仮面ライダー電王LYRICAL StrikerS Vol.1 Spring Party 作:(MINA)
第八話 「初日の夜」
時間を夜から少しだけ夕方へと遡る。
時空管理局本局『無限書庫』ではというと。
司書長室では、主であるユーノ・スクライアと彼の契約したイマジン、プロキオン(フェレット)時空管理局査察官ヴェロッサ・アコースの二人と一匹がテーブルに置かれて
いる盤上のゲームの駒を動かしていた。
「魔導師ランク試験にイマジンが乱入して更に別世界から来た仮面ライダーが撃退、ですか」
ユーノが自分のターンになったので駒を動かす。
「ええ。聞いた時は貴方が撃退したものだとばかり思いましたよ」
「残念ですけど、ここのところは某鬼提督の請求でてんてこ舞いだったので動けなかったんですよ」
ユーノの目の下には隈ができており、それがどれだけ激務なのかを物語っていた。
実際こうしてチェスをしていても、ユーノの繰り出す手は本人とは思えないくらいに単調なものだった。
欠伸を何度もしている。
プロキオンにいたっては思いっきりたれて、テーブルの上でゲームの邪魔にならないように爆睡していた。
「では彼等が貴方の言っていた……」
「はい。誰もが認める仮面ライダーですよ」
駒をカタンと盤上に置きながら、ユーノは懐かしさと同時に尊敬が篭った眼差しで口を開いた。
ヴェロッサはユーノが他者に素直に敬意を払う感情を表に出すのを初めて見た。
この二人、このようにゲームをするまでに友好を深めるのにかかった日数は約二ヶ月と意外に短い。
「今月に入ってのカードの消費枚数は一枚ですよね?」
「ええ。出撃した後はアルフとプロキオンにチェックされてますから……」
ユーノは五年前から仮面ライダーANOTHERゼロノス(以後:Aゼロノス)に変身できる。
その変身システムは『ゼロノス』と称されるように、ゼロノスカードを用いて変身する。
その消費代価は桜井侑斗が変身する仮面ライダーゼロノス(以後:ゼロノス)同様に『自身に関する記憶』である。
かれこれ、彼は五年も使っている。
それだけイマジンが出現したという証明にもなる。
せめてもの救いは『記憶』の定義づけだろう。
この『記憶』の定義は『顔と名前が一致している』はもちろんの事、『顔は知っているが名前は知らない』や『顔は知らないが名前は知っている』も『記憶』として定義づけ
されている。
といっても五年も使っていればその甘い定義でもそれなりに失われるものがある。
現に彼は自分の故郷ともいえる『スクライア族』には戻っていない。
何故なら彼を憶えている人物が一人もいないからだ。
「これで貴方に関する事を忘れる人の数が少しは緩まるといいのですが……」
変身代価が金銭では到底支払う事の出来ないものだという事を知っていなければ言えない台詞をヴェロッサは吐く。
「お気遣いありがとうございます。でも変身して戦うと決めた時から覚悟はしていますので、あまりお気になさらないでください」
ユーノはヴェロッサの気遣いをありがたく受け取ると同時に、自身の意思を表示する。
「今の僕を見たらあの人達はどう思うのかな……」
ユーノにしてみれば自分がAゼロノスになって戦う事になったのは決して自慢げに告げられるようなものではない。
動機が動機なのだから余計にだ。
(僕の大元の動機は『護る』ための戦いじゃなく『復讐』の戦いだからね)
思い出すだけでも、抑え付けている怒りの炎が燃え上がってくる。
「スクライア先生」
「すみません……」
ヴェロッサに呼び止められてユーノは我に返って謝罪する。
それでも彼の怒りの炎が治まるのはもう少し時間がかかるとヴェロッサは判断した。
同時に今のこの姿を、八神はやて達には到底見せられないと確信した。
司書長室に設置されているイマジン出現警報機が鳴ったのはそれから三時間後の事だった。
*
機動六課の寮入口前では高町なのは、フェイト・T・ハラオウン、コハナは後片付けをしていた。
「ねぇなのはちゃん、フェイトちゃん」
コハナは紙皿をゴミ袋の中に放り込みながら、グリルを洗浄している二人を見る。
「どうしたの?ハナ」
「ハナさん?」
コハナが神妙な表情をしているので二人は顔を見合わせる。
「良太郎達ってここまでの地図って持ってたかしら?」
コハナの一言で、なのはとフェイトのグリルを洗浄する手は止まった。
「だ、大丈夫ですよ!モモタロスさんがいますし!」
なのはは十年前と同じ様に、コハナに対して敬語で話している。
「モモの鼻ってイマジンの臭いしか鋭くならないのよ」
「あ……」
コハナの指摘に、なのはは思い出して間抜けた声を出す。
