「来た!!」

ティアナからの援護が来たことがわかると、スバルは滑っている状態から跳躍した。

二つのアクセルシューターはまだ追尾しているがさらにオレンジ色の魔力弾が追尾しているかたちになっていた。

残りの二発は、なのはを狙っていた。

 

 

なのはの後ろでは、エリオとキャロが攻撃の準備をしていた。

 

「我請うは疾風の翼。若き槍騎士に駆け抜ける力を」

 

キャロは両腕を広げて詠唱する。

彼女の両掌には桃色の魔力光が帯びていた。

両手に嵌めているグローブ型インテリジェントデバイス---ケリュケイオンが輝きだして、左手に桃色の魔力光が収束される。

『ブーストアップ。アクセラレイション』

ケリュケイオンが発し、キャロは左腕を薙ぎ払うようにして振り上げた。

黄金の三角形のベルカ式を足元に展開させて、ストラーダを構えているエリオに向けた。

ストラーダ全体に桃色の魔力が纏われていき、やがてストラーダ全体が何もなかったかのように戻っていく。

左右のリアブースターが噴射する。

「あ、あの……。かなり加速がついちゃうから気を付けて……」

「大丈夫!スピードだけが取り柄だから!!」

キャロの気遣いをありがたく受け止めてから、エリオは顔を宙に浮いているなのはに向ける。

「行くよ。ストラーダ!!」

ストラーダは主の意思に応えるようにして、さらに左右のリアブースターを噴射した。

いつでも発射は可能だった。

 

 

なのははティアナが放ったオレンジ色の魔力弾を宙に浮いているという利点を生かして避けていた。

フォワードの中で唯一単体飛行ができるフリードリヒが口を開いて頭上から火の弾を二発噴いた。

(フリードも翼竜だから単体で空飛べるんだよね……)

知らなかったわけではないが、失念していたのは確かだ。

キャロと常に行動しているので、主から離れての行動はしないと考えていた。

フリードリヒはキャロの言う事を理解して、自身で考えて行動したのだろう。

単純な主従関係ではできない事だ。

(キャロがやろうとしている事を完全にするために、自身ができる最大の事を果たそうとしている)

フリードリヒにも『よくできました』のシールを貼ってあげたいくらいだった。

(見つけた)

桃色のミッド式魔法陣を足元に展開しているキャロと、ベルカ式魔法陣を展開しているエリオが視界に入った。

そのまま急がずだが、慎重に向かっていく。

「エリオ!今!!」

ビルの物陰からティアナが現在唯一勝機を見いだせるエリオに向かって言った。

 

 

エリオはストラーダを右腕一本で持ってから、少しだけ振りかぶってから向かってくるなのはを睨む。

(後は一直線に向かっていくだけ。外すわけにはいかない……)

成功すれば本日の訓練は終了となり、失敗すればまた五分間やり直しになる。

難度は先程よりも高くなるだろう。

同じ手を通じさせてくれるほど、高町なのはは決して甘くはない。

だからこの一撃を外すわけにはいかない。

(絶対に……)

ストラーダを握る右腕を中心にしてカタカタと震えが始まる。

今更ながらプレッシャーが襲いかかってきた。

震えはやがて全身へといきわたる。

ゴクリと固唾を呑む。

(絶対に!!)

プレッシャーから生じる震えは収まっていく。

すうっと息を吸い込んでから吐く。

 

「行っけぇぇぇぇぇぇ!!」

 

ストラーダのリアブースターがぶわっと噴射する。

『スピーア・アングリフ』

エリオの両足が宙に浮き、そのまま標的へと向かっていく。

仮想とはいえリアルに再現されているため、地面のアスファルトからの粉塵が舞った。

(当てる当てる当てる当てる当てる……)

エリオの全身をその一念が支配していた。

ストラーダの噴射がさらに増しているように体で感じた。

まるで自分の意思に応えてくれるように。

(当てる!!)

