仮面ライダー電王LYRICAL StrikerS Vol.1 Spring Party   作:(MINA)

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第二話 「三度目の別世界へ!」

セミが自らの命を燃やして鳴いている昼。

『ミルクディッパー』も昼休み、もしくは避暑地として来店している者達で賑わっていた。

野上愛理と野上良太郎、そして着ぐるみ4、コハナは客の応対に忙しかった。

また尾崎正義と三浦イッセーも着ぐるみ4に半ば脅されて手伝わされたりしていた。

助っ人のお陰で、思った以上に早く客を捌く事ができて現在は休憩時間となっていた。

みな昼食を取っていた。

本日の昼食は愛理オリジナルのトンデモ料理(薬膳料理ともいう)ではなく、ごく普通のサンドイッチだった。

良太郎が元の身体に戻ってからは、愛理のトンデモ料理の出現数は少なくなった。

実弟である良太郎も、このトンデモ料理は好きになれなかった。

薬膳料理を前提にしているため、ハッキリ言えば不味い。

サンドイッチを頬張りながら、そのような事を考えてしまう。

「ねぇ。良ちゃん」

カウンターで人数分のコーヒーをカップの中に淹れている愛理が良太郎に声をかける。

「どうしたの?姉さん」

良太郎は愛理から自分の分のコーヒーを受け取りながら姉を見る。

「桜井君は元気してるのかしら?」

『桜井君』とは桜井侑斗の事だ。

ピギーズイマジンの一件以来、愛理は侑斗とは会っていない。

愛理にとって『桜井侑斗』は二人存在しているという認識になっている。

一人は愛理の婚約者であり、良太郎の義兄となるはずだった桜井侑斗(以後:桜井)。

もう一人は十年前の時間からやってきて、仮面ライダーゼロノスに変身して戦っている良太郎と同じ年代の桜井侑斗だ。

前者は既に消滅しており、後者は健在である。

元は同じ人物だが今となっては『同姓同名の別人』という風に捉えられても不思議ではない。

「元気にしてると思うよ」

良太郎も『闇の書事件』及び『ネガタロスの逆襲』以降は会っていないが、そう簡単に倒れるタマではないと思っている。

コハナを見る。

彼女は桜井と愛理の子供であり、『特異点』だ。

つまりどんな経緯でもコハナは誕生するという事になる。

桜井が消失した以上、侑斗と愛理が結婚すればコハナが誕生するというのが定説だ。

だが良太郎は知っている。

侑斗も愛理もその気になれないという事を。

愛理が今でも愛しているのは桜井であって侑斗ではない事を。

また、侑斗も桜井の後釜になるようなかたちで愛理と結ばれるつもりは毛頭ない事を。

良太郎としてもこのまま二人が結ばれても幸せになることはないと考えている。

『時間』という得体の知れないものに操られているしかないからだ。

「どうしたんだよ?良太郎」

オオカミがサンドイッチを食べながら、何かを考えている良太郎を見る。

どこかボーっとしているようにも見えるし、何かを考えているようにも見えた。

「ん?あれから一ヶ月経ってるんだなってね……」

「あれからオッサンも何も言ってこねーって事は俺達が出るほどの事はねーってことじゃねーのか?」

「そうかもしれないね」

オオカミの言うとおりだと良太郎は考える。

別世界絡みの際には必ずといっていいほどオーナーから連絡が入る。

それがないとなると、別世界では大きな出来事があったとしてもそれは電王や仮面ライダーゼロノスが絡む程のことはではないという事になる。

(次に行くとしたらどの時間なんだろう……)

そのような事を考えてしまう。

一度目は今から十年前の時間で二度目はその半年後の時間だった。

もし次に行くとしたら、どの時間なんだろうと思ってしまう。

良太郎のズボンのポケットから音楽が流れ始める。

携帯電話の着メロだ。

ポケットから取り出して、携帯電話---ケータロスを通話状態にする。

「もしもし」

『お久しぶりですねぇ。良太郎君』

「オーナー。どうもお久しぶりです」

良太郎の会話から通話相手がオーナーだと知ると、着ぐるみ4とコハナはケータロスに集中していた。

 

