仮面ライダー電王LYRICAL StrikerS Vol.1 Spring Party 作:(MINA)
第34話になります。
ミッドチルダ中央部の公園でユーノ・スクライアは時がたつのを待っていた。
その間に職場である無限書庫からの電話はなく、問題なく過ごせているのだろうと考える。
(平和だな……)
公園にいる人々は幸せな笑顔を浮かべて、そのように思ってしまった。
だが彼は知っている。
この平穏の裏に絶えず、血と涙と死が蔓延している事を。
(誰だって平穏に生きていく権利はあるんだ。それを壊されれば人生観すら変わってしまう……)
かつて『恩人』と呼べる人達を死なせてしまっている自分はそれを嫌というほど理解できる。
彼等の死が今の自分を確立させているのは紛れもない事実だ。
(あれから五年か……)
この五年間。一度たりとも胸の奥に激しく猛っている復讐の炎が絶えた事はない。
イマジンと戦うたびに増してくる。
手掛かりを探ろうとするたびに燃え上がってくる。
最初に正体を明かした面子以外でばれたのは、ヴェロッサ・アコースだけだ。
(自分で計画しておいてなんだけど、よく今までばれてなかったと思えるね……)
自らが立案した『プランAZ』というのはそこまで周到に練った計画ではない。
自分の知り合いの一人が「ちょっと怪しいなぁ」と思って探りを入れたらすぐに明るみになるものだ。
それでもある程度の期間までは隠し通せる自信はあった。
まず『無限書庫』の住人に関心がいくことがないという自信があった。
人々の関心がいかない=変化がないという風に捉える心理を利用しているだけなのだ。
後は、自分が不在中の間は司書の一人に変身魔法で偽ってもらえればいい。
司書が一人消えたとしても、その事をわざわざ調べる者はいないというタカも括っている。
「実際、ここまで上手くいくとはね……」
ユーノの発した言葉には『呆れ』と『寂しさ』が混じっていた。
(人間関係は永遠不変じゃない……)
十年の幼馴染関係でも決して『永久』というわけではない。
それが生きていく者が絶対に避けては通れない真理なのだ。
「やっぱりダメですね~。臭いは全くしないです」
クレープを食べ終えたプロキオンは鼻をクンクンさせて、ドクロの臭いを探ろうとしていたが失敗に終わったようだ。
「相手はイマジンじゃないからね。仕方ないさ。もしかして臭いを憶えたら今後は嗅げたりする?」
「やってみないとわからないです」
主の期待に応えようとするプロキオンだが、大言壮語は吐かない。
公園を見回す。
明らかに人の数が増えていた。
考え通りなら、ドクロはそろそろ出現するはずだ。
「プロキオン。聞くけどどう?」
ユーノの問いに、プロキオンは首を横に振るだけだった。
「出たとこ勝負か……」
彼の性格上、あまり行いたくないものだった。
*
次元世界と次元世界を経由する空間では、明らかに従来の次元航行艦とは異なる物体が我が物顔で移動していた。
外観はどうみても、『乗り物』としてのフォルムではなく『生き物』と形容する方がよかった。
そのくらい、その物体の動きは生々しいのだ。
その物体をクライス要塞という。
「アテンション、アテンション」
その中では、一体の小型ロボット---チャックラムが宙を飛び回っていた。
ガシュンガシュンという音を立てながら、頭部が金色の強面の男が歩いていた。
「マリバロン」
金色の強面の男---ジャーク将軍が幹部の一人の名を口に出す。
「はっ」
呼ばれた赤色目立つ服装をしている女性幹部---マリバロンが姿勢を正す。
その瞳にはジャーク将軍に対しての『尊敬』と『絶対的な忠誠』が籠っていた。
「此度の計画、順調に進んでいるようだな」
「スカル魔の容姿は人間どもに恐怖を植え付けるには最適だったと思われ、私自身も驚いております」
「うむ。だが計画の要を忘れてはおらんだろうな?」
「もちろんでございます。最大の要となるミッドチルダに頻繁に出現する仮面ライダーのデータ収集の事は忘れてはおりません」
ジャーク将軍とマリバロンが今回の計画が順調に進んでいる中、残りの三幹部はドクロ---スカル魔の行動をモニターで見ていた。
「マリバロン。お前にひとつ聞きたい事がある」
緑色と白色の貴族風の服を着用している赤色が目立つ男が、マリバロンに顔を向ける。