「だったらデネブを連れてきたら……」
「モモって身内と判断したイマジンの臭いはかぎ分けないのよねぇ」
フェイトの案にも、コハナはダメだしをする。
「良太郎達はここまで帰って来る方法って……」
「手探りしかないわね」
風が三人の頬を舐めるように吹いた。
春なのに、冷たかった。
桜井侑斗とデネブは、はやてとリィンの案内で八神家へと案内されていた。
リビングのソファで座っている侑斗は気を紛らわせる為に、テーブルの上に置かれている新聞を手にする。
ちなみにデネブは、はやてと雄藩の献立を考えている最中だ。
ミッドチルダの言葉で書かれており、侑斗がわかるはずもなく畳んでテーブルへと戻す。
天井を目的もなくボーっと見ていると、何かが視界を遮ってきた。
大の字になっているリィンだった。
「何だよ?」
侑斗でなくても大の字になって視界を遮ってきたらそのように訊ねたくなるだろう。
「貴方がはやてちゃんが言っていたユウトさんなんですね?」
リィンが確認するかのように侑斗の顔を見る。
「八神が言っていたってのはどういう意味だよ?」
リィンの言い回しが気になるため、侑斗は回答を急かす。
「はやてちゃんは言っていました。ユウトさんは愛想もなくて意地悪で椎茸が大嫌いな人だって」
リィンがはやてが自分に言って聞かせた事をそのまま告げた。
「あいつ、そんな事を言っていたのか……。他には何か言ってなかったか?」
「えーとですねぇ。後はとても思いやりがあって優しい人だって言ってましたぁ」
リィンの一言に、侑斗は照れたのか天井を仰いでいた。
「優しい、か……」
侑斗は呟いてから、キッチンでまだ献立を考えているはやてを見た。
「お前の主の方が優しいさ。いや、八神のは『優しい』じゃなくて『懐が深い』んだろうな」
「深いんですか?」
「ああ。お前の主はどんな辛い現実も受け止められる奴なんだぜ。それが他人の事でも自分の事のようにな」
現実を受け入れるという事がこの世の中で最も大切で最も人が背きたくなるものだ。
「他人の事ってのはわからないです」
リィンは首を傾げる。侑斗の言っている事が理解できていないのだろう。
「自分以外の人間にも辛い事の一つや二つはあるだろ?それを知ったら大抵は同情と憐れみで終わりだ」
侑斗のはやてを見る表情が優しくなっていた。
「でも八神はそういった事実を知っても同情や憐れみではなく、対等に付き合うんだ。コレってなかなかできることじゃないんだぜ」
「まるでユウトさん自身のことを言っているみたいです」
リィンは侑斗の言っている事が、まるではやてが侑斗にした事のように解釈できたしそれが正しいものだと思っている。
「八神(あいつ)には言うなよ。調子に乗るかもしれないからな」
侑斗はリィンにそう告げると、ソファに寝転がる。
「夕飯が出来たら言ってくれ」
「了解です♪」
侑斗の頼みの言葉にリィンは敬礼して快諾した。
キッチンでは、はやてとデネブが夕飯に取り掛かりながらリビングにいる侑斗とリィンのやり取りを見ていた。
「リィンと侑斗さん。何を話してるんやろ?」
はやては澄まし汁を焚きながらチラチラと気にしていた。
「後で侑斗かリィンに聞いてみたら?」
デネブが本日のメインである鯛を刺身にしていた。
相変わらずごつい手だが包丁捌きは玄人裸足である。
「どうやろなぁ。侑斗さんは絶対に話さへんしリィンがポロッと言うのを待つしかないんかなぁ」
澄まし汁をおたまで掬って、小皿に垂らして味見をする。
「よし♪」
はやては自信作だと確信してから、もう一度おたまで掬って小皿に乗せてデネブに渡す。
それはまるで「私の十年の成果を見せるときが来たで」といわんばかりだ。
小皿を受け取った瞬間にデネブは、はやての意図を理解した。
「八神……」
受け取った小皿とはやてを交互に見ながら、デネブはこの挑戦を受ける事にした。
デネブにとってはやては『友人』であるが、同時に料理に関しては『ライバル』でもある。
しかも『最大』という言葉がついている。
温厚であり他人と競うという事が、野上良太郎と同じくらいに似合わないデネブが初めてライバル心を剥き出しにしている。
それだけ、はやての料理の腕が凄いという事になる。
小皿に乗っている澄まし汁をデネブは飲む。
「!!」
デネブの反応を見て、はやては「やった!」と小さくガッツポーズを取る。
「八神。俺の切った刺身を食べてみて」
デネブが小皿に醤油を入れてから、促されてはやては箸で掴んで鯛の刺身を一つちょんちょんと醤油にのっけて食べてみる。
「!!」
はやては先程のデネブと同じ反応をしていた。
この瞬間、一人と一体は同じ考えをしていた。
((腕を上げてる!!))
