仮面ライダー電王LYRICAL StrikerS Vol.1 Spring Party 作:(MINA)
コロナがマジでヤバいことになっています。
皆さんは今が『まとも』と思っていますか?
それとも『明らかに異常』と思っていますか?
少なくとも、みなひろは『明らかに異常』と思って生活しています。
1人でできることはたかが知れていますが、愚かな行為はしないように心がけていきましょう。
今は自身の選択が最良にも最悪にもなる時代ですからね。
傍から見ると、空間シュミレータは色んな色の魔力光が森を抜けて空に向かっている。
それが魔力によるものだという事を知らない者が見れば天変地異の前触れと思ってしまうだろう。
ヴァイス・グランセニックとシグナムが眼前のモニターに映し出されている映像を見ていた。
ヴァイスは腰を手に当て、シグナムは腕を組んでいた。
「いやぁ、やってますなぁ」
台詞がどこかオヤジじみている。
「初出動に加えて、野上との一戦がいい刺激になったようだな」
フォワード陣が燃え上がっている原因をシグナムは冷静に言う。
「いいっすねぇ。若い連中は……」
更にオヤジ化が進行していた。
「若いだけあって成長も早い。まだしばらくの間は危なっかしいだろうがな」
「そうっすねぇ」
ヴァイスは同意をしながら、シグナムを見る。
「シグナム姐さんは参加しないんで?」
ヴィータが参加しているのに、彼女がここにいるのが気になった。
「私は古い騎士だからな……。スバルやエリオのようにミッド式の混じった近代ベルカ式とは勝手が
違うし、剣を振るうしかない私が
モニターを見ながら、シグナムは自身がフォワード陣に指導するメリットがない事を語る。
「ま、それ以前に私は人にモノを教えるというガラではない。戦法など『届く距離まで近づいて斬れ』ぐらいしか言えん」
騎士としては模範解答なのだが、新人達には最も最悪な解答でもある。
「ははは。すげぇ奥義ではあるんですけどねぇ」
当たればまさに『一撃必殺』である。そう当たれば、だが。
「みんな、頑張ってますね」
温厚な声がシグナムとヴァイスの耳に入った。
二人が振り向く。
「野上」
「野上の旦那……」
それぞれの呼び方で声の主---野上良太郎に声をかけた。
「完治したのか?」
「ええ。シャマルさんからも戦闘に参加していいって言われてます」
良太郎は笑顔で右手を拳にしたり、開いたりと交互に繰り返して完治したことをアピールする。
「そうか」
シグナムの表情が柔らかくなったのをヴァイスは見逃さなかった。
「よっ」
空間シュミレータから一人隊舎へと戻ってきた。
「モモタロス」
良太郎はモモタロスがどこか浮かない表情をしている事が気になった。
*
訓練終了のチャイムが空間シュミレータにいる全員の耳に入った。
「じゃあ、午前の訓練終了!」
教導官高町なのはの一声が上がった。
隊長二人、副隊長一人は平然としているのに対し、フォワード陣はへたり込んでいた。
エリオ・モンディアル、キャロ・ル・ルシエと同伴していたリュウタロスは対照的に涼しい顔をしていた。
全員肩で息を整えようとしていた。
「はい、お疲れ。個別スキルに入るとちょっときついでしょ?」
「ちょっとというか……」
「その……かなり……」
ティアナ・ランスターとエリオがツッコミを入れるが、弱弱しい。
スバル・ナカジマとキャロに至っては何も言わない。
ツッコミに反応する力も失せているのかもしれない。
「フェイト隊長は忙しいからそうしょっちゅう付き合えねぇけど、あたしは当分お前等に付き合ってやるからな♪」
ヴィータは先程のモモタロスとのやり取りとは一転して上機嫌にグラーフアイゼンをへたばっている四人に突きつけた。
「ははは……」
隣にいるフェイト・T・ハラオウンは苦笑いを浮かべるしかなかった。
「あ、ありがとうございます……」
似たような表情をしていたのは、ツッコミに混ざらなかったスバルだった。
「それからライトニングの二人は特にだけど、スターズの二人もまだまだ身体が成長してる最中だからくれぐれも無茶はしないように」
「「「「はい!」」」」
フェイトが注意し、四人は返事で返した。
「じゃあ、お昼にしようか?」
