オリジナル短編集   作:星沢山

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第一話でーす


死神が通る

死。それは人間誰でも恐ることだよね。

 

じゃあ例えば、自分の周りに死が溢れてたらどうする?

 

あの時は本当に死ぬと思った。でも死ななかった。

 

トラウマなんて比じゃない。いっそ死んじまっら方がマシって思うほど怖かったよ。

 

死神を見て生きた人間なんて俺一人だろうしな。

 

<<一週間前>>

 

俺はそこそこ幸せだった。親がけっこう裕福で、裕福な家の子供にありがちな自分の存在意義を探す、みたいな病気にもかからなかったし。

 

勉強もそこそこできる方で、将来まあまあ成功できそうな傾向にあった。勉強ができる割には遊びもやってて、ゲームの類はもちろん、ガールフレンドも作って多少遊んでたのも確かだ。

 

容姿は上の下ぐらいのいい方だったし、人間を点数で言うなら88点ぐらいの優等生だったと思う。

 

その時俺は高一。中高一貫の進学校に通ってたせいか、友達も同じままで、大体気が知れたやつばっかりだった。一学期の期末テストが終わって、夏休みが始まるってことで友達大勢と一緒にクラブに行ったんだ。なーに、そんな怪しいクラブじゃない。学生も通える真っ当なナイトクラブさ。入場に金がかかるから基本怪しいのは入ってこないし、一緒に行く友達の両親が経営者と知り合いだからタダで入らせてくれる。

 

夏休みの開始を祝ってたんだ。

 

「ねえねえ修司、踊ろうよ!」

 

そう話しかけてくるのは俺のガールフレンドの三月。なかなか可愛いし、性格もけっこういい。理想の交際相手って感じだ。

 

「はいはい」

 

強制されるように適当に踊ってると、部屋の隅に見知った顔がいたのを見つけた。

 

「…あれ賀久じゃないか?」

 

「え?」

 

思わず友達の一人に聞くと、その友達も目をすくめてその人影を確認する。

 

「確かに賀久だ。こんなとこで何やってるんだろうな」

 

「最近いじめられてるって噂を聞いたからな。気晴らしにでも来たのかな」

 

「そうには見えねぇけど…」

 

賀久は俺の元クラスメイト。高校に進級する時クラス替えで別のクラスになった。結構気が弱い方で、最近上級生の女子に相当いじめられてるらしい。少し前まではまともだったのが、最近は独り言ばかり呟いたり、得体の知れないものを書いたりして近寄りがたい存在になってる。その分いじめは増すし、かわいそうだと思っても誰も助けてやれない。

 

「かわいそうにな」

 

「ん…」

 

コーラを目一杯がぶ飲みして無理やり忘れると、また遊び始めた。

 

「よー」

 

「お、拓也」

 

俺の近くに来たのは俺のクラスメイトになった拓也。賀久と入れ替わりに入って来て、気さくな性格から友達も多い。

 

「最近どうよ」

 

「ぼちぼち。夏休みの宿題をぱぱっと終わらせて遊びたいかな」

 

「なーる」

 

「ま、お前ならどうせ夏休み前半で終わらせるだろうけど」

 

「ちょっと拓也、私の修司なんだからね」

 

不満そうな顔で口を出して来たのは三月。拓也は苦笑すると、

 

「まあ、熱い時間をご一緒に」

 

と言うと少し離れた食べ物コーナーで食い始めた。

 

「さ、修司」

 

手引きされて踊らされると、入り口から数人の学生が入ってくるのが見えた。

 

( …あれ、あの女子たち…)

 

驚きを隠せず視線をつい賀久の方に向けてしまった。当人の賀久は動じずに、隅でぶつぶつと小声で語っている。

 

「おい、三月、あれ…」

 

「へ?」

 

三月が入り口の方を見ると、嬉しそうに手をあげた。

 

「先輩じゃ〜ん!先輩たちの同じこと考えてたんだ」

 

よくよく考えれば三月は賀久のことを知らないんだ。これは…

 

「おい」

 

「…あれって賀久をいじめてた」

 

知ってる友達に話すと、彼も感づいたらしく少し焦ってた。

 

「まさか賀久目当てにここまで」

 

「そんな訳ないだろ」

 

断言仕切れないところが怖かった。

 

少しの間俺は遊ぶのをやめて見守った。賀久はフードを被ってるから気づかれないかも知れない。

 

「頼むから騒動にならないでくれ…」

 

祈りながら見守ると、変なことに気づいた。その上級生たちはどう見ても賀久を探しているようなそぶりを見せなかった。飲み物を飲んで、食って、踊って、笑って、他大勢と同じことしかやっていなかった。

 

大丈夫そうだなと判断して、グラスにコーラをついで飲む。

 

「ふう」

 

一息つくと、再び一瞬即発の時が戻ったのを認識した。その上級生たちが賀久のいる隅に近づいていたんだ。

 

(やばい、やばいやばい)

 

心の中で連呼しながら、上級生たちが賀久の存在に気づかず隅に近づいて行くのを見守るしかなかった。

 

(賀久が見つかったら絶対にいじめられる…)

 

そして上級生が賀久と腕一本ほどの距離になった時、事は起こった。

 

『ズブ』

 

肉が切れるような音がして、上級生の一人が倒れた。

 

一瞬、意味がわからなかった。

 

次の上級生が倒された時、体の全精神が逃げろと言っているのがわかった。

 

ダッシュで近くの飲食机の下に逃げ込み、椅子を盾にして身を守る。そこで冷静になって確認すると、ナイフを 持って上級生を刺しているのは、確かに賀久だった。

 

「うわあああああ!!」

 