と。
夕飯を終えた侑斗は風呂場の掃除をしていた。
床を洗い終えて、湯船を洗う。
以前の八神家でも庭の草むしりと新聞受けに入っている新聞を取る事と風呂掃除は侑斗の仕事だった。
洗剤とたわしを用いて綺麗に掃除する。
「侑斗さん」
背後からはやての声がした。
「風呂ならまだだぞ」
侑斗は振り向くことなく、現状を告げる。
「わかってるて。そんなん」
はやては去ろうとしない。
侑斗はたわしを使ってゴシゴシと湯船を洗う。
「で、何だよ?」
「何だよって用があらなここにいたらアカンの?」
はやての声に怒気が含まれる。
「面白いものでもないだろ。人が風呂掃除してる姿なんて」
侑斗の手は止まってはいない。
「それを判断するのは私次第やで」
はやてはやんわりと反論する。
水道の蛇口を回してシャワーから水が出る。
湯船に付着している泡は綺麗に洗い落とされていく。
「手際ようなってるね」
はやては侑斗の清掃作業を素直に褒める。
「お前に散々しごかれたからな」
侑斗が初めて八神家の風呂掃除を任された時に、はやては徹底的に侑斗をしごいたのだ。
その時侑斗は文句をぶちぶち言いながらも、こなしたりする。
つまり風呂掃除においては、この二人は師弟にもなったりする。
掃除を終えて蛇口を閉めると、侑斗の背中に今までにない感触があった。
人の感触だった。
柔らかい感触---はやてだった。
はやてが侑斗に抱きついているのだ。
侑斗はチラリと見てみるが、はやての顔は見えないが全身が震えているようにも見えた。
「……泣いてへんよ」
くぐもった声ではやては侑斗が何かを言う前に先手を取った。
「八神?」
「十年もほったらかしにした人が急に来たからって泣いてへんもん!」
侑斗が何かを言う前に、はやてがまたも言う。
はやてが泣いている事はわかる。
それを茶化す気は侑斗にはなかった。
「ああ……。泣いてないな」
侑斗は、はやてを立てるようにして穏やかに言う。
自分をしっかりと掴んでいるはやての手を見る。
それは「もうどこにも行かないで」とか「やっと会えた」と物語っているようにも見えた。
はやての嗚咽が風呂場を支配していたが、それを遮ろうとする者はいなかった。
*
ミッドチルダの夜は眠る事を知らないのか、ビルの照明等は点灯しているままだった。
それらの光は天空に輝く星々に挑戦するかのようにも思える。
道路には車は殆ど走っていない。
「そこのイマジン。待ってください!」
楕円型の機械兵器を引き連れて逃亡している一体のセミ型のイマジン---シケイダイマジンをプロキオンの声が呼び止めようとする。
『わかってた事だけど、逃げてる奴に『待て』って言っても止まってくれないね』
白いロングコートのプロキオンクロークを纏った青色がメインの仮面ライダーゼロノスに酷似した仮面ライダーがビルの屋上で見下ろしていた。
プロキオンが主人格となっている仮面ライダーANOTHERゼロノスシリウスフォーム(以後:Sゼロノス)だ。
ちなみにSゼロノスにダメ出しをしたのは、深層意識の中にいるユーノだ。
シケイダイマジンはSゼロノスを見上げている。
「貴方にはその機械兵器をどこで手に入れたのかを教えてもらいます」
ビルの屋上から道路へと飛び降りて着地する。
プロキオンクロークがなびくが、すぐに元に戻る。
「お前、『青い狩人』か!?」
シケイダイマジンも次元世界のイマジン。自分達の『天敵』とも呼べる者の通り名くらいは知っている。
叫びながらも、両腕からフリーエネルギーで構築された二本の爪を出現させる。
Sゼロノスも応じるようにして、両腕からフリーエネルギーで構築された三本の爪---プロキオンクローを出現させる。
両者共に中腰になって構える。
「シャアアアアアア!!」
シケイダイマジンが吠えながら、間合いを詰めると同時に右腕を振り上げて一気に下ろす。
(プロキオン!)