向かってくる標的---なのはとの距離がほぼゼロになった時、エリオの両目には信じられないものが見えた。

互いの距離がゼロになって衝撃が起こり、塵が舞った。

塵が集まって煙状となり、その中からエリオが抜け出て近辺にあるビルに着地して重力に逆らうようにして必死で止めた。

(手応えは……あったと……思う……)

ストラーダの尖端は、なのはに触れたような感触があった。

それがなのはに直に当たったのか、彼女が展開したバリアの膜で止まったのかを判別できるほど自分は玄人ではない。

(向かってくる時のなのはさんの顔……)

宙に舞う煙を睨みながら、なのはが浮かべた表情を思い出す。

(笑ってた……)

その理由が何なのかはエリオにはわからなかった。

 

 

「エリオ!」

「外した!?」

ウイングロードに乗ってこちらに来たスバルは吹っ飛んだエリオを心配し、事の顛末を見ていたティアナはなのはが煙から飛び出ないところから察して失敗を口にした。

見上げているキャロも不安げな表情だった。

煙が晴れていくと、宙にたたずんでいるなのはがいた。

『ミッションコンプリート』

レイジングハート・エクセリオンが結果を告げた。

その場にいる誰もが耳を疑ったため、呆然としていた。

「お見事。ミッションコンプリート」

なのはがもう一度、訓練の結果を告げた。

「本当ですか?」

エリオが代表してもう一度訊ねた。

なのはには目立った外傷が見当たらないからだ。

「ほら。ちゃんとバリアを抜けてジャケットまで通ったよ」

なのはは、右手でバリアジャケットの左胸部分を指さす。

そこには白色がメインのバリアジャケットには似合わない黒い煤が付着していた。

エリオの一撃が通った証明だ。

その一言で、フォワードの誰もが笑顔になった。

訓練が終わったというのも半分あるが、自分達の考えに考えた策が通じたことが嬉しかったのだ。

「じゃあ今朝はここまで。一旦集合しよ!」

「「「「はい!!」」」」

なのはが訓練終了を告げて地面に着地してからバリアジャケットを解除して、陸士隊服へと戻る。

レイジングハート・エクセリオンも杖状態から赤珠の首飾り状態へとなっていた。

「さて、みんなもチーム戦にはだいぶ慣れてきたね」

「「「「ありがとうございます!!」」」」

歩み寄りながらなのはは褒賞の言葉を送り、四人は笑顔で感謝の言葉を口に出した。

「ティアナの指揮も筋が通ってきたよ。指揮官訓練受けてみる?」

「いや……あの……戦闘訓練だけでいっぱいいっぱいです……」

なのはの申し出をティアナは丁重に断った。

その理由は彼女が口に出した通りの事だろう。

これ以上、新しい事が追加されたら自分は間違いなく過労死すると断言できる。

隣でスバルが恐縮している相棒を見て、苦笑していた。

「キュクー?」

鳥類のように、二本足で地についているフリードリヒの鼻腔を何かが刺激した。

「ん?フリード、どうしたの?」

キャロがフリードリヒの方に顔を向けて、理由を訊ねようとする。

「何かコゲ臭いような……」

エリオの鼻腔にも刺激するような臭いが入ってきていた。

「スバル。アンタのローラー……」

「ローラーがどうしたの?ティア」

「エリオの言うコゲ臭い原因ってアンタのローラーよ」

「まさかぁ~」

笑いながらスバルは履いているローラーを見てみると、右側はバチバチと稲妻状に魔力が漏れており、コゲ臭かった。

「あぁぁ!!やっちゃったぁぁぁ!!」

自身の不手際とはいえ、長年使ってきたローラーがオシャカ寸前になってしまうと悲痛の表情を浮かべてしまう。

「オーバーヒートかなぁ。後でメンテスタッフに見てもらお」

「はい……」

「ティアナのアンカーガンも結構厳しい?」

なのはは同じように自作デバイスを持つティアナにも訊ねてみる。

先程の訓練でもアンカーガンが限界を迎えているのでは、と薄々となのはは感じていた。

正常ならもう少し早くアクセルシューターを落とし、追尾する魔力弾を用意できていたからだ。

「はい。だましだましです……」

見栄を張っても仕方がないのでティアナは正直に告げた。

なのはは四人を一瞥する。

「みんな、訓練にも慣れてきたし……。そろそろ実戦用の新デバイスに切り替えかなぁ……」

なのはの目からしても、ローラーとアンカーガンは恐らくもう駄目だろう。

仮に修復できたとしても、その場しのぎの応急処置に近いもので『全快』というものにはならないだろう。

「新……」

「デバイス……」

スバルとティアナが二人で、なのはの一言を復唱した。

 

 

なのはを引率者として、フォワード四人は機動六課隊舎へと向かっていた。

その間もなのはを含めた世間話や、フォワードだけのバカ話など会話の内容は色々だった。

「じゃあ、シャワーを浴びてから着替えてロビーに集まろうか?」

なのはが今後を提示すると、フォワードは即答した。

返事の声色からして新デバイスの事が気になって仕方がないといったところだろう。

(気持ちはわかるけどね)

