仮面ライダー電王LYRICAL StrikerS Vol.1 Spring Party 作:(MINA)
みなひろです。
世間は相変わらず、コロナですけど、たくましく生きていきましょう。
第三十五話 「奇妙な縁」
ティアナ・ランスターは現在、出生地であるミッドチルダ西部エルセアへの墓地と足を運んでいた。
両親は早くに死別し、唯一の家族である兄も六年前に死亡している。
彼女は正真正銘の『天涯孤独』というわけだ。
そうなってくると、家族の墓の世話をしてくれる者なんて当然いるはずもない。
ここ数か月は何かと忙しかったので、『休暇』はあってもほとんどぐったりしているか相棒であるスバル・ナカジマに引っ張られて外出するかの二択だった。
(こういう仕事に就くと、この手の行事に関してルーズになっちゃうのよね)
現在の自身の状況を振り返りながらも、歩を進める。
彼女の手には花束が握られていた。
花の種類は菊の花に近い種類の花だった。
(兄さんが死んで、六年か……)
兄の死因や背景は唯一の遺族であるティアナは当然聞かされていた。
「くっ……」
あまり思い出したくないものまで脳裏によぎったので思わず唇をかみしめて、花束を握っている手の握力に力が入る。
今日は命日でもなければ当然、月命日でもない。
不規則に与えられる休暇なので、有休を取るか欠勤でもしないと狙った日を休むことはできない。
物わかりのいい上司ならば、融通が利くのだが逆の存在ならば平気で無視されることもあったりする。
以前の職場の上司はこちらの身辺を気遣って、このような行事の際の有休の申請は迷わず受諾してくれた。
そして、現在の職場の上司達もあっさりと受諾してくれた。
あと数歩でランスター家の墓に到着するところでティアナは足を止めた。
「誰?」
思わず呟く。
墓前には自分の記憶が確かならば、初対面の人間がしゃがんで手を合わせて黙祷をしていた。
*
機動六課隊舎の空間シュミレータの中ではティアナ抜きでも訓練は行われていた。
スバルがヴィータとマンツーマンで指導を受け、エリオ・モンディアルとキャロ・ル・ルシエはフェイト・T・ハラオウンの指導を受けていた。
野上良太郎は現在、運動会などでよく使われるテーブルの前に座っていた。
テーブルの上には黒いパーツが四個並べられていた。
良太郎の横には同じようにモモタロスも座っていた。
そして同じように黒いパーツが並べられていた。
「最後に説明するよ。良太郎、センパイ」
「うん」
「おう」
一人と一体の前に立っているウラタロスが確認する。
「ルールはいたって簡単。テーブルの前に置かれているシャーリーさん特製のレプリカデンガッシャーをフォームに合わせて先に連結させるんだ。今回の相手はセンパイだから連結させる
形態は……説明しなくてもわかるでしょ?」
ウラタロスはこれから競い合う一人と一体を見る。
両者ともに「何をいまさら」という表情だった。
「連結を終えたら手を挙げる事。手を挙げなかったら完了の合図にはならないからね。判定が難しい場合はタイムの速い側と連結の出来がいい方が勝ちになるから、そのつもりで」
「良太郎君の記録係は私がやりますから」
「モモの記録係は私ね」
医務室で自身の業務を粗方終えたために、散歩をしていたところをキンタロスとリュウタロスに連れてこられたシャマルとコハナだ。
「それじゃ準備はいい?レディィィィィィィィ」
ウラタロスの言葉に従うようにゼブラカラーのフラッグをキンタロスが高く掲げる。
「ゴォォォォォォ!!」
フラッグを振り下ろすと同時に、両者は連結を開始した。
シャリオ特製のレプリカデンガッシャー(以後:レプリカガッシャー)は外見と重量はデンガッシャーそのものだ。
しかし、このレプリカガッシャーには戦闘機能は一切備わっていない。
あくまで連結速度向上用に開発されたものだ。
シャリオ曰く「この武器を製造するうえで一番の難点はエネルギーを伝導するシステムですね。デバイスにAIを組み込むくらいに難しいんですよ」とのことだ。
つまりその難点を最初から無視したうえで、製作するとなれば時間は全然かからない。