「はい!」
Sゼロノスは避けようともせず、シケイダイマジンの右腕を左腕で受け止める。
すかさず右腕を掬い上げるようにして繰り出す。
「!!」
素早くそして威力のあるアッパーだと瞬時に判断したシケイダイマジンは仰け反るようにして避ける。
だが三本の爪による傷痕は体に残っていた。
小さく火花がバチッと飛ぶ。
「ぐっ!」
シケイダイマジンが苦悶の声を上げるが、Sゼロノスが攻撃をやめる事はない。
「はああっ!!」
左足を軸足にして、右中段回し蹴りで左脇腹を狙う。
「ぐっ!」
右手で左脇腹を押さえて痛みを必死でこらえながらも、左爪で反撃を繰り出すがSゼロノスはすかさず後方へと退がる。
「あの機械兵器、イマジンを味方するつもりはないようですね」
(関係は僕が思っているのと逆かもしれないね)
ユーノの予想では機械兵器がシケイダイマジンを護っていると考えていた。
だが実際にはシケイダイマジンが機械兵器を護っていたのだ。
(となると、あの機械兵器にはそれだけ価値があるって事かな……)
「どうします?」
(イマジンは確実に倒そう。機械兵器は管理局が何とかしてくれるかもしれない……)
他力本願は主義に反するがイマジンと機械兵器、天秤が傾くのはイマジンだ。
両腰に収まっているデュアルガッシャー(以後:Dガッシャー)のバレットモードのグリップ(以後:バレットグリップ)を握って、その下に収まっているDガッシャーの
パーツに連結してから素早く引き抜く。
Dガッシャー・バレットモード(以後:Dバレット)を構えてからそして引き金を絞る。
一直線に六本のフリーエネルギーの光線がシケイダイマジンに向かっていく。
六本の光線をシケイダイマジンは両腕をクロスして防ぐ。
両腕から煙が昇るが、見た目ほどダメージを負ってはいない。
Dバレットの光線は数が多いが一発の威力はけして高くない。
致命傷を負わせるには少なくても十倍の数を出さなければならない。
Dバレットをだらりと下げてから頭上へと手放す。
宙に浮かぶDバレットを視界に入れて素早く、ダガーモード時のグリップ(以後:ダガーグリップ)を逆手に握る。
Dガッシャー・ダガーモード(以後:Dダガー)へと切り替える。
デンガッシャーやゼロガッシャーのようにパーツの組み換えをせずにモードチェンジすることができるのが、Dガッシャーの特徴だ。
前に構えてから、一気に間合いを詰める。
先程とは段違いの速度なため、土煙が舞う。
「!!」
双刃を掬い上げるようにして切り上げる。
ガキンっと爪で防ぐ。
「ぐぐぐぐぐ……」
シケイダイマジンは精一杯力の限り、拮抗状態に持ち込もうとする。
「てぇぇぇい!!」
Sゼロノスの両脚が一歩一歩進んでいく。
『歩き』からやがて両脚は『走り』に切り替わる。
「ぐおおおおおおおおお!!」
必死で抵抗するシケイダイマジンだが、ずるずると道路が削りながら退がってしまう。
「がっ!」
ビルの壁に背中を打ち付けられる。
強く打ち付けられた痛みが全身を襲い掛かるが、単純な力比べに負けたことによる悔しさの方がシケイダイマジンを支配していた。
反撃を繰り出される前に、Sゼロノスは間合いを開ける。
「もう一度お訊ねします。あの機械兵器と貴方との関係は?」
「さてね。てゆーか俺はあの機械兵器をある場所まで運ぶように言われただけだぜ。関係も何もねぇよ」
「どう思います?」
Sゼロノスはシケイダイマジンの言葉の真意を深層意識のユーノに訊ねる。
(ウラタロスさんみたいに頭が回るようなイマジンには見えないね。嘘は言ってないと思うよ)
ユーノとてこの五年間、イマジンと何度も