なのははレイジングハート・エクセリオン以外のデバイスを所持したことはないがそれでもバージョンアップやカスタマイズしてもらった時の興奮や感動ははいつまでも冷めないのだと思っている。

ブォォォンというエキゾーストが歩いている五人と一匹の耳に入ってきた。

ギャッとタイヤを鳴かせて自動車とバイクがは五人と一匹の近くで停車した。

黒色がメインカラーの自動車だ。

普通自動車であり、かなり高級な部類に入るものだった。

少なくとも中古市場では今のところは出回ってはいない。

バイクの方は白色が目立つがフロントカウルに角の様なものが二本ついていた。

こちらも中古市場では出回っていない。

自動車のハードトップ(車の屋根)が収納され、同時にドアガラスも収納されると運転手と助手席に座っている人物の顔がハッキリした。

「フェイトさん!八神部隊長!」

キャロが運転手と助手席に座っている人物の名を挙げて、

「後ろのバイクの人は……」

バイク---マシンゼロホーン(以後:ゼロホーン)に乗っている運転手もヘルメットを脱ぐ。

「桜井さん」

エリオがゼロホーンに跨っていた人物の名を挙げた。

「すっごーい!これフェイト隊長の車だったんですか!?」

スバルが高級車を前にして、驚きを隠さなかった。

「うん。地上での移動手段なんだ」

フェイト・T・ハラオウンが答えた。

「みんな、練習の方はどうや?」

助手席の八神はやてが近況を訊ねる。

「ああ……ええと……」

「頑張ってます」

スバルが戸惑う中、ティアナは当たり障りのない回答で返した。

「エリオ、キャロ。ごめんね。私は二人の隊長なのに見てあげられなくて……」

「あ、いえそんな……」

「大丈夫です」

申し訳ない気持ちを持って謝罪するフェイトに対して、エリオとキャロは笑顔で返した。

「四人ともいい感じで慣れてきたよ。いつ出動があっても大丈夫」

「そうかぁ。それは頼もしいなぁ」

なのはがお世辞ではなく、本心を挙げている事を知っているはやては素直な意見を述べた。

「三人はどこかへお出かけ?」

なのははフェイト、はやて、侑斗を一瞥する。

「うん。六番ポートまで」

「教会本部でカリムと会談や。それに侑斗さんにも紹介したいしな」

フェイトが行先を、はやてがその目的を告げた。

「私と侑斗さんは夕方には戻るよ」

「私は昼前には戻るから、お昼はみんなで一緒に食べようか?」

「「「「はい!」」」」

フェイトの打診に、フォワード達は快諾した。

「高町。野上は?」

「今日は見てません。桜井さんは怪我の方は?」

侑斗の怪我の原因は数日前に良太郎と戦ったことが原因だ。

「鈍る事に危機感を感じるくらいには良くなっている」

侑斗は、皆に元気だと見せるように右腕をグルグルと回してから腰を捻ったりしていた。

「イマジンの戦闘回数ならあいつの方が上だからな。俺よりも早いかもしれないな」

ゼロノスカードの制限がある以上、侑斗が踏む場数は限られてくるのだから仕方ないことだ。

「おっと。長話がすぎたみたいやな。それじゃあみんな行ってくるで」

はやての一言が合図となり、侑斗はヘルメットをかぶってアクセルを噴かしてフェイトも自動車のアクセルを踏んだ。

自動車とバイクが再発進する姿をなのは以外の者達は敬礼で見送った。

 

 

