仮面ライダー電王LYRICAL StrikerS Vol.1 Spring Party 作:(MINA)
どうぞ
『ロングアーチからスターズとライトニングへ、さっき教会本部から新情報が来ました。問題のロストロギアの所有者が判明、
運搬中に紛失したとの事で事件性はないそうです』
シャマルから伝えられた新情報は現在、探索を行っている二チームと海鳴のとある場所にいる四体にとっては朗報だった。
『本体の性質も逃走のみで攻撃性はなし。ただし、大変に高価なものなので出来れば無傷で捕らえてほしいとのこと。まぁ気ぃ抜かずにしっかりやろ?』
八神はやてからの追加情報は捕獲条件だった。
了解!!
念話の回線を開くことができる魔導師達は返事で返した。
*
野上良太郎の隣で、エリオ・モンディアルが一人、明らかに浮いていると思われるを取っていた。
「新情報?」
「あ、はい。ロングアーチからですけど捕獲対象のロストロギアに事件性はないそうです。それと所有者の希望で高価な物らしく可能な限り無傷で捕ら
えてほしいとのことです」
「そうなってくると、僕達は門外になるね」
良太郎がエリオの報告でロストロギアの捕獲は自分達では助けになりそうにないと告げる。
破壊が可能ならば何とかなるが、それが不可となると手の施しようがないのも事実だ。
「あの良太郎さん」
「なに?」
「蜘蛛の糸の事は報告しなくてもいいんですか?その……」
「イマジンかもしれない、でしょ?」
良太郎はエリオが言いたい事を先に言った。
「蜘蛛の糸で殺人を起こすなんてことは確かに普通の人じゃ無理なのは確かだけど、イマジンだとどうもしっくりこないんだよね」
「どういう事なんですか?」
エリオが良太郎と目線を合わせるとなると、見上げる姿勢になっている。
歩く上では前が完全に見えないので危険だが、彼の身体能力なのか訓練のたまものなのか人とぶつかる事はなかった。
「イマジンが契約者の望みをどんな手段を用いても、叶えるってのは知ってるよね?」
「はい」
「だとしたら蜘蛛の糸で窒息死なんて手口はどうもね。よほど契約者と信頼関係ができていないとまず実現は不可能だよ」
良太郎は意見を述べながら、頭の中でとあるイマジン関連の事件を思い出していた。
それはイマジンと契約を果たして、復讐を果たした悲しき父親の事件だ。(第二部参照)
「僕が知る限りでは感性の合う者同士でない限り、契約者とイマジンの従来の関係は超えられないよ」
それは最早、『偶然』や『奇跡』の領域という事になる。
「良太郎さんとモモタロスさん達も感性が合っていたという事ですか?」
エリオの質問に良太郎は笑みを浮かべて首を横に振る。
「いや、今でこそそんなふうに見られてるけど最初の内はバラバラだったんだよ。揉めたりする事も二度や三度じゃなかったね」
「そうなんですか……」
「だからこそ言えるんだけどね。短期でイマジンと関係を得るのは才能や運の域に縋るしかないってね」
良太郎の視野にライトニングのメンバーの姿がハッキリと見える。
「蜘蛛の糸で窒息死していたって事は報告しておこう」
「はい!」
それから二分後に二人は合流した。
ライトニングが得体の知れない海鳴での事件に関わろうとしている頃、スターズはロストロギア探索を続けていた。
「ちょっと肩の力は抜けたかな?」
高町なのはが先程ロングアーチからの情報によってリイン、スバル・ナカジマ、ティアナ・ランスターが余計な緊張が解けていればいいと思っていた。
「はいですぅ」
「ほっとしましたぁ」
「はい」
三人とも先程より表情が柔らかくなっていた。
「そろそろ陽も落ちてきましたし、晩御飯の時間ですねぇ」
空は青色からオレンジ色へとなっており、帰宅を目的としている社会人もちらほら見えていた。
『ライトニング。そっちはどう?』
なのはは念話の回線を開く。
受信相手はフェイト・T・ハラオウンだ。