「「「「はい!!」」」
「やった!お昼お昼♪」
なのはの言葉に四人は先程よりも大きな声を上げて、リュウタロスは諸手を挙げて喜んでいた。
*
八神はやてはシャリオ・フィニーノ、リイン、桜井侑斗を連れて隊舎から出ようとしていた。
デネブは厨房でデネブキャンディーを補充するために調理していたりする。
シャリオとリインは口の中をカコンカコンと何かを動かしていた。
「甘いですぅ~」
「本当。こんなおいしいキャンディー食べた事ありませんよ~」
二人とも笑顔になっている。
デネブキャンディーを食べた時になる現象といってもいい。
ちなみにリインには本来のデネブキャンディーは大きすぎるため、彼女に合わせてデネブが作ってくれているものを口に含んでいる。
「デネブキャンディーのファンがどんどん増えてくるなぁ」
味を堪能している二人の表情を見ながら、はやては支給されているジープに乗る。
「作ってる奴の正体知ったら、何人かは確実にショック受けるぞ」
侑斗は製作者がイマジンであることは伏せておいた方がいいと考えている。
機動六課の面々はデネブを知っているし、彼の料理に虜になっている者も多い。
だから作り主がイマジンであっても、驚くことはないし偏見も持っていない。
厨房スタッフに置いてはデネブと共に仕事をすることが楽しくて仕方がないと言っていたらしい。
だがこれが他の課となるとそうはいかない。
機動六課以外の管理局員達がイマジンに関して偏見や差別、恐怖といった感情を抱いてる事は否定できない事実だ。
(ま、そんな物好きいるわけないか……)
デネブの料理食べたさに機動六課の食事に足を運ぼうとするアドベンチャーはいないだろうと侑斗は踏んでいる。
「侑斗さん。どないしたん?考え事か?」
「ん?いやつまらない事だ」
はやても特に詮索しようとは思わなかった。
「あ」
はやての視線と声に、侑斗、シャリオ、リインも顔を向ける。
そこには、なのはを始めとする空間シュミレータで訓練を受けている面々がこちらに歩を進めていた。
「みんな、お疲れさんやなぁ」
はやての労いの言葉に、フォワード陣は返事で返す。
「はやて達は外回り?」
ヴィータの言葉に「その通りですぅ」とリインは返す。
「ちょっとナカジマ三佐とお話してくるよ。それにもう一人の仮面ライダーも連れてきてほしいって頼まれとったしね」
「俺だけ連れてこいってのも変な話だ。野上の事はまるで知ってるみたいだし……」
侑斗の言葉に一番反応したのはフェイトだった。
頬を赤くしていたのだから。
「なるほど……」
侑斗はフェイトの表情を見てから、納得したようだ。
「スバル、お父さんとお姉ちゃんに何か伝えとく事あるか?」
はやてはもしスバルがその手の事があるのなら、引き受ける気でいた。
「いえ、大丈夫です」
スバルは左手を軽く手を振って、特にないと表現した。
「そっか」
はやては首を縦に振って、ジープの運転席に座る。
イグニッションキーを回してエンジンを噴かす。
助手席に侑斗が座り、リインは運転手のはやての邪魔にならないように侑斗の右肩に乗っていた。
「じゃあはやてちゃん、リイン。行ってらっしゃい。桜井さん、二人の事をお願いします」
「ナカジマ三佐とギンガによろしく伝えてね」
なのはとはやてが一言二言告げる。
「うん」
「行ってきまーす」
はやてがアクセルペダルを踏んで、ジープがタイヤを回転させて走り出した。
昼時は食堂も混んでいた。
陸士隊服に身を包んだ男女がテーブルに席を着いて胃袋を満たそうとしている。
フォワード陣とシャリオは一つのテーブルで食事をしていた。
リュウタロスはモモタロス達のところで食事をしていた。
「なるほどぉ、スバルさんのお父さんとお姉さんも陸士部隊の方なんですね」
キャロは昼食のナポリタンをフォークでくるりと巻いていた。
「うん。八神部隊長も一時期、父さんの部隊で研修してたんだって」
スバルはナポリタンを口に放り込みながらも解説した。
「はあ」
「しかし、ウチの部隊って関係者繋がり多いですよね」
キャロはスバルの説明に納得し、ティアナはナポリタンを口に放り込みながら機動六課の内部事情に斬り込んだ。
「隊長達も幼馴染同士なんでしたっけ?」
