仮面ライダー電王LYRICAL StrikerS Vol.1 Spring Party 作:(MINA)
林の中での戦闘も終盤となっていた。
数で有利のクモ怪人五体も自分達の攻撃がことごとく崩されている事に狼狽を隠さなかった。
『フルチャージ』
『フルチャージ』
ロッド電王とアックス電王がパスをデンオウベルトのターミナルバックルにセタッチする。
「新技を編み出してるんはモモの字だけやないで!」
アックス電王は専用武器であるDアックスをその場に落とす。
彼の右手には先程フルチャージした際に生じたフリーエネルギーが伝導されていた。
「それってもしかして良太郎に教えたアレ?」
「そうや。空手の極意やで!」
ロッド電王の問いに、アックス電王は得意満面に言う。
「極意って言ってもキンちゃんの場合、それ以外全部相撲じゃない……」
この呟きは聞こえていないと呟いた側は思っていたりする。
「グギャアアアア!!」
「ギャギャアアアア!!」
クモ怪人が二体、アックス電王へと向かっていく。
陣形としては二体並列ではなく、二体直列だった。
一体を倒しても、残りの一体が攻撃を繰り出すというものだ。
「言わんかったか?」
アックス電王は先程より低い声でクモ怪人に向かって言う。
「一撃必殺の極意やってな!!」
左足を強く踏みつける。その拍子に地面が少しだけ抉れる。
抉れた地面の欠片がいくらか飛び散る。
腰を捻って、右拳を大きく振りかぶる。
右手はまだフリーエネルギーが纏われており、バチバチと稲光が光っている。
その色はアックス電王のメインカラーである金色だ。
飛びかかってくるクモ怪人は重力に逆らう事は出来ないため、そのままこちらに向かってくる。
「どすこおおおおおおおおい!!」
振りかぶっていた右拳を一直線に繰り出す。
クモ怪人の胸部に直撃する。
これがイマジンならば外部からのフリーエネルギーが注ぎ込まれて、肉体を維持するエネルギー許容量を超えてしまう上で爆発が起こる事になる。
だが、今回の相手はイマジンではない。
フリーエネルギーを注いだところで、爆発するとは思えない。
そうなると、体力をゼロにして細胞維持ができないまでのダメージを与えるしかない。
アックス電王の右拳に纏われている金色のフリーエネルギーがクモ怪人へと伝導していく。
「ギャギャギャアアアアア」
クモ怪人は自身に外部からかつて自分を屠った相手とは違う未知のエネルギーが身体中に注ぎ込まれ、嫌悪感を露わにする声を出していた。
「ふん!」
踏み込んでいる左足を指を浮かせて踵を前へと滑らせて少しだけ前へと踏み込む。
身体は先程よりも少しだけ前傾姿勢へとなっていく。
それだけで、クモ怪人の身体に刺している拳は奥に入り込む。
そうなると、もちろんフリーエネルギーはより深く注ぎ込まれるわけだが。
「ギャアアアアアアア」
クモ怪人が口から上げたのは完全な悲鳴だった。
その証拠に身体全身から青い焔が出現していた。
青い焔に纏われたクモ怪人は弾かれるようにして自らの身体に刺さっていたアックス電王の拳から離れていき、後方へと下がっていく。
「グギャアアアアアアア」
後方のクモ怪人には青い焔の塊がこちらに向かってきているという事だ。
驚異的な身体能力を持つ怪人でも、宙に浮いている状態から急速に地面に着地することはできない。
そうなると、後方で追撃を行おうとしていたこのクモ怪人の末路は一つしかない。
青い焔の塊となってしまった同胞を受け止めるだけだった。
クモ怪人二体は青い焔に包まれて爆発した。
静寂な場に不釣り合いな爆発音が響き、爆煙が夜空へと昇っていった。
「これぞ新技。アトミックパンチや!」
天に昇る黒煙を見ながら、アックス電王は空いている左手で直角に曲げている右手をパンという音を響かせながら掴んだ。
「やるね♪キンちゃん。ガラじゃないけど僕もお披露目しましょうかね!」
青色のフリーエネルギーを伝導させているDロッドを両手で巧みに回転させながらロッド電王が言う。