『こっちも一段落したから待機所に戻るよ。あとちょっと報告しなきゃいけない事もあるから。』
『それって怪人絡み?』
更に待機所にいるはやても念話の回線に入り込んできた。
『鋭いね』
フェイトがはやての推測に驚きの声を上げる。
『実は民間協力者さんからその手の情報をもらったんよ。何やら殺人事件が起こったって』
『そうなんだ』
なのは達はライトニングとは違う方向を探索していたため、その手の情報に当たらなかったのだ。
『あと、本日の夕飯は民間協力者さんが用意してくれるそうや』
『あ、そうだ。良太郎から伝言があってモモタロス達も連れて帰ってきてほしいって』
『了解。フェイト隊長』
一通りの会話が終わると、念話の回線は閉じられた。
「といっても、手ぶらで帰るってのもね。それにモモタロスさん達も連れて帰らないといけないし」
携帯電話を取り出して、アドレスの中から『翠屋』を選択する。
「あの、なのはさん」
「なぁに、ティアナ」
「モモタロスさん達の居場所に心当たりがあるんですか?」
ティアナの質問に、なのはは苦笑するしかない。
「まず、間違いなく今から行く所なんだけどね」
なのはにしてみれば下手な推理や可能性などではなく、『確信』めいたものだ。
「あ、お母さん。なのはです。うん、お仕事で近くまで来ててって……え、知ってる?あ、そうか」
翠屋で電話の相手をしてくれているのは、母親である高町桃子だ。
携帯電話で会話している内容を端々に聞きながら、スバルとティアナは目を丸くしていた。
「なのはちゃんだって、地面から生えてきたわけじゃないんだから母親はいるって」
コハナが二人に変に特別視する必要はないように促す。
『魔導師としての高町なのは』、『上司であり教導官である高町なのは』しか知らないのだから無理はない。
「そ、そうですよね」
「何当たり前のことを変に感じてたんだろ。私」
スバルとティアナも我に返って、平静を取り戻す。
(母親か……)
コハナの母親とは良太郎の姉である野上愛理だ。
愛理は自分の事を娘だとは知らないし、自分も最初から知っていたわけではない。
事実を知ったからと言っても、コハナにしてみれば『実感がない』の一言で片が付いてしまう。
それに彼女が住んでいた『時間』はイマジンによって消滅させられてしまっている。
母親に甘えるという行為をコハナがとる事はほぼ永遠にかなわないのだ。
それを寂しいと思ったことはないが、それでもそういう行為ができるなのはを眩しいものでも見るような目で見てしまう。
「ハナさん?」
「ん?なに、スバルちゃん」
「スバルでいいんですけどね……」
コハナも良太郎同様にスバルを呼び捨てにはせずに、『ちゃん』付けしていた。
ちなみにティアナは『ティアナさん』と呼んでいる。
彼女の場合は良太郎と違って、単純にその方が『呼びやすい』という感覚であって『苦手意識』からなるものではなかった。
「どうしたんですか?」
「ああ、親に甘えられるって羨ましいなぁって思って」
「そうなんですか」
スバルが余計な事を訊ねる前に、ティアナが話題を切り上げた。
「じゃあ十分くらいでお店に行くから」
なのはが携帯電話に向かって言う言葉に、リインは喜色の表情を浮かべていた。
「さてと……」
コハナは指をバキボキと鳴らしてから手足をブラブラさせていた。
「あのぉハナさん」
「何かしら?リインちゃん」
「リイン達が向かうところって、あそこのはずなのにどうして準備運動みたいなことをしてるんですか?」
この行動はこれから向かう先を知っているリインにしてみればれ不審と取られても仕方がないようだ。
「そうよ。間違いなく私達がこれから向かうところは『あそこ』よ」
「だったら変です。どうしてそんなに体を動かしてるんですか?」
コハナは当たり前のように答え、リインは更に理解不能というような表情を浮かべる。