女性陣がシャワーを浴びている頃、カラスの行水のごとく終了して陸士隊服へと着替え終えたエリオはフリードリヒと共に階段に座り込んでいた。

「まだかなぁ。みんな」

頬杖をついてから、隣で二本足で器用に立っているフリードリヒに呟いた。

「キュク~」

フリードリヒがどのような返事をしてくれたのかはエリオにはわからない。

マスターであるキャロではないのだから、当然といえば当然だが。

「キュッ」

退屈を感じたのか、フリードリヒは翼を広げてパタパタと飛んで行った。

「フリードも退屈に感じてたんだ……」

飛んでいったフリードリヒを責める気はエリオにはなかった。

自分もどこか散歩でもしようかと考えてしまう。

「あれ?エリオ。一人?」

階段上から声がしたので、顔を向けてみるとそこには訓練服を着て右手にはジェラルミンケースを握っている良太郎がいた。

「良太郎さん」

「他のみんなは?」

階段を下りながら、エリオと同じ段になると腰を下した。

「シャワーを浴びてます」

エリオの報告に良太郎は何とも言えない表情をしていた。

「あの、どうしたんですか?」

「それってどのくらい前?」

「十分くらい前です」

良太郎の質問にエリオは腕時計---待機状態のストラーダを見ながら現在時刻から逆算して答えた。

「そうなると三十分は出てこないね」

良太郎は即答した。

「え?どうしてわかるんですか?」

断言に近い発言なのでエリオは訊ねる。

「女の子は僕達と違って身だしなみに気を遣うからね。その分、手間もかかるんだよ」

「そうなんですか……。でも良太郎さんはどうしてそんな事を?」

「姉がいるからね。それでわかるようになったんだ」

良太郎は『姉』と呼んでいた人物を思い出しながら語っているのだとエリオは理解した。

「良太郎さんはどうしてそんな服を?その、訓練は終わりましたよ」

自分達と参加するつもりならそれはもう無理なことなので、正直に告げる。

「ん?いや違うよ。僕はコレの訓練をしようと思ってね」

ジェラルミンケースを見せてきた。

「?」

ジェラルミンケースを受け取って、見上げたり見下ろしたりするが何か仕掛けがあるとは思えない。

「中身中身」

良太郎の指摘に、エリオはケースを開けようとするが手を止める。

(いいのかな……)

ロックを解除していいのか躊躇ってしまう。

「開けていいよ」

「はいっ!」

良太郎は笑顔を向けて勧めてくれた。

ジェラルミンケースを開けると、四つの黒い部品の様なものとそれらを収めるためのホルスターが入っていた。

「これは一体……。デバイスですか?」

エリオは首を傾げてしまう。

「エリオも見てるんだけどね」

「?」

良太郎は苦笑しているが、エリオには本当に見覚えがないものだ。

「外に出よう。見せてあげるよ」

「あ、はい」

良太郎が促し、エリオは後をついていった。

 

 

隊舎を出て、中庭には良太郎とエリオの二人しかいなかった。

良太郎の腰にはジェラルミンケースに入っていた黒い部品---GDガッシャーが装備されていた。

エリオが興味津々にこちらを見ている。

その瞳には『強くなる秘訣を探る』というより『純粋な子供の好奇心』という部分が強かった。

「それじゃ、行くよ」

「はい!」

エリオに呼びかけてから良太郎はGDガッシャーの左側二つのパーツをホルスターから抜き取って、横に連結させる。

それから頭上に放り投げる。

宙に浮いているパーツが落下する前に、右ホルスターに収まっているパーツ二つを抜き取って、両手で握る。

落下してくるパーツを左右の手で握られているパーツで上下で挟む。

ガチャンという音が良太郎の耳に入ってきた。

(よし!)

両手に向かって、自らのエネルギーをGDガッシャーに注ぐ。

感覚で一定量注ぎ込めたと判断すると、先端から赤色が内に塗られて両刃が白色のオーラソードが出現した。

「あ!」

GDソードを目の当たりにすると、エリオは大きく目を開いていた。

「思い出した?」

「はい。桜井さんと戦う時に使っていた武器ですよね!」

GDソードを見ているエリオの目は輝いている。

「うん。でもね、これはまだこの武器の顔の一つでしかないんだ」

「え?」

エリオが訊ねるより早く、良太郎はGDソードのグリップを外す。

直後にオーラソードが霧散する。

外したグリップを宙に放り投げる。

その間に、横連結していた部分を縦連結へとするためにパーツを外して組みなおす。

落下してくるグリップ部分を右手でキャッチすると、縦連結したパーツ三つの最後尾に連結する。

オーラソードを出現させた要領で、エネルギーをGDガッシャーへと注ぐ。

短かった黒い棒は、良太郎の背丈を超すほどの長身のGDロッドとなった。

「ストラーダより長いですね……」

「持つ人間の身長にも影響されるからね」

長身の道具というものは使用者の身長も影響している。

エリオがGDロッドを持っても使いこなすことは不可能に近いし、良太郎がストラーダを持っても不足を感じてしまうのだ。

ぐるぐるんとGDロッドをバトンのように振り回してから、ダンと地面に置く。

水平に握ってから、中心部をぱきっと曲げる。

折れるのではなく外れる。

二つに分離したものをさらに二つに分離させて、元の四つのパーツに戻した。

「バラバラに?」

「残りの二つはゼロからの方がやりやすいからね」

訊ねてくるエリオに良太郎は笑みを浮かべて、バラバラにしたパーツを手に取る。

右手と左手のパーツを縦に連結してから、右手でパーツを掴んでさらに縦に連結させる。

最後に余ったパーツを縦連結したパーツの一番上に横連結する。

後はエネルギーを注ぐと、全体が『武器』としての役割を持つほどの大きさになってから、斧の刃が出現した。

「!!」

右手にずしりと重みが襲いかかってきた。

自分が考えていたよりは重量があった。

思わず顔をしかめてしまったので、エリオが心配そうな表情を浮かべる。

「大丈夫ですか!?」

「ああ大丈夫。想像してたのより重たかったからびっくりしただけ」

GDアックスを両手で握って、上下に振ってみる。

GDソードやGDロッドに比べると、重量があるため身体全体が重たく感じる。

(キンタロスのようには無理か。僕が使うとしたら護身よりも災害救助などの障害物駆除あたりかな……)