Dロッドを回転させている際に生じている風が木々に切断とまではいかないまでも傷をつけていた。
ブォンブォンという音を立てながらも、豪快に音を立てている。
残ったクモ怪人三体は同胞を倒されたことにより、怖気ついたのかそれとも慎重になったのか全く攻めてくる様子はない。
同胞を倒されて、憎しみをむき出しにして襲い掛かってこない事は素直に評価することにした。
頭上に回転させている Dロッドを回転を続けながら自らの正面へと持ってくるようにゆっくりと降ろしていく。
Dロッドに纏われている青色のフリーエネルギーは『輪』のようになっている。
「一応聞くけどさ。遺言とかってある?」
今から繰り出す新技の威力をロッド電王は知っている。
自分のイメージ通りならば怪人三体を屠るくらいは容易いものだ。
それ程の威力のあるものだ。
クモ怪人三体は顔を見合わせるだけだった。
「ないんだね」
ロッド電王は怪人達の態度をそのように受け止めた。
正面へと持ってきたDロッドはまだ回転を続けている。
「じゃあ、チェックといくよ!」
Dロッドを回転させている両手を更に速く動かす。
ぼんやりと象っていた青色のフリーエネルギーの『輪』もハッキリと輪郭を帯びていく。
更に回転速度を上げる。
「光栄に思うんだね。お前達は僕の新技の威力を味わう第一号なんだからさ!!」
ロッド電王は高らかに勝利宣言を言いながら、Dロッドを回転させている両腕を勢いよく振り下ろす。
Dロッドの回転で青色のフリーエネルギーで構築された『輪』は回転しながら、クモ怪人三体へと向かっていく。
『輪』はまるで水のような見栄えをしてはいるが、その実はフリーエネルギーの塊である。
食らって待っている結末は水に溺れての溺死ではなく、外部からのエネルギーを注ぎ込まれるうえで起こる爆死だ。
クモ怪人達は逃げようとするが、『輪』の方が速い。
背を向けようとした時には、『輪』から吹き出ているフリーエネルギーがチリチリと襲っていた。
一番行動を移すことが遅かったクモ怪人が最初の餌食となり、その姿はなくなっていた。
怪人一体を餌にしても『輪』は満腹になっていないのか、速度は損なわれていない。
むしろロッド電王が発射させた時よりも増している。
まるで先程のクモ怪人を自らのエネルギーとしているかのように。
二体目は潔いのか、足掻きなのか逃げる事を辞めて向かってくる『輪』の前に立っていた。
「ギャギャギャアアアア!!」
と高らかに叫びながら、クモ怪人は『輪』に向かっていく。
自分が盾になる事で、残り一体を生還させようと考えているのかもしれない。
だが、現実はそんなに甘くはできてはいなかった。
『輪』は果敢に向かっていったクモ怪人を非情にも食らった。
断末魔の悲鳴を上げさせることも許さずに。
残りの一体を食らう事にさほどの時間はかからなかった。
怪人三体分のエネルギーとして取り入れた『輪』は満足したのか、それとも許容量のエネルギーを食ったうえでの暴発なのかはわからない
が爆発を起こした。
「デッドエンドホイールってところかな」
ロッド電王は先程の技に名称を付けながら、爆煙を眺めていた。
それから二分後に数人の足音が耳に入った。
先程まで戦闘が行われた現場には機動六課の隊長と副隊長、そして別世界の民間協力者達がいた。
現地協力者とその関係者はこの場にはいない。
怪人がいるかもしれない場所に一般人を招くという事は、地雷を設置している地面に赤ん坊をハイハイさせるようなものだ。
「蜘蛛型の怪人と戦ってたって……、もしかしてコレ?」
民間協力者の枠の中では中心人物となっている野上良太郎は現地協力者と機動六課部隊長が趣味で作り上げたファイルを開く。
「うん。こいつ等だね」
「間違いないで」
「間違いありません」
「はい。この怪人達です」
「この怪人さん達で間違いありません」
現場で戦闘を行っていた二体とその場で待機するように言われていた四人の証言は一致した。
「あと、この怪人達ですがウラタロスさんとキャロをスカウトしてました」
ティアナ・ランスターの報告に首を傾げる者達が多数いるのは言うまでもない事だ。