(もう一つ聞いてみたいことがあるから聞いてみて)
「何ですか?」
(運ぶように指示したのは誰って事だよ)
「わかりました」
ユーノの指示を聞いてから、Sゼロノスはバレットグリップからダガーグリップへと持ち替えてモードチェンジする。
「最後に一つだけお訊ねします。貴方にあの機械兵器を運ぶように指示したのは誰ですか?」
「変な服来た女と金髪の優男だったぜ」
ここまで喋るという事はこのイマジンに契約者はいないという事になる。つまり『はぐれイマジン』だ。
壁にめり込んでいた身体を起こして、シケイダイマジンはSゼロノスを睨んでから向かっていく。
はぐれイマジンであるからこそ、依頼主の事をペラペラ喋ってもプライドに傷がつくことはない。
しかし『力』とりわけ『暴力』が支配するのがイマジン社会であるため、コケにされたとなっては生きていけなくなる。
自身のイマジンとしてのプライドを誇示するためにも、あらん限りの力を振り絞って、Sゼロノスに向かっていく。
Dダガーを縦に連結して、Dガッシャー・ランスモード(以後:Dランス)へと変える。
ゼロノスベルトのフルチャージスイッチを押す。
『フルチャージ』
機械音声が発した直後に、ゼロノスカードを引き抜いてからガッシャースロットへと挿入する。
Dランスの刃にバチバチバチと青色のフリーエネルギーが充填されていく。
そして、横に放り投げる。
Dランスはプロペラのように回転していきながら、シケイダイマジンに向かっていく。
上刃が腹に触れ、すぐに下刃が同じ箇所を狙いをつける。
火花が飛び散り始め、やがて斬撃箇所は肥大していき上半身と下半身が真っ二つへとなった。
斬られた二つの部位から火花が噴き出る。
「き、斬られてるぅぅぅぅぅ!!」
シケイダイマジンは原型を耐えることができずに、爆発した。
爆煙がミッドチルダの漆黒の夜へと昇っていった。
投げつけたDランスを右手でキャッチする。
(逃げていった機械兵器を追いかけるよ)
「はい!」
Sゼロノスは右足を強く踏み込んで跳躍する。
夜空へと翔けた。
『青い狩人』の狩りはまだ終わっていない。
イマジンの臭いを辿って街中へと足を踏み込んだチームデンライナーはというと。
「臭いが消えちまったぜ……」
夜空を仰ぐようにしてイマジンの臭いを嗅いでいたモモタロスの足が停まった。
「消えたって事はそのイマジンは……」
「倒されたって事になるよね」
野上良太郎の台詞をウラタロスが繋げた。
「となると俺等がここに来たんは無駄骨やったんかもしれんなぁ」
キンタロス腕を組んで、結果を言う。
「じゃあ帰ろうよ。僕お腹すいたしー」
リュウタロスが両手で腹部を擦って、空腹をジェスチャーする。
「あ……」
「どうした?良太郎」
間抜けな声を上げた良太郎をモモタロスは彼を見る。
「僕達ってどうやってここまで来たっけ?」
「オメェ、何言ってんだよ。俺が臭い嗅いでここまで来たんじゃねぇか」
「キンちゃん。地図もらった?」
「リュウタ」
「持ってないよー」
冷たい風が一人と四体の頬を舐める。
「「「「「………」」」」」
その場にいる全員が自分達が置かれている状況を理解した。
地図一枚持っていないので、帰り道が完全にわからなくなってしまったのだ。
「アレ、何だろ?」
リュウタロスが指差す方向にはドーム状の何かが出現していた。
ドーム状の魔法結界が都市の一部を覆っていた。
緑色のベルカ式の魔法陣を展開しながら、シャマルは結界内の状況を念話の回線を開いて、追跡を行っている一人と一匹に伝えていく。
意識を集中するため、双眸を閉じている。
(ザフィーラ、追い込んだわ。ガジェットⅠ型、そっちに三体!)