役割を決めると、GDアックスを分離して四つのパーツにする。

地面に落ちているパーツの二つを拾い上げて、横連結してからさらにもう一つのパーツを先程のパーツの後ろ斜めに連結させる。

最後に余ったパーツを先端に縦連結させてGDガンを完成させた。

右、左にキャッチボールするようにして投げては受け止めるという行為を繰り返していた。

ジャキンという音が聞こえた。

GDガンを構えるが良太郎は引き金を絞らない。

一発の威力が明らかに通常の実弾よりも高いので、無暗には撃てない。

地面に小さなクレーターを作ったら始末書を書かされる可能性は高いだろう。

「護身用としては一番使い勝手がいいのかもしれない」

構えながら、良太郎は感想を漏らす。

「持ってみる?」

じーっとエリオが見ているので、GDガンを渡す。

「あ、はい!」

GDガンを貴重品のようにしてエリオは受け取る。

「……結構重たいんですね」

「使用者のために作られているデバイスとは違うからね。持ち主にも相応の力は求められているんだよ」

デバイスは持ち主と共に成長するものだと良太郎は見ている。

GDガッシャーは『今』の自分だからこそ持つことができるものだと思っている。

電王に成りたての自分が持っても間違いなく、デッドウエイトにしかならない。

「さて、紹介は終わったし訓練を始めるよ」

GDガンをエリオから取って、バラバラにする。

組み立てを始めようとするが、それをじっと見ているエリオが視界に入る。

「女の子達はまだみたいだし、付き合ってくれる?」

「はいっ!!」

良太郎の申し出にエリオは笑顔で快諾した。

良太郎がエリオに頼んだことはGDガッシャーの組み立てにかかる時間の記録係だった。

女性陣が着替えを終えて、出てきたのはそれから十五分後の事だった。

 

 

良太郎は現在、精密機器室へと場所を移していた。

エリオとなのはの押しに負けたかたちでだ。

他の部屋とは違い、必要最小限の照明しかなく薄暗くていかにも『秘密の研究室』という呼称が似合うような場所だった。

テーブルの上に、四つの装飾品が宙に浮いていた。

それらは待機状態になっているデバイスだった。

「わあ、これが……」

「私達の新デバイス……」

スバルとティアナが後に自身の相棒になるデバイスの待機状態を眺めていた。

スバルの新デバイスは水色のクリスタルをペンダントのように施されており、ティアナの新デバイスは色々をメインカラーとしてポイントカラーと模様に赤色が施されているカードだった。

「そうでーす♪設計主任は私!協力はなのはさん、フェイトさん、レイジングハートさんにリイン曹長」

シャリオ・フィニーノがスバルとティアナの背後で挙手をしながら、自身をアピールするために背伸びまでしていた。

「ストラーダとケリュケイオンは変化なし、なのかな……」

「うん。そうなのかな……」

エリオとキャロは宙に浮いている腕時計と宝玉と羽が装飾されているブレスレットを見ていた。

「違いまーす♪」

言った直後にエリオの頭に乗っかったのはリインだった。

「変化なしは外見だけですよ」

「リインさん♪」

キャロも可愛いモノ好きなので、自然と笑みを浮かべていた。

「そうでーす♪」

キャロに返事してから、エリオの頭から離れて宙に浮いて二人の視界が入る場所に移動した。

「二人はちゃんとしたデバイスの使用経験がなかったですから、感触に慣れてもらうために基礎フレームと最低限の機能だけで渡してたです」

「あ、あれで最低限!?」

「本当に!?」

リインが口にした衝撃の事実にエリオとキャロは驚きを隠すことはできなかった。

「みんなが扱う事になる四機は六課の前線メンバーとメカニックスタッフが技術と経験の粋を集めて作った最新型。部隊の目的に合わせて、そしてエリオやキャロ、スバルにティアナの個性に合わせて作られた文句なしに最高の機体です」