ティアナはこのメンツの中で機動六課の事情に一番詳しいシャリオに訊ねる。
「そうだよ。なのはさんと八神部隊長は同じ世界出身で、フェイトさんも子供の頃はその世界で生活していたとか……」
パンをちぎって口の中に放り込みながらシャリオは話し始める。
「えーと、管理外世界の97番……」
エリオが口にナポリタンを放り込んだ状態でシャリオの代わりに答える。
「97番ってウチのお父さんのご先祖様が住んでた世界なんだよねぇ」
スバルがトングでナポリタンを二、三回掴んで自分の皿に放り込む。
「そうなんですか」
「うん」
更にエリオの皿にもナポリタンを放り込んだ。
「そういえば名前の響きとかも何となく似てますよね。なのはさん達と。あれ?そうなると良太郎さんや桜井さんも97番の出身って事ですか?」
「地球出身ってところは同じだけど、僕達は海鳴市のない完全な別世界の地球だけどね」
キャロの疑問に突如回答が返ってきたので、全員が視線を向けるとそこには良太郎がいた。
椅子を空いている席から一つ借りて、スバルの隣に座る。
「それって並行世界---パラレルワールドって事ですか?」
「まぁ……そうなるね」
ティアナの質問に良太郎は答えるが、自信は今ひとつだった。
良太郎にとって、SFというジャンルとしてあまり話題に出さなかったとしても彼女達にとってはごく当たり前の話題らしい。
「あれ、だとすると野上さん達ってどうやって来たんですか?」
スバルが訊ねてきた。食べる作業を続けたままだが。
「そういえば以前は私が質問した時は、答えませんでしたよね」
ティアナは以前にも似たような事を訊ねたことがある。その時ははぐらかされたのだ。
「まあね。今後一緒に行動するか否かがわからない人達を巻き込ませるわけにはいかないから言わなかったんだけどね。これからは一緒に行動するから教えて
おいた方がいいね」
良太郎が一瞬だが真面目な表情になった。
だからといって、戦闘時に出すような雰囲気はなかった。
「僕が住んでいる世界と君達がいる世界で共通するものってなに?」
「時間、ですね」
良太郎の問いに即答したのがシャリオだった。
「うん。世界は違っていても時間という概念が存在しているなら、『時の空間』が存在している事になるからね。後は各々の空間を繋いでいる『橋』を渡れば行けるってわけだね」
「デンライナーはタイムマシンだから次元航行は不可能ですからね。気になってたんですよ」
「ほとんど裏技ですよね……」
タイムマシンで次元航行をした方法を知り、シャリオは納得しティアナはそれが正攻法でないと呟き、残りの面々は目を丸くしていた。
「そういえばエリオはどこ出身だっけ?」
話題を切り替えたのはスバルだ。もちろん食べる事は中断していない。
「あ、僕は本局育ちなんです」
エリオは表情を崩すことなく食べながら答える。
「住宅育ちって事?」
スバルは問い続けるが、ティアナ、シャリオ、キャロは表情を曇らせていた。
良太郎には彼女達が何故表情を曇らせているのかがわからないため、何も言えない。
「本局の特別保護施設育ちなんです。八歳までそこにいました」
エリオの回答にスバルも表情が変わった。
自分の質問がエリオの過去の傷を抉っている事を理解したのだ。
ティアナがじーっと睨んでいる。
二人の間で念話の回線が開かれて、ティアナがスバルを罵倒したのだと傍から見て推測した。
そんなやり取りを見たエリオは何とかとりなそうとした。
「あ、その気にしないでください。優しくしてもらってたし全然普通に幸せに暮らしてましたんで……」
「ああそうそう。その頃からフェイトさんがエリオの保護責任者なんだもんね」
エリオが幸せを堪能している表情で言いながら、シャリオがその事についてフォローを入れた。
「はい!もう物心ついた頃から色々よくしてもらって、魔法も僕が勉強するようになってから時々教えてもらってて、本当にいつも優しくしてくれて僕は今でもフェイトさんに育ててもらってるって思ってます」
エリオがフェイトの事を思い出しながら語っている。
その表情を見て、同じ食卓に着いている者達は安心していた。
ただ一人、良太郎を除いては。
*