シャマルの閉じていた双眸が開かれた。
それはボードゲームでいう『詰み』になったという意味になる。
機械兵器---ガジェットⅠ型が三体逃げていた。
ギョロリと中央のカメラアイが動き、正面に何がいるのかを把握しようとする。
正面にいたのは青色が目立つ大型の狼---ザフィーラだ。
「テヨワアアアアアアアアアアア!!」
ザフィーラの咆哮が響く。
咆哮自体に効力はない。
これは相手に魔法を発動させる事を気取らせないための略式だ。
地面が抉れ、白光の柱が無数に出現する。
その内の一つがガジェットⅠ型に貫通していた。
許容範囲のダメージを受けた為に、爆発する。
残り二体は躊躇わずそのまま逃走を続ける。
「てやあああああああああ!!」
武装隊アンダースーツを着用しているヴィータがグラーフアイゼンを振りかぶって突っ込んできた。
一体をハンマーで捉えると、そのまま壁に叩き込む。
(手答え、あり!)
地面に着地すると同時に確実に致命傷へと持っていけた感触があったとヴィータは感じたので、そのまま残り一体を追いかけることにした。
ガジェットⅠ型はブスブスと煙を立てながら爆発した。
爆煙の中を残り一体のガジェットⅠ型突き抜けてそのまま空へと避難するように、飛翔する。
ザフィーラとヴィータは目が合う。
ザフィーラは無言で首を縦に振り、ヴィータは足場を大地から宙へと切り替える。
「アイゼン!!」
ヴィータはグラーフアイゼンを叫ぶ。
『シュワルベフリーゲン』
グラーフアイゼンが主に応えるようにして、ヴィータの左掌にゲートボールより大きい鉄球を出現させた。
左手で受け取ってから、軽く上に投げてグラーフアイゼンのヘッドで叩き込む。
鉄球は紅色の魔力を帯びて、ガジェットⅠ型に向かっていく。
ガジェットⅠ型は防御の為にAMFを展開するが、魔力を防ぐ事は出来ても鉄球そのものの威力は消す事は出来ないので侵入を許してしまい、身体をぶち抜かれた。
空中で爆発を起こして爆煙が立つ。
「片付いたか?」
「シャマル、残りは?」
ザフィーラとヴィータが残っているガジェットⅠ型の確認をする。
「残り一体。あ、残存反応はなくなったわ」
(なくなった?どーいう意味だよ)
シャマルの妙な実況に、念話の回線を開いていたヴィータは訊ねる。
「残りの一体は仮面ライダーが破壊したからよ」
(『青い狩人』が?まだいる?)
シャマルの探査魔法ではイマジンはもちろん、仮面ライダーも捜す事は可能になっている。
(イマジンを倒してそのまま追いかけてきたってところかしらね)
Sゼロノスが結界内でガジェットⅠ型と交戦している経緯をシャマルは予想した。
その予想はまさに正解だったりするがそう証明してくれる者はここにはいない。
(シャマル。アイツの場所はわかる?)
ヴィータが場所の催促をしてきた。
「ヴィータちゃんとザフィーラのいる距離からなら時間にして二分くらいで辿り着けるわよ」
(わかった。アイツには聞きたい事が山ほどあるからな!)