リインの意思に従うようにテーブルの上に浮いているデバイス四機はリインのもとへと集まる。

「この子達はみんな、生まれたばかりですが色んな人の想いや願いが籠められてて、いっぱい時間をかけてやっと完成したです」

四機のデバイスはそれぞれの主へと飛んでいく。

 

「ただの道具や武器とは思わずに大切に……だけど性能の限界まで思いっきり、全開で使ってあげてほしいです」

 

リインの表情が子供を送り出す母親のようにも見えた。

「この子達もね。きっとそれを望んでいるから」

シャリオが締めくくるように付け足した。

(ただの道具や武器とは思わずに、か……)

良太郎はデバイスと共に戦う彼女達が少し羨ましく感じた。

「そういえば野上さんもデバイスを持っているんでしたよね?」

シャリオが唐突に訊ねてきた。

「デバイスってわけじゃないけど、コレでしょ?」

良太郎はジェラルミンケースをテーブルの上に置いてから、ケースを開く。

エリオを除く全員が興味深く見ている。

好きに触っていいように、ケースから取り出してパーツを置いていく。

「何だかすごく武器って感じがしますよね……」

シャリオが素直な感想を述べる。

「そりゃあ武器だからね」

その乾燥に良太郎は苦笑混じりに答える。

「四つのパーツに分かれてるって事はこれを組み立てて武器にするってことはわかりますけど、組み立てはご自分で?」

シャリオの質問はGDガッシャーに興味を持っている者たち全員の意見だ。

「マニュアルには自分で組み立てが主だけど、他にもエネルギーを利用しての自動組み立てもできるみたいだよ」

「でも、さっき訓練してた時はずっと手で組み立ててましたけど……」

エリオは先程の事を思い出していた。

「エネルギーによる自動組み立てって事は組み立てて武器として活かす他に更にエネルギーを消耗するから、今の僕には不向きなんだよ」

「あ、わかった!今の野上さんにはそれを使っちゃうとエネルギーに余裕がないって事ですね!」

スバルは良太郎が言った『不向き』という言葉を理解し、声に発した。

「この馬鹿!もう少し気を遣いなさいよ!野上さんすみません。この子無神経で……」

ティアナがあまりにストレートな物言いをした相棒の後頭部を叩いてから、掴んで自分も一緒に謝罪した。

「あ、いやスバルちゃんの言う事は間違ってないし事実だからそんなに気にしないで」

頭を上げるように言うと、今度は全員がこちらを見ていた。

「ん、どうしたの?」

「スバルちゃんって……わ、私の事ですよね?」

スバルが自身を指差して訊ねる。

心なしか全身が震えているようにも見える。

「この部屋に君以外にスバルちゃんはいないでしょ?」

「え、ええまあその……」

スバルの様子が先程からおかしかった。

「野上さん。確認するようで申し訳ないですけど本当にこの子の事ですよね?」

ティアナがスバルを指差しながらこちらを見ている。

「ランスターさんまでどうしたの?」

良太郎は先程から彼女達が何が言いたいのか理解できない。

「あのぉ野上さん。彼女はスバルって呼ばれることを望んでたんじゃ……」

シャリオが硬直しているスバルを一瞥してから、呼び捨てが最も望んでいる呼ばれ方ではないかと推測する。

「シャーリー。それは無理な注文ですぅ」

リインが即座に否定した。

「何故ですか?リインさん」

いち早く反応したのは意外にもキャロだった。

「シグナムやユウトさんから聞いた話ですと、ノガミさんは女性を呼び捨てできないそうです」

「本当なんですか?」

ティアナは信じられないという表情で確認してきた。

「恥ずかしながら……。どうも女性を呼び捨てするのって何かその苦手で……」

良太郎が照れが入りながら素直に答える。

「スバルさん。固まってます」

キャロがつんつんとスバルをつつくが全くといっていいくらい動いていない。

「エリオ。どうしよう……」

「どうしましょう……」

一回り近く年齢が離れている少年に訊ねても良策が出てくるとは思わなかったが、やっぱり出てこなかった。

良太郎もエリオもこの手の事に関してはまともな答えを出せるほど、経験豊富ではないのだから。

 

 