「何でカメとキャロなんだよ?あまりに意外じゃねぇのか?」
切り出したのはモモタロスだ。
「赤鬼の言う通りだな。ありえねー組み合わせだぞ」
ヴィータも同意する。
「ウラタロスとキャロに共通する何かがあったという事になるのだが……」
シグナムが手を顎に当てて、件の一体と一人を交互に見る。
「キャロとウラタロスさんは怪人の言葉がわかるみたいなんです」
共通しているものをエリオ・モンディアルが言う。
「凄く嬉しそうっていう感じでしたよ。怪人達」
スバル・ナカジマが怪人達の様子を思い出しながら、想像を含めた事を言う。
「でもどうしてウラタロスとキャロなんだろ……。キャロは何となくだけどウラタロスに関しては良太郎、わかる?」
フェイト・T・ハラオウンがキャロに何故、『怪人対話能力』が備わったのかは想像がついておりイマジンであるウラタロス
に関しては完全な門外なので、良太郎に訊ねる。
「モモタロスやリュウタロスの特殊能力みたいなもの、かな……」
モモタロスとリュウタロスには『特殊能力』と区別できるようなスキルが存在する。
モモタロスには『イマジンを探知する嗅覚』
リュウタロスには『人間を操作する能力』
対して、ウラタロスとキンタロスには今までそういった能力は存在していなかった。
イマジンの生態は不明な部分が多いため、先の二体が先天的なものならばウラタロスの特殊能力は経験の積み重ねによって開眼
した後天的な能力だとも考えられたりもする。
「あり得るかもね。僕のスタイルには反するけどね」
ウラタロス自身はこの能力を得たことに戸惑いはなく、あっさりと受け入れていた。
「さっき、キャロちゃんの方は想像がついているって言ってたけど……」
良太郎がフェイトに訊ねようとする。
「キャロの前の職場だよ」
「たしか、管理世界61番スプールスでの管理局自然保護隊だったよね」
サラリとキャロ・ル・ルシエの前の職場を口に出す。
「………」
「なに?」
「いや、そこまでサラリと言えるなんて思わなかったから……」
「君達が色々している間に僕等ができる事なんてたかが知れてるからね」
目を丸くしているフェイトに良太郎は何事もないように告げる。
「まさかとは思うけど、色々な動物と接したりしたから気持ちを理解できるようになった延長線とか……」
「よくわかるね」
良太郎が口に出したことはフェイトの想像と同じだったようだ。
「キャロとウラタロスさんのみが使える怪人対話能力……、さしずめバイリンガルならぬカイジンガルやね」
八神はやてが一体と一人の能力に名称を付けた。
「はやてちゃん。カイジンガルはレアスキルになるのでしょうか?」
シャマルが訊ねると、はやては首を傾げる。
「レアスキルってのはある意味では魔法繋がりな部分もあるから、カイジンガルは当てはまらへんと思うよ」
「ゴルゴムの怪人さんはイマジンさんとは違うって事はハッキリわかった事があるよ」
高町なのはが今回の一戦で確信を持ったことがあると言う。
「何なんですか?なのはさん」
スバル・ナカジマがなのはを見る。
「モモタロスさんの嗅覚が反応しなかったことだよ。もし、ゴルゴムの怪人さんがイマジンさんと何らかの繋がりがあるんだとしたら
モモタロスさんが見逃すはずないからね」
「そうなってくると、事前対策を練るのは難しくなるで」
はやてが深刻な表情になる。
イマジンの出現の際にはこれまで散々な痛手を負っている時空管理局は『イマジンサーチャー』というものを匿名希望の技術者からの
恩恵を受けて、開発して実用にまで持ち込んではいる。
しかし、初期段階であるためか小型化が難しい上に大量生産も思った以上に進まないという現実の中で数少ない完成品は優先される部署
に回されることになっている。
設立されてから二か月も満たない機動六課がこの高級機材を入手することは不可能といってもいい。
それでも相手がイマジンならばモモタロスの嗅覚があればサーチャーと同じ役割を担っているので、大した問題にはならないと考えていた。