実際に、製作から完成までにかかった時間は五時間とデバイス一機を製作することを考えればプラモデルを一体作るくらいに簡単にできたのだ。
それでも戦闘機能ゼロといっても、そこはシャリオのこだわりがあり見慣れている者達から見てもわからないくらいの精巧な出来なのだ。
「「はい!!」」
良太郎とモモタロスは同時に挙手をした。
「シャマルさん、ハナさん。タイムは?」
同時挙手の場合、挙手をするタイムが速かった者もしくは連結がきちんと完了しているか否かで勝敗が決まる。
ウラタロスはシャマルとコハナのストップウオッチを見る。
「タイムだけだとセンパイの方が速いね。そうなると、連結の出来はというと……。リュウタ、お願い」
「はーい」
リュウタロスが右手を挙げて、競技者たちのテーブルの前に立ってレプリカガッシャーを握る。
そして上下にぶんぶんと乱暴に振る。
両者ともにパーツが外れたりすることはなかった。
「こうなると、タイムが速かったセンパイの勝ちだね」
「おっし!!」
「練習してたんだけどなぁ」
ガッツポーズを取るモモタロスとは逆に良太郎はレプリカガッシャーを分離させながら悔しい表情を少し浮かべていた。
「さあて、次は僕の番だね。センパイ審判よろしく~」
「おう、カメ」
「なに?励ましの言葉?」
「オメェ、ズルはするなよ?」
「あのね。僕そこまでセコくないって……」
モモタロスとウラタロスはそんな事を言いながら、ハイタッチをして交替した。
*
ティアナは墓前で黙祷を捧げている青年を凝視していた。
正直、兄---ティーダ・ランスターの職場においての人間関係はほとんど知らない。
兄は仕事の特に人間関係に関しては家には持ち込まなかったからだ。
血生臭い現場の話を唯一の家族に持ち込むことはある種の『弱さ』と思っていたのかもしれない。
何故自分は眼前の青年を見て両親ではなく、兄と断定したのかと考える。
まずは外見だろう。
両親の知り合いだとするならばあまりに若すぎる。
歳の頃からして、上司のなのはくらいだろうと推測する。
ただ、問題は性別だ。
横顔と長い髪から自分と同じ性別なのではと思ってしまう。
(もしかして男性?)
訊ねてみたいが、初対面の人間に「あなたは男性ですか?女性ですか?」と訊ねるほど自分は冒険者ではない。
相棒ならやりかねない、とふと考えてしまう。
「あ、すみません。ご家族の方ですか?」
青年はこちらを見て、訊ねてきた。
「あ、はい。そうですけど……」
訊ねられたので首を縦に振る。
「失礼ですけど、貴方は?」
青年は立ち上がって、こちらを見ている。
背は良太郎や侑斗程ではないが、自分よりは明らかに高い。
「申し遅れました。僕はユーノ・スクライアです」
青年---ユーノは礼儀正しく自己紹介をした。
「ティアナ・ランスターです」
ティアナも礼儀に応えるようにして自己紹介をした。
(あの時の女の子か……)
ユーノは一度どころか過去に何回かティアナに会った事がある。
だが、彼女は自分を見てもまるで初対面の人物を見るかのような表情だった。
(カードの影響か……)
ゼロノスカードの代償である『使用者に関する記憶消去』には優先順位が存在している。
優先して消去対象になるのは『顔は知らないが、名前は知っている』と『名前は知っているが、顔は知らない』という印象を持っている人物たちの記憶だ。
次に対象になるのは『顔も名前も知っている』という人物達だ。
このカテゴリーになると、さらに細かい優先順位が設定される。
対象者の使用者に対する『親密度』だ。
『他人』なら優先的に消去対象となり、『友人』がその次となり最終的に『親友』、『家族』、『恋人』が最後に回される。
だがこれはあくまでユーノが独自でカードの消去対象を凡その感覚で割り出したものでしかない。
現に『家族』とカテゴライズされているスクライアの部族の者達で自分を知っている者はいないのだから、この仮説には穴が既にできている事になる。
(明確な理論と厳密なまでの数値で明らかにしない限りはね……)
学者である以上、「直感でこのように感じとりました」では納得できないのだ。
なお、これらは現実の時間においては三十秒にも満たない事だったりする。
「あの、スクライアさんは兄とは……」