「どうしたというの?ボスガン」
貴族風の男---ボスガンが真剣な表情をしていた。
「スカル魔に我等の事を名乗らせるように、命じたか?」
「………」
モニターに映っているスカル魔の行動は自らの存在をアピールするだけのようにしか見えず、一言も発してはいなかった。
「これじゃあ、ドクロの格好をした変な奴って事で片付けられちまうぜ?」
青い身体に革ジャン、そして腰元に銃をぶら下げている軍人風のサイボーグ---ガデゾーンが呆れた声を出す。
「これから現れる仮面ライダーに名乗れば問題はないはずよ」
マリバロンがガデゾーンとボスガンを睨む。
「これで仮面ライダーが現れなかったら、マリバロンは罰決定だな」
小柄で猫背で白色がメインカラーで青色の斑点がまだら模様になっている男---ゲドリアンが言う。
「現れる」
そのように告げたのはジャーク将軍だ。
「これから現れるのが我等を散々苦しめた仮面ライダーと同じなら、必ず現れる」
ジャーク将軍の声音には『確信』が混じっていた。
そこにはかつて暴君に人生を狂わされた『哀れな司令官』ではなく、一人の『軍人』がいた。
*
午後五時。
授業が終わった学生やら、定刻で帰宅しようとする社会人の姿がかなり目立っていた。
「ユノさん」
プロキオンが主を呼ぶ。
「どうしたの?」
「臭い、ではないんですけど感じるものがあるんです」
「感じるもの?」
イマジン以外の怪人ではプロキオンは自慢の嗅覚を働かすことができなかったが、黙っていた時間で『何か』を掴もうと
する努力は惜しまなかった。
「僕の全身の毛が起っちゃうんです……」
彼自身、何故そのようになるのかはわかっていないようだ。
「悪寒みたいなものか……」
「オカン?僕、タヌキさんじゃありませんよ」
プロキオンの天然な言葉に、ユーノは吹き出す。
「違うよ。はやての事じゃなくて、悪寒。寒気の事だよ」
「春ですよ。寒気なんてするんですか?」
ユーノが悪寒を説明しても、プロキオンは首を傾げていた。
「悪い予感とかの時にも使われるんだよ」
「それって今みたいな時ってことですか?」
「そうだね」
これ以上、犠牲者を出さないためにもプロキオンのそれに頼るしかない。
ユーノの腰元にAゼロノスベルトが出現する。
後はバックル上部のチェンジレバーをスライドさせて、ゼロノスカードをアプセットすれば変身はできる。
(焦るな……)
相手は神出鬼没な相手で、おまけに何時に出現するかなんてのはこちらの推測でしかない。
それが外れてしまえば、犠牲者が出る。
「!!」
プロキオンが身体の向きを変えていた。
「多分ですけど、来たと思います……」
自分の感性が当たっているのかどうかを確かめるためにプロキオンは駆け出した。
「先に行って。怪人が現れたら力づくで抑えるんだ!」
ユーノは先導していくフェレットに指示を出しながらも、走っていた。
主の命を返事はしなかったが、心中で受諾したプロキオンは自らの感性を信じるままに走っている。
(ユノさんの言っていた『オカン』はこちらから強く感じます……)
フェレットの姿をしていても、彼はイマジンだ。
全体的な能力が人間より高いため、余程の事がない限りは『恐怖』に直結する『悪寒』を感じる事はない。
だがイマジンとて、感情があるため『恐怖』がないわけではない。
モモタロスが『犬』を怖がったり、デネブが『幽霊』を怖がったりするのは彼等が『本能的』に恐怖を感じているからだ。
(初めての感覚です)
前足後足をこれでもか、というくらいの勢いで振りながらプロキオンは駆ける。
「あれは……」
プロキオンの瞳に明らかにこの場に似つかわしくない黒い三体が大釜を上段に構えているのが見えた。
「変身!!」
プロキオンの身体が白色に輝く。
フェレットの原型がなくなり、ヒト型の両腕両脚が白い光で構築されていく。
両腕には専用武器であるプロキオンクローが出現されている。
身体もがっしりとしており、頭部もフェレットと仮面ライダーが混濁したイマジンとしての頭部へと構築されていった。
イマジンモードへの切り替えが完了されると、両脚を揃えてぐっと力を入れて跳躍した。
フェレットモードではたどり着けない飛距離を軽く到達できる。
(目標三。初撃対象は中央!)