陸士108部隊隊舎。
隊舎の規模は機動六課が海上付近である事を考慮すると若干劣っている。
建物は中古物件を改築したのか外観は『隊舎』というよりも『校舎』を髣髴させるものだった。
「陸士108部隊隊長、ゲンヤ・ナカジマ三佐だ」
「桜井侑斗です。今は機動六課の民間協力者となっています」
ゲンヤと侑斗が互いに握手を交わしていた。
「ま、座ってくれ」
「ほな、お言葉に甘えて」
「失礼します」
ゲンヤがソファに座るように促し、はやてと侑斗は座る。
「新部隊。なかなか調子いいみたいじゃないか。イマジンを唯一倒せる部隊って事でも一目置かれてるぞ」
「そうですね。今のところは、です。任務で遭遇したイマジンも仮面ライダーの皆さんが戦ってくれてるおかげで被害は出てませんしね」
ゲンヤの称賛に、はやては内心喜びながらも平静を装っていた。
「しかし今日はどうした?古巣の様子でも見に来たか?それに俺が仮面ライダーに会ってみたいってワガママ言ったものの、こんな短期間で叶えてくれるほどヒマでもねぇだろうに」
「えへへへ。愛弟子から師匠へのちょっとしたお願いです♪」
はやてが来た目的を素直に打ち明けた直後に、部隊長室のドアが開いた。
入ってきたのはギンガ・ナカジマとリインだった。
「ギンガ♪」
「お久しぶりです、八神二佐」
盆にお茶を乗せたギンガが笑顔で応じた。
「おう、紹介するぜ。こちらは部下のギンガ・ナカジマ陸曹。ギンガ、こちらは……」
「仮面ライダーゼロノス。桜井侑斗さんですね」
ゲンヤが紹介する前にギンガは予習をしていたのか、侑斗の名前を口にした。
「ギンガ・ナカジマ陸曹です」
「桜井侑斗だ。ナカジマというと……」
「ナカジマ三佐は私の父で、スバルは私の妹になります」
侑斗が訊ねたかったことをギンガが先に答えてしまった。
「なるほど」
そう言う以外に侑斗は何も出てこなかった。
*
良太郎は現在シャリオと共にフェイトが待機している駐車場まで歩いていた。
「シャーリーさん、教えてほしい事があるんだけどいい?」
「何でしょうか?野上さん。私でわかる範囲でしたら」
シャリオは笑顔で応じてくれたので、良太郎は真面目な表情で口を開き始める。
先程の食堂の件でどうしても聞いておきたい事があるからだ。
「エリオの出身をスバルちゃんが聞いた時、みんなの表情が曇ったよね?あれはどうして?」
シャリオの笑みも消えて、真面目な表情になる。
「……野上さん。この事は他言無用でお願いしますけどよろしいですか?」
「もしかして管理局の『闇』の部分?」
確認するかのように良太郎が訊ねると、シャリオは黙って首を横に振る。
二人は立ち止まって近くの壁に背を預ける形となる。
先にこの形をとったのはシャリオだ。
歩いてペラペラ喋れるほどお気楽な内容ではないという表れだろう。
天井を見上げながら、シャリオが口を開き始めた。
「野上さんの想像通りです。エリオがいた特別保護施設は決していいところとは言えませんし、あの子もそこで良くしてもらったっというわけではないですね」
「やっぱり……」
シャリオの回答は良太郎の想像通りなので、動揺する材料にはならなかった。
「でも、どうして野上さんはその事に気づいたんですか?さっきのやり取りではこの手の内情を知らない人達---部外者に近い野上さんが気づくとは思えないんですよ。
フェイトさんから前もって聞いたって事は……ないですね。聞いていれば私に訊ねるようなことはしませんし……」
シャリオは自身が組み上げたロジックに矛盾が存在している事に気づいて打ち消した。
「シャーリーさんやランスターさんだけならともかくキャロちゃんまでが同じような表情を浮かべたし、エリオに質問したスバルちゃんも自分がどんな質問をした事かを
気づいた時には、やっぱり同じような表情を浮かべてたというのが、一つかな」
良太郎はシャリオが持った疑問に答えていく。
「もう一つは、何ですか?」
「もう一つはエリオが『幸せに暮らしてた』と公言した事、かな。できるならそれが彼の本心だと思いたかったんだけどね。フェイトちゃんが保護者みたいなものだと聞かされているから
鵜呑みにはできなかったんだよ」