「それは行けばわかると思うよ。リイン」
携帯電話をたたんで、なのははコハナの代わりに返答した。
「あの、お店って聞こえましたけど……」
ティアナが電話の会話の端々で得た情報を元に訊ねた。
「そうだよ。ウチ喫茶店なの」
なのはは普通に答える。
「喫茶『翠屋』ですぅ♪」
リインが待ちきれないようにしてはしゃいでいた。
『翠屋』は夕方であり、客層は学生にサラリーマンにOLとまばらだった。
店員はあれよあれよと休む間もなく、店内を行き来していた。
カウンター席には現在、昼間は四つの席が座られていた。
モモタロス達四体である。
しかし、現在彼等はここにはいない。
その彼等はというと。
「さっきから洗っても洗ってもキリがねぇな」
洗い場で皿洗いをしていた。
洗っても洗っても汚れたお皿は続々と追加されていく。
「センパイ。まだそのお皿汚れついてるよ。キンちゃん。洗い終わったお皿は絶対に割らないようにね。リュウタ、追加があるなら持ってきて」
ウラタロスが的確に指示を出していた。
戦闘面ではモモタロスがリーダー的存在になるが、この手の家事面でのリーダーはウラタロスだったりする。
「カメの字、張り切ってるなぁ」
キンタロスがウラタロスの指示通りに丁寧に棚の中にお皿をしまっていく。
「ほーらモモタロス、おかわりだよぉ」
リュウタロスが洗い場に汚れているお皿を追加してきた
「まだあんのかよ!?」
終わりがどんどん遠ざかっていくのでモモタロスとしてはぼやいてしまう。
そもそも何故彼等は皿洗いのような裏方をしているかというと。
久しぶりに『翠屋』に訪れて、コーヒーを飲んでプリンやスイーツを食べてバカ話をして盛り上がっていた。
しかし、夕方ごろになると人が増え始めてきた。
現在の店員たちではハッキリ言えば対応できていない部分も目立ち始めていた。
モモタロス達とてかつて短期とはいえ、居候させてくれた大恩人ともいえる者達の職場が窮地に追い詰められているのを見て見ぬふりをするほど
薄情ではなかった。
言い出したのはモモタロスだ。
「なあとっつぁん、カミさん。俺達が手伝ってやろうか?」
「もしかして今日、食べた分の埋め合わせとか考えてないだろうね。駄目だよ。今日のは我々の奢りなんだから、君達がそのような事を考える必要はないんだって」
『翠屋』のマスターである高町士郎がモモタロスの申し出をやんわりと断った。
「そうよ。皆さんと十年ぶりに会ったんだもの。私も年甲斐もなくはしゃいでしまったわ。だから変な気遣いはしなくていいのよ」
桃子も笑顔で断りの台詞を入れる。
「でもさ、モモ君達が裏方を手伝ってくれたら大助かりなのも確かなんだけどね」
眼鏡をかけたおさげの女性---高町美由希はモモタロスの言葉に甘えようとしていた。
「美由希さんも言ってるんだし、士郎さんも桃子さんもセンパイの行為に甘えたら?」
さらに促してきたのはウラタロスだ。
「カメ、言っておくけどオメェ等もやるんだぞ?」
「当然わかってるよ。センパイ一人だと大惨事になりかねないしね」
ウラタロスは定位置のポーズを崩すことなく涼しく言う。
「一宿一飯の返させてもらうで!」
右親指で首を捻ってから腕を組んで堂々とキンタロスは言う。
「お手伝いー!!」
リュウタロスは両腕を高く天に掲げて、やる気をアピールしていた。
イマジン達は全員やる気になっている。
士郎、桃子、美由希とて彼等の人となりは十分知っている。
これ以上の戦力がないという事も知っている。
士郎は右手をモモタロスの前に出す。
「モモタロス君」
「おうよ!」
モモタロスは差し出された手をしっかりと握った。
そしてウラタロス、キンタロス、リュウタロスを一瞥してから言う。
「準備はいいか?野郎ども!!」
その一言が開始の合図となった。
そして現在に至るわけである。
なのは、スバル、ティアナ、リイン、コハナの五人が『翠屋』に訪れる頃にはピークを過ぎていた。