だが、今回交戦した相手はイマジンではない。
もし、そのような怪人がミッドチルダや他の次元世界に現れたら時空管理局は完全に後手だ。
「イマジンだけでもこっちはほとんどお手上げやのに、他にも違うタイプの怪人がいる事がわかってしもた以上は報告はせなあかんやろね」
はやての脳裏には、今回のゴルゴム怪人の報告で頭を抱えているお偉方が簡単にしかも鮮明に浮かび上がっていた。
「とにかく、このお話はこれでお開きや。みんな戻ろか?」
はやての言葉に、部下と協力者達は声を揃えて返事をした。
拠点であるコテージには現地協力者達とコハナが待っていた。
彼女達は食事の後片付けをしていた。
「今の爆発って何だったの?もしかして怪人?」
アリサ・バニングスの質問に全員が首を縦に振った。
「ゴムゴムの怪人だろうぜ。俺の鼻に引っかからなかったしな」
怪人の詳細を話したのはモモタロスだ。
「ゴルゴムだって」
ウラタロスがかかさずツッコミを入れる。
「ま、戦ってみて思った事はタフやいう事と俺等が負ける事はないって事やな」
「蜘蛛型なだけに蜘蛛の糸を吐いたけど、欠点も丸わかりだったしね」
イマジン以外の敵と戦った事は何度もある。
その経験がなければ苦戦は必至だったかもしれないという事は戦った二体は決して言わない。
「さっすがだね♪」
エイミィ・ハラオウンが信頼している証として、明るい声で言う。
「それにしても何やかんやでみんな、結構汗かいとるなぁ」
はやてがコテージにいる全員を見回しながら言う。
昼間から炎天下ではないとはいえ、外を歩き回っているのなら汗は掻く。
「サーチャーの様子を監視しつつ、みんなでお風呂いこか」
「監視といってもデバイスを身に着けておくだけで大丈夫ですし……」
はやての言葉にシャマルが補足する。
「最近は本当に便利だよね~」
「技術の進歩ですぅ」
なのはのオバサン的発言にリインは現実を語る。
「あ、でも湖で水浴びって季節でもないし……」
「「!!」」
アリサの発言に狼狽の表情を浮かべていたのは良太郎と桜井侑斗だ。
「あ~、野上さんと侑斗さん。さては私等の裸を想像したな~♪」
身構えるような仕草をしているが、はやての表情は明らかに男性二人をからかっているものだった。
「や、八神さん……」
良太郎は、はやての目論見通りのリアクションを取っていた。
「誰がお前の貧相体型なんざ想像するか」
侑斗は、反撃するかのような一言をはやてにぶつける。
「だ、誰の身体が貧相やて!!」
はやては侑斗の言葉にカッとなっていた。
「お前だが」
「見たことあんの!?」
「あるわけないだろ」
「見てないのにそんなこと言うなんて許さへん!!私、脱いだらすごいんやで!!」
売り言葉に買い言葉の応酬が始まっていた。
二人のやり取りにデネブはアタフタし、ヴォルケンリッターは見て見ぬふりをしていた。
「ねえ」
フェイトが良太郎に声をかける。
「えと……なに?」
良太郎の声色にはどこか『恐れ』のようなものが含まれていた。
「もしかしてだけど、良太郎も想像したの?その……私の裸を」
徐々に声量が萎んでいくが良太郎は聞き取っていた。
「まあ……その……あの時の事を思い出した」
「あの時の事?」
「十年前の事だよ。事故とはいえ……ね……」
顔を赤くしながら頬を掻く良太郎を見て、フェイトは彼が何を言っているのかを理解して顔を赤くした。
「もう!そんな事を思い出さなくてもいいから!!それにあの時とは色々と事情は違ってるし……」
十年前、事故とはいえ良太郎は入浴中のフェイトという現場に足を踏み入れてしまったことがある。
その時は湯を浴びせられた後、顔面に洗面器を叩きつけられるという洗礼を受けたものだ。
「あの時とは事情が違うって事は……。そうか……今度こそバルディッシュで……」
「良太郎。絶対に誤解してる……」
どんどんネガティブな方向に考えを向けている良太郎にフェイトは何と声をかけたらいいか戸惑う。
「あんた達、痴話喧嘩は余所でやってくれない?そういうのに免疫がないのもいるって事を忘れてるんじゃないわよ」