 

月が照らし、昼間に比べると若干涼しいと思われる夜。

二輌編成のゼロライナーが海上に線路を敷設して、停車していた。

二輌目のゼロライナー・ナギナタ(以後:ナギナタ)のデッキから一本の糸が海に向かって垂れていた。

桜井侑斗が夕食を調達する為に、夜釣りをしていた。

といっても、切羽詰って行っているわけではない。

その証拠に表情は比較的穏やかでありキャンピングチェアに座って、デネブが淹れてくれたお茶を飲みながら行っているのだから。

「侑斗。俺の方は準備できたよ。釣れた?」

ナギナタ内で包丁を研いでいたイマジン---デネブが空になったマグカップにお茶を淹れてくれた。

「駄目だな。今日はさっぱりだ」

侑斗が釣りをするようになったのは別世界の戦いが終わってからすぐであった。

(八神達、いや八神のお陰で侑斗は明るくなった)

デネブは侑斗が以前より前向きになって生きている事が嬉しかった。

その変化の原因は八神はやての存在が大きいと思っている。

「辞めにする?」

「いや、もう少し続ける」

侑斗は淹れてくれたお茶を一気に飲んでから、釣りを続行する。

「八神達。元気にしてるかな?」

デネブは今日のメインディッシュは期待できないと判断したのか、軽い夜食を作り始める。

「………」

「侑斗?」

即答しない事を訝しんだのか、デネブは侑斗を呼ぶ。

「大丈夫だろ。九歳で大人でも背負わないものを背負う覚悟をしたんだ。ヴォルケンリッターや高町やテスタロッサ、スクライア達がいるんだし何とかなるだろ」

侑斗は黙考した後、答えを口にした。

そのように口に出した侑斗だが、懸念している事もあった。

それは、はやての性格だ。

責任感の強い彼女は他者を重んじるあまりに、自身を軽視する時がある。

自身の軽視。それは人生だったり、命だったり色々だ。

(あいつは自分から貧乏くじを引くタイプだからな……)

垂れていた釣り糸をリールを巻いて戻しながら侑斗は思った。

ナギナタに設置された壁電話が鳴り出す。

「デネブ」

侑斗は電話を取るように促す。

「もしもし。ゼロライナーです。はい……はい……。少々お待ちください」

デネブは受話器の通話口を手で押さえてから、侑斗を見る。

「どうやら趣味に耽れるのは今日で終わりみたいだ」

侑斗はデネブから受話器を受け取る。

「もしもし……」

 

 

翌日、『時の空間』では二種類の時の列車が並列して停車していた。

一台は一両から四両までが戦闘車両で五両からは非武装車輌となっているデンライナー。

もう一台は二輌編成で黒と緑が目立つゼロライナーだ。

現在、デンライナーの食堂室は賑わっていた。

といっても人数が多いだけでパーティのような楽しい雰囲気ではない。

そこにいる誰もが真剣な表情をしていた。

食堂室に設置されたテレビには横書きで記されていた。

 

『サイキョウニシテサイアクナルモノ』

 

「何だコレ?」

モモタロスは腕を組んで首を傾げて感想を述べた。

「確かに何だコレ?だよね……」

ウラタロスもお決まりのポーズを取って、考えながらも首を傾げていた。

「ナゾナゾか何かか?ヒントないんかい?」

キンタロスもモモタロス同様、腕を組んで首を傾げながら誰と指定することなくヒントを求めた。

「何コレ~?わかんないよ~」

リュウタロスも両人差し指をこめかみ辺りに当てながら、思案するが表情は曇っていた。

「カタカナ表示ってのが不気味さを増してるわよね」

「ハッタリだと思いたいよね……」

「無理だろうな……」

コハナ、良太郎、侑斗も感想を述べながらも、この文面が誰かのハッタリであってほしいと願っていたがそれは無理な願いだとも直感していた。

デネブはナオミの代わりに、全員分のコーヒーを淹れていた。

「オーナー。この文章は一体誰から?」

良太郎が送り主を訊ねる。

 