攻撃目標を即座に決めてから右腕を振りかぶる。
中央にいるドクロとの距離がほぼゼロになると同時に振り下ろした。
布を切り裂く感触と、生物の『肉』を傷つける感触がプロキオンクローから伝わってきた。
(!?)
妙な感覚があったが、倒れているドクロを踏み場にしてすかさず左右にいるドクロを右手左手のプロキオンクローで腹部を突き刺す。
(さっきと同じ……)
どさりどさりと力尽きるように左右のドクロも倒れていく。
ドクロに襲われかけたカップルがこちらを見ていた。
全身が震えてはいるが、彼氏は彼女を守るポジションを貫いていた。
(ユノさんとなのさんもこんなふうになったらいいのに……)
主に幸せになってほしいとプロキオンは思う。
しかし、その主は今はそれよりも大事な事がある事も知っている。
「ここは危険です。早く逃げてください」
プロキオンはフェレットモードとは違う声色で、カップルに告げた。
*
ミッドチルダ西部時空管理局陸士108部隊隊舎。
「愉快犯かよ……」
隊長室でゲンヤ・ナカジマは眉間にしわを寄せて、本日に起こった事件の報告書を見ていた。
「このドクロがイマジンか否かで編成を考えねぇとな……」
ドクロがイマジンだと『戒厳令』が発令される。
時空管理局は『0069年の悪夢』の再現を極度に恐れているため、イマジン出現の際には高ランク魔導師の出動を規制している。
現在、彼が組んでいる編成は『イマジン以外での事件の際の編成』なのだ。
ゲンヤの眼前に『ALERT』という文字と赤色のモニターが出現した。
「ちっ、この忙しいときに……」
舌打ちしながらモニターを睨む。
場所はミッドチルダの中央部の公園。
対象は手配中のドクロが三体とイマジンが一体。
出動する部隊は『戒厳令』に則った編成で活動せよ、との事だ。
「よりによってイマジンとダブルかよ。最悪だぜ……」
108部隊には『戒厳令』に抵触する魔導師は存在しない。
だが、いないからといって負け確定の相手がいる戦場に無慈悲に「行って来い」と背中を押す隊長はいない。
「待てよ……」
『イマジンが一体』という言葉に妙な疑問を感じた。
「ドクロはイマジンじゃねぇって事か……」
ドクロがイマジンなら『イマジン三体』というはずだ。わざわざ分別する必要性はない。
「となると奴等は何なんだよ……」
苦々しい表情を浮かべながら、ゲンヤは後頭部を掻く。
「全くこういう時ほど、歳をとりたくねぇって思っちまうな……。カルタス」
ぼやいてからモニターを展開させる。
『はい』
バストアップで映し出されているのはラッド・カルタスだ。
「イマジンは脅威だが、ドクロを捕まえるには絶好の機会だ」
『出動するか否か悩まされますね』
「だろ。イマジンは108部隊じゃ手に負えねぇ。もしドクロが人間が変装したものならイマジンから護らなきゃいけねぇ」
管理局員の本分は『犯罪者の殺害』ではなく『犯罪者の逮捕』だ。
「出動してくれ」
『了解』
ゲンヤはカルタスに短く命じた。
*
「人間じゃない……。でもイマジンでもない」
倒れている三体のドクロを見下ろしながらプロキオンはつぶやいた。
プロキオンクローで突き刺した感触は機械ではなく、生体だった。
だが生体特有の温度の様なものがなかった。
まるで、氷を削ったような感じがした。
「貴様、イマジンか」
倒れていたドクロの一体がゆっくりと起き上がる。
プロキオンクローでつけられた傷からは血液の様なものが出ているが、止血をするつもりはないようだ。
「奇襲とはいえ、我等に傷をつけるとは大した奴だ」
右側のドクロが起き上がる。
同じように傷つけられているが、全く問題ないような態度だ。
「だが、この程度では何百回攻撃しても倒すことはできん」
左側のドクロが起き上がってきた。
「プロキオン!」
「被害者は出ていません」
現場にやってきたユーノに報告する。
「ありがとう。さてと……」
感謝の言葉を述べた直後、ユーノの眼光は鋭くなる。