「フェイトさんが保護責任者だから鵜呑みにできないというのはどういう事ですか?」
シャリオの視線は対面の壁のままだ。
「フェイトちゃんって自分の事より、周りの人の事を優先しちゃうでしょ。エリオやキャロちゃんがその姿を見ていたとしたらさ、きっとフェイトちゃんを始めとして周りの人達に
迷惑をかけないように気遣ったりするって十分に考えられるんだよ」
良太郎の言っている事は自身がイメージできるフェイト像が起こすかもしれない行動を言っただけだ。
十年で変わってしまえば、それまでだが。
シャリオが何も言わないところからして、概ね正解と判断していいのだろう。
「それにしても野上さんとフェイトさんは十年会ってないんですよね?よくそこまで……。勝手知ったる間柄、だからですか?」
「友達以上だとは断言できるよ」
良太郎はフェイトに告白されたことを思い出しながら答えた。
ティアナやスバルに訊ねられた時は『友達』と言ったのは質問された故に即答したものだが、今になるともう少しマシな言い方があったのでは?と反省してしまう。
「さて、行こうか。フェイトちゃんを待たせたら悪いしね」
「はい!」
二人は壁から預けていた背を離れ、駐車場まで向かった。
*
108部隊長室には現在、はやてとゲンヤの二人が話を詰めていた。
はやてはソファから立ち上がり、予め持っていたデータをモニターとして展開していた。
映像には赤色の結晶体---レリックが映し出されていた。
ゲンヤは娘が淹れてくれた緑茶を啜りながら、モニターを見ている。
(また茶の葉変えたな……)
休憩の合間に淹れてくれているお茶とは違うと見抜けるのは自分の舌がまだ腐っていない証拠だとゲンヤは納得づける。
「お願いしたいんは密輸物のルート捜査なんです」
「お前のところで預かってるロストロギアか」
はやてが本日の来訪目的を打ち明け始める。
ゲンヤとしては娘の茶の味を楽しむことを中断した。
「それが通る可能性のルートがいくつかあるんです。詳しくはリインがデータを持ってきていますので後でお渡ししますが……」
ロストロギアを正規のルートで運搬するなんてことは現実にはあり得ない。
それは質量兵器をハンドバッグのような感覚で往来を歩くに等しい行為だ。
「ま、ウチの捜査部を使ってもらうのは構わねぇし、密輸調査はウチの本業っちゃ本業だ。頼まれねぇことはねぇんだが……」
手は貸したいが、ゲンヤとしては渋ってしまう理由もあった。
直接108部隊に調査依頼をするとなると、後々面倒なことになりかねないという心配がある。
イマジンという怪人までを相手にしなければならない今日、身内で小競り合いをしたくないものだと考えてしまう。
「八神よぉ」
ゲンヤはひとつハッキリさせてみる事にした。
「他の機動部隊や本局捜査部じゃなくてわざわざウチに来るのは、何か理由があるのか?」
はぐらかすよりストレートに訊ねる方が、はやても答えやすいだろうと踏んでだ。
「密輸ルートの調査自体は、彼等にも依頼しているんですが地上の事はやっぱり地上部隊が
彼女の言う『地上の事』というのは、何かと規制が厳しい組織系統の事も指しているのだろう。
(実績がねぇに等しい機動六課がデカいツラして頼みに来たって思ってんだろうなぁ。連中)
新設部隊を軽視するというのも地上部隊の『負』の風習になっていたりすることも知っている。
(だから、
はやてが先に依頼した二つの部隊は機動六課の風当たりを悪くしないためのカモフラージュとも考えられる。
「ふむ。まぁ筋は通ってるな」
先の二つを差し置いて、108部隊を通して来たら『頭越し』となって揉めるのは確実だからだ。
避けたかったことをしてくれたので、ゲンヤは内心褒めておくことにした。
茶を啜る。
「いいだろう。引き受けた」
椀をテーブルに置いて、足を組みながら了承した。
「ありがとうございます」
「捜査主任はカルタスでギンガ……ナカジマは副官だ。二人とも知った顔だし、ナカジマならお前も使いやすいだろう」
はやては協力の依頼が成功したことに笑顔を浮かべながらも、ゲンヤの方針を聞き漏らさずに聞いている。
ギンガを『ナカジマ』と呼称したのは公私混同しないための割り切りだろう。
「はい。