アリサが痴話喧嘩同然といわれても仕方のないやり取りをしている二組に注意する。
イマジン達に囃し立てられる中で二組の痴話喧嘩はとりあえず終了した。
*
結果、全員が赴く場所は海鳴スパラクーアとなった。
*
女性側の脱衣所は花が咲きそうなくらいに、会話が弾んでいた。
男性側の脱衣所はそんな声をBGMとしながらも不気味なくらいに静かだった。
原因は間違いなく彼等である。
「良太郎さん。何だかその……みなさん、急に出て行ってるんですけど……」
エリオ・モンディアルが明らかなる異常事態に戸惑い、良太郎に訊ねてきた。
「まあ、無理もないけどね。モモタロス達がいれば大抵こうなるよ」
「でも、モモタロスさん達はその……刺青みたいなものをしてないですよ」
エリオは純粋にそのように思っているし、実際にその通りなのだ。
「ミッドチルダではどうかはしらないけど、地球ではモモタロス達の存在は刺青をしている人達以上に怖いんだよ」
「みなさん、いいイマジンさんなのに……」
振り回されたりしながらも、エリオはモモタロス達が世間で騒がせているイマジンとは違う事をわかっていた。
「人間、みんながお前みたいな考えだったら少しは平和になるんだけどな」
侑斗が服を脱ぎながら、エリオの言葉を全人類へのメッセージへと変換させる。
「あの……お客さん」
番頭が良太郎に声をかけてきた。
「何ですか?」
「お連れの皆さんの事ですけど、大丈夫でしょうか?」
番頭は不安でたまらないのだろう。
頭に『ヤ』のつく方々ではないが、外見は間違いなく凡人にしてみれば恐怖の対象であることは否定できない。
「大丈夫ですよ。十年前にもこちらには伺っても問題なかったし」
良太郎はそう言いながら、浴場へと入っていった。
浴場に入ると、モモタロス達を見てビビった者達が多数いたおかげで十年前と同様に貸切り状態となっていた。
既にイマジン達はそれぞれ好き勝手な行動をとっていた。
泳いだり、打たせ湯に打たれたりと満喫していた。
「十年経ってもあまり変わり映えはしていないな」
「そうだね。その方が勝手がきくからいいけどね」
侑斗と良太郎は周囲を見回しながら感想を漏らす。
「これってどこから入ってもいいんですか?」
一人落ち着きなくキョロキョロしているエリオは二人に訊ねる。
「好きなところとか気になるところに入ればいい」
侑斗が簡潔に教えると、エリオはサウナ室へと入っていった。
「あいつ、意外に渋い趣味をしてるな」
侑斗も湯船につかるよりも滅多に経験できないサウナに目が向いており、エリオの保護もかねてサウナ室へと入っていった。
「前に行った時には入ってなかったっけ」
良太郎も吊られるようにしてサウナ室へと入っていった。
現在、サウナ室には良太郎、侑斗、エリオの三人が入っていた。
「エリオ、きつくなったらすぐに出るんだよ」
「はい!」
良太郎の言葉に、エリオは首を縦に振る。
室内は当然、熱いが檜がサウナ室でしか堪能できない独特の香りを醸し出しているので精神的に快楽を与えていたりする。
「なあ、野上」
「ん、どうしたの?」
「お前、テスタロッサとはどうなんだ?」
侑斗が前を向いたまま、訊ねてきた。
「なに、急に?」
「聞かせろよ。テスタロッサがお前にベタ惚れだってのは八神から聞かされているが、お前の事は聞いた事がないからな」
侑斗が恋バナを振ってきたことに良太郎は目を丸くしており、エリオはこの手の話に交わるのは初めてなので、興味津々だった。
「僕がフェイトちゃんの事をどう思ってるかって事でしょ?」
「ああ」
「………」
良太郎が確認し、侑斗は首を縦に振ってエリオは真剣な表情になる。
「『好き』か『嫌い』かの二択なら、間違いなく『好き』だと答えるよ」
「「………」」
良太郎の真剣な告白に、侑斗とエリオは固まる。
「これってその……両想いって事なんですか?」
エリオが侑斗に訊ねる。
「一応はな。だがテスタロッサが告った事は明らかになっているが、コイツが告ったって話は聞いていない」