叫びながら数人の女子を突き刺して行く賀久は、まるで何かが乗り移ったかのように狂っていた。なんとかナイフの圏内から二人の上級生が離れると、賀久はその一人ナイフを投げた。

 

「うえっ」

 

うめき声を一つあげて、その上級生は肉の塊と化した。

 

「ちょ、ちょっと待って!あんた賀久でしょ!わかった、悪かったから!私たちが悪かったから!落ち着いて!」

 

最後の上級生の必死の弁解にも耳を貸さず、賀久は懐からピストルを出した。

 

「ちょ、賀久待っ」

 

「賀久、じゃない。死神だ」

 

ピストルのトリガーを引くと、轟音と共に上級生は命を落とした。

 

この時点で客のほとんどは状況を理解して避難しようとしていたが、何よりも出口が一つしかないのと、突然の虐殺で混乱が起こっていたの二つで収拾がつかなくなっていた。

 

「わああああ!!!」

 

先も見ずにピストルを乱射すると、出口に向かって走っていた数人が倒れた。

 

「死ね、死ね、死ねぇ!!俺は死神だ!」

 

気狂いのようにピストルを乱射し、バタバタと人を倒して行く。

 

「死神が通るぞぉ!」

 

俺は思わず目を背け、銃声がやんだのを確認して目を開けると、そこには血まみれの賀久と、何十もの死体があった。

 

「ッ…!」

 

驚く暇もなく、賀久が後ろに向いたのを確認するとすぐに逃げ出そうとした。が、

 

『ガシャッ』

 

背中を机に当ててしまい、その衝撃でグラスが床に落ち割れてしまった。

 

「!」

 

賀久はそれに気づくと、ピストルを構えた。

 

「賀久、待ってくれ!なんでお前がこんな」

 

「賀久じゃない!何度言えばわかるんだ!俺は賀久みたいな弱虫じゃない!しにが」

 

『グサッ』

 

言い終える前に、賀久の首は槍に突き刺された。

 

「最近模倣犯が多いなぁ…中二病とか言うやつのせいかなぁ…」

 

槍を繰り出した影を見るとそ、こには平然と立つ拓也がいた。

 

「これで今日は2249…あと一人か」

 

すると、拓也はさっと俺の方を見た。

 

「よう。修司か。少し頼みがあるんだ」

 

俺は筋肉が硬直してしまって、喋ることすらできなかった。

 

「死んでくれ」

 

拓也が手に持つ槍は大刄の薙刀に溶けるように変形し、ありえない速度で振り下ろされた。

 

「うわっ」

 

筋肉の硬直が解けると俺は全力で逃げた。机からバーカウンターへ。そしてカウンターの裏を見ると、そこには怯え固まっている三月がいた。

 

「三月、危ない!」

 

言っても意味がなかった。常人の理解を超える速さで繰り出される斬撃は、カウンターごと三月の体を両断した。

 

「…三月」

 

次は自分だと考え拓也の方を見ると、俺は万事休すと悟った。

 

「…おい拓也…やめてくれ…」

 

左右と後ろはカウンターと壁。前は拓也。

 

「どうせやるなら一思いに…」

 

「何言ってるの?」

 

拓也の思わぬ一言に俺は思わず聞いた。

 

「何言ってるの、ってどういうことだ?」

 

「いや、俺はもう今日のノルマ達成したからいいよ。2250人殺ったから」

 

「…まさか三月が…」

 

「死神から逃れる唯一の方法は、代わりの魂を差し出すこと。秦の始皇帝なんかは自分を生かすために大量の生贄を労働という名目で惨殺したらしいさ。流石に一人を生かすために殺しすぎだと今度は生を司るほうの神様が文句をつけて、しかたなく始皇帝を殺ったらしい」

 

「お前…まさか…」

 

「そう。俺は死神連合日本担当。日本は殺さないといけない数が毎日2000もいるから一人だと大変なんだよ」

 

そう聞かされると俺は思わず腰を抜かした。

 

「さーて。俺は家に帰って寝るか。んじゃさいなら」

 

「ちょっと、ま」

 

言い終える前に彼は黒い煙と化し、クラブの外を全速力で通って行った。

 

<<今>>

 

事件の次の日ニュースで発表されたのは、女子高生が数名殺害された通り魔と、高校一年生の女子が一人、交通事故にあって殺されたということ。さらに、一名の高校一年生男子が自殺したということ。おそらくクラブにいた他数名も事故か病気として死亡したんだろう。

 

死神の裏工作の凄さにも感服するが、それ以前に、彼は消えてしまったんだ。夏休み中の登校日に彼は現れず、友達や先生に聞いても

 

「拓也?誰それ?」

 

としか言わないのだ。連絡先を聞いておいてことを思い出して、その番号を書いた紙を探した。

 

番号を入れ、電話が通じないと知るとメッセージで打った。

 

『おい、拓也。あのあとお前はどうしてるんだ』

 

『444 666 1313』

 

その番号が送られ、その後は何を聞いても答えなかった。

 

1日、その番号は放置した。次の日、好奇心に負けその番号を書く。そしてメッセージを打った。

 

『すいません。拓也という友達から紹介されたんですが』

 

『君は修司君かね?』

 

いきなりの質問に戸惑ったが、答えた。

 

『はい』

 

『よろしい。拓也と連携してもらおう』

 

 

『すみません。意味がよくわからないのですが…』

 

『死神連合へようこそ、修司君。君には拓也と共に日本を担当してもらう』

 

ショックで凍った俺は気づいてなかったかもしれない。が、スマホのバナーは確かにこう出た。

 

『よかったね、修司君。これで隠し事をせずに友達として生きていけるよ』




第一話です。今回は死神を題材にしました。
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