「サーチャーに反応がなかったからイマジンじゃない。プロキオンが悪寒を感じる事からして人間じゃないって事まではわかってる」
「初撃を与えましたが、あまりダメージになっていないです」
プロキオンが耳打ちをする。
「君達は誰なんだ?」
ユーノは直球でドクロに訊ねる。
「「「我等、クライシス帝国怪魔妖族所属スカル魔!!」」」
ドクロ---スカル魔が三体自らの自己紹介をした。
角ありドクロ---スカル魔スターが大鎌を構える。
「クライシス帝国?」
「聞いた事ない犯罪組織ですね……」
ユーノもプロキオンも無限書庫で働いている以上、下手な管理局員よりも知っている。
その一人と一体の記憶をもってしても『クライシス帝国』なる組織名はなかった。
「白昼堂々、殺人を犯して目撃者に恐怖心を植え付ける。君達の目的の一部なんだろ?」
ユーノの一言に怪魔妖族三体は動揺した。
「何故、その事を!?」
スカル魔が訊ね返してきた。
(どうする?マリバロン様の計画の半分が見破られているぞ)
(おのれ、どうみてもそこいらの民間人めが!)
(待て。お前達、我等クライシス帝国を滅亡に追いやったのはその民間人ともいえる連中だぞ)
スカル魔二体とスカル魔スターがテレパシーの回線を開いて相談していた。
((RX……))
クライシス帝国はかつて仮面ライダーBLACK RX(以後:RX)に滅ぼされている。
RXの変身者である南光太郎は世間でいうところの『民間人』だ。
警察官でもなければ自衛隊員でもないのだ。
そして、彼に加担した者達もほとんどが『民間人』なのだ。
クライシス帝国は警察や自衛隊に負けたことはなくても、民間人に負けたという事実がある。
過去の過ちを繰り返すのは『愚の骨頂』であると出撃の際にジャーク将軍に警告されている。
(お前達。目の前にいる民間人を甘く見るな。現にあの妙な怪人の主のようにも見える)
スカル魔スターがこれから殺害する相手ともいえる人間と妙な怪人を睨む。
「計画の半分を見抜いたところで、これから死んでいく者には残りの半分はわかるまい!」
スカル魔スターが大鎌を振りかぶる事が合図となり、残りのスカル魔も大鎌を出現させていた。
そして、人間と妙な怪人へと向かっていった。
「残りの半分はわからないけど……」
ユーノの右手にはゼロノスカードが握られている。
左手でゼロノスベルトのバックル上部にあるチェンジレバーを右へとスライドさせる。
直後に、バイオリンで奏でられているミュージックフォーンが響く。
「簡単に死ぬわけにはいかないんでね!!」
ゼロノスカードの白色のラインが入っている側を表にしてクロスディスクへとアプセットする。
「変身!!」
『シリウスフォーム』
ゼロノスベルトが電子音声で発すると同時に、ユーノとプロキオンの身体が輝きだす。
ユーノの身体がオーラスキンで包まれていき、両腕両脚胸部にオーラアーマーが装着されていく。
オーラアーマー部分に先端に二センチほどの突起が出現する。
本来ならここで頭部のデンレールからネドケラトプスを髣髴させた電仮面が出現するのだが、今回は最初からプロキオン憑依
のシリウスフォームであるため、その電仮面は出現しない。
フリーエネルギー体となったプロキオンはユーノの体内に入り込んでいく。
上半身に白色がメインカラーで裾の部分が青色で装飾されているプロキオンクロークが出現する。
両肩には三本爪の飾りが施され、両下腕にはプロキオンの固定武器であるプロキオンクローが装備される。
胸部にプロキオンの顔が施されたアーマーが装着される。
最後に頭部にデンレールを無視して、ミサイルの弾頭部分が中央で停止するとその場で回転しながら六芒星状に開かれて電仮面となった。
仮面ライダーANOTHERゼロノスシリウスフォーム(以後:Sゼロノス)の完成である。
「レッツゴーバトルです!!」
Sゼロノスが一度だけ構えを取ってから、駆け出した。
「は、速い!?」
「遅いです!!」
スカル魔スターが防御の姿勢を取るよりも速く、Sゼロノスの拳が顔面に直撃していた。