「『関所』にいる駅長、プレシアさん、アリシアさんからです」

 

オーナーが告げた名前に侑斗、デネブを除く全員が目を大きくしてしまう。

「野上、誰なんだ?」

侑斗が訊ねるが、良太郎は答えようとはしない。

あの二人の事を思い出しているのだろう。

「フェイトの母ちゃんと姉ちゃんみてーなヤツだよ」

モモタロスが代返した。

その表情は良太郎同様、どこか陰があった。

「モモタロス?」

デネブも普段見せない表情をするモモタロスを見て首を傾げた。

どうやら良太郎とモモタロスにとって、その二人は特別な何かがあると察すると侑斗はそれ以上は聞かなかった。

「『関所』ってなに?聞き覚えないんだけど」

ウラタロスがオーナーに質問する。

その質問にはキンタロス、リュウタロスも首を縦に振っていた。

「『関所』というのは、良太郎君が以前虚数空間に落ちた際に拾ってくれた紫色のキングライナーであるデッドライナーの別の名前ですよ」

オーナーが簡潔に説明してくれた。

「文章が作成された時間を映像で見てみますと……」

オーナーの言葉に従うようにして、ナオミがテレビのリモコンを操作して別の映像を映し出した。

『時間』の破壊とは違い、砂漠にはなっていなかった。

破壊されて傾いたビル。

ひび割れた道路。

線路から脱線して地面に激突した電車。

電柱の落下でひしゃげている自動車。

地面に倒れている人々。

天災が襲い掛かってきたかのような光景だった。

「別世界がこのような状態になると予測されるのは新暦〇〇七五年九月となっています」

「オッサン。シンレキってなんだよ?平成の次の年号かよ?」

オーナーが判明した事を話すが、モモタロスが話の腰を折る。

「ああ、すみません。別世界の暦を言ってしまいましたねぇ。わかりやすく言えば今年の九月にこの出来事が起こるという事です」

 

九月!?

 

全員が大声を出すのは無理もない。

現在は八月上旬、この出来事が九月上旬ならば猶予は一ヶ月を切っており下旬でも一ヶ月ちょっとしかない。

ヒントにならないヒントで目標を捜索するには時間がなさすぎる。

「オーナー。聞いていいですか?」

「何でしょうか?良太郎君」

「時空管理局はどうなってるんですか?こんな状態なるまで何もしなかったわけじゃありませんよね?」

良太郎は尤もな事を問う。

その質問にイマジン五体は便乗する。

「時空管理局は……同時期に壊滅しました」

オーナーがその時期に起きた事実を静かに述べた。

その一言が引き金となり、食堂室内の雰囲気は先程よりも深刻なものになっていた。

「あんな大組織が……」

「壊滅って……」

侑斗とコハナでさえもオーナーの台詞を受け入れるには時間がかかった。

「今回は過去の二度とはスケールが違うものになると思っていいでしょう。タイムリミットである九月を過ぎて、この出来事を無事に避けることが出来たとしてもそれで終わりというわけにはいきませんからねぇ」

「何でや?」

キンタロスがテーブルに腰掛ける。

「我々が今回、別世界に行く目的は『サイキョウニシテサイアクナルモノ』を倒すだけではありません。それだけは肝に銘じておいてください」

オーナーは指定席から立ち上がって、ステッキを突きながら中央まで歩く。

他にも何か思惑があるのだろうと誰もが思うが、それを口に出して訊ねようとはしなかった。

きっとはぐらかすとわかっているからだ。

「良太郎君。出発は明日になります。長期になりますのでご家族に挨拶をしておく事をお薦めしますよ」

「はい」

オーナーの気遣いを良太郎は有難く受けた。

 

 