ソファに座って茶を啜る準備をしながら、はやては機動六課での方針を話していく。
手には椀が収まっていた。
108部隊隊員事務室。
「なるほどな。だからあんた達はイマジンを『天災』扱いしているってわけか」
「はい。私は直接アレを体験してきたわけでも見てきたわけでもありませんけど、訓練校生時期でも嫌というほど聞かされましたから」
「リインもはやてちゃん達から教えてもらったです」
侑斗がギンガとリインに教えてもらっている事とは『時空管理局員が何故、イマジンを『天災』扱いしている理由』だ。
この事を話してくれているギンガとリインの表情には『恐怖』の色が浮かび上がっていた。
二人に教えてもらった出来事とは、『0069年の悪夢』だ。(第三部第十一話参照)
時空管理局がイマジン事件と関わる中で一大汚点といってもいい事件だ。
「その事件のせいで、イマジンに対してできる手段として高ランク魔導師への戒厳令が敷かれたわけか」
「イマジン一体の戦闘能力は最低でも魔導師ランクAAA-だと聞きます。ランクの低い魔導師が一部隊総出で互角に戦えたとしても、被害は甚大になる事も確実です」
「イマジンが絡む事件に関してはどの部隊も積極的にならないのはそういう理由があるんです」
ギンガとリインの言い分を侑斗はしっかりと聞く。
「殉職者を増加させないための苦肉の策、か……」
侑斗は右手を拳にして強く握ってしまう。
自分達が課せられている責任と期待は思っている以上に大きいものだと自覚した。
戦いたくても戦えないという無念。
戦えても力不足ゆえに何もできないという無念。
『イマジンと戦える者』というのはそういった者達の無念も背負っているという事になる。
(だからといって、今更それらを背負って戦いますとも言えないしなぁ)
侑斗の本音としてはそんな気持ちを持とうという気にはなれない。
今までだって、『自分が決めた事』だからやってきただけなのだから。
『義務』でやってきたわけではない。
この部屋にいる陸士部隊員を見回す。
(この中にイマジンと戦って人々を守りたいって気持ちを持っている人達は多いんだろうなぁ)
そのような風に考えても、侑斗は『義務』で戦うつもりはないが。
「心の片隅にでもおいておくか……」
侑斗の呟きは今後の方針を話しあっているギンガとリインの耳には入っていなかった。
108部隊部隊長室。
「スバルに続いてギンガまでお借りするかたちになってしまって、ちょっと心苦しくはあるんですが……」
「なぁに、気にしないでくれ。スバルは自分で選んだ事だし、ギンガもハラオウンのお嬢と一緒の仕事で嬉しいだろうよ」
二人は話を終えて、今のところ世間話をしていた。
「しかしまぁ気づけば、お前も俺の上官なんだよな。魔導師キャリア組の出世は早ぇなぁ」
しみじみとゲンヤは、はやてを見ながら言う。
それはかつての部下が上司へと逆転されたというような嫉妬ではなく、教え子が自分の手元から離れて無事にやり圧せている事への満足と一抹の寂しさがあった。
「魔導師の階級なんてただの飾りですよ。中央や本局に行ったら一般士官からも小娘扱いです」
苦笑いを浮かべながら、はやては自身の体験談を語る。
「だろうなぁ。あ、すまん。俺も小娘扱いしちまったなぁ」
「ナカジマ三佐は今も昔も尊敬する上官ですから」
「そうかい」
はやての言葉をゲンヤは素直に受け取る事にした。
『失礼します。ラット・カルタス二等陸尉です』
橙色のモニターが出現して、中央に映し出されているのは陸士隊服を着た青年だ。
「おう。八神二佐からの外部協力任務だ。ナカジマを連れてちょいと会議室で打ち合わせしてくれや」
『はっ。了解しました』
青年---カルタスは任務と方針を告げられて了承した。
同時にモニターが消滅した。
「つーこった。ところで八神よ」
「何ですか?」
「お前、あの兄ちゃんとどこまで進んでるんだよ?」
ゲンヤの瞳の色には『好奇心』が浮かび上がっていた。
「へ?兄ちゃんって誰です?」
はやてはゲンヤが何を言っているのかわからない。
仕事の話ではないという事を理解しているのだが。
「お前、事件や他人の事には察しがいいくせに自分の事になるとてんでだな……」