すぐに繰り出した右拳を引っ込めてから、左側にいるスカル魔(以後:スカル魔B)の胸元をプロキオンクローで突き刺す。
血液のようなものが飛び出るが、Sゼロノスはすぐに下がってから、残った右側のスカル魔(以後:スカル魔A)を睨みつける。
「はあっ!!」
左足を軸足にして、腰を捻って右下段回し蹴りを素早く繰り出す。
「ぐうっ……」
スカル魔が痛みをこらえる声を出すが、がくんと膝を地につけてしまう。
シリウスフォームは攻撃と速度に特化したフォームだ。
ただの蹴りでも、並みの怪人ならそれだけでもかなりのダメージになる。
並みの怪人では、だが。
スカル魔スター、スカル魔二体がこちらを睨んでいる。
(ダメージは受けてるけど、立ち直りが早い。快復能力があるわけでもないからダメージ箇所はそのまま……)
深層意識のユーノが三体の怪人を分析している。
「今まで戦ってきたイマジンと違って何か変です」
(うん。何て言うんだろ。生きている相手と戦っている感じがしない)
今まで戦っている相手は『生きている』といういわば自分達と同じ土俵で戦っている者だ。
だが、この三体との戦っていると同じ土俵で戦っているような感じはまるでしなかった。
(でも今までの攻撃を受けて、痛がっているところかして痛覚はあるみたいだけどね)
だからこそわからなくなってくる。
「攻撃は決して鋭いとはいえませんね。防御でも回避でも反撃にはすぐに移れます」
Sゼロノスは自らの身体能力と相手の攻撃速度を比較した。
スカル魔A、Bが左右から同時に駆けてきた。
Aが大鎌を振り下ろしてから、すぐさまBが大鎌を振り下ろす。
「わっと!」
時間差攻撃だが、Sゼロノスは難なく避ける。
「「シャアアアア!!」」
スカル魔A、Bが横に並んで左右から横薙ぎに大鎌に振るう。
「!!」
Sゼロノスはプロキオンクロークの裾をばたつかせながら、空中へと足場を移動する。
(徒党を組んでるだけのイマジンより、ずっと統制がとれている)
「帝国といってたから軍人さんなんでしょうか?」
(かもしれない……。ん?)
深層意識のユーノが何かを発見した。
「どうしたんですか?」
(管理局が来るね)
契約者とイマジンとの対話は打ち切りになった。
「とっ!!」
地上からスカル魔が大鎌を回転させながら投げつけてきたので、片手で掴んだ。
両手で掴んでバキリと真っ二つにする。
そのまま両腕を振りかぶって、地上にいるスカル魔A、Bに向かって投げつける。
折れた大鎌の上半身と下半身がスカル魔二体の頭部に見事に刺さった。
ばたりと仰向けになって倒れるが、それが『即死』という言葉に直結できるとは思わなかった。
すうーっと地上へと降下していく。
地に足つくすれすれの位置で停止する。
ホバリングのような状態だ。
「やっぱり立ちますね……」
頭に突き刺さっているままでも、スカル魔二体は立ち上がっている。
スカル魔スターが正面から向かってくる。
Sゼロノスは滑るようにして、後方へと下がる。
大鎌を上段、中段、下段と巧みに操って攻撃を仕掛けるが全てをSゼロノスは避けていく。
(攻めるよ)
「はい!」
Sゼロノスは回避をやめて、攻撃へと転じ始めた。
スカル魔スターへの間合いを詰める。
「はあああああああ!!」
腹部へと右、左と正拳を連打する。
速度と威力の両方が備わっているため、その破壊力は見た目と一致している。
「がっはっ……はっは……ああ……ああ……ああ」
息を整えようにもその間もひたすら撃たれ続けているため、それすらも叶わない。
くの字に曲がっているスカル魔スターから少しだけ下がって、ステップを踏んで右横蹴りを腹部に狙いをつけて繰り出す。
「げはっ!!」
スカル魔スターが苦悶の声を上げながら後方へと吹っ飛んだ。
ベンチへと激突して、やっと止まった。
(プロキオン、出し惜しみせずに行くしかないね。フルチャージ、やるよ)
「はい!!」
Sゼロノスは三体を同時に仕留めるように、動き出した。
*