自動ドアが開くと、なのはは精密機器室へと足を踏み入れた。

「ごめんごめん。お待たせ」

遅れてきた事に謝罪をするが、室内にいる者達は誰一人として気を悪くする者はいなかった。

「なのはさん!!」

リインは喜びながら宙を駆け、なのはの傍まで寄った。

「ナイスタイミングです。ちょうどこれから機能説明をしようかと」

「そう。もう、すぐに使える状態なんだよね?」

なのはは四機のデバイスの製作に協力はしてはいるが、詳細までは知らない。

その辺りはシャリオとリインの管轄になるからだ。

「はい!」

リインは頷く。

シャリオが連携で、モニターを展開させて四機のデバイスの詳細データを出現させていた。

「まずその子達全部に何段階に分けて出力リミッターをかけているのね。一番最初の段階だとそんなにビックリするほどのパワーが出るわけじゃないから、まずはそれで扱いを覚えていって」

「で、各自が今の出力を扱いきれるようになったら私やフェイト隊長、リインやシャーリーの判断で解除していくから」

「ちょうど一緒にレベルアップしていく感じですね」

なのはがリミッター解除となる条件を、リインがその流れをわかりやすいたとえで説明した。

「あ、出力リミッターといえばなのはさん達にもかかっていますよね?」

(噂話で流れたのかな……)

自分から話したわけではないので、あり得る可能性をなのはは想像する。

知っておいて損もないし、そういう実態がある事を知っておくのも大事だと判断して口を開く。

 

「うん。私達の場合はデバイスだけじゃなくて、私達自身にもだけどね」

 

なのはの告白はフォワード四人にしてみれば衝撃的だった。

「なのはちゃん達の場合は、どちらかというと拘束具やギブスに近いモノ?」

「そうですね~。それに近いものがありますね」

「しかもそのギブスは、決して強くなるためのモノでもないんでしょ?」

(鋭い!!)

良太郎はたとえから始めて、なのは達が設けられているリミッターの意図を推測した。

彼が細かいことまで知って言っているのではないという事はわかる。

恐らくは彼自身が持っている情報と予想を組み合わせての事だろう。

「良太郎さんの言う通りです。私をはじめとする隊長と副隊長にかけられているリミッターには『強くなる』という意味で設けられているものではありません」

なのはは良太郎の推測に肯定した。

「そうなると、なのはちゃんとフェイトちゃんにヴィータちゃんにシグナムさん。後は八神さんも?」

「はいですぅ」

リインが頷いた。

「何のために?」

良太郎にしてみれば何故そんな事を施さなければならないのかわからないようだ。

それはスバル、エリオ、キャロもだ。

四人とも似たような表情を浮かべているからだ。

(良太郎さんは知らないだけだけど、スバル達は完全にド忘れだね)

管理局員といえども、自分に縁のないことなら綺麗さっぱり忘れてしまうのは当然といえば当然だろう。

自分がスバル達と同じ立場でも多分そうなっているという自信があったりする。

自身に降りかかっているから理解しているだけなのだから。

「ほら、部隊ごとに保有できる魔導師ランクの総計規模って決まってるじゃない」

シャリオが、隊長クラスのリミッター設定の理由を告げると良太郎は理解してド忘れ三人組(スバル、エリオ、キャロ)は白々しい笑顔を見せた。

「一つの部隊でたくさんの優秀な魔導師を保有したい場合は上手く収められるように魔力の出力リミッターをかけるですよ」

「まぁ裏ワザっちゃあ裏ワザなんだけどね」

リインが説明し、シャリオは苦笑いを浮かべながらぶっちゃけた。

機動六課(ウチ)の場合だと、はやて部隊長だと4ランクダウンで隊長達だと2ランクダウンかなぁ」

なのはの右手を掌にして話を進めるうちに四から二へと指を曲げていた。

「四つ!?八神部隊長ってSSランクのはずだから……」

「Aランクまで落としているって事ですか……」

ティアナが右手で指折りをしながらダウン後のランクを数えるなか、エリオが先に結論を出した。

「はやてちゃんも苦労してるですよぉ」

自身が持って生まれた力を組織が敷いたルールに則るために意図的に弱体化するというのは決して楽なものではない。

なのはも自分の事なので、初めてリミッターをかけられた時はもどかしさがあったものだ。

今でもたまに妙な淀みのような感じたりするが。

「なのはさんは?」

「私は元々S+だったから2.5ランクダウンでAA。だからもうすぐ一人でみんなの相手をするのは辛くなるかなぁ」

笑顔で嘘偽りのない答えを言う。

スバルは何か思う事がある表情をしているがそれが何なのかは、なのはにはわからない事だった。

「隊長さん達ははやてちゃんの、はやてちゃんは直接の上司であるカリムさんか部隊の監査役であるクロノ提督の許可がないとリミッター解除できないし、許可は滅多な事でない限りは下りないそうです」

リインが口に出した内々の事情に一同は『組織が定めたルール』が部隊長、隊長、副隊長の弊害になっている事を知り複雑な表情を浮かべていた。

(許可が下りる場合は割と即決というのがありがたいことなんだけどね)