「フェイトさんは良太郎さんの気持ちを知らないって事ですか……」
保護者的存在に知らせたいとエリオは即座に脳裏に浮かび上がらせた。
「モンディアル。今、考えている事はテスタロッサには言うなよ?」
「え!?どうしてですか?」
侑斗に心中を読まれたことにエリオは驚きと疑問が混じったような声を出してしまう。
「言うなら野上が筋ってもんだろ。それにコイツの場合は恥ずかしいとかいう奥手な理由ってわけじゃないだろ。テスタロッサの気持ちに返事を返すのは」
「まあ……ね」
侑斗の指摘に、良太郎は首を縦に振る。
「その言えない理由は俺達絡み、つまりテスタロッサの時間に大きく影響しているからだろ」
「うん」
良太郎は頷く。
「フェイトさんの時間、ですか?」
「野上とテスタロッサが会ったのは十年前の時間。その間に、コイツは色々な真実を知ったんだろ。その中でその時のテスタロッサには絶対に話してはならない事も知ってしまった。違うか?」
「まあね」
これにも良太郎は短く答えた。
恋バナからどんどん深く重い話へと切り替わるが、エリオは逃げようとは思わなかった。
恩人の恩人の胸中を知る事ができる少ない機会だからだ。
「それってその……、フェイトさんがプロジェクトFで生み出された存在って事ですか?だったら……」
エリオは自分が知る限りのフェイト関連の『闇』という部分を口に出す。
「いや、僕もその事は知ってる。彼女がその事を受け入れている事もね」
「その更に深い『闇』こそが、想いに応えられない最大の理由か」
「先に水風呂にいるよ」
侑斗の仮説に、良太郎は背を向けたままサウナ室を出た。
「良太郎さん。答えませんでしたね……」
今までの質問は正解にしろ間違いにしろ答えてはいたのに、最後だけは何もしなかった事にエリオはどういう事なのかわからなかった。
「あれは正解だ。答えなかったのは口に出してしまいそうになったのを防ぐためだったんだろ」
良太郎の背中を見送った侑斗はエリオに優しい眼差しで告げる。
「そこまでしなきゃいけない事なんですか!?何だか悲しいですよ……」
「女の一途な気持ちに応えるって事はそういう事なのかもしれないな。今時珍しい純愛だしな」
「?」
エリオには侑斗の呟いた言葉の意味が理解できていなかったが、それが何か大切な事だという事は本能的に知った。
エリオは知らない。
自身に降りかかる災厄?を。
その災厄?は決して電王もゼロノスも助けてはくれない事を。
*
海鳴スパラクーアを出た全員を狙ったかのように、サーチャーからの反応はあった。
「ロストロギア。反応キャッチ!」
リインの一声が完全にその場の空気を変えた。
現地協力者達がこれから出動する面々に激励の言葉を送る。
なのはが的確な指示を繰り出す。
「それじゃスターズ&ライトニング。出動や!!」
はやての一声でスターズメンバー、ライトニングメンバーが行動を開始した。
そこにはチームデンライナーとゼロライナーが残っていた。
「あれ?アンタ達、どうしたのよ?」
アリサは残っている事に疑問を抱き、訊ねる。
「俺達はロストロギアとか捜せねーんだよ」
「僕達、そういう能力ないしね。下手に動き回ると余計に足引っ張るだろうし」
「ロストロギアにイマジンとか怪人とか絡んでたら俺等も出張れるんやけど、俺とカメの字が倒した奴は関係ないみたいやったしな」
「僕達、おるすばーん」
「八神達が帰ってくるまでにコテージを綺麗に掃除しておかないと……」
モモタロス、ウラタロス、キンタロス、リュウタロス、デネブがそれぞれ主張する。
「私達がロストロギアを発見しても、大して何もできないわよ。何せ封印とかできないし」
コハナが正論を述べた。
「ジュエルシードみたいに大人しいタイプなら、拾って渡すこともできるけどね」
「今回のタイプはどうみても、そういうのとは違うだろ。だったら餅は餅屋だ」
良太郎と侑斗も出来る事は可能な限り、行うが今回は範疇外だと言った。
*
舞台は河川敷。
海鳴市の数多あるサッカークラブがグラウンドとして使用する場所。