ゲンヤは先程までの切れ者と今目の前にいる天然娘が同じ人間なのかと呆れている。
「桜井侑斗だよ」
「なっ!?わ、わ、私と侑斗さんが、ど、どないしたんですか!?」
はやては思いっきり動揺していた。
「わかりやすいなぁ」
ずずーっと茶を啜っているゲンヤは落ち着いていた。
「その様子だと大して進展してねぇみてぇだな」
「し、進展も何も私と侑斗さんはそういう関係やないですし……」
はやては顔を赤くしながら言い訳をする。
「そうかぁ。俺から見たらものすごーくわかりやすいけどな」
ゲンヤはにやにやしながら、はやてを見ている。
「へ、変な詮索せんとってください……」
顔を赤くしながら言うから、はやてには迫力がなかった。
「お前があの兄ちゃんとそういう関係じゃねぇってんだったら、スバルかギンガのどっちかを見合いさせてみるってのもいいかもなぁ」
「み、見合いですか……って駄目です駄目です!!」
「何でだよ?お前には関係ねぇんだろぉ?」
反対するはやてに対して、ゲンヤは面白そうににやにやとしている。
「スバルとギンガの将来のために言うてるんです!侑斗さんはコーヒー飲まへんし、椎茸は残すし、意地悪言うし……」
文句をぶちぶちとはやては言い始める。
「無愛想やし、お世辞の一つも言わへんし、デネブちゃんをすぐ絞めようとするし……」
まだ続く。
ゲンヤとしては「よくそれだけ言えるもんだな」と内心で感心していた。
「でも本当は間違ったことをした人がいたら誰であろうと本気で怒れるし、思いやりがあって優しくてちょっと寂しがり屋な人なんです……」
最初の剣幕と違い、どこか懐かしく思い出すように語っていた。
「なんだよ。最後はノロケかよ……」
ゲンヤは涼しさを味わうためにパタパタと右手を団扇のように振っていた。
「ま、その辺りの話はまた聞かせてもらうとして、打ち合わせが済んだらメシでもどうだ?」
「はい!ご一緒します」
「あの兄ちゃんは連れてこいよ?」
「うううう~」
ゲンヤの一言に、はやては先程のやり取りを思い出して顔を赤くしながら睨んでいた。
*
時空管理局首都中央本部。
時間は既に夜へと切り替わっていた。
ミッドチルダの夜は天候が良ければ、星を一面に見る事ができる。
良太郎は初めてその光景を見た時、心を奪われた。
彼の住んでいる世界では場所にもよるが、人工的に作られた光のせいでこの天然の光を拝むことはなかなかできない。
田舎にでも行けば話は別なのだが。
(隊舎から距離があるにしても、何だかんだで到着したのが夕方だもんなぁ)
まず車両事故による渋滞。
その後は、調査する資料を忘れてきたための往復。
最後には端末使用が満席だっための空席待ち。
(これってやっぱり僕のせい……)
自分がただ同伴するだけでこのようになるという自覚はある。
機密事項などを調査するために設えているためなのか、室内は薄暗く陰気な雰囲気が漂っていた。
良太郎は端末に一つしか椅子がないため、受付係に頼んでパイプ椅子を二つ借りてセッティングした。
「ありがとう。でも、どこで?」
「受付さんに聞いてみたら、貸してくれたよ」
フェイトが礼を言いながら、パイプ椅子の出所を訊ねてきたので正直に答えた。
シャリオはカタカタとコンソールを操作している。
「レリック自体のデータは以上です」
モニターに映し出されている内容を凝視しても良太郎には首を傾げるしかない。
全くわからないからだ。
ただ、フィーリングでレリックが『危険なモノ』だという事だけはわかるつもりだが。
「封印はちゃんとしてるんだよね?」
「はい。それはもう厳重に」
危険物を何の制御もかけずに外に放り出すような愚行は行わない。
「それにしてもよくわからないんですよね。レリックの存在意義って……」
「それ、本当なの?」
シャリオの言葉に、良太郎は耳を疑った。
あれだけ調査しているのに、何一つわかっていない事にだ。
「はい。わかっている事と言えばエネルギー結晶体にしてはよくわからない機構がたくさんあるし、動力機関としても何だか変なんですよね……」
「それってつまり有効利用ができないって事?」
「そうなるね。それどころかレリックを使う事で、私達に恩恵をもたらすのかそれとも災厄を招く事になるのかも今のところは五分五分ってところになるね」