108部隊の専用護送車と中継車両は現在中央区の現場へと向かっていた。
部隊員の前線メンバーは皆既にバリアジャケットを着用している。
ギンガ・ナカジマもその一人だ。
左手に装着されているリボルバーナックルを撫でる。
(相手はイマジンとドクロ。正直私達でどうなるか……)
現在、時空管理局でイマジンや得体の知れないモノと対等もしくはそれ以上に戦う事が出来るのは妹が所属している
機動六課だけだ。
(イマジンとの戦闘……。初めて、になるのかな……)
ギンガとて実戦経験はそれなりにある。
だが、イマジン戦となると経験はないに等しい。
妹のスバル・ナカジマが魔導師ランク試験でイマジンと遭遇して無事に生還できたのは紛れもなく『奇跡』だろう。
自分にその『奇跡』が訪れると思うほど、楽観主義ではない。
前線に駆り出される同僚達を見る。
今までにないくらいに暗い表情をしていた。
現場出動で明るい表情をする者達はいないが、今回は相手が相手だけに余計に暗く感じた。
中継車両に乗っているゲンヤも護送車の背を見ながら、暗い表情をしていた。
わざわざ部下や娘を『死』が確定している場所に無表情で送り込むほど、彼は非情ではない。
(くそったれが……)
相手が次元犯罪者ならこのように毒づくことはあまりない。
自分の部隊に殉職者が高確率で出ると想像してしまったからだ。
「隊長」
「何だ?現場で何か起きてるのか?」
部下が声をかけるのはこれから向かう場で某かの変化が確実に起こっている時にしか声をかけないように厳命している。
「今、現場では『青い狩人』とドクロが三体と戦っています」
「どうなってやがる……。イマジンは?」
「いなくなっています」
「『青い狩人』が戦っているって事はドクロは人間じゃねぇって事になるな……」
ゲンヤが知る限りの『青い狩人』情報では、彼は人間(この場合、魔力を持たない者)を相手にしない。
ドクロが人間ならば現れる必要はないという事になる。
だが現に彼は現れてドクロと戦っている。
「とにかく現場へ向かうぞ」
ゲンヤは運転手を急かした。
*
怪魔妖族三体の攻撃を避けたり、防御しながらもSゼロノスはフルチャージの機会をうかがっていた。
一回しか使えない必殺技。
使いどころを誤ればこちらが劣勢になる事は必定だ。
(何だろ?変にタフなくせに、動きが鈍くなってきている……)
怪魔妖族三体の攻撃は、最初に比べると明らかに鈍くなっていた。
防御や回避をするにしても、かなりの『余裕』をもって行える。
(殴った時に感じた異様な冷たさ。まさか……)
深層意識のユーノはこれまでの戦闘で一つの仮説を立てた。
通常の攻撃もダメージにはなるが、恐らく今から何百という拳や蹴りを繰り出しても死なないだろう。
外見に刺し傷や打撲痕や擦過傷が目立っても、何の決定打にもならない。
あらゆる生きとし生けるモノが『生命力』をあらゆるエネルギーの根源としているのならばダメージを受ける事でそれは
削られていく。
もし、その『生命力』がないモノがいたとしたらどうなるのだろう。
いくらダメージを与えても『生命力』がない以上、『死』には直結しない。
最初から『生命力』がないモノ---死人という事になる。
目の前にいる相手が死人ならば攻撃を食らってもすぐに立ち上がれるタフネスも、殴った際に感じた異様な冷たさも納得
できる。
(死人が生きて行動することに某かの条件があると思うんだけど……)
物事に無代償というものはない。
魔法を発動するにしても適切な知識がなければ決して上手くいかないように、必ず何かがあると考えられる。
今までのSゼロノスの攻撃にしても、常人ならば即死レベルだしイマジンにしたって運が悪ければ死に至る事もあるものだ。
なのに、眼前の三体は『死』に近づく気配はまるでない。
彼等を確実に倒すためにフルチャージを発動させた攻撃を繰り出すしかないという選択はあくまで『賭け』や『勘』のよう
なものだ。
Sゼロノスはゼロノスベルトのフルチャージスイッチを押す。