そのため、店員が慌ただしい素振りを見せる事はなかった。
「ただいまぁ。お父さん、お母さん、お姉ちゃん」
なのはが声をかけるとカウンターにいる士郎と桃子が笑顔で返してきた。
「お久しぶりです。士郎さん、桃子さん、美由希さん」
コハナも十年ぶりの再会に頭を下げてあいさつする。
「なのは、お帰りなさい。ハナちゃんも久しぶりね」
「は、はい……」
コハナは、桃子、士郎、美由希の容姿を見て目を丸くしていた。
三人とも十年前の時間の時とあまりというか全く変化がないのだから。
(本当にただの一般人なのかしら……)
と、疑いたくなるのも無理のない事だった。
「お母さん。若……」
「本当だ……」
ティアナとスバルもやはり桃子の外見を見てそのように呟く。
「あれ、十年前と全然変わってないわよ」
「「え!?」」
コハナの呟きに二人は『次元世界七不思議』に匹敵するものを生で見ることになってしまった。
「もしかしてお父さんの方も……」
スバルはおそるおそる小声でコハナに訊ねる。
「十年前から全然変わってないわよ」
「「………」」
コハナの一言にフォワード二名の高町夫妻を見る目には確実に『未知の恐怖』が混じっていた。
「モモ君達がいるからやっぱりと思ってたけど、ハナちゃん久しぶり~」
美由希がコハナの前まで歩み寄って、頭を撫でる。
「あの、美由希さん。モモ達は?」
撫でられながらも、コハナは自身にとって肝心な事を訊ねる。
「裏方をやってくれて助かってるよ」
「そうなんですか……」
迷惑をかけていないなら自分が鉄拳制裁を繰り出す必要もないので、コハナとしては先程の準備運動は徒労になるがそれでいいと納得させた。
「この子達、私の教え子なんだ」
なのはが桃子と士郎にスバルとティアナを紹介していた。
「こんにちは。いらっしゃい」
士郎が笑顔で応対する。
「は、はい!」
「こんにちは」
スバルはいきなりの事で上擦った声を上げてしまい、ティアナは平静を保っていたのか普通に挨拶を返した。
「ケーキは今、箱詰めにしているからね」
桃子が手際よくトングを使って、ケーキを箱の中に収めていく。
「モモ君達にハナちゃんが来ているって事は良太郎君も?」
「ええ、来てますよ」
「そっかぁ……」
(もしかして美由希さん……)
コハナはどこか憂いを秘めた表情をした美由希を見て推測する。
美由希と良太郎が最初に会った際には、年齢は良太郎が年上だった。
だが十年経った時間においてはそれは既に逆転している。
それに彼女とて良太郎とフェイトの事は、なのは経由で知っているのだろう。
無論これは、コハナの推測であって根拠はない。
美由希が良太郎に対して秘めたる想いがあったのでは、ということを。
それを美由希に訊ねるのは野暮というものなので、コハナは黙っておくことにした。
「コーヒーと紅茶もポットに入れておいたからな。持って行ってあげな」
士郎がポットを二つ用意して、入れ始めていた。
「ありがとうございますぅ」
リインが深々と頭を下げる。
「お茶でも飲んで休憩していってね。ええと……」
桃子がフォワード二人とコハナを促す。
「スバル・ナカジマです」
「ティアナ・ランスターです」
まだ自己紹介をしていなかったため、二人はした。
「スバルちゃんにティアナちゃんね」
桃子が笑顔で名前を記憶していく。
「二人ともコーヒーとか紅茶とかイケるかい?」
士郎が好みを訊ねる。
「あ、はい」
「私はコーヒーはちょっと……」
ティアナは大丈夫と言い、スバルは嫌いな方を告げた。
「リインちゃんはアーモンドココアよねぇ?」
美由希がリインの好みを淹れはじめる。
「はいですぅ」
笑顔でリインは頷く。
「なのは」
士郎が穏やかな表情から真剣な表情に変わる。
「な、なに?お父さん」
「最近ユーノ君はどうしてる?」
「ふえ?」
士郎の質問はごく普通のものだろう。