ヴィータはそれだけ言うと、念話の回線を切ってきた。
「ふう……。正直身内に隠し事をするのは疲れるわね」
現在八神家の中でAゼロノスの正体を知っているのは彼女とザフィーラだけだ。
シャマル自身、ここまで正体が隠蔽できるとは思わなかったというのが本音だ。
ユーノが立ち上げた『プランAZ』は長くて半年くらいで頓挫するものだと勘繰ってたのだ。
だが実際には四年ももってしまっている。
(こうなると、明るみになった時の後が怖いわね……)
シャマルはこのままやり通せるとは思ってはいない。
「覚悟は決めておきましょう」
自身に言い聞かせるようにシャマルは告げた。
敵もいなくなったので、結界を解いた。
ガジェットⅠ型を破壊したSゼロノスは中身をこじ開けていた。
イマジン一体を護衛に使っているほど価値があると考えている以上、何かが組み込まれているのではと推測する。
わざわざ爆発させずに破壊したのもそのためだ。
「ありませんね。イマジン一体を護衛に使うほどの価値あるものは……」
Sゼロノスは細心の注意を払いながら、部品を丁寧にバラしていく。
(僕がこう思うように仕向けたのかもしれないね。相手は……)
「だとしたら、僕達はムダボネをしたんですか?」
(イマジンを倒しただけでも充分さ)
沈みがちな声で言うSゼロノスを深層意識のユーノが励ます。
「オイ。Aゼロノス!」
「ん?」
頭上から声がしたので見上げるとヴィータが夜空か見下ろしていた。
素早く地上に着陸してグラーフアイゼンを右肩にもたれさせながら、歩み寄る。
「イマジン退治の専門家がガジェットの分解ってのはどういう了見だよ?」
「イマジンとこの機械が一緒に行動していたんです。しかもイマジンを護衛するのではなくイマジンがこの機械を護衛していたので……」
「それで中身をバラしてイマジンが護るほどの価値があるものを物色中ってか?」
「はい」
ヴィータの質問にSゼロノスは素直に答える。
「で、あったのかよ?」
ヴィータの問いにSゼロノスは首を横に振る。
「ふーん。ならさ、あたしの質問に答えてもらおーか?」
Sゼロノスが立ち上がって、ヴィータを見る。
ヴィータの表情は『質問』の前に『職務』という熟語がついているものだった。
「答えないと言ったらどうします?」
「その時は、少々手荒になるけど局にまで来てもらう事になるぜ」
(一つだけ適当に答えたら、さっさと退散するよ)
ヴィータの言葉に、深層意識のユーノはSゼロノスに指示を告げた。
「あたしがまず最初に聞きたいのはな、オマエ何者だよ?どーみても侑斗達の世界から来たとは思えねーんだよ。局のことやらイマジンの出現地点にピンポイントで現れる
手際のよさとかから見てもな」
グラーフアイゼンを突きつける。
ヴィータとてそれなりに推測や仮説は立てていた。
だが自分の性分に合わないことや理路整然としているシャマルやザフィーラに比べると、単純思考であることもあるため大っぴらにはしなかった。
「詳しい説明は出来ませんけど、一つだけ答えられることがあります。僕は貴女の言うように桜井侑斗さん達の世界からは来ていません」
「てことは他の別世界から来たってのか!?」
ヴィータの言う『別世界』とは次元航行艦で行き来できる世界とは違う。
まさに、時空管理局の技術では行き来できない完全な別世界の事だ。
「いえ、僕達はこの世界の住人ですよ」
ここまでは答えても差し支えのないことだ。
(コイツ。肝心なところは全部はぐらかしてやがる……)
自分よりも一枚も二枚も上手の存在だとわかっただけでもヴィータとしては上出来だと思う事にした。
「それじゃ僕はこれで、あと八神はやてさんにプレゼントを贈りましたので」
頃合を見計らっていたSゼロノスは足場を浮かせて、そのまま夜空へと翔けた。
それから五分後。
二人と一匹が合流すると、ガジェットⅠ型の残骸とAゼロノスの事について話し合っていた。
「どう?何か聞けた?」
「ダメ。あたしじゃ全く相手に出来ねーよ」
シャマルにとってヴィータの反応は予想通りだった。
「奴は何か言っていたか?」
ザフィーラが更に問う。
「はやてにプレゼントを贈ったって言ってた」
ヴィータの答えに、シャマルとザフィーラは顔を見合わせて首を縦に振る。
静かになろうとした雰囲気を着メロが鳴った。
ヴィータはアンダースーツのポケットから携帯電話を取り出す。
「もしもし。なのはか。どうした?うん、え、ああわかったよ。すぐに見つけてそっちに届けてやる」
短く告げるとヴィータは、携帯電話を切った。
「どうした?」
「ヴィータちゃん?」
「シャマル、ザフィーラ。もう一仕事できた」
仕事の割にはヴィータの全体から緊張感がなくなっていた。
「別世界から来て早々に迷子になったバカ達を捜すぞ」
仕事の内容を聞いた途端に、シャマルとザフィーラの緊張の糸も切れた。
迷子になったチームデンライナーがヴィータ達に発見されるのはそれから五分後の事である。
次回予告
第九話 「災害を屠りし者」