軟体動物ともいえる物体が自らの体の筋肉を駆使しながら移動していた。
脚がないため、移動手段はピョンピョンと跳ねていた。
「何これ!?」
「ぷよぷよスライム!?」
「ちょっとかわいい……」
「キュ!?」
スバルがターゲットの正体に驚き、ティアナが目を丸くし、キャロが個人的感想を漏らしてフリードリヒが主のセンスに狼狽した。
「これ、全部本体なんですか?」
エリオの言うように、スライムは一体ではなく、数十体ピョンピョンと跳ねていた。
『危険を感じると複数に分裂してダミーボディを増殖する。せやけど本体は一つや!』
『本体さえ封印すればダミーは全て消えるです!』
はやてとリインが前線に説明した。
海鳴の夜空。
「放っておけば町中に広がりかねない」
甲冑姿のシグナムが最悪の出来事を予想して口に出す。
「空戦チームは広がったダミーを回収する。そっちはお前等がやってみろ」
同じく甲冑姿のヴィータが地上に向かって指示を出していた。
「素早く考えて素早く動く!」
「練習通りにいけるはずだよ」
海鳴の夜空を駆けているバリアジャケット姿の、なのはとフェイトが檄を飛ばす。
地上のフォワードメンバーが声を揃えて返事した。
地上にいるスライム達は危機意識を感じているのか否かわからないが、ピョンピョンと跳ねていた。
これからそれと真剣に対処しなければならない者達にしてみれば挑発しているような動きと捉えても文句は誰も言わない。
リボルバーナックルのシリンダーを回転させて、マッハキャリバーの車輪を回転させながらスバルが右腕を振りかぶって前進する。
「うううりゃああああああ!!」
スライムに向かって右拳を放つ。
しかし、スライムには何の効果もなかった。
「はあああああ!!」
エリオがストラーダを頭上で回転させてから間合いを詰めてスライムを上段から斬りつける。
スライムには何の効果もなかった。
「「無効!?」」
ティアナがクロスミラージュを構えて、スライムに狙いをつけて引き金を絞る。
魔力弾が発射されるが、スライムには何の効果もなかった。
キャロがフリードリヒに炎を浴びせるように命じる。
フリードリヒは吸い込んでから、炎を吐く。
しかし、スライムには何の効果もなかった。
「火炎も通常魔力弾も効果なし!?」
「見た目はかわいいですけど、さすがロストロギアです!侮れません」
ティアナも中間報告をし、キャロとフリードリヒはターゲットであるスライムを睨んでいた。
スライム達はピョンピョンと跳ねている。
危険を感じるとダミーを生み出して分裂するという能力を持っている以上、長期戦は不利だ。
度の超えた増殖は本体を見つけ出す事の難易度を上げる事になる。
「エリオ。アレでいけない?ストラーダを地面に刺してバリバリってやつ!」
「やってみます!」
「電気で止まるかどうかわからないし、無傷でって指示よ。ダメージコントロールのしづらい攻撃はなし!」
スバルの案にエリオは乗っかっていたが、ティアナの理に適った意見に却下された。
「スバルとエリオは、こいつ等がこれ以上増えないように止めてて!私とキャロが本体を特定してフリーズする!」
ティアナがプランを提示すると同時に両手に握られているクロスミラージュを構える。
「「「了解!!」」」
三人が即返事した。
「新人達、いい動きね。入隊当時から比べたらまるで別人みたい」
ティアナがなのはの指示で施したオプティックハイドによってシャマルの姿は不可視状態になっている。
それは、はやてとリインにも当てはまっている。
ターゲットが攻撃的なタイプならば外見が非武装の者を狙うのは定石だろう。
「なのはちゃんの教導の成果かな。後は野上さんに負けた事も訓練に熱が入る原因の一つにもなってるやろね」
「ヴィータちゃんも最近は教導、頑張ってくれてるです」
不可視状態になっているからといっても、絶対に安全というわけではない。
実質は、『高みの見物』というよりはいつ見つかるかという『緊張』の方が勝っていたりする。
この手の事は何度も経験はしていても、『慣れ』というものは中々ない三人だった。