『時の空間』から『ミルクディッパー』に戻った良太郎は姉である野上愛理に明日からの事を告げた。

愛理は夕飯を支度していた手を止めて、包丁をまな板の上に置いてカウンター席に座る。

良太郎も隣に座る。

「今回は長くなりそうなのね?」

愛理は弟が『時の運行』絡みで自分に言う事は滅多にないので、わざわざ言うという事は相当深刻な事か長期に亘る事なのだと安易に想像できた。

「うん」

「そう……」

良太郎はあっさりと認め、愛理は席から離れてカウンターの厨房に戻って夕食の支度に取り掛かった。

本日の夕飯はご飯に豆腐とわかめの味噌汁に出汁巻き卵、そしてマグロの刺身という和食だった。

シンプルだが良太郎は好きだった。

刺身を除くどの料理も、出来上がったばかりなので湯気がたっていた。

「良ちゃ……良太郎」

愛理が自分を『良ちゃん』ではなく、本名で呼ぶ事はほとんどない。

それは真面目にならなければならないという表れでもある。

 

「行ってらっしゃい。貴方を必要としている人達の元へ」

 

「姉さん……」

良太郎が一ヶ月近く外出すると必ずといっていいほど、出かける前よりたくましく成長して帰ってくるところから彼を必要としている人間がそこにいるということは何となく察していた。

そのこと自体は悪い事ではないし、成長の糧になるのならばよいことだと考えている。

だが、たった一人の肉親が命を落とすかもしれない旅に出る事に心配しないわけではない。

それでも弟を必要としている人達がいるのならばその人達のために送り出す事が姉である自分の務めでもあると思っている。

「はい!」

良太郎も決意の眼差しを愛理に向けて返事をした。

それから二人は姉弟水入らずの最後の夕食を取る事にした。

 

自室に戻った良太郎はトロリーバッグの中に着替えを詰めていた。

それ以外のものは特に持っていこうとは思わない。

元々趣味らしい趣味を持たない良太郎は携帯ゲーム機も愛読書も持っていない。

せいぜい持っていくとしたら『運の悪い男でも出来る家事全般』という愛理が入院していた時に購入した本くらいだが、もう読まないでも家事は出来るので持っていく必要はないと感じる。

「荷物はこんなものかな」

良太郎は中身を一通り確認し終えると、バッグを閉じた。

ベッドに寝転がって、窓から見える夜空を見る。

「新暦〇〇七五年。僕達が行った時から十年経ってる時代かぁ……」

あの頃に出会った人物はみな十年歳を取っているという事になる。

「てことはフェイトちゃん達も僕と同い年になってるって事か」

十九歳のフェイト・T・ハラオウンがどんな姿なのかと想像しても靄がかかって全く想像できない。

「会えばわかるか」

布団をかぶって眠りに就こうとする。

 

『良太郎。好きだよ。大好き!』

 

閉じていた両目を大きく開いてしまった。

「子供の頃の約束って忘れられて当たり前って部分があるからね……」

良太郎は十年前にフェイトに告白されている。

十年後のフェイトがそれを反故にしたからといって自分は責めるつもりはない。

「もし、憶えているままだったとしたら一つだけやらなきゃいけないことがある」

両手を後頭部で組んで天井を見上げながら、真剣な表情になっていく。

フェイトにプレシアが存命している事を伝えなければならない。

これをやらなければ自分はフェイトの告白に真摯に向き合う事が出来ないと考えている。

その結果、自分が軽蔑されたとしてもやらなければならないと思っている。

いつ実行するかはわからないが、胸に秘めておく事で良太郎は思案する事に区切りをつけて、今度こそ眠りに就いた。

 

翌日、チームデンライナー、ゼロライナーは別世界へと旅立った。

 

目的時間は新暦〇〇七五年四月。




次回予告

モモタロス 「仮面ライダー電王LYRICAL StS!!」

      新暦〇〇七五年四月、廃棄都市街。
      
      スバルとティアナは魔導師ランク試験の最後の準備をしていた。

      リィンフォースⅡが説明し、試験が始まった。

      第三話 「魔導師ランク試験」
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