いきなりファーストネームを呼ぶのも馴れ馴れしいと思っているらしく、ティアナは苗字で呼んでいた。
「昔、お世話になった事がありましてそれからの付き合いになります」
自分とティーダの関係となると、正直自分でもうまくいえないが考えに考えた言葉を発する。
「そうですか……」
彼女の声が弾んでいないところからして、疑っているのだろうと予想はできる。
「それでは僕はこれで……」
ユーノは一礼してから去っていく。
これ以上は間が持たないから離れようとする『逃げ』だ。
(彼女には言えないな……)
ティーダ・ランスターの死について自分には一つの疑念がある。
だがそれはあまりに曖昧なもので唯一の遺族であるティアナの動揺を煽るには十分すぎるものだった。
(ティーダさんの墓参りに来る同僚がいないってのもおかしいな……)
知る限りで彼は同僚から敵視されるような人間ではないはずだ。
「あの……ランスターさん以外に親族の方は?」
足を止めて、振り向いてから親戚関係を訊ねてみる。
「いません」
即答された。
「そうですか。すみません。無神経な質問をしました」
「あ、いえそんなお気になさらずに」
謝罪をすると、変に気を遣われてしまった。
「あの、スクライアさんはこれからは?」
「お昼を近くで食べたらクラナガンに戻ろうと思っています。職場のみんなに『今日一日休んでくれないと仕事しない!!』なんて脅されたもんですから……」
「ははは……」
ユーノに合わせるようにしてティアナも笑っていた。
ティアナは目の前にいる男性の職場がどういうところなのかは知らないが、そんな事を言われるという事はそれだけ慕われているという事だけはわかった。
(普通言わないわよ。どんな職場だろうと)
そのようにツッコミを入れてしまいたくなるが、ぐっとこらえる。
「ところでランスターさんはこれからの予定は?」
今度はユーノが訊ねてきた。内容は先程自分が訊ねてきたことそのままだった。
「昼食を終えたら、特に何も」
(墓参りすんだら特に決めてなかったわね。六課に戻るのもちょっと気まずいし)
今後の予定は特に決まっていない。というよりも本日一番優先すべきことは既に終えている。
「もしよろしければですけど、お昼ご一緒しません?一人で食べると粗食になりそうなので……」
「それは……」
男性としかも今日初めて会ったばかりの人物と食事をするというのもティアナとしてみれば未知の体験の一つだった。
「食事代は僕が奢りますよ」
「ご一緒します」
ティアナも金銭的にひっ迫しているわけではないが、財布から金銭が出て行かずに空腹が満たされるのならばという考えが脳裏によぎって即座に返答した。
ユーノの案内で連れられた場所はこじんまりとした洋食屋だった。
「墓参りに行くからそれなりにこの辺りの地理は詳しいと自認していましたが、このような場所がある事は知りませんでした……」
「ここは最近できた場所なんですよ。といっても僕も職場の人に薦められて知った口なんですけどね」
苦笑いを浮かべてユーノはメニューを閲覧する。
ウエイトレスが来たので、ユーノは手を挙げる。
「日替わりをお願いします」
「あ、私も同じもので」
「かしこまりました」
その数分後にウエイトレスが日替わりランチを持ってきた。
「スクライアさんはその職場に勤められてどのくらいになるんですか?」
「十年になりますね」
ティアナも何故、眼前の人物に興味を抱いたのかはわからない。
だが好奇心を押さえる事は出来なかった。
社会に出て『休んでくれないと仕事しない!!』なんて言われるなんて異常としか言いようがない。
大抵は逆の『仕事しないと休ませない!!』と言われるものだ。
しかも、どう見ても二十歳になっているか否かの人物が言われているなら余計だ。
(騙されちゃダメよ。外見が若くても実年齢がとんでもない人って過去にもいたじゃない)
ティアナはそう言い聞かせながらも、日替わりランチのコーンスープをスプーンで掬って口の中に含む。
「ちなみに僕の年齢は十九ですよ。なんなら身分証も見せましょうか?」
ハンバーグをナイフでこま切れにしてから、フォークで指してユーノは口の中に入れる。
「あ、いえ、そこまでしてもらわなくても結構です」