ティアナとキャロが無数のスライムの中からオリジナル、つまり本体を特定することに成功した。
「反応が違う。これが本体……」
クロスミラージュの銃口から発射される魔力弾をスライムが避けていた。だが他のスライムと違って動きが機敏だった。
スライムの本体といっても、外見的には大きな違いがあるわけではない。ダミーと遜色ない姿だ。
「捕まえます。錬鉄召喚……」
キャロが足元に魔方陣を展開させて、詠唱を始める。
ケリュケイオンが輝きだす。
「アルケミックチェェェェン!!」
スライムの足元に魔法陣が展開して、無数の鎖が縛ろうとする。
しかし、魔力で構築された鎖が身体に触れる事はなかった。
タイミングを見計らったかのように、身体全体を覆うようにバリアを展開させていた。
キャロが展開した無数の鎖は役目を果たすことなく、無残にバラバラになった。
「エリオ!アサルトコンビネーション。いくよ!!」
すかさずスバルが構えを取っており、エリオに促す。
「はい!!スバルさん!ストラーダ!!」
エリオもストラーダを構える。
ガシュンとカートリッジをロードするストラーダ。
「マッハキャリバー!!」
スバルも足元のデバイスを呼び掛ける。
『ロードカートリッジ』
ガシュンとリボルバーナックルがカートリッジをロードする。
二人がバリアを展開させているスライムに向けて、攻撃を繰り出す。
「「ドライックドライバァァァァァァァァ!!」」
二人の息の合った一撃が、スライムが展開しているバリアを粉砕する。
まるで、そこそこに厚いガラスを簡単に砕くような感覚でだ。
「バリア破壊!バレットS!!」
相手に付け入る隙を与えないために、ティアナはクロスミラージュに命じる。
『ロードカートリッジ』
クロスミラージュがカートリッジをロードする。
「我が請うは捕縛の檻、遊星の射手の弾丸に封印の力を……」
キャロが両目を閉じて、詠唱を開始する。
『ゲットセット』
ケリュケイオンが輝く。
「「シーリングシュゥゥゥゥトォォォォ!!」」
キャロの加護を受けた魔力弾がクロスミラージュから発射される。
一直線に、速く。
スライムに直撃する。
一瞬だけ視界を奪う光がその場にいる全員に襲い掛かるが、すぐに収まる。
視界が回復するとそこには魔力で構築された檻に閉じ込められているスライムがいた。
「よし、動作停止確認。完全封印処理しよか、シャマル」
オプティックハイドの効果はまだ継続しているが、何もできないというわけではない。
「あの……すみません。八神部隊長、シャマル先生」
キャロがおずおずとしながらも口を出してきた。
「完全封印、あたしがやってみていいですか?」
申し出てきた。
「練習しておきたいんです……」
「うーん。いい心がけです」
リインはキャロの積極的な態度を褒める。
「じゃあここから見ているからやってみて」
シャマルも自身の役割をキャロに譲る事に異は唱えなかった。
この後、キャロは無事に封印を成功させることができた。
*
ロストロギアの封印処理を無事に終えた機動六課の面々が帰ってくる頃にはコテージの清掃をチームデンライナー、ゼロライナーが無事に終えていた。
観光旅行に来たわけではない事は重々承知しているのだが、息抜きを打診する現地協力者の申し出を申し訳ない表情をしながらも
断りを入れた。
その後、回収したロストロギアはシグナムが運ぶことになっていた。
はやてはその任に良太郎も同伴してほしいと願い出た。
断る理由も特にないので、良太郎は首を縦に振る。
帰りも行きと同様にデンライナー、ゼロライナーを用いる事になっている。
別れの挨拶も終えて、全員が乗り込んだ。
二台の『時の列車』が夜空に線路を敷設しながら、歪んだ空間に向かって走り出した。
こうして機動六課の海鳴市での任務を無事成功という事で幕を閉じた。
*
だが、事件は海鳴市だけで起こっているわけではなかった。
そう、ミッドチルダでも起こっていたのだ。
次回予告
第三十三話 「六課のいないミッドチルダ 前篇」