余程の相手でない限りはリミッター状態でもなんとかなるというのが本音だ。

「隊長達の話は心の片隅くらいでいいよ。今はみんなのデバイスの事だからね」

なのはは変に気ににする必要はないように言う。

「新型もみんなの訓練データを基準にしているからいきなり使っても問題ないんだけどね」

シャリオが四機のデバイスが映し出されているモニターを見ながら、カチャカチャと操作する。

「午後の訓練時でもテストして微調整しようか」

なのはは午後の予定を告げていきながら、良太郎を見る。

「そのための仮想敵もいるし、ね」

「ハナさんが言ってたのって冗談じゃなかったんだ……」

「もちろんです♪」

良太郎に向けて、なのはは満面の笑顔を向けた。

「やれるかなぁ……」

仮想敵なんてやったことのない良太郎は天井を仰ぐ。

「大丈夫ですよ。良太郎さんは普通に戦う感じでしてくれればいいですから」

教導の際の仮想敵のマニュアルすら読んだことのない良太郎に高度な事は望んでいない。

なのはが良太郎に望む事は『魔導師でなくても強い相手』だ。

自分では魔法抜きとなると、こういう場合の仮想敵はあまりに不向きだからだ。

(私、単純な運動能力だったらフォワード(この子達)より下かもしれない……)

魔法なしとなると体力はあっても、運動能力が凡人並がなのはの実態だ。

「遠隔でも調整はできますから、手間はそんなにかかりませんよ」

「便利だよねぇ。最近は」

「便利ですぅ」

なのはの呟きにリインは諸手を挙げた。

「なのはちゃん、オバサンみたいだよ」

「ふええっ!?ひどいですよぉ!」

良太郎のツッコミに、なのはは驚きの声を上げて口を手で押さえた。

失言を控えるためのとっさの行動である。

「スバルの方はリボルバーナックルとのシンクロ機能もうまく設定できてるからね」

「本当ですか!?あ、ありがとうございます!」

新デバイスだけでなく便利機能まで設けられている事にスバルは感謝した。

「持ち運びが楽になるように収納と瞬間装着の機能も付けておいたからね」

ただ単に新型のデバイスを作るのではなく、持ち主の今までの負担を改善するための機能も加える事を怠らないのがシャリオ・フィニーノが信頼を置かれている理由であることを、なのはは知っている。

「なのはさん」

「なに?ティアナ」

「午後からこのデバイスを使っての訓練ですけど、本当にその……相手は野上さんなんですか?」

「うん、そうだよ。魔法は使えないけど良太郎さんは強いからね。油断はできないよ」

魔法が使えなくても、対等にいやそれ以上に戦う事が出来るのが彼等だ。

持てる力と知恵と現状を把握して瞬時に適応する能力はある意味では魔法よりも脅威だろう。

イマジンと戦うというのはまさに状況に追い込まれることになる。

少なくとも同じ魔導師で似たことをした人物を知っている。

今ではなく、十年前の事だが。

(元気してるかなぁ)

その人物の事を思い出しながら、なのはは教え子達と異世界の協力者を見ていた。

 

 

 

 

良太郎は自分がフォワードの相手になるまでの経緯を振り返り終えてから、ふうっと息を吐く。

本来ならば昨日の午後の事を事件が起きたので、本日の午前の訓練に持ち越されていた。

仮想敵役になるのは今回が初の事となる。

普段通りでいいと言われているが、それでも気を遣ってしまうだろう。

なにせ相手は女の子と子供だ。

遠慮なく戦っていいといわれてもやりにくいことに変わりはない。

オマケに対戦者達は一つの実戦を終えて間もなく、異様にやる気満々だった。

手が抜けそうな相手ではないし、舐めてかかるつもりはないが油断すればこちらが潰されるだろう。

(実戦を一つ潜り抜ける事で今まで積み重ねていたものが解放されて、飛躍的な進化を遂げたのかもしれない。でも……)

良太郎はもう一度、四人を見る。

 

「怖くはないんだよね……」

 

四対一という傍から見たら圧倒的に不利な状況にもかかわらず、良太郎は落ち着いていた。

まだ戦闘開始のシグナルは鳴っていなかった。

 

 

 

 




次回予告

   野上良太郎 「仮面ライダー電王LYRICAL StS!!」

          始まろうとする一対四の戦い。

          その結果はどのようになるのか?

          まだ誰もわからない。


      第十八話 「アラートは実戦という旅立ちの汽笛」
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