知人の安否を知りたがっているものなのだから。
だが、なのはは件の人物を名を耳にした時に心臓が跳ね上がった。
「ユ、ユーノ君がどうしたの?お父さん」
心臓が跳ね上がったことなど誰にも気づかれることはないが、なのはは気が気ではなかった。
「最近、姿を見てないからな。少し気になってな」
「お父さん。ユーノ君ってよく来るの?」
「月に一度は来ていたな」
士郎の回答に、なのはは目を大きく開いていた。
それは、彼女が『初めて』知った情報だからだ。
「私、知らないよ……」
「まぁ、特に教える事でもなかったしな」
士郎の言葉にどこか裏切られたという気持ちを持ってしまったなのはだが、それをしつこく詮索する権利はないと自制する。
「それで、どうなんだ?」
「今のお仕事になってからは全く会ってないんだ」
「そうか。会う機会があったら顔を出すように言っておいてくれ」
士郎の言葉には『常連客を呼ぶ』というよりは『心配しているから安心させてくれ』という意味合いの方が強いように思えた。
なのはの中で、言い知れない不安があった。
「お父さん。ユーノ君の事が心配なの?」
彼女の言葉に、身内ではなく他人の心配する事への『嫉妬』は含まれていない。
「彼は天涯孤独の様なものだろ?一人くらい心配する人間がいてもいいはずだろ?」
(そ、そうだった……)
こちらが苦しくても何事もないように接し、悩みでも何でも聞いてくれるのがユーノ・スクライアだ。
だが、彼は悩みがあれば誰に相談するのだろう。
職場の同僚に打ち明けるだろうか。
自分が同じ立場なら多分しないだろう。
友人、知人に打ち明けるだろうか。
気遣わせたくないという気持ちが先行して、打ち明けないだろう。
そうなると最終的に頼れるのは家族だ。
自分には両親や兄や姉がいる。
だが、天涯孤独といってもいいユーノにはそういう人物はいない。
(私、考えたことなかった。ユーノ君が悩んだりしたら誰に話しかけるのかって……)
それだけではない。自分はユーノという人物のプライベートなどを全く知らない事に気づいた。
十年の付き合いで、『大切な幼馴染』と称しておきながらだ。
「お父さん……」
「なのは。お前も社会で働いているからわかっていると思うけど念を押して言うぞ。人間関係は決して永遠不変じゃないんだ」
士郎は『父親』というよりも『社会の先輩』として、なのはに忠告した。
その言葉は、隣で座っているスバルとティアナにも突き刺さった。
「ところで二人とも、ウチのなのはは先生としてはどうだい?お父さん、どうも向こうの仕事の事はよくわからなくて」
先程の雰囲気がなかったかのように、士郎が教え子二人に訊ねてきた。
二人は、まずこちらを見てきた。
その眼には「言っていんですか?」という意思がこもっていた。
なのはは首を縦に振る。
「あ、その凄くいい先生で……」
「局でも有名で若い子達の憧れです」
悪評を言われることはないと思っていたが、褒賞を言われるのも居心地の悪さの様なものを感じてしまう。
家族に感心の声を挙げられることで、加速的に居心地の悪さが身体に襲い掛かってきた。
風芽丘図書館では、隊長を除くチームライトニングと良太郎が調べ物をしていた。
隊長であるフェイトは自動車を借りて、『翠屋』にいる面々を迎えにいっていた。
その間、ただボーっとするのもよしだったのだが良太郎はある事を知るために訪れる事にした。
自分の中にある渦巻いている靄をスッキリさせるのが第一の目的でもあるため、単独で行うつもりだった。
だが、生真面目な三人は付き合うと言い張りその言葉に甘んじる事にした。
現在、エリオとキャロ・ル・ルシエは過去数十年に起こった殺人事件関連の記録本を探しており、良太郎とシグナムはそれらに目を通していた。
「野上」
「何ですか?」
ページを捲っている良太郎は手を止めることなく、隣で声をかけてきたシグナムの声に反応した。