シャリオと良太郎のやり取りを聞きながら、フェイトが口を開く。
「それに、すぐに使い方がわかるようならロストロギア指定はされないからね」
そしてまとめた。
シャリオがコンソールをカタカタと操作する。
「そういえば良太郎達はお給料は五月からだよね?四月分もまとめての計算になるんだよね」
「うん。民間協力者ってどのくらいもらえるの?」
金銭に卑しいわけではないが、良太郎にしてみれば気になる事なので訊ねてみる。
「そうですねぇ。民間協力者は正局員よりも扱いは下になりますから……。六課で例えるならエリオやキャロよりも下ですね」
「アルバイトみたいなものか……」
シャリオの説明に良太郎は納得する。
「でも良太郎は今回は多分、私達よりも貰う事になるよ」
フェイトが納得している良太郎に口をはさんだ。
「あ、そうか。『イマジン報酬』ですね」
「イマジン報酬?」
シャリオの聞き慣れない言葉に良太郎は返す。
「イマジンを倒した人に与えられる特別報酬だよ。はやてが申請してくれているから口座に入ってるよ」
フェイトが簡潔に説明した。
「ちなみにそれってどのくらいなの?」
懸賞金扱いならばまばらだが、もし額が設定されているのならば大した額にはならないと良太郎は予想する。
実際、警視総監賞といっても感謝状と本当に些少の金額しかもらえないというのは既に知れ渡っているものだ。
「次元犯罪対策捜査本部にかかる総額、かな。規模にもよるけど最低でも五千万だね」
「%&$#!!」
あまりの額に良太郎は場が場だけに、大声を張り上げる事は自粛したためむせてしまった。
「大丈夫?」
「う、うん。額が額なだけにビックリしただけ……」
むせている良太郎の背中をフェイトがさする。
「仕方ありませんよ」
シャリオはむせるの無理はないと言う。
「あ、こっちはガジェットの残骸データ?」
「はい。こっちはシグナムさんやヴィータさんが捕獲したものと大差はありませんね」
モニターには破壊されたガジェットドローンが幾つものウインドウで表示されて映し出されていた。
「新型も内部機構も大差ありませんし……」
ウインドウの数が増えて、映像は外観ではなく内部がメインになっていた。
「「あ」」
良太郎とフェイトが同時に声を上げた。
二人の顔つきも真剣なものになっていた。
「シャーリー。ちょっと戻して。さっきのⅢ型の残骸写真」
「は、はい」
フェイトの指示に従うようにシャリオはコンソールを操作する。
「多分、内面機関の分解図……」
モニターに表示されているウインドウが遡行されていく。
「それ!」
フェイトの声にシャリオは手の動きを止めた。
「これ宝石?それともエネルギー結晶ですか?」
シャリオには覚えがないようだ。
だが、自分とフェイトには忘れられないものだ。
何せ二人が出会い、そこから現在に至るまでの経緯をもたらしたロストロギアだからだ。
「「ジュエルシード」」
二人は示し合わせたわけでもなく、同時に名称を口にした。
「随分昔に私となのはが捜し集めてたもので、良太郎達と出会うきっかけになったロストロギア……。今は局の保管庫で管理されているはずのロストロギア……」
「なるほどぉ。ってなんでそんなものが!?」
シャリオが納得し、驚嘆の声を上げる。
「横流しした人がいるって事になるね」
良太郎の一言に二人は、納得するしかない。
それは同僚にガジェットドローンの製作者と繋がりのある人物がいるって事になる。
「あとシャーリー、この部分を拡大して。何か書いてある」
フェイトが指定する部分---ジュエルシードの右斜めには金のプレートが付着していた。
プレート部分が拡大される。
何か文字の様なものが書かれていた。
「これって名前ですか?」
「ジェイル・スカリエッティ」
シャリオの問いにフェイトが即答した。
彼女の声色に某かの『想い』が含まれている事を良太郎は見逃さなかった。
次回予告
シグナム 「仮面ライダー電王LYRICAL StS」
ついに明らかになる首謀者の名前。
其之首謀者の傍らにいるのは一体?
『王子』とは『将軍』とは『塾』とは?
第二十四話 「動き出す闇の者達」