ティアナは心を読まれたのでは?と感じ、ユーノの申し出を断った。
天井に吊られているテレビを見る。
そこにはニュースキャスターがドクロ仮面の事が話題となっていた。
「………」
ユーノは手を止めて、映像を見ていた。
「スクライアさん?」
ティアナは何が興味を惹かれるのかわからなかった。
*
食事を終えて、ティアナと別れたユーノはクラナガンに戻り、無限書庫司書長室に直結している地下私設訓練場へと足を運んでいた。
「あ、おかえりなさい。主」
『おかえりなさいませ。ユーノ様』
出迎えてくれたのはプロキオン(イマジン)とAIのアルフレッドの声だ。
「ただいま。何か変化はあった?」
『機動六課も今度のホテル・アグスタには任務として赴くという情報が入りました』
アルフレッドが慇懃な口調で報告する。
「あと、アコースさんから電話がありました。相談したい事があるので連絡がほしいとの事です」
プロキオンが不在中にヴェロッサ・アコースから電話があった事を告げる。
「携帯にかけてくれればよかったのに」
ヴェロッサには携帯電話の番号は教えてある。無限書庫で連絡をとれないならかけてくる事はできるはずだ。
「気を遣ってくれたんですよ。多分」
『私もプロキオン様と同じ考えです』
イマジンとAIがヴェロッサの『優しさ』からでた行為だと言う。
「そっか……」
一体と一機の言葉を胸に刻みながら、ズボンのポケットから携帯電話を取り出す。
送信先はヴェロッサだ。
「アコース査察官ですか?」
『スクライア先生……。まさかこんなに早くかけてくるとは思わなかったものですから……』
「いえ、用事が済んだので今は私設訓練場で調べ物でもしようかと思っていたところですから……」
そう言いながら、訓練場に不似合いな高級な椅子にもたれながら、ペンを走らせてメモ帳を切り取ってプロキオンに渡す。
『そうですか。何だか申し訳ありません』
「お気になさらずに。それでどうしたんですか?」
前置きを終えて、ユーノはヴェロッサに本題を訊ねる事にした。
ヴェロッサは優秀な査察官だ。
自分に訊ねてくる事なんて、彼の範疇外に近い『怪人』や『仮面ライダー』関連だとユーノは高をくくる。
「捜査官殺人事件ですか?資料は持っていますけど」
偶然の一致だと思いたかった。
何故ならプロキオンに持ってきてもらった資料がまさにそれだからだ。
『捜査官殺人事件』とはティーダ・ランスターが殉職した事件の事を指す。
解決してはいるのだが、どこか釈然としないものがあるような感じがする事件でもあった。
「これがどうかしたんですか?」
『実はですね。改めて見直してみるとこれっておかしいと思いましてね』
「おかしい?ですか」
パラパラとプロキオンから受け取った『捜査官殺人事件』のファイルを捲っていく。
『ええ、遺体の写真のページを見てみてください』
ヴェロッサの指示に従い、目的のページまでめくっていく。
そのページには遺体---ティーダの全体写真が写っていた。
「おかしなところというのは一体?」
どうみても何の不思議もない遺体の写真だった。
『でも、何かおかしいんですよね。僕の査察官の勘というものがそう訴えてくるんですよ』
「勘、ですか……」
ヴェロッサがそのような事を言ってくるのも珍しい事なので、ユーノはその写真をじっくり見る。
それこそ、穴が開くくらいに。
死因は供述書通りだ。
写真で見ても遺体そのものに何も不審な点はない。
ヴェロッサの言う『おかしい』というのは単なる気の迷いではないかと思ってしまう。
「あ……」
ユーノはじーっと睨むようにして見ている中で、妙な感覚が襲ってきた。
『どうなさったんですか?』
先程呟いた声はヴェロッサの耳にも入っていたようだ。
「確かにおかしいですね」
『何か分かったんですか?』
「いえ、僕も正直に言えば勘の域なんですよ。それを前提で聞いてください」
『はい』
ユーノは、一拍おいてから口を開いた。
「この遺体、きれいすぎませんか?」
その一言でヴェロッサの目から鱗が落ちたのは言うまでもないことだった。
*
ホテル・アグスタでの任務まであと四十八時間。
次回予告
第三十六話 「ホテル・アグスタ ~前日~」