『フルチャージ』
電子音声が発せられて直後に、両腕にフリーエネルギーが伝導されていく。
スカル魔スターを先頭に、スカル魔二体が一列になって向かってくる。
中腰になって、フリーエネルギーが纏われている右腕を振りかぶる。
そして、地面に突き刺した。
プロキオンクローが見事に地面に刺さり、アスファルトに亀裂が入る。
直後、向かってくる三体の怪魔妖族が宙に舞った。
正確には、宙に飛ばされたという方が適切だろう。
その原因は先程地面を突き刺したSゼロノスだ。
フリーエネルギーを纏った右腕を地面に突き刺すことで、フリーエネルギーは地中を走り怪魔妖族三体の足元で一気に噴出したのだ。
不意打ちに近い大打撃を受けているので受け身を取る事も出来ずに地面に落下する。
「もう一発!!」
すかさず左腕を振りかぶって右腕同様に地面に突き刺す。
もう一度怪魔妖族三体は宙に舞う。
今度は先程とは違い、三体ともバチバチと身体全身に火花が吹き出ている。
やがて爆発した。
地面に突き刺した左腕を抜く。
その拍子にアスファルトの粉塵が宙に舞う。
「クライシス帝国怪魔妖族スカル魔って言ってましたね」
(うん)
Sゼロノスの耳に、タイヤが鳴く音が入った。
(アイツらの情報だけ教えたら退散するよ)
「わかりました」
ぞろぞろと管理局員がこちらにやってきたのはそれから三十秒もかからなかった。
「お前さんには礼を言うべきなのかもしれねぇな」
本来ならこの場にいる事が適切とはいえない人物---ゲンヤがそこにいた。
「ミッドチルダを騒がせていたドクロはイマジンではなかったですよ」
Sゼロノスが結論を述べた。
「それはわかってる。108部隊にもサーチャーがあるからな。で、イマジンはどうなったんだい?」
ドクロがイマジンでない事はわかっているが、この公園に出現したイマジンが突然消息を絶った事はわからない。
「えーと……、そのイマジンって僕の事だと思います」
素直に白状した。
「てことはお前さんも電王、ゼロノス同様に俺達に味方してくれるイマジンってわけかい?」
「まぁそうですね……」
それが真実であると、ゲンヤは納得することにした。
「相手は怪人です。クライシス帝国怪魔妖族スカル魔と言っていました」
告げると同時に、Sゼロノスの足元が地面から離れる。
「それじゃ後はよろしくお願いしますね~」
と、告げながら宙へと上がっていきそのまま飛び去ってしまった。
「クライシス帝国か……、何だかとんでもねぇ事が起こる前触れなんじゃねぇかぁ?」
後頭部を掻きながら、ゲンヤは飛び去っていくSゼロノスを見送りながらミッドチルダの未来に不安を感じた。
*
「ドクロの正体は怪人だったんですか」
「ええ。ご丁寧に組織名に所属部隊に氏名も名乗っていましたよ」
夜となり、ユーノとプロキオンはヴェロッサ・アコースと司書長室で夕食を取っていた。
本日の夕飯はピザである。
「それで結果はどうだったんですか?貴方の事ですから調べたのでしょう?」
「ええ。これが調査結果です」
ユーノは調査結果をまとめた報告書一枚をヴェロッサに見せた。
一枚だけというのは簡潔にまとめたうえでのことだろう。
ヴェロッサは受け取って目を通す。
そして、ある部分で目の動きは止まり確認するかのようにしてユーノを見た。
「嘘を記す必要性はない事はわかっていますが、本当の事なんですよね?」
ヴェロッサの両手が震えていた。
やり手の査察官とはいえ、報告書の内容は彼をもってしても受け入れがたい事実なのかもしれない。
「ええ。にわかには信じられないかもしれませんが、それが事実なんです」
ピザの一切れを食べ終えて、ユーノは手に付着したソースをナプキンでふき取る。
「クライシス帝国はかつて、地球制圧を企てて仮面ライダーによって滅ぼされた組織なんです」
滅亡した者達が現世に足を踏み入れているという現実。
自分達が遭遇した者が本物の『死神』のように思えてならない二人と一匹だった。
次回予告
第三十五話 「奇妙な縁」