「お前のやる気を削ぐわけではないが、話が飛躍しすぎていると私は思うんだが……」
シグナムの言う通り、自分の考えは飛躍しすぎているといってもおかしくない事だ。
「僕も実体験がなければこんな考えを口にした人の事を鵜呑みには多分しませんね」
「実体験ってまさか……」
キャロが言葉の意味を想像して、青ざめる。
その証拠にフリードリヒが入っている鳥籠を持つ手に力がこもっていたし、震えてもいた。
「あの……良太郎さん……」
キャロが質問を切り出さない代わりに、エリオが確認するように訊ねる。
「廊下に出ようか。続きはその時に話すよ」
続きを話すとどうなるか想像がついた良太郎はシグナム、エリオ、キャロを廊下へと促した。
「「幽霊列車!?」」
良太郎が口にした単語をエリオとキャロは反復した。
二人の表情は驚愕と恐怖が混じる複雑なものだった。
シグナムも声は出していないが、目を丸くしていた。
「死者を常世に運んだり、常世の住人を現世に運んだりする列車だよ」
幽霊列車に乗車(この場合、拉致)させられた経験があるのは仲間内をひっくるめても良太郎だけだ。
「冷凍庫の中に閉じ込められる感じで、あまりいいものじゃなかったね」
生者には死者を運ぶ列車は、居心地の良いものではない。
現世と常世の中間地点であるデッドライナーも同じだ。
「もしあの蜘蛛の糸がイマジンさん以外の怪人さんだったら、それってもしかして……」
「か、勝てるんですか?そんな相手に……」
話を聞いた後なので、キャロとエリオは更に青ざめていた。
「野上。怯えさせてどうする……」
部下二人の態度を見て、シグナムが良太郎を睨む。
「まだ続きがあるんですよ」
怯えさせるつもりはなかったのだが、結果的にそうさせてしまったのでその責任は取らなければならないと判断する。
「これも僕の体験からでしか言えないんだけど、幽霊列車から降りた死者---死霊は現世に足を踏み入れると、実体を持ってしまうんだよ」
「実体?つまり我等の攻撃が通じるという事か?」
シグナムが口を開く。
「はい。ただ……相手は死霊なんで死ぬ事はありませんけどね」
こちら側の攻撃が通じる事は、死郎との戦いで知っている。
そして不死身といえども攻撃を食らう事がダメージになり、それは決して無限ではないという事もだ。
それでも単純に体力は生者よりもあるのも確かだろう。
「僕達の攻撃が通じるという事がわかってホッとしましたぁ」
「それでも相手がお化けだから怖いですけど……」
エリオは胸をなでおろしていたが、キャロはまだ怯えていた。
単純に『生者以外の者』という種族的恐怖が勝っているのだろう。
良太郎はしゃがんでキャロと同じ目線になる。
「キャロちゃん。もし戦う事になったら相手をガジェットと思って戦えばいいよ」
「はい?」
「お化けだと思うから怖いんでしょ?ガジェットはどう?」
キャロは少しだけ天井を仰いでいた。
「ガジェットは怖くありません」
「ね。ガジェットは怖くないんだから相手をそう思えば怯えなくて済むんだよ」
「そうですね!ありがとうございます!良太郎さん」
キャロはこちらの意図を察してくれたようで、感謝の言葉を述べてくれた。
「いやいや、もしそれでも駄目ならエリオを頼ればいいんだし、ね?」
良太郎の言葉で一番狼狽したのはエリオだろう。
「え、ええと。うん。だ、大丈夫だからね!!」
エリオは狼狽しながらも、安心させる台詞を精一杯引き出した。
先程の恐怖に満ちた雰囲気から、一転して穏やかな雰囲気になっていく。
「わかりました。そのように伝えます」
シグナムが誰かと話していた。
彼女の方向に顔を向けると、携帯電話を用いていた。
(八神さんかな)
シグナムが丁寧語を使う相手は限られてくる。
「野上。時間切れだ」
それは探索の切り上げを意味する言葉だった。
次回予告
第二十九話 「機動六課 海鳴へ⑤ ~隠れた